奥特曼†夢想 ‐光の三雄伝‐   作:焼き鮭

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孝矢の初陣!!

 

〈孝矢〉「うおりゃあああああッ!」

 

 建業の城の庭で、粋怜に向かって振りかぶった剣を力の限り振り下ろす。が、

 

〈粋怜〉「……」

 

〈孝矢〉「うおッ!?」

 

 粋怜は少しも動じず、さっと身を引くだけでオレの一撃をかわした。勢い余った剣先は、地面に刺さって抜けなくなっちまう。

 

〈孝矢〉「やべッ!?」

 

〈タイタス〉『やると思った……』

 

 タイタスが嘆息してる。くそッ、こんな漫画みてぇなことを……。

 

〈孝矢〉「くっそ……!」

 

 力任せに引き抜こうとしたが、その時に首筋に白刃をピタッと当てられて、思わず固まった。

 

〈粋怜〉「駄目よ、孝矢くん。剣が抜けなくて焦るのは分かるけれど、相手から目を離しては、戦場では命取りよ?」

 

〈孝矢〉「は、はい……」

 

〈粋怜〉「ふふふ」

 

 冷や汗を垂らしながら、落ち着いて剣を抜いた。

 今日まで孫呉やここの人たちのことについて色々学んでたが、遂にオレ自身も戦いの修行を始めることになった。今は粋怜に剣の稽古をつけてもらってたんだが……正直、からっきしだ。

 オレの太刀筋について、粋怜が意見する。

 

〈粋怜〉「新兵なら持っているだけでも苦労するその剣を、初めてで軽々振り回せるのは大したものよ。体幹もしっかりしているし、踏み込みも良い。だけど……はっきり言って、剣筋は全然なってないわね。振りかぶりが大きすぎるし、力任せに振るうだけで無駄が多すぎる。今はよけたけれど、振り下ろす前にがら空きの胴を斬り捨てるくらいのことは楽に出来たわ」

 

〈孝矢〉「はい……」

 

〈粋怜〉「動くものを相手にするのも、初めてだったかしら?」

 

〈孝矢〉「そーいう訳でもねーけどさ……」

 

 稽古を始める前は、野球で散々ピッチャーが投げてくる速球を打ってたから、まぁ何とかなるだろってつもりだった。が、ある程度決まったコースしか飛んでこねぇし反撃もしねぇボールと違って、人間は自由自在に動き回るし、いくらでも反撃してくるんだ。

 大体、剣はバットとは全然違うんだって、持ってすぐに分かった。重心の位置事態が違うから、扱い方も全く変わってくる。こりゃあ勉強よりも厳しいかもな……。

 タイタスもオレに指摘してきた。

 

〈タイタス〉『剣は力だけで振り回すものではない。……というより、孝矢、きみの場合は剣よりも、棍棒のような鈍器を得物にした方がいいのではないだろうか』

 

〈孝矢〉「え? 棍棒?」

 

〈タイタス〉『天の国では、毎日バットを扱っていたのだろう? ならば、それに適した肉体に仕上がっているはずだ。今から剣を熟練しようとするより、己に向いた武器を選択した方がいいと思うぞ』

 

 タイタスのアドバイスを、粋怜も支持。

 

〈粋怜〉「確かに、孝矢くんの身のこなしの癖は、先端に重心がある武具に向いたものだわ。次は適当な棍棒を見繕って持ってくるから、それで訓練しましょうか」

 

〈孝矢〉「ありがとう! 頼んだぜ!」

 

 オレの武器が棍棒か……蛮族スタイルになりそうだが、バットを使うと考えたらそれもアリかもな!

 ってことをしてたら、オレたちの元に来た炎蓮さんが一番に叫んだ。

 

〈炎蓮〉「そこまでだ!! 訓練やめ!!」

 

〈粋怜〉「……炎蓮様?」

 

〈炎蓮〉「これより軍議を開く!」

 

〈粋怜〉「っ……はっ!」

 

 炎蓮さんのひと言で、粋怜の雰囲気が一瞬で軍人のものに変わった。

 

〈炎蓮〉「孝矢、貴様も出席しろっ!」

 

〈孝矢〉「は、はい!」

 

 何か緊急事態があったみてぇだ。

 

 

 

 オレたちが評定の間に着いた時には、他の重臣はもうそろってた。

 炎蓮さんはまだここにはいない。炎蓮さんが来るのが、会議の開始の合図だからだ。

 

〈孝矢〉「なぁ、冥琳」

 

