奥特曼†夢想 ‐光の三雄伝‐   作:焼き鮭

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黄巾党じゃなくて白翼党!?

 

 その日の評定は、いつになくきな臭い話題で始まった。

 

〈冥琳〉「本日は皆へ、重大な報告があります」

 

〈炎蓮〉「また随分と大袈裟な前置きを入れたもんだ。その内容は?」

 

〈冥琳〉「はっ。華北から中原に掛けての地域の賊に関してなのですが……先日より、その活動が異様に活発化、規模も急激に拡大しつつあるとの情報を入手しました。一部が既に揚州にも侵入し、被害を出しています」

 

 冥琳の話すことに、謁見の間がザワッと騒いだ。

 

〈雪蓮〉「ちょっとちょっと、それどういうこと? あの辺の賊は、幽州や苑州の刺史の活躍によって減少傾向にあるって、この間言ってたばかりじゃない!」

 

〈冥琳〉「だから異様なのだ。この盛り返しようは、普通ではない。――それだけではありません。賊どもは、出で立ちにある一つの共通点を持ち出しています」

 

〈穏〉「共通点、ですかぁ?」

 

〈粋怜〉「出で立ちに?」

 

 そこまでの話を聞いて――オレは、その正体がおぼろげに分かってきた。

 確か、三国志の序盤でそんなイベントがあったな……。農民の大反乱が起こって、官軍が次々やっつけられて、代わりに各地の諸侯が反乱を治める。それをきっかけに、漢王朝の権力は徐々に群雄に取って代わられるようになるんだ。

 その反乱を起こした奴らの名前は……シンボルから取られたもので……。

 

〈冥琳〉「各地で略奪を行っている賊たちは、末端の一人一人に至るまで、その身に――」

 

 そうそう。確か、頭に……。

 

〈冥琳〉「背面に、白い翼の飾りを取りつけています」

 

 黄色い布を……・

 へッ!?

 

〈祭〉「白い翼の飾りじゃと……?」

 

〈雷火〉「それに、何の意味があるのじゃ?」

 

〈冥琳〉「意味は不明です……。得られている情報は、十分なものとは言えませんので」

 

〈雪蓮〉「白い翼ねぇ……鳥にでもなって飛んでいきたいのかしら」

 

〈穏〉「盗賊なのに、やることがかわいいですね~」

 

〈炎蓮〉「はっ、お伽噺じゃあるめぇし。何だ、その酔狂は」

 

〈孝矢〉「ちょちょちょ、ちょっとタンマ!」

 

 たまらず、オレは声を張って評定を一旦ストップさせた。

 

〈粋怜〉「たんま?」

 

〈雪蓮〉「孝矢、そんなに慌ててどうしたの?」

 

〈孝矢〉「あの……賊がつけてんのが、白い翼って、それマジか? 黄色い布じゃなくて?」

 

〈冥琳〉「黄色い布……? そのような報せは、入ってきていないが」

 

〈孝矢〉「ええ……? おっかしいな……黄巾党じゃねぇのか……? 白い翼……? んなイベント、あったか……?」

 

 混乱するオレの様子を見て、炎蓮さんが聞いてくる。

 

〈炎蓮〉「孝矢よ。まさか、貴様の持つ未来の知識と、今冥琳が申した報告の内容が、食い違っておるのか?」

 

〈雷火〉「何じゃと? 孝矢、お主、未来から来たという触れ込みであったであろう。よもや、嘘だったとでもいうのか?」

 

〈孝矢〉「い、いや、それは……」

 

〈粋怜〉「雷火先生。そんなきつい言い方をしなくともいいじゃないですか。孝矢くんが未来人であることは、今更疑いようがないことですよ」

 

〈雷火〉「じゃが、実際に孺子の知識が間違っておるではないか」

 

 オレを疑う雷火さんに、炎蓮さんが言い聞かす。

 

〈炎蓮〉「待て雷火よ。もしかすると、間違っているのは、オレたちの方かもしれんぞ」

 

〈雷火〉「む……? 炎蓮様、それは如何な意味で……」

 

〈炎蓮〉「ひとまず、情報を整理しよう。冥琳、白い翼の賊は、無秩序に略奪を働くだけか?」

 

