奥特曼†夢想 ‐光の三雄伝‐   作:焼き鮭

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粋怜に助っ人!!

 

 ある日、オレが建業の街中を急いでると、裏通りでガラの悪りぃ声が聞こえた。

 

〈チンピラ〉「おい! 何だよその態度は!?」

 

〈チンピラ〉「ヘッヘッ、冷たいこと言ってないで、オレたちと遊ぼうぜ~?」

 

〈孝矢〉「!」

 

 何だ、喧嘩か、ナンパか? 何か揉め事が起きてんのなら、スルーすんのは気が引ける。

 様子を見に行ってみると……いかにもな男が三人、一人の女を囲んで脅しを掛けてた。

 

〈粋怜〉「はぁ……」

 

 って、あそこで囲まれてんの、粋怜じゃねぇか。

 

〈チンピラ〉「クックッ、姉ちゃん。そう怖がることはねぇって」

 

〈粋怜〉「怖がってなんかいないけれど?」

 

〈チンピラ〉「なめた口を! アニキはな、山犬団の頭目様だぞ!」

 

 や、山犬? その名前でほんとにいいのか?

 

〈チンピラ〉「ハッハッ。言うんじゃねぇよ、余計ビビッちまうだろうが」

 

〈粋怜〉「何それ? ひどい名前ね。聞いたこともないわ」

 

〈チンピラ〉「なぁッ!?」

 

 チンピラどもは粋怜相手に、何の遠慮もなく喧嘩をふっかけてる。程普のことを知らねぇのか? 余所から来た連中か?

 

〈粋怜〉「とにかく、あんたたちみたいなのが道端でたむろしていたら、良民の迷惑なのよ。さっさと散りなさい」

 

〈チンピラ〉「この、お高く止まりやがって……! アニキのお誘いが受けられねぇっつうのか!?」

 

〈チンピラ〉「ヘヘッ、ちょっとぐらい、いいじゃねぇかよ?」

 

〈粋怜〉「あのねー……山犬か野犬か知らないけど、何で私があんたたちとお酒飲まなきゃいけないの? ……って言うか、自分の顔、見たことある? ふふっ、私と釣り合いが取れるとでも思ってるの?」

 

 粋怜の挑発に、チンピラたちはあっさりキレる。

 

〈チンピラ〉「てめぇ……人が下手に出りゃあ、とことんつけ上がりやがって……」

 

〈チンピラ〉「おいコラ! ナメてんじゃねぇぞッ!?」

 

〈粋怜〉「ふふふ……だったら、どうする気よ?」

 

 チンピラたちは今にも暴力に訴え出そうな気配だ。

 まぁ粋怜なら三人が三十人でも余裕だろうが……女が絡まれてんのに、見てるだけなんて男じゃねぇぜ!

 

〈孝矢〉「粋怜ッ!」

 

〈タイタス〉『待て孝矢! 危ないぞ!』

 

 踏み込もうとするオレをタイタスが呼び止めた。

 

〈孝矢〉「何言ってんだよ! 仲間を助けに行かなきゃ男じゃねーだろ!」

 

〈タイタス〉『相手は三人だ。君にはまだ早い! ここは私に任せて……おい!?』

 

 だがオレは無視して、そのまんま現場に駆け込んでった。

 

〈孝矢〉「待てオラァッ!」

 

〈粋怜〉「え?」

 

 こっちがチンピラみてぇな台詞を出しちまったが、まぁ勢いだ! まずは威圧だ!

 

〈チンピラ〉「んん?」

 

〈チンピラ〉「何だぁ、このガキは?」

 

〈チンピラ〉「人相が悪りぃな」

 

〈孝矢〉「オメーらが言うなよ! 女相手に三人で囲んで、みっともねぇって思わねーのか!」

 

〈チンピラ〉「うるせぇ! ガキがぁッ!」

 

〈孝矢〉「うおッ!?」

 

 いきなり殴ってきたのを、反射的によける。

 思ったよりも速えぇ……! こりゃただのゴロツキじゃねぇぜ……!

 

〈チンピラ〉「何なんだ? テメーは?」

 

〈孝矢〉「その人のツレだ! 彼女から離れな、犬ッコロども!」

 

〈チンピラ〉「ふざけやがって! おい! たたんじまいなッ!」

 

〈チンピラ〉「おう!」

 

 手下の二人が左右に回り込んできて、同時に殴りかかってくる。

 

〈チンピラ〉「うらぁ! 失せろクソガキッ!」

 

〈孝矢〉「くッ……!?」

 

 挟み撃ちは流石に苦しいが……こっちだって命懸けの実戦を見てきてんだ。決して反応できねぇような攻撃じゃねぇ。

 敵の動きをよく見て……殴ってきた後の隙に反撃を決める!

 

〈孝矢〉「おらぁッ!」

 

〈チンピラ〉「ぐがッ!?」

 

 オレのパンチが腹に刺さって、チンピラが一人、うずくまって倒れ込んだ。

 やってやったぜ! まずは一人!

 

〈孝矢〉「へっへーん! どーだオレの超絶ファインプレー!」

 

〈チンピラ〉「ナメんなぁッ!」

 

 だが後ろから、リーダー格が後頭部をぶん殴ってきた!

