奥特曼†夢想 ‐光の三雄伝‐   作:焼き鮭

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これが天の国だ!!

 

〈雪蓮〉「孝矢! やっと来たー」

 

〈孝矢〉「悪りぃ悪りぃ。待ったか?」

 

〈雪蓮〉「少しねー。こっちこそ、急に呼び立ててごめんね」

 

〈孝矢〉「いいんだけどよ。用って何だ?」

 

 今日、オレは急に雪蓮に呼ばれて、部屋にやって来た。雪蓮の隣には冥琳がいる。

 

〈冥琳〉「ああ……実は南出とタイタス殿に少し尋ねたいことがあってな」

 

〈孝矢〉「オレたちにか?」

 

〈冥琳〉「そうだが……何だ? その意外そうな顔は」

 

〈孝矢〉「だってよ……タイタスならともかく、オレに聞きたいことって何だ? あんま難しい相談されても、答えれる自信ねーぞ」

 

〈冥琳〉「そう肩肘を張るな。少し、天の国のことを尋ねたいだけだ。答えられる範囲で答えてくれれば、それで良い」

 

 なるほどね。そりゃあオレに聞かなきゃダメだわ。

 

〈孝矢〉「じゃ、どんなこと言やいいんだ?」

 

〈冥琳〉「基本的なことだ。……天において、お前たちはどのように日々を過ごしていたのだ?」

 

〈孝矢〉「どうって……」

 

 うーわ、簡単なようで一番難しいタイプの質問来たわ。

 

〈冥琳〉「天の世界にも、お前たちの他に大勢の人間が住んでいるのだろう?」

 

〈孝矢〉「そりゃそうだ」

 

〈冥琳〉「ならばここと多少の差異はあれ、人は権力者と民衆に分かれ、社会を構成しているのだろう」

 

〈孝矢〉「ああ、そうだな」

 

〈冥琳〉「では、お前たちはその世界で、どういった暮らしを送っていたのだ?」

 

〈孝矢〉「んー……そーだなぁ……」

 

 何て答えるべきか。自分がどう生きてるか、なんて考えたことすらねーし。

 

〈孝矢〉「普通に暮らしてた、なんて答えじゃ当然ダメだよな?」

 

〈冥琳〉「ふむ。そもそも天の世界でいうところの『普通』が、私や雪蓮にはよく分からん」

 

〈孝矢〉「けどその『普通』を、どう説明すりゃいいもんか……」

 

〈タイタス〉『孝矢』

 

 頭ひねってると、タイタスがここで初めて声を出した。

 

〈タイタス〉『足りない部分は、私が補足しよう。君は考えつく限りのことを、二人に話してくれていい』

 

〈孝矢〉「おおそっか。ありがとな」

 

 タイタスは頼りになる。こういう時、いてくれて良かったと思うぜ。

 

〈孝矢〉「じゃあ話すけど、オレはな、天の国じゃ学校通ってたんだよ。学生だった訳だ」

 

〈雪蓮〉「そう言えば、前にそう話していたわね。ということは、孝矢は貴族か大商人の子だったのね。その顔で」

 

 ひと言余計だッ!

 

〈孝矢〉「いやいや、オレぁ庶民も庶民、一般庶民だよ」

 

〈雪蓮〉「え? 庶民が働かないで、どうやって日々の糧を手に入れていたの?」

 

〈冥琳〉「勝手に湧いて出ていた訳でもなかろう」

 

〈孝矢〉「いやぁ、まぁ、色々あって、金やメシの問題は大丈夫だったんだよ」

 

〈冥琳〉「まさか、良からぬことに手を染めていたのでは……」

 

〈孝矢〉「そーいうことじゃねーって!」

 

〈タイタス〉『孝矢の国では、この漢の国とは比較にならぬほど食料生産と供給の仕組みが発達していて、大人が働くだけで十分食事にありつけるのだ。故に孝矢ほどの年代ならば、働くより勉学に務める方が普通なのだ』

 

 宣言通り、タイタスが助け舟を出してくれる。説明のし方も、オレよりずっとキチッとしてるぜ。しっかし、こいつマジで地球のことに詳しいな。元々いたんだっけ?

