その日の評定も、今大陸を席捲してる、白翼党が議題だった。
〈冥琳〉「呉郡に侵入した白翼党は、追い払うことに成功致しました。しかし、白翼の乱は今や大陸全土に広がりを見せております。先日は青州の斉国において、数千人による城攻めが行われたと聞きます」
〈雪蓮〉「賊が城攻めって……」
〈穏〉「いつかの賊の振る舞いが、当たり前のようになってきましたね~……」
〈冥琳〉「白翼党は現在も勢いを増し……大陸全土における総数は七十万とも八十万とも伝わっています」
〈祭〉「はっ、八十万だとぉっ!?」
〈粋怜〉「そこまで多いと、もう何が何やらね……」
みんなが驚くのも納得の数字だぜ……。八十万って、東京ドームが何個ありゃ収まり切るんだ? それが全員賊って、考えたくもねぇぜ……。
〈雷火〉「ぬぅ……まるで性質の悪い流行り病じゃな。して、白翼党の指導者は何者か分かったのか?」
〈冥琳〉「はっ。張角、張宝、張梁という名の三姉妹によって率いられているようです」
三姉妹、ねぇ。そいつらもホントの三国志じゃ、やっぱ男なんだろーな、そりゃ……。
〈祭〉「張角? 知らんな、何者じゃ」
〈穏〉「詳しくは分かっていませんがぁ、白翼党の人たちからは大賢良師さまと呼ばれて、大変、崇められているみたいですね~」
〈冥琳〉「それで……実はつい先日、この丹陽郡の南部でも白翼党が蜂起しました」
〈祭〉「まっこと、どこにでもいきなりにして現れる連中じゃな」
〈穏〉「密かに指導者が送り込まれていたようですね~」
また白翼党が、揚州で暴れてんのか……! もうちょっとゆっくりしろっての。
〈孝矢〉「丹陽郡の南部って……この建業が丹陽郡なんだよな。ってこたぁ、こっから南行った方か?」
〈雪蓮〉「そうよ。私たち孫家じゃなく、刺史の劉耀が治めている地域だけど……劉耀はもう出陣したの?」
〈炎蓮〉「はっ、あの腰抜けめ! 乱が起こるや否や、賊に背を向けて逃げ出してしまったそうだ」
雪蓮の問いかけに、炎蓮さんが鼻を鳴らして答えた。
って……逃げたって?
〈雪蓮〉「えっ! 刺史のくせに逃げちゃったのっ!?」
〈冥琳〉「ええ。江夏太守の黄祖殿に援軍を頼んでおきながら、自らはさっさと長江を上って豫章に逃れたそうよ」
〈粋怜〉「黄祖殿が援軍に……?」
〈炎蓮〉「あ奴は前々から、この揚州に野心を抱いておったからな」
〈粋怜〉「はい。用心しなければ」
知らねぇ名前が出てきた。江夏ってとこの太守か。大陸広いだけあって、色んな奴がいるんだな。
〈雪蓮〉「ねぇ冥琳、劉耀軍の損害は?」
〈冥琳〉「大きいと聞いている。散々追い打ちを掛けられ、多くの将兵を失ったようね」
〈雪蓮〉「そう……」
何か、雪蓮が妙に顔を曇らせてる。
〈祭〉「策殿、如何した?」
〈雪蓮〉「……うん、あの子。無事なのかなって」
〈祭〉「ああ、太史慈のことか。あれほどの剛の者が、賊如きに討ち取られることはあるまい」
〈雪蓮〉「……だといいんだけど」
〈孝矢〉「たいしじって誰だ?」
〈祭〉「劉耀殿の武将での、策殿がひと目惚れした相手じゃ」
〈孝矢〉「え……!?」
ひと目惚れ……雪蓮がひと目惚れしたって!?
