奥特曼†夢想 ‐光の三雄伝‐   作:焼き鮭

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決めろ!逆転ホームラン!!

 

〈タイタス〉『孝矢よ、何故河に飛び込みながら変身したのだ!?』

 

〈孝矢〉『「その方がカッコいいだろ!?」』

 

 孫権も甘寧もかっけぇから、オレも張り合いたくなったんだよ!

 

〈タイタス〉『仕方のない奴だ……! ゆくぞッ!』

 

〈孝矢〉『「おうよッ!」』

 

 身体を起こしたコダラーに、タイタスが猛然と掴みかかってく!

 

「ウオオオオッ!」

「グギャアアアア!」

 

 コダラーも正面から迎え撃ってきて、タイタスとがっつり組み合った。そのまま押し合いへし合いになる。

 

〈タイタス〉『このまま水中にいては、仲謀たちの邪魔となる! まずはこいつを陸へ引き上げるぞ!』

 

〈孝矢〉『「よっしゃ!」』

 

 タイタスはコダラーを抑え込みながら船の間を離れて、河縁へと引っ張ってく。

 

「ムゥンッ!」

「グギャアアアア!」

 

 そして転がるように陸に上がって、コダラーも引っ張り上げた。

 

〈タイタス〉『ここでいい。戦闘再開だ!』

 

「グギャアアアア!」

 

 タイタスもコダラーも地上に立ち上がって、改めて対峙した。……あいつ、水の中いた時より太くなってね?

 

「ヌンッ!」

 

 タイタスが先制してパンチを繰り出す! コダラーはずんぐりした体型通りに鈍重で、まともに食らったが、

 

「グギャアアアア!」

「ウオッ!」

 

 タイタスの鉄拳を食らってもよろめきもせず、拳を打ち払った!

 

「グギャアアアア!」

「グッ!」

 

 今度は向こうが平手打ちしてきた。何発かは耐えるタイタスだが、強烈な一撃で張り倒される。

 

〈タイタス〉『ぬぅッ! 私のウルトラマッスルに張り合うとは、なかなかやる……!』

 

 タイタスが起き上がって肉弾をぶつけ合うが、何とあのタイタスが押される!

 

「グギャアアアア!」

「グゥッ……!」

 

 筋力だったら右に出る者はいねぇと言っていいタイタスをてこずらせるとは……確かにただモンじゃねぇ!

 

〈タイタス〉『流石は伝説の怪獣……孝矢、エックスレットだ!』

 

〈孝矢〉『「分かった!」』

 

[カモン!]

 

 タイタスの指示で、エックスレットをリードする!

 

[エックスレット、コネクトオン!]

 

〈孝矢・タイタス〉「『エレクトロ! バスターッ!!」』

 

 電撃球を殴り飛ばし、コダラーにぶち込む!

 

「グギャアアアア!」

 

 が……コダラーは両手で電撃球を掴み、止めやがった!

 

〈孝矢〉『「げぇーッ!? 受け止めやがった!!」』

 

〈タイタス〉『気をつけろ! 来るぞッ!』

 

 コダラーが止めた電撃球を、投げ返してきた!

 

「ムンッ!」

「グギャアアアア!」

 

 すかさず殴り返したタイタスだが、コダラーもまた受け止めて反射してきた。

 返された球は、弾速がめっちゃ上がってる!

 

「ヌオオオオォォォォォォォ――――――――ッ!!」

 

 タイタスは撃ち返せずに、自分が食らっちまった! ばったりと倒れ、スターシンボルが点滅する!

 

〈孝矢〉『「うぅぅ……! 大丈夫か、タイタス……!」』

 

〈タイタス〉『どうにか……! しかし、これは強敵だぞ……!』

 

 タイタスはどうにか立ち上がったが、コダラーは打撃も通じねぇし、光線ははね返しやがる……! 難攻不落って奴だぜ……!

 

〈孝矢〉『「雪蓮リング……いや、駄目だ……!」』

 

 一瞬パワーアップの雪蓮リングを使おうかと考えたが、手を止めた。あれはエネルギーの消耗も早める欠点がある。この前はそれで逆にピンチを招いたし……破れかぶれで使っていいもんじゃねぇ。

 じゃあ、他にどうするか……。

 

〈孝矢〉『「そうだ! これがあったぜ!」』

 

[カモン!]

 

 代わりに召喚したのは穏リングだ! こいつはまだ効果も分からねぇが、何か逆転につながることが起こってくれ!

