奥特曼†夢想 ‐光の三雄伝‐   作:焼き鮭

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劉備一行、幽州へ帰還するのこと

 

 数日が経ち、俺たちが幽州へ帰るために、斉の街を後にする時がやってきた。

 

〈桃香〉「白蓮ちゃん。お城って……本当に燃やしちゃうの?」

 

 城門の外で、桃香が公孫賛に尋ねかけてた。

 外にいるのは俺たちだけじゃない。籠城してた兵士たちや、町民たち全員……。もう街の中には、人っ子一人いない。

 

〈公孫賛〉「街の連中とも話し合った結果だよ。城に籠もってた人も大した数じゃないし、近くの親族に頼る連中も多いからな。残りも、近くの町にそれぞれ別れるそうだ」

 

〈鈴々〉「でも……何だかもったいないのだ」

 

〈公孫賛〉「仕方ないだろう。下手に放って賊の根城にでも使われては、それこそこの街が浮かばれん」

 

 県令がいなくなり、避難から戻ってきた人を足しても、街は運営が不可能な状態だった。城壁を直すアテもない以上、また賊に襲われたら防衛することが出来ない。それならばいっそ……という運びとなったんだ。

 

〈公孫賛〉「これ以上は、私たちじゃ何も出来ないよ。せいぜい、近くの街まで送ってやるくらいだな」

 

〈桃香〉「……うん」

 

 それでも心の整理がついてない様子の桃香だったが、気を取り直すように、旅芸人の三姉妹の方へ振り向く。

 

〈桃香〉「それで……天和ちゃんたちは本当にいいの? 街道沿いならどこでも送れるよ?」

 

〈天和〉「え、そこまで言ってくれるなら、やっぱり……」

 

〈人和〉「必要ありません。私たちも、頼れる先はありますから」

 

〈愛紗〉「そうか。それなのにこんなところで足止めを食らって、災難だったな」

 

 三人はここで、俺たちと別れることを選択した。危険だと思ったものだが、どうも身を寄せるアテがあるみたいだ。それならいいんだけど……。

 

〈地和〉「……あんまり頼りたいものでもないけどね」

 

〈人和〉「ちぃ姉さん、余計なことは言わなくていいの! 劉備さん。お心遣い、感謝します」

 

 三人が丁重に断ると、代わるように趙雲が進み出る。

 

〈趙雲〉「では、私が幽州に同行させてもらおう」

 

〈愛紗〉「お前が来るのか!?」

 

〈趙雲〉「何だ。私では不服か?」

 

〈愛紗〉「うむむ。そういう訳ではないが……」

 

 愛紗は趙雲とは相性が悪いみたいだ。まぁ、生真面目な愛紗じゃ、飄々として掴みどころのない趙雲の相手は苦手みたいだからな。

 けど、趙雲は将来的に、俺たちの心強い味方になってくれるはずなんだ。なるべく早い内に慣れてもらいたいところだ。

 

〈一刀〉「でもいいの? 食客で酷い目に遭ったばっかりじゃ」

 

〈趙雲〉「しかしながら、路銀のアテは逃げてしまったので、一人で旅をする金がない。それ故にて」

 

 そうか……地獄の沙汰も金次第なのは、昔からなんだな。

 

〈公孫賛〉「そうか。なら、歓迎するよ」

 

〈趙雲〉「……む? 伯珪殿か」

 

〈公孫賛〉「どうした。私のところじゃ不満か?」

 

〈趙雲〉「いや、そういう訳ではないのですが……」

 

 言葉を濁す趙雲。まぁ、彼女は愛紗や桃香に興味を惹かれてたみたいだからな。ちょっと複雑な気持ちなのも否めないだろう。

 

〈桃香〉「あはは……。わたしのところじゃ、食客を養うようなお金なんてないし。趙雲さん、仕官がしたい訳じゃないんでしょ?」

 

〈趙雲〉「ふむ……」

 

〈雷々〉「じゃあ、雷々たちの食客になる? いいよね、電々」

 

〈電々〉「うん! 食客って一人くらいいるといいなーって思ってたし、趙雲さんくらい強くてカッコ良かったら大歓迎だよ!」

 