 

〈孝矢〉「がッ……!?」

 

 痛恨の一撃をもらっちまって、ガクッと倒れ込む……!

 

〈チンピラ〉「おらぁッ! たたみかけろッ!」

 

〈チンピラ〉「このガキがッ!」

 

〈孝矢〉「ま、待て……ぎゃああぁぁッ!」

 

 そこをチンピラ二人が容赦なく蹴りつけてくる。最初に殴り倒した奴も加わって、完全に袋叩きだ。

 オレは丸まって、出来るだけ身を守るのが精いっぱいだった。

 

〈チンピラ〉「へへッ、見掛け倒しの野郎だぜ!」

 

〈チンピラ〉「一発もらってたじゃねーか」

 

〈チンピラ〉「う、うるせッ!」

 

〈粋怜〉「あーあ、負けちゃった。多勢に無勢だったかしらね?」

 

〈チンピラ〉「クックッ、姉ちゃん。恐れ入ったか?」

 

〈チンピラ〉「さぁ、大人しく酒につき合って……」

 

 オレを攻撃するのを止めたチンピラに、粋怜が一撃かまして一人を昏倒させた。

 

〈チンピラ〉「ごぉッ!?」

 

〈チンピラ〉「あぁッ……テメェッ!?」

 

〈粋怜〉「もー……孝矢くんに何てことするのよ? 私を本気で怒らせたわね?」

 

〈チンピラ〉「こ、このアマ……」

 

 粋怜はチンピラたちが反応も出来ねぇスピードで、二人目も瞬殺する。

 

〈チンピラ〉「んぎゃあッ!?」

 

〈チンピラ〉「ひぃッ!? な、何だテメー……!? 一体、何もん……!?」

 

〈粋怜〉「私は程徳謀よ。これでも一応、孫呉の重臣を務めているわ」

 

〈チンピラ〉「程徳謀……て、程普ッ!? いや! 程普様ッ……!?」

 

〈粋怜〉「今更、様をつけられてもねぇ♪」

 

〈チンピラ〉「ま、待って……! うぎゃッ!?」

 

 最後の一人も呆気なくぶっ倒され、チンピラは全員地面に転がった。

 

〈粋怜〉「名乗り遅れちゃってゴメンね? はー……それにしても、よっわ」

 

〈孝矢〉「……」

 

 三人全員のされてから、オレは力なく起き上がった。

 

〈粋怜〉「……あっ。ふふっ、今のって、遠回しに孝矢くんが弱いって言った訳じゃないのよ♪ 三人がかりだったものね」

 

 フォローする粋怜だが……粋怜が簡単にあしらえるような奴らに、ボコされてたのが事実だ。うぅ、情けねぇぜ……。

 

〈粋怜〉「大丈夫?」

 

〈孝矢〉「ああ……意外と、身体痛くねぇぜ」

 

〈タイタス〉『私が防御したのだ……』

 

 ダメージが少ねぇことに不思議がるオレに、タイタスがため息交じりに言った。

 

〈タイタス〉『孝矢……きみはすぐ調子に乗って油断する悪癖がある。今身をもって分かったと思うが、戦いでそれは命取りだ。そういうところから直しなさい』

 

〈孝矢〉「わ、悪りぃ……」

 

 説教するタイタスに、オレはもう謝ることしか出来なかった……。

 

 

 

 それから、気がついたチンピラたちは粋怜の正体を知った途端、一目散に逃げ出してった。

 

〈粋怜〉「孝矢くんって、すっごく勇敢なのね? お姉さん、惚れちゃったよ?」

 

〈孝矢〉「よしてくれよ……みじめなだけだぜ……」

 

 オレはもうすっかりへこみ気味だ……。変身して怪獣と戦って、すっかり強くなったつもりでいたが……生身じゃ所詮、ただの人間ってのを思い知らされた……。

 喧嘩の経験がねぇ訳じゃねぇが、戦争のねぇ平和な時代の日本と比べて、この戦乱だらけで生きるか死ぬかの世界の人間は訳が違う強さだ。あんなその辺のモブみてーなチンピラにすら勝てねぇで、この先やってけんのかな……。

 

〈粋怜〉「けれど、助けてくれなくても、私は平気だったのに」

 

〈孝矢〉「そりゃオレだって分かってたけどよ……だからって見てるだけなんて、あり得ねーだろ」

 

〈粋怜〉「ふふっ、孝矢くんは困っている女の子を見たら、ほっとけない性質なのかな?」

 

〈孝矢〉「じゃなきゃ、男じゃねーぜ」

 

 その一線だけは譲れねぇ。卑屈になって生きるようになったら、そこでおしまいだ。

 

〈粋怜〉「男じゃない、ねー♪ 私が誘われてるのを見て、ついカッとなっちゃった?」

 

〈孝矢〉「ぶッ!?」

 

〈粋怜〉「もー、孝矢くんったら、かーわいー♪ お姉さん、嬉しいなー♪」

 

 く、くぅぅぅッ、顔から火が出そうだ……! どうしてこう、すぐ反応しちまうのか……。男と女のことを知っても、結局人ってそうそう変わらねぇもんなのか……。

 

〈孝矢〉「はぁ……けど情けねーぜ。結局やられちまって」

 

〈粋怜〉「本当にボコボコにされてたわね。孝矢くん、もうちょっと強いかと思ってたわ」

 

〈孝矢〉「ぬぐぅッ……!」

 

 心にグサッと来る……!

