奥特曼†夢想 ‐光の三雄伝‐   作:焼き鮭

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内政家の雷火!!

 

〈孝矢〉「あ~~~~~……かったりぃ……」

 

 部屋でオレは、大分長ーいため息を吐き出した。それを咎めてくるタイタス。

 

〈タイタス〉『何を腑抜けたことを言っている! 辛抱が足らんぞ!』

 

〈孝矢〉「けどよー……こう毎日勉強勉強じゃ、嫌になってくるぜ……。もうちっとお手柔らかにしてくんね?」

 

〈タイタス〉『甘ったれたことを言うな! 読み書きを覚えるのは、異なる文明を生きる上で最も重要なことなのだ。可能な限り学習しなければならん』

 

 オレがこんなにもうんざりしてんのは、ここ連日、漢の文字の勉強をタイタスから強要されてるからだ。けど、元々オレは勉強が好きじゃねぇ。ってか延々と机に向かい続けんのなんか、元の世界じゃテスト前でもねーとやらねぇ。だからすっかり参っちまってるって訳。

 

〈タイタス〉『私の見たところ、君は物覚えが良いとは言えない。だからその分、普通よりも努力をしなければならんのだ。いつまで経っても文字も読めないようでは、孫呉の皆から呆れられてしまうぞ!』

 

 出たー、根性論……。オレだって野球の試合じゃあ大体気合いでどうにかしてたもんだが、他人から強要されるとこんなにもウザってぇもんはねぇ。ったく、つき合ってらんねーぜ……。

 そう思って椅子から立ち上がる。

 

〈タイタス〉『おい、どこへ行くんだね!』

 

〈孝矢〉「ちっと外に散歩だよ。たまには気分転換も必要だろ? ずっとこんなことしてたら、息が詰まりそうだぜ」

 

〈タイタス〉『まだ全然進んでないというのに……!』

 

〈孝矢〉「いいじゃねーかよぉ、ちょっとぐれーよぉ」

 

 抗議するタイタスの声を無視して、オレは部屋の外に出てった。

 

 

 

 そんでアテもなく廊下をブラブラしてたら、後ろから声を掛けられた。

 

〈雷火〉「む、こんなところで何をしておるのじゃ?」

 

 雷火さんだ。……あんま会いたくねぇ人に出会っちまったなぁ……。

 

〈孝矢〉「いやー、ちょいとブラッと散歩を……」

 

 軽い調子で答えたら、

 

〈雷火〉「散歩じゃとぉ!?」

 

〈孝矢〉「うおッ!?」

 

 急にでけぇ声出されて、ビックリした。

 

〈雷火〉「常に人手の足らぬ孫呉にあって、何をのんきな……。良いか、お主は天の御遣いであって、タダ飯食らいではないのじゃぞ? 相応のお役目というものが求められておる。それを、真昼間からやることもなくその辺をフラフラ歩き回るなど……兵への示しがつかんぞ」

 

〈孝矢〉「すいません……」

 

 いきなり説教。だからこの人、苦手なんだよなぁ……。

 

〈タイタス〉『全くです。実は、先ほどまで孝矢に文字の勉強をさせていたのですが、それを嫌がりまして、逃げ出していたのです』

 

〈雷火〉「何とまぁ……情けない話じゃ。初めから思っておったが、かようにいい加減な男が天よりの遣いとは、一体どのような巡り合わせなのやら……。タイタス殿も苦労されますな」

 

〈タイタス〉『ええ、どうにも手を焼いています……』

 

 タイタスは反対に、雷火さんと気が合うみてぇだ。合うっつぅか、堅物アンド堅物だから、オレの居心地の悪さが倍になっちまうんだが……。

 

〈孝矢〉「けどよー……同じことばっかやらされてて、気が参っちまうんだよ。何か、別のことを挟んだ方が、気分転換にもなっていいんじゃね?」

 

〈タイタス〉『またそんな言い訳を……』

 

〈雷火〉「しかし、一理はある。同じ作業の繰り返しでは、確かに飽きが来るものじゃ」

 

 タイタスはオレの言い分に呆れるが、雷火さんは一応真面目に考えてくれる。

 

〈雷火〉「では、わしがお主のやることを与えようではないか。して、お主は天の国ではどのような職に就いておったのじゃ? わしとしても、天の国の職業事情には大変興味があるが」

 

〈孝矢〉「職っつーか……冥琳とかにゃ話したけど、学生だったんだよ」

 

〈雷火〉「ほう……文官を志しておったのか。その見掛けで」

 

 見掛けは余計だっての! みんな口をそろえて言いやがる!

