The Messenger from a Sky
――漢王朝、苑州。暗天の空に覆われた荒野に、鎧を着込んだ兵隊を従える三人の娘たちと――無数の人間の死体が並んでいた。
「これは……ひどくやられたものね」
最も背が低い、金髪の縦ロールの娘が現場の惨状を一望して独白した。転がる死体はどれもズタズタに切り裂かれており、彼らのものと思しき荷車は特に徹底的に破壊され、残骸しか転がっていなかった。
「食料を運ぶ隊商だったようですね」
死体を検分した、長身の女性二人が、金髪の娘に報告する。
「積み荷は全て、この場で食い荒らされたようです」
「それにしても、あまりに惨いやり口……。どこの野盗でしょうか?」
「いいえ。ただの野盗ならば、奪った食料をその場で食らうような獣の真似事はしないでしょうし、何より殺し方があまりに無残すぎる。とてもじゃないけど、人間業とは思えないわ」
金髪の娘が語った時、彼女たちの近くに倒れている商人が、かすかにうめき声を上げた。
「うぅ……」
「! まだ息があるわ!」
「おい、しっかりしろ! 何があったのだ!」
長い黒髪の女性が商人の側に寄って介抱すると、商人は視点の定まらない目でつぶやいた。
「と……鳥を見た……」
そのまま、カクンと糸が切れたかのように息絶える。
「鳥……。猛禽にでも襲われたのか? そういえば、この者たちの傷は鉤爪にでも引っ掛かれたもののように見えるが」
「姉者。それにしては大きすぎる。傷跡から類推すると、人間よりはるかに巨大でないとこうはならん」
長髪と短髪の女性たちの話し合いに、金髪の娘が割って入った。
「妖……怪鳥かもしれないわね。昨今の世は、得体の知れない化け物がはびこってるわ」
「ですが、それでも大きすぎます」
「分からないわよ。世は最早末法。王朝が腐り、人心が乱れ果てた世界には、何が起きても不思議ではないのかもしれない。……鳥か……」
金髪の娘はふと、鳥から連想される空を見上げた。無数の星々が散りばめられた漆黒の天蓋を。
その夜空を、三筋の流星が横断するように走った。
「……流れ星」
一つ目の星は南に、三つ目は東に――そして二つ目の星は、彼女たちの前方方向にある山の向こうに落ちていった。
彼女の他に、二人の女性も流星を目撃する。
「そう遠くないところに落ちましたな。あの辺りならば、通り道でもあります」
「……あまり吉兆とも思えませんね。ただでさえかようなものと出くわしたというのに……。出立を延期いたしましょうか?」
「流れ星などで延期しては、また栄華に小言を言われてしまうわ。それに……覚えている? 管輅の予言」
「世が乱れ、巨躯の妖が跋扈せん時、神仏の如き光の巨人となりし天の御遣いが三筋の流星に乗りて降臨し、大地を平定す、でしたな。しかしながら、このような占いをお信じになられるのですか?」
「頭から信じ切るという訳ではないけれど、妖や三筋の流星の部分が当たったのならば、可能性は生じるわ。……出立は予定通り、そして道中で流れ星の落下地点の捜索も加えるわよ」
「はっ!」
二人の女性が金髪の娘に恭しく頭を垂れ、連れている兵隊に指示を下しに行った。
山の向こうに消えた流星を見つめる金髪の娘が、ひとりごちる。
「天の御遣い……。もし本当にいるのなら、果たしてどのような人間なのかしら」
〈鎗輔〉「……うぅ……」
地面の上に倒れ伏していた東雲鎗輔は、ゆっくりと頭を振りながら身体を起こした。
〈鎗輔〉「何か……頭が痛い……。寝すぎたかな……」
独りぼやきながら上半身を持ち上げ、目をこすりながら周囲の状況を確かめようとする。
と、一番に目に飛び込んできたのは――。
〈鎗輔〉「……お、女の子!?」
