奥特曼†夢想 ‐光の三雄伝‐   作:焼き鮭

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炎蓮の視線!!

 

〈孝矢〉「うおおおぉぉぉぉぉぉ――――――――――――んッ!!」

 

 丹陽郡からの遠征から建業に帰ってきて、オレは――木製のでっけぇ車輪をつなげた縄を腰に結んで、城の訓練場をトラック周回するようにぐるぐる走り回ってた。わんわん男泣きしながら。

 

〈孝矢〉「思い出すだけで情けなくって泣けてくらぁぁぁぁあああああ―――――――ッ!!」

 

〈タイタス〉『お、おい孝矢……ちょっとは落ち着いて』

 

〈孝矢〉「ぬわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――んッ!!」

 

〈タイタス〉『……駄目だこりゃ』

 

 

 

〈雷火〉「……孝矢は帰るなり、何をやっておるのじゃ?」

 

〈穏〉「文字通り、奇行に走ってますねぇ~……」

 

〈ピグ〉「あれは青春なんだな」

 

〈雪蓮〉「青春?」

 

〈ピグ〉「天の国では、あんな風にタイヤを引きずって、土手の上を走ってトレーニングするんだな。コーチに叱咤されて、夕陽に向かってくんだな。青春なんだな、やっぱし」

 

〈祭〉「……よく分からんが、つまりあれは天の国の訓練法の一種なのじゃな?」

 

〈粋怜〉「けどどうして今になって突然……それも泣きながら」

 

〈炎蓮〉「やっぱり、こないだのことを相当引きずってるみてぇだな」

 

〈冥琳〉「炎蓮様」

 

〈穏〉「孝矢さんに、何かあったんですか~?」

 

〈雪蓮〉「それがね……」

 

〈雷火〉「――ふむ。同郷の人間に、手も足も出ずに完敗したと」

 

〈粋怜〉「あの様子だと、よっぽど悔しいみたいねぇ……」

 

〈雪蓮〉「もう、そんなに気にすることもないでしょうに。いくら生まれの国が同じでも、違う人間なんだから能力に差があるくらい当然でしょ」

 

〈炎蓮〉「ふっ。男ってのは、己の感情一つに突っ走りがちなものなのだ。特に孝矢は単純だからな」

 

〈冥琳〉「お、こちらに走ってきます」

 

 

 

〈孝矢〉「みんなぁッ!!」

 

 離れたとこでオレの走るとこを見てたみんなに、ガバッと膝を突いて頭を下げた。

 

〈雪蓮〉「ど、どうしたの?」

 

〈孝矢〉「頼むッ! オレに戦い方を教えてくれぇぇッ!!」

 

 必死に額を地面にこすりつけて、そう頼み込んだ。

 

〈雪蓮〉「戦い方?」

 

〈炎蓮〉「ほう……」

 

〈孝矢〉「今のオレぁ、同じ国の人間にすら勝てねぇ。同じ天の御遣いにだって負けてる! 鎗輔も、オレより強くなってるかも……。天の御遣いん中で、オレが一番弱えぇなんてことになったら、耐えらんねぇ! オレをここに置いてくれてるみんなに、申し訳が立たねぇんだッ!」

 

 何度も何度も頭を下げて、必死に乞う。プライドも何もかんも投げ捨てて、ひたすら強くなりてぇってことを願う。

 

〈孝矢〉「みんなには迷惑ばっか掛ける。だけどどうか頼むッ! オレを強くしてくれぇッ!!」

 

 力いっぱいの懇願を――みんなは笑って受け入れてくれた。

 

〈雪蓮〉「もう、顔を上げなさいよ。水臭いわね」

 

〈雷火〉「ようやく、少しは呉の一員としての自覚が湧いたようじゃな」

 

〈冥琳〉「ふふ……むしろもっと早くにこういうことを言ってほしかったですね」

 

〈炎蓮〉「はははっ、まぁいいじゃねぇか。強くなりてぇってのに、遅すぎるなんてことはねぇ。だろう? 祭、粋怜!」

 

〈祭〉「応! ここまでの意欲を見せられたならば、望み通りこ奴を鍛え上げてくれましょうぞ」

 

〈粋怜〉「そうそう簡単に音を上げたりしないでよね?」

 

〈穏〉「うふふ~。良かったですねぇ孝矢さん♪」

 

〈孝矢〉「みんな……ありがてぇ、ありがてぇ……!」

 

 わがままばっかのオレを、こうも優しく受け入れてくれる……! みんなの優しさが五臓六腑に染み渡って、涙があふれてくるぜ……!