〈冥琳〉「いえ。奴らは通常の賊と異なり、官軍の駐屯地、食料庫を主に狙って襲っているようです。これらを踏まえるに、漢王朝への組織的な叛乱が目的と言えるでしょう」

 

〈炎蓮〉「孝矢。お前の言う黄巾党とやらも、実情は同じか?」

 

〈孝矢〉「あ、ああ……。黄巾党は国への反乱が目的で、どんどん規模がでっかくなってく。収集がつけらんなくなった王朝は、炎蓮さんみてぇな各地の有力者を頼るようになるんだよ……」

 

 だったよな……。ここ重要だぞ。間違えたら、信用に関わる。

 

〈冥琳〉「ふむ……格好以外は、現在の状況と、今後発生する事態の予測とほぼ一致するな」

 

〈穏〉「つまりぃ……両者は本質的に、同じものだということですかぁ~?」

 

〈祭〉「じゃが、何故黄色い布が白い翼に変わっておるのじゃ?」

 

 もっともな疑問だ。白い翼の飾りなんて、作るのにひと手間掛かりそうなもんが、自然と流行るとは思えねぇぜ。

 

〈炎蓮〉「タイタス……お主ならば、何か分かるのではないか?」

 

 炎蓮さんがその謎を、タイタスに問いかけた。

 タイタスは、重々しい口調で答える。

 

〈タイタス〉『恐らく……私と同じような、外世界からの異邦人……宇宙人の仕業ではないかと思われます』

 

〈孝矢〉「え? 宇宙人ん?」

 

〈タイタス〉『以前、こんな話があっただろう。苑州陳留で、虫の頭の人間が捕獲されたという』

 

〈雪蓮〉「そういえば、いつかの評定で聞いたわね」

 

〈タイタス〉『それがきっと宇宙人だ。昆虫のような頭部の種族は、さして珍しくもないからな』

 

 マジかぁ……宇宙人ってほんとにいるのか。いや、他ならぬタイタスがそうなんだけどさ。

 

〈タイタス〉『奴らは既にこの地に入り込んでいる。そう仮定すると、白い翼の賊とやらにも説明がつく。私も直接会った訳ではないが、人々に同様の格好をさせて洗脳する種族がいるのだ』

 

〈雷火〉「奇特な者どもがおるのですな……」

 

〈粋怜〉「では、この動乱の裏には、その者たちの影があるということで?」

 

〈タイタス〉『まだ断言は出来ませんが、その可能性は大いにあります』

 

 結論づけたタイタスが、オレに向かって呼び掛ける。

 

〈タイタス〉『孝矢……きみも心の用意をしておいた方がいい。もしも私が言った推測が当たっているなら……これからの戦いは、今までよりも過酷なものになるに違いない』

 

 ま、マジかよ……。今までだってピンチになる場面はあったってのに、それよりももっときつい戦いが待ってるってか……。これからオレ、どうなっちまうんだ……?」

 

〈雪蓮〉「ま、誰が何の目的を持っていようとも、やることは変わらないわ」

 

 重くなりそうな場の空気を拭うように、雪蓮が言い放った。

 

〈雪蓮〉「たとえ何者であろうとも、この揚州を荒らすことは許されないもの」

 

〈炎蓮〉「ああ。この大陸は我が覇道の舞台。どこの馬の骨とも知れん奴らに、明け渡すなど以ての外よ」

 

〈雪蓮〉「ええ」

 

 炎蓮さんは今の話にも少しも怯まねぇ。テキパキとみんなに指示を出してく。

 

〈炎蓮〉「冥琳は更に情報を集めよ。白い翼の賊……孝矢の言う黄巾党に倣って、白翼党とでもしようか。そやつらの主導者が何者か、その正体も含めて探るのだ」

 

〈冥琳〉「はっ!」

 

〈炎蓮〉「祭、粋怜! 貴様らはいつでも賊を討てるよう、兵の準備を整えておけっ!」

 

〈祭〉「はーっ!」

 

〈粋怜〉「承知致しました!」

 

 炎蓮さんの取り決めで、白翼党なる奴らの対策にみんな動き出した。

 ……宇宙人……漢王朝への反乱の陰に蠢く、新しいタイプの敵か……。これから、どんな戦いがオレたちを待ってるんかな……。

 


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