奥特曼†夢想 ‐光の三雄伝‐   作:焼き鮭

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孫権の帰還!!

 

〈炎蓮〉「……」

 

 訓練帰りに庭園を横切ってると、庭の池の縁で炎蓮さんがじっと座ってんのを見かけた。

 

〈孝矢〉「炎蓮さん? そんなとこで何やってんだ?」

 

〈炎蓮〉「黙れ、静かにしろ」

 

〈孝矢〉「あ……わ、悪りぃ」

 

 後ろから話しかけたら、何か怒られた。

 よく見たら、細長げぇ棒を持ってる。その棒の先端から糸が一本伸びてて、水面に……。

 

〈孝矢〉(釣り?)

 

 もしかしなくても、釣り竿だよな。けど、ここ人工の池だろ。釣れる魚なんかいんのか?

 

〈炎蓮〉「……」

 

 あの炎蓮さんがじぃっとしてんで、オレもつい釣られて(ギャグじゃねーぞ)動向を見守る。

 するとやがて、釣り糸がクイクイッと引っ張られた。糸の先には魚影が。

 

〈孝矢〉「おッ、掛かったぜ!」

 

〈炎蓮〉「戯け、騒ぐな……!」

 

〈孝矢〉「え?」

 

 竿を引く炎蓮さんだが、引き上げた釣り針にゃ何も掛かってなかった。

 

〈炎蓮〉「ほれ見ろ、バラしたではないか」

 

〈孝矢〉「す、すまねぇ」

 

 オレの声に驚いて、逃げちまったのか……。悪りぃことしちまった。

 

〈孝矢〉「けど、何で池なんかで釣りしてんだ?」

 

〈炎蓮〉「くくっ、この池は案外、侮れんのだぞ?」

 

 針に餌を引っ掛けながら、炎蓮さんが笑う。

 

〈炎蓮〉「ここには主がおってな。七尺はある大鯉よ。そいつを狙っているのだが……」

 

〈孝矢〉「……タイタス、七尺って何メートル?」

 

〈タイタス〉『大体2メートルだな』

 

 2メートル!? でっか! んな鯉見たことねぇ! そんなんいたとか全然知らなかったぜ……。

 

〈炎蓮〉「前にも一度、釣ったのだがな。鯉め、竿を折りやがった」

 

〈孝矢〉「釣ったら食うのか?」

 

〈炎蓮〉「ああ? 戯けたことを抜かすな。池の主など食って、祟られたらどうする?」

 

 炎蓮さん、祟りとか気にすんのか。天をも恐れねぇ人なのに、意外だな。

 

〈雷火〉「炎蓮様。何をしておいでか?」

 

〈孝矢〉「おッ、雷火さん」

 

 釣りしてる炎蓮さんの側に、雷火さんもやってきた。

 

〈炎蓮〉「見ての通り、釣りだ。婆も一緒にどうだ?」

 

〈雷火〉「まだ傷も癒えておられぬというに。大人しく屋敷で養生して下さらんか?」

 

〈炎蓮〉「説教はよせ。だからこうして大人しく、池の小魚と戯れておるのだろうが」

 

 たった今、池の主釣るとか言ってたのに。

 

〈雷火〉「孝矢は何をしておるのじゃ?」

 

〈孝矢〉「訓練終えたとこだ。昼からは雪蓮の手伝いだな」

 

〈炎蓮〉「真面目な奴だな。オレと遠乗りでも行かんか?」

 

〈雷火〉「何を戯けたことを! 遠乗りなど以ての外じゃ!」

 

〈炎蓮〉「あああ、うるさいうるさい! 魚が逃げるだろうがっ!」

 

〈雷火〉「うるさくさせておるのはどなたかっ!」

 

〈炎蓮〉「ったく、やかましいぞババア!」

 

〈雷火〉「ババアとは何じゃ! この小童っ!」

 

〈タイタス〉『お二人とも、そんなすぐ喧嘩しないで下さい』

 

〈炎蓮〉「ふん、この年寄りが口うるさいからだ」

 

〈雷火〉「炎蓮様がいつまでも子供だからじゃ!」

 

 はは……この二人が一緒になると、どっちも子供みてぇになるんだよな。

 つか、小童って……雷火さん、見た目は完全ブーメランなんだけどな。

 

〈雪蓮〉「はー、じっとしていられない人ね。ほんと子供みたいよ?」

 

