奥特曼†夢想 ‐光の三雄伝‐   作:焼き鮭

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羅刹の剣!!

 

 白翼党五万に突撃を掛ける孫軍の中で、一番に攻撃したのは冥琳だった。

 

〈冥琳〉「小手調べだ」

 

 冥琳の指揮で、弓兵たちが突撃する部隊に先駆けて白翼党に矢を浴びせる。

 

〈白翼党〉「ぎゃあッ!」

 

〈白翼党〉「ぐえぇッ!」

 

〈白翼党〉「いぎゃあッ!」

 

〈冥琳〉「ふっ……取るに足らぬな」

 

 孫軍を迎え撃とうとしてたとこを止められた白翼党に、雪蓮と粋怜の二つの部隊が襲い掛かる。

 

〈雪蓮〉「行けっ!」

 

〈粋怜〉「行けぇっ!」

 

〈孫軍兵士〉「「「うおおおぉぉぉッ!!」」」

 

 無数の槍の突撃が白翼党の兵士たちをはね飛ばした。

 

〈白翼党〉「うぎえぇぇぇッ!」

 

〈粋怜〉「まだっ!」

 

〈白翼党〉「ぐべはぁッ!!」

 

 粋怜自身も槍を振るいながら飛び掛かって、白翼党の数人を一撃で斬り払った。

 

〈白翼党〉「よくやりやがったなぁッ!」

 

 すぐに別の兵士たちが、粋怜の背後から押し寄せるが、

 

〈粋怜〉「甘いっ!」

 

〈白翼党〉「ひぎゃぁああッ!?」

 

 振り向きざまの槍の暴乱が、そいつらをズタズタにした。

 

〈粋怜〉「その油断が命取りね」

 

 ぶつかり合いは孫軍が制したが、白翼党は数の差で押し返そうとしてくる。だが、こっちだって攻撃の手は緩めちゃいねぇ。

 

〈炎蓮〉「撃てぇーっ!」

 

〈祭〉「てぇーっ!」

 

 炎蓮さんと祭さんが率いる兵士たちが、次々に矢を撃ち出す。

 

〈白翼党〉「ぎええぇぇ――――――ッ!?」

 

〈祭〉「まだまだ! 放てっ!」

 

 前列の敵を薙ぎ倒しても油断しねぇで、祭さんが後続にも矢を食らわせ続ける。

 

〈白翼党〉「ぐっはぁぁッ!!」

 

〈祭〉「たっぷり食らわせてやれいっ!」

 

〈黄蓋隊〉「「「おおおぉぉ―――――ッ!!」」」

 

 祭さんの鼓舞ですっかり昂揚した兵士たちが、ひたすら弓を撃ち続けて敵を減らした。

 

〈雪蓮〉「倒す!!」

 

 矢の雨をどうにか抜けても、雪蓮の抜いた剣の刃が追い打ちを掛ける。

 

〈白翼党〉「ぬへぇぇえッ!」

 

〈雪蓮〉「細切れにしてあげるっ!!」

 

〈白翼党〉「ごっはぁぁぁッ!!」

 

 雪蓮は片っ端の敵に剣を走らせて、宣言通りに一瞬で細切れにしてみせた。

 

〈白翼党将〉「お、おのれぇッ! 敵将はあそこだッ! あれを討ち取れぇぇいッ!」

 

 ものすげぇ勢いでやられる味方に焦った敵将が、兵士たちを炎蓮さんに差し向けるが、

 

〈炎蓮〉「……くくっ……!!」

 

〈白翼党〉「がッ……!?」

 

 炎蓮さんは誰よりも上回る強さで一辺に迫る敵を斬り捨てた。武将たちの大活躍で、孫軍全体が戦う毎に昂揚してく。

 せっかく新しい武器も作ってもらったが、オレの出る幕なんかは全くねぇほどの試合運びだ……完全なコールドゲームだぜ……。

 

〈孝矢〉「……みんなすげぇな……」

 

〈タイタス〉『うむ……。一人一人が、すさまじき強さだ……。羅刹の如くだな……』

 

 オレのぼやきに、タイタスも同意。前回は炎蓮さんの独壇場だったが、今回で決して炎蓮さんだけが強えぇだけの軍団じゃねぇってのを、はっきりと目の当たりにした。

 

〈冥琳〉「数で劣っているなら、それなりの戦い方をしてみせる……!」

 

