奥特曼†夢想 ‐光の三雄伝‐   作:焼き鮭

51 / 113
四番目の男!?

 

〈孝矢〉「……はぁッ!!」

 

 焼け落ちた白翼の本陣から少し離れた荒野の上で元に戻ると、ゲロ吐くように肺の中の空気を吐き出した。こんなにも息を切らすのは、どの試合後にも経験したことねぇ……。

 

〈タイタス〉『孝矢、大丈夫か!?』

 

〈孝矢〉「ああ、何とか……」

 

〈タイタス〉『すまない、私の力不足のせいで、君にまで負担を……』

 

〈孝矢〉「タイタスのせいじゃねぇよ……今回は、相性が悪かったんだ……」

 

 それより、さっきの奴は何なんだ……? いきなり戦いに乱入してきて、こっちに攻撃してきて……。助かった形にはなったが、何者なんだ……? ウルトラマンじゃねぇから、タイタスの仲間のトライスクワッドじゃねぇよな……。じゃあ、新手の宇宙人か……?

 そっちの方を見上げると……刀持った巨人もタイタスみてぇに光に包まれながら小さくなってって、オレの数十メートル先で別の姿になった。

 

〈孝矢〉「ん……!?」

 

 あ、あの姿……人間か!? さっきのバルタン星人みてーな、虫型とかじゃあ断じてねぇ。オレらとどこも変わりねぇ、人の姿だ。服装も現代日本じゃ珍しくもねぇもんだし、ただ一つだけ違げぇのは腰に刀挿してるとこ……。

 って、ここ漢王朝なんだが!? この土地にいる現代人は、オレの他に一刀、鎗輔の三人だけのはず。けど、あいつの顔はどっちでもねぇぞ……! 歳は大体一緒ぐれぇみてぇだが……。

 

〈???〉「……」

 

〈孝矢〉「え、えっと……」

 

 オレが息を整えて背筋を伸ばすまでの間、謎の男はゆっくりとこっちに近づきながら、観察するようにジロジロ視線を送ってた。何見てんだよ、って普段なら言うとこだが、あんまりにも得体が知れねぇ奴なんで、反応に困る……。

 何だあいつは……マジ、何もんなんだ……。

 

〈???〉「……」

 

 戸惑いながら立ち尽くしてたら……向こうがいきなり刀を抜いて、飛び掛かってきた!

 

〈孝矢〉「うおッ!?」

 

 結局攻撃してくんのか!? 咄嗟に背負ってた棍棒を手に取って、斬られる前に反撃を仕掛ける。

 

〈孝矢〉「でぇいッ!」

 

 ブンッ! と風を切って棍棒を振るうが、男は姿勢を下げてかわし、同時に刀の峰でこっちの足を払ってきた!

 

〈孝矢〉「うおぉッ!?」

 

 足が地面から離れちまって、派手に後ろに倒れ込む。

 

〈孝矢〉「痛っつつ……」

 

 すぐに起き上がろうとしたが、その瞬間に肩を踏みつけられ、首筋に刃を突きつけられた。

 

〈孝矢〉「ひッ……!」

 

 喉が引きつる。

 や……やべぇ……こいつがその気になりゃ、いつでも殺される状況になっちまった……。ど、どうする……? ここからどうすりゃいいんだ……? オレ、こんなとこで、訳も分かんねぇ内に殺られちまうのかよ……?

 マジな命の危機を肌で感じ、脂汗がブワッと噴き出てると……謎の男が、でけぇため息を吐いた。

 

〈???〉「……話にならん。弱すぎる」

 

〈孝矢〉「えッ……」

 

 相手の顔を見返すと――心底失望したような、完全に軽蔑し切ったような、そんな目でこっちを見てた。

 な、何だよ、その目は……。

 

〈???〉「こんな粗大ゴミが天の御遣いの三人目だとはな……。呉の人間に飼われ、餌を与えられるだけ。己の力で成してることは何もなく、戦いの腕もおれに簡単にダウンを取られる程度。その筋肉は飾りか? 北郷一刀という奴は、ちょっとの間でもおれの攻撃を凌いでみせたぞ。お前はそれ以下だ」

 

 こ、こいつ、何の権利があんのか知らねーが、散々に侮辱してくる……が、未だ喉に刀を突きつけられたまんまなんで、怒ることさえ出来ねぇ……。

 っていうか、こいつ一刀と戦ったって? あいつはまだ凌いでた? オレは雑魚? ……体力ぐれぇしか取り柄がねぇオレが、弱い……?

 それは、この大陸に来てからで一番ショックなことだった。

 

〈???〉「こんなザマで、この先を生き残れるのか? いっそのこと、ここで楽にしてやろうか……」

 

 オレを踏みつけてる男が、刀を振り上げる……。

 

〈タイタス〉『た、孝矢ッ!』

 

〈雪蓮〉「――孝矢から離れなさいっ!」

 

 その瞬間、雪蓮が猛スピードで飛び込んできて男に剣を叩きつけた。咄嗟に刀でガードした男が、オレの上から飛びすさる。

 雪蓮……助けに来てくれたのか……!