 

〈タイタス〉『十五歳までは、学問を収めることが国民の義務として定められている。ほとんどは二十前後まで勉強を続けるがな。その勉強を行う機関の名を、一般的には学校と呼ぶ』

 

〈冥琳〉「その、がっこう、という機関に掛かる費用は誰が出している?」

 

〈孝矢〉「基本的にゃタダだな。国が出してんだ」

 

〈冥琳〉「何と……どれだけ豊かであれば、そのようなことが可能になるのか……」

 

 かなり驚いてる冥琳。オレも、この昔の時代の様子を見てから、元の世界の生活がどんだけ恵まれたもんだったかってのを実感してる。時代の移り変わりって偉大なんだなー。

 

〈冥琳〉「そしてその学校で学んだことを、国のために役立てさせるという訳だな」

 

〈孝矢〉「まぁ、そーいうことだな」

 

〈雪蓮〉「……孝矢の暮らしは分かったわ。それじゃ、タイタスはどうしてたの?」

 

 質問の矛先がタイタスに向いた。

 

〈雪蓮〉「ウルトラマンの大人と子供の区別は知らないけど、その雰囲気と口ぶりで子供ってことはないでしょうし、タイタスは仕事をしていたのよね?」

 

〈タイタス〉『うむ。私はU40の戦士。主に、自国の外の世界で、怪獣や侵略者などの無法者と戦い、世界の平和と均衡を維持する役職に就いていた』

 

〈冥琳〉「ほう……つまり、遠征のようなものをしていたのか」

 

〈タイタス〉『もっとも、他国の内政に干渉することは基本的にない。他国から見返りを求めることもなかった』

 

 って説明に、雪蓮たちは大分驚いた。

 

〈雪蓮〉「ええ? 見返りを得ないのなら、何のためにそんなことをするの?」

 

〈タイタス〉『そこを説明するには、U40の歴史や我らウルトラ人の精神性などにも深く切り込む必要があるのだが……簡単に言えば、私の国は孝矢の国よりも豊かで、不足しているものがない。だから別の国から何かを取り上げる必要はない。同時に、この持てる力を発揮する機会が自国の中にはないから、外の世界の人たちの役に立てる道を選択したのだ』

 

 まんまヒーローだなぁ。雪蓮と冥琳も、はぁ~とため息吐いて感心してる。

 

〈冥琳〉「高潔すぎるな。そこまで行くと、豊かどうこうという話をも超えている」

 

〈雪蓮〉「そうね。まさに御仏そのものの心根だわ」

 

 オレたちの暮らしの説明が済むと、冥琳はオレの(正確にはタイタスだけど)話した学校に強い興味を持った。

 

〈冥琳〉「学校か……。費用の問題、それに生産力や兵の質が、若者の手が無くとも維持できるのであれば、かなり効率的だな。如何に天の国といえど、その学校を実現させられているというのなら、こちらとてやってやれなくはないだろう。上手くゆけば、統治や軍略の質を高められる。我が呉においても試みてみたいところだ」

 

 そう話して、雪蓮の方を向く。

 

〈冥琳〉「雪蓮はどう思う? 雷火殿辺りなら賛同してくれると思うのだが……」

 

 大分鼻息の荒い冥琳だが……雪蓮は、何か難しい顔してうなってた。

 

〈雪蓮〉「……うーん……」

 

 すげぇ考え込んでんだけど……。

 

〈冥琳〉「どうした? 雪蓮は反対なのか?」

 

〈雪蓮〉「うん……学問好きの冥琳なら、そう考えるのは分かるわ。けど、私の立場から言わせてもらうと、その案にはとても賛成できないわね」

 

〈冥琳〉「それは一体何故だ?」

 

〈雪蓮〉「当たり前でしょう? 支配する側の人間が、庶民に学を与えたいと思う? 学があれば、頭が回る。頭が回れば、良からぬことを考える輩も増えるわ」

 

〈冥琳〉「ふーむ……」

 

〈雪蓮〉「由らしむべし、知らしむべからず。……そうじゃない?」

 

〈孝矢〉「……どーいう意味だ?」

 

〈タイタス〉『人を従わせることは出来るが、その道理を理解させることは困難である、という意味だ。もっともここでは、民はただ施政者に従順であれば良いという意味合いだな』

 

 どういうことだ……? 民に優しい雪蓮とは思えねぇ発言だぜ……。

 