〈白翼党〉「強い! 何だこいつら、これまでの官軍とはまるで違うッ!」

 

〈炎蓮〉「はっ、孫呉の軍は天下無双よ。腐れた官軍など足元にも及ばんわ」

 

 炎蓮さんの言う通り、白翼党は倍以上の数がいるのに、孫軍の相手にもならねぇ。もう勝敗が見えてきたとこで、炎蓮さんの号令が轟く。

 

〈炎蓮〉「さぁ思う存分に蹴散らせ! 賊徒に慈悲など無用ぞ!」

 

〈孫軍兵士〉「「「うおおおぉぉぉぉぉ――――――――ッ!!」」」

 

〈白翼党〉「に、逃げろぉッ!」

 

〈白翼党〉「もう駄目だ! 勝ち目はねぇッ……!」

 

 日が昇り切った頃には、孫軍の怒涛の勢いに押されて、白翼党が勝負をあきらめて後退し出した。

 

〈指揮官〉「ひ、退くなー! 恐れるでない! 我らには大賢良師張角さまがついて……」

 

〈炎蓮〉「うらぁああああっっ!!」

 

 軍団を押し留めようとした敵の指揮官は、途端に炎蓮さんに斬って捨てられた。

 

〈指揮官〉「ギャアアアッ!!」

 

〈炎蓮〉「はっはーっ! 押せ押せぇっ、敵は崩れたぞっ! 銅鑼を鳴らせっ! 太鼓を叩けぇええっ! オレに続けぇえええっっ!!」

 

〈孫堅隊〉「「「うおおおおおッッ!!」」」

 

〈祭〉「殿に後れを取るでないっ、我らも進めぇっ!」

 

〈黄蓋隊〉「「「おうッ!!」」」

 

〈粋怜〉「左翼から敵を包み込めっ、一兵たりとも討ち漏らすなっ!」

 

〈程普隊〉「「「おうッ!!」」」

 

〈雪蓮〉「ゆけぇっ! 敵を本隊に合流させるなっ!」

 

〈孫策隊〉「「「おおおおおッ!!」」」

 

 孫堅隊が真っ二つに切り裂いた敵陣を、黄蓋隊、程普隊、孫策隊が追撃する。緒戦の結果はもう決定した。

 

 

 

〈白翼党将〉「な、何ということだ……。大賢良師さま方に何とご報告すれば……」

 

 ――孫軍に徹底的に叩かれ、敗走していく兵たちのありさまに、生き残りの将は冷や汗が止まらなかった。

 そこに、白装束の怪しい男が将の傍らに現れる。

 

〈伝道師〉「散々にやられているな」

 

〈白翼党将〉「で、伝道師様!? いらしていたのですか……!」

 

 伝道師と呼ばれた男は、短く将に命令する。

 

〈伝道師〉「全軍に本陣までの退却の合図を」

 

〈白翼党将〉「お、お待ちを! まだ戦えます! せめて一矢を報いないことには、大賢良師さまに顔向けが……!」

 

〈伝道師〉「ふッ……信徒に毒を撒く訳にはいかんからな」

 

〈白翼党将〉「は……?」

 

 

 

〈冥琳〉「ふむ……勝負あったな」

 

〈孝矢〉「思ったよりずっと早かったなぁ……。まだ早朝だぜ?」

 

〈冥琳〉「いや、こんなものだろう。相手は賊軍、ひとたび指揮が乱れれば、容易には立て直せん」

 

 あんまりにもやることがねぇんで、本陣で冥琳とのんきに話すらしてたが……戦場の脇の地面が不自然に盛り上がってくのを目に留めた。

 

〈孝矢〉「ん? あれって……」

 

 あの感じ……嫌な既視感が……。

 悪りぃ予感は的中し――地表を破って先がふたまたに分かれた触手みてーなのが首をもたげたかと思うと、すぐに巨大怪獣本体が這い出てきた!

 

「カァァァァ……コォォォォ……!」

 

 四つ足でやたらいかつい顔面、しゃくれた下顎から太い牙が二本上向きに突き出てる。背中は甲羅で覆われてて、アルマジロみてぇだ!

 

〈孝矢〉「うわッ! お化けイグアナ!」

 

〈タイタス〉『まずいぞ、ケムラーだ! 毒ガス怪獣だぞ!』

 

〈冥琳〉「毒!?」

 

 タイタスの言葉に危機感を感じるオレたち。毒ガスって、まさか……!