 

〈雪蓮〉「孝矢、大丈夫だった? 怪我はない?」

 

〈孝矢〉「あ、ああ……」

 

〈雪蓮〉「あいつは誰なの? おかしな格好だけど……」

 

〈孝矢〉「オレにも分かんねぇ……さっきの刀の巨人みてーけど……」

 

 改めて立ち上がると、男は雪蓮にも侮蔑の目を向ける。

 

〈???〉「ここでの孫伯符か……。そんな木偶の坊を大事に大事に飼い慣らして、呉も暇なものだ」

 

〈雪蓮〉「なっ……!? 何なの、あんた! 孫家の人間にそんな口を聞いて、命が惜しくないのかしらっ!」

 

 暴言にカッとなる雪蓮。

 けど……雪蓮まで悪く言われるのは、オレが不甲斐ねぇからだ……。

 

〈???〉「ふん……」

 

 男は挑発めいた言葉を吐いときながら、刀を鞘に納めた。

 

〈西園寺〉「おれの名は西園寺楯(さいおんじじゅん)。南出孝矢と言ったか……せいぜい生きていられれば、また会うこともあるかもな」

 

 言い残して、西園寺と名乗った男の姿がかき消える。

 

〈雪蓮〉「ま、待ちなさいっ!」

 

 反射的に捕まえようとした雪蓮だったが、西園寺はもう完全にオレたちの前から消え去ってた……。

 

 

 

 夜が明けた時には、戦いはすっかり終わってた。

 白翼本陣は冥琳の策によって半壊。そこにチャンスと見た袁術の軍団まで突っ込んできて、完全に壊滅した。この戦、オレたちの勝利だ。

 だが……炎蓮さんが傷を負わされてるのを見て、心底驚いた。相手はさっきの、タイタスもやばかったバルタン星人だそうだから、流石の炎蓮さんでも無理ねぇのかもしれねぇけど……それでも、この人は向かうとこ敵なしってイメージが強かったから、正直意外すぎた。

 

〈雪蓮〉「もう! だから、あれほど言ったのに!」

 

 天幕に雪蓮の怒声が響いた。炎蓮さんの傷に一番動揺したのは、当然ながら雪蓮だった。

 

〈炎蓮〉「やかましい、傷に響くだろう……」

 

〈雪蓮〉「誰か! 早く傷の手当てをっ!」

 

〈炎蓮〉「手当てならとっくに済んでいる。大袈裟に騒ぐな、こんなものはかすり傷に過ぎん」

 

〈雪蓮〉「もう……!」

 

〈祭〉「すまん、策殿! 儂らがついておりながら……!」

 

〈粋怜〉「ええ、本当にごめんなさい。あそこは無理にでも、私たちが炎蓮様をお守りすべきだったわ」

 

〈雪蓮〉「違うわよ! 母様が無茶をし過ぎなの! 明らかにただ者じゃない相手に、単騎で挑むなんて……!」

 

〈炎蓮〉「やかましいというに……」

 

〈冥琳〉「……申し訳ございません!」

 

 雪蓮のキンキン声をさえぎって、冥琳が炎蓮さんの前で片膝を突いた。

 

〈炎蓮〉「んん?」

 

〈冥琳〉「炎蓮様のお怪我は、私の責任です! 白翼党がただの賊徒でないことは分かり切っていたことなのに、敵の戦力を見誤っておりました! 此度の無謀な献策の失態、如何なる処分も覚悟しております!」

 

〈雪蓮〉「冥琳……」

 

 深く頭を下げる冥琳の謝罪に、炎蓮さんは鼻を鳴らすだけだった。

 

〈炎蓮〉「失態? 莫迦を申すな。賊に怪人が混ざっておるなど、神仏でもなければ見通せまい。貴様はいつ人智を超えたのだ?」

 

〈冥琳〉「い、いえ、そのようなつもりでは……」

 

〈炎蓮〉「第一、貴様の策でオレたちは勝ったのだぞ? たった二万の兵で十五万を破ったのだ。どこが失態か?」

 

〈冥琳〉「炎蓮様……」

 

 落ち込んでる場の空気を、炎蓮さんの一喝が吹き飛ばす。

 

〈炎蓮〉「……ったく! どいつもこいつも何てツラしてやがる! もっと喜ばんか! 我らの武威を誇りに思えっ! さぁ、勝利を酒で祝えっ!」

 

〈祭〉「……ふむ、そうですな!」

 

〈雪蓮〉「……ええ。冥琳、あなたの献策のお陰よ」

 

〈冥琳〉「いや……それは……」

 

〈炎蓮〉「まぁ、戦功第一は、この孫文台様だがな」

 

〈雪蓮〉「全然自慢にならないわよ!」

 

