奥特曼†夢想 ‐光の三雄伝‐   作:焼き鮭

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孫権と甘寧!!

 

 孫権たちの帰還の翌日、宣言通りに城の庭で宴が開かれた。

 

〈孫尚香〉「うっわー!? すっごーい! あなた本当にカラクリなの~!?」

 

〈ピグ〉「そうなんだな! 科学警備隊の超すんごいロボットの、ピグなんだな~!」

 

〈孫尚香〉「天の国には、しゃべって自分で動けるカラクリがあるんだ~!」

 

〈周泰〉「ほへ~、驚きました~……」

 

 尚香や周泰は、紹介されたピグにすっかり感心してペタペタ触ってる。女の子の注目の的になってるピグは、完全に顔がにやけてやがった。ロボットのくせに。

 

〈ピグ〉「い、いやぁ~、それほどでも、あるんだな~やっぱりぃ」

 

〈孫権〉「尚香、無防備に近寄りすぎよ! そんな奇怪な存在に……」

 

〈孫尚香〉「も~、仲謀姉さまはお堅いんだからぁ。この子、しばらくお城にいたんだから危険なんてないはずよ? それにこんなに可愛いし♪ ぎゅ~」

 

〈孫権〉「か、可愛い? こんな魚面が……」

 

〈ピグ〉「あぁ~! そんなにギュッてされたら、ピグ、困っちゃうんだなぁ~やっぱり♪ えへ、えへへ♪」

 

 尚香に抱き着かれたピグは、舌を出して超締まりのねぇ顔だ。正直きめぇ。

 一方のオレは……その輪から、っていうか孫権から離れたとこで、一人ぼうっとしてるだけだった。

 

〈タイタス〉『孝矢、距離を置いていても関係は修繕されないぞ。己から近づいていって、誠意を見せなければ』

 

〈孝矢〉「そりゃ分かってるけどよー……」

 

 昨日の今日なので、孫権には近寄りがてぇ……。また何か言われて、カッとなって場の空気を壊したりしたら、みんなにも迷惑掛かるしな……。すぐ頭に血が上んのはオレの悪りぃとこだって、監督にもよく注意されたもんだが……。

 

〈粋怜〉「孝矢くん」

 

 なんて悶々としてたら、粋怜がオレのとこに来た。

 

〈孝矢〉「粋怜……」

 

〈粋怜〉「雪蓮殿に聞いたわよ? 昨日、仲謀殿といきなり喧嘩しちゃったみたいね」

 

〈孝矢〉「別に、喧嘩ってほどじゃあ……」

 

〈粋怜〉「ねぇ、孝矢くん。仲謀殿を誤解しないでね?」

 

〈孝矢〉「え?」

 

 粋怜は苦笑を浮かべてオレに告げる。

 

〈粋怜〉「お母上の炎蓮様も、姉上の雪蓮殿も……家臣の私が言うのも何だけど、孫家の頭領として申し分のない方々でしょう?」

 

〈孝矢〉「ああ、そりゃオレもそう思う」

 

〈粋怜〉「だからよ。仲謀殿はまだお若いし、そんなお母上や姉上に少しでも近づきたくて、無理に気を張っておられるの。孫家の娘足らんとしてね」

 

 ……優秀な母や姉を持ったからこそのプレッシャーか……。それで背伸びしちまうってか。

 オレは感じたことのねぇプレッシャーだ。必要以上に自分を強く見せるってことも、したことがねぇ。だからどんだけ苦しいもんなのかは想像できねぇが……それを知ったら、孫権がちょっとだけは遠い存在じゃなくなったように思えた。

 

〈孝矢〉「……分かった。ありがとな、粋怜」

 

〈粋怜〉「どういたしまして。じゃあ、宴に戻って。避けていたって、何も前進しないわよ?」

 

〈孝矢〉「タイタスに言われたとこだ」

 

〈粋怜〉「ふふっ、先を越されてしまったわね。じゃあ……女の子にはもっと広い心で接して、多少の理不尽は優しく包み込んであげるのがつき合うコツよ?」

 