 それまでの間に、冥琳に質問をする。

 

〈冥琳〉「どうした?」

 

〈孝矢〉「これからするのって軍議だよな? 素人のオレがいていいのか?」

 

〈冥琳〉「ああ。むしろ、積極的に意見してほしい」

 

〈孝矢〉「え……? いいのか?」

 

〈冥琳〉「そういう訳にもいかんのか? 別の国の戦への不干渉は、タイタス殿の掟なのだろう?」

 

〈孝矢〉「そうだけどよ……」

 

〈冥琳〉「そう尻込みするな。南出には天の御遣いとしての、我らにはない知恵があるだろう」

 

〈孝矢〉「知恵って……頭使うのは自信ねぇし、未来の重大事は話すなって炎蓮さんが……」

 

〈雪蓮〉「そうじゃなくって」

 

 悩んでたら、雪蓮が話に混じってきた。

 

〈雪蓮〉「別の世界で生まれ育った孝矢には、素人でも、いえ、素人だからこそ、私たちとはまた違う物の味方が出来るでしょ?」

 

〈冥琳〉「ああ。そういう点で気づいたことがあったら、何でも意見してくれと私は言っているのだ」

 

〈孝矢〉「そっか……分かったぜ」

 

 実際、このオレがどこまで力になれるかってのは不安だが、やれるだけやるだけだ。

 そして炎蓮さんが評定の間に姿を見せる。

 

〈炎蓮〉「よーし、そろったな!」

 

〈冥琳〉「はっ!」

 

〈炎蓮〉「それでは軍議を始める!」

 

 炎蓮さんが壇上の玉座に腰を落として宣言した。

 

〈炎蓮〉「既に聞いている者もおるやもしれんが、呉郡北部に賊の一団が侵入し、いくつかの村で略奪を働きおった!」

 

 その言葉に、場が一瞬ざわついた。

 賊が村を襲って、略奪……日本じゃ考えられねぇ事態だが、これがこの国の現実なんだ。ここが乱世だってことを、改めて感じ取る。

 

〈祭〉「炎蓮様。賊の数は如何ほどにございますか?」

 

〈炎蓮〉「ああ、冥琳」

 

〈冥琳〉「はっ、私がご説明致します。呉郡に入った賊は、初めは千人ほどでしたが、今や総勢五千に膨れ上がっているとのことです」

 

〈祭〉「五千か……!」

 

〈粋怜〉「結構な数ね」

 

 いやいや、賊が五千人て……! もう軍隊じゃねーかよ! 流石大陸、規模がでけぇ……。

 

〈雪蓮〉「千が五千って、どうしてそんなに増えたの?」

 

〈冥琳〉「どうやら初めの千の賊が襲撃の成功後、その力を喧伝し、主に徐州から他の賊を呼び寄せて吸収し、勢力の拡大を図っているようだ」

 

〈粋怜〉「徐州か……北は青州を中心に荒れていると聞くわね」

 

〈雷火〉「ふん……賊が一丁前に、軍の真似事か」

 

〈穏〉「でも、いくら同じ賊でも、余所の人たちを四千も吸収なんて、随分強気ですね~」

 

 首を傾げる穏。確かに……戦力を高めるためとはいえ、無闇に人を集めりゃいいってもんじゃあねぇってのは、オレでも分かる。折り合いとかあるしな。

 

〈冥琳〉「そのことだが……初めの賊が喧伝した力とは、並大抵のものではないらしい」

 

〈祭〉「どういうことじゃ?」

 

〈冥琳〉「詳細までは掴めていませんが……襲撃を受けた村は、山ほどに巨大な鍬でも振るわれたかのように、土地という土地が掘り返されたとか」

 

〈雪蓮〉「ええっ!?」

 

 あまりにもとんでもねぇ内容に、全員が驚愕した。

 

〈冥琳〉「幸い、ほとんどの民は南に逃れられたようですが、村はことごとく破壊し尽くされ、虫害を被ったようなありさまと聞いています。……この人外の力が背景にあるからこその暴挙と言えますね」

 

〈孝矢〉「……タイタス」

 

 胸元のタイタスに目を落とすと、タイタスも反応した。

 

〈タイタス〉『うむ。私の出番があるやもしれんな』

 

〈炎蓮〉「賊がどんな力を有していようとも、オレの庭を荒らしておいて黙っている訳にはいかん」

 

 炎蓮さんは、今の話を聞いても少しも恐れちゃいない。

 