 怪獣ケムラーは長い尻尾を持ち上げて頭上まで回すと――ふたまたの先端から、孫軍に向かって黄色いガスを噴射してきた!

 

〈孫軍兵士〉「うわッ!? 何だこの煙は……!」

 

〈孫軍兵士〉「うぅッ!? く、苦しい……!」

 

 ガスを浴びせられた兵士たちは、途端に喉を抑えてバタバタ倒れてく! やべぇ!

 

〈雪蓮〉「くっ……全軍、退けぇっ!!」

 

 雪蓮が素早く判断し、兵士全員を本陣まで退却させてく。

 オレもボサッと見てられねぇぜ!

 

〈タイタス〉『孝矢よ!』

 

〈孝矢〉「おうよッ!」

 

[カモン!]

 

 タイガスパークを起動し、タイタスキーホルダーを掴む!

 

〈孝矢〉「いっくぜタイタス!」

 

 キーホルダーを右手に持ち替えて、変身だ!

 

〈孝矢〉「バディー……ゴー!!」

 

[ウルトラマンタイタス!]

「ヌンッ!」

 

 巨大化したタイタスは、逃げる孫軍を追いかけようとするケムラーの前に地響き立てて降り立って、威嚇するように立ちはだかった!

 

〈タイタス〉『ここから先へは、通さんぞ!』

 

「カァァァァ……コォォォォ……!」

 

 ケムラーは甲羅を前から後ろにバカッと開いて、威嚇し返すように、毒々しい目玉みてーな模様がいくつも並んだ、毒蛾の羽みてぇな裏側を見せつけた。露出した背中には、二つに割れたしわしわな丸いもんが真ん中にくっついてる。

 って、あれもしかして脳味噌か!? いくら甲羅に隠れてるからって、脳味噌が外に出てるってどーいう生きもんだよ!!

 

 

 

〈袁術〉「おおー! あれが噂の天の御遣い、ウルトラマンとやらか! 話に聞いた通り、おっきいのぉ!」

 

〈張勲〉「建業に囲われてると聞きましたのに、お早い到着ですねぇ。神通力でしょうか?」

 

〈袁術〉「あれが我が軍の旗印になってくれれば、揚州征服も容易いのじゃが……思った以上にずっと筋肉達磨じゃのう。ちょっと暑苦しそうじゃ……」

 

〈張勲〉「三人いると聞いてますけど、他の方はどんなお姿なんでしょうねぇ」

 

 

 

〈冥琳〉「雪蓮! 無事!?」

 

〈雪蓮〉「ええ! タイタスのお陰で、被害は最小限よ。それより、母様を呼び戻さないと。あの人また、敵に突っ込んでいったんじゃないでしょうね……」

 

〈炎蓮〉「案ずるな。ここにおるわ」

 

〈雪蓮〉「うわぁっ!? ビックリしたっ!! さっきまで先頭にいたのに……」

 

〈冥琳〉「炎蓮様、ご無事で何よりです」

 

〈炎蓮〉「オレはそこまで猪ではない。退き際を見誤ったりせん」

 

〈雪蓮〉「どうだか。この前あれだけ言ったのに、やっぱり先陣切ってるし」

 

〈炎蓮〉「オレが先頭に立ったからこそ、兵は鼓舞され、賊どももその気迫に押されたのよ。我らに倍する敵を倒すため、最善の判断をしたまでのこと。それより、早く本陣を下げよ。タイタスが怪獣を食い止めておるが、毒煙がこちらへ流れてくることは十分あり得るぞ」

 

〈冥琳〉「はっ、直ちに!」

 

〈雪蓮〉「タイタス……孝矢……ここからは頼んだわよ……!」

 

 

 

「カァァァァ……コォォォォ……!」

 

 ケムラーは甲羅を閉じると、さっきのように、尻尾の先から毒ガスを噴射してくる!

 

「ムッ! ヌゥゥ……!」

 

 毒ガスを浴びせられるタイタスが、苦しそうに喉を抑えてうめいた。このガス、タイタスにまで効果あんのか!

 

〈孝矢〉『「うッ、オレまで……!」』

 

 オレも息が苦しくなってきた……! けど、タイタスの中で守られてるからまだマシなだけで、直接吸ったらこんなんじゃ済まねぇんだろうな……!

