奥特曼†夢想 ‐光の三雄伝‐   作:焼き鮭

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雪蓮といっしょ!!

 

〈孝矢〉「……で、あの建物が書庫な。倉はどれも似てて間違いやすいから、よく覚えとけよ」

 

〈ピグ〉「ふむふむ。なるほど、なるほどなんだな」

 

 賊の討伐から建業に帰ってきて、オレは出先で仲間にした……つーか拾ったヘンテコロボット、ピグに城を案内してた。

 マジでこいつの面倒、オレに押しつけられちまったぜ……。自分一人の面倒を見るのも苦労してるってのに、こんなおかしな奴の世話もしなくちゃなんねぇとは……天から違う世界に落っこちるもんじゃねぇぜ、全く。

 内心嫌気が差しながら、ピグを連れて中庭を横切ってると、

 

「たーかや」

 

〈孝矢〉「ん?」

 

 いきなり、どっかから名前を呼ぶ声がした。

 

〈孝矢〉「どこだ?」

 

 キョロキョロ辺りを見回すが、見晴らしがいいとこなのに人の姿が見当たらねぇ。まさかピグか? いや、このオッサン声とは違げぇ、女の声だった。

 

〈タイタス〉『上だ』

 

〈孝矢〉「上?」

 

 タイタスが指示した方向に首を上げると、

 

〈雪蓮〉「はーい、たっかやー♪」

 

〈孝矢〉「雪蓮か」

 

 雪蓮が高い木に登って、太い枝の根元に座ってた。その手には、何と盃。

 あんなとこで酒盛りしてやがるぜ。度胸があるっていうか、何ていうか。

 

〈雪蓮〉「孝矢ってば、ピグを連れて何をしてるのー?」

 

〈孝矢〉「こいつに城を案内してんだよ。雪蓮こそ、昼間っから酒か?」

 

〈雪蓮〉「そうだよー♪ 仕事しろってうるさい冥琳を撒いてね。羨ましいでしょー?」

 

〈タイタス〉『全く、そんなことをして……。仕事を投げ出すのは感心せんぞ』

 

〈雪蓮〉「タイタスには聞いてないわよー。私だってたまには羽を伸ばさないと、息が詰まって死んじゃうわ」

 

〈孝矢〉「息詰まるほど仕事してんのか?」

 

〈雪蓮〉「あ、傷ついた。今のは深ーく傷ついた!」

 

 どの口が言うんだよ。ちっとも響いてねぇ顔してるってのに。

 

〈雪蓮〉「乙女を傷つけた罪は重いのよ? どうやって償ってもらおうかしら……くすくすっ」

 

〈孝矢〉「乙女だぁ~? どこにも見当たんねぇけど?」

 

 わざとらしくキョロキョロする。

 

〈雪蓮〉「あははっ、言うわねぇ」

 

〈孝矢〉「誰かさんたちのお陰でな」

 

〈雪蓮〉「ふふふふっ」

 

〈孝矢〉「なッはッはッ」

 

〈ピグ〉「二人とも、楽しそうなんだな」

 

 つぶやくピグ。まぁ雪蓮は酒入って、テンション高めだ。

 

〈孝矢〉「けどタイタスが言ったみてぇに、仕事はいいのかよ? 冥琳怒らせたら怖えぇだろ?」

 

〈雪蓮〉「冥琳なんか怖いことないわよ。せいぜい今頃、私の代わりに誠心誠意尽くしてお仕事してくれてるわ♪」

 

〈孝矢〉「ひっでぇ姫様だな」

 

〈タイタス〉『やれやれ……こんな奔放さが孫家の血なのか……』

 

 ため息を吐くタイタス。確かに、炎蓮さんも自由だよな。いや、そんなレベルじゃねーかあの人は。

 

〈雪蓮〉「それより孝矢もどう?」

 

 雪蓮がこっちに向かって盃を掲げてきた。

 

〈孝矢〉「いや、オレが酒ダメって知ってんだろ」

 

〈雪蓮〉「ぶー。つき合い悪いなぁ。それじゃあピグはどうかしら?」

 

〈ピグ〉「ピグも、お酒は飲めないんだな」

 

〈タイタス〉『ロボットだからな。食物や飲料を摂取できるようにはなっていない』

 

〈雪蓮〉「も~、みんなつまんなーい。お酒ってこんなにも美味しいのに……ぷはぁっ!」

 

 盃を一気に飲み干して、満足そうに息を吐いた。孫呉って、酒飲み多くね?