〈雪蓮〉「ええ! 戦ね、母様!」

 

〈炎蓮〉「応! イナゴどもを一匹残らず踏み潰してくれるわ! 冥琳、直ちに出陣の準備を整えろっ!」

 

〈冥琳〉「はっ、承知しました!」

 

〈炎蓮〉「雷火、穏は留守居役だ!」

 

〈雷火〉「はっ」

 

〈穏〉「お任せ下さい~」

 

〈炎蓮〉「これ幸いと劉耀辺りが、この建業にちょっかいを出してくるかもしれん。警戒を怠るなよ?」

 

〈穏〉「はい。炎蓮様もお気をつけて」

 

〈雷火〉「賊相手の戦とはいえ、得体の知れない相手、くれぐれも油断なさらぬように。祭、粋怜、炎蓮様を頼んだぞ?」

 

〈粋怜〉「はっ!」

 

〈祭〉「応、心配無用じゃ」

 

 話がどんどん決まってくが、ここで炎蓮さんがこっちを見た。

 

〈炎蓮〉「あとは……おい孝矢、貴様も初陣だ!」

 

〈孝矢〉「ッ……!」

 

 遂に、この時が来たのか……! タイタスをアテにされて、ついてこいって言われてるのとは違う。このオレが、一人の人間として、戦に加われ。そういう意味での『初陣』だ……!

 

〈炎蓮〉「返事はどうした?」

 

〈孝矢〉「あ、ああ……!」

 

〈炎蓮〉「ふふっ、案ずるな。貴様は実際に敵と斬り結ぶ必要はない。まずは血の匂いを覚え、戦の空気を肌で感じることだな」

 

〈孝矢〉「分かった!」

 

 出来る限り力いっぱいに返事をしたが……流石のオレだって、不安でいっぱいだ。人と人の、生の殺し合いに立ち会え……そんなこと、日本にいた時は考えもしなかった。

 

〈雪蓮〉「……大丈夫よ」

 

 そんな気持ちが表に出てたんだろう。雪蓮がオレの肩に手を置いて、励ましてくれた。

 

〈雪蓮〉「母様も言ってる通り、孝矢は人と戦う必要はないわ。何かあった時は、私が守ってあげるから」

 

〈孝矢〉「あ、ありがとう……」

 

〈雪蓮〉「ただ、戦はどう動くか分からない。本陣を奇襲されて、私や母様が命を落とすことだってあるわ」

 

〈孝矢〉「……!」

 

〈雪蓮〉「そうなった時のことは覚悟しておいてね? これは脅してるんじゃないわよ?」

 

〈孝矢〉「……分かった」

 

 戦が起これば、人が死ぬ。それは、雪蓮たちだって例外じゃない――。そこんところは、頭だけじゃなく、実感として理解してなくちゃいけねぇんだろう。

 

〈雷火〉「雪蓮殿、出陣前に左様な不吉を口にされるべきではない」

 

〈雪蓮〉「もう、心構えを説いてるだけじゃないの」

 

〈雷火〉「それでもじゃ。本陣で当主が討ち死になど、万が一にもあってはならぬこと」

 

〈炎蓮〉「はっはっ! 婆が心配しているのは、もしもオレがくたばったら、ケツの青い娘らの面倒を全部、自分に押しつけられることであろう?」

 

〈雷火〉「よう分かっておられる。子守はごめんじゃ」

 

〈炎蓮〉「はっはっはっ!!」

 

〈孝矢〉「……」

 

 冗談めかしてるが、『死』についての部分はみんな本気だ。ここにいる誰もが、人が死ぬことを当たり前のことだと認識して生きてる。

 オレも『戦場』を体験してけば、こうなるんだろうか……。

 

 

 

 軍議が終わって解散してから、一人になったオレはタイタスに話しかけた。

 

〈孝矢〉「タイタス……オレが戦場に立つ時がやってきたけど……お前はどう思う?」

 

 タイタスは前に宣言した通り、軍議には一切口出ししなかった。しゃべったのは、賊が未知の力を使ってるって話の時のひと言きり。

 けど、それ以外のことに何の感情も抱いてねぇって訳じゃねぇだろう。

 

〈タイタス〉『……正直に言えば、私の心情的にはやはり反対だ。人の血の匂いに慣れる……そんな人間は、一人でもいるべきではない。特に、君はこの世界の人間ではない。争いの中で生きるべきではない……そう思う』

 

〈孝矢〉「タイタス……」

 

