奥特曼†夢想 ‐光の三雄伝‐   作:焼き鮭

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孫呉の巨賢
天の御遣いがやってきた!!


 

 ――漢王朝、揚州丹陽郡の中心地、建業。ここの城塞の城壁の上に、女性が一人腕を組んでたたずんで、夜空を見上げていた。スタイル抜群の大柄の美女だが、醸し出す雰囲気は非常に威圧感が溢れており、誰かが面と向かえば猛獣と間違えてしまうかもしれない。

 そんな剛毅な女性の元に、体格や顔立ちは幼子のようでありながら、表情や立ち振る舞いは老成しているアンバランスな女性がやってくる。

 

「炎蓮様、かようなところにいらっしゃいましたか」

 

 炎蓮と呼ばれた女性が、やってきた女性を一瞥する。

 

「雷火か」

 

「捜しましたぞ。評定を勝手に抜け出されては困りまする」

 

「フン……評定なんぞつまらん。婆さえおれば、どうとでもなるだろう?」

 

「そうはいきませぬ。近頃はこの世のものとは思えぬ怪物が徘徊し、この建業の人民も日夜震えておりますぞ。今も、よりによってこの城の側に、あのようなものが」

 

 雷火という女性が指差した先。城壁から一望できるほどの距離の場所に、氷山と見紛うばかりの氷の塊が鎮座している。

 

「この南方の建業で、かような氷山が、誰も気づかぬ内にそびえ立つなどまさに怪奇。あれの処分をどうすべきか、炎蓮様の御判断なしには……」

 

「……」

 

 諫める雷火だが、炎蓮の視線は氷山ではなく、上に向けられていた。

 

「……先ほどから、何を見ておいでか?」

 

 炎蓮はひと言で答える。

 

「空よ」

 

「空? はて……星の動きに、何か妖しげなものでも……」

 

 雷火がそうつぶやいた時、暗い空に三つの光が流れた。

 

「む?」

 

「ほぅ……」

 

「あれは……流れ星、ですかな? それも三つとは……」

 

「一つは近いぞ」

 

「近い……」

 

 三つの流星の内、最後に流れたものは東に、二つ目は北に――最初に流れたものは、建業付近の地に落下した!

 その際の震動が、炎蓮たちの身にも感じられる。

 

「……今のは?」

 

「だから、流れ星だろう?」

 

「それにしては、何やら動きが妙でしたな。南の方角に落ちたようですが……」

 

 雷火が訝しんでいると、炎蓮がある文章を口につむぐ。

 

「世が乱れ、巨躯の妖が跋扈せん時、神仏の如き光の巨人となりし天の御遣いが三筋の流星に乗りて降臨し、大地を平定す」

 

「管輅の言葉ですな。……もしや炎蓮様。今の流れ星が、まことに天の御遣いを運んできたとお考えで? 管輅の占いをお信じになったとしても……流れ星などは、珍しくもありますまい? 時には、それこそ雨の如く降ることも……」

 

「そうだな。しかし、このオレの目と鼻の先に落ちたのだ。これはまさに天啓……否! 天がオレにすがっておるのだっ!」

 

「!」

 

「そうは思わんか? この地をわざわざ選んだのは、天が孫文台に泣きついている証よ!」

 

「二つは別のところへ飛んでいきましたが……」

 

「そこが気に食わんところだがな。まぁ良い。謁見の間へ参る! 雪蓮と祭を呼んでおけ!」

 

「はっ!」

 

 足を城内に向ける炎蓮の命令を受け、雷火が恭しく頭を垂れて踵を返した。

 

 

 

孫呉の巨賢

 

 

 

〈孝矢〉「うぅ~……んん……」

 

 チュンチュン、とスズメの鳴く声が聞こえたオレ、南出孝矢は、ゆっくりと身じろぎした。

 ……ん? なーんか、いつもと寝心地が違げーような。UL学園の寮のベッドって、こんな柔らかかったか? まるで高級ホテルのシーツのようじゃねーか。んなとこ、泊まったことなんかねーけど。

 

〈孝矢〉「んん……?」

 

 違和感を感じて目を開けると……見えたもんに、思わず固まっちまった。

 

〈孝矢〉「は……?」

 

 何だここ……。全然見たことねー部屋ん中だぞ……。何つぅか、えらい高級そうな家具ばっかで。ULの寮にこんなとこあったか? マジで高級ホテルの一室みてーだぞ? 何でこんなとこで寝てんだ、オレ?