〈孝矢〉「ああ……重ね重ね悪りぃな」

 

〈粋怜〉「いいのよ、この程度。成功を祈るわ」

 

 不敵にほほ笑んだ粋怜に送り出されて、孫権のとこに近づいてく。

 炎蓮さんと祭さんの、甕ごと使った飲み比べに困った顔してた孫権に、努めて自然に声を掛けた。

 

〈孝矢〉「よ、仲謀」

 

〈孫権〉「……!」

 

〈雪蓮〉「ふふ……っ」

 

 雪蓮が気を利かせて尚香、周泰、ピグをさりげなく遠ざけてくれて、オレは孫権とだけ向かい合えた。

 

〈孫権〉「……何かしら?」

 

〈孝矢〉「あー……昨日のこと、謝んなきゃって思ってな。家に帰ったら知らねぇ奴がいたら、そりゃ身構えるよな。なのにムキになって……こっちが失礼だったぜ。……ごめん」

 

 どうにか心を落ち着かせながら、孫権に謝罪する。

 

〈孫権〉「いえ……」

 

〈孝矢〉「口で言ったって、いきなり信じてもらえるなんざ思わねぇが……下心はねぇと約束する。オレぁただ、オレを助けてくれてるみんなの力になりてぇってだけだ。炎蓮さんや雪蓮に……」

 

〈孫権〉「なっ……!?」

 

 台詞の途中で、孫権の顔色が急に変わった。

 

〈孝矢〉「ん?」

 

〈タイタス〉『孝矢、また真名を軽率に……!』

 

〈孝矢〉「あッ……!」

 

 やっべぇ、またやっちまったか……! この場面で言うのはまずいか!

 

〈孫権〉「貴様ぁ! 何故、母様や姉さまの真名を……!」

 

〈雪蓮〉「待って! 仲謀、それはいいの」

 

 今にも掴みかかってきそうだった孫権を、雪蓮が止めてくれた。

 

〈孫権〉「姉様……!」

 

〈雪蓮〉「私と母様は孝矢たちに真名を預けたのよ。私たちだけじゃなく、冥琳や重臣のみんなもね?」

 

〈孫権〉「えっ……!?」

 

〈孫尚香〉「へーっ! 姉さまも母さまも……みんなをこの人を認めてるんだっ!」

 

〈周泰〉「それほどのお方なのですかっ!」

 

 尚香と周泰は感心した目をオレに向けるが、孫権は納得行かなそうだ。

 

〈孫権〉「な、何故です? この者が、天の御遣いだから……?」

 

〈雪蓮〉「まっ、そういう訳でもないけどね。でも、管輅が予言した通り、孝矢は間違いなく星が運んできたわよ」

 

〈孫権〉「姉様は予言など、お嫌いだったはずでは?」

 

〈雪蓮〉「この目でちゃんと見たんだもの」

 

〈孫権〉「でも……だからと言って、真名をお預けになるほどこの者を信じるのは……」

 

〈雪蓮〉「だって孝矢は、私やあなたたちの夫になるかもしれないんだし♪」

 

〈孫権・孫尚香・周泰〉「「「ええっ!?」」」

 

 そこは知らされてなかったようで、孫権たちが大声を出した。

 

〈孝矢〉「あー……」

 

〈周泰〉「それは……どういうことですか?」

 

〈雪蓮〉「んー。母様は、孫呉に天の御遣いがいるって風評を利用したいの。でも、ただいるってだけじゃ曹操たちのところと同じだし……」

 

 雪蓮が血をうんぬんかんぬんのとこも説明すると、やっぱりと言うべきか、孫権は顔を真っ赤にした。

 

〈孫権〉「そんな……何たる浅慮! 母様や姉様は、私たちの意思を無視するおつもりですか!?」

 

〈雪蓮〉「いいえ、尊重しているわよ。孝矢を受け入れるかどうかは、あなたたち次第だもの」

 

〈孫権〉「そう、おっしゃられても……母様がお決めになったことを……」

 

〈雪蓮〉「尚香、幼平も分かったわね?」

 