 

〈タイタス〉『くッ……アストロビームッ!』

 

 毒ガス攻撃に苦しめられながらも、タイタスが額からのレーザーで反撃。狙うはケムラーの背中の脳味噌だ。

 けど途端に甲羅が閉ざされ、レーザーは甲羅に反射されて空に飛んでいっちまった!

 

〈孝矢〉『「か、かってぇ……!」』

 

〈タイタス〉『流石に守りは固いか……! しかし、時間が掛かっては私たちだけでなく、炎蓮殿たちも危ない!』

 

 その通りだ。オレたちの後ろには孫軍がいるが、ガスを止めることは出来ねぇ。あんまり振りまかれたら、みんなが毒ガスの餌食になっちまうぜ。

 

〈タイタス〉『速攻で仕留めるしかないな!』

 

〈孝矢〉『「けど、どーやって倒す!? 奴は動きは鈍そうだが、防御力はすげぇぜ!」』

 

 毒ガス噴いてりゃ勝ちだからか、ケムラーは防御に特化したタイプみてぇだ。光線で遠くから攻撃してても、そうそう簡単には行かなさそうだぜ……! 時間が経つほどに、タイタス自身だって危ねぇ!

 

〈タイタス〉『何。毒ガスを攻略する手立てはある!』

 

〈孝矢〉『「おお! 流石タイタスだぜ! その方法は!?」』

 

〈タイタス〉『いいか……。下手にガスを避けようとするから、逃げ場を無くして結果追いつめられるのだ』

 

〈孝矢〉『「ん……? それって……」』

 

〈タイタス〉『ここはあえてガスの中を抜け、元を断つのだッ!』

 

 ……まーたゴリ押しっすか……こいつホントに賢者って呼ばれてんのかな……。まぁ、理には適ってるのかもしんねぇけど……。

 

〈タイタス〉『一発で決めるぞ! 力を集中するのだッ!』

 

〈孝矢〉『「おう!」』

 

[カモン!]

 

 雪蓮リングを召喚して、パワーアップだ!

 

[雪蓮リング、エンゲージ!]

 

〈タイタス〉『口元を抑えて、なるべく呼吸を少なくするのだ!』

 

〈孝矢〉『「ああ……!」』

 

〈タイタス〉『ゆくぞ! 噴煙突破せよッ!!』

 

 赤く染め上がったタイタスが、ケムラーの噴射する毒ガスに真正面から突っ込んでった!

 

「ウオオオオッ!」

「カァァァァ……コォォォォ……!」

 

 足の遅せぇケムラーは逃げらんねぇ。すぐにタイタスが距離を詰め、尻尾を鷲掴みにして片結びした。

 

「ムンッ!」

「カァァァァ……コォォォォ……!」

 

 尻尾を結ばれたことで、ガスが詰まって噴射できなくなる。ケムラーが露骨に焦りを見せた。

 その隙をタイタスは見逃さねぇ!

 

「ムゥンッ!」

 

 右腕をぐっと引き絞ると、腕に赤い電撃を纏い、更に左腕にも青い電撃を纏わせる。そして両腕を組んで、すさまじい電撃をほとばしらせる。

 

〈タイタス〉『タイタス! プラネットハンマーッ!』

 

 背筋をそらして腕を高々と振り上げ、ケムラーの甲羅にダブルスレッジハンマーを叩き込んだ!

 タイタスの拳が頑丈な甲羅を一撃で叩き割って、下の脳味噌も潰した!

 

「カァァァァ……コォォォォ……!!」

 

 明らかな致命傷をもらったケムラーは、瞬時に絶命。大爆発して砕け散った。

 

〈孫軍兵士〉「おおッ! タイタス殿の勝利だ!」

 

〈孫軍兵士〉「流石タイタス殿! 万歳ッ!」

 

〈孫軍兵士〉「「「うおおおぉぉぉぉ―――――――――!!」」」

 

 孫軍の歓声を背中で浴びながら、怪獣をやっつけたタイタスが空に飛び上がってった。

 

「ムンッ!」

 

 

 

〈祭〉「ふぅ、これでひとまずは安心じゃの。だが、白翼党は既に本陣まで逃げ切りおったか……」

 

〈粋怜〉「まっ、緒戦の勝利としては十分よ」

 

