奥特曼†夢想 ‐光の三雄伝‐   作:焼き鮭

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劉旗の大願
天の御遣い、大陸に降り立つのこと


 

 ――漢王朝、幽州啄郡の荒廃した土地。星空が見下ろすこの地に、異様に巨大な獣の影が咆哮を上げる。

 

「アアオオウ! アアオオウ! シャウシャ――――――!」

 

 頭高長が約四十尺――メートル法にすると約十メートル――もある、体毛に覆われながら甲羅を背負った、哺乳類と爬虫類の合いの子のような、しかも二足歩行する怪物だ。ある世界では、その名を『古代怪獣ゴメス』と呼ぶ。

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「やぁぁぁぁ――――――っ!」

 

 そんな巨大怪物相手に、少女が二人、長物の武器を手に立ち向かっている。一人は長く艶やかな黒髪を束ね、左に流した凛々しい娘。もう一人は短髪に虎の顔の髪飾りをつけた、幼い体躯ながらも活力に溢れ返った娘。

 普通に考えれば、うら若き少女がたった二人で、何倍もの大きさの怪物と戦うなど自殺行為。――しかし、少女たちは人間離れしたような身のこなしで怪物の振り下ろす爪をかわしながら、長い柄の武器を振るってその肉に裂傷を浴びせていく。

 

「たぁぁぁぁーっ!」

 

 やがて小さい娘が蛇矛を突き出して突貫し、ゴメスの足に深い傷を負わせた。

 

「アアオオウ! アアオオウ! シャウシャ――――――!」

 

 巨躯を支える足に傷を入れられたことで、ゴメスの肉体が傾く。同時にゴメスから離れた小さい娘が、黒い髪の娘へと叫ぶ。

 

「今なのだっ! 愛紗ぁ―――!!」

 

 愛紗と呼ばれた黒い髪の娘は、ゴメスの四肢を足場にして相手の肉体を駆け上がっていく。

 そして肩に足を掛けたところで高く跳び、ゴメスの眉間を狙って、自由落下の勢いを乗せた己の得物――青龍偃月刀を、全力で振り下ろした。

 

「はぁぁぁぁぁぁ―――――――――っ!!」

 

 叩き込まれた刃は、ゴメスの眉間に深々と食い込む。

 

「アアオオウ……!!」

 

 それが致命傷となり、ゴメスの肉体がぐらりとよろけ、大地の上に轟音を立てて横たわった。

 華麗に着地した黒髪の娘に、小さい娘が飛び跳ねながら駆け寄っていく。

 

「愛紗ー! やったのだ、やっつけたのだー!」

 

 更にもう一人、岩場に隠れていた少女が出てきて二人の元に駆けていく。ふわふわとウェーブの掛かった桃色の髪の娘だ。

 

「愛紗ちゃん、鈴々ちゃん、お疲れさま! 無事で何よりだよ!」

 

「これくらい、鈴々には楽勝なのだ!」

 

「鈴々、すぐ調子に乗るな。勝った後にこそ、気は引き締めなければならない。戦場では一時の油断もあってはならないのだ」」

 

「んもー、愛紗はすぐ固いこと言うのだー」

 

「真面目に聞け!」

 

 小さい娘を叱りつける黒髪の娘に、桃色の髪の娘は苦笑すると、不意に表情を曇らせる。

 

「でも……今みたいな怪物が、日が経つに連れてどんどん増えていってるよね。それに、何だか日に日に大きいのが出てきてるような……」

 

 そのひと言に、二人の娘も顔をしかめた。

 

「確かに、こんなのが毎日のように出てきたら、鈴々も流石に体力が持たないのだ」

 

「それに怪物がこのまま巨大化していけば、私たちでは手に負えなくなってくるかもしれません」

 

「うん……。やっぱり、わたしたちには必要なんだよ。早く見つけなきゃ!」

 

 桃色の髪の娘は何かの決意を固め、星空を見上げながら宣言した。

 

