奥特曼†夢想 ‐光の三雄伝‐   作:焼き鮭

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穏の異常!?

 

〈孝矢〉「おーい冥琳、来たぜー」

 

 あくる日、オレはピグを連れて、玉座の間に入った。冥琳に呼ばれたんだ。

 

〈孝矢〉「おーい、冥琳」

 

〈ピグ〉「どこなんだなー?」

 

〈冥琳〉「……そんなに大声を出さずとも聞こえている」

 

 玉座の間の奥から、冥琳が出てきた。こっちは、穏と一緒だ。

 

〈冥琳〉「急に呼び出して、すまない」

 

〈孝矢〉「いいぜ、こんくらい。けど、何でわざわざここに呼んだんだ?」

 

〈冥琳〉「ここからの方が近いからな」

 

〈孝矢〉「近いって、どこに?」

 

〈冥琳〉「蔵だ。練兵場の右手にある。そこへの用を、一つ頼まれてもらいたい」

 

〈孝矢〉「用事か。いいけど、何すりゃいいんだ?」

 

〈冥琳〉「物置代わりに使用している蔵だ。そこから、ある書を持ってきてほしい」

 

 何だ、物を取ってこいってことか。

 

〈孝矢〉「それなら、オレだけでいいのに」

 

〈冥琳〉「生憎、棚が整理されていないのでな……探すのに手間取るかもしれんので、人手はあるに越したことはない。ピグは、持ち運びくらいは出来るだろう」

 

〈ピグ〉「もちろんなんだな。この通り、お手てついてるんだな」

 

 ピグはここじゃペットみてぇな扱いで、これといった仕事は与えられてねぇ。人間じゃねーしな。これが城内うろついてたら、慣れてねぇ奴がビックリするだろう。

 

〈ピグ〉「けど、何の本を持ってくればいいか、分かるかな、ピグたちに」

 

〈冥琳〉「そのために穏を同行させる。詳しくは穏に聞いてくれ。ただし……蔵が暗く、人目につきにくいからといって、良からぬことは考えぬように」

 

〈孝矢〉「失礼言うぜ。んなことしねーよ」

 

〈冥琳〉「ならいいが。穏は、くれぐれも蔵には入らんようにな」

 

〈穏〉「はあぁ~~~い」

 

 穏への注意に、オレたちは首を傾げた。

 

〈孝矢〉「案内なのに、蔵には入るなって? そんなにオレが信用できねーのかよ」

 

〈冥琳〉「そうではないのだが……事情があってだな」

 

〈タイタス〉『事情とは?』

 

〈冥琳〉「……それは後でお話ししましょう」

 

〈穏〉「参りましょう~、孝矢さん」

 

〈孝矢〉「ああ……」

 

 どうも腑に落ちねぇが……ともかく、オレたちは穏と一緒に城の外に出てった。

 

 

 

 練兵場を横切る中から、穏はやけにウキウキしてた

 

〈穏〉「蔵に行くのは久しぶりなんですよぉ~。楽しみで楽しみで、どうしましょう~」

 

〈孝矢〉「楽しみって、入るなって言われただろ?」

 

〈穏〉「……でしたね」

 

 突っ込むと、途端にがっくりする穏。

 しかし……蔵が楽しみって、どーいうこった? 遊園地じゃあるまいし……楽しいとこじゃねぇだろ、普通に考えりゃ。よく分かんねぇ趣味だぜ……。

 

〈穏〉「わたしは平気ですので~。お任せしてすみませんが、よろしくお願いします」

 

〈孝矢〉「平気? 何が?」

 

〈ピグ〉「もしかして、お化け、出るのかな。怖いんだなぁ、それは……」

 

〈孝矢〉「おめぇロボット……」

 

〈穏〉「書の宝庫ですよっ!」

 

〈孝矢〉「おわッ!?」

 

 オレのツッコミをさえぎって、穏が大声出すんでびっくらこいた。

 

〈穏〉「今日、持ってきていただきたいのは『呉孫子兵法八十二篇』と言いまして~」

 

〈孝矢〉「孫子! 前に聞いたな」

 

