奥特曼†夢想 ‐光の三雄伝‐   作:焼き鮭

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雪蓮は自由きまま!!

 

〈孝矢〉「ごっそさーん」

 

〈店主〉「あいよー」

 

 ある日の昼下がり、オレは城下町の店の扉を後ろ手に閉めて、外に出た。

 

〈孝矢〉「ふいー、食った食った」

 

 腹をさすって満腹感に浸るオレに、タイタスが言う。

 

〈タイタス〉『孝矢、街を回ってこの世界の市井の生活を観察するのもいいが、少し気が緩みすぎではないか? 先日、炎蓮殿にああ言われたばかりではないか。普段からもっと警戒心というものをだな……』

 

〈孝矢〉「いーじゃねーかよちょっとぐれぇ。まだ天の御遣いの噂も出回っちゃいねーし、何よりタイタスがいるじゃねーか」

 

〈タイタス〉『私とて、常に気を張っている訳ではないぞ。君の安全は君自身で……』

 

〈孝矢〉「あーはいはい。気ぃつけますって。それでいいだろ?」

 

 ったく、タイタスはいちいち口うるさいのが難点だぜ。

 オレは今日、特にあれやれとか言いつけられることもなかったんで、街をグルリと回って見物をしてた。早くこの世界に慣れるには、城の外の世界だって肌で知らねーとな。流石に、街の外は無法地帯だから易々と出るつもりはねーが。

 しかし、流石は千年以上も昔の中国。ちょっと歩くだけでも物珍しいものの連続だ。ただ歩いてるだけでも飽きることはねーぜ。

 

〈タイタス〉『流石に暗くなってからは危険だ。用心のため、明るい内に城に帰るようにしなさい』

 

〈孝矢〉「へぇへぇ。じゃ、そろそろ戻りますかね……」

 

 昼飯を堪能して、今度は誰か誘って来ようかなーと考えながら城に帰る道に足を踏み出したら、

 

〈孝矢〉「おッ」

 

 角を曲がった先の道端に、雪蓮の姿を見つけた。何か、街の爺さん婆さんと楽しそうに話をしてて、こっちにゃ気づいてねぇ。

 

〈孝矢〉「雪蓮だ。あんなとこで何やってんだ?」

 

 そっちに近づいてくと、雪蓮たちの話し声が聞こえてきた。

 

〈雪蓮〉「うふふっ、おじいちゃん元気してた? 最近あまり姿を見ないから、心配してたんだよ」

 

〈爺ちゃん〉「おお、おお、そりゃ悪かったなあ。爺ちゃんは元気しとるよぉ」

 

〈雪蓮〉「ホントに? なら、良かった♪」

 

〈爺ちゃん〉「最近は婆さんが、雪蓮ちゃんに会いに行くな行って、いっちょ前にヤキモチ焼きよってなぁ」

 

〈婆ちゃん〉「まぁおじいさんったら。わたしゃそんなこと言ってませんよ」

 

〈雪蓮〉「あははっ、心配しないで、おばあちゃん♪ おじいちゃんを取ったりしないから」

 

〈婆ちゃん〉「ふふふ、分かってますよ」

 

 おう、随分と楽しげな雰囲気だ。

 

〈孝矢〉「へー、雪蓮の奴、ホントに街の人と仲いいんだな」

 

〈タイタス〉『うむ。真名を預けているところを見るに、あの老夫婦とは特に親密のようだ。……しかし、盗み聞きとは感心しないな』

 

〈孝矢〉「邪魔しちゃ悪りぃだろ」

 

 それを建前に、どんな話しすんのか気になって、ちっと離れたところで聞き耳を立て続けた。

 

〈雪蓮〉「……ところで、二人ともよそ行きの格好しちゃって、どこかにお出かけ?」

 

〈爺ちゃん〉「おッ、そうじゃ! もしかすると、雪蓮ちゃんなら知っとるかもしれん。のう、婆さん」

 

〈婆ちゃん〉「おじいさん。雪蓮ちゃんは忙しいのに、ご迷惑ですよ」

 

〈雪蓮〉「なあに? 私でお役に立てることなら何でもするわよ。遠慮しないで言ってみて」

 