 

〈タイタス〉『全く……酒が好きで、戦も好む。典型的な地球の武将だな……』

 

〈孝矢〉「だな……」

 

 そうだよな。普段の姿は気のいい姉ちゃんってとこだが、雪蓮も百戦錬磨の戦士ってのは、こないだの戦いでよーく分かった。

 そこを思うと、雪蓮の酒をあおる姿でさえ、何かカッコ良く見えてくるぜ。

 

〈雪蓮〉「なぁに、ニヤニヤしちゃって」

 

〈孝矢〉「ニヤニヤもするぜ。んなあられもねぇカッコでよぉ」

 

 ちょっと悔しかったんで、恥ずかしがらせてやろうと思って、あえてそんなことを言った。

 

〈雪蓮〉「あら、見えちゃった?」

 

〈孝矢〉「ああ、下着丸見えだぜ。んな服装で木登りなんかするからだ」

 

〈雪蓮〉「おかしいわねぇ? 私、下着は着けない主義だから、見えるなら中身のはずなんだけど」

 

〈孝矢〉「はぁぁ!? マジぃ!?」

 

 バッと振り返ったら……かち合ったのは、雪蓮の勝ち誇った顔だった。

 

〈雪蓮〉「あははっ、やっぱり見えてないんじゃない」

 

〈孝矢〉「ぐッ……」

 

 してやられた……。雪蓮を手玉に取ろうってのは、オレには早かったか……。

 

〈タイタス〉『よせ、二人とも。こんな白昼堂々と、品の無い話をするものではない』

 

〈雪蓮〉「あら。それは早く、孝矢と閨を共にしろってことかしら? やーらしー」

 

〈タイタス〉『なッ……! そんな意味ではないぞ!?』

 

〈雪蓮〉「あっははは! 二人して必死すぎよ~、もう! おかしいったらありゃしない!」

 

〈タイタス〉『ぬ、ぬぅ……』

 

〈ピグ〉「二人とも、見事にからかわれてるんだな、やっぱし」

 

 うるせーな! どうせオレたち、女に免疫ねぇよ! 悪りぃかッ!

 その間にも、雪蓮はぐいぐいと酒をあおる手を進める。

 

〈雪蓮〉「はぁ~……美味し♪ 太陽の下で呑む白酒はひと味違うわね」

 

 盃を開けて、木漏れ日に目を細める雪蓮の姿は――何だか美しかった。

 

〈孝矢〉「……」

 

 きめ細かな長髪が風にたなびき、光を反射する。ここだけ切り抜くと、とても戦場で無双する女傑とは思えねぇほどの、芸術品か何かみてぇだ――。

 

〈雪蓮〉「……ね、孝矢。あなたたちの国にもお酒はあるの?」

 

〈孝矢〉「えッ……あ、ああ」

 

 声を掛けられて、ハッと我に返った。おかしく思われてなかったかな……。

 

〈雪蓮〉「へぇー……ね、どんなの?」

 

 雪蓮は興味津々と、枝の上から身を乗り出してくる。

 

〈孝矢〉「お、おい危ねーぞ!」

 

〈雪蓮〉「平気よ。それより早く、天の酒について話しなさい。どんな種類があるの?」

 

〈孝矢〉「ああ……数え切れねぇぐらいの、色んな種類があるぜ。なぁタイタス」

 

〈タイタス〉『うむ。酒は命の水と称されるほどに、人間との関係が深い。そもそも、昔はただの水でも衛生状態が悪いことが珍しくなかったから、消毒作用のある酒は長期保存に優れた飲料として重宝され……』

 

〈雪蓮〉「も~、そんな小難しい話を聞いてるんじゃないのよ。種類を聞いてるの!」

 

〈孝矢〉「分かった分かった。えーっと、まず何だ? 一番飲まれてんのは、やっぱビールだよな」

 

〈タイタス〉『発泡酒だな。これは既に漢の国にもある』

 

〈孝矢〉「後は、日本の酒と言やぁ日本酒とか焼酎か」

 

〈タイタス〉『これらは主に米から作るものだな』

 

〈雪蓮〉「へぇー! 米で作るお酒ねぇ……どうやって造るの?」

 

〈孝矢〉「いや、それは……。作り方なんて調べたことねーしよ。タイタスは分からねーか?」

 

〈タイタス〉『私も、酒自体に興味があった訳ではないから……』

 

〈ピグ〉「ピグも知らないんだな」

 

〈雪蓮〉「もう、頼りないわねぇ。作り方が分かれば、城で作れるかもしれないのにぃ」

 

〈孝矢〉「んなこと言ってくれるなよ……こんなことになるなんて、普通思わねーだろ?」

 

〈雪蓮〉「つまんなーい!」

 

〈孝矢〉「おい暴れんなって! マジで落っこちんぞ!」

 

 枝の上で器用に駄々をこねてた雪蓮だが……その瞬間、何かが高速で飛んできて、雪蓮の額に当たった。

 

〈雪蓮〉「きゃんっ!!?」

 

 そのショックで、マジで樹の上から転げ落ちた!

