奥特曼†夢想 ‐光の三雄伝‐   作:焼き鮭

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炎蓮の手ほどき!?

 

「ウオッ!」

 

 ――タイタスが荒野の上に投げ捨てられ、したたかに叩きつけられた。

 

〈タイタス〉『ぬぅ……やはり、凄まじいパワーだな……! あのサイズとなると……!』

 

〈孝矢〉『「いや、つぅか……あんなんアリかよ!?」』

 

 背中に走った痛みをこらえつつ、今戦ってる相手を見上げてうめくオレ。

 視線の先にいるのは――。

 

〈孝矢〉『「竜巻怪獣って、どーゆーこったよ!?」』

 

 天を突くような竜巻! 変身したタイタスは巨人だが、それよりもずーっとビッグサイズ!

 その竜巻から『腕』が伸びてきて、タイタスを捕まえようとしてくる!

 

〈孝矢〉『「うおお危ねぇッ!」』

 

〈タイタス〉『むぅッ!』

 

 後ろに下がって腕から逃げるタイタス。竜巻の腕は、片手だけでタイタスを鷲掴みに出来るでかさだ。

 タイタスが言うにゃ、スパイラルってあの怪獣……あれが揚州を荒らしてるってんで、オレたちが出撃したんだが……生きてる竜巻なんて眉唾な話が本当だったってこの目で見た時は、流石に驚いた。怪獣ってマジ何でもありなんだな……。

 

〈孝矢〉『「どーすりゃいいんだよこれ……竜巻って倒せんのか!?」』

 

 タイタスが子供に思えるよーな怪物相手に、オレぁ取り乱してばっかだった。だってタイタスがさっきからあしらわれてばっかなんだぜ。

 けど、タイタスは冷静だった。

 

〈タイタス〉『落ち着け、孝矢。竜巻そのものが生きている訳ではない』

 

〈孝矢〉『「えッ、そーなん?」』

 

〈タイタス〉『あの竜巻は、怪獣が出しているバリアのようなもの。あの中に本体が潜んでいて、それが風を操っているだけに過ぎない』

 

〈孝矢〉『「な、なるほど……じゃあそれをぶっ叩きゃいいって訳か。けど、どーやって竜巻の中に入るんだ?」』

 

 上から入るのが一番手っ取り早そうだが、ぐねぐね動き回るんだ。そう簡単には許してくれそうにねぇぜ。

 けど賢者って呼ばれるタイタスだからな! きっといい考えがあるんだろ!

 

〈タイタス〉『安心しろ。考えがある!』

 

〈孝矢〉『「おおッ! 流石だな!」』

 

〈タイタス〉『うむ! 回転には回転だ!』

 

〈孝矢〉『「は?」』

 

〈タイタス〉『きりもみ回転しながら奴の懐に飛び込み、勢いで竜巻を破って内部に突入するのだ!』

 

 ……そーだった、こーいう人でした。

 

〈タイタス〉『もちろん、万全を期する必要がある。あのリングを使うのだ!』

 

〈孝矢〉『「お……おう! 分かったぜ!」』

 

[カモン!]

 

 タイタスの指示でタイガスパークに触り、左手の中指にリングを召喚、リードする。

 

[雪蓮リング、エンゲージ!]

 

「ムンッ!」

 

 雪蓮リングの効果でタイタスが赤く輝いてパワーアップ! 助走をつけて、スパイラルに向けてテイクオフ!

 

「トォッ!」

 

 スパイラルが腕を伸ばしてくるが、輝くタイタスの回転がバラバラにした! そのまま、竜巻に突撃して突き破ってく!

 

「ドォッ!」

 

 竜巻の中は、何か変な感じの空間になってて、その中に心臓みてぇなぐにゃぐにゃしたもんに五本の触手が生えた、キモイ生き物が浮いてた。

 あれが本体か! 大きさは大体タイタスと同じぐれぇだ……これならイケるぜ!