 

[穏リング、エンゲージ!]

 

 リングにタイガスパークをかざすと、緑色の電流が走って、オレの傍らに穏のビジョンが現れた。

 そしてタイタスの手の中に出てきたのは――穏が持ってるような九節棍だった!

 

〈タイタス〉『むぅ、武器が出てくるとは……!』

 

〈孝矢〉『「……けど、こいつでどうすりゃいいんだ!?」』

 

 残念だが、これでコダラーをどうにか出来るとは思えねぇ……! 九節棍をペシペシ叩きつけたとこで、光線もはね返すコダラーのボディにゃ効かねぇだろう……!

 ……ん? 光線を……はね返す? ……それだぁッ!

 

〈孝矢〉『「タイタス! ここはオレに任せてくれ! どうにかなるかもしんねぇ!」』

 

〈タイタス〉『本当だな!? その言葉、信じるぞッ!』

 

 タイタスの身体のコントロールを得ると、九節棍を操ってまっすぐの状態に――棒のような状態にして両手で握り締めた。

 そうしていつもやってたように、バッターボックスに立つように棍を構える!

 

〈孝矢〉『「よーしッ!」』

 

「グギャアアアア!」

 

 コダラーが、今度は向こうが電撃球を作り出してく。来るなら来やがれッ! ULの怪物と呼ばれたスイング、見せてやらぁッ!

 

「グギャアアアア!」

 

 コダラーが電撃球を投げつけてきた! それを、棍で思いっ切り打ち返す!

 

〈孝矢〉『「うっらぁああああッ!」』

 

 カキーンッ! と気持ちいい音が鳴って、電撃球をコダラーに返す! だが向こうも球を受け止めた。

 

「グギャアアアア!」

 

 投げ返された球は速度を上げるが、こんぐらいはまだ余裕だッ!

 

〈孝矢〉『「だらぁぁぁッ!」』

 

 また打ち返した電撃球が、また止められる。

 

「グギャアアアア!」

 

 またこっちに返してくるコダラー。球は更に速くなり、とんでもねぇ豪速球と化した!

 けど、あきらめねぇ! みんなが勝利のために知恵も力も出し尽くしたんだ! オレだって、持てる全ての力を出し切ってやる!

 

〈孝矢〉『「おぉぉりゃああああ――――――――――ッ!!」』

 

 風を切って振った棍が球を芯に捉え、更にスピードを上げて打ち返した!

 コダラーもとうとう反応し切れず、電撃球をまともに食らった!

 

「グギャアアアア!!」

 

 コダラーの全身が破裂し、消滅してく! ピッチャー打ち取ったぜぇぇ―――ッ!

 

〈孝矢〉『「いよっしゃあああぁぁぁぁ―――――――――!! これぞ逆転サヨナラホームランだぜぇぇぇ―――――――――――ッ!!」

 

〈タイタス〉『おお……! 見事だ孝矢! よくやってくれたな!』

 

 オレに称賛を浴びせながら、タイタスが飛び立って長江から去ってった。

 

「ムンッ!」

 

 

 

 オレが戻った時には、戦いは既に決着がついてた。

 さっき言ったように、オレたちの勝利条件は甘寧を得ること。そのために孫権は、甘寧の船にまっすぐ向かってった。後がねぇ甘寧も正面から迎え撃ち、そして両者の船は激突! その瞬間、孫権は自ら相手の船に一足飛びで乗り移って、甘寧の首に直接剣を突きつけることで、遂に甘寧に負けを認めさせたというのだ!

 ……それ滅茶苦茶カッコいいじゃねーかよぉーッ! まるで映画のクライマックスシーンさながらじゃねぇか! オレ、一番いいとこ全部見逃したってことか!? 悔し過ぎるぅぅーッ! ちくしょー怪獣めぇーッ!!