 

〈雷火〉「しかし、ならば学問はむしろ得意なはずでは?」

 

〈孝矢〉「いやー……学生っつっても、天の国でも半ばやらされてたよーなもんだから……」

 

〈雷火〉「はぁ? 話がよく見えんぞ」

 

〈タイタス〉『天の国では、国の決まり事として子供は勉学を義務としているのです』

 

 タイタスが冥琳たちの時みてぇに、補足説明をする。

 

〈タイタス〉『本格的な労働は、おおよそ二十を超えた時分から行う人がほとんどですね』

 

〈雷火〉「学問が義務として定められておるとは……天の国とは、やはりこことは大きく異なる世界のようじゃな」

 

 えらく関心を示す雷火さん。昔って、子供でも働くのが普通だったんだよな。その視点からすりゃ、確かにこっちの事情は奇妙に見えるか。

 

〈雷火〉「まぁ、孝矢も全くの無学という風でもなかったから、どこかで学ぶ機会があったのだろうとは思っていたが……。しかし、二十を過ぎてから職に手を着けるようで、よく国が回るものですな」

 

〈タイタス〉『それだけ、国としての基盤がしっかりしているということです』

 

〈雷火〉「羨ましい話じゃ……。と、話を戻すが、孝矢のすべきことは、それでも文官の方が良いじゃろうな。兵役は荷が重かろう」

 

〈孝矢〉「けど、体力なら自信あるぜ?」

 

〈雷火〉「しかし、戦の経験はないと己で言っておったじゃろう」

 

〈孝矢〉「そうだけどよ……」

 

〈雷火〉「見せかけの肉体など、戦の役になど立たん。元より、お主程度の肉体を持つ者ならば掃いて捨てるほどおる。タイタス殿ほどと行かなくとも、今の倍程度は腕力がなければのう」

 

 元の世界じゃ強打者だったオレが標準レベルとか……戦国時代ってやべぇ。

 

〈雷火〉「もっとも、炎蓮様もおっしゃっていた通り、いずれは戦場に立つことになるから、体力はつけていた方が良い」

 

〈孝矢〉「……やっぱ、本気なのか……」

 

〈雷火〉「現実を知らぬ者に大事は語れぬ。恐らく炎蓮様も、戦力として計算している訳ではないじゃろうが……。それはさておき、お主はこの城の中では、文官を志すべきじゃ」

 

 結局、その方向で話が纏まった。って、これじゃ勉強から逃れられてねーんじゃ……?

 

〈雷火〉「いきなり仕事を与えては他の者からの角も立とう。まずは天の国の知識を、もう少し聞かせてくれるかの?」

 

〈孝矢〉「他に聞きたいことあんのか?」

 

〈雷火〉「うむ。あらゆる若人に学ぶ機会を与える余裕のある治世――大変興味深い。どのような統治法を敷いておったのじゃ?」

 

〈孝矢〉「えッ……統治法っつっても……」

 

〈雷火〉「何じゃ? まさか分からんのか? 税制や法律のことじゃぞ?」

 

〈孝矢〉「いや、その……天の国の法律ってすっげー多いからよ……何て説明すりゃいいか……」

 

〈雷火〉「はぁ!? それで学んだというのか!?」

 

 でっけぇ声を出す雷火さん。けど、しょーがねぇじゃんか! 弁護士じゃねぇんだしよ!

 

〈タイタス〉『雷火殿、これは無理からぬところもあります。天の国の法律や社会制度は、非常に多岐に亘りますので、天の国の人でもそれを正しく把握するには、専門職が必要となるほどなのです。とても一昼夜で語り尽くせるものではありません』

 

〈雷火〉「何と、それほどに複雑な制度を敷いておるとは……。しかし、せめて触り程度は教えて下さらんか?」

 

〈タイタス〉『分かりました。私でも全て知っている訳ではありませんが……。まずは、憲法というものがあって……』

 

〈雷火〉「……何と、そもそも君主が直接国を動かさんとは……」

 

 結局、タイタスが代わりに説明する。いっつもこんな感じだな。

 

〈タイタス〉『……おおまかなところは、こんなものですね。ここから更に、数え切れぬほどの法や制度に分岐していきます。私の国でも同じようなものです』

 

 ある程度の説明が済むと、雷火さんはほくほく顔になってた。

 

〈雷火〉「……これでほんの一部でしかないとは……天の国はわしの想像を優に超えるところじゃな……。しかし……」

 

 だが、オレにはジロッと呆れたような目を向けてくる。

 

〈雷火〉「タイタス殿と比べ、お主は真に物を知らんのう……」

 

〈孝矢〉「いやー、ハハハ……」

 

〈雷火〉「笑いごとではないわ。お主、それまでの生涯で一体何をやっておったのじゃ? 天の国の若人には、このような者しかおらんのか……」

 

〈タイタス〉『雷火殿。先ほど申した通り、天の国において学問は義務です。それが当たり前となると、人はありがたみを忘れてしまうものです……』

 