 この場に雪蓮もやってきた。

 

〈炎蓮〉「おう、雪蓮」

 

〈雪蓮〉「傷の具合はどう?」

 

〈炎蓮〉「顔を見るやそれか。大袈裟に騒ぎ過ぎよ。大したことないと言っておるだろうが?」

 

〈雷火〉「ご油断は禁物じゃ、しばらくは養生なされ。戦場に出ることなど、決して認めませんからな。遠乗りもじゃ」

 

〈炎蓮〉「分かった分かった」

 

 炎蓮さんはこう言うが、実際かなりの深手だったみてぇだ。タイタスもちょっとうなってたぐれぇだ。命に関わんなかったのはラッキーだが……。

 

〈雪蓮〉「もう……思い出したら、また腹が立ってきたわ」

 

〈孝矢〉「どうしたんだよ」

 

〈雪蓮〉「袁術よ! そもそもあいつがまともに兵を動かしていたら、母様だって怪我をしなくて済んだのに!」

 

〈炎蓮〉「背後を突かれなかっただけマシよ」

 

〈雪蓮〉「またそんなこと言って……でも、冗談じゃなくて、あいつもそろそろ野心を剥き出しにする頃ね」

 

〈雷火〉「うむ。以前より江夏の高祖殿とは抗争を繰り返しておる。白翼騒ぎが下火になれば、沛国の相、陳珪の恭順を受け入れ、実質豫州を獲得した曹操とも対立することじゃろう。つい先日も、我らに援軍を求める使者を送って寄越したわ」

 

〈雪蓮〉「呆れた。よくあんな戦の後で、援軍なんか頼めるわね」

 

〈炎蓮〉「いいや、あの図太さ、ツラの皮の厚さは、我らも見習わねばならん」

 

〈雪蓮〉「冗談でもやめてよね。でも、放っておけば、勝手に四面楚歌になって自滅しそうよねー♪」

 

〈炎蓮〉「お前はやたらと袁術を敵視し過ぎだ。あれとは下手に争わず、よしみを通じておけば良い。いたずらに敵を増やすのは愚か者のすることよ」

 

 政治的判断で意見割れする炎蓮さんと雪蓮。この辺は、オレにはまだ難しい話だぜ……。

 

〈雪蓮〉「母様がどう思おうと、私の中であいつは敵よ。いつか絶対に袁術とは、戦う日が来ると思うわ!」

 

〈炎蓮〉「袁術なぁ……敵というのは、愛らし過ぎる小娘だが」

 

〈雪蓮〉「どこがよ? あんな憎ったらしい……」

 

 ……袁術ってマジどんな面なんだ? 結局、直に姿見るこたぁなかったからな……ちょっと気になるぜ。

 

〈炎蓮〉「ぉっ……」

 

 そん時、炎蓮さんの釣り竿がまたピクピク引っ張られた。

 

〈雷火〉「また例の大鯉を狙っておられるのか?」

 

〈雪蓮〉「ふふっ、どーせ鮒よ鮒。鮒って匂いがきついから、私、好きじゃないのよねー」

 

〈雷火〉「それはさばき方がいかんのじゃ。まずはしっかりと泥を抜き……」

 

〈炎蓮〉「やかましいぞ……!」

 

 竿のしなりが大きくなってくに従って、炎蓮さんも集中してく……。

 

〈炎蓮〉「すー……」

 

 そして限界ギリギリまで竿がしなったとこで、一気に引き上げようと――!

 

〈穏〉「あ~っ! やっと見つけましたぁ~っ!」

 

〈炎蓮〉「ぬぁっ!?」

 

 したとこで、穏の大声が響いた。炎蓮さんのタイミングがずれ、釣り針からは餌が消えただけ。

 

〈炎蓮〉「ああくそぉ! またバラしたっ!」

 

〈雪蓮〉「あらら……」

 

〈雷火〉「日頃の行いじゃな。やはり天は見ておられる」

 

〈炎蓮〉「ぬぅぅぅ……!」

 

〈穏〉「も~、お捜ししましたよ、炎蓮様ぁ♪ こんなところにいらっしゃったんですね~?」

 

〈炎蓮〉「うるぁあああっ!! 何の用だっ!?」

 

 また逃がした炎蓮さんが、原因の穏に怒鳴り散らした。

 

〈穏〉「ひああっ!? どうして怒鳴るんですかぁっ?」

 