 つーか……オレ、寝る前は何してたんだったか? と、頭ひねって記憶を振り絞ると……思い出した。歴史資料館で、一刀と鎗輔と滅茶苦茶な目に遭ったんだった。あいつらはどーなったんだ? オレと同じ、この建物のどっかにいんのか? そうだ、電話してみよう。連絡先は交換し合ったんだ。それを思いついてスマホ出したんだが……ダメだ、圏外だ。

 あん? 圏外? 仮にここがホテルだとして、そん中で圏外とかあるか? 今時。

 訳が分からねーで、ベッドの上でボーッとしてたら……部屋の扉が外から開かれて、女が一人入ってきた。

 

〈???〉「おっ? 孺子、目覚めたか」

 

〈孝矢〉「はい?」

 

〈???〉「気分はどうだ? 怪我はしとらんか?」

 

 知らねー女だ。褐色の肌で、結構な美人だが、男口調ってゆーか、何かジジむさいしゃべり方だな。あと胸がでっけぇな! こんなビッグサイズ、生で見たことねー! ……って、エロボウズかオレは。

 心配するように聞いてきた女の前で、とりあえずベッドから下りる。

 

〈???〉「ふむ。自分の足で立てるようだな」

 

〈孝矢〉「えーっと……あんた、誰っすか?」

 

 一番に女に聞いた。学力はクラスどころか学年でドベで、馬鹿だ馬鹿だとよく言われるオレだが、その自覚があるからこそ分かんねーことはすぐに聞くようにしてんだ。そーいうとこは賢いだろ?

 

〈???〉「孺子。人に名を尋ねる時は、己から名乗れと教わらんかったか?」

 

〈孝矢〉「ああ、すんません」

 

〈黄蓋〉「まぁ良い。儂は黄蓋、字は公覆じゃ。以降見知りおけ」

 

 ……ん? この人、今何つった?

 

〈孝矢〉「こう……何て?」

 

〈黄蓋〉「姓は黄、名は蓋、字は公覆じゃ。……お主、儂の言葉が通じておらんのか?」

 

〈孝矢〉「いや、んなことねーっすけど……えーっと……甲賀さん?」

 

〈黄蓋〉「黄蓋じゃ!」

 

 ……いくらオレでも、これが普通の日本人の名前じゃねーってのは分かるぜ。あざなとか言ってやがるし……。けど、思いっきし日本語しゃべってるよな?

 

〈孝矢〉「あー……ここはどこっすか?」

 

 質問を変えると、黄蓋っつー女が答えた。

 

〈黄蓋〉「揚州丹陽郡、建業。我が主、孫堅様の館じゃ」

 

〈孝矢〉「ようしゅう、たんよーぐん……? どこだそりゃ……?」

 

 さっぱり分かんねぇ……。あいや、つい最近にんな名前を、どっかで聞いたような気も……。

 

〈黄蓋〉「揚州と聞いて分からんのか? ……もしや、これは真に……」

 

 混乱するオレを、黄蓋は何か考えてる様子で観察してきた。な、何だよ。オレの顔に何かついてんのか……?

