奥特曼†夢想 ‐光の三雄伝‐   作:焼き鮭

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劇場版ウルトラマンタイガ観ました。

ヒロユキ「きみに勝たないと……タイガえもんが……安心して……帰れないんだ!」



蓮華の試練!!

 

 孫権こと蓮華は、思春たち錦帆賊を打ち負かして、孫呉の傘下にすることに成功した。けど孫軍にもかなりの被害を出してた賊だ、いざ連れ帰ってもすんなり受け入れてもらえるか……って問題があったが、そこは剛毅な炎蓮さん、思春をいきなり孫呉水軍の総大将に任命するって超好待遇で迎えるつー太っ腹を見せてくれた(もちろん雷火さん辺りが反対したが、押し通られた)。

 ってな訳で錦帆賊を戦力に加えた孫呉は、ますます強くなった! ――ってなれば良かったんだが、現実ってのはそう単純にはいかねーみてぇで……。

 

 

 

 盧江郡の水軍基地。元々は錦帆賊のアジトだった港だが、今は孫呉水軍の新しい拠点にするために工事が進められてる。

 

〈思春〉「蓮華様。長旅、お疲れ様です」

 

〈蓮華〉「ええ」

 

 そんなとこに、オレと蓮華、思春、穏の四人が建業から訪れてた。

 

〈穏〉「うぅ~……怖そうな人がいっぱいですね~」

 

〈タイタス〉『そう怖がるな、穏。おどおどしていたら舐められるぞ』

 

〈孝矢〉「強面なら孫軍にだって掃いて捨てるほどいるじゃんかよ」

 

〈穏〉「だって皆さん、こっちをにらんでいますよ~。わたしは特に恨まれていますから~……へうう、怖いです~」

 

〈孝矢〉「ちょッ……! オレを盾にすんなよ」

 

〈蓮華〉「もう、何をしているのよ?」

 

〈穏〉「だってぇ、蓮華さまぁ~!」

 

〈蓮華〉「大きな声で、真名を呼ばないで」

 

〈穏〉「あぅううっ、申し訳ないですぅ……でも、わたしってこういう空気って苦手なんです……」

 

 穏の言う通り、ここにいるのはほとんどが元錦帆賊の奴らだが、そいつらは明らかにこっちにガン飛ばしてて、歓迎ムードじゃねぇ。味方にしたってのに、完全アウェーだ。

 こんなとこにわざわざオレたちが来た理由は、簡単に言やぁこいつらを躾けるためだ。元錦帆賊の奴らは、強えぇことは強えぇんだが……思春以外の命令を聞きゃしねぇっていう致命的な問題を抱えてやがった。もう二度三度ばかり戦に出されてるが、好き勝手暴れてばっかだって。

 いくら能力高くたって、監督の采配を無視する選手なんか論外だ。って訳で、思春以外の将軍の命令にもちゃんと従うようにするって任務を、連れてきた蓮華が帯びたっつぅことだ。

 

〈蓮華〉「穏、胸を張りなさい。タイタス殿の言う通り、気迫で負けては余計侮られてしまうわ」

 

〈穏〉「はい~……」

 

〈蓮華〉「思春、早速だが組頭たちを集めてくれ。彼らと話がしたい」

 

〈思春〉「ははっ!」

 

 着いた早々ビビりまくりの穏とは反対に、蓮華は流石堂々としたもんだぜ。オレも足引っ張らねぇように、向こうを威圧し返すぐれぇの姿勢でいねぇとな。

 

 

 

 そして、肝心の元錦帆賊の組頭たちとの会談の結果だが……まぁひと言で言や、散々だった。

 

〈蓮華〉「はぁぁぁぁぁ……」

 

 元々の思春の家でひと晩明かすことになると、そこで蓮華がでっけぇため息を吐いた。会談の席での自分を深く反省してるみてぇだ。

 

〈蓮華〉「私は何て情けないのかしら。母様の前では、あんな大見得を切ったのに……」

 

 組頭たちの様子や反応は、やっぱ今までのまんま。思春の言うことにゃすぐに従うが、蓮華の方からは何て言われようとも、何を説かれようともまるで聞きゃしねぇ。完全に蓮華を舐め切って、ハナから話を聞く気がねぇありさまだった。あんまり愚弄されるんで蓮華もキレて、挙句思春が場を取り成して終わりってザマだった。

 

〈タイタス〉『少し熱くなってしまったな、蓮華よ』

 

〈蓮華〉「私の悪い癖だわ。何かあると、すぐに頭へ血が上る……。人としての堪忍が足りていないのよ」

 

〈穏〉「炎蓮さまに似たんですよ~」

 

〈蓮華〉「そんなことはないわ。母様はああ見えて、いつもすごく冷静だもの。雪蓮姉様だって……」

 

〈穏〉「ああ~」

 

〈蓮華〉「はぁぁ……納得しないでよ」

 

〈穏〉「あああ、ごめんなさい」

 

〈蓮華〉「でも、たとえ頭が冷静だったとしても、私に彼らを説得するのは難しかったでしょうね……」

 

〈孝矢〉「元気出せよ。もう一日あるんだしよ、も一度トライしようぜ」

 