〈祭〉「しかし此度の白翼兵は、呉郡の時のような歯応えが無かったの」

 

〈粋怜〉「同じ白翼でも、きっと今戦ったのはそこいらの寄せ集めね。精鋭は本隊に温存しているんだわ」

 

〈祭〉「ふむ……ここからが正念場じゃな」

 

 

 

 ――タイタスがケムラーと戦っている間に、本陣まで逃げ込んだ前衛の白翼党の将は、指導者たる大賢良師の天幕にて膝を突いて頭を垂れていた。

 

〈白翼党将〉「大賢良師さま……申し訳ございません! 前衛が孫堅の軍勢に突破されてしまいました」

 

 将が頭を下げている相手である大賢良師は――意外にも、うら若き三人の乙女たちであった。彼女たちこそが、白翼党の『表向きの』首魁、張角、張宝、張梁の三姉妹である。

 

〈張宝〉「ふーん……えっと、孫……誰?」

 

 張宝は、自軍の敗走の報告にも関わらず、関心がなさそうに聞き返した。張角も緊張感のない顔つきだ。

 

〈張角〉「それって、わたしたちも危険ってことなのー?」

 

〈白翼党将〉「いえ、何もご心配なく! 大賢良師さま、ご姉妹さまは必ずや我らがお守り致します故……」

 

 将が息巻いていると、伝道師が天幕にゆったりと入ってくる。

 

〈伝道師〉「その通り。大賢良師方は何も心配なさらず、ここで吉報をお待ち下さればよろしいのです」

 

〈白翼党将〉「伝道師様!」

 

〈張梁〉「……だけど、確か孫堅はかの天の御遣いを擁しているのでしょう? それが私たちに牙を剥いたら、どうしようも……」

 

〈張角〉「えー!? そんなのヤだー! 天の御遣いの敵になるなんてー!」

 

〈張宝〉「一瞬でペシャンコにされちゃうじゃない!」

 

 張梁のひと言に、張角も張宝も身震いするが――伝道師は、ニタリと邪な笑みを浮かべる。

 

〈伝道師〉「それはあり得ませんので、ご安心を……。あの偽善者どもは、『人間』に手を下すことはしませんので……」

 

〈張梁〉「……どうしてそう言い切れるのかしら?」

 

〈伝道師〉「何……少しばかり『詳しい』もので……。ともかく、我々は目下の敵軍の対処がありますので、これで」

 

〈張梁〉「ええ……」

 

 伝道師が将を連れて天幕から退出していくと――張宝は長いため息を吐き出した。

 

〈張宝〉「はあああああ……もう、何でこんなことになっちゃうのよ……。そりゃあ、確かにすっごい後援者がついて、大陸中を歌って回ってるわ。一字一句間違ってないわよ。だけど……国に叛乱したいとは言ってないじゃない!!」

 

 感情的に吐き捨てた張宝に、張梁が大きく肩をすくめる。

 

〈張梁〉「あの伝道師とかいう男の言うことに従ったのが、何よりの間違いね……。あいつは私たちの歌を利用して、民衆にあんな変な格好をさせて扇動し、兵士に仕立て上げた……。もっと早くに、あれの野心に気づくべきだったわ……」

 

〈張宝〉「どうにかならないの? このまんまじゃ、犠牲になる人が出続けるだけじゃない……」

 

〈張梁〉「今出来ることは……孫堅の軍に駆け込んで、事情を洗いざらい話して庇護を求めることだわ。孫堅は、劉備さんたちとは違って大軍だし、天の御遣いも抱えている。あの男だって、きっと手出しは出来ないはずよ」

 

〈張角〉「でも、どうやってここから出るのー? あの人、歌を歌う時以外、わたしたちを外に出してくれないよー」

 

〈張宝〉「一度脱走してから、監視が厳しくなっちゃったからねー……」

 

〈張梁〉「うーん……」

 

 ままならない現状に、三姉妹はすっかり頭を抱えていた……。

 




 
毒ガス怪獣パワードケムラー

 白翼党の伝道師に操られ、孫軍を襲った怪獣。マルチバースの地球の一つで、中国やアメリカで暴れた記録がある。尻尾の先から噴射する高濃度の亜硫酸ガスが武器。皮膚や甲羅は強固であるが、甲羅の下に隠された脳が弱点となっている。

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