 

〈黄蓋〉「お主はどこの生まれだ?」

 

〈孝矢〉「オレ? オレは東京の大田区だけど」

 

〈黄蓋〉「とうきょう……おおたく……? そんな村、聞いたことがない。それはどこの州にあるのじゃ?」

 

〈孝矢〉「は? いや、東京は日本っすよ。アメリカじゃねーって」

 

〈黄蓋〉「にほん、あめりか……。お主の言うこと、ますます分からん」

 

 いやいや、これどーいうことだ。東京が日本の首都なんて、常識だろ。それを知らねー奴がいるか? 聞けば聞くほど、訳が分かんなくなる……。

 思えば、目が覚める直前の出来事から意味不明の事態だった。そんで起きてみりゃ、全然知らねー部屋の中で、知らねー女が意味不明なこと言って。ってかよく見りゃこの女、格好が妙だな。何の意味があんのか、胸元に穴開けて谷間見せてるし。こんな服装で生活してたら、近所ですっげー噂になっちまうだろ。

 もしかしてオレ、夢でも見てんのか? けど、こんなにハッキリした夢、今までに一度だって見たことねーぜ。

 んッ、そーいや黄蓋って名前、聞き覚えがあんな。ただ、それはリアルでじゃねぇ。ゲームのキャラがそーいう名前だったんだ。確か……三国志テーマの奴……。

 

〈孝矢〉「あッ。ここ、誰の館だって?」

 

〈黄蓋〉「何度も聞くな。我が主、孫堅様の館と申したじゃろう?」

 

 そんけん……。その名前ならはっきり思い出せるぜ。確かに、ゲームに出てきてた。

 

〈孝矢〉「それって、孫に権力の権って字で書くんすか?」

 

〈黄蓋〉「それはご息女様の方じゃ。我が主の名は堅実の堅、堅固の堅、堅牢の堅で孫堅様じゃ」

 

〈孝矢〉「ああ、親父の方か。読みが同じでややこしーんだよなー」

 

〈黄蓋〉「……我が主は正真正銘の女じゃ」

 

〈孝矢〉「へ?」

 

 孫堅が女? いやいや、男だろ。ゲームのグラ、おもっきし髭生えてたし。ってゆーか、今息子の方もご息「女」とか言わなかったか?

 まるで話が呑み込めねーでいると、黄蓋が聞いてくる。

 

〈黄蓋〉「時に孺子、自分の名は覚えておるか?」

 

〈孝矢〉「あ、ああ。そーいやまだ名乗ってなかったっすね。オレは南出孝矢っす」

 

〈黄蓋〉「変わった名じゃな……。姓はみな、名はみで、字がたかやか?」

 

〈孝矢〉「区切るとこ違げーっすよ。苗字が南出、下の名前が孝矢。あざなっつーのはねーっす」

 

〈黄蓋〉「字がない……。して、お主の生まれ、とうきょうというのは、一体どこの州にあるのじゃ?」

 

〈孝矢〉「だから、日本には州とかねーっすよ。ってか、日本って分かります?」

 

〈黄蓋〉「またそれか。にほんとは、何じゃ?」

 

〈孝矢〉「うッ、何気難しいこと聞いてきますね……。日本っつーのは、オレの住んでる国なんすけど……」

 

 いざ日本のこと説明しろって言われたら、案外難しいな……。当たり前すぎることだから、普段意識なんかしねーし……。

 

〈黄蓋〉「何やら長くなりそうじゃな……。まぁひとまず置いておこう。お主は、この建業のすぐ側に倒れておるのを見つけた儂らがここへ連れてきたのじゃが、お主は何故己がそうなったのか分かるか?」

 

〈孝矢〉「あー……それが一番分かんねーんすよ。何か、鏡に吸い込まれたらここにいたっつーか……」

 

〈黄蓋〉「鏡に? 鏡は人を吸い込むものではないぞ。まさかお主、物の怪に化かされたのでは?」

 

〈孝矢〉「そうかも……」

 

 お伽話みてーな話だけど、この状況じゃそれも選択肢に入るかもなー……なんて思ってたら、黄蓋が言う。

 

〈黄蓋〉「儂は見ておらぬのじゃが、お主は流れ星に乗って天よりこの地に降ったというのじゃ」

 

〈孝矢〉「えッ、流れ星に? それ何つーメルヘン?」

 

〈黄蓋〉「また意味の分からぬ言葉を……。もしや真に、お主は天の御遣いなのか? なれば、何ゆえこの地に降り立ち、ここで何を為すつもりじゃ?」

 

〈孝矢〉「は? 何の話……」

 

〈黄蓋〉「儂の言葉は通じておるな? 答えよ」

 