 雷々、電々からも誘われて、趙雲は少しの思考の末に答えを出した。

 

〈趙雲〉「……伯珪殿、世話になる」

 

〈公孫賛〉「おう。歓迎するよ」

 

 こうして趙雲を新たに仲間に加えた俺たちは、街を燃やして居住不可能にすると、町民たちを近くの街へ送り届けに行った。

 

 

 

 それから大分経って、州境を越えて幽州へと帰還を果たした。

 

〈公孫賛〉「やれやれ……やっと幽州か。何だか久しぶりだな」

 

〈一刀〉「公孫賛、大分長く薊を空けてたけど大丈夫?」

 

〈公孫賛〉「遣いは出してたし、この程度でどうにかなるようにはしてないよ。……ま、上手くやるさ」

 

 気楽な様子の公孫賛とは対照的に、桃香は今も浮かない顔だった。

 

〈鈴々〉「お姉ちゃん。まだ元気、ないのだ?」

 

〈桃香〉「あ……ううん、そういう訳じゃないんだけど……白翼党も、何だか大きな規模になってきたなって」

 

〈公孫賛〉「そうだな。あの城だって、今の桃香の街よりも大きかったしな」

 

 白翼党も、初めは散発的な暴動を起こす程度だったのに、瞬く間に城攻めだからな……。これから先、どんな大勢力になってしまうか……。知識でしか歴史を知らない俺じゃ、はっきりとした想像がつけられない。

 それにしても……。

 

〈一刀〉「……なぁ、趙雲」

 

〈趙雲〉「何か?」

 

〈一刀〉「もし白翼党が、もっと早くから総攻撃を仕掛けてたら……趙雲と守備の兵だけで、耐え切れたと思う?」

 

〈趙雲〉「ふむ……我が槍のひと振りで万の敵を打ち払えれば、造作もなかったでしょうが、実際には……良き死に場所になったのは、確かでしょうな」

 

 そこがずっと気になってた。白翼党は数千人規模もの大軍で、城の残存兵力の何十倍もの戦力差をつけてた。趙雲でも一人じゃどうにもならないレベルだ。そもそも指揮官が宇宙人で、怪獣までいたのだから、城なんかさっさと破壊できたはずだ。何でそれをしなかったのか?

 

〈公孫賛〉「総攻撃をしない理由があったってことか? そういえば、白翼党の奴ら、大賢良師様を返せとか何とか叫んでたな」

 

〈鈴々〉「たいけんりょーし?」

 

〈公孫賛〉「白翼党の首魁のことだ。白翼党の奴らはそう呼んでるみたいだな。……しかし、それがどうしてあんな城に捕まってるなんて、奴ら思い込んでたんだ?」

 

〈雷々〉「確かに、変な話だね」

 

〈電々〉「いる訳ないのにねー、そんな人」

 

 確かに。守備兵の人たちも、訳が分からないと頻りに首を傾げてた。

 

〈愛紗〉「……おい、その辺りはどういうことだったのだ。いい加減、何かしゃべったらどうだ」

 

 愛紗が厳しい目を向けた先は――白翼党の大軍を指揮してた、セミ人間だ。こいつは斉の人たちに預ける訳にはいかないので、捕虜として連れてきてる。今は荷車にグルグルに縛りつけて運んでるところだ。

 シェケドとか言う名前のセミ人間は、捕虜になってから散々尋問を受けてるが、白翼党の首魁――この世界においても黄巾党と同じく、張角に関することの一切を吐いていない。タイガの言う、宇宙の犯罪者たちのネットワーク、ヴィラン・ギルドの一員だというが、それが何で白翼党にいたのか――その辺りも、黙秘を貫いてた。

 

〈シェケド〉『ふん……貴様らなんぞに話すことなど、何もないと言ってるだろう。殺したいのならさっさと首を刎ねろ』

 

 今もやはり、そっけない態度で顔を背けるだけだ。その様子は、本気で死をも恐れていないことが窺える。

 ……大陸の人間ならいざ知らず、宇宙人にまでもここまでの忠誠を誓わせるなんて……張角は一体、どれだけすごい求心力を持ってるんだ? 恐ろしい……。

 