 

〈雪蓮〉「ほらほら、涙を拭きなさいな。全く大袈裟ねぇ」

 

〈ピグ〉「熱いドラマなんだな。青春なんだな、やっぱし」

 

〈炎蓮〉「ふっ、では祭よ。早速お前から、孝矢をしごいてやりな」

 

〈祭〉「はっ。ついて参れ南出よ」

 

〈孝矢〉「ああ!」

 

〈粋怜〉「あっ、その前に、その車輪は元あった場所に戻してきてね」

 

 

 

 その日の晩。

 

〈炎蓮〉「さあ祝え! 無礼講だ!」

 

〈一同〉「「「おう!」」」

 

 オレの事情はどうあれ、戦には勝利。白翼党を追い出したことで、丹陽郡は事実上丸ごと炎蓮さんの支配下になった。それを祝い、城の庭で、戦勝会の宴が開かれたんだ。

 いくつものテーブルで、戦に参加した将兵たちが杯を交わしてく。

 

〈雪蓮〉「孝矢。色々あるけれど、今は乾杯しましょう」

 

〈孝矢〉「ああ。乾杯!」

 

〈雪蓮〉「かんぱーい! ごく、んぐっ……はー、美味しい♪」

 

 杯いっぱいに注いだ酒を、雪蓮が一気に飲み干した。

 

〈孝矢〉「最初から飛ばすなぁ」

 

〈タイタス〉『酒の一気飲みは危険だぞ』

 

〈雪蓮〉「いいじゃなーい、普段はこんな風に堂々と飲めないんだし♪ 孝矢も飲みなさいよ」

 

〈孝矢〉「オレぁメシをたらふくいただくぜ。いっぱい鍛錬して腹減ってんだ!」

 

 そう言って、テーブルの上の小籠包や魚料理をバクバク平らげてく。

 ふぅ~、生き返るぜ! 強えぇ肉体作るには、たくさん食って栄養取るのも大事だからな!

 

〈雪蓮〉「よく食べるわね~、祭と粋怜にあれだけしごかれた後なのに。新兵だと、身体がついていかなくて食事を吐いてしまう人だって珍しくないのに」

 

〈孝矢〉「ははッ、食欲だけは昔からどんな時も衰えねぇのさ」

 

〈タイタス〉『この分だと、肉体作りは支障なく仕上げられそうだな』

 

〈ピグ〉「いいんだな~、人間は。美味しい物が食べられて」

 

 ピグがオレを羨ましそうに見てる。

 

〈雪蓮〉「そういえば、ピグは口がついてるのに、物を食べないんだ」

 

〈タイタス〉『ピグはいわばカラクリ人形だからな。食物の摂取は必要としないのだ』

 

〈孝矢〉「……そういやオメー、何をエネルギーに動いてんだ? 一体いつ補給してんだよ」

 

 電力で動いてんのか? けどそれだったらエネルギー切れになっちまうし……第一、こいつが何かを補給してるとこ、見たことねぇぞ。

 

〈ピグ〉「それは科学警備隊の一大秘密なんだな。教えられないんだな、やっぱし」

 

〈孝矢〉「秘密って何でだよ……。まーいいけどよ」

 

 何か、直感的にあんま触れちゃいけねぇような話題のような気がするから、追及はしないでおく。

 それは置いといてひたすら食ってると、炎蓮さんがオレの側にやってきた。

 

〈炎蓮〉「はっはっ、孝矢。いい食いっぷりじゃねぇか! 孫呉の河の幸、山の幸は気に入ったか?」

 

〈孝矢〉「おう! いくらでもイケるぜ!」

 

〈炎蓮〉「そいつは何よりだ。屈強な戦士になるのも遠くはなさそうだな。だが、餓鬼みたいにメシばかり食ってねぇで……おら! 酒も行け!」

 

〈孝矢〉「え、いや、空きっ腹に酒はちっと……」

 

〈炎蓮〉「じゃっかましい! 貴様、この孫堅の酒が飲めんと申すのか!?」

 

〈孝矢〉「わ、分かった! 分かったよ……!」

 

 この人、ホント強引だよな……。仕方なく杯を受け取る。

 