〈雪蓮〉「かわいそ……」

 

〈雷火〉「殷の暴君、紂王の再来じゃ」

 

〈孝矢〉「まーまー、炎蓮さん……」

 

〈タイタス〉『穏も、悪気があったのではないのですから……』

 

 オレとタイタスで、カッカしてる炎蓮さんをどうにかなだめた。

 

〈炎蓮〉「ふんっ、もう釣りなんぞやめだ! ……して、如何した? 何か報せでも参ったのか?」

 

〈穏〉「あ、はい~。先ほど皖のお城から遣いが来たのですがぁ……近々、仲謀さまがお戻りになるそうですよ~♪」

 

 穏の言葉に、炎蓮さんの機嫌がちょっと直った。

 

〈炎蓮〉「ほう」

 

〈雪蓮〉「随分久しぶりねー。ねぇねぇ、尚香や幼平も一緒に帰ってくるのかしら?」

 

〈穏〉「はい、恐らく~」

 

 仲謀、尚香……それって孫権と孫尚香、つまり雪蓮の妹たちだよな。話だけは聞いてるが、とうとう顔見られんのか。オレも楽しみになってきたぜ。

 

〈雪蓮〉「宴の準備をしなくちゃねー」

 

〈炎蓮〉「雪蓮、浮かれるな。宴も良いがその前に、江賊どもの話をじっくり聞かせてもらわんとな」

 

〈雪蓮〉「釣りに夢中の人から言われたくないわよ」

 

 こうぞく……こうぞくって何だっけ。

 

〈孝矢〉「タイタス、こうぞくって何だ?」

 

〈タイタス〉『長江の賊で江賊。要するに河にいる海賊という訳だ』

 

 へー、河に海賊がねぇ……。確か、長江ってめっちゃ広いんだよな。どんだけなのかはまだ見たことねーから、実感ねぇけど。

 

〈雪蓮〉「孝矢、仲謀に会ったら、ちゃんと口説きなさいよ? あなたの一番大事なお役目、忘れていないでしょうね♪」

 

〈孝矢〉「ッ!!」

 

 考えてたとこにんなこと囁かれたんで、息が詰まった。

 

〈雪蓮〉「何照れてるの~?」

 

〈穏〉「うふふ、お顔が真っ赤ですよ~」

 

〈孝矢〉「ふ、不意打ちで言うからだろ!」

 

〈炎蓮〉「はっ、いちいち口説く必要なんぞあるか。男なら、会ったその場で犯りやがれ」

 

〈孝矢〉「炎蓮さんはまたそれかよ……」

 

〈雪蓮〉「ちょっとー、もしも仲謀を泣かせたら、孝矢のアレ、切り取っちゃうわよ?」

 

〈孝矢〉「雪蓮は怖えぇこと言わねーでくれよ! しねぇからッ!」

 

〈雷火〉「この……やめんかぁっ!」

 

 突っ込んでたら、雷火さんに怒鳴られた。

 

〈雷火〉「お庭先で昼間から、何たる何たる汚らわしさじゃ! ええい、耳が腐るわ!」

 

〈炎蓮〉「ババアのくせに、何を恥じらっておるか?」

 

〈雷火〉「わしはババアではない!」

 

〈穏〉「あはは~、また始まっちゃいましたね~♪」

 

 炎蓮さんと雷火さんがまた口喧嘩してる間に、雪蓮が真剣な顔でオレに向き直った。

 

〈雪蓮〉「ねぇ孝矢……」

 

〈孝矢〉「ん?」

 

〈雪蓮〉「仲謀は本当に賢くて、魅力的な良い子なの。だけど、ちょっと堅物で、奥手なところもあるから……時間を掛けてゆっくりとね? 焦っちゃ駄目よ?」

 

〈孝矢〉「あ、ああ……」

 

 いつものからかってるのとは違げぇ、真面目な調子の雪蓮。本気でオレと孫権の仲を望んでるみてぇだ。

 そう思うと、何か緊張してくんな……。ここ一番の試合に臨む前みてぇだ……。

 

 

 

 そして数日後、建業に当の孫権、孫尚香、そして幼平……周泰っつぅのの三人が帰ってきた。

 

〈孫権〉「母上、ただ今戻りました!」

 

