奥特曼†夢想 ‐光の三雄伝‐   作:焼き鮭

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はたらく粋怜!!

 

〈粋怜〉「あら。おはよう、孝矢くん、タイタス殿」

 

〈孝矢〉「ああ、おはよう粋怜……」

 

〈タイタス〉『おはようございます』

 

 朝、廊下を歩いてたら粋怜とばったり出会った。

 

〈孝矢〉「……」

 

〈粋怜〉「あら? どうしたの、孝矢くん? 朝から変な顔して」

 

〈孝矢〉「『くん』なんてつけんの、やめてくれよ。何かこそばゆいぜ」

 

 オレのことをそんな風に呼ぶ奴なんかいなかったし。

 

〈粋怜〉「あら、いいじゃない。孝矢くんは孝矢くんよ」

 

〈孝矢〉「え、いや……」

 

〈粋怜〉「分かったら、お返事は?」

 

〈孝矢〉「……ああ」

 

 妙な圧力で、押し切られちまった。

 うーん……どうも粋怜相手はやりにくい。いつも飄々としてて、オレのことを軽く手玉に取ってきやがるんだ。そのせいでオレのペースは崩されがちだ。オレとそう歳、離れてねぇはずなのに。

 ……離れてねぇよな? 雷火さんを始め、この国にゃ外見で年齢が判別つけらんねー人が多すぎだぜ。

 

〈粋怜〉「ふふふ……緊張してるね?」

 

 困惑してるオレの心を見透かしたように、粋怜が言い当ててきた。

 

〈粋怜〉「炎蓮様はああいうお方だから、孝矢くんがここでの暮らしに委縮するのも分かるわ。でも、私はキミを大切なお客さんだと思ってる。だから肩の力を抜いて? ね? どんなことだって、私が相談に乗ってあげるわよ♪」

 

〈孝矢〉「あ、ああ、ありがとう……」

 

 今緊張してんのは、粋怜のせいなんだがな……。

 しっかし、いつも思うが、呉の将たちの服装ってすげぇな。胸の谷間を見せつけまくり! 一体何の効果を期待して、こんなカッコしてんだ? って感じだ。この粋怜だって……。

 

〈粋怜〉「……ねぇ孝矢くん、どこ見てるの?」

 

 はッ!? しまった、視線に気づかれたッ!

 

〈粋怜〉「ねぇ、どこを見てたの?」

 

〈孝矢〉「ど、どどどど、どこも見てねーよ」

 

 ああッ、また何て分かりやすい反応を……! 完璧どもってんじゃねーか……!

 

〈粋怜〉「若い男の子だもの。興味があるのは分かるけれど、相手に気づかれるのはどうかと思うわよ?」

 

 くぅッ、恥ずい……! 穴があったら入っちまいてぇぜ……。

 

〈粋怜〉「……ふふっ。今日はこれからどうするつもり?」

 

〈孝矢〉「あー、いや、実は予定決まってねーんだ。ちょうど今、どーしようか考えてたとこだったんだが」

 

〈粋怜〉「そう。じゃあ、私のお役目でも見学する?」

 

〈孝矢〉「ん、いいのか?」

 

 オレはまだ呉に来てから日が浅せぇから、知らねーことはまだまだある。粋怜が働いてるとこだって、まだ一度も見てなかった。

 

〈粋怜〉「ええ。ちょうどこれから練兵なのよ。孝矢くんも見ておいて損はないと思うわ」

 

〈孝矢〉「分かった。よろしく頼む」

 

〈粋怜〉「それじゃあ、行こっか♪」

 

 クルリと背を向けて、オレの前を歩き出す粋怜。ここで、ちょっとタイタスに話しかける。

 

〈孝矢〉「どうしたんだよタイタス。さっきから、全然しゃべらねーじゃんか」

 

 そんなおしゃべりって奴でもねぇけど、大体ひと言ふた言はしゃべるはずだぜ。

 するとタイタスの返事は、

 

〈タイタス〉『うぅむ……彼女はどうも苦手だ。あの物腰……どうも調子が狂う』

 

 ……あんたもかよ。

 

 

 

 ともかく、オレたちは練兵場にやって来た。兵士たちは既に待機済みだ。

 

〈粋怜〉「気をつけ!」

 

〈兵士たち〉「「「ハッ!」」」

 

 粋怜はオレに向けてた雰囲気が一変して、広場の隅々まで響き渡る声で兵士たちを指導し始めた。

 

〈粋怜〉「皆、そろっているな。それではこれより朝の調練を始める! まずは素振りから! 構えっ!!」

 

〈兵士たち〉「「「ハーッ!!」」」

 

 おお……粋怜の号令で、兵士たちはまさに一糸乱れぬ動きで剣の素振りを開始した。まるで粋怜の手足みてぇだぜ。

 

〈孝矢〉「すっげー迫力……」

 

〈タイタス〉『うむ。よく鍛えられている』

 

 感想を漏らすオレたち。オレも試合の前は猛特訓とかしたもんだが、やっぱそんなんとは鍛え具合が全然違げぇって、ひと目だけで分かる。

 素振りも回数が重なってくると、流石に動きが乱れる兵士がチラホラ出てくる。

 