〈孝矢〉「ち、ちょっと待ってくれよ! 天のみつかい? 何のことだ!? 身に覚えがねぇよッ!」

 

〈黄蓋〉「ふ~む……埒が明かんの……」

 

 そりゃこっちの台詞だぜ……。さっきから理解不能のことばっか。誰か助けてくれー……。

 すっかり困り果ててたら、部屋にまた新しい女が、今度は二人入ってきた。

 

〈???〉「あっ、起きてる起きてる」

 

〈黄蓋〉「おお、策殿」

 

〈???〉「ほう……この少年が?」

 

 この二人も黄蓋と特徴が同じだ。褐色肌で、これまた美人で、やたら面積の少ない派手な格好で、でっけぇ胸! 肌の色はそーいう人種だとして、胸は食いもんに秘密があんのか? それとも血筋なのか?

 

〈???〉「おはよう、少年。気分はどう?」

 

〈孝矢〉「あー……悪くはねーっすけど、頭ん中はぐちゃぐちゃっす」

 

〈???〉「そう……ふふふっ」

 

 あどけなく笑ったのは、黄蓋よりも大分若そうな、オレのちょっと上ぐれぇの女。

 けど笑われた瞬間、ビクッ! と背筋が震えた。その笑顔の裏に……何か射抜かれるようなもんを感じた、みてーな嫌な予感が……。

 

〈???〉「ほらね? 私の言った通りでしょう?」

 

〈???〉「何がだ? ただ少年が一人、部屋にいるだけではないか」

 

 もう一人は、眼鏡を掛けた如何にも知的! とか理系! って感じの女だ。オレとは正反対のタイプって訳だな。

 

〈???〉「ふふっ。ただの少年が、星に乗って天から降ってきたりはしないわよ」

 

〈???〉「私は見ていないからな。本当に星が落ちた場所で、この男を見つけたのか?」

 

〈黄蓋〉「間違いない。しかも儂らが駆けつけた時、この童は見たこともない、白い光に身体を覆われておった」

 

 えッ、マジで? オレ、んな派手な登場のし方だったの? うーわ見てみたかった。いや、オレのことだからそりゃ無理か。

 

〈???〉「ええ。管輅の占いなんて、ただの与太話だと思ってたけど……」

 

〈???〉「占い嫌いの伯符でも、信じざるを得なかったと?」

 

〈???〉「自分の目は信じるもの」

 

〈黄蓋〉「うむ。儂も今、孺子から色々と話を聞いたのだが、やはりこやつは星が運んだとしか思えん」

 

〈???〉「ふむ……おい」

 

 オレをほったらかしに話をしてた三人の内、眼鏡の女がオレに振り向いた。

 

〈孝矢〉「あッ、はい」

 

〈???〉「お前の名は? ……いや、その前に」

 

〈周瑜〉「私は周瑜。字は公瑾。孫家にお仕えする軍師だ」

 

〈孫策〉「私は孫策伯符よ。よろしくね?」

 

 名乗る女二人。ってか、こっちは周瑜と孫策かよ! まんま三国志になってきやがった。いや、初めからそうだったのか?

 

〈周瑜〉「お前の名は?」

 

〈孝矢〉「南出孝矢っす。字はなくて、南出と孝矢っす」

 

〈孫策〉「ふ~ん、珍しい名前ね」

 

〈孝矢〉「日本じゃ別に珍しくねぇっすけどね」

 

〈孫策〉「にほん?」

 

〈黄蓋〉「儂が話そう」

 

 黄蓋がさっきまでのオレとの話を、簡潔に纏めて二人に伝えた。オレもさっきのやり取りを繰り返したくなかったから助かる。

 

〈孫策〉「つまり、漢王朝じゃない国の生まれなんだ……。でも、気がついたらあそこに倒れてたってこと?」

 

〈孝矢〉「はい。正直、何が起こったんかさっぱりで」

 

〈孫策〉「じゃあ、その前は何をしてたの?」

 

〈孝矢〉「まーた難しいこと聞きますね……。えーっと、どっから話しゃいいのやら……。とりあえず、国じゃUL学園ってとこで学生やってましたよ、一応。歴史資料館には、冬休みの宿題で来てて」

 

〈孫策〉「ゆーえるがくえん? 聞き馴染みのない言葉の響きね」

 

〈周瑜〉「学生……学問を修めていたのか。とてもそうは見えないが」

 

 悪かったな! どうせ見た目からして馬鹿だよ、オレは!