〈炎蓮〉「そら、グイッと行け」

 

〈孝矢〉「ああ……」

 

 言われた通りにグイッと口に流し込むと――すぐにカァァ、と頭が熱くなった。

 

〈孝矢〉「うっはッ……!? き、きっつ……!」

 

 すぐ足がふらふらになって、テーブルにもたれかかった。

 いかん……どうもオレ、アルコールは駄目みてぇだ……。

 

〈タイタス〉『おい孝矢、大丈夫か!? 炎蓮殿、あまり無茶はさせないで下さい!』

 

〈炎蓮〉「はっはっはっ! 筋肉ばかりじゃなく、こっちの方も鍛えねばならんなぁこれじゃあ」

 

〈雪蓮〉「あらあら、孝矢、気の毒ねー。いきなり母様に目をつけられるだなんて♪」

 

〈炎蓮〉「テメーは何をのんきなツラ下げてんだ? 孝矢はお前の婿だろうが。ちゃんと面倒見てやれ」

 

〈雪蓮〉「悪いわね。私は冥琳とイチャイチャ二人で飲むつもりなの。孝矢、母様の相手をよろしくね?」

 

〈孝矢〉「えー……」

 

 マジかよ……こんな身体に力入らねぇ状態で、この人の相手なんか出来ねぇぞ……。

 

〈炎蓮〉「……ったく、あの虚けめ。孝矢、もう一杯行け!」

 

〈孝矢〉「うえッ!?」

 

〈タイタス〉『炎蓮殿、これ以上は孝矢の体調が……!』

 

〈炎蓮〉「やかましい! 飲まなきゃ酒にも強くなれねぇぞ! そらっ!」

 

 こ、このまんまじゃまた酔い潰される……そうだ!

 

〈孝矢〉「オレ、みんなにいっぱい世話になってるしよ、ちょっくら注いで回ってくるぜ! んじゃッ!」

 

〈炎蓮〉「あっ! おいっ!」

 

 酒瓶を掴んで、炎蓮さんに捕まる前にすたこらさっさと逃げてった。後はまぁ、ピグにでも任せよう。

 

〈炎蓮〉「ふん、上手く逃げやがって」

 

〈ピグ〉「飲めないけど、ピグでいいんならおつき合いするんだな、どうぞ」

 

 

 

〈タイタス〉『なかなか機転が回るな、孝矢』

 

〈孝矢〉「注いで回りてぇってのは嘘じゃねぇよ。せめてもの感謝の印だ」

 

 酔い冷ましがてらに庭を回りながら、目についた人たちの杯に酒を注いでく。みんな盛り上がってて楽しそうだ。

 と、思ったが……。

 

〈雪蓮〉「もー! 何でそんなことばかり言うのよ!」

 

〈冥琳〉「私は事実を口にしているまでだ」

 

 雪蓮と冥琳が、何か言い争ってた。

 

〈冥琳〉「お前はいつも兵の先頭を切って戦おうとする。孫家の跡継ぎとして迂闊に過ぎると、何度も直言しているだろう。改められないのか」

 

〈雪蓮〉「じゃあ、母様はどうなのよ? 跡継ぎどころか、孫家の頭領なのに、兵の先頭に立って戦っているじゃないの」

 

〈冥琳〉「そのお母上を、いつもお諫めしているのは、お前ではなかったのか?」

 

〈雪蓮〉「ぐ……それは、そうだけど……」

 

〈冥琳〉「今回は遂にあのようなことになってしまったのだ。だからお前も、これからは後方に控えるように……」

 

〈雪蓮〉「けれど、後ろにいたら迅速な対応が……!」

 

 冥琳は今回の炎蓮さんの負傷を踏まえて、雪蓮のことを心配してるみてぇだ。けど、縛られるのを嫌う雪蓮はその忠告に従えられねぇって感じか。どっちも真剣だから、大分激しい言い争いになってた。

 

〈孝矢〉「タイタス、あれどーにかなんねぇかな……?」

 

〈タイタス〉『難しいな……。雪蓮は炎蓮殿を意識し過ぎて意固地になっている。対する冥琳は、炎蓮殿の負傷に責任を感じているからこそ娘の雪蓮に同じようになってほしくないから、それでも厳しく言っているのだろう……。あれを収めるのは、我々では厳しいだろう』

 