〈タイタス〉『しかし現実として、私につき合わせるからには、この世界のどこへ行こうとも避けては通れないことなのだろう。……君を元の世界に帰すことが出来たのなら、こんな暗い世界を見せずに済むのだが……私に力がなくて、申し訳ない』

 

 謝りまでするタイタスに、オレは明るく振る舞って返した。

 

〈孝矢〉「気にすんなよ! どうしようもねぇもんは、しょうがねぇ! だから前向きに考えてこうぜ! じゃなきゃ損だ!」

 

〈タイタス〉『孝矢……』

 

〈孝矢〉「これも立派な人生経験じゃねーか? ただの学生が、英雄と肩を並べるなんてよ、ウチのクラスのだーれも出来やしねーぜ! ハハ、オレ帰ったらみんなに自慢してやるんだ。こんなすげぇことがあったんだーってな」

 

〈タイタス〉『こら! 誰かに傷を負わせることを自慢だなどと、不謹慎極まりないぞ!』

 

〈孝矢〉「ハッハッハッ、悪りぃ」

 

 叱るタイタスに、思い切り笑うオレ。

 これでいい。重い気持ちになんのは、戦場だけで十分だろ。そうじゃねぇ時は、明日のことを考えようぜ。

 

 

 

 出陣の準備はすぐに終わって、孫軍はその日の内に建業を出発。数日後には、呉郡を襲ったって賊が占拠してる街の近くにまで到着した。

 向こうだって軍隊が来たって気づいてるはずだ。まずは陣を張って、偵察からの報告を待つ。

 

〈冥琳〉「申し上げます!」

 

〈炎蓮〉「応。敵の動きはどうか?」

 

〈冥琳〉「全軍が城塞に立てこもり、籠城戦の構えのようです」

 

〈炎蓮〉「他人の家を乗っ取り、おまけに籠城とはな」

 

〈冥琳〉「……実は炎蓮様。先日、徐州より賊を追ってきた官軍が、一戦交えたそうなのです」

 

〈炎蓮〉「んん?」

 

 冥琳が、まだ何もしてねーのに賊がいきなり籠城してる理由を話した。

 何でも、官軍が一万の兵力で先に賊を攻撃したが、あっさりやられて撤退。けどそのせいで賊が警戒しちまって、守りを固めちまったという。

 

〈祭〉「余計なことをしおって。その官軍に使者を送って、我らの後詰めは頼めんかの?」

 

〈粋怜〉「官軍なんて、いても邪魔になるだけじゃ?」

 

〈祭〉「だが、敵も籠城を選んだからには、増援のアテがあるのじゃろう? そうでなくとも、賊には未知の戦力があるのじゃ。城攻めをしている間に、背後を突かれるかもしれん」

 

〈冥琳〉「確かに……」

 

〈雪蓮〉「その戦力の正体って、何なのかしらね。孝矢、何か分からない?」

 

〈孝矢〉「んー……」

 

 みんなが話してる間、オレとタイタスは小高いとこから、賊が占拠してる街を観察してた。

 

〈孝矢〉「やっぱ怪獣かな……。けどパッと見、それらしいのは影も見当たんねーな」

 

 あの街に隠せるような場所があるようにゃ見えねぇ。でっけぇ怪獣ともなりゃ、棚に入れとく訳にはいかねーだろ。

 

〈タイタス〉『まだ何とも言えんな。怪獣は常識が通じないもの。正体の見当がつかない以上は、どんな可能性もあり得る』

 

〈炎蓮〉「ふん、たとえ何を隠しているとしても、出す前に城を落とせば済む話よ」

 

〈祭〉「されど炎蓮様……」

 

〈炎蓮〉「これは我らの戦ぞ! 賊に庭を荒らされ、挙句官軍を頼ったとなっては孫呉末代までの恥よっ!」

 

〈祭〉「は……はっ!」

 

〈雪蓮〉「も~う、血の気が多いんだから……」

 

〈冥琳〉「しかし、炎蓮様仰せの通り、ここは賊に対して、我が孫呉が如何なる力をも恐れぬことを見せつける必要があります」

 

〈炎蓮〉「ああ、二度と呉に手出しせんようにな」

 

〈冥琳〉「はっ、それに勝負は急がねばなりません。賊の支配を長く許せば、民にも動揺が広まり、呉郡における孫家の信頼も揺るぎかねません」

 

〈炎蓮〉「応。ただでさえ官軍がしゃしゃり出て、勝手に負けやがったんだ」

 