〈孫尚香〉「はーい♪」

 

〈周泰〉「血を入れる? よく分かりませんが、はいっ!」

 

 かなり悩んでる孫権と反対に、尚香と周泰は気軽な返事だ。むしろこっちが心配になるぐれぇ……。

 

〈雪蓮〉「孝矢、あなたも励みなさいよ?」

 

〈孝矢〉「はは……」

 

 まー……話さなくちゃいけねぇことではあるけどさ……孫権との距離は余計に開いちまった感はあるぜ。思っきしそっぽ向いてやがるから。

 

〈周泰〉「それではあの……自己紹介を!」

 

〈孝矢〉「あ、おう」

 

〈周泰〉「姓は周、名は泰、字は幼平……真名は明命と申します! 明るい命と書きます!」

 

〈孫権〉「幼平……」

 

〈孝矢〉「あ、ああ。南出孝矢だ。こっちはタイタス」

 

〈タイタス〉『ウルトラマンタイタスだ。よろしく、明命』

 

〈明命〉「はいっ!」

 

 すぐに真名を預けてくれた明命に続いて、尚香も名乗る。

 

〈孫尚香〉「わたしは孫尚香。真名は小蓮だよ。小さい蓮で小蓮、シャオって呼んでいいからねー♪」

 

〈孝矢〉「おう、分かったぜシャオ」

 

〈孫権〉「小蓮まで……」

 

〈小蓮〉「ふふふーっ♪ ねぇ、孝矢の赤ちゃん、シャオが一番に産んであげよっかー?」

 

〈孝矢〉「んなッ!?」

 

〈タイタス〉『な、何ぃッ!?』

 

〈明命〉「えええっ!?」

 

 いきなりの爆弾発言に度肝を抜かれた!

 

〈孫権〉「小蓮! 何て破廉恥なことを!」

 

〈小蓮〉「だってー、それが母さまの望みでしょ? それに孝矢って、思ってたよりたくましいし。いいかなーって」

 

〈孫権〉「小蓮!」

 

〈雪蓮〉「あははははっ!」

 

〈タイタス〉『い、いかんぞシャオ! いくら何でも君は幼いから、様々な観点からそれは不適切……!』

 

〈ピグ〉「はぁ~……最近の女の子って大人びてるんだな~」

 

〈孝矢〉「昔の世界だけどな……」

 

 つーかませてるっつーか……。こりゃ確実に孫家の血筋だな……。

 

〈雪蓮〉「さて、仲謀はどうするの?」

 

〈孫権〉「……」

 

 話が孫権に戻ってきて、オレもそっちに向き直った。

 

〈孝矢〉「話途中だったが、オレぁ行くアテのねぇこのオレを拾ってくれたみんなに感謝してて、力になりてぇだけなんだ。これを信じるかどうかは、そっちに任せる。真名だって強要しねぇよ」

 

〈タイタス〉『うむ。君からすれば、我々は怪物も同然かもしれないが、それでも誠心誠意を尽くすつもりだ。だから今は、我々がいることだけは認めてほしい』

 

 オレは咄嗟に手ぇ拭いて、差し出した。握手のつもりだ。

 

〈孫権〉「……握手はしない。その……そういうことには、慣れていないから……」

 

〈孝矢〉「そっか……」

 

〈孫権〉「……しかし、私も確かに無礼だった。昨日の態度は謝罪する。……ごめんなさい」

 

〈孝矢〉「あッ……いやぁ、別にいいぜ、そんな」

 

 流石にいきなり信用って訳にゃあ行かなかったが……これでプラマイゼロにはなったかな。

 

〈雪蓮〉「後は孝矢の頑張り次第ね。あなたの行動で、仲謀の信を勝ち取ってみせなさい」

 

〈孝矢〉「ああ」

 

〈雪蓮〉「仲謀も。余計な先入観は捨てて……天の御遣いではなく、一人の人間として、南出孝矢たちをよく見ることね。分かった?」

 

〈孫権〉「は、はい」

 

 これで話が済んだとこで……炎蓮さんがいきなり大声を上げた。

 

〈炎蓮〉「おい、者ども! 注目だっ!」

 

〈雪蓮〉「はー……もう、なーによー?」

 

 炎蓮さんの周りにゃ空になった甕がいくつも転がってて、一緒に祭さんが酔い潰されてた。

 あの祭さんに飲み比べで勝つたぁ……炎蓮さん、改めて恐るべし!