 

〈孝矢〉「し、雪蓮ん!!?」

 

〈ピグ〉「大丈夫なんだな!?」

 

〈タイタス〉『怪我はないか!?』

 

〈雪蓮〉「あいたたたた……」

 

 雪蓮は尻もちを突いてはいたが、特に怪我はしてねぇみてぇだった。ほっとする。

 

〈雪蓮〉「痛いわねー……何よぉ、一体……」

 

〈孝矢〉「何か飛んできたよな」

 

〈ピグ〉「あそこに落ちてるんだな」

 

 ピグが拾ってきた、それは、

 

〈タイタス〉『巻物だな』

 

〈雪蓮〉「巻物……?」

 

〈孝矢〉「それって……」

 

 そんなのが自然に飛んでくるはずがねぇ。つまり、誰かが投げたってことだ。その誰かとは……。

 

〈冥琳〉「やぁ~っと見つけたぞ」

 

〈雪蓮〉「うわぁ……あはっ、あははは……冥琳~」

 

 やっぱ、冥琳だよな……。そんな気はしてた。

 

〈冥琳〉「仕事を放り出して酒盛りとは、いいご身分だな」

 

〈雪蓮〉「いや、あのね、これはそのぉ……そう、孝矢っ! 孝矢が吞め吞めうるさくって~♪」

 

〈孝矢〉「おい雪蓮!?」

 

 雪蓮がオレを身代わりに、冥琳に差し出した。こ、こいつ……。

 

〈タイタス〉『雪蓮、嘘はいかんぞ! 悪いことをしたのだから、正直に罪を認めてだな……!』

 

〈雪蓮〉「きー! 私のことを売るつもりなの!」

 

〈ピグ〉「やっぱし、なんだな、悪いのは雪蓮なんだな」

 

〈雪蓮〉「ピグまで! みんな薄情なんだから~! 孝矢、どうなの!?」

 

〈孝矢〉「いや、これは雪蓮が……!」

 

 言いかけると、雪蓮が後ろから口を抑えてきた。

 

〈孝矢〉「むぐッ……!」

 

〈雪蓮〉「言葉を選んだ方が……身のためよ」

 

 お、往生際が悪すぎる……。

 

〈冥琳〉「……」

 

 冥琳はつかつかと雪蓮に近づくと、耳たぶを力いっぱい摘まみ上げた。

 

〈雪蓮〉「きゃんっ!」

 

〈冥琳〉「そういう話は、後でゆっくりと聞こう。どこかの誰かのせいで時間がないからな。……今は仕事の方をやってもらわねばならん」

 

〈雪蓮〉「分かった、分かった! 働くからっ! 働くから、放してちょうだい~」

 

〈冥琳〉「……約束だぞ」

 

 言質を取った冥琳が手を放すと、雪蓮がすっかり赤くなった耳をさする。

 

〈雪蓮〉「あー、痛かったー! 冥琳ってばホントに容赦ないんだからー」

 

〈冥琳〉「……もう一度つままれたいのか?」

 

〈雪蓮〉「まさか。真面目に働きますとも」

 

〈冥琳〉「なら急いでくれ。雪蓮の落款が必要な書類が、山のように溜まっている」

 

〈雪蓮〉「はぁ。元々は母様の仕事でしょ? どうして私がすることになってんだか」

 

〈冥琳〉「是非はともかく……炎蓮様が委任された仕事だからな、これも将来への修行だと思って全うしてくれ」

 

〈雪蓮〉「んー……分かっちゃいるけどねぇ」

 

〈冥琳〉「速やかに終わらせてくれれば、祭殿秘蔵の酒をくすね、更に炊事場からは夕食用の乾物を勝手に持ち出してツマミにしていたことは黙っておいてやる」

 

〈雪蓮〉「……何でバレてるのよぅ」

 

〈冥琳〉「……さて、伯符。これ以上の説明が必要かな。まだ何をした、などと駄々をこねられるか?」

 

〈雪蓮〉「……うぅ~、冥琳のいけずぅ……」

 

〈冥琳〉「そうか。まだ必要か」

 

〈雪蓮〉「あーっ、もう分かった! 落款くらい、いくらでも押してやるわよー!」

 

〈冥琳〉「ふふっ……分かればいいんだ、分かれば」

 

 長げぇ言い合いは、冥琳の完全勝利で終わった。

 

〈孝矢〉「口じゃあ冥琳には敵わねぇみてぇだな」

 

〈雪蓮〉「あら。私が折れて、冥琳に花を持たせてあげたのよ♪ さっ、行きましょ。早くしないと、晩酌の時間がなくなっちゃうわ」

 

 雪蓮は調子のいいことを言って歩き出す。

 

〈ピグ〉「あんなこと言ってるんだな。しょうがないんだな、やっぱし」

 

〈タイタス〉『冥琳も、苦労するな』

 

〈冥琳〉「ふっ……いいさ。ご機嫌で働いてくれるなら、それが一番だ」

 

〈孝矢〉「そーいうもんなのか?」

 

〈冥琳〉「そういうものだ」

 

 オレにウィンクを残して、冥琳も雪蓮を追いかけて城の方に歩いてった。

 

〈ピグ〉「……怒ってたはずなのに、何だか楽しそうだったんだな」

 

〈タイタス〉『それだけ信頼し合っているということさ。孝矢、私たちも案内を早く終わらせてしまおう。もたもたしていると、冥琳に怒られるかもしれんぞ?』

 

〈孝矢〉「うへぇ、そいつは勘弁だぜ」

 

 こっちもこっちの仕事に戻る。

 しかし、あんだけの軽口を叩き合える関係か……。オレもそこそこみんなと仲良くなったつもりだが、あそこまでは行ってねぇよな。そこは、雪蓮と冥琳がちょいと羨ましいぜ。

 


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