〈穏〉「ではでは孝矢さん、タイタスさん、よ~く聞いて下さいね~」
〈孝矢〉「ういーっす」
〈タイタス〉『よろしくお願いします』
孫呉での生活も慣れてきた。漢の歴史や勢力図なども大体覚えた(タイタスが)ので、今日は穏と雷火さんから、孫呉の幹部がどんな仕事してんのかを教えてもらってる。
〈雷火〉「まずは軍事じゃが。戦に関することは、概ね冥琳が取り仕切っておる」
〈タイタス〉『概ねというのは、戦の用意や、献策などということでしょうか』
〈穏〉「はい。実際に戦場で、将軍として兵を率いるのは祭さん、粋怜さん、雪蓮さまのお役目です~」
〈雷火〉「他にも将はおるが、また時が来れば紹介する」
〈孝矢〉「穏は冥琳と同じ、軍師なんだよな?」
〈穏〉「ええ、そうですよぉ~。及ばずながら、冥琳さまのお手伝いをしています」
ふーん。ここまでオレが出会った呉のネームド(っていう言い方は失礼かもしれねぇが)は、孫堅、孫策、黄蓋、周瑜、程普、張昭、陸遜の七人。当然まだまだたくさんいるだろうが……他にはどんな名前の奴がいたっけ? 三国志って人多すぎて覚え切れねーんだよなぁ。他に覚えてんのは孫権や孫尚香ぐらい……。
〈穏〉「政に関しては、こちらの雷火さまが、全てを取り仕切っていらっしゃいます」
〈雷火〉「そうは申しても、冥琳の手は借りておるが」
〈タイタス〉『冥琳殿は内政もされているのか』
〈穏〉「はい。冥琳さまの知謀を軍事のみに向けられるのは、あまりにもったいないですから~♪」
〈孝矢〉「頼られてんだなー」
〈雷火〉「まだまだ若いがの。まあ、他の将に比べれば、冥琳もいくらかは政というものを分かっているようじゃが」
見た目一番若けぇのは雷火さんなんだがな……。マジ何歳なんだ。
〈穏〉「あ~、雷火さまったら。それじゃあわたしは、政を分かってないとおっしゃるのですかぁ?」
〈雷火〉「そうは言わぬが、胸を張るにはまだまだ足りておらんな」
〈穏〉「え~、結構頑張ってると思うんですけどぉ~」
〈雷火〉「頑張りだけではかどるのならば苦労はない。まだまだなものはまだまだじゃ」
〈穏〉「そんな~」
前の時も思ったが、雷火さんは厳しい人だな。オレの苦手なタイプだから、気をつけよ……。
〈タイタス〉『その口ぶり、穏も内政に携わっているのか?』
〈穏〉「はい~。それも冥琳さまのお手伝いが多いですね~。でも雷火さまがお忙しくて、そちらの手が回らない時は、そちらのお手伝いをすることもありますけど~」
〈雷火〉「余計な仕事が増えるだけじゃ。炎蓮様の嫌がらせじゃな」
〈穏〉「も~う、雷火さま!」
雷火さんも口悪りぃな。頑固一徹って感じだぜ。
にしても……。ふと穏に注目する。
〈穏〉「……?」
こんな、雰囲気も口調もぽわわ~んとしたのが、軍師とはね……。冥琳ならまだ分かるが、穏が戦場に立ってる様子なんか想像つかねーぞ。
〈穏〉「……うふふ。どうしました、孝矢さん?」
〈孝矢〉「あッ……」
やべ、気づかれた。ここで何か言わねーと変に思われるかもしれねぇな……。適当なことを聞いてみる。
〈孝矢〉「穏はさっきから手伝いばっか言ってっけど、やっぱいつかは一人前の軍師なりになりたいって思ってんのか?」
〈穏〉「え? ……ん~、どうでしょうね~?」
〈孝矢〉「違げーのか?」
〈穏〉「もちろん、目指すべきでしょうけど。そんな大役が、私なんかに務まるかはちょっと疑問ですね~」
〈雷火〉「ふむ。わしも穏には、もっと内政面で力を発揮してもらいたいの。ただ、人材の面から考えても、冥琳に代わって軍師を務められるのは、お主の他にあるまい」
〈穏〉「畏れ多いお言葉です~」
〈雷火〉「冥琳も、お主を離そうとせんしな」
〈穏〉「そうなんですよね~。だから今は、軍師としてのお役目を優先しないと~」
〈孝矢〉「何だ、頼られてんじゃねーか」
〈穏〉「非才の身ではありますが~」
〈雷火〉「代わりがおらんだけじゃ」
雷火さんの言葉がいちいちトゲがあるが、まぁともかく軍事のトップは冥琳、政治のトップは雷火さんで、穏は二人の助手ってとこだな。
〈穏〉「恐らく孝矢さんも~」
〈孝矢〉「ん?」
〈穏〉「うふふ~♪ 私と同じようなお役目をすることになると思いますよ~」
いきなり穏がグイッと近寄ってきた! ちょ……胸の谷間がどアップ!