〈愛紗〉「おのれ、強情な……。ならばいっそのこと、本当に……!」

 

〈桃香〉「駄目だよ、愛紗ちゃん! それは……」

 

 業を煮やすばかりに槍を握る愛紗を、桃香が制した。

 

〈愛紗〉「ですが桃香さま……こやつがしでかしたことを思えば、死罪も妥当です。このまま生かしたままで、今後万が一のことがある場合も鑑みれば、尚更……」

 

 愛紗が反論しても、桃香の考えは変わらなかった。

 

〈桃香〉「でも、この人は元々、私たちの国の人じゃないんだよ。文化も文明も、全然違う土地から来た人……。この人にはこの人なりの守る法がある。そういうのを何も知らないままに、問答無用で殺すなんてことをしてたら、大陸に平和をもたらすなんて大きいことはいつまで経っても出来ないと思うの。どんな人とも、まずは分かり合うことをしなくちゃ」

 

〈愛紗〉「むぅ……」

 

〈桃香〉「……ご主人様、勇者様、私の言うこと、間違ってるかな?」

 

 己の信じるところを語った桃香だが、流石にどんな危険があるか分からない宇宙人をそのままにしておくのは彼女としても不安があるのか、俺たちに意見を求めてきた。

 

〈一刀〉「いや。俺はいいと思うよ、桃香の考え」

 

〈タイガ〉『ああ。どんな時も、他人に歩み寄ることを忘れない。なかなかどうして出来るもんじゃない。つまり、桃香はそれだけ立派だぜ。もっと自分を誇らしく思いな』

 

〈桃香〉「え、えへへ……ありがとう、勇者様」

 

 タイガに褒められて、桃香がはにかんでた。

 

〈趙雲〉「ふむ……流石は劉玄徳殿。仁道に生きておられるとの評判通りの方だ」

 

〈公孫賛〉「ああ。危なっかしいところもあるが、これが桃香の一番の美点だ」

 

〈タイガ〉『……それはそれとして、ちょっと思ったんだけど』

 

〈一刀〉「何だ? タイガ」

 

 タイガが皆に向けて、次の通りに述べた。

 

〈タイガ〉『旅芸人を名乗る、三人の子たちがいただろ』

 

〈鈴々〉「天和ちゃんたちが、どうしたのだ?」

 

〈タイガ〉『いや……あの子たちも、色々と謎が多かったじゃないか。何故か危険な青州に来てて、一貫して真名で通して、表の名前は名乗らないで……。もしかしたら、あの子たちがその張角なんじゃないかなーって……。それなら、筋が通るんだけど』

 

〈シェケド〉『ッ!!』

 

 タイガの意見に、俺たちは――。

 

〈一刀〉「……あははは! いやいや、それはないだろ」

 

〈桃香〉「うんうん。いくら何でも、それはねぇ」

 

〈愛紗〉「ええ。あるはずがありません」

 

〈雷々〉「あんなにいい人の天和ちゃんたちが、白翼党の首魁だなんて!」

 

〈公孫賛〉「どうして白翼党の首領が、白翼党から避難するんだ?」

 

〈電々〉「あり得ないよね~」

 

〈趙雲〉「ふふ。なかなか愉快なことをお考えになる」

 

〈鈴々〉「タイガお兄ちゃん、天和ちゃんたちに失礼なのだ!」

 

〈タイガ〉『はは、そうだよな。ごめん、言ってみただけだ』

 

 タイガがあんまりあり得ないことを言うもんで、俺たちは一斉に笑い飛ばした。

 

〈シェケド〉(ほッ……)

 

〈一刀〉「それはそうと……もう一つ。あの西園寺楯って奴も、謎だったな」

 

〈愛紗〉「あの男ですか……。あやつに関しては、何を目的としているか、どこの勢力の人間なのか。全くの不明ですね……」

 

〈タイガ〉『おい、お前に心当たりはないのか? 魔人に変身する、恐らく地球人の』

 

 西園寺に関しては、あれだけ強情のシェケドもあっさりと答える。

 

〈シェケド〉『いや、知らんぞ。そんな奴、聞いたこともない』

 