 

「ムッ!」

 

 接近してくタイタスに、スパイラルの本体がぐにゃあっと形を変えて、包み込もうとタイタスに纏わりついてくる。

 

「ムゥンッ!」

 

 だがタイタスのダブルバイセップスの動作で容易く振りほどかれた! 隙を晒したスパイラルを狙って、タイタスが額の星マークの前で腕を交差させる。

 

〈タイタス〉『星の一閃! アストロビームッ!』

 

 星マークからレーザービームが発射されて、スパイラルを撃ち抜いた! スパイラル本体が焼かれて、バラバラに吹っ飛ぶ!

 

〈タイタス〉『脱出だ!』

 

〈孝矢〉『「おうッ!」』

 

 すぐさま180度向きを変えて、竜巻の外へと飛び出してくタイタス。その後で、ガワの竜巻も木っ端微塵に爆発して消えてった。

 

「トォッ!」

 

 見事竜巻怪獣をぶっ倒したタイタスは、空を飛んで建業まで帰還してった。

 ……ところで、何で竜巻まで爆発するんだ?

 

 

 

〈孝矢〉「いやー、街を守った後のメシはうめぇな!」

 

 城の庭で、オレとタイタスは二人きりで休憩してた。昼メシも食ったし、気分は上々だ。

 

〈孝矢〉「つっても、オレぁ見てるだけみてぇなもんだけどさ」

 

〈タイタス〉『そんなことはない。君の怪獣に立ち向かう勇気は、私に力を与えてくれるのだ』

 

〈孝矢〉「よせよぉ、おだてたって何も出ねーぞ」

 

 実際、戦ってる張本人のタイタスがあんな落ち着いてたってのに、横のオレは騒いでばっかだった。そこは経験の差なんだろうが……オレも男なら、もっとどっしり構えられるようになんねぇとなー……。

 

〈孝矢〉「さってと、今日の雷火さんの授業は夕方からだったな。それまで予定ねーけど、何すっかな。ピグの相手してんのもなー……」

 

〈タイタス〉『ぼやいていないで、予習復習でもしたらどうだ。昨日とて、何度も同じところを間違えて雷火殿に怒られていただろう』

 

〈孝矢〉「うッ、ヤなこと思い出させんなよ……」

 

〈タイタス〉『何にせよ、早く文字をマスターしなさい。いつまでも雷火殿に迷惑を掛けているようではいかんぞ』

 

 なんて注意を受けてたら、ザッと足音がオレの近くからした。

 

〈炎蓮〉「孝矢、ここにいたのか」

 

〈孝矢〉「あッ、炎蓮さん」

 

〈炎蓮〉「聞いたぞ。今日も活躍したようだな。揚州のために、いつも世話になる」

 

〈タイタス〉『いえ、お構いなく。これが我々の役目ですから』

 

〈孝矢〉「ところで、何か用か?」

 

 炎蓮さんがどっかとオレの隣に腰を落とした。

 

〈炎蓮〉「オレも暇しててな。話し相手が欲しいと思ってたんだよ」

 

〈孝矢〉「いやいや……炎蓮さんはここの王様じゃねぇか……。それが暇って」

 

〈タイタス〉『多忙のはずでしょう』

 

〈炎蓮〉「はっはっ、察しの通りだ。つまり、このオレが暇な分、雷火や冥琳にその皺寄せが行っているという訳だな」

 

 やっぱり……。笑いごとじゃねぇっしょ、そりゃ。

 

〈タイタス〉『全く、このお人は……』

 

 いつも口うるせぇタイタスも、炎蓮さんの傍若無人っぷりにはもうため息が出るばかりだ。

 

〈炎蓮〉「そんなことより孝矢よ、呉での生活には、ちったぁ馴染んできたのか?」

 

〈孝矢〉「ああ。みんな、このオレなんかに良くしてくれるからな。祭さんも粋怜も、雪蓮も冥琳も穏も。雷火さんなんかにゃ、毎日のように勉強教えてもらってるしよ」

 

 ほんと、オレってば色んな人の世話になりっぱなしだって、今日までを振り返って思う。みんなには頭が上がらねぇぜ。

 