〈孝矢〉「お、同じようなって……?」
〈穏〉「ですから、色々な方を下から、お支えするお役目です~」
ちょちょちょッ! 息が顔に掛かりそうなぐらい近いッ! 頭に血が昇って、話が入ってこねぇ!
〈穏〉「おや~? 孝矢さん、お顔が赤いですよ? どうされましたぁ?」
〈孝矢〉「な、な、何でもねぇよ……」
〈タイタス〉『穏、少し孝矢に近すぎる。もう少したしなみを持ってくれ』
〈雷火〉「タイタス殿の言う通りじゃ。人と話をする距離ではないぞ、穏」
虚勢を張るオレの代わりに、タイタスと雷火さんが穏を注意してくれた。
〈穏〉「え~? そうですかぁ」
〈雷火〉「そうじゃ。お主は遠慮するくらいでちょうど良い」
〈穏〉「そ~ですかねぇ~」
ちょいと唇をとがらせながらも、穏はオレから離れた。
はぁ、ビックリした……。この呉の国、色々と大胆な人が多すぎだぜ。
〈雷火〉「孝矢、改めて申すが」
〈孝矢〉「は、はい」
〈雷火〉「お主は天衝く怪物を退治できる貴重な存在、天の御遣いじゃ。炎蓮様のお命じになった役目もある故に、一兵卒のように戦場の最前線に放り込むようなことはない。かと言って、平時に漫然と城で過ごされては、兵たちへの風評がよろしくない。そもそも、左様な余裕もない。これは前に申したの?」
〈孝矢〉「ああ。オレも、ずっと暇持て余してるなんてのはカッコつかねぇって思ってる。けど、オレが穏みてーなことするって……」
〈穏〉「はい~♪」
また穏がぐっとオレとの距離を詰めてきた! だ、だから近けぇって!