 う~ん、横から何か言ったとこでどうしようもねぇか……。しょうがねぇ、二人の熱が冷めるのを待つしかねぇか……。

 やむなく別のとこに行くと、そっちじゃ雷火さんがひどいしかめ面してた。

 

〈孝矢〉「雷火さん、どーしたんだ!? いつになく怖えぇ顔してっけど……」

 

〈雷火〉「馬鹿もん、この顔は生まれつきじゃ! ぐぅっ!?」

 

〈孝矢〉「ま、マジ大丈夫かよ!? どっか悪りぃんじゃ……!」

 

 様子が変なんで慌てるオレに、穏が耳打ちした。

 

〈穏〉「雷火さま、ぎっくり腰だそうですよ~」

 

〈孝矢〉「ぎ、ぎっくり腰?」

 

 んなおばあちゃんみてぇな……ってか、雷火さんの実年齢いくつなんだ? それが前からの謎だぜ。

 

〈孝矢〉「雷火さん、痛てぇんだったら無理して宴に出なくてもいいだろ」

 

〈タイタス〉『ええ。身体を第一に、養生なさるべきです』

 

〈穏〉「そうですよぉ。もうお歳なんですから、無理をなさっては駄目です~」

 

〈雷火〉「誰が歳じゃ! ……ぎぅっ!?」

 

〈穏〉「ほら~」

 

〈雷火〉「やかましい、やかましい! 今のわしに構うな!」

 

 ぎっくり腰が恥ずかしいのか、雷火さんは普段よりも機嫌を悪くしてた。あんま構うとこりゃ逆効果だ……。今はそっとしとくしかねぇか……。

 

〈穏〉「はぁ~……ふぅ~……」

 

 仕方ねぇんで雷火さんから離れると、穏の息遣いも何か変だった。酒が入ってるからじゃなさそうだ。

 

〈孝矢〉「穏までどーしたんだよ」

 

〈穏〉「最近、ご本様に触れることが少ないんですよ~」

 

 ご、ご本様? おかしな表現使う奴だな……。

 

〈タイタス〉『読書する時間が少ないのか?』

 

〈穏〉「お部屋では読みますけれどぉ。新しいご本には、とんと触れてないんです~」

 

〈孝矢〉「何で?」

 

〈穏〉「お役目に差し障りがあるってぇ、冥琳さまが読むのを禁じているのですよぉ。ひどいと思いませんかぁ?」

 

 役目に差し障るだ? 本を読むだけで? 穏、度を越した本の虫なんだろうか……。本が絡むと明らか様子が怪しくなるしな……。

 

〈穏〉「あ~! ご本が足りません~っ!」

 

 喚き散らす穏を抑えられず、そそくさと逃げてった。

 その先で、祭さんと粋怜がお通夜ムードだった。

 

〈孝矢〉「祭さん、どーしたんだよ。酒の席でんな暗い顔してんのなんて珍しいじゃねーか」

 

〈祭〉「うむ。此度ばかりは、手放しで酒を楽しむような気分になれんでな」

 

〈孝矢〉「何で」

 

〈祭〉「聞いておるじゃろう。炎蓮さまが手傷を負わされた際、儂らはすぐ側におったのじゃ。だのに、我らが主の危機に何も出来んかった……」

 

 ああ……炎蓮さんを守れなかったってのを気にしてんのか。

 

〈祭〉「悔やんでおるのはお主ばかりではない。儂らにとっても猛省すべき戦いであったのだ」

 

〈粋怜〉「そうなのよ……。炎蓮さまに止められてでも、もっと積極的に戦うべきだったわ。……いえ、もっと力があったならば、そもそも炎蓮さまを危険に晒すこともなかったわ」

 

〈祭〉「うむ、儂らもまだまだ力不足ということじゃな……。せめて、此度の失態を挽回できれば良かったのじゃが……」

 

 あの祭さんと粋怜が、酒宴でこんなにため息だらけとは……。

 みんなの問題や悩みは、残念ながらオレにゃ手がつけられねぇもんばっかだった。愛想笑い浮かべて、酒を注ぐのが精いっぱいだったぜ。

 

〈孝矢〉「せっかくの戦勝祝いだってのに、何かみんな辛気臭せぇな……」

 

〈タイタス〉『皆人間なのだ。ままならないこと、上手く行かないことなど、いくらでもあるだろう。それが表面化しただけのことだ。誰しもが、どこか弱い部分を抱えているもの。どんなにすごいと思えるような人でもな』