 ……ともかく、これで甘寧は約束通りに孫権の臣下になり、錦帆賊は孫呉の軍に参入することとなった。この戦いの晩、甘寧がオレたちの陣を訪れたとこで、孫権がオレに対して言った。

 

〈孫権〉「南出、此度はよく働いてくれた」

 

〈孝矢〉「え? いや、オレぁ大したことしてねぇよ。今回はほとんどやることもなかったし」

 

〈孫権〉「そんなことはない。興覇……錦帆賊を仲間に引き入れるのはお前が提案したことではないか」

 

〈甘寧〉「そうだったのですか?」

 

〈孫権〉「もちろん、私も興覇は仲間にしたいと思っていたわ。けれど、軍議の席で、それをはっきりみんなに告げたのは、この南出だったのよ。……もっとも、その経緯が……ふふふっ……!」

 

〈孝矢〉「お、おい言わねぇでくれよ……あんま広めてくれるなって……!」

 

〈甘寧〉「?」

 

 思い出し笑いする孫権を訝しむ甘寧。そこにゃもう触れねぇでくれよ……。

 

〈孫権〉「それに、興覇との会合でも……お前の馬鹿正直さで、話が進んだ」

 

〈甘寧〉「そうですね。結果、私は決戦の約束を交わし、まんまと策に嵌まってしまった訳ですが……」

 

〈孫権〉「皮肉はよして」

 

〈甘寧〉「ふふっ」

 

〈孫権〉「……とにかく。戦の途中も、お前とタイタスに助けられた。これからも今回のように、お前が孫家に尽くしてくれると言うのなら……お前を信じて、私の真名を預けよう」

 

〈甘寧〉「っ……!」

 

 甘寧が一瞬驚いた顔になった。かくいうオレもだ。

 とうとう……オレを認めてくれるのか……!

 

〈蓮華〉「私の真名は蓮華だ。蓮に、華と書く」

 

〈孝矢〉「蓮華か……。超いい名前じゃねぇか」

 

〈蓮華〉「……ふふ。ありがとう、孝矢」

 

 オレの下の名前も呼んだ……! マジのマジで、オレを仲間に受け入れてくれたのか……! やべぇ、何かグッ! と来たぜ……!

 

〈甘寧〉「ふー……仕方ない。では南出とやら、私の真名も教えてやろう」

 

〈孝矢〉「えッ! 甘寧もか!?」

 

〈蓮華〉「あら、興覇。無理をしなくていいのよ?」

 

〈甘寧〉「無理などしておりません」

 

 思いがけず、甘寧の真名まで預かることになった。

 

〈思春〉「私の真名は思春だ。思うに春と書く」

 

〈孝矢〉「あ、ああ、ありがとな思春。南出孝矢だ」

 

 まさか堅物っぽい甘寧……思春の真名をこうもあっさり教えてもらえるなんてな。そんなにオレ気に入られたかなーハハハ。

 

〈思春〉「勘違いするなよ、南出。一度真名を預けた以上、私は貴様に一切の遠慮をせん」

 

〈孝矢〉「へ?」

 

〈思春〉「貴様が我が真名を呼ぶに相応しくないと思えば、その時は天の御遣いだろうが即座に斬る。蓮華様に益無い者だと判断した時も同じだ。それを肝に銘じておけ」

 

〈孝矢〉「お、おう……」

 

 お、脅された……。蓮華のためにそこまでやるってか……。臣下になってすぐこれって、やっぱこいつ、イメージ通りに超真面目なんだな……。

 

〈蓮華〉「あなたらしいわね。でも、思春……家臣の前では今の態度でもいいんだけれど……」

 

〈思春〉「はい?」

 

〈蓮華〉「二人だけの時は昔みたいにしゃべらない? しーちゃん、れんれんって」

 

〈思春〉「蓮華様っ!!」

 

 し、しーちゃん、れんれん……! んな可愛い呼び方し合ってたのかよ……!

 つい噴き出しちまったら、思春が超殺気込めてにらんできたんで、慌てて口をつぐんだ。危ねぇ危ねぇ……。

 

〈蓮華〉「駄目?」

 

〈思春〉「駄目……なりませぬ! 一度主君と仰いだ以上、私はいつ如何なる時でも臣の立場を貫きます。蓮華様も私を一家臣だとお思いになって、威厳をもって振る舞われるようっ!」

 

〈蓮華〉「真面目ねぇ……」

 

〈思春〉「南出、今の蓮華様のお話は他言無用だぞ? 分かっているな」

 

〈孝矢〉「分かった! 分かったから剣抜くなよ!」

 

 マジになるなっての! どんだけ知られたくねぇんだ!

 

〈蓮華〉「あと……思春。あなたの主君は私ではなく、私の母、孫文台よ? そこは誤解しないでね」

 

〈思春〉「はっ……心得ております」

 

 まー何だかんだで話は丸く収まりそうだ。あとは、思春たち錦帆賊を炎蓮さんがどんな条件で迎えんのかってことが……。

 

〈タイタス〉『孝矢ッ!』

 

〈孝矢〉「ん? どしたタイタス……」

 

 ぼんやり考えてたら、タイタスが急に声を上げた。いきなりどうしたんだよ……!