「この妖に襲われる大陸を救うという力を持った……天の御遣い!」

 

 ――その時、夜空の一画にキラリ、と他の星とは違う輝きを放つ光が三つ、別れるように空を走った。

 

「! 見てっ! 流れ星!」

 

「ほんとなのだ! それも三つ!」

 

 三つの流星は、最初の一つ目は南に、次の二つ目は西に――最後の三つ目は、比較的彼女たちがいる場所に近い、地平線上の山の麓に落ちていった。

 

「! あれは、五台山の側に落ちましたな!」

 

 黒髪の娘がそう告げると、桃色の髪の娘が瞳を輝かせ出す。

 

「管輅さんの予言にあった……! 世が乱れ、巨躯の妖が跋扈せん時、神仏の如き光の巨人となりし天の御遣いが三筋の流星に乗りて降臨し、大地を平定す……! そのまんまだよ!」

 

「おおー! じゃあ、あの流星が天の御遣いを乗せているのだっ!」

 

「うんっ! すぐに流星が落ちたところへ行こーうっ!」

 

「おーっ!」

 

 勢いのままに走り出す二人の少女を、黒髪の娘が慌てて制止しようとする。

 

「お待ちください桃香さま! 予言はあくまで予言、正しいとは限りません! あの流星は何か危険なものかもしれません! いえそれ以前に、こんな夜更けを馬もなしに移動することが危のうございます! せめて、日が昇ってから……!」

 

 などと叫びながら、黒髪の娘は二人の背中を追いかけていった……。

 

 

 

劉旗の大願

 

 

 

〈一刀〉「う……うぅ~ん……」

 

 どうやらずっと気を失っていたらしい俺、本郷一刀は、近くから聞こえるかしましい声によって目を覚まし、うっすらとまぶたを開いた。

 

〈一刀〉「……んん?」

 

 目を開いて、一番に飛び込んできた光景は――華美な服を着た三人の女の子が横一列に並んでいるものだった。

 いや……華美というか何というか……有り体に言ってしまえば……変? とても現代日本の普段着にするようなものとは思えない派手さだ。こんな格好じゃ、どこに行っても奇異の目を集めるぞ。何か武器っぽいものも持ってるし……。三人とも、かわいいと言えばすごくかわいいけど……。

 

〈???〉「……」

 

〈一刀〉「あー……えっと……」

 

 三人の女の子は何故か、俺の顔をじっと見つめている。かわいい子たちにそんなに見られると、何か居心地が悪い……。

 というか……ここはどこだ? 俺が今いる場所は、何もない荒原。日光はまぶしく、地平線が見渡す限り続く。そして背景にいくつもある、ごつごつとした山脈。こんな場所、日本に存在するのか?

 そもそも、俺、気を失う前は何をやってたんだっけ? 確か、歴史資料館で孝矢と鎗輔という名前の奴らと知り合って、三人で資料館を回って……気がつけば、何か異常なことが起きて……。夢でも見てたんだろうか? いや、今の状況がその夢の続きか? しかし、その割にはかなりリアルだが……。

 

〈???〉「あ、あのぉ~……」

 

 ボーッと考えに耽っていると、三人の女の子の内、真ん中のふわふわした雰囲気の、桃色の髪の子がおずおずと呼び掛けてきた。

 

〈???〉「えーっと……だ、大丈夫ですかぁ?」

 

 どうも、反応が鈍い俺のことを心配してくれてるみたいだ。……けど、そんなにあどけない瞳で顔を覗き込まれたら、正直緊張してしまう……。

 

〈一刀〉「だ、大丈夫。心配してくれてありがとう」

 

 いたたまれなくなってバッと立ち上がり、元気だということをアピールした。それで女の子も大きな胸を撫で下ろす。

 

〈???〉「ほっ。良かったぁ~♪」

 

〈一刀〉「あの、つかぬことをお聞きするんだけど」

 