〈炎蓮〉「貴様……ただ者ではないな」

 

〈孝矢〉「はい?」

 

 いきなり、炎蓮さんがそんなこと言ってきた。

 

〈炎蓮〉「よくもあの雷火の指導を受けて、平然としていられるな? オレなら三日で城から逃げ出すが」

 

〈孝矢〉「いやいや……」

 

〈タイタス〉『そんな大袈裟な……』

 

 オレもタイタスも呆れる。いくら勉強嫌いのオレだって、家出まがいのことまではしねーよ。

 

〈孝矢〉「炎蓮さんは小せぇ時、厳しくされなかったのかよ?」

 

〈炎蓮〉「阿呆。オレの両親は鬼のように厳しかったわ。毎日、修行修行で……少しでも逆らったら、半殺しにされたもんだぞ?」

 

〈孝矢〉「半殺し!?」

 

 炎蓮さんの言うことにオレたちゃぶっ飛び。ど、どんな親だよ。いや、今の炎蓮さん見てりゃ、大体想像つくかも……。

 

〈炎蓮〉「オレは餓鬼の頃から、あのクソ親父とババアをいつかブッ殺してやろうと思っていたもんだぜ」

 

〈タイタス〉『そんな過激な……!』

 

〈炎蓮〉「まぁ、オレがブッ殺す前に、二人とも病でくたばっちまったがな」

 

〈孝矢〉「……!」

 

 だから、雪蓮から祖父母の話が出てこねぇのか……。

 

〈炎蓮〉「お前は両親が好きなのか?」

 

〈孝矢〉「顔も知らねぇ」

 

 炎蓮さんは一瞬目を剥いて、この人には珍しいことに声のボリュームが小さくなった。

 

〈炎蓮〉「……悪いことを聞いたか」

 

〈孝矢〉「いいんだ。気にしてなんかいねぇから」

 

〈タイタス〉『……』

 

 別にこのこと、隠してた訳じゃねぇ。ただ、同情されたい訳でもねぇから、わざわざ自分から言わなかっただけのことだ。タイタスには、日々の雑談の中で話してるけどな。……お互いの、生まれ育ちについて。

 

〈炎蓮〉「……親に対する感情を、持ち合わせていないようだな」

 

〈孝矢〉「炎蓮さんはそこんとこ、どうだったんだ?」

 

〈炎蓮〉「オレは親を恐れ、憎み続けていた」

 

〈タイタス〉『……今でもですか?』

 

〈炎蓮〉「……ははっ、尊敬しているさ。オレを殴り、怒鳴りつけ、突き放していたのも、それが愛情だったのだと、今では分かるからな」

 

〈タイタス〉『それは何よりです……』

 

〈炎蓮〉「……タイタス、貴様ものようだな……。まぁともかく、親を憎んでこそ、子は強く育つ。オレが優し過ぎるせいで、雪蓮はあのザマだ。オレもまだまだだ」

 

 いや、雪蓮は十分強えぇと思うが……。炎蓮さんだって十分厳しいし。

 けど……ここでの基準だと、今の炎蓮さんと雪蓮でも、十分とは言えねぇのかもしれねぇ。生きるか死ぬかを地で行く乱世だからな……。

 

〈炎蓮〉「まっ、オレのことなんぞどうでもいい。剣の腕はどうなんだ? いや、貴様の得物は棍棒にするのだったな」

 

〈孝矢〉「ああ。オレ用のモンを、作ってもらってるとこだ。訓練だってしてるぜ。まぁ、まだまだ実戦で使えるほどにはなってねぇけど」

 

〈炎蓮〉「ははっ! この短期間で使い物になるようならば、とんだ豪傑よ!」

 

〈タイタス〉『ええ。孝矢よ、焦ることはない。敵と戦おうとするより、己が身を守れるようになることを主眼に置くのだ』

 

〈孝矢〉「分かってるって。戦いの基本は、攻撃じゃなくて守りだろ?」

 