 

〈粋怜〉「炎蓮様、何のお話でしょうか?」

 

〈炎蓮〉「応。オレもよくよく考えたが……此度の江賊討伐は、仲謀に任せるぞ!」

 

〈孫権〉「は、はいっ……」

 

〈雪蓮〉「それはもう、昨日の評定で決めたでしょ? 母様、酔っ払い過ぎ」

 

〈炎蓮〉「黙れっ。誰を出陣させるのかも、今、考えておったのよ」

 

 炎蓮さんが一喝して、一人一人指名してく。

 

〈炎蓮〉「総大将は仲謀……シャオ、お前は姉を補佐しろ!」

 

〈小蓮〉「はーい!」

 

〈炎蓮〉「軍師は穏だ! 副将明命!」

 

〈明命〉「ははっ、はいっ!」

 

〈穏〉「はい~、お任せを~♪」

 

 炎蓮さんの指名は、孫呉の重臣を一人も選ばねぇもんだった。監督の孫権の力量が試されるチームって感じか……。酔ってても、炎蓮さんはちゃんと考えてんだな。

 

〈タイタス〉『孝矢、気がついているか?』

 

〈孝矢〉「ん、何がだ?」

 

〈タイタス〉『炎蓮殿のシャオ、明命の呼称が真名になっているが、孫権だけはそのままだ』

 

〈孝矢〉「あッ、マジだな……」

 

 すっげー……浴びるほど飲みながらこっちの話、隅の隅まで聞いてたのかよ。ホント炎蓮さん、超人だな。

 

〈炎蓮〉「孝矢、貴様も行け」

 

〈孝矢〉「えッ、オレも?」

 

〈炎蓮〉「おう、聞こえなかったか? 行って江賊が、如何なる敵か学んでこい!」

 

〈孝矢〉「わ、分かった!」

 

 オレも同行することになった。……この一戦で、孫権に認めてもらえってことだろうな、きっと。

 早速孫権に、挨拶だけでもしとく。

 

〈孝矢〉「仲謀、よろしくな」

 

〈孫権〉「え? あ、ああ……」

 

〈孝矢〉「タイタスと違って、オレ自身はまだまだ半人前だけどよ。それでも足引っ張んねぇよう、頑張るぜ!」

 

〈孫権〉「……それは戦場で、見させてもらうわ」

 

〈孝矢〉「おうよ」

 

〈孫権〉「……」

 

 孫権は返事に困ったように顔をそらした。

 炎蓮さんが早速くれたチャンスだ。しっかりと、こいつに認めてもらうような働きしねぇとな!

 

 

 

 軍の編成が出来ると、孫権を大将にした江賊討伐軍は建業を出発。盧江の皖城にいる主力部隊と合流して、特に江賊が幅を利かせてるっていう流域の畔に本陣を構えた。

 

〈孝矢〉「なぁ穏」

 

〈穏〉「は~い、孝矢さん」

 

 陣の設置が済むと、穏に質問してみる。

 

〈孝矢〉「この辺の江賊は、大体何人ぐれぇなんだ?」

 

〈穏〉「そうですね、一万人以上はいます~」

 

 一万か……。白翼党と戦ってからだと、あんま多くねぇなって思っちまうな。

 

〈孝矢〉「白翼党よりは随分少ねぇな」

 

〈穏〉「ですが、あれはほとんどが、鍬を剣に持ち替えただけの農民でしたから~。江賊はそうではありませんよ? 船の上で生まれ、船の上で育ち、物心ついた頃から長江で戦ってきた、歴戦の猛者ばかりです」

 

〈孝矢〉「猛者ぞろいなら呉軍だってそーだろ? 水軍だってあるんだよな」

 