 謁見の間で炎蓮さんに頭を下げたのは、なるほど確かに炎蓮さんと雪蓮によく似た顔立ちの美少女だ。けど、雰囲気は破天荒で奔放な二人とは真逆の、実直そうな感じ。話に聞いた通りだ。

 孫権と一緒に謁見の間に来た二人の内片方は、孫権を更に幼くした感じの子だ。こっちはどっちかっつーと、天真爛漫って感じの雰囲気だな。あれが孫尚香で……もう一人は、孫権と孫尚香の間ぐれぇの年頃と体格だ。ここ中国なのに、何か忍者っぽい服装だが……。

 

〈炎蓮〉「よく戻った、仲謀。長らくの役目、ご苦労であった」

 

〈孫権〉「はっ!」

 

〈雪蓮〉「ほんと久しぶりよねー。尚香、幼平も元気にしてた?」

 

〈孫尚香〉「うん、姉さま♪」

 

〈周泰〉「はい! 達者に暮らしていました!」

 

 雪蓮が声掛けした後に、尚香が謁見の間の端にいる、オレの方を向いた。

 

〈孫尚香〉「へー……姉さま、見て見て」

 

〈孫権〉「何よ、尚香」

 

〈孫尚香〉「ほら、見てってば。あの人が天の御遣いだよ。話に聞いた通りの特徴っ」

 

〈孫権〉「尚香、謁見の間で私語は慎みなさい」

 

〈孫尚香〉「もーう」

 

 孫権は尚香と違って、こっちを見もしねぇ。堅物って評価は確かか……。

 じっと観察してたら、雪蓮に肘で小突かれた。

 

〈雪蓮〉「孝矢。品定めは後よ」

 

〈孝矢〉「べ、別にんなつもりじゃ……」

 

〈雪蓮〉「でも、嘘じゃなかったでしょ?」

 

〈孝矢〉「何がだ?」

 

〈雪蓮〉「か・お♪」

 

 はは……確かに、可愛さじゃ上なのは確かだな。

 

〈孫権〉「母上。丹陽郡の統一、心よりお喜び申し上げます」

 

〈炎蓮〉「おうっ」

 

〈孫権〉「白翼討伐における鬼神の如きご活躍ぶり……この仲謀も皖にあって、その報に心沸き立つ思いでした。ともに戦えず、無念でございますっ……」

 

〈炎蓮〉「はっはっ、お前はまだ若い。これからいくらでも手柄を立てる機会はあろう」

 

〈孫権〉「はっ! それで、その……その戦の際に、お怪我をされたと聞きましたが……」

 

〈炎蓮〉「見ての通りよ、大事ない。して、盧江の様子はどうだ?」

 

〈孫権〉「はい。白翼党の撤退後、民は落ち着いています。ただ……気になるのは、やはり江賊の動きです」

 

〈炎蓮〉「ふむ……」

 

〈孝矢〉「江賊ってどんぐれぇの規模なんだ?」

 

 ちょっと冥琳に聞いてみたら、孫権にジロッとにらまれた。

 な、何だよ……分かんねーこと聞くのは悪りぃことじゃねぇだろ。

 

〈冥琳〉「江賊はいくつもの集団があり、規模も人数も様々だ」

 

〈孝矢〉「へー、一個の集団じゃねぇのか」

 

〈祭〉「うむ。長江の流れに沿って生きる我らにとって、江賊は対決を避けては通れぬ相手じゃな」

 

〈粋怜〉「下流の江賊は、ほとんどが炎蓮様に従っているけど、中流から上になると、まだまだ独立した勢力が多いのよね」

 

〈孝矢〉「なるほどな。じゃ、次はそいつらを……」

 

〈孫権〉「母上!」

 

 言いかけたとこで、孫権が声を張った。

 今、わざとオレに被せなかったか……?

 

〈孫権〉「母上がこの揚州を制した後は、当然、荊州方面への進出もお考えでしょう。今からその時に備え、盧江の江賊を早急に討伐すべきかと」

 

〈炎蓮〉「ああ、やるならさっさと潰すか……よし!」

 

 孫権の意見で、炎蓮さんが玉座から立って宣言を出す。

 

〈炎蓮〉「者ども、戦だっ!」

 

〈孫権〉「え……? ですが母様は……」

 

〈雷火〉「お待ち下され、炎蓮様!」

 

〈穏〉「そんな、駄目ですよぉ~」

 

 今にも飛び出しちまいそうな炎蓮さんに、雷火さんと穏がストップを掛けた。

 