 納得はしてもらえたみたいだが、状況が呑み込めないのは相変わらずだ。とりあえず、女の子に質問を投げかけることにする。

 

〈???〉「はい?」

 

〈一刀〉「ここって……どこ?」

 

〈???〉「へ?」

 

〈一刀〉「色々あってさ……俺、自分がどうしてこんなところにいるのか、全然分からないんだ。それに……三人とも変な格好してるけど、もしかしてここって、コスプレとかそういうイベントの会場か何かなの?」

 

 差し障りのない質問をしたつもりだったけど、女の子ははて?という感じで小首を傾げた。

 

〈???〉「こすぷれ? いべんと?」

 

〈一刀〉「……?」

 

〈???〉「……??」

 

 あれ……何か変だな。言葉は通じてるが、話が通じてないような、そんな感じが……。

 

〈一刀〉「と、とにかく。ここがどこだか教えてもらってもいいかな?」

 

 ひとまずはそれだけ確かめよう。そう思って聞き直すと、黒髪の凛とした感じの女の子が答えた。

 

〈???〉「ここは幽州啄郡。五台山の麓だ」

 

〈一刀〉「へ? ゆうしゅうたくぐん?」

 

 何だそりゃ。聞いたことない土地名だぞ。……いや、「ゆうしゅう」というのは、どこかで聞いた覚えがあるようなないような……。

 

〈一刀〉「それで、えーっと……君たちはどうしてそんな格好をしてるの?」

 

 とりあえず質問を変えると、最後の一人の、一番小さい背丈の幼い女の子が笑った。

 

〈???〉「お兄ちゃんこそ変なかっこなのだ。何かキラキラしてるー」

 

 その子が言ったことに、最初の桃色の髪の女の子がうなずいた。

 

〈???〉「ほんとだねー。太陽の光を浴びてキラキラしてる。……上等な絹を使ってるのかなー?」

 

〈一刀〉「これはウチの学校の制服だよ。制服って普通、ポリエステルとか使ってるだろ? そんなにおかしいかな?」

 

 ごくごく当たり前のことを言ったつもりだけど、女の子たちはまたしてもキョトンとした表情。

 

〈???〉「ぽーりーえすてーる、って何?」

 

〈一刀〉「へッ!?」

 

〈???〉「それに、さっきからわたしの知らない言葉ばかり。……やっぱり、このお兄さんが……」

 

 桃色の髪の女の子が何かを得心した様子を見せたが、そこに黒髪の女の子が口を挟む。

 

〈???〉「お待ちを。それを決めるのは早計です。こやつ、依然として得体が知れません」

 

〈???〉「確かに、まだ名前も聞いてないけど……」

 

 ああ、そういえば名乗ってないっけ。これは失敬。

 

〈一刀〉「俺は北郷一刀。聖フランチェスカ学園の二年生。なんだけど……」

 

 果たしてこれで伝わったかな……と思っていると、案の定、女の子たちの頭にはハテナマークが浮かんでいた。

 

〈一刀〉「えっと、君たちは?」

 

 まぁとりあえずは、女の子たちの名前も教えてもらおう。と尋ねかけると……。

 

〈劉備〉「わたしは劉備! 字は玄徳!」

 

〈張飛〉「鈴々は張飛なのだ!」

 

〈関羽〉「関雲長とは私のことだ」

 

〈一刀〉「……はぁ?」

 

 思わず耳を疑う。だってそうだろう? 劉備に張飛に関雲長。それって三国志をかじった人なら誰でも知ってる、あの義兄弟の名前じゃないか。目の前の、この子たちが?