〈穏〉「はい~。数はそれなりなんですけど、まだまだ練度は低いですし、船もあんまり良い物はそろってないんですよね~。輸送や河での戦も、大半は孫呉に従っている、長江下流域の江賊に頼っているのが実状なんです~」

 

 そうだったのか……。江賊が幅を利かせる訳だ。

 

〈穏〉「ちなみにその人たちは今回、出陣していません。錦帆賊との戦は、あまりに分が悪いと~」

 

〈孝矢〉「きんほぞく?」

 

〈穏〉「八千の兵を有する、この辺りで一番の力を持った江賊です。つまりこの流域の江賊は、ほとんどがその錦帆賊ですね~」

 

〈孝矢〉「へぇ……んじゃ、そいつらをやっつけりゃ、他の江賊も孫家につくよな?」

 

 他人を従えるには、力を示すのが一番手っ取り早えぇ。この辺りで一番の江賊なら、それ以上に強えぇ賊はいねぇだろうし、勝ったとなりゃあ長江の覇者は自動的に孫家になるって論理だ。

 

〈穏〉「簡単には行かないですよぉ? 江賊は本当に手強いです。長江に独自の情報網も持ってますし……きっと今回の討伐も、錦帆賊には既に知れ渡っています。万全の態勢で迎え撃ってくるでしょうね~」

 

〈孝矢〉「そりゃ確かに手強そうだな……。まぁそうでもねぇと、ほったらかされてねーか」

 

〈穏〉「そういうことですぅ。ですが、勝ち目を作るのが軍師のお役目ですからね~♪」

 

 おお、何か自信ありげだ。もう何か策を考えついてんのか?

 

〈明命〉「穏さま、孝矢さま、仲謀さまがお呼びです! これから軍議を開かれるそうです!」

 

〈穏〉「はい、分かりました。それでは孝矢さん、参りましょ~」

 

 明命に呼ばれて、オレたちは孫権の天幕へ移動してった。

 

 

 

〈孫権〉「皆、そろったな? では軍議を始める」

 

 オレと穏が最後のようで、机を囲むと孫権が軍議を進め出した。

 

〈孫権〉「既に江賊の根城は突き止めているのだが……正直、これを真っ向から攻めたところで、我々の戦力では勝利はおぼつかないだろう。錦帆賊の兵自体も精強だが、頭目の甘寧は、孫呉の宿将にも引けを取らない猛将だ」

 

〈孝矢〉「ん? かんねい……?」

 

 何か聞き覚えのある名前だな。孫権関係で……。

 

〈孫権〉「え?」

 

〈小蓮〉「孝矢、どーしたの?」

 

〈孝矢〉「ああ悪りぃ、何でもねぇ。続けてくれ」

 

〈孫権〉「……? それで、如何にしてこれを討伐するかだが……」

 

 孫権が話を進める中、頭ひねって『かんねい』が誰だったか思い出そうとする。かんねい、かんねい……甘寧……。

 

〈孫権〉「錦帆賊はこちらの動きを察しているようだ。ここは一つ、陽動を掛けるか……」

 

〈孝矢〉「あッ! 思い出したッ!」

 

〈孫権〉「きゃっ!? 何なの、さっきから……」

 

 つい大声を出しちまって周りを驚かせたが、そんなこと気にもならずに、甘寧が誰だったかを口に出す。

 

〈孝矢〉「甘寧って、孫権の腹心じゃねーか! ん? そいつを何で、討伐するって話に……?」

 

〈タイタス〉『た、孝矢ッ!』

 

 いつもは軍議に口を挟まねぇタイタスが、変に慌てた声を上げた。

 

〈タイタス〉『それは、これから起こることではないのか!?』

 

〈孝矢〉「え? ……あぁッ!?」

 

 指摘されて、ようやく気がついた。……何も誰もが最初から、主と臣下の関係になってる訳じゃねぇ。三国志にゃ後から軍門に下ったって奴も多い。……つまり、オレは今、この先起こるはずの出来事を、先んじて言っちまったってことに……。