 炎蓮さんたちが、その子孫って言ってたっけ。その兵法書か。敵を知り己を知ればって言葉は聞いたが、本を生で見る機会が来るなんてな。

 

〈穏〉「蔵書自体はそんなに多くありませんので、探すのに、そこまでは苦労しないと思いますよ~」

 

〈ピグ〉「それは良かったんだな、やっぱし」

 

 書ねぇ……。穏、読書家って聞いたし、だから嬉しそうだったのか。

 ……じゃあ、何で蔵に入っちゃいけねぇんだ? 冥琳も、ひでぇこと言うなぁ。

 

〈タイタス〉『ここみたいだな』

 

 話してる内に、目的の蔵の前に到着した。

 

〈孝矢〉「じゃ、さっさと取ってくるか」

 

〈穏〉「お願いします~」

 

〈ピグ〉「すぐ戻ってくるから。待っててなんだな」

 

〈穏〉「どうぞ、なるべく急いで下さいね」

 

 のんびり屋の穏がそう言うなんてな。今日は仕事、忙しいのか?

 

〈穏〉「あまり焦らしたら知りませんよぉ。責任を持てませんからねぇ~」

 

〈孝矢〉「せ、責任?」

 

〈穏〉「さ、早く~」

 

 オレとピグを蔵ん中にぐいぐい押し込む穏。どうも、今日の穏はよく分かんねぇ……。

 まぁともかく、オレとピグで孫子の捜索を始めるが……。

 

〈孝矢〉「うわッ……何が多くないだよ。いっぱいあんじゃねーか」

 

〈タイタス〉『流石に、城の書庫となると、街の本屋とは訳が異なるな』

 

 壁にはまった本棚には、みっちりと本が詰め込まれてる。こん中から探すのは大変そうだ。

 

〈孝矢〉「オレこっち探すから、ピグは反対からな。呉孫子って書いてある奴だぞ」

 

〈ピグ〉「分かったんだな」

 

 とりあえず、二手に分かれて棚をさらってく。オレも勉強してるし、タイトルぐらいなら大体分かるようにはなってるぜ。

 

〈孝矢〉「え~っと……『孫家的歴史』……これは違げぇか。他は『首次的海賊』『首次的江賊』……これ何が違げぇんだ?」

 

〈タイタス〉『海戦のハウツー本のようだな……。呉は長江が流れる土地だ。海戦の指南書は需要が高いのだろう』

 

〈孝矢〉「そーいうもんかねぇ……」

 

〈穏〉「孝矢さぁん、まだですか~?」

 

〈孝矢〉「お、おう! もちっと待ってくれ!」

 

 蔵の外から、穏が急かしてくる。いつもルーズなのに、今日はやけに急がせるじゃねぇか……。

 えーっと、呉孫子呉孫子っと……。

 

〈穏〉「急いでいただかないとっ、は……ぁ、わたしぃ」

 

〈タイタス〉『……孝矢よ、何だか穏の様子がおかしくないか?』

 

〈孝矢〉「え? ……あ、そーだな……」

 

 外で待ってるだけのはずなのに、変に息遣いが荒いぞ? 何やってんだ……?

 と、とにかく、早えぇとこ見つけねぇと……!

 

〈タイタス〉『あったぞ! 左下の棚!』

 

〈孝矢〉「ああ、これか!」

 

 表紙に『呉孫子兵法書』と書いてある。これで間違いねぇな。いっぱいあるけど……どの巻持ってこいとは言われなかったな。

 

〈穏〉「孝矢さぁ~~~ん」

 

〈孝矢〉「分かってる分かってる! 後ちょっとだから! おーいピグ、あったぞー!」

 

 とりあえず、一巻を持ってこ。棚から抜いて、パンと叩いて埃を払う。

 

〈孝矢〉「うッ! げほげほッ!」

 

〈タイタス〉『何をやっとるのだ……』

 

 すっげぇ埃が舞い上がった……! 掃除しろよ……! 整理されてねぇって、ほんとだな……。

 ともかく、ピグと合流して蔵から出る。やたら騒がしかった穏だが、ちゃんと門の前で待っててくれた。

 