〈冥琳〉「雪蓮の言うことも一理ある。しかし、政を行う上で、人材は不可欠だぞ? 学校を取り入れれば、我々の思うように人材を育成することも出来る」

 

〈雪蓮〉「かもしれない。けどね、本当に有為の人材なら、放っておいても頭角を現すものよ」

 

〈冥琳〉「しかし、だな……」

 

〈孝矢〉「あー……ちょっといいか?」

 

 額をこすり合うように討論する二人の間に、割って入る。

 

〈雪蓮〉「ん? 孝矢も何か言いたいことがあるの?」

 

〈孝矢〉「まぁ、言い出しっぺだしな。オレは冥琳の言い分に賛成するぜ。この国の民は、読み書きが出来ねー奴も多いんだろ? それだけでも出来るようになりゃ、きっと国も発展するぜ」

 

 オレとしちゃあ珍しく、頭使って意見を出す。冥琳も肩を持ってくれる。

 

〈冥琳〉「雪蓮。実際、天はそうやって発展しているのではないか?」

 

〈雪蓮〉「そうね。発展はするかもしれない。孫呉の支配を盤石にするためなら、学校は大歓迎よ。けど、私は決してそうならないと思うわ」

 

〈冥琳〉「ふむ……なるほど、な」

 

〈孝矢〉「え? どういうこと?」

 

 冥琳はそれだけで分かったみてぇだが、オレには雪蓮の言いたいことが分かんねぇ。すると雪蓮が細かく説明する。

 

〈雪蓮〉「さっきの繰り返しになるけど……孫呉に尽くす以外の目的で、庶民に学を身につけられたら困るのよ」

 

〈孝矢〉「え?」

 

〈雪蓮〉「この国の全ての人民が、孫家に忠誠を尽くしている訳ではないわ。母様たちに不満を抱いている人間が、余計な知恵を身に着けたらどうなるの? これまで不満のなかった庶民も、知恵をつけたせいで、政の裏にも目を向けるかもしれない」

 

〈孝矢〉「つまり、反逆するかもしれねぇってことか……。けど、それでもみんなの色んな意見がありゃ、見えなかったもんが見えてくるもんじゃねぇか? 天の世界じゃそうだったぜ?」

 

〈雪蓮〉「あのね、孝矢。私たちはタイタスとは違って、善意で国を治めている訳じゃないわ。欲望があるからこそ、庶民から税を集め、兵を養い、戦をするのよ。それは支配者の特権なの。その特権を危機に晒すことに、一体何の意味があるの?」

 

〈孝矢〉「それは……」

 

〈雪蓮〉「民を守ってやっているのだという虚構こそ、支配者を支配者たらしめるものよ。その支えを自ら無くすような所業は、悪いけど賛成できないわね」

 

〈孝矢〉「……理屈は分かったけどよ……それだと、平等じゃねぇじゃんか」

 

 誰にも出世するチャンスを与えねぇなんて……と、思ったが、雪蓮からは一蹴された。

 

〈雪蓮〉「平等? 何それ。そんなもの、人生の中にある訳ないじゃない。あるとするなら、それは平等であるべきだっていう観念だけよ。……腐り切った観念だけ」

 

 雪蓮の言うこと、分かんないでもねぇけど……。それでも納得できねぇでいたら、

 

〈タイタス〉『雪蓮の言うことにも、一理ある』

 

〈孝矢〉「タイタス?」

 

 意外にも、支配者の特権とかを一番否定しそうなタイタスがそう言った。

 

〈タイタス〉『力や知恵を与えられた者が、誰しもそれを正しいことに用いるとは限らない。U40の歴史においても、過去にはウルトラマンの神秘の力を、我欲に用いようと目論んだ一団がいた』

 

〈孝矢〉「そ、そうなのか?」

 

〈タイタス〉『彼らは暴走し、U40に反乱を起こして、弱者を踏みつける独裁国家を打ち立てんとした。その内乱で、U40はあわや滅亡の危機に陥ったのだ……。このようなことが、我々から見れば政情が恐ろしく不安定なこの世界では、ずっと容易に起こりかねない。――孝矢、学問は確かに有意義ではあるが、どんなものにも正と同じだけの負の側面があるものなのだよ』

 

 ウルトラマンの国でも、そんな歴史があんのか……。雪蓮の意見も、タイタスの意見も、オレよりずっと現実を知ってるだけあって、説得力がある……。

 