 ハッと周りを見れば、案の定、穏たちがポカーンとオレを見てた。

 

〈明命〉「え? 錦帆賊の頭目が、仲謀さまの腹心……?」

 

〈小蓮〉「孝矢、それってどういうことなの?」

 

〈穏〉「……もしかしてぇ、孝矢さん。それは未来の知識なのでは~……」

 

〈孝矢〉「あぁーッ!! 今のなしッ! 何でもねぇんだ忘れてくれッ! そうそう、今は大事な話の真っ最中だよな! 錦帆賊の頭目でー、孫権の腹心とかじゃあ全然ねぇ甘寧をどうするかってゆー……!!」

 

〈タイタス〉『孝矢、もう手遅れだぞ……色々と……』

 

 必死にごまかそうとしたは、完全に墓穴掘るだけで、タイタスにはぁ~……と嘆かれた。

 うぅ、何てこった……。未来のことは言うなと炎蓮さんに釘刺されてんのに、ついうっかり言っちまうなんて……。

 

〈孫権〉「……ぷっ」

 

〈小蓮〉「姉さま?」

 

〈孫権〉「あははははっ……あっはははははははっ!」

 

 すっかりしどろもどろでいたら、当の孫権に腹を抱えて笑われた……。

 

〈明命〉「ち、仲謀さま?」

 

〈孫権〉「そ、そんな大事なことを、うっかり言ってしまう……!? ごまかし方も、下手もいいところだし……! し、、信じられない……!」

 

〈孝矢〉「う、うぅ……」

 

 耳まで真っ赤になってんのが、自分でも分かった。認められようと張り切ってここに来たはずなのに、こんな恥を晒すなんて……。穴があったら入りてぇ。

 

〈穏〉「仲謀さま、そんなにおかしかったでしょうか~? 孝矢さんの行為はどうあれ、つまり錦帆賊を下らせるというのは良い着眼点だと思いますが~」

 

〈孫権〉「ご、ごめんなさい……特別おかしいという訳ではないの。ただ、私の考えを見透かされたように思えて……」

 

〈小蓮〉「ええ!? 仲謀姉さまの?」

 

〈明命〉「それはどういうことでしょうか?」

 

 ひとしきり笑って、落ち着いた孫権が咳払いした。

 

〈孫権〉「錦帆賊はどうしようもないならず者で、長江を渡る船は片っ端から襲われている。だがその一方で支配下にある地域から、特に不満の声は聞かれない。むしろ他の街や村より治安は良く、民の暮らしは豊かだそうだ」

 

〈小蓮〉「つまりー、錦帆賊は噂ほど、悪い連中じゃないってこと?」

 

〈孫権〉「そうとも言い切れないけど……。それと、これは今まで皆には黙っていたのだけれど……私は、甘寧と面識があるのよ」

 

〈明命〉「えっ?」

 

〈孫権〉「子供の頃、甘寧は呉に住んでいたの。それで私はたまたま城下で知り合って……友と呼んで差し支えなかったと思う」

 

〈小蓮〉「えーっ、そうなんだっ!」

 

〈穏〉「驚きましたぁ」

 

 孫権と甘寧が幼馴染……何か運命的だな。

 

〈孫権〉「短い間だったけれど、よく一緒に遊んだわ。けれど、甘寧はいつの間にか呉を去って……その後はずっと行方知れず。でも、何年か経ってから、彼女が江賊を結成したという噂を耳にして……母様にも黙って、甘寧に書簡を送ったわ。孫呉に仕官しないかって……でも、断られた」

 

〈孝矢〉「甘寧は何で断ったんだ?」

 

〈孫権〉「甘寧は漢王朝の治世を憎んでいるの。でも、無軌道な略奪を繰り返す白翼党にも与さなかった。だから、自分で江賊を組織して支配域を広げている」

 

〈孝矢〉「自分の力で漢王朝の支配を破ろうってことか」

 

〈孫権〉「そういうことね。……私は何度も書を送ったけれど、返書すら何年も前に途絶えてしまった。それで内心あきらめていたのだけれど……」

 