 

〈孝矢〉「蓮華ッ! 思春ッ!」

 

〈蓮華〉「えっ!?」

 

〈思春〉「なっ!?」

 

 咄嗟に二人の腕をグイッと引っ張って姿勢を下げさせる!

 

〈思春〉「南出! 突然これは何の真似……!」

 

 直後――二人の首があったとこを、光刃が通り過ぎてった。

 光刃は地面に刺さって、ドォンッ! と激しく土煙を巻き上げた。

 

〈蓮華〉「何事!?」

 

〈思春〉「蓮華様、お下がりを!」

 

 いきなりの攻撃に本陣が一気にざわつく! 思春が蓮華をかばい、更にその前にオレが躍り出て、棍棒を構えた。

 

〈孝矢〉「テメェッ! 蓮華たちに何しやがんだッ!」

 

 叫ぶと――オレの目の前の地面に、夜の暗闇の中から一人の人間がバッと飛び降りてきた。

 

〈西園寺〉「ふん……」

 

〈孝矢〉「西園寺……!」

 

 この古代中国で日本刀持った、ある意味時代錯誤野郎……西園寺楯だッ! また出てきやがった……! タイタスが気づいてくれなかったらやばかったぜ……!

 

〈思春〉「何奴!」

 

〈蓮華〉「サイオンジ……ということはあの男が、姉さまの言っていた、第四の天の国の男……!」

 

 思春が西園寺に飛びかかろうとするのを、オレは制した。

 

〈孝矢〉「待った! こいつにゃ借りがある。天の国の人間同士で、オレにやらせてくれ!」

 

〈思春〉「南出……!」

 

〈蓮華〉「孝矢……」

 

 慌てて集まった兵士たちに囲まれる中、オレは西園寺と対峙する。野郎は刀を肩に担いで、余裕しゃくしゃくの態度だ。なめやがって……!

 

〈孝矢〉「おい、今の聞こえなかったのか? 何しやがんだって聞いたんだよ。耳がジジイかテメェ?」

 

 嫌味をぶつけると、西園寺はわざとらしく鼻を鳴らした。

 

〈西園寺〉「そいつらを斬り殺そうとした。貴様こそ、そんなことが見て分からないのか? これだから馬鹿は」

 

〈孝矢〉「なッ……!」

 

 オレへの侮蔑と同時に、孫軍の陣地で平然と蓮華たちを殺そうとしてたって言い放ちやがった! 取り囲む兵士たちが殺気立つ。

 

〈孝矢〉「テメー、何のためにんなことしやがんだ! 蓮華たちがテメーにどう関係してんだよ!」

 

〈西園寺〉「関係? そんなものはない。だが、そいつらがこれから世に争いを撒くつもりだから、そうなる前に消すんだ」

 

〈孝矢〉「はぁ!?」

 

〈西園寺〉「お前たちが錦帆賊を降伏させたのは、水上戦力を増強するためだろう? これからの戦のために。そして長江を伝って、各地で争いを起こすために。無用に人の血を流そうという、野蛮人どもが。だからその前に殺すということだ」

 

〈孝矢〉「何言ってやがる! それは今の世を変えて、大陸を平和にするための戦いで……!」

 

〈西園寺〉「詭弁だ。結局は、自分たちが天下を取りたいだけだろう。力ずくで。全く反吐が出る。許しておけないな」

 

 何なんだこいつ……正義の味方ぶってんのか? それとも頭イカレてやがんのか? どっちにしろふざけんじゃねぇッ!

 

〈孝矢〉「許すとか許さねーとか、テメー何様だよ! 何の権利があるってんだ!!」

 

〈西園寺〉「世界の平和のために動くのに、どんな権利が必要なんだ? 下らない」

 

〈孝矢〉「ちッ……話にならねぇぜ。その口、開かねーようにしてやらぁ!」

 

 棍棒を握り直して、西園寺との間合いを測る。

 

〈西園寺〉「やる気か? やめておけ……お前のような雑魚、斬るにも値しない」

 

〈孝矢〉「人のことなめくさってたら、腹壊すぞオラァァッ!」

 

 一気に間合いを詰めて、棍棒を大きく振る!