〈炎蓮〉「ほう。それがタイタスの戦の理念か」

 

〈タイタス〉『はい。守ることが出来ない、守るものが無い者の命は短く、空虚なものですから』

 

〈炎蓮〉「ふっ……それはどの世界でも変わらんな。オレも狂人だが、背に守るものを持たん輩の戦はただの狂気よ。一片の価値もない」

 

 戦いのことを話し合って、炎蓮さんは次の質問をする。

 

〈炎蓮〉「雷火の講義はどうだ? あのババアはうるさかろう」

 

〈孝矢〉「まぁ、しょっちゅう怒られるぜ。けどそりゃオレの出来が悪りぃからだしよ。根気強く教えてもらって、ありがたく思ってる」

 

〈炎蓮〉「上出来だ。だが孝矢、鍛錬も勉強も、務めを果たすのも良いが、もっと遊べよ?」

 

〈孝矢〉「え?」

 

〈炎蓮〉「せっかく、見知らぬ世界に降ってきたのだ。城にばかり籠もってねぇで、もっと街に繰り出せ」

 

〈孝矢〉「ああ、それなら雪蓮につき合ったりしてっから大丈夫だぜ。街の人とも、それなり仲良くなったんだ」

 

 雪蓮はよくオレに構う。夜には一緒に街に遊びに行くことも少なくねぇんだ。ま、それでタイタスから小言食らったりもするけど。

 

〈炎蓮〉「ほう。……で、アイツとは何回、ヤッたんだ?」

 

 その瞬間、オレとタイタスはブーッ! と噴き出した。

 

〈孝矢〉「ち、ちょちょちょ……それは……!」

 

〈タイタス〉『炎蓮殿! 前も言いましたが、男女の関係は清い交際を経て築くべきもので……孝矢にはまだそういうことは、早いと……!』

 

 あ、ああ……。ずっと触れねぇようにしてっけど、炎蓮さんがオレに求めてんのはそこなんだよな……。けど、やっぱオレにゃまだ早いっていうか……。

 しかし、オレたちの反応を見た炎蓮さんは一気に眉間に皺を刻んだ。

 

〈炎蓮〉「ああ? 一度もヤッてねぇのか? 貴様らは戒律でも課しているのか?」

 

〈孝矢〉「そ、そうじゃねぇけど……」

 

〈炎蓮〉「貴様の年頃なら、毎日でも女とヤりたいはずだろう。すっとろいことしてねぇで、さっさと抱かんか」

 

〈タイタス〉『炎蓮殿! 日も高い内から、そんな話は……!』

 

〈炎蓮〉「ええい、テメェは引っ込んでろ。今は孝矢自身の気持ちを聞いているのだ。どうなのだ、孝矢。雪蓮が嫌いか?」

 

〈孝矢〉「そんな訳ねーだろ! けど……だからこそ、軽はずみなことはしたくねぇって言うか……」

 

〈炎蓮〉「かーっ! ツラに反して、何と煮え切らん奴よ! オレがもし貴様だったら、会ったその日に、雪蓮を孕ませているぞ!」

 

〈孝矢〉「だーかーらーッ! 自分の娘に何言ってんだよ!」

 

〈炎蓮〉「もしもの話だ! 雪蓮だけではない。他にもよりどりみどりだろう? オレが男なら……雷火も祭も粋怜も、冥琳も穏にも片っ端からブチ込んで、オレの女にしちまうぞ? はっはっはっ!」

 

〈孝矢〉「……相手の気持ちはどうすんだよ」

 

〈炎蓮〉「ンなもん関係あるか。ヤりたい時にヤる! 腹が減ったらメシを食う! お前はメシを食う時に、メシの都合を考えるのか?」

 

 ダメだこりゃ……。豪傑すぎて、こっちの常識が通用しねぇや……。

 英雄色を好むって言うけどよ。死と隣り合わせの世界で生きてると、考え方もこんな感じになるもんなのか? オレにはまだまだ実感できねぇ世界だが……。

 