 

〈孫策〉「まっ、詳しい話は母様の前でしてもらおっか」

 

〈黄蓋〉「そうじゃな」

 

〈孝矢〉「母様って?」

 

 聞いたけど孫策は答えねぇで、オレに言う。

 

〈孫策〉「それじゃあ南出少年。起きたばかりで悪いんだけど、ちょっと一緒に来てくれる?」

 

〈孝矢〉「どこに?」

 

〈周瑜〉「我らの主の下へだ」

 

 っつーことで、オレは別の部屋に連れてかれる。……が、その寸前に、孫策からあるものを手渡された。

 

〈孫策〉「あっ、そうだ。これ、返しておくわね」

 

〈孝矢〉「ん? これって……」

 

 歴史資料館で、鏡に吸い込まれる前に見たウルトラマンの人形だ。ムキムキの奴。

 

〈孫策〉「大分変わった人形ね。あなたのでしょう? あなたの側に落ちてたもの」

 

 いや、別にオレのって訳じゃねーんだけど、それ言ったら話が余計ややこしくなるな。そーいうことにして、受け取っとくか。

 オレはウルトラマン人形を懐にねじ込んだ。

 

 

 

 んで、連れてかれた先は、だだっ広くて豪華な部屋。ホールって奴だな。っていうより、謁見の間って奴か?

 

〈孫堅〉「ほほう。貴様が天の御遣いか」

 

 一番奥の、一番高けぇ段の玉座に座ってんのは、孫策をもっと大人にして、更に色々なもんをでっかくしたような女。今までのとは段違いの迫力だ……。あの人が、孫堅で間違いねぇみてぇだな……。

 マジで女だよ。いや、ここに来るまで会ったの全員女だけど。

 

〈孫堅〉「おい孺子、こっちを向け」

 

〈孝矢〉「は、はい……!」

 

 あんまりにもすげぇ迫力なんで、つい首をすくめちまいそうになったが……男が気迫で負けてちゃおしまいだ! 必死に気を張って、孫堅と面を合わせた。

 

〈孫堅〉「ククク……目つきはなかなか好みだ。だが、それ以外はただの孺子にしか見えんな」

 

〈孫策〉「ほら、母様。そんな目で睨んだら、孝矢が怖がっちゃうじゃないの?」

 

〈孫堅〉「たかや? それがこの者の名か?」

 

〈孫策〉「そうよ。南出孝矢」

 

〈孫堅〉「ふん……分かっていることを話せ」

 

〈黄蓋〉「はっ!」

 

 黄蓋がさっきと同じように、部屋でのやり取りのまとめを孫堅に説明した。

 

〈孫堅〉「ほほう……なるほどな。おい!」

 

〈孝矢〉「な、何すか」

 

〈孫堅〉「オレは呉郡太守、孫堅文台だ」

 

 いやもう、散々聞いたけど……。

 

〈孝矢〉「お、オレは南出孝矢っす」

 

〈孫堅〉「ふん。見れば見るほど、ただの孺子だ」

 

 なんてオレを評価する孫堅。コゾーコゾーって……オレと初めて面と向かう奴は、大抵オレの目つきにびびるんだぜ? いや、自慢になんねーなこれは。

 

〈黄蓋〉「肝は据わっておりそうだが」

 

〈孫策〉「ええ。その辺の子供なら、母様の前に立ったら、それだけでオシッコ漏らしそうだし」

 

 それって褒められてんの?