〈婆ちゃん〉「でもねぇ……」

 

〈爺ちゃん〉「ええじゃあないか。聞くだけ聞いてみようや。……あのな雪蓮ちゃん。実は、じじもばばもええ年だし、記念に絵姿でも描いてもらおうと思ってのう」

 

〈雪蓮〉「あら、素敵じゃない」

 

〈爺ちゃん〉「そうじゃろ? それでさっきまで、街で絵師さんを探しとったんじゃが……これがなかなか見つからんのじゃあ」

 

〈婆ちゃん〉「……雪蓮ちゃん、誰か心当たりあるかねぇ」

 

〈雪蓮〉「……ふむ。絵姿……絵姿、ねぇ……あら?」

 

 考えてた雪蓮がこっちに振り返り、オレと目が合った。

 

〈雪蓮〉「孝矢じゃない、ちょうど良かったわ。ね、ちょっとちょっと……」

 

 オレに気づくや否や、雪蓮は笑顔で手招きしてきた。気づかれたからにはしょうがねぇ。素直に雪蓮に近づいてく。

 

〈孝矢〉「何だ?」

 

〈雪蓮〉「来たばっかりの時、孝矢の持ってた小さな板に、一瞬で私たちの絵を描いたでしょ?」

 

〈孝矢〉「ああ、あの写メな」

 

〈雪蓮〉「あれでさ、おじいちゃんたちのことも前みたいにやってみてよ」

 

〈孝矢〉「あー……いや、悪りぃけど、あれバッテリー切れてもう動かねーんだわ」

 

 電波ねーとこだと電池食うからな。充電なんか出来やしねーし。

 

〈雪蓮〉「ばってりー?」

 

〈タイタス〉『あの機械を動作させるのに必要な動力が無くなってしまったのだ。ここでは補充できない』

 

 オレの説明の足りねぇとこを、タイタスがフォローするが、アテが外れた雪蓮はむくれた。

 

〈雪蓮〉「ぶー、ぶー」

 

〈孝矢〉「んな顔すんなよ……どっちにしろ、プリントできねーしな」

 

〈爺ちゃん〉「……のう、雪蓮ちゃん……? こちらは……」

 

 雪蓮をなだめてると、爺さんがオレのことを聞いてきた。

 

〈雪蓮〉「あっ、ごめんごめん! この子は私の仲間で、孝矢って言うの。よろしくね」

 

〈孝矢〉「新入りっす。よろしくお願いしやす」

 

 雪蓮に紹介されて、爺さんたちにペコリと頭を下げた。すると爺さんたちは、

 

〈爺ちゃん〉「……おう、おう。ほーかほーか……」

 

〈婆ちゃん〉「まあ、まあ……あの雪蓮ちゃんがねぇ……」

 

 ……何か、したり顔で笑ってんだが……何か勘違いされてね?

 

〈婆ちゃん〉「……わしの雪蓮ちゃんを任せるには、ちぃと言葉遣いがなっとらん気がせんでもないが……」

 

〈孝矢〉「んなッ!?」

 

〈婆ちゃん〉「まぁおじいさん! なかなかにたくましそうな青年じゃありませんか」

 

〈孝矢〉「いやその……」

 

〈雪蓮〉「あはははっ♪ 残念だけど、孝矢はそういうのじゃないのよ。本当に仲間の一人なの」

 

 何と言えばいいのか迷ってるオレの代わりに、雪蓮が笑いながら否定した。

 いや実際その通りだが……そうバッサリ言われたら言われたで、男としちゃちょいとショックな感じも……。

 

〈雪蓮〉「……今のところは、ね」

 

〈孝矢〉「ッ!!」

 

 つけ加えてウィンクしてくる雪蓮に、オレの肩が跳ね上がった。

 クッソ……今の反応、何か雪蓮の手の平の上みてぇで情けねーぜ……。

 

〈雪蓮〉「それより、おじいちゃん。絵姿のことなんだけど」

 

〈爺ちゃん〉「おお、何か思いついたかい?」

 

〈雪蓮〉「私の知ってる絵師を今度おじいちゃん家に行かせるから、その人に描いてもらえばいいわ。腕は確かよ」

 