〈蓮華〉「とらい?」

 

〈孝矢〉「あー、もう一回やってみようぜってことだ」

 

〈蓮華〉「……ええ」

 

 すっかり落ち込んでる蓮華を慰めてたら、思春に呼び掛けられた。

 

〈思春〉「南出。貴様は先ほどから他人事のような顔だが、会談で何ゆえ、ひと言もしゃべらなかった?」

 

〈孝矢〉「え?」

 

〈思春〉「どういうつもりだ? 蓮華様をお支えするのが、貴様に課せられた役目ではないのか?」

 

〈孝矢〉「そりゃそうなんだけどよ……けど短気って点じゃオレも蓮華とどっこいだし、頭はずっと悪りぃんだ。余計なこと言っちまったら、蓮華の恥になるだろ?」

 

〈思春〉「む……」

 

〈孝矢〉「まーだからって、このまま何もしねぇつもりじゃねぇよ。反省会やろうぜ。何が駄目だったか見つけて、明日に活かさねーとな」

 

〈蓮華〉「ん……あなたの言う通りだわ。落ち込んでいる暇なんて無い」

 

 気持ちを切り替えて、今日の会談の反省を始める。こーいうの、試合の後にはほぼ必ずやったもんだから手慣れてるぜ。もっとも、オレぁろくなこと言わなかったけどな。

 

〈穏〉「孝矢さん、何かお考えがあるのですかぁ?」

 

〈孝矢〉「考えってほどじゃねーけど、思ったことならあるぜ」

 

〈蓮華〉「何かしら。何でも言ってみてちょうだい」

 

〈孝矢〉「ああ。見てて改めて思ったが、あいつらマジ思春には従順だよな。今日だって、思春が言うことにゃ何だって二つ返事で従って。ほぼ信者だぜありゃ」

 

〈思春〉「し、信者?」

 

〈穏〉「確かにそうですね~。まるで神様みたいに思春ちゃんを崇めてます~」

 

〈思春〉「……そうか?」

 

〈穏〉「はい。思春ちゃん、何故なんでしょうね?」

 

〈思春〉「私に聞かれてもな……」

 

 思春は流石にちょっと恥ずかしげだ。

 

〈蓮華〉「思春が強いから……つまり、優れた将だから?」

 

〈穏〉「でもぉ、それだったら……あの、恐縮ですがぁ、蓮華さまは思春ちゃんに戦で勝ちましたよね~?」

 

〈思春〉「何も恐縮することはない。私が蓮華様に敗れたのは揺るぎない事実だ」

 

〈蓮華〉「じゃあ……どうしてあそこまで、あからさまに私をコケにしてくるのかしら? 策で勝利したから?」

 

〈穏〉「それでも勝ちは勝ちですよぉ。そもそも戦なんて、騙し合いじゃないですかぁ?」

 

〈思春〉「ああ……そこは私も引っ掛かっている。あの者たちも頑固だが、あそこまで物分かりが悪いというのもな……」

 

 みんなが悩んでるとこに、意見する。

 

〈孝矢〉「理由があってコケにしてくんじゃなくて、コケにしてぇからしてくんじゃねーか?」

 

〈蓮華〉「え?」

 

〈穏〉「おおお、待っていましたよ、孝矢さん♪ ご自分で話を振っておいて、何もおっしゃいませんでしたが。さてさてどんな妙案を授けて下さるのですか~?」

 

〈孝矢〉「お、おいよせよ。変に期待すんなって」

 

 いちいちハードル上げてくれるなっての。

 

〈孝矢〉「さっき言ったように、あいつらは思春に従順だ。そりゃ思春が強えぇってのもあるだろうけどよ、一番の理由は、思春に惚れてるからだと思うぜ」

 

〈思春〉「ほ、惚れているだと?」

 

〈孝矢〉「別に変な意味じゃねぇぜ。人間的な器のでかさに惚れ込んでる的な……簡単に言やぁ、あいつら思春の舎弟なんだよ」

 

〈思春〉「ふーむ……」

 

〈孝矢〉「その慕ってる姉貴分を、いきなり出てきた蓮華がやっつけた。それが気に入らねぇ、納得いかねー。だから蓮華が何を言おうと、最初から突っぱねに掛かるってことだと思うぜ」

 

〈蓮華〉「そんな、子供みたいな……」

 

 一瞬呆れた蓮華だが、すぐに考え直した顔をした。

 

〈蓮華〉「……いえ。つまり……信用ということ?」

 

〈孝矢〉「そーいうことだろうな。ああいう連中は、理屈じゃねぇ。相手が信用できるかどうかだ。どんだけ強かろうが、信用のねぇ奴の言うことは、ハナから聞く気なんてねぇってこったろう」

 

 そーいう経験、オレにもあるから分かる。監督だってチームメイトだって、そいつが信じられると心を許せてから話を聞く気になるんだ。それがなかったら、何を言われようとも口先だけの奴って印象のままだ。

 オレの言うことを思春たちも理解したみてぇだ。

 

〈思春〉「そうか……。畏れながら申し上げます、蓮華様。あの者どもは、私を下した孫仲謀という人物の器を推し量っていたのです」

 