 

〈孫堅〉「おい公瑾。貴様はどう考える?」

 

〈周瑜〉「今の段階では何とも……」

 

〈孫堅〉「ふむ……。おい孺子、自分が倒れていた時の話はもう聞いているのだな」

 

〈孝矢〉「まぁ一応は……」

 

〈孫堅〉「ならば、貴様は真に天の御遣いで間違いないな?」

 

 天の、御遣い……。さっきも黄蓋が言ってたな。

 

〈孝矢〉「あー……すいませんけど、その天のみつかい? って、何すか?」

 

〈孫堅〉「管輅の予言よ」

 

〈周瑜〉「世が乱れ、巨躯の妖が跋扈せん時、神仏の如き光の巨人となりし天の御遣いが三筋の流星に乗りて降臨し、大地を平定す」

 

〈孫策〉「言葉の意味は分かる?」

 

〈孝矢〉「何となくは。けど……」

 

 ちょっと待った。巨躯の妖? 光の巨人? 何じゃそりゃ。これって三国志じゃねーのか? それじゃまるで、ウルトラマンじゃねーか。設定ガン盛りだろ。クロスオーバー小説じゃあるまいしよー。

 と、そこまで思ったとこで、ずっとこんがらがってた頭が一気にすっきりした!

 

〈孝矢〉「あー、分かった! なーんだそーいうことか!」

 

〈孫堅〉「んん? おい孺子、急に何が分かったというのだ?」

 

 大声を上げたオレに聞き返してきた孫堅に、すっかり気が楽になってひらひら手を振る。

 

〈孝矢〉「随分やることが凝ってんで全然気づかなかったっすけどー、これってドッキリなんでしょ? 素人騙す奴。じゃなきゃ、こーんな無茶苦茶な状況、ある訳ねーもんなー」

 

〈孫堅〉「はぁ?」

 

〈孝矢〉「いやー、すっげー金掛かってるっすねー。このセットなんかマジモンみてー! けど、妖とか巨人なんてのはやりすぎっすよー。流石にんなファンタジー信じるほど馬鹿じゃねーし?」

 

〈孫堅〉「……公瑾よ。孺子の言っていることの意味が分かるか?」

 

〈周瑜〉「いえ、全く」

 

〈孫策〉「天の国の言葉は難解ねぇ」

 

〈黄蓋〉「儂は、いい加減頭が痛くなってきましたぞ……」

 

 周りはまだ芝居続けてっけど、もう完全バレたんだからやめりゃいいのに。『ドッキリ大成功!』って看板はどこだ?

 

『やれやれ……。こんな調子では、確かに埒が明かないな』

 

 ん? いきなり男の声がしたぞ。けど、ここにいるのはオレ以外全員女だ。孫堅たちも、今の声がどこからしたんだってキョロキョロしてる。

 

『初めから私が話に加わっては、場を混乱させるばかりと思ってずっと黙っていたが……どうも、この少年に自分の置かれている状況を理解させなければ進まないようだ』

 

 また声がして、オレの懐がもぞもぞ動いた。そして出てきたのは……さっきのウルトラマンの人形だ!

 

〈孫策〉「人形がしゃべった!? ひとりでに動いてる!!」

 

〈黄蓋〉「何と! まさか妖か!?」

 

〈周瑜〉「もしくは何らかのからくりか……? しかし、あれほど自然に動くからくりなど、聞いたことがない……!」

 

〈孫堅〉「はっはっはっ! 何だか面白くなってきたな!」

 

 周りが驚いてる! オレも驚きだ!

 

〈孝矢〉「すっげー! この人形よく出来てんなー。どーやって動いてんだ? 電池はどこ入ってんだ?」

 

『こ、こらこらッ! やめないか、人の身体をまさぐるのは! くすぐったい!』

 

 電池の蓋を探してると、ウルトラマン人形が怒鳴ってから名乗った。

 

『私は人形ではない! 私はちゃんと生きている!』

 

〈孝矢〉「へ?」

 

『私の名はウルトラマンタイタス! 力の賢者の称号を授かりし者だ!』

 

 と言って筋肉ムキムキの胸を張る、タイタスとかいうウルトラマン。……え!?