〈タイタス〉『いい加減にして下さい、炎蓮殿! 孝矢、もう行こう。これ以上こんな話を聞いていたら、君の思考が穢されてしまう』

 

 我慢ならなくなったタイタスが、部屋に戻るよう促す。が、炎蓮さんがそのタイタスに目をつけた。

 

〈炎蓮〉「……分かったぞ。そんな頭ガッチガチの野郎が傍についているから、勃つものも勃たんのだ」

 

 言うが早いか、炎蓮さんがむんずとタイタスキーホルダーを鷲掴みにして、素早くオレから奪い取った。

 

〈タイタス〉『え』

 

〈炎蓮〉「おらぁぁぁぁぁあああああああああああッ!!」

 

 そして止める間もなく、タイタスをどっか遠くに投げ飛ばしちまった!

 

〈タイタス〉『うおおおぉぉぉぉぉぉぉ――――――――――!!?』

 

〈孝矢〉「た、タイタース!!?」

 

 あああッ!? タイタスがキラーンって……! 飛んでったもんがホントに光るの、初めて見た!

 

〈孝矢〉「ちょッ……炎蓮さん!? 何すんだよ!?」

 

〈炎蓮〉「ふん、あれのせいで忘れてはいるまいな? 貴様のここでの一番の役目は、天の血を孫家に入れることだぞ?」

 

〈孝矢〉「そりゃ分かってるけどさぁ……!」

 

〈炎蓮〉「それなら、今から雪蓮を犯しに行ってこい! 今ならうるせぇ奴はいねぇぞ」

 

〈孝矢〉「別に、タイタスが傍にいるからって理由じゃねぇって! とにかく、オレはオレの、ペースで……」

 

 言葉が途中でしぼんでく。

 何か……炎蓮さんの影が、こっちに覆い被さってくるような……。

 

〈炎蓮〉「なーにがぺぇすだ。鈍くせぇお前に、オレが教えてやるよ」

 

〈孝矢〉「な、何を……?」

 

〈炎蓮〉「男と女はな……こうするもんだとな!」

 

 炎蓮さんがいきなり、オレを地面に引き倒して馬乗りになった!

 

〈炎蓮〉「ふっ、大人しくしていろ。今から、オレが手ほどきしてやる」

 

〈孝矢〉「手ほどき……!?」

 

 この状況で、何を手ほどきするかって……そんなの、嫌でも分かる。

 

〈孝矢〉「ま、待ってくれよ! そ、そんな理由で……!?」

 

〈炎蓮〉「なぁに、それだけじゃねぇ。貴様は親の愛情を知らねぇで育ったんだろう? ここじゃあ、オレが貴様の母親みてぇなもんだ。母の愛を、その身に刻み込んでやるよ」

 

〈孝矢〉「こんなの、親子の愛し方じゃねぇだろ……!?」

 

 逃げようとするオレだが、炎蓮さんの腕力に敵う訳がなく、簡単に取り押さえられる。

 

〈炎蓮〉「ジタバタするんじゃねぇよ! 女の誘いを断るなんざ、言語道断ッ! オレが床の上での、男のあり方……たっぷりと教育してやるぜ……」

 

 炎蓮さんは瞬く間にオレのブレザーを剥ぎ取って――そして――。

 

 

 

〈タイタス〉『孝矢! 孝矢ぁーッ!』

 

 ――タイタスが自力で戻ってきた時には、もう終わってた。服も着直して、庭にへたり込んでる。

 

〈孝矢〉「タイタス……」

 

〈タイタス〉『孝矢ッ! どうしたのだ、そんな魂が抜けたような顔で……ま、まさか……!』

 

 タイタスはオレと炎蓮さんを見比べて、何があったかを察したみてぇだ。

 

〈タイタス〉『炎蓮殿ッ! 何ということをしたのですか、あなたは……! 良い歳のお子が、三人もいる身でしょう!?』

 

〈炎蓮〉「はっ。子が何人いようと、女は女よ。それに、三人もいれば十分だと思っていたが、もう一人作るのも悪くはねぇな」

 