 ……あ。もしかして熱狂的ファンで、なり切ってるのかな? 世界的に有名だもんな、三国志。

 

〈一刀〉「あのさ、普通に名前を教えてほしいんだけど。あと、ここがどこだかも、本当のことを教えてよ」

 

 つき合い切れずに尋ね直したんだけど、関羽と名乗った子はあきれ顔。

 

〈関羽〉「分からない人だ。先ほどからこの場所は幽州啄郡と教えているではないか」

 

〈一刀〉「え……」

 

 どうも、三人は冗談を言っている雰囲気じゃない。それに今思い出したが、幽州は古代中国の地名だ。ちょうど後漢時代……三国志の時代の。

 

〈一刀〉「えーっと……マジでそういう名前なの?」

 

〈張飛〉「そういう名前なのだ!」

 

〈劉備〉「うんうん。嘘なんて吐かないよねー」

 

 女の子たちは明るく肯定する。……もう何が何だか分からなくなってきた。

 こういう時は落ち着いて、一個一個疑問を解決していこう。

 

〈一刀〉「劉備ちゃん、だっけ。ちょっと聞いていい?」

 

〈劉備〉「どうぞ♪」

 

〈一刀〉「ここって……もちろん日本だよね?」

 

〈劉備〉「にほん? にほんって何?」

 

 劉備ちゃん(仮)は本気で分からない模様。いきなりかぁ……。

 

〈一刀〉「えーっと……じゃあ、今って西暦何年?」

 

〈劉備〉「せいれき?」

 

 これもか……。この調子じゃ、埒が明かないな……。

 けど、一つだけ分かったのは――何か決定的なズレが、俺と女の子たちの間にあるということだ。

 

〈劉備〉「あのね。次はわたしが質問してもいい?」

 

〈一刀〉「えッ? あ、うん、どうぞ」

 

〈劉備〉「お兄さん、どこの出身?」

 

〈一刀〉「出身? 東京都練馬区。浅草だけど」

 

〈張飛〉「あさくさー? そんな邑あったっけ?」

 

〈関羽〉「いや、聞いたことがないな。どこの州だ?」

 

 ここで言う州というのは、アメリカの地名とかじゃあ、もちろんないんだろうな。

 ここまで来たら、この女の子たちが嘘を吐いているとかじゃない限り、認めざるを得ないだろう。……ここは中国大陸だ。それも、古代の。

 どうなってるんだ? あの時、銅鏡に吸い込まれてしまった時にタイムスリップでもしてしまったのか? でも言葉が通じてるし、何より劉備、張飛、関羽と名乗る三人はどう見ても女の子だし……。さっぱり分からん。俺はどういう世界に来てしまったんだ……?

 そういえば、俺より先に吸い込まれた孝矢と鎗輔は無事なんだろうか。近くにはいないみたいだけど、もしかして、どこかで俺と同じような状況に陥ってるのかな……なんて、目の前の現実の無茶苦茶さに思考が明後日の方向に飛んでいたら、劉備ちゃんが改めて問いかけてきた。

 

〈劉備〉「ねぇねぇお兄さん、もしかしてお兄さんってこの国のこと、何も知らないの?」

 

〈一刀〉「知らない。……いや、知識としては知ってるんだけど。でもその知識の元って、俺がいる時代よりはるか昔なんだよなぁ」

 

〈劉備〉「……お兄さんの言ってることの意味はよく分からないけど……やっぱり! 思った通りだよ、愛紗ちゃん! 鈴々ちゃん!」

 

 劉備ちゃんは瞳にキラキラとお星様を輝かせて言った。な、何をそんなに興奮してるんだろう?

 

〈劉備〉「この国のことを全然知らないし、わたしたちの知らない言葉を使ってるし、それにそれに、何と言っても服が変!」

 

〈一刀〉「……」

 

 いや、こっちからしたら君たちの方が断然変なんだが……。仮に本当の後漢時代だとしても、その格好はないだろ。まぁ、当時の人がどんな服着てたのか実際に見た訳じゃないけど。

 

〈劉備〉「この人、きっと天の御遣いだよ! この乱世の大陸を平和にするために舞い降りた、光の巨人様だよきっと!」

 

 うん? 天の御遣い? 何だそりゃ。それに、光の巨人? 肩書きが渋滞起こしてない?