〈タイタス〉『そもそも、文明とはその国の人間がその手で積み上げていくものだ。別のところから一足飛びに発展させようとしたら、必ずどこかに歪みが生じるはずだ。国をねじ切ってしまうほどの歪みがな』

 

〈孝矢〉「……」

 

〈冥琳〉「世は平等ではなく、人もまた平等ではない……か」

 

〈孝矢〉「冥琳?」

 

〈冥琳〉「南出の世界と私たちの世界、そしてタイタス殿の世界。これらが既に平等ではないことが、今までの話からも分かるな」

 

〈孝矢〉「……」

 

〈冥琳〉「誤解するな。別に、だから分かり合えないなどと言っているのではない。むしろ逆だ。人が集まれば、どんな世界だろうと根本は同じだろう。どんな世でも、そこは有象無象の人間たちが、それぞれの利を守るために動く、混沌とした世界だということだろう。……違うか、雪蓮?」

 

〈雪蓮〉「要は、隙を見せれば足下をすくわれる。……ただ、それだけのことよ」

 

 ……オレは、自分の考えの甘さを全員から突きつけられたような気がして、すっかり恥ずかしくなってた。

 三人とも、しっかりと現実を見た上で話してる。一方でオレは、こうだったらいいのになー程度の理想でしか物を言ってなかった。考えのレベルが、段違いだ……。

 そもそも最初だって、タイタスもメリットを挙げて炎蓮さんと交渉して、オレの保護の約束を取りつけたんだった。それって、理想で人を動かすことは出来ねぇって理解してたからだ。……相手の『利』を示さねぇと、相手を納得させることは出来ねぇって、当たり前っちゃあ当たり前のことを、こんなとこで思い知らされるとはな……。

 

〈雪蓮〉「あ……でも、誤解しないでね? 孝矢のことを否定したい訳じゃないの」

 

〈孝矢〉「え?」

 

〈雪蓮〉「あくまで、今の孫呉には困難だからというだけ。孝矢が自分の考えを、まっすぐに告げてくれたことは嬉しく思うわ!」

 

〈タイタス〉『うむ。己の意見を表明することは、何も間違いではない。互いに意見を交わし合い、相手を知る。とても有意義な時間だった』

 

 あッ……考えてる内に落ち込んでたから、気を遣わせちまったのか。何やってんだ、オレは。

 

〈雪蓮〉「これから勢力を拡大して、ゆくゆくは大陸に覇を唱える。それをあなたたちと一緒に出来たら、とっても面白いでしょ? だから……私たちが、孝矢のことを利用価値でしか見てない訳では決してないことは、分かってね? ね?」

 

〈孝矢〉「ああ……。こっちだって、雪蓮たちのことがもっと深く知れて、むしろ嬉しいぜ」

 

 これは本当の気持ちだ。みんなと、今までよりももっと深いとこで分かり合えたって、この短い時間でそう思えたからな。

 

〈雪蓮〉「まぁ……別に喜ばそうと思って言った訳じゃないけど。誤解されたら嫌だからね」

 

〈冥琳〉「何を照れているのだか」

 

〈雪蓮〉「冥琳っ! だ、誰が照れてるって……っ!」

 

〈冥琳〉「ふっ、今更すごまれてもな。感情的な部分では、どうしても、南出に嫌われたくないのだろう?」

 

〈雪蓮〉「ちょっと、そんなんじゃないって言ってるでしょー!」

 

〈孝矢〉「なーんだ、そーいうことかぁハハハ」

 

〈雪蓮〉「孝矢も調子に乗らない! もう……真面目な話をしてたのに、何ですぐに茶化すのよ?」

 

〈冥琳〉「茶化してなどいないさ。なぁ、南出」

 

〈孝矢〉「おう。雪蓮ってかわいいなー。そんだけだよ」

 

〈雪蓮〉「孝矢っ!!」

 

〈タイタス〉『雪蓮。ムキになると、ドツボに嵌まるだけだぞ』

 

 怒る雪蓮だったが、やがて四人でおかしく笑い合ってた。

 雪蓮たちの言ったこと、一見すると冷淡で酷薄に思えるけど、オレと真剣に向き合ってくれてるから、飾らねぇ言葉で返してくれてるんだ。この裏表のない、厳しいけど優しい態度こそが、呉の女の姿なんだ。

 


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