〈爺ちゃん〉「そりゃあありがたいが……雪蓮ちゃんの知り合いとなると、その……街の絵師よりずっと高いんじゃないのかねぇ?」

 

〈雪蓮〉「お代のことなら心配しないで。私からおじいちゃんとおばあちゃんに、いつもお世話になってるお礼だよ」

 

〈婆ちゃん〉「でもねぇ、そういう訳には……」

 

〈雪蓮〉「じゃあさ。またいつもみたいにおばあちゃんとこ、ご飯食べに行くから、その時にはご馳走をいーっぱい作ってほしいな。だめ?」

 

〈婆ちゃん〉「そんなこと! わたしゃ雪蓮ちゃんが来てくれるなら、いつだって大歓迎ですよ」

 

〈雪蓮〉「じゃ、決まりね。また詳しく決まったら、知らせを送るから」

 

〈爺ちゃん〉「ありがとうなあ、雪蓮ちゃん」

 

〈婆ちゃん〉「ほんとにありがとう」

 

〈雪蓮〉「いいのよ。またね、おじいちゃん、おばあちゃん。気をつけて帰ってね」

 

 ペコペコと何度も頭下げて帰ってく爺さん婆さんに、雪蓮はその背中が見えなくなるまで手を振ってた。

 

 

 

 それから並んで城へと帰る道すがら、雪蓮に話しかける。

 

〈孝矢〉「けど驚いたな」

 

〈雪蓮〉「何が?」

 

〈孝矢〉「さっきの爺さんたちと、すっげー仲良かったじゃんか。どーいう知り合いなんだ?」

 

〈雪蓮〉「あら、そんなに不思議なことかしら?」

 

 聞き返されて、疑問に思う理由を答えるオレ。

 

〈孝矢〉「だって、城にゃあんま歳行ってる人っていねぇじゃんか。いつも話ししてんのは、同じぐれぇかちっと上ぐれぇの人ばっかで。だから珍しい感じしてよ」

 

〈タイタス〉『それに、城の者でもひと握りしか許されていない真名を、言っては悪いが市井の方に許しているというのも意外な話ではある』

 

〈雪蓮〉「だからこそ、ああしてお年寄りと積極的に接してるのよ。あの人たちは、私が知らないことをたくさん知ってる。話してるだけで、とても勉強になるの。それに、あの人たちがいたからこそ、今の私たちがあるんだから。敬うことが私たちに出来る最大の恩返しよ」

 

〈タイタス〉『おお……何と見上げた心持ちだ』

 

 確かに……。オレなんか、んなことなんか考えたこともなかったわ。

 

〈雪蓮〉「それに……誰しもいつ命を落とすか分からない世の中だからね。思いを受け継ぎ、それを伝えていきたいって、誰しも願ってることだよ」

 

〈孝矢〉「命を落とす……」

 

 ちょっと考えさせられる。だよな……ここってそういう世界なんだよな。死の危険が、オレの世界よりずっとずっと近くにあるんだ。その分、生きてる瞬間の価値がずっと高けぇんだろうな……。

 

〈雪蓮〉「そんな顔しないの。心配しなくても、もう少ししたらこんなことは身をもって感じることになるよ。……そんなことより、城に戻ったら絵師の手配、お願いね。詳しいことは冥琳に聞けば分かるから」

 

〈孝矢〉「へ?」

 

〈雪蓮〉「へ、じゃないよ。さっきのおじいちゃんとおばあちゃんの絵姿のこと。聞いてたよね?」

 

〈孝矢〉「そりゃあ聞いてたけどよ……それオレがやんのか!?」

 

〈雪蓮〉「うん。乗りかかった船でしょ。お願いね」

 

〈孝矢〉「全然乗りかかってなんかなかったはずだがな……」

 

〈雪蓮〉「何よー、嫌なのー? 暇そうだしいいじゃなーい」

 

〈孝矢〉「んな暇そうに見えんのか?」

 

〈タイタス〉『見えるな』

 

〈孝矢〉「タイタスにゃ聞いてねーよ!」

 

〈タイタス〉『しかし実際、急ぎの用事はないだろう』

 