 

〈粋怜〉「冗談よ。相手が悪かったんじゃない? 実戦慣れしてる感じがあったしね」

 

〈孝矢〉「粋怜は瞬殺してたけどな……」

 

〈粋怜〉「これでも孫呉の両翼とか呼ばれてるからね♪ ともかく、助けてくれてありがとうね」

 

〈孝矢〉「よせよ。助けられたのは、オレの方だ」

 

〈粋怜〉「ふふ、そんなことないわよ。絡まれてたのが私じゃなかったら、どうなってたか分からないし。建業もどんどん発展しているけど、人が集まると、どうしてもああいう連中も外から入ってきちゃうのよね」

 

〈孝矢〉「そっか。粋怜は、街の巡回とかで?」

 

〈粋怜〉「ええそうよ。これから警備隊の詰め所に行って、その後、お城に戻るの」

 

〈孝矢〉「今日はそれで上がりか?」

 

〈粋怜〉「そうだけど、それがどうしたの?」

 

〈孝矢〉「何はともあれ、助けてもらった礼をしなくちゃなって思ってな」

 

 受けた恩は、ちゃんと返さなくっちゃな。

 

〈粋怜〉「もう、だから助けてくれたのは孝矢くんじゃないの」

 

〈孝矢〉「結果は結果だ。このまんまじゃ、オレの気が済まねぇってことだよ」

 

〈粋怜〉「ふふ……そう? まっ、それで孝矢くんがすっきりするなら、お姉さんは構わないわよ」

 

 オレの気持ちを分かってくれた粋怜が、ぐっと距離を詰めてくる。思わずドキッとした。

 

〈粋怜〉「お酒でも飲みに連れてってくれるの?」

 

〈孝矢〉「えッ……そんなんでいいのか?」

 

〈粋怜〉「もちろん。さっきの三人は問題外だったけど、孝矢くんと飲みに行くなら、いつでも大歓迎よ?」

 

〈孝矢〉「ならいいんだけどよ……」

 

 手持ちの金も、一度奢るぐらいなら大丈夫のはずだ。タイタスから、無駄遣いするなって厳しく管理されてるからな。母ちゃんがいたらこんな感じなのか。

 とタイタスのことを考えてたら、本人が口を挟んできた。

 

〈タイタス〉『それはいいのだが、孝矢……書簡のこと、忘れていないか?』

 

〈孝矢〉「ん? ……あぁーッ!」

 

〈粋怜〉「あら、何か忘れてた?」

 

〈孝矢〉「オレ、お使いで来てたんだった!」

 

 だから最初急いでたんだよ! すっかり忘れてた!

 

〈粋怜〉「お使い?」

 

〈タイタス〉『冥琳から商人の家へ、書簡を届けてほしいと頼まれていたのです。もう結構時間が経ってしまっているが……』

 

〈孝矢〉「やっべー……急がねーと、冥琳に怒られるぜ……!」

 

〈粋怜〉「そっか、残念ね。じゃあ、また次の機会があったら……」

 

〈孝矢〉「ん? いや、飲みに行くのは別に帰ってからでも……」

 

 建業の中を行って戻るだけなんだから、日付変わるぐらいの時間は掛からねぇはずだ。

 

〈粋怜〉「違うの。私も、今夜は祭と一緒に飲む約束をしていたのを忘れてて。ごめんね?」

 

〈孝矢〉「ええ? ……ああ、そーいうことなら……」

 

 自分から言っといて……。まぁ、下手に出てるのはこっちだから、粋怜の都合に合わせんのは当然だがよ。

 

〈粋怜〉「嘘じゃないわよ?」

 

〈孝矢〉「疑ってなんかねーよ」

 

〈粋怜〉「でも暗い顔。お姉さんとそんなに飲みたかった?」

 

〈孝矢〉「いや……オレがしてぇのは、礼だから……」

 

〈粋怜〉「別にお礼じゃなくても、いつでも気軽に誘ってよ? 可愛い男の子から、お誘いを受けるのはお姉さんだって嬉しいし。ねっ?」

 

〈孝矢〉「可愛いって……」

 

〈タイタス〉『孝矢、もうそろそろ……』

 

〈孝矢〉「あ、ああ……!」

 

〈粋怜〉「ふふっ。じゃあ、私も巡回中だから。孝矢くんもお使い、頑張って♪」

 

 オレが離れるより先に、粋怜の方から道の向こうへと去ってった。

 相変わらず、粋怜にゃ敵わねぇ。腕っ節でも、会話でも。もっともっと強くなって、落ち着きも身に着けなきゃ、粋怜と対等にはなれっこねぇってことか……。

 ともかく、今はさっさとお使いを済ませなくっちゃな。

 


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