〈祭〉「されば、すぐにでも城攻めに取り掛かりますか?」

 

〈炎蓮〉「そうだな……おい孝矢、貴様は何か意見はないのか?」

 

〈孝矢〉「え……」

 

 軍議には参加してなかったが、炎蓮さんのひと言で振り返った。

 

〈炎蓮〉「くくっ、何もないのか? 天の御遣いとして、何かオレに助言をしてほしいんだが」

 

〈孝矢〉「えっと……」

 

 炎蓮さんは半分冗談のつもりみてぇだが……ここで何か言わねぇようじゃ、オレはマジで飾りみてぇなもんだ。どうにか知恵を絞る。

 

〈孝矢〉「……守りを固めてるのが問題なんだろ? なら、守りを解かせるってのは……」

 

〈炎蓮〉「ほほう、如何にして解かせる?」

 

〈孝矢〉「う~ん……まず敵を挑発して怒らせる。そんで逃げるふりして、城の外に出てきたとこを叩くとか……?」

 

〈冥琳〉「ほう……」

 

 何か冥琳が笑ってんだが……ありゃどういう笑いなんだろ。

 

〈炎蓮〉「ふふっ、思ったよりも良案を出したな。冥琳、どうだ?」

 

〈冥琳〉「悪くはありませんが……賊が挑発に乗らねば、無駄に時を失い、敵の援軍に挟撃される恐れもあります」

 

〈炎蓮〉「ならば却下だな。孝矢、惜しくはあったが、次の戦までにもう少し兵法を学んでおけ」

 

〈孝矢〉「す、すいません……」

 

〈雪蓮〉「もう、やめなさいよ。孝矢も謝ることなんてないわ。母様はからかってるだけなんだから」

 

 雪蓮が慰めてくれるが……いつかは、からかわれるだけの存在から抜け出さなきゃならねぇよな。

 

〈粋怜〉「正攻法で行きますか。兵糧攻めをしている余裕はないでしょうし」

 

〈炎蓮〉「ああ、とっとと終わらせるぞ」

 

〈雪蓮〉「でも、敵は五千で籠城している。私たちも五千……未知の戦力を勘定に入れれば、とても城攻めに必要な数には足りないわ」

 

〈粋怜〉「初めから敵が籠城するとは思わなかったものね」

 

〈祭〉「とは言え、所詮賊軍だ。指揮官の力量も知れておるだろうな。……兵を二手に分けるか?」

 

〈雪蓮〉「そうね。母様と私の本隊が正面から攻め立て、祭と粋怜は搦め手を攻撃する……」

 

〈冥琳〉「ふむ。この相手ならば、それで十分だろうな。二箇所を交互に攻め、敵の指揮を混乱させるか。頭が惑えば、どんな戦力も活用し切れん」

 

 流石戦いのプロの集団、ちゃっちゃっと作戦を組み立ててたのだが……。

 

〈炎蓮〉「……ったく、メンドクセェっ!!」

 

 炎蓮さんがいきなりどでかい声を出すんで、飛び上がりそうになった。

 

〈雪蓮〉「母様?」

 

〈炎蓮〉「さっきから聞いてりゃ、賊相手に何をグダグダ抜かしてやがる! 急がなきゃならんのなら、正面から一気に叩き潰してやるまでよ! 皆の者! 出陣だっ!!」

 

〈雪蓮〉「えええ!? でも、まだ作戦が……」

 

〈炎蓮〉「オレに続けぇえええっっ!!!」

 

 雪蓮の言うことを最後まで聞かずに、炎蓮さんが城壁を越えるためのでっけぇ梯子を抱えて馬で突撃してった。兵士たちは慌てて馬に飛び乗って続いてく。

 お、おいおい、大将自ら行っちまったぜ!?

 

〈雪蓮〉「ああああもう、母様ってば! 孝矢は絶対に私の傍から離れちゃ駄目よっ!?」

 

〈孝矢〉「あ、ああ!」

 

〈冥琳〉「祭殿は右翼! 粋怜殿は左翼をお願いします!」

 

〈祭〉「応!」

 

〈粋怜〉「承知!」

 

 炎蓮さんが行っちまったので、冥琳が代わりに全部隊に命令を飛ばす。

 

〈冥琳〉「全軍突撃せよ―――――っ!」

 

〈兵士たち〉「「「おおおおおおおおおッッ!!!」」」

 

 孫軍五千の兵士が一斉に、城塞に向かって殺到していった!

 


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