〈孝矢〉「いやでもッ! オレが穏ぐれぇ役に立てるなんて思えねぇんだけど……!」
〈タイタス〉『確かに、それは明白だな』
〈孝矢〉「あッ! タイタス! そこはフォローするとこだろうがよッ!」
〈タイタス〉『甘えるな。客観的視点に基づいた、公正な評価だ』
ぐッ、そりゃ初めに言ったのはオレだけどよ……。こいつ、時々オレに厳しいな……。
〈穏〉「そんなに構えなくても大丈夫ですよ~? 孝矢さんのことは、私が優しく面倒を見て差し上げます~。……何でも言って下さいね? な・ん・で・も♪」
身体を揺する穏。その度に、巨乳がぽよぽよと音を立てそうに揺れる。
わ、わざとやってんじゃねぇのか、こりゃ……。何でもって言葉が、変な意味に聞こえてきやがる……。
〈雷火〉「孝矢、真面目に話を聞いておるのか?」
〈孝矢〉「き、聞いてるぜ」
〈雷火〉「何か分からぬことがあれば、今の内に尋ねよ」
〈穏〉「どんどん尋ねちゃって下さい~」
そ、そう言われても……意識が穏の方に向いちまって、考えが纏まらねぇぜ……。
〈穏〉「ふふ、孝矢さんったらぁ。またそんな目で私のことを見ちゃってぇ~」
〈孝矢〉「ななな、何のことだ?」
駄目だ、これじゃバレバレだ……。おもっきし声が上ずってるぜ……。
〈穏〉「や~ん、困りますぅ……お天道様がまだ高いのに、熱い眼差しを向けられてしまってもぉ~♪」
〈雷火〉「発情期の猫じゃな」
盛り上がる穏に、雷火さんは完全に呆れ顔だった。
タイタスは流石に見かねてか、口を挟んできた。
〈タイタス〉『穏、あまり孝矢をからかうのはやめてくれ。孝矢も、もう少し平常心を鍛えなさい。全く恥ずかしい』
〈孝矢〉「んな無茶な……」
〈穏〉「からかってなんかいませんよぉ~。だっていずれは、そういうご関係になる訳じゃないですか~♪ きゃ♪」
〈タイタス〉『むぅ……』
〈穏〉「でもぉ、やっぱり仲謀様たちのこともありますしぃ。順番は考えた方がいいんでしょうかねぇ~?」
〈雷火〉「わしは知らん」
〈穏〉「孝矢さんはどう思います~?」
〈孝矢〉「んなこと聞かれても……」
オレが炎蓮さんから言いつけられたのは、天の国の血を呉に入れること。まぁつまり……そういうことだ。
いつかは、ここにいる穏とも……うッ、意識したら余計興奮してきやがった……。
〈祭〉「おお?」
頭がクラクラしてきてたら、この場に祭さんが入ってきた。
〈孝矢〉「祭さん!」
ハッと我に返って穏から離れる。
〈祭〉「……全く。穏、いきなりか?」
〈穏〉「何のことですかぁ?」
〈祭〉「とぼけるな。孺子の真っ赤な顔を見れば分かる」
オレそんなに顔赤くなってる? やっべ恥ずい……。タイタスの言った通りになっちまってる。
〈雷火〉「ふん、最近の若い者は……」
〈祭〉「天の御遣い殿をあまり怖がらせるなよ?」
〈穏〉「怖がらせたりしてませんよ~。ねぇ、孝矢さん?」
いや、ある意味じゃ怖えぇけどな、穏の攻めっぷりは……。
〈祭〉「孝矢にも心の準備や、女子の好みというものがあるだろうからな」
〈雷火〉「その通りじゃ。そして穏、お主はもう少し、女子としての恥じらいを知れ。孝矢もタイタス殿も困っておる」
〈穏〉「知ってますよぉ。孝矢さんに見られて、さっきからもうずっと恥ずかしくて仕方ないです♪」
〈孝矢〉「み、見てねーし!」
〈穏〉「隠さなくてもいいのに~♪」
〈雷火〉「いい加減にせい!」
おかしい……。オレのやることを教えてもらってたはずが、何でこんなことになってんだ……? 穏、恐るべし……。
〈タイタス〉『そろそろ話を戻しても構わんかね?』
〈穏〉「どぞどぞ♪」
〈タイタス〉『結局、孝矢はまず何から始めれば良いのだ?』
〈穏〉「はい~。皆さんのことと、皆さんのしていることを知るのが大事でしょうね~」
〈雷火〉「ふむ、まずは人を知ることじゃな。我らの働きを見ておれば、自ずとやるべきことも見出せるじゃろう」
〈祭〉「まあ、肩の力を抜けということじゃ」
どうにか話が纏まった。具体的に何するかはまだ分かんねぇけど、ともかく始まったばっかだ。まずは、早くこの国の一員になるとこから始めるぜ。
〈穏〉「これからもよろしくお願いしますね~♪」
〈孝矢〉「ああ。よろしく」
てな訳で、オレは改めて孫呉に迎え入れられた。