〈祭〉「はっはっはっ!」

 

〈粋怜〉「あははっ……」

 

 炎蓮さんの一喝で、みんなの気持ちがいくらか上向いた。流石、どんな時にでも場を纏める力がこの人にはある。

 

〈粋怜〉「……ですが、水を差すようですが、やはり首謀者の張角には逃げられてしまいましたね」

 

〈炎蓮〉「ああ。袁術も一番の戦果を挙げられず、大層悔しがっておったようだな」

 

〈雪蓮〉「ふん、いい気味だわ。美味しいところだけ持っていくことしか考えていないから、肝心なところで出遅れるのよ」

 

〈炎蓮〉「まぁ、ここまでの打撃を与えたからには、もう揚州には戻って来まい。もしまた性懲りもなく来おったら、今度こそ組み伏せてやるまでよ」

 

〈祭〉「応! 目に物を見せてやりますとも!」

 

〈炎蓮〉「そんなことより……もっと重大な事項がある。サイオンジジュン……とか申したか? 雪蓮よ」

 

 話が、最後に出てきた日本刀の男……西園寺に向く。

 

〈雪蓮〉「ええ、そう名乗ったわ。どうも、あの異形の巨人が化けた奴みたいだけど……逆かしら? 孝矢みたいに、人間が巨人に変化してたのか」

 

〈炎蓮〉「どちらでも良い。肝要なのは、そいつが何者なのかだ。随分と身の振りが不審じゃねぇか」

 

〈祭〉「真に……。目的が見えませぬな」

 

〈粋怜〉「サイオンジだなんて、聞かない名ですが」

 

 訝しむみんなに、タイタスが告げる。

 

〈タイタス〉『それは当然でしょう。かの少年は、恐らくは孝矢と同郷の人間です』

 

〈雪蓮〉「ええ!? 本当に!?」

 

〈タイタス〉『うむ。名前、出で立ち、武器、外観の全てがそれを物語っていた。もっとも、人間がどうしてあのような姿に変身できるのかまでは、私にも分からないが……』

 

〈冥琳〉「しかし、もしそうならば、その男は南出と同じ天の御遣いなのでしょうか?」

 

〈タイタス〉『そうではない。孝矢が前に話した、後の二人の特徴とまるで合致しないのだ。そうだな、孝矢?』

 

〈孝矢〉「……ああ……」

 

〈祭〉「ふむぅ……言うならば、予言にはない天の御遣いの四番目といったところか……」

 

〈粋怜〉「随分と乱暴者みたいだけどね。孝矢くんとは違って」

 

 みんなが西園寺のことを考えてる中、雪蓮の目がオレに向いた。

 

〈雪蓮〉「……孝矢、さっきからどうしたのよ。全然発言しないじゃない……。さっきのことを気にしてるんだったら……」

 

〈炎蓮〉「よせ、雪蓮よ」

 

〈雪蓮〉「母様……?」

 

〈炎蓮〉「孝矢とて、同じ(くに)の人間に足蹴にまでされて、思うところがないはずがあるまい。こういう時の男には、そっとしておく時間が必要なものなのだ」

 

〈タイタス〉『……』

 

 炎蓮さんが雪蓮を止めてくれたのは、ありがたかった。正直、今はどんな言葉を掛けられても……みじめな気持ちになるだけだ。

 西園寺……あいつがどこの生まれで、いつからここにいるのかとか、そんなんは分かんねぇ。けど、同じ日本人に雑魚扱いされたって事実は、オレのプライドを今までで一番、ダントツで傷つけた。

 雪蓮たち漢の人間と力の差があるのまでは、まだしょうがねぇって思える。だけど、同じ国の奴にも手も足も出なかったってのは……いや、それどころか、まだ再会すらしてねぇ一刀にもはっきり負けてるとまで言われた。それじゃあオレ、完全にお荷物ってことじゃねぇかよ……! オレが弱えぇせいで、雪蓮たちまで馬鹿にされて……情けなさすぎる……!

 結局オレは、置かれた状況を本当の意味で分かってなかったのか……。今のまんまじゃ、オレは駄目なんだ……! 『いつかきっと』、じゃねぇ、『今から』、オレを置いてくれてる孫呉のみんなに恥ずかしくねぇ男にならなくちゃ……! タイタスに協力してる、だけの価値のねぇ人間じゃあ、オレ自身が耐えられねぇ……!

 今回の戦いは……オレには、ひどい反省が残る結果で終わった……。

 




 
無幻魔人サイオーガ

 西園寺楯と名乗る謎の青年が変身する魔人。日本刀を得物として扱い、人間の限界を超越した筋力から繰り出される剣技の威力は、一流の武将にも引けを取らないレベル。宝石のような道具を用いて、巨大化も可能。天の御遣いに何かしらの思いがあるようだが、その行動目的や、何故このような能力を持っているのか等は不明。南出孝矢ら天の御遣いと同郷ではあるようだが……。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。