〈穏〉「だから、ああやって挑発していたんですね。孫家のご令嬢ではなく、蓮華様個人の人間性を引き出そうと思って~」

 

〈蓮華〉「そういうことか……」

 

〈孝矢〉「ま、頭で分かってやってんじゃねぇと思うけどな。本能的なもんだろ」

 

 ガラの悪りぃ奴は、最初はとりあえずのように恫喝から入るからな。江賊だって同じだろ。

 

〈蓮華〉「……よし、分かった」

 

 少しの間黙りこくった蓮華は、考えが纏まったのか、大きくうなずいた。

 

〈蓮華〉「思春」

 

〈思春〉「はっ!」

 

〈蓮華〉「明日は組頭だけでなく、兵どもを港に集めよ。朝、もう一度、彼らに語り掛ける! 勝者として、敗者に語るのではなく、孫家の令嬢として、部下に命じる訳でもない。私は“人”として“人”にぶつかろう!」

 

〈思春〉「ははっ!」

 

 そう語る蓮華の顔には、さっきまでとは真逆に、自信がみなぎってた。

 

 

 

 そして翌朝に、集められた江賊たちの侮る様子に一歩も退かずに、蓮華は大きく呼び掛けた。

 

〈蓮華〉「孫家の……いや、この私の最終的な目的は天下を獲ること! つまり大陸に覇を唱えることだ!」

 

 堂々とした宣告の内容のでかさに、荒くれ者どもにもどよめきが起こる。

 

〈蓮華〉「漢王朝を滅ぼすことが、私の目的ではないが、天下を制する過程で仮に漢が滅びようと、それは致し方のないことだと思っている!」

 

 下手な奴に聞かれたら大問題の発言に、穏の方が動揺する始末だったが、それでも蓮華ははっきりと揺るぎのねぇ口調で続けた。

 

〈蓮華〉「白翼党が未だ乱を起こす現在においても、中央では相変わらず貪官汚吏が悪政を振るい、地方でも欲に目のくらんだ群雄どもが、領地欲しさの私闘に明け暮れている! ……かく言う孫家も、その群雄の一つだが、そんな大陸で最も力を示し、弱者と愚者を駆逐して頂点に君臨するのが、我が孫家、我らが孫呉だ!」

 

 蓮華の話に江賊たちは、すっかり呑み込まれてた。

 

〈組頭〉「漢王朝にも、大陸の諸侯全部にも喧嘩を吹っ掛ける気っスか?」

 

〈蓮華〉「我らに従わないのであればな。まぁ、無謀にも聞こえるだろう……これまでであれば、このような大望も、寝言妄言の類であった。しかし! 今は違う! 何故ならば、今の孫呉には諸君らがいるからだ!」

 

 自分たち自身に言葉が向けられて、またどよめきが起こる。

 

〈蓮華〉「諸君らの操船技術や水上戦での身のこなしが、天下随一であることは疑いようがない! だが、残念ながら、諸君らはその身に与えられた力を活かし切ってはいない!」

 

〈組頭〉「活かし切っていない? どういう意味だよ?」

 

〈蓮華〉「諸君たちにも、己なりの信念があるだろう。賊と言われながらも、長江で襲っているのは先の悪徳役人や商人、または賊のみだった。しかし、こんな片田舎で何隻船を沈めたところで、世の中は何も変わりはしない! 天より授かった諸君らの力を燻らせていることは、天下の民への裏切りと知れ!」

 

 蓮華は決して、口から出まかせのことを並べてんじゃねぇ。全部、本当に思ってることだろう。その気持ちを真正面からぶつけられて、元錦帆賊の蓮華を見る目も変わってきてた。

 

〈蓮華〉「我々と諸君らが手に手を取り合えば、大陸の制覇も夢ではなくなる! この世は果てしなく広い! かような狭い地で、生涯を終えてしまっても良いのか? 北にはまだ黄河がある! 江賊の自負があるならば、長江だけでなく黄河も制してみよ! そして、我ら孫呉の力を天下に轟かせようではないか! 孫家と! 我と共に戦え! 共に天下を獲ろうぞ!!」

 

 蓮華の熱に充てられた元錦帆賊――いや、孫呉の兵士たちは、刀を掲げて、一斉に歓声を上げた。

 

 

 

 蓮華の名演説が終わった後に、タイタスに話しかけた。

 

〈孝矢〉「蓮華の演説、すごかったな~。みんなすっかり聞き入ってたぜ」

 

〈タイタス〉『うむ。正直に言うと、ウルトラマンとしての立場からでは手放しに賛同できるものではなかったが……それでも、あれが彼女の心からの言葉だからこそ、皆の胸を打ったのだ。これから元江賊の兵士たちの意識も変わるだろうし……蓮華自身も、ひと皮剥けたことだろう』

 

〈孝矢〉「……だな」

 

 思わず、オレはヘヘッと笑ってた。

 そしてタイタスの言う通り、この後は元錦帆賊は蓮華のことを認め、孫呉の兵士としての自覚を持ち、将軍たちの命令によく従うようになったのだった。

 


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