〈粋怜〉「八十八……そこの者、遅い!!」

 

〈兵士〉「ハァッ! 八十八ッ!」

 

〈粋怜〉「八十九! そこ、腰がフラついてる!」

 

〈兵士〉「八十九! 申し訳ございませんッ!」

 

 粋怜はよく監督してて、それを逐一叱責する。こっちも手慣れてる感じだぜ。

 

〈粋怜〉「九十九!」

 

〈兵士たち〉「「「九十九!!」」」

 

〈粋怜〉「百!」

 

〈兵士たち〉「「「百!!」」」

 

〈粋怜〉「よし、休め!」

 

 素振りを百回も……。オレもバットの素振りを毎日してたが、百はきつい。それを真剣でだぜ?

 

〈粋怜〉「次! 槍持て!」

 

〈兵士たち〉「「「ハーッ!!」」」

 

 しかも休憩はすぐに終わって、次の訓練が始まってく。

 呉の調練はすさまじい……。やっぱ、部活のトレーニングなんかとは次元が違げぇぜ。何十人もの兵士がいるのに、それぞれの動きが完璧そろってる。これぞ軍隊って感じだ。

 何よりすげぇのは、兵士たちがどんだけの大声で返事をしても、どんだけの物音を立てても、粋怜の声が一番大きく聞こえるってことだ。

 

〈タイタス〉『昔を思い出す……。私も訓練兵の時は、厳しい鍛錬を毎日こなしたものだ』

 

 タイタスもそんな感想をつぶやくほどだった。

 くぅぅぅ、オレも男だな……。こんなマジモンの軍隊の迫力を、直に見せられたら、胸の奥から熱いもんがこみ上げてくるぜ……!

 

〈冥琳〉「南出」

 

 感動に震えてたら、冥琳と祭さん、雷火さんの三人がやって来た。祭さんはオレをからかってくる。

 

〈祭〉「ほほう、南出殿は練兵の視察でございますか?」

 

〈孝矢〉「大袈裟だな。粋怜に誘われて、見学してんだ」

 

〈雷火〉「うむ、感心じゃ」

 

 兵士たちに次々号令を飛ばす粋怜に目を送りながら、この三人に話しかける。

 

〈孝矢〉「粋怜ってすげーんだな。こんだけの兵士の一人一人に目ぇ向けながら、全体を統率し切ってる」

 

〈冥琳〉「ああ。粋怜殿の指揮には無駄というものがない。根性勝負な祭殿とは、実に対照的ですな?」

 

〈祭〉「何じゃ、儂は無駄ばかりか?」

 

〈冥琳〉「いえいえ、そういう祭殿と粋怜殿がおられるから、我が軍は均衡が取れ、兵が精強でいられるのですよ」

 

〈祭〉「うむうむ、その通りじゃ。まぁ儂もこの歳になって、粋怜の指揮からは未だに学ぶところが多い」

 

 確かに、粋怜の腕はすげぇ。あんな人が監督なら、チームは向かうところ敵なしだろうな。

 

〈孝矢〉「流石呉の宿将って訳だ」

 

〈雷火〉「仮にも祭と孫呉の両翼を務める将じゃからな。並大抵の将では、炎蓮様の脇を固めることは出来ん」

 

〈孝矢〉「なるほどなー」

 

〈粋怜〉「ふふ、惚れ直しちゃった?」

 

 いきなり後ろからそう呼びかけられたんで、思わず肩が跳ね上がった。

 

〈祭〉「何じゃ、もう休憩か?」

 

〈粋怜〉「孝矢くんが退屈してないか、心配になってね。どう?」

 

〈孝矢〉「全然。こーいうのは大好きだぜ」

 

〈粋怜〉「ふふ、それは良かった。どうせなら、孝矢くんも練兵に参加してみる?」

 

〈祭〉「応、お主も粋怜に鍛えてもらえ」

 

〈孝矢〉「えッ、いやー、それは流石に……」

 

〈タイタス〉『孝矢、何事も挑戦しないことには始まらないぞ。肉体を鍛えるのに必要なのは、意欲のみ! 私も身体を動かしたくなってきた』

 

 流石に渋ったが、タイタスが口を挟んできた。

 

〈孝矢〉「タイタスは暇さえありゃ筋トレしてんじゃねーか! 部屋にいる時ゃずっとフンフン言ってるし」

 

〈タイタス〉『肉体は動かさないと、すぐ鈍ってしまうからな』

 

〈粋怜〉「うふふ。タイタス殿もこう言っているし、やってみれば? 心配しなくても、お姉さんが手とか足とか、色んなところを取って……優しく教えてあげるから♪」

 

〈孝矢〉「ぶッ……!?」

 

 急に粋怜に色っぽく囁かれたんで、思わず噴き出しちまった。

 

〈粋怜〉「ふふふふふ……」

 

 く、くそぅ……この人、すぐにオレをからかってくるぜ……。

 

〈雷火〉「孺子めが。鼻の下を伸ばしおって」

 

〈タイタス〉『粋怜殿! 妙な言い方はよして下さい! 孝矢の教育に悪い』

 

〈冥琳〉「おからかいはほどほどにされた方が」

 

〈祭〉「応。散々良い女子を気取っておいて、後で南出をがっかりさせんようにな?」

 

〈粋怜〉「何のことかしら?」

 

 ん? どゆこと?