〈孝矢〉「は、ははは……」

 

〈炎蓮〉「そうカッカするな、タイタス。これはあくまで教育だ。孝矢はどうも孫呉の女に対して尻込みしてるんでな、女の扱いとはどういうものか、言葉じゃなくその身に教え込んだまでのことよ」

 

 平然と言い切る炎蓮さんに、タイタスが見たことねぇぐらいにヒートアップする。

 

〈タイタス〉『勝手なことばかり……! 孫文台ッ! 如何に私でも、いざとなれば覚悟というものが……!』

 

〈孝矢〉「いいんだ、タイタス」

 

 どうにかなっちまいそうなタイタスを、オレが止めた。

 

〈タイタス〉『孝矢……!』

 

〈孝矢〉「食われたってのは、まぁ確かだけど……最後まで無理矢理だったってことじゃねぇよ。オレもその気になって、自分から動いた。だからお互い様だ」

 

〈タイタス〉『……むぅ……』

 

〈孝矢〉「オレが本気で拒んでたんなら、炎蓮さんだってきっとやめてくれたさ。炎蓮さんに怒るんだったら、オレのことも怒ってくれよ」

 

〈タイタス〉『……君自身が、納得しているというのならば、まぁ……』

 

 オレの説得で、タイタスも怒りを治めた。

 

〈炎蓮〉「ふっ……これでちったぁ真面目に役目を果たす気になったんなら、今回はそれで良しとしてやろう。オレとて、何も酔狂で天の血を入れろなどと命じたんじゃねぇからな。こちらも命懸けなのよ」

 

 炎蓮さんも自嘲気味に笑い、そして王らしい落ち着いた表情になった。

 

〈炎蓮〉「オレが天の血を入れることによって、この孫呉をより強くせんと目論んでいるのは紛れもない本音よ。だが、それ以外にも、多少狙いがあってな。オレの考えが分かるか?」

 

〈孝矢〉「え? いや……」

 

〈炎蓮〉「孝矢。雷火や祭、粋怜を見て、どう思う? あれらを見て、何も感じないか?」

 

〈孝矢〉「……どーいうこと?」

 

〈炎蓮〉「……ふん、あのババアども、戦に明け暮れて未だに伴侶を持っておらん。上に立つ者として、不安にもなるってもんだ」

 

〈孝矢〉「ああ……」

 

 そっか……今の今まで気にしちゃいなかったが、みんな未婚なんだよな……。それっぽい話、一個も聞かねぇし。

 

〈炎蓮〉「武門の棟梁として、跡継ぎの問題を早めに解決しておきたいという考えもあるのだ。雪蓮にしても、あの歳ならもうとっくにガキを作って良い頃だからな。奴がさっさと跡継ぎを産まねぇと、オレはいつまで経っても隠居することが出来んのだ」

 

〈孝矢〉「炎蓮さん、今の雪蓮ぐれぇにはもう産んでたんだよな」

 

 二人の歳の差を考えりゃあ、そーいう計算になる。

 

〈炎蓮〉「そういうことだ。孝矢、あの男日照りの連中を潤してやるためにも励めよ。子こそが人の、国の宝なのだからな」

 

〈タイタス〉『……全く、やることなすこと無茶苦茶だが……それも国の行く末を真剣に想うからこそ、か……』

 

 炎蓮さんの話を最後まで聞いて、タイタスもため息を吐き出した。もう、怒りはなかった。

 跡継ぎ……死がすぐ隣にある世界じゃ、オレの世界よりはるかに切実な問題か。だからってやっぱ、無理矢理ってのは出来ねぇが……オレももちっと積極的に、この宿題に向き合うべきなのかもな……。

 




 
竜巻き怪獣スパイラル

 揚州の土地を荒らして回っていた怪獣。風を巻き起こす能力を持ち、これで竜巻を作り出して、その中に潜んで身を守りつつ戦闘を行う。これは自然の竜巻ではないので、本来あり得ない動きをし、自在に形を変えることが出来る。

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