 

 そっかぁ……。あんなに強えぇ孫呉のみんなも、悩みがねー訳じゃねぇんだな。けど、みんながしかめ面してたらオレとしても心苦しくなるぜ。

 何か上手いこと解決してやれねぇかな……つっても、オレじゃ無理か……。

 

 

 

 戦勝祝いは夜まで続き、肉料理がなくなってもまだ食い足りねぇっていう炎蓮さんが、買いに行くどころか山に入ってでっけぇ猪を狩ってきたっつぅぶっ飛んだ出来事があったりもしたが、炎蓮さんが騒いだお陰でみんなの鬱な空気もぶっ飛び、宴は最後にゃ楽しくお開きになった。

 

 

 

 んで翌朝。

 

〈孝矢〉「うー……頭痛ってぇ……。完全に二日酔いだぜ……」

 

 朝から頭がガンガン鳴って、オレはうなり声を上げる始末だった。孫呉の酒はきついぜ……。

 

〈タイタス〉『孝矢、大丈夫か? 体調が優れないのなら、今日は無理しない方が……』

 

〈孝矢〉「んな訳には行くかよ……。つい昨日、あんなに頭下げて頼んだとこなのに……」

 

 ちょっと体調悪りぃぐれぇでへばってるような心意気じゃ、あのいけすかねー刀野郎に勝てねぇぜ……。とりあえず、水でも飲めば少しはマシになるかと考えてたら、

 

〈粋怜〉「ふふ、孝矢くん。二日酔いみたいね?」

 

〈孝矢〉「おう、粋怜……」

 

 廊下で粋怜とばったり会った。

 

〈孝矢〉「粋怜は何ともなさそうだな」

 

〈粋怜〉「昨日はそんなに飲んでないからね。そういう気分でもなかったし……」

 

〈孝矢〉「あー……」

 

 昨日言ってたこと、まだ気にしてんのか。と、そう思った時、

 

〈炎蓮〉「おい、粋怜!」

 

 角から出てきた炎蓮さんが、一番に粋怜に呼び掛けた。

 

〈粋怜〉「っ……はい!」

 

〈炎蓮〉「直ちに出陣の支度をいたせ!」

 

 え? 出陣?

 

〈粋怜〉「は……?」

 

〈炎蓮〉「何だその顔は?」

 

〈粋怜〉「出陣……今すぐですか?」

 

〈炎蓮〉「そうよ。白翼党に乗じた賊が、呉郡で騒ぎを起こしておる。祭とともに叩き潰して参れ!」

 

〈孝矢〉「ちょっと、炎蓮さん? 粋怜も祭さんも、遠征から帰ったばっかだぜ? また戦とか……」

 

〈炎蓮〉「たわけが! いつ如何なる時であっても、戦に出る心構え無くば、孫呉の将は務まらん! 粋怜、そうであろう? 祭は既に出立の用意に取り掛かっておるぞ!」

 

〈粋怜〉「はっ、直ちに! 祭に後れは取りません!」

 

〈炎蓮〉「その意気よ! 急げ!」

 

〈粋怜〉「はっ!」

 

 すぐ走ってく粋怜。炎蓮さん、人遣いが荒れぇな……。

 けど、これで良かったのかも。粋怜も祭さんも、挽回のチャンスが欲しかったみてぇだしな。この戦果で、ちっとは気が楽になってくれるかもしれねぇ……。

 

〈炎蓮〉「ふふっ……」

 

 ん? 今のほくそ笑み……炎蓮さん、まさか……。

 

 

 

 オレの疑惑が当たってるかもしれねぇって出来事は、その後も続々出てきた。

 

〈孝矢〉「雷火さんは温泉か。腰痛によく効くっていう……炎蓮さんに教えてもらった」

 

〈タイタス〉『穏は新しい本を賜ったようだな。炎蓮殿から……』

 

〈孝矢〉「んで冥琳は、炎蓮さんから励ましの手紙もらったって?」

 

〈冥琳〉「ああ……ここまで褒められると、こそばゆくなってしまうのだがな」

 

 冥琳が差し出した、炎蓮さんからの手紙。あの人、意外にもかなりの達筆だ……達筆すぎて、何書いてんのか読めねーんだけど。

 タイタスに読んでもらった内容には、確かに冥琳がどんだけ孫呉に貢献してるか、お陰で助かってるかってのがこれでもかと詰め込まれてた。と一緒に、雪蓮を辛口評価して、上手く手綱を握って一人前に育ててくれともあった。