〈穏〉「ご苦労様でした、それで~」

 

〈孝矢〉「この通り持ってきたぜ。けどどの巻か聞いてなかったから、とりあえず一巻を……」

 

 片手に掴んでる本をチラと見せる。

 

〈穏〉「ふほおぉぉぉぉぉうっ!?」

 

〈孝矢〉「おうわッ!?」

 

〈ピグ〉「な、何だ何だ!?」

 

 途端、穏がとんでもねぇ奇声を上げて飛びすさった。

 

〈穏〉「わたしには見せなくていいのですっ、仕舞って下さぁ~~いっ!」

 

〈孝矢〉「仕舞えって、どこに……」

 

〈穏〉「わたしの目に入らないどこかですぅ~っ!」

 

 な、何だこの反応……。仕舞えったって、カバンとか持ってきてねぇぞ……。

 

〈ピグ〉「ここに入れるといいんだな」

 

〈孝矢〉「ん? うわッ!?」

 

 振り向くと……ピグの腹がパカッと開いてた!

 こいつの腹ん中、がらんどうじゃねーかッ! コンロみてぇのがあるだけッ! 雑な作りのロボットだな……。

 

〈孝矢〉「ま、まぁいいや。じゃあここに……」

 

 本をピグの腹に入れて、扉? 蓋? を閉める。

 

〈孝矢〉「もういいぞ~。けど、何で仕舞えって……」

 

〈タイタス〉『良くない思い出でもあるのか?』

 

〈穏〉「くん、くんくん……はふぅ~」

 

〈タイタス〉『……穏……?』

 

〈ピグ〉「……何やってるんだな?」

 

 何か……その辺の空気を嗅いでる……。

 

〈穏〉「この手にすることが叶わなければ、せめて……この素晴らしき本の存在を、五感のいずれかに残しておきたいのです……くんくん」

 

 穏の奇行に……オレたちは、そろって冷や汗を垂らしてた。

 

〈ピグ〉「……どういうことなのかな? やっぱし……」

 

〈タイタス〉『全く以て分からんが……触れてはいけないことのようだぞ』

 

〈孝矢〉「と、とりあえずスルーしようぜ……」

 

〈穏〉「さぁ、冥琳さまの元へその素晴らしい本を! 愛くるしいその本を! お届けしましょう!」

 

 ヒソヒソ話し合うオレたちを尻目に、穏が意気揚々と歩き出した……。

 

 

 

〈冥琳〉「……うむ、確かに『呉孫子兵法書』だ」

 

 冥琳を捜して、持ってきた本を渡した。ピグの腹から取り出す時、冥琳もビクッとしてたが。

 ちなみに穏は、見えねぇようにってオレたちから離れたとこにいる。

 

〈孝矢〉「いっぱいあったけど、全部持ってきた方がいいか?」

 

〈冥琳〉「場所が分かったのならば、今はいい。ご苦労だったな」

 

〈孝矢〉「いいんだけどよ……」

 

〈冥琳〉「いいけど、何だ?」

 

〈孝矢〉「……おい穏、もうこっち来ていいぞー」

 

〈穏〉「いいんですか~?」

 

〈孝矢〉「おう」

 

 とりあえず穏を呼んでみせる。穏がとてとてこっちに来て、冥琳の手の中の本に視線が止まった。

 

〈穏〉「ひひゃあああぁぁぁぁぁ~~~~~んっ」

 

 その瞬間に、へなへなとその場にへたり込んだ。

 

〈穏〉「嘘じゃないですかぁ、ぐす……そこに『孫子』が、ひっ、麗しのご本がぁ~」

 

〈孝矢〉「……さっきからこんな調子でな……」

 

〈冥琳〉「予想はしていた」

 

〈孝矢〉「知ってたのか!? こうなるって……」

 

〈冥琳〉「だから南出たちを共に行かせたのだ。作業にならないからな。それに……」

 

〈孝矢〉「それに?」

 