 

〈西園寺〉「ふん……」

 

 西園寺がオレの一撃を軽くかわして、反撃しようとするが、

 

〈孝矢〉「うらぁぁぁッ!」

 

〈西園寺〉「!」

 

 振った勢いに乗ったまま回転して、もう一度振り下ろす! 西園寺は咄嗟に刀でガードした。よけなかったのは、反応が間に合わなかったからだぜ。

 

〈西園寺〉「……ふぅん。ずぶの素人じゃあなくなったみたいだな」

 

〈孝矢〉「ったりめぇだろ! 寝て過ごしてんじゃねーんだよ! 参ったかボケ!」

 

〈西園寺〉「……だが底抜けの馬鹿なのは変わらないな」

 

〈孝矢〉「ああ!?」

 

〈西園寺〉「おれがほんのわずかでも本気じゃないのが分からないんだからなッ!」

 

 西園寺の振るう剣のスピードが急激に上がった!

 

〈孝矢〉「うおうッ!?」

 

 棍棒で身を守るが、右に左に飛んでくる斬撃に対応し切れねぇ……!

 気づけば、刀の切っ先がピタリと喉に突きつけられてた……!

 

〈孝矢〉「うッ……!?」

 

〈西園寺〉「これで二回死んだな、愚図」

 

 く……くそッ……! こいつ、全然本気じゃなかったのか……いや、何なら今も本気なんかじゃねぇのか……! それでも太刀打ちできねぇって……まだそんなにも開きがあるってのか、オレはこの野郎と……!

 

〈思春〉「南出っ!」

 

 動けなくなったオレの代わりに思春が突っ込んできて、短刀を薙いだ。その寸前に西園寺は剣を引いて離れる。

 

〈思春〉「事情はよく呑み込めんが、こ奴は貴様の手に負える相手ではないようである上、我が主君のご息女に仇なす輩のようだな。ならば私が討つ」

 

〈西園寺〉「ふん……」

 

 刀を握り直した西園寺だが、兵士に囲まれてる状況なのに今気づいたみてぇに周りに目を走らせて、構えを解いた。

 

〈西園寺〉「……最初の攻撃で殺れなかった以上は、無理があるようだな。退かせてもらう」

 

〈思春〉「身勝手ばかり、許すと思うかっ!」

 

 思春が神速の突きを繰り出すが――西園寺は怪人に変身して思春の剣を弾いた。

 

〈思春〉「なっ……!? 化け物か……!」

 

〈サイオーガ〉『だが忘れるなよ。おれは人の血を流す奴を決して許さん。戦いを振りまく輩は、必ず斬り捨ててくれるッ!』

 

 大きく刀を振って旋風を起こすと、たちまち西園寺の姿は消え去った……。

 

〈思春〉「消えた……!」

 

〈蓮華〉「一体、何者なの……? 何が目的で、戦を起こす者を斬るなどと……」

 

 西園寺の乱入で、本陣は戦が終わったのに混乱を来たす。……オレは、また負けたのが悔しくて立ち尽くしてた。

 

〈タイタス〉『孝矢、大丈夫だったか。怪我がなくて何よりだ』

 

〈孝矢〉「タイタス……また駄目だったぜ。みんなに鍛えてもらってるってのに……」

 

〈タイタス〉『そう落ち込むな。人間がそんなにすぐ強くなれる訳もない。命があることに感謝し、もっと鍛えればいいのだ。君はまだまだ道の半ばだから、しょげている暇もないぞ』

 

〈孝矢〉「ああ……ありがとな」

 

 タイタスに励まされて、ちょっとは気が楽になった。

 西園寺……次現れる時があったら、そっちを負かして借りを纏めて返させてもらうぜ……!

 

 

 

 ――荊州、江夏。黄祖の居城。

 

〈黄祖〉「……結局、なってほしくないことになってしまったか」

 

 黄祖は、甘寧が錦帆賊ごと孫家に降ったという報せを聞き、憮然と玉座に腰を据えていた。

 

〈黄祖〉「まぁ良いわ。思い通りにならぬところも、あの娘らしいと言える……。さりとて、虎に尻尾を振る狼など、私も見たくはない……いずれ誇り高い狼の血を、私が思い出させてやろう」

 

 ニタリと嗤う黄祖の横顔に、濃い影が差す。

 その影は、とても人間が纏うものとは思えないほどの禍々しさがこもっていた――。

 

〈黄祖〉「思春……お前を理解しているのは、この私だけだ……ふふっ……ふふっ……ふふふふふふふふふふっ……」

 


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