 

〈関羽〉「ふむ……。確かにここまでの話を纏めると、彼が天の御遣いということになりますが……」

 

〈張飛〉「でも、このお兄ちゃん、ぜーんぜんおっきくないのだ」

 

〈劉備〉「なりし、なんだから、普段はわたしたちと同じ姿なんだよ! その方が便利でしょ?」

 

〈関羽〉「便利だからと体躯を自在に変えられるものでしょうか? それに、それを差し引いても、天の御遣いという割には英雄たる雰囲気があまり感じられません」

 

〈劉備〉「そうかなぁ? うーん、そんなことはないと思うんだけどなぁ」

 

 何だかジロジロ値踏みされていて、もう居心地が最高に悪い……。置かれている状況を打破すべく、一番の疑問をぶつけた。

 

〈一刀〉「その、天の御遣いって一体何のこと?」

 

〈関羽〉「この乱世に平和を誘う天の使者。……自称大陸一の占い師、管輅の言葉です」

 

〈一刀〉「乱世って?」

 

〈張飛〉「今の世の中のことなのだ。漢王朝が腐敗して弱い人たちからたくさん税を取って、好き勝手してるのだ。それに盗賊たちもいっぱいいっぱいいて、弱い人たちをいじめてるのだ!」

 

 漢王朝の腐敗、盗賊……。ここまでは、確かに俺の知ってる三国志の導入部そのままだった。

 が、

 

〈劉備〉「それに、世の中が乱れてるのに呼応してるみたいに、見たこともないような怪物が出没して力のない人たちを襲ってるの。数も日を追う毎に増えてきてて……」

 

〈一刀〉「はい?」

 

〈劉備〉「ん? どうかしました?」

 

〈一刀〉「えッ、ああ、いや……何でもないよ。続けて?」

 

 怪物? 三国志にそんなファンタジーな要素ないよな? それに光の巨人って……。いやまぁ、目の前の子たちが劉備や関羽という時点でファンタジーかもしれないけど。

 

〈劉備〉「そんな世の中を変えようって立ち上がったのがわたしたち三人なんだけど……わたしたちの力だけじゃ、何にも出来なくて……」

 

〈関羽〉「どうすれば良いのか、方策を考えているところで管輅と出会い……」

 

〈張飛〉「その占いを信じて、鈴々たちがここに来たってすんぽーなのだ!」

 

〈一刀〉「で、天の御遣いってのがいるはずの場所に、俺がいたってことか……」

 

〈劉備〉「そうなの! つまり、あなたこそが乱世を救う天の御遣いなんだよね! ほんとに会えるなんて、管輅さんに感謝しなきゃ!」

 

 すっかり舞い上がっている劉備ちゃんだが……俺、そんな大層な人間じゃないぞ。光の巨人なんてのにもなれないし。

 巨人……で思い出すのは、銅鏡に吸い込まれる直前に見た、ウルトラマンの人形だ。あれならそれらしいけど、ウルトラマンは所詮フィクション。現実じゃないしなぁ。

 そういえば、あの人形って結局何だったんだろう。

 

〈一刀〉「残念ながら俺、そんな大したものじゃないよ? 光の巨人なんて、心当たりもないし」

 

 誤解は早めに解かないと。そう思って正すと、張飛ちゃんが頬を膨らませた。

 

〈張飛〉「えー……巨人になれないのかー。見てみたかったのだ」

 

〈一刀〉「ごめん……」

 

 そんな残念な顔されると思わず謝ってしまうが……俺、悪くないよな?