〈炎蓮〉「ああ?」

 

〈雷火〉「全く、血の気の多い殿じゃ。先日、お諫めしたばかりではござらんか!」

 

〈雪蓮〉「何があっても母様には出陣させないわよ! 今度という今度は絶対、建業で大人しくしていてもらうからね!」

 

〈炎蓮〉「案ずるな。傷など、とっくに……」

 

〈雪蓮〉「駄目! 許さない!!」

 

 今回ばかりは雪蓮も頑として譲らず、炎蓮さんを根負けさせた。

 

〈炎蓮〉「ふー……しょうがねぇな、分かったよ」

 

 玉座に腰を落とした炎蓮さんに、みんなが安堵する。

 

〈雪蓮〉「仲謀」

 

〈孫権〉「あ、はい!」

 

〈雪蓮〉「此度の江賊討伐、あなたに命ずるわ。皖城に長くいて、盧江の江賊の動きはあなたが一番、よく把握できているはず」

 

〈孫権〉「……はい! お任せ下さい」

 

 炎蓮さんに代わって指示を出す雪蓮に、炎蓮さんがふぅとため息を吐いた。

 

〈炎蓮〉「やれやれ……遂に当主の座から、オレを追い落とすつもりか? 年寄りは黙って屋敷に引っ込んでろか?」

 

〈雪蓮〉「そういうこと♪ 母様はのんびり釣りでも楽しんで」

 

〈炎蓮〉「応! そうするか!」

 

 炎蓮さんはむしろ嬉しそうに、謁見の間から離れようとする。

 

〈炎蓮〉「雷火、貴様も参れ! 今日こそ池の主を釣り上げるぞ!」

 

〈雷火〉「御意」

 

 んで雷火さん連れて、ホントに評定から抜け出ちまった。自由だなぁ、あの人は。

 

〈雪蓮〉「相変わらずでしょ?」

 

〈孫権〉「あ……え、ええ。でも、お元気そうで良かった。お怪我をされたと聞いた時は、本当に心配で……夜も眠れなかったんです……。すぐに建業に戻りたかったけれど、お母様からの遣いが、どうしても駄目だと言うから……」

 

〈雪蓮〉「ふふっ……ま、あの人には傷がちゃんと治るまで、ゆっくりしてもらいましょう。私たち姉妹で、母様の代わりを務めるわよ?」

 

〈孫権〉「はい、励みます!」

 

〈雪蓮〉「尚香もいいわね?」

 

〈孫尚香〉「はーい、伯符姉さま!」

 

〈雪蓮〉「では……出陣の日取り、軍の編成等は追って指示するわ。あなたたちも長旅で疲れたでしょう? 今日はもう休みなさい。明日にでも宴を開くわ」

 

〈孫権・孫尚香〉「「はい!」」

 

〈周泰〉「ありがとうございます!」

 

 これで評定は解散になって、尚香と周泰は先に謁見の間を離れたが……孫権はやたら厳しい顔で、こっちに歩いてきた。

 

〈孫権〉「私は孫家の次女。姓は孫、名は権、字は仲謀だ」

 

〈孝矢〉「おう。オレぁ南出孝矢だ。こいつは相棒のウルトラマンタイタス」

 

〈タイタス〉『ウルトラマンタイタスだ。以後よろしく』

 

〈孫権〉「知っている。天の御遣いと呼ばれているそうだな」

 

〈孝矢〉「あー……と、オレたちのこと、どこまで聞いてんだ? 何か質問とかあるか?」

 

 何話しゃあいいもんか、と聞いてみたら、

 

〈孫権〉「……胡散臭いわね」

 

〈孝矢〉「へ?」

 

〈孫権〉「ふん……何のつもりで建業に来たか知らないが、孫家に取り入って、一体何をたくらんでいる? 怪物を退治してみせて、恩でも売りたいというのかしら。邪な考えを抱いているのなら、どこかよそに行きなさい」

 

〈孝矢〉「……」

 

〈孫権〉「何だ?」

 

 孫権の一方的な物言いに――むかっ腹が立ってきた。

 こちとら何も分かんねぇ状態で、いきなりこの世界に放り出されたんだぞ。そんで何度も危ねぇ目に遭って、それでもみんなのためと思って頑張ってきたんだ。なのに、初対面の相手に何でこんな言われなきゃなんねーんだ? タイタスだって、あんなにもいい奴だってのに、下衆の勘繰りみてーなこと言いやがって……とんだ侮辱じゃねぇか。