 この手紙も、冥琳のことを気に掛けたから書いたんだろうな。

 

〈孝矢〉「やっぱ、炎蓮さん、みんなのこと見てたんだな。全然周りなんか気にしてねぇって風にどんちゃんしてたけど」

 

〈タイタス〉『少し、意外ではあるな。普段は皆を強引に引っ張っているのに、このように細かな気遣いもするとは』

 

〈冥琳〉「だからこそ、炎蓮様は偉大な王であらせられるのです。如何に豪胆で勇猛でも、それだけでこれほど大勢の人はついていきません」

 

〈タイタス〉『なるほど……これが荒くれ者たちの国を一手に束ねる王の求心力の秘訣か』

 

 そっかぁ……炎蓮さんってあれで、結構繊細な人なんだな。

 けどオレだって、この前天の国の血を入れるお役目のことで発破掛けてもらったし、オレの頼みもすんなり聞いてくれたし、色々気に掛けてもらってる。そいつを思えば納得だぜ。

 王たる者、視線を広く持ってねぇといけねぇんだろうな。

 

〈冥琳〉「しかし、どうしたものか。炎蓮様はこんな私に期待して下さるが、雪蓮の手綱を握るのは、なかなかに難しいことだ」

 

〈孝矢〉「雪蓮、じゃじゃ馬なんてもんじゃねーからな」

 

〈タイタス〉『炎蓮殿への対抗心がもう少し小さければ、まだましになるのだろうが』

 

〈冥琳〉「ええ。そこが雪蓮の一番の難点です」

 

 と噂してたからか、部屋に雪蓮が入ってきた。

 

〈雪蓮〉「冥琳、いる? あら、孝矢も」

 

〈冥琳〉「おはよう」

 

〈雪蓮〉「ん……おはよう。昨日はごめんね? 言い過ぎたわ……」

 

〈冥琳〉「反省しているのなら、戦での動きも改めてくれるか?」

 

〈雪蓮〉「う……何かとげとげしいわね。でも、確かに……迂闊に前に出過ぎるとは思うわ」

 

〈冥琳〉「炎蓮様も、そのようにお考えのようだな」

 

〈雪蓮〉「へ?」

 

 冥琳がさっきの手紙を、雪蓮に見せた。……怒らねぇかな。

 

〈雪蓮〉「何よこれ?」

 

〈冥琳〉「まぁ、読んでみろ」

 

〈雪蓮〉「ん~?」

 

 手紙に目を通す雪蓮の様子を、ハラハラして見守ってると……。

 

〈雪蓮〉「……む……むむ……くぅううう……!!」

 

 ああ、やっぱり……。読み進めるほどに、雪蓮の眉間に皺が増えてくぜ。

 

〈冥琳〉「私は何一つ、間違ったことは書かれていないと思うがな。私に対しての評価は、いささか大袈裟だが」

 

〈雪蓮〉「……はぁ……えぇ、そうね。冥琳のことじゃなくって、私のことがね」

 

〈冥琳〉「ふっ」

 

 お、意外と冷静な対応だ。

 と思ったんだが、

 

〈雪蓮〉「けど……やっぱり腹立つぅっ! 何よ、こんな回りくどいことしてっ! 私に直接、言ったらいいのにっ!」

 

 あ、やっぱキレた。

 

〈冥琳〉「言っても、お前は聞かんだろうが」

 

〈雪蓮〉「もう、人を馬鹿にして……! いつか絶対に、母様を見返してやるんだから!」

 

〈冥琳〉「それがいかんと仰せなのだ」

 

 ……雪蓮の様子を目にして、こそっとタイタスに話しかける。

 

〈孝矢〉「もしかして、雪蓮への気遣いはこれなんかな」

 

〈タイタス〉『雪蓮が跡取りとして成長するのを一層促すために、あえて対抗心を刺激したということか?』

 

〈孝矢〉「ああ」

 

〈タイタス〉『そうだな……もしそうだとしたら、炎蓮殿の愛情は過激だな』

 

〈孝矢〉「全くだ……」

 

 ムキー! と吠えてる雪蓮をながめて、炎蓮さんにはつくづく敵わねぇなぁー……と、そう思った。

 

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