そ、そうか……雪蓮、そんな相手がいたんだな……全然知らなかった。いや別に、雪蓮とそんな仲だって訳じゃねぇが……どうも複雑な気分だぜ……。
〈炎蓮〉「まぁ、これで丹陽郡も全土がオレの手に入った訳だ。賊は叩き出さねばならんが」
〈雷火〉「果たして劉耀殿がお認めになりますかの?」
〈炎蓮〉「知ったことか。刺史の役目を放って、賊軍から逃げたのは奴だ。空き家なら、いただくまでよ」
〈祭〉「うむ、おっしゃる通り!」
〈炎蓮〉「明日にでも賊を蹴散らしに行く。粋怜、表情が済んだら、すぐに兵を動かせるよう準備をしておけっ!」
〈粋怜〉「はっ、承知しました!」
炎蓮さんの判断は早い。特に戦いとなりゃ、大体のことは即決だ。
白翼党の対策がおおよそ決まると、議題は新しいのに切り替わる。
〈炎蓮〉「……で、次だな。一連の、賊の跋扈からの白翼党の勢力増大の流れにおいて、ろくに対処も出来ん官軍の情けなさは目に余るが、逆に台頭してきた連中もいる」
〈冥琳〉「ええ。昨今の賊討伐によって名を上げている諸侯といえば、苑州の曹操でしょうか。他には冀州の袁紹殿、幽州の公孫賛殿も……」
〈祭〉「ほほう、曹操か。三人の天の御遣いの一人をかくまってもいるという話じゃったな?」
〈冥琳〉「はい。曹操はその評判と、賊相手の戦果、並びに州の官吏の綱紀粛正の徹底によって民衆の覚えを良くしていき、今では苑州の新たな刺史に就任しております。現状、諸侯一番の出世頭と言えるでしょう」
〈炎蓮〉「ほぉう……土地は違えども、オレよりも早く太守から刺史に昇格とは、流石大宦官曹騰の孫。侮れぬな」
〈雪蓮〉「確かに……。何だか、ちょっと悔しいわね」
炎蓮さんより先に、州のトップに昇進か……。やっぱ、曹操ってすげーんだな。
その世話になってんのが、一刀か、鎗輔か……どっちか知らねぇけど、二人ともこの世界で頑張ってんのかな。きっとそうだろうな。他の州で巨人、ウルトラマンが怪獣を退治したって話、たまに入ってくるし。オレも負けてらんねぇよな。
〈冥琳〉「後は……華北において白翼党相手に最も奮闘しておられる公孫賛殿の下に、劉備という客将が身を寄せています」
! 劉備……とうとう大陸に名乗り出たか!
〈粋怜〉「劉備……以前に孝矢くんが、曹操と並んで名前を挙げたわね」
〈冥琳〉「はい。出自はやはりよく分かりませんが、義勇軍を立ち上げ、各地で賊を打ち倒し、その名声は中原にも広まりつつあるとか。先にお話ししました、斉国の白翼党征伐の手柄も、劉備のものだそうです」
〈穏〉「はあ。お強いみたいですね~」
〈雷火〉「じゃが、所詮一介の客将じゃろう? それが曹操や、炎蓮様に並び立つほどの将に成るのか?」
〈粋怜〉「にわかには信じがたい話ですよねぇ……」
いや、あの三国志の主人公ともいえる劉備が、そんな扱いってのがオレ的には信じらんねぇんだけど……。けどそこを抜きゃ、確かに今はそこまですごい奴でもねぇか。
〈雪蓮〉「幽州にいるという天の御遣いの三人目は、孝矢の言った通り、劉備と行動を共にしてるの?」
〈冥琳〉「そこははっきりしていないわ。ただ、劉備の行くところにウルトラマンもまたあるから、何らかの形で関わっていることはほぼ間違いない」
まぁ、そうだろうな。オレだって、劉備が近くに来てるってなったら、こっちから会いに行くわ。
〈炎蓮〉「くくくっ……来たか劉備。やはり、孝矢の予言は本物だったようだな」
炎蓮さんは楽しそうに膝を叩く。
〈炎蓮〉「つまり、この連中が白翼の乱の後、目障りになってくる奴らよ。さて、誰から叩く? 早めに始末するべきは劉備辺りか?」
〈孝矢〉「えーッ!? やっつけるつもりかよ!!」
思わず声を荒げちまった。劉備やっつけるって……んなことしたら、勝った! 三国志完ッ! になっちまうじゃん!
〈炎蓮〉「何を驚いておる。前にも申したであろうが。いずれ、天の御遣いは全員、我が手中に集めると」
〈孝矢〉「い、いや、だからって……」
〈炎蓮〉「ああ、そうか……。己の後宮に他の男が入り込むことが不満なのだな? 安心せい。後の二人には、城下の女でもあてがうことにしよう」
べ、別にそーいう心配してたんでもねぇけど……。
〈雷火〉「炎蓮様、まずは足下の火を消さねば」
〈炎蓮〉「分かっておるわ。だが、乱を制しつつ、先々のことも今から考えておかねばならん……」
〈孝矢〉「だ、だったら!」
〈炎蓮〉「おっ?」
炎蓮さんが本気だってんなら、オレも意見するぜ。黙って立ってるだけじゃ、いる意味ねぇからな。
〈孝矢〉「一番に倒すべきなのは、曹操だってオレは思うぜ。先に言っちゃうけど、強さ的に一番厄介になんのは曹操だし」
〈祭〉「まぁ、今の時点でもその片鱗は出ておるな」
〈孝矢〉「だから、曹操はもう今の内にでも倒しといた方がいい。もっともっと強くなる前にな」
どうだ、オレの意見は……!