 

〈孫権〉「どうした、何故黙っている? やはり、心の底にやましいものでもあるのか?」

 

〈孝矢〉「……そっちだってなぁ、孫家の次女のくせに、失礼じゃねーのか?」

 

〈孫権〉「何?」

 

〈タイタス〉『おい孝矢……!』

 

〈孝矢〉「テメーがオレと、タイタスの何を知ってんだよ! 恩を着せるつもりじゃあねーが、オレたちゃ何度もみんなの命救ってんだぞ! それで最初に浴びせる言葉がそれなのか!? おおッ!?」

 

〈孫権〉「……っ……」

 

〈雪蓮〉「はいは~い♪ 早速、仲良くしてるみたいねー」

 

〈孫権〉「姉様」

 

〈祭〉「阿呆か、孺子……」

 

〈孝矢〉「いでッ!?」

 

 思わず熱くなってたら、祭さんに耳をつねられて孫権から引き離された。

 

〈孝矢〉「な、何すんだよ……!」

 

〈祭〉「何をする、ではない、この戯けが。女子の扱いを知らんのぉ……売り言葉に買い言葉で如何する?」

 

〈孝矢〉「そ、それは……!」

 

〈タイタス〉『少し落ち着け……! 彼女の立場になって考えてみろ。私たちは、いきなり現れた得体の知れない人間だ。警戒するのも無理からぬこと。逆上しては、余計に印象を悪くするぞ……!』

 

 タイタスからも注意されて、頭に上った血も引いてきた。

 

〈孝矢〉「けど、あいつタイタスのことまで……」

 

〈タイタス〉『その気持ちは嬉しいが、あらぬ疑いを掛けられることくらい、私のような者にはよくあることだ。信頼とは、言葉ではなく振る舞いで築くもの。ムキになっても仕様がないぞ』

 

〈祭〉「うむ。それでなくとも仲謀殿は難しいお年頃なのじゃ。男の度量で受け止めよ」

 

 ……そうか。ついカッとなっちまったぜ……。

 

〈冥琳〉「まぁ、それだけではなく……」

 

〈孝矢〉「冥琳」

 

〈冥琳〉「仲謀殿は高貴な者の心得を、実践なさっておられるのだ」

 

〈孝矢〉「心得?」

 

〈冥琳〉「素性の知れない者を近づけない。甘言を弄する人間を近づけない。金玉に執着しない」

 

 他人は疑って掛かれ、ってか。確かに、いきなり信用しろだなんて都合のいいことだった。悪りぃことしたな……。

 

〈タイタス〉『しかし、あそこまで怒るとはな。雷火殿からは日常的にきつく叱られているというのに。そんなにも腹が立ったか?』

 

〈冥琳〉「ふふ……それは逆に良い傾向なのかもしれません。歳が近い故、仲謀殿とは気兼ねなく話が出来るのかも」

 

〈孝矢〉「あー……」

 

 それはあるかも。今まで周りにいるのは目上ばっかだから、何言われてもしょうがねぇって思えたが、孫権はそんな風には思わなかったからな。無意識に、近けぇ距離で話してたのかも。

 その孫権は雪蓮から何か言われてたが、オレを一瞥すると、不機嫌そうにそっぽ向いて謁見の間を出てった。

 

〈雪蓮〉「はー……」

 

〈孝矢〉「悪りぃ、雪蓮。仲良くするどころか、こんなことになって……」

 

〈雪蓮〉「ううん、こっちこそごめんなさい。仲謀があなたに失礼なことを言ったそうね?」

 

〈孝矢〉「いや、オレも悪かったぜ。怒鳴り散らして」

 

〈雪蓮〉「第一印象はお互いに最悪かなー? もっと事前に孝矢のことを、話しておけば良かった」

 

〈孝矢〉「オレはもういいけどよ……」

 

〈冥琳〉「まぁ肝心なのはこれからだ、南出」

 

〈祭〉「考えてみれば、南出も難しい年頃であったな。かっかっかっ、若い者はええのう」

 

〈雪蓮〉「祭、オヤジみたいよ?」

 

 肩をすくめる雪蓮。

 ともかく、孫権との顔合わせは失敗だった。これから、あいつと上手いことやってけんのかな……。

 


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