 

〈孝矢〉「本物!? 本物の、生きたウルトラマンなのかよ!? マジパねぇ! 何でこんなちっこいんだ?」

 

〈タイタス〉『……また随分と言葉遣いがひどいな。まぁ、それはいいとしよう』

 

 何か呆れられてっけど、確かによーく見りゃ作りもんの人形なんかじゃねー。ちっせーけど、間違いなく生きた人間だぜ。

 

〈タイタス〉『孫堅殿』

 

〈孫堅〉「ああ?」

 

〈タイタス〉『色々とお聞きされたいことがあるでしょうが、先に彼と話をさせてもらえませんか? 私から事情を説明しますので』

 

〈孫堅〉「まぁ、その方が話が早くなるというなら構わんぞ」

 

〈タイタス〉『感謝します。では……』

 

 タイタスっつうのがオレに向き直った。

 

〈タイタス〉『南出孝矢君、心して聞きなさい』

 

〈孝矢〉「はぁ」

 

〈タイタス〉『これはドッキリなどではない。建物にも人間にも嘘は見られない。つまり、君は元いた世界とは別の世界に来てしまっているのだ。恐らくは古代の地球……簡単に言えば、タイムスリップしたということだな』

 

 言われてみりゃ、素人騙すにはこりゃやりすぎだよな。そっか、タイムスリップ……。

 説明されてようやく腑に落ちた。

 

〈孝矢〉「あーなるほどなー。何だよーそれ早く言ってくれよー。ドッキリとかえらい勘違いしちまったじゃんか。あー恥ずかし」

 

〈タイタス〉『……いや、そこをすんなり納得するのか?』

 

 何で説明した奴が聞き返すんだよ。そうでもなきゃ、こんなの説明つかねー……。

 

〈孝矢〉「ん……? えぇータイムスリップ!? 過去の世界に迷い込むって奴か!? んなこと、実際あんのかよ!?」

 

〈タイタス〉『理解が遅いッ! これは手強いぞ……!』

 

 ツッコまれちまった。んなこと言われても……正直、本物のウルトラマンってのもまだ信じがたいとこなんだぜ。

 

〈孫策〉「何か大変そうだけれど……そろそろ話を戻していいかしら? 彼が天の御遣いなのか確かめたいんだけど」

 

〈タイタス〉『はい。私も、この世界についてまだまだ知りたいことがあります』

 

 もうオレは半ばほっとかれる形になって、タイタスが話を主導し始める。

 だがそんな時に、

 

〈兵士〉「も、申し上げますっ!!」

 

 こっちは如何にも古代中国って感じの兵士が一人、いきなり謁見の間に飛び込んできた。

 

〈黄蓋〉「無礼者! 謁見中であるぞ!」

 

〈兵士〉「申し訳ございません! ですが、火急の事態にございます!」

 

〈孫堅〉「何事だ」

 

 孫堅が短く聞くと――外から、妙な鳴き声みてーなものが聞こえてきた。

 

「グギャアアア! ギャアアァァ!」

 

〈孫策〉「!? 今のは何!?」

 

〈周瑜〉「ただごとではないな……!」

 

〈タイタス〉『もしや……。孝矢君!』

 

〈孝矢〉「あッ、はい」

 

〈タイタス〉『私を外へ連れていってくれ! この身体では、思うように動けない!』

 

 と頼まれたし、オレも気になるんで、言われた通りに謁見の間から飛び出してった。

 

〈孫策〉「あっ、ちょっと! 勝手に移動したら駄目よ!?」

 

 孫策たちもオレの後についてくる形で、オレたちは外の景色が見える城壁の上に出てきた。

 それこそ三国志のゲームでしか見たことねーような街並み……。だが、今はそれよりももっとやべーもんが見えた!

 

「グギャアアア! ギャアアァァ!」

 

 城の近くにでっけー氷の塊があるんだが、それが割れて、中から四体もの怪獣が出てきやがってた!

 




 
冷凍怪獣シーグラ

 丹陽郡に出現した巨大な氷塊の中から、群れで現れた怪獣。口から吐く冷凍ガスが最大の武器。氷塊も、この能力によって作り出されたものだ。

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