〈孝矢〉「そーだけどよ……」

 

 タイタスと言い合ってると、雪蓮にクスクスと笑われちまった。恥ずかし。

 

〈雪蓮〉「なら、孝矢は一人で街に出てきて何してたの?」

 

〈孝矢〉「街そのものを見てたんだよ。早くここに慣れるためにな」

 

〈雪蓮〉「護衛もつけずに? 大丈夫なの?」

 

〈孝矢〉「それタイタスにも言われたけどよ……それでも一人で回りたかったんだよ。護衛とかと一緒じゃ、どーしても緊張しちまうからな」

 

〈雪蓮〉「何でまた」

 

〈孝矢〉「なるべく、ありのままにここがどんなとこか知りたかったんだ。これから守ってく街だし、何より……仮にも孫呉の仲間になったんだからな。誰かの目線からじゃなしに、オレ自身の目でどういう場所か確かめたい。……分かってくれるか? この気持ち」

 

 上手く説明できてるか不安で聞き返したら、思いの外、タイタスと雪蓮は感心してた。

 

〈タイタス〉『普段は思慮が浅いのに、こういうところは存外にしっかりしているな』

 

〈孝矢〉「ひと言余計だっつーの」

 

〈雪蓮〉「あはは。それじゃ、ここは楽しい?」

 

〈孝矢〉「そこはまだ何とも言えねーけど……いいとこだってのは、雪蓮のお陰で伝わったぜ」

 

 なんて言ったら、雪蓮が一瞬顔を背けた。

 

〈雪蓮〉「もう……初心のくせに、変なところで口が上手くならないでよ」

 

 何か言ったか? 早口で聞き取れなかった。

 

〈孝矢〉「それに、うだうだ考えてたってしょーがねぇや。楽しんでかねーと損だよな、実際!」

 

〈タイタス〉『全く、気楽なものだ。ここの生活は甘くないはずだぞ?』

 

〈孝矢〉「けど他にどうしようもねーだろ? 悩んでも変わらねーなら、悩むだけ無駄だ。前向きに生きてこうぜ」

 

〈雪蓮〉「ふふっ……やっぱり孝矢はいい男だ。私が見込んだ通り」

 

〈孝矢〉「お、分かるか? 元の世界の奴ら、そこが分からなくってよ」

 

〈雪蓮〉「……すぐ調子に乗るのは欠点だけどね」

 

〈孝矢〉「んな……」

 

〈タイタス〉『ははは。精進が足らんぞ、孝矢よ』

 

 笑われながらも、一緒に楽しく話しながら城に向かってくオレたち。

 だが……。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!

 

〈孝矢〉「うおッ!?」

 

〈雪蓮〉「きゃっ!?」

 

 いきなり鈍い音とともに地面が揺れたんで、オレたちは思わずよろめいた。

 

〈孝矢〉「何だ、地震か!?」

 

〈タイタス〉『いやッ!』

 

 オレの口から突いて出た言葉を、タイタスが否定した。

 

〈タイタス〉『この突発的な震動……私の経験的に、アレの予兆だ! 気をつけろ、二人ともッ!』

 

〈孝矢〉「アレ!? アレって何だよ!」

 

〈雪蓮〉「まさか……!」

 

〈タイタス〉『近い! 来るぞッ!』

 

 そしてすぐに、建物の向こうからどでかい二本の触手が空に向かって生えてきた!

 

〈孝矢〉「んな……!」

 

 同時にピューン、ピューンと鳴り響く電子音。……この世界で電子音!?

 更に触手がどんどんせり上がってって、その下から、全身がグネグネとした紫色の巨大生物が出てきた! うわ気色悪りぃ!

 地面の下から出てきた怪獣を見上げて、オレとタイタスが叫んだ。

 

〈孝矢〉「怪獣だ!!」

 

〈タイタス〉『電子怪獣コンビューゴン!!』

 




 
電子怪獣コンビューゴン

 ある種類の宇宙怪獣がコンピューターを呑み込んだことにより、同化して凶暴化した怪獣。コンピューターの処理能力により、直面した状況に対して迅速かつ正確な対処を行うことができ、正面には一切の隙がない。

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