 悲しげに目を伏せてた孫権が、またおかしそうにオレの顔を見た。

 

〈孫権〉「……私があきらめていたことを、あなたはさも当たり前のことかのように唱えた。よくもそんなことが軽々しく言えるものだと、呆れたわ」

 

〈孝矢〉「うッ……」

 

〈孫権〉「だけど……お陰で、気が楽にもなった。甘寧の説得は、決して不可能なことではないんだって。もう一度挑戦してみたい……そんな気持ちになったわ」

 

 孫権の口元が綻ぶ。……どうにか、上手い方向に転んだようで良かったぜ。もうどうなることかと……。

 

〈孝矢〉「だったらよ……手紙でのやり取りじゃなくて、直接会ってみようぜ! 甘寧に!」

 

〈孫権〉「えっ……?」

 

〈孝矢〉「手紙だけじゃ、伝わんねぇもんもあるだろ?」

 

〈明命〉「そ、それは……まさか孝矢さま、江賊の根城へ、仲謀さまに行けとおっしゃってるのですか?」

 

〈孝矢〉「こっちから呼んだんじゃ、礼儀に欠けるだろ?」

 

 劉備は孔明のとこに、三度も自分から足運んで軍師になってもらったんだしな。……そーいや、今は孔明どこで何してんだろ? もう劉備んとこにいんのかな。

 

〈穏〉「う~ん、ちょっと賛成しかねますね~。いくら何でも危なすぎますよ~」

 

〈孫権〉「……いえ、そうした心配は無用よ。甘寧は誇り高い武人。私が一人で会いに行けば、そこで危害を加えるような卑怯な真似はしないわ」

 

〈明命〉「一人で行かれるおつもりですか!?」

 

〈穏〉「おやめ下さい。仮に行かれるとしても、護衛の兵もつけずに、仲謀さまをお見送りすることなんて出来ません」

 

〈孫権〉「護衛などいては、余計に危うい。それに少数の兵を連れたところで、甘寧がその気なら、護衛の意味を成さないわ」

 

〈小蓮〉「姉さま、本気で行くつもり? 一人で?」

 

〈孫権〉「ええ。まずは甘寧とよく話して……」

 

〈孝矢〉「待った。オレも行くぜ」

 

 辛抱ならずに名乗り出る。

 

〈孫権〉「えっ?」

 

〈孝矢〉「オレが言い出したことだ。オレが行かねーんじゃ、話になんねぇよな」

 

〈孫権〉「……」

 

〈小蓮〉「でもー……下手したら殺されちゃうかもしれないよー?」

 

〈穏〉「予言は、絶対でもないんですよね~? もしものことがあったら……」

 

〈孝矢〉「んなもん、覚悟の上だぜ」

 

 怖くねぇ訳もねぇが、ここで退いたら男が廃るぜ。縛りつけられたって行くぜ、オレは!

 

〈孫権〉「……っ……」

 

 ん……? 今一瞬、孫権がオレに笑ったような……。さっきの爆笑とは違げぇ、あったかい感じの微笑だった。

 

〈孫権〉「……よし、では今夜にも、私と南出で甘寧と会って参る」

 

〈孝矢〉「よっしゃ!」

 

〈孫権〉「良い機会だ。貴様が口だけの男でないか、じっくりと見させてもらう」

 

〈孝矢〉「へへッ、望むところだぜ」

 

〈穏〉「どうしても行かれるんですかぁ?」

 

〈孫権〉「もう決めたことだ。甘寧が昔のままの甘寧なら、話し合いに参った私と南出を手に掛けたりせん。逆に命を狙うようなら、孫呉に引き入れるほどの将ではなかったということだ」

 

 はっきりと宣言する孫権。こっちも覚悟たっぷりだ。

 

〈孫権〉「万が一、私が戻らねば、直ちに攻めよ! 建業にも急ぎ使者を送って援軍を要請するのだ! 皆の者、良いな!」

 

〈小蓮・穏・明命〉「「「はいっ!」」」

 

 話は決まった。夜になったら、甘寧のいるとこに向かって出発だ!

 

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