〈雷火〉「たわけ。左様なこと、出来る訳がない」
〈冥琳〉「ええ。曹操はあの曹騰様を祖父に持ち、朝廷の覚えもめでたく、白翼討伐にも功績のある将です」
〈雷火〉「つまり、攻める理由がないということじゃ」
〈穏〉「はい~。下手をしたら、わたしたちが賊軍になってしまいますよ~?」
〈炎蓮〉「くくっ、孝矢。どうだ?」
〈孝矢〉「うッ……」
ボコボコにされた……。くそッ、やっぱ素人考えじゃダメなんか……。
〈孝矢〉「……じゃあ、敵じゃなくて仲間を作っとくのはどうだ!? たとえば劉備とかと仲良くしとくとか。そうすりゃ後々有利になるだろ?」
他の奴と手ぇ組んで、一番強えぇ奴を倒すってのはバトルロイヤルの定番だからな。それに、劉備が仲間になるのは個人的にも嬉しい。
〈炎蓮〉「ふむ……」
〈粋怜〉「劉備か。ねぇ冥琳、一応、その人についてもっと詳しく調べてみたらどう?」
〈冥琳〉「そうですね」
おおッ、今度はなかなかいい感触だぞ……!
〈雪蓮〉「……はい! もうその辺でお終い!」
と思ってたら、雪蓮が強引に話を打ち切りに来た。
〈雪蓮〉「母様も、みんなも! 予言をアテになんかしてどうするのよ! 一番に見なくちゃいけないのは、目の前の現実でしょ? 予言に振り回されたら、目先のことすら見えなくなっちゃうわよ」
〈炎蓮〉「ふっ……」
雪蓮、占いとか予言とかは嫌いなのか……。ちょっと出しゃばりすぎちまったか……。
〈雪蓮〉「予言に頼るだなんて、私はそういうの反対!」
〈炎蓮〉「聞くだけ聞いたまでよ。それでどうするかは、オレ自身が決めることだからな」
〈雪蓮〉「そうだけど……」
〈炎蓮〉「それに孝矢もいい加減、評定で意見を申さねばな。ふふっ、貴様は面白い奴だ」
〈孝矢〉「へ? 何が?」
〈炎蓮〉「戦場では終始青い顔をしておったのに、こういう場だと肝の据わったことを申すのだな?」
〈孝矢〉「あッ……」
そうだ。意識してなかったけど、オレ……戦争をどうするかって話ししてたんだ。
〈炎蓮〉「だが、一度、口に出した言葉には責任を持たんといかん。劉備との同盟が、我が孫呉にとって真に益となるのか? 貴様は劉備に会ったか? 話したことはあるのか?」
〈孝矢〉「えッ……」
〈炎蓮〉「曹操もそうだ。冥琳が申したこと以外に、己で彼奴ら如何なる武将であるかを考えてみたのか?」
〈孝矢〉「それは……」
何も言い返せなかった。オレが言ったのは全部、イメージから来てる話だ。実際にはどうなのかって、ちっとも考えちゃいなかった。
〈炎蓮〉「いつまでもあやふやな記憶など頼りにするな。己の目を、耳を信じよ。ここは天の国ではない」
〈孝矢〉「……はい」
気持ちを入れ替えて、炎蓮さんにうなずき返す。自分の目と耳を信じろ、か……。やっぱ炎蓮さんには敵わねぇぜ。
評定の後で、オレはタイタスと二人だけで話をする。
〈孝矢〉「タイタス……オレぁとうとう、戦の相談をしたよ。人間同士の戦いの話を……。タイタスはやっぱ、こーいうの、嫌だよな」
タイタスは人間を守るために、怪獣と戦ってんだ。その人間が身内で争って、オレまでそれに加わるなんて、面白く思う訳がねぇよな。
〈タイタス〉『うむ……複雑な気持ちにならないと言えば嘘になる。だが……どんな荒波も人生の道程だ。人は波乱に打たれ、揉まれてこそ強く育つ。君のこの経験も、君という人間を大きく成長させるだろう。だから、私に構わずに、己の考えの下にこの世界を生きていきなさい』
〈孝矢〉「そっか……分かった。ありがとな、タイタス!」
タイタスはこういう時、ほんと優しい。その心遣いを無駄にしねぇよう、でっけぇ男になんなくちゃな!