〈タイガ〉『ふむ……少なくとも、ヴィラン・ギルドの関係者じゃあないのか』

 

〈一刀〉「じゃああいつは何だったんだ……。何か、分かんないことばかりで頭痛くなってきた」

 

〈桃香〉「ふふっ。今日はきっと、お部屋でゆっくり休めるよ」

 

〈公孫賛〉「張角と第四の男に関しては、私の方でも調査はしてみるよ。何か分かったら連絡する」

 

〈一刀〉「ああ。ありがとう、公孫賛」

 

 いくつかの謎を残しながらも、俺たちは幽州の我が家へと戻っていくのだった。

 

 

 

 ――青州の荒原の中を、一刀らと別れた後の天和たち三姉妹が横断していた。

 

〈天和〉「ねぇねぇ、れんほーちゃん。お姉ちゃん、やっぱり劉備さんたちと一緒に行きたかったなー」

 

〈人和〉「私だってそれをしたいのはやまやまだったけどね。……今回の騒ぎで思い知ったわ」

 

〈地和〉「あの人たちを、これ以上ちぃたちの事情に巻き込む訳にもいかないもんね……。何せ、今のちぃたちの周りには、化け物ばっか……。あーあ、何でこんなことになっちゃったんだろ……」

 

 地和が深く嘆息していると……三人の前に、ザッと一人の白装束の男が姿を見せた。

 

〈伝道師〉「こちらにおられましたか。捜しましたぞ、大賢良師」

 

〈地和〉「うわ……」

 

〈天和〉「出たぁ……」

 

〈人和〉「とうとう見つかったわ……」

 

 途端に顔をしかめる三人に構うことなく、男は大声で招集を掛ける。

 

〈伝道師〉「白翼党よ、集まれ! 大賢良師はご無事であるぞ!」

 

 その呼び声により、瞬く間に荒原中に散らばっていた、背面に白い羽の飾りを取りつけた男たち――白翼党の一団が、天和たちの前に集合してきた。

 

〈白翼党〉「大賢良師さま!!」

 

〈白翼党〉「張角様、ご無事で!」

 

 一斉に地に膝を突いた白翼党を前にして、天和、地和、人和の三姉妹――白翼党の『表向きの』首魁、張角の三姉妹は、どっとため息を吐いた。

 

〈張角〉「あぅぅ……」

 

〈白翼党〉「俺たち、張宝さまたちがあの城の奴らに捕まってたんじゃないかって、そりゃもう必死で……!」

 

〈張宝〉「はいはい。……全くもう」

 

〈白翼党〉「張梁さま、敵の手に落ちた指揮官におかれましては、誠に無念であります!」

 

〈張梁〉「……ええ」

 

 白翼党員の次々の報告に、うんざりした様子の三人に、白装束の男がにこやかな笑みを顔に張りつけながら告げる。

 

〈伝道師〉「大賢良師方。今回はご無事で何よりですが、少なくない被害が出てしまいました。このようなことがまた起こらぬよう、無断の外出はどうぞお控え下さいますよう」

 

〈張梁〉「分かってるわよ……」

 

〈伝道師〉「くれぐれも、頼みましたぞ」

 

 笑顔のまま、妙な威圧感を発して張角たちに念押しした男は、白翼党員らの方へ向き直る。

 

〈伝道師〉「大賢良師方は、我らが敵、官憲の手より逃れられたばかりでお疲れである。まずは、新たな拠点へとご案内するぞ」

 

〈白翼党〉「ははーッ!」

 

〈白翼党〉「帰ったらお祝いだ! 白翼党を挙げてお祝いするぞ!」

 

〈白翼党〉「我らが頭領、大賢良師さまのご帰還をお祝いだーッ!!」

 

 盛り上がる白翼党の裏で、張梁は内心で深く長いため息を吐き出した。

 

〈張梁〉(正直……こんな人気の出方なんて、計算外れもいいところだったわ。でも……そうよ。私たちはもう……後戻りなんか、出来ないんだから)

 

 白い翼の集団に囲まれながら、張角、張宝、張梁の三人は、漢王朝の打倒を掲げる組織の頭目としての生活に戻ることを余儀なくされていった――。

 


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