 ……何か、冥琳がわっるい笑みを浮かべてんだが……一体、何なんだよ……。

 冥琳は中身を確認した本を閉じると、オレに差し出した。

 

〈冥琳〉「では、これはお前に預けよう」

 

〈孝矢〉「オレに?」

 

〈穏〉「ええええぇぇ~~~っ!?」

 

 穏が大声上げて立ち上がった。

 

〈孝矢〉「うわビックリした……! やめてくれよ穏」

 

〈ピグ〉「心臓に悪いんだな、やっぱし……」

 

〈孝矢〉「オメー心臓ねぇだろ……」

 

〈冥琳〉「残りのものも、後で持ち出しておくように。お前の教材にと持ってきてもらったのだ。しっかりと兵法を学んでおけ」

 

〈孝矢〉「え? オレが兵法学べって? 何で?」

 

〈冥琳〉「……しっかりな」

 

 オレの問いに答えずに、冥琳はオレの肩を叩くだけだった。

 

〈孝矢〉「けど、知ってる通り、オレまだ字もろくに読めねぇんだぜ」

 

〈冥琳〉「タイタス殿がいらっしゃるではないか」

 

〈タイタス〉『私も、軍の動かし方は専門的に学んだことはない。ずっと、少人数での活動だったのでな』

 

〈冥琳〉「ふむ……軍事に精通した教師が必要ということか。しかし、雷火殿は内政官であるし、私は多忙な身であるからな……」

 

〈穏〉「……」

 

〈孝矢〉「おい穏、袖引っ張んなよ」

 

 穏がやたら期待した目でこっち見てる。

 

〈穏〉「お勉強を見る目が必要ということですので~、ではですね? その~」

 

〈冥琳〉「……」

 

 自分を売り込む穏だが、冥琳は厳しい表情だ。

 

〈孝矢〉「ダメなんか?」

 

〈冥琳〉「南出が構わなければと言いたいところだが……」

 

〈穏〉「構いませんよね~? わたしも是非、お役に立ちたいですし」

 

〈冥琳〉「……適任ではある。ある意味、南出も適任と言えなくもないか」

 

 ? ? オレが何の適任なんだ? さっきのことと言い……一体、穏に何があるんだよ……。

 

〈冥琳〉「つまりは……ふむ、穏はこの本を教本とする場合、少々『変わった教え方』をするかもしれないが、双方問題はないな? と聞いている」

 

〈孝矢〉「か、変わった教え方?」

 

 気になる……何か恐ろしくも感じるが……穏が子犬がすがりついてくるような目で見てんのを、無下に断るのもなぁ……。

 

〈孝矢〉「まぁ、教えてくれんだったら何でもいいぜ」

 

〈冥琳〉「ならば良し。穏よ、お前も将として……諸々、節度を持って臨むように」

 

〈穏〉「はぁい~~」

 

 穏も穏で、何か含みのある笑い浮かべてんのが気になるとこだが……これも好意だしな。

 

〈タイタス〉『孝矢……そんなに軽く決めていいのか? せめて、もう少し事のあらましを聞いてからでも……』

 

〈ピグ〉「やっぱし、訳の分かんないことばっかなんだな」

 

〈穏〉「いえいえ。何事もなく済むかもしれませんし、その時はその時ですので~……追々と言いますか」

 

〈孝矢〉「……?」

 

〈冥琳〉「その内分かる。そこからは、お前の考えで行動するように。では、な」

 

 手を振って、階段の方へ立ち去ってく冥琳。残った穏は、大きき息を吐く。

 

〈穏〉「ふうぅ~……これで、『孫子』とのご縁を断ち切らずに済みました」

 

〈孝矢〉「縁?」

 

 本との縁って何だよ……。好きな時に読めばいいじゃん。

 

〈穏〉「いえいえっ! では、お勉強は仕事の合間を見てということにしまして……今日は、手習いに必要なものでも買いに行きましょう」

 

〈孝矢〉「ああ……」

 

〈ピグ〉「行ってらっしゃーい、なんだな」

 

 どうにも気掛かりなことばっかだが……まぁ、穏が相手なんだし、なるようになるだろ。

 


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