〈雷火〉「今の宮中のようなものか……。せっかく恵まれた世界に生まれ出でたというのに、何と嘆かわしいことか……」

 

〈タイタス〉『全くです……』

 

 ただ天の国の話ししてただけなのに、何でこんなお通夜ムードになるんだよ……。

 

〈孝矢〉「けど、まさか法律のことなんか聞かれるたぁな」

 

〈雷火〉「他にどんなことを聞くというのか?」

 

〈孝矢〉「そりゃあ、前に見せたスマホのこととかよ」

 

〈雷火〉「あのようなまじない道具のことを、わしが聞いても仕方がない。それよりも他国の法について学び、自国に活かす妙案を考える方が建設的じゃ!」

 

〈孝矢〉「内政って奴だな。それが大事なんか」

 

〈雷火〉「当たり前じゃ! 何を当たり前のことを抜かしておるか!」

 

 つっても、ゲームだと内政なんて、パラメータ高い奴を据えときゃそれで解決程度の扱いだ。けど、実際は色んな苦労して、よそと交渉して、国を支えてんだよな……。

 

〈孝矢〉「雷火さん……お疲れさんですッ!」

 

 それを知ったオレは、知らず知らずの内に雷火さんに頭を下げてた。

 

〈雷火〉「急に何じゃ、おかしな男よの……」

 

〈孝矢〉「けど、孫呉が戦えんのも、雷火さんたちの働きがあってこそなんだろ?」

 

〈雷火〉「当然じゃ。戦は兵站あってこそ。そして、兵站はただの兵士や食料、水ではない。民が生き血を流して生み出したものじゃ。民の血によってわしらは生かされておる。その民が血をひとたび流すのをやめれば、国はたちまち干からびるじゃろう」

 

〈孝矢〉「シビアだな」

 

〈雷火〉「しびあ……?」

 

〈タイタス〉『とても過酷な、という意味です』

 

〈雷火〉「天の国の言葉か……。ともかく、民の不満が大きくならぬよう、公平に加減した税収と、風紀を乱さず発揚を促す賞罰を用意する。治水や開墾も重要じゃな」

 

 やっぱ、やること盛りだくさんなんだな。

 

〈雷火〉「国の基本は民と内政にある。これでお主も理解したか? んん?」

 

〈孝矢〉「はーい、雷火先生」

 

 オレはすっかり生徒になってた。

 

〈雷火〉「気の抜けた返事をするな! 全く……。それで、肝心のお主の仕事じゃが……それ以前にお主、字が読めんそうじゃな」

 

〈孝矢〉「へぇ、お恥ずかしながら……」

 

〈タイタス〉『私もこの国の文字は覚えたてなので、上手く教えられていないかもしれません』

 

〈雷火〉「なるほど……。ならば、わしに時間がある時は、読み書きの指導をしてやろうではないか。指導役が二人いれば、この阿呆も早く字を覚えられるかもしれん」

 

〈孝矢〉「えッ、いいんですか!?」

 

〈タイタス〉『申し訳ありません。ご厚意、痛み入ります』

 

〈雷火〉「これも孫呉のためじゃ。雪蓮殿の夫が、読み書きの一つも出来んなどとなっては、一生の笑い者にされるじゃろうからの……。穏辺りにも協力してもらうとするか」

 

〈孝矢〉「そんなにしてもらって……ありがとうございます」

 

 脱帽するオレ。勉強は好きじゃねぇが、流石にこんなにお膳立てされて、嫌だなんてこと言えねぇぜ。

 

〈雷火〉「それと、炎蓮様がおっしゃっていた御遣いのお役目とは別の、何かやりたいことを見つけるが良い。やり甲斐のあるものを見つければ、人生にも張り合いが出てくるじゃろうて」

 

〈孝矢〉「オレのやりてぇこと……?」

 

〈雷火〉「さて、わしは冥琳に確認することがあるのでな、これで失礼するぞ。――気晴らしもたまには良いじゃろうが、あまりタイタス殿を困らせぬようにな」

 

〈タイタス〉『雷火殿、色々とありがとうございました』

 

 最後に注意をして、雷火さんがオレの前から去ってく。残されたオレの頭には、雷火さんの言葉が反響してた。

 

〈孝矢〉「オレのやり甲斐か……」

 

〈タイタス〉『何か、これというやりたいことは持っていないか』

 

〈孝矢〉「そいつは……」

 

 オレのやりてぇこと……オレだって何も、元の世界で無気力に生きてたんじゃねぇ。むしろ、かなり打ち込んでたことがある。それが野球だ。

 そーいや、ここに来てからずっと野球やってねぇな。まぁ当然だけどよ……けど久々にやりてぇな、野球。まぁ、無理な話なんだがな……。

 


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