 

 

 

 それから時間が経って、練兵は日暮れまで続けられた。

 

〈粋怜〉「お疲れさま、孝矢くん、タイタス殿」

 

〈孝矢〉「いいや。オレたち、見てただけだしな」

 

〈タイタス〉『とても勉強になりました』

 

 一日の練兵が終わると、粋怜は大きく息を吐き出す。

 

〈粋怜〉「ん~~~~~~~、疲れたぁ~~~……。終わったら、いきなり眠くなっちゃったわ。でも、お酒は飲まないとねぇ……」

 

〈タイタス〉『疲労している身体に、飲酒は良くありませんよ』

 

〈粋怜〉「お酒は生き甲斐なのよ。あー、早くお酒飲んで、部屋でゴロゴロしたいなー♪」

 

〈孝矢〉「何か、一気に雰囲気変わるな」

 

 さっきまでの鬼教官っぷりが嘘のようだ。

 

〈粋怜〉「切り替えが早いとは、よく言われるわね。でも、私の格好良いところは、ちゃんと見ててくれた?」

 

〈孝矢〉「もち!」

 

〈粋怜〉「ふふ、ありがとう。カッコイイお姉さんは好き?」

 

〈孝矢〉「え……!?」

 

 ま、まーた答えるのが恥ずいこと、サラリと聞いてくる……。

 

〈孝矢〉「あー……今日はこのまま家に帰んのか?」

 

〈粋怜〉「ううん、私はお城に住んでいるから。部屋に戻るだけよ」

 

〈孝矢〉「あッ、そーなんだ」

 

〈タイタス〉『ご実家は遠いのですか?』

 

〈粋怜〉「ええ。幽州右北平郡の生まれよ。分かる?」

 

 いやー……正直、地名はまだ全然。

 

〈粋怜〉「ずっとずっと北の方よ。万里の長城の傍」

 

〈タイタス〉『北の生まれならば、どうして南の揚州に?』

 

〈粋怜〉「昔は役人だったからね。若い頃、揚州に派遣されて、そこで炎蓮様にお仕えすることになったの」

 

〈孝矢〉「へー。けど、自分の家は建業にねーのか?」

 

 大体の将は、建業の自分チから城に通ってるはずだ。

 

〈粋怜〉「屋敷なら、この建業にもあるのだけれど……」

 

〈タイタス〉『では、何故城にお住まいに?』

 

〈孝矢〉「何で屋敷に帰らねーんだ?」

 

〈粋怜〉「まぁ、ちょっと事情があってね♪」

 

 何だなんだ、気になるな……。けど、あんま詮索したらまずい話題かもな。

 

〈粋怜〉「二人も天の国では、自分の家に住んでいたの?」

 

〈孝矢〉「あー……まぁ、そんな感じ」

 

〈タイタス〉『私も、一応は。もっとも、遠出が多いので、今となってはほとんど帰りませんが』

 

〈粋怜〉「どんな家? 街はこの世界の街とは、大分違っているのかしら?」

 

〈孝矢〉「建物は全然違げーけど、街の感じはあんま変わんねーかな」

 

〈タイタス〉『利便性などを考慮すれば、どの世界でもある程度は、形は定まってきますよ』

 

〈粋怜〉「ふーん……まっ、いいわ。どうせ説明されても理解できそうにないし、私が天の国へ行くこともないでしょうしね」

 

〈孝矢〉「まーな」

 

 実際、他の世界に行くなんて機会、あるもんじゃねーだろ。タイタスとかは例外で。

 

〈粋怜〉「ここにいる二人を見た限り……私たちと何が違うの? って思うけど」

 

〈孝矢〉「だよな。タイタスだって、オレぁウルトラマンってもっと人間とは違げぇもんだって思ってたが、蓋開けてみりゃあこれだ」

 

〈タイタス〉『おい、その言い方は何だか引っ掛かるぞ』

 

〈孝矢〉「何だよ、間違っちゃいねぇだろ?」

 

 オレたちのやり取りに苦笑した粋怜だが、軽く肩を鳴らして踵を返した。

 

〈粋怜〉「じゃあ、私はもう行くわね」

 

〈孝矢〉「もう帰んのか」

 

〈粋怜〉「その前のお酒。祭でも誘って飲みに行くわ」

 

〈孝矢〉「マジで好きなんだなー」

 

〈粋怜〉「孝矢くんはちゃんと夕餉を食べなさいよ? それじゃあね」

 

〈孝矢〉「ああ。また明日……」

 

 と返そうとしたが、粋怜はさっさと行っちまった。

 クールって言うかドライって言うか、自分のペースに生きてる人だ。それに巻き込まれっぱなしのオレだが、いずれはもっとたくましくなりてぇもんだ。

 


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