 

〈劉備〉「それでも! あなたがこの国の人じゃないっていうのは、隠しようもないはずです!」

 

〈一刀〉「うん、確かに」

 

〈劉備〉「でしょでしょ! だからあなたは天の御遣いってことで確定です♪」

 

〈一刀〉「ええ、それでいいの……? 巨人は?」

 

〈劉備〉「まぁ、その辺は追い追い何とかするってことで……」

 

〈一刀〉「そんな適当な……。そんなことでいいの?」

 

〈関羽〉「ともかく、このような場所でいつまでも話をしていては危険です。どこから野盗が出てくるものか。一度街に戻り、腰を落ち着かせてじっくりと話し合いましょう」

 

〈張飛〉「そうなのだ! そろそろお昼ご飯の時間なのだー!」

 

 痺れを切らしたかのような関羽さんの提案で、俺たちは場所を移すことになる。俺も、一旦落ち着いて考えを纏め直したい。

 

〈一刀〉「あッ、そういえば、さっき言った怪物って、具体的にはどんなのなの?」

 

 歩き出しながら最後にした質問に、劉備ちゃんが答えかける。

 

〈劉備〉「ああ、それはね……」

 

 だがその時に、いきなり地面が揺れ出した!

 

〈一刀〉「わわッ! 何だ、地震か!?」

 

〈劉備〉「うひゃあっ!」

 

〈関羽〉「皆、姿勢を低く! 何やら妙な気配が……」

 

 初めはただの地震かと思ったが……直後に、目の前の地面がバリバリと裂けた!

 

〈一刀〉「は!?」

 

 そして裂け目から出てきたのは……前に曲がった一本角を頭頂部に生やした、でかい化け物の顔!

 

〈劉備〉「あー……ちょうどあんなの」

 

 のんきな劉備ちゃんのひと言。……いや、それどころじゃないよこれ!?

 

「キイイィィィ!」

 

 化け物はすぐに地面の下から這い出て、全身を俺たちの前に現した!

 で、でかい! 小山ほどの大きさはあるぞ! しかも左腕はフック、右腕は鞭状になっていて、腹にはまたどでかい花がくっついているという、まさしく怪物としか言いようのない異形の生物だ!

 

〈一刀〉「怪物というか……怪獣じゃんか!?」

 

 文字通り仰天する俺。目の前に出てきたのは、それこそウルトラマンに出てきそうな巨大な怪獣だ! しかも、何か見覚えあるぞ。小さい頃、怪獣図鑑で見たような……。だけど肌の質感はゴムの着ぐるみなんかじゃない、ぬらぬらとした生物特有の光沢を放っている!

 どうなってるんだ!? テレビの怪獣が、実在!? そんな馬鹿な!!

 

〈関羽〉「こ、これは大きすぎます! 私たちではどうしようもありません!」

 

〈劉備〉「そんなっ! こんなおっきい妖が現れるなんて……!」

 

〈張飛〉「とりあえず……逃げるのだー!」

 

 あまりにもサイズが違い過ぎる化け物を前にして、三人は逃走を選択。うん、俺もそれが一番賢いと思う。だけど逃げ切れるか!? いや、言ってても仕方ないか!

 回れ右して、最初にいた場所を通り抜けようとする。が、怪獣はすっかり俺たちを標的にしたのか、ドスンドスンと地響き立てて追いかけてくる! こ、怖えぇ! 怪獣が実寸大で出てくると、こんなにも恐ろしいものなのか!?

 

〈劉備〉「お兄さん、早くっ!」

 

〈一刀〉「あ、ああ! おっと!?」

 

 必死に逃げる俺の足が、何かを蹴っ飛ばした! 石の感触じゃなかった。

 見れば、ウルトラマンの人形が転がっていた。あッ、あの人形、俺と一緒にここに来てたのか。

 

『……痛ってぇぇ~! おい誰だ!? 人を蹴っ飛ばしやがった奴は!』

 

〈一刀〉「はぁ!!?」

 

 いや! 人形がいきなり起き上がってこっちに詰め寄ってきたぞ!? ひ、ひとりでに動いてる!? 劉備ちゃんたちも、状況も忘れて唖然とこっちを振り返った!

 

『お前か! お前誰だよ! 地球人か!?』

 

 俺の顔の間近に飛んで来て怒鳴る人形。……いや、こうして動いてるところを観察して、初めて分かった。これは人形じゃない……怪獣と同じように、生きている!

 

〈一刀〉「お、お前……あの時の、ウルトラマンタロウのパチモン!」

 

 思わず孝矢が言った言葉が口から突いて出ると、人形だと思っていたウルトラマンがますます憤慨した。

 

『誰がパチモンだ! 俺はウルトラマンタイガ! そのタロウの息子だ! パチモンなんかじゃねぇからなッ!』

 

〈一刀〉「た、タロウの息子ぉ!?」

 

 タロウって子供いるのか!? ああもう、怒涛の展開すぎてついていけねぇ!

 

〈タイガ〉『うおッ!? よく見たらお前、いやお前ら、怪獣に追われてるじゃんか! あれはアストロモンス……父さんが地球で最初に戦った奴か!』

 

 ああそうそう、そんな名前だった。って、名前なんかどうでもいい!

 タイガとかいうウルトラマンは俺たちの置かれている状況を把握すると、俺に呼び掛けてきた。

 

〈タイガ〉『俺を蹴ったことを謝ってもらうのは後にすべきだな。とりあえず、俺がお前たちを助けてやるよ!』

 

〈一刀〉「えッ、助けるって……まさか!?」

 

〈タイガ〉『だが、今は何でか俺一人だけじゃ巨大化できねぇ……。それなら!』

 

 タイガの身体がいきなりまばゆく光り……キーホルダーみたいな状態に変身した!

 

〈一刀〉「ええ!?」

 

〈タイガ〉『よっし成功だ! そして、お前にこれを貸してやる!』

 

 更に俺の右手首に、どこから出てきたのか銀と金のブレスレットが取りつけられると、それが黒い手甲のようなアイテムに変化する!

 

〈タイガ〉『こいつはタイガスパーク! その手で俺を掴むんだ! 俺はお前で、お前は俺だ!!』

 

〈一刀〉「な、何が何だかよく分からないが……助かるためなら、何だってやってやるよ!」

 

 こうなったら自棄だ! 俺はタイガの目線での指図に従って、タイガスパークとかいうアイテムの下部にあるレバーを左手でスライドさせた。

 

[カモン!]

 

 どうやら起動に成功したみたいだ! 手の甲部分の丸いパーツが光ると、キーホルダーになったタイガを掴んで、右手に持ち替えた。

 すると手の中のキーホルダーからエネルギーみたいなのが生じて、手の平越しにタイガスパークの発光体に吸い込まれると、発光体が赤く輝く!

 

〈タイガ〉『叫ぶんだ! バディーゴー!』

 

〈一刀〉「バディーゴー!」

 

 半ば勢いのままに指示に従い、叫ぶ。するとタイガスパークから強い光が発せられて……俺の身体が変化、巨大化していくのを感じた……!

 

[ウルトラマンタイガ!]

 

 ――火花と王冠型の波紋が広がり、ウルトラマンタイガが右手の平を掲げて飛び出していく!

 

「シュアッ!」

 

 俺の身体から変身、怪獣アストロモンスと同等の身長にまで一気に巨大化したタイガは、飛び出す勢いに乗って回転しながら空を舞い、猛然とアストロモンスの面前に着地した!

 う、嘘だろう……! この俺が、特撮番組の中だけの存在のはずの……ウルトラマンになってる!!

 




 
古代怪獣ゴメス

 幽州啄郡にて、劉備・関羽・張飛の三姉妹と戦っていた怪獣。新生代第三紀頃に生息していた、肉食性の原子哺乳類だ。身長は10メートル程度だが、これでも怪獣としては小さい方なのだ。関羽と張飛の連携攻撃によって討ち取られた。



宇宙大怪獣アストロモンス

 地面を裂いて出現し、一刀たちを襲った大怪獣。100年に一度咲くといわれる吸血植物チグリスフラワーの正体でもある。腹部にある花からは、何でも溶かす強力な溶解液を噴射するぞ。

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