自分のすぐ側に倒れている、小さな少女の姿であった。鎗輔は咄嗟に彼女の脈拍と呼吸を確認する。
〈鎗輔〉「……よかった、気を失ってるだけか。……それにしても……」
ほっと安堵すると、ぶり返してきた頭痛に顔をしかめながら記憶を掘り返す。
〈鎗輔〉「ぼく、何をやってたんだっけ……。そうだ、歴史資料館で、異常事態に襲われて……。それで、どうしてこんなところに……?」
キョロキョロ首を回す鎗輔。陽の光に照らし出されている景色は、どこまでも広がる殺風景な赤茶色の荒野。あるのは、天に向かって伸びている無数の岩山くらいだ。
〈鎗輔〉「何か、日本の風土に見えないんだけど……。この子も……」
目の前に横たわっている少女を改めて観察する。下半身はまだしも、胸から腹部に掛けてはスポーツブラのような胸当てが一枚きりという、常識を疑う格好だ。更に、彼女の傍らに大きな斧のようなものまで転がっている。その刃先に触れた鎗輔が息を呑んだ。
〈鎗輔〉「間違いない、本物の金属だ……。この子、何者なんだ? コスプレイヤーにしては度が過ぎるぞ」
少女がどういう人間か知ろうとするように目を凝らす鎗輔だが、見た目の情報だけでは何も分からない。気を取り直して、ジャケットの内ポケットに手を突っ込んでスマホを取り出すと、その『スマホ自体』に呼び掛けた。
〈鎗輔〉「PAL、救急車を呼んでくれ。それからここがどこかの位置情報検索も頼む」
すると『スマホそのもの』から返答がある。
〈PAL〉[出来ません、鎗輔]
〈鎗輔〉「え?」
〈PAL〉[通話、及び位置情報検索に利用可能な電波をキャッチ出来ません。それどころか、人工の周波数の電波も先ほどから全く検出されません]
スマホからの答えに目を見張る鎗輔。
〈鎗輔〉「人工の電波がない……? この高度情報社会に、一切の電波が存在しない場所なんてあるのか……?」
そう訝しんでいると、彼の背後からザッと三人分の足元が起こる。
〈アニキ〉「おう、兄ちゃん。珍しいもの持ってんじゃねぇか」
〈チビ〉「アニキ、女の子もいますぜ!」
〈鎗輔〉「え?」
振り向くと、そちらに下卑た表情をした、三人の大小それぞれの男たちがいた。少女と同様に、普通の日本人らしからぬすり切れた服装であり、手には刀などの凶器が握られている。
〈鎗輔〉「……あなたたちは、撮影中の役者さんとかですか?」
〈アニキ〉「はぁ? 何言ってんだ、こいつ」
とりあえずの問いかけに、中央の男は怪訝な顔となった。
〈鎗輔〉「……質問を変えますが、ここはどこでしょうか? 日本じゃないんでしょうか?」
質問を変えても、男たちは鎗輔の言うことが何も分からないといった様子。
〈デク〉「にほん……? 何のことなんだな?」
〈チビ〉「アニキ、こいつもしかして、頭おかしいんじゃないすか?」
〈アニキ〉「ああ。俺もそう思ってたところだ」
男たちの反応を見て、鎗輔は深刻そうな顔でうつむく。
〈鎗輔〉「日本が分からない……。ということは……」
〈アニキ〉「おい兄ちゃん、訳の分かんねぇこと言ってねぇで、ちょいと俺たちの言うことを……」
〈鎗輔〉「ちょっと待ったッ!」
〈アニキ〉「おうッ!?」
バッ! と手の平を向けてさえぎる鎗輔。突然の大声に、男たちは驚いて思わず口を閉ざす。
〈鎗輔〉「明らかに日本の風土気候じゃない、電波もない環境……日本を知らない人たち……。夢のような話だけど、こんな現実感のある夢は一度も見たことがない。これらを総合すると……実に非科学的なことだけど……ぼくは、時間も空間も異なる世界に来てしまったということになる。やっぱりあの時、現代科学の理解を超越した事象が起こったのか?」
〈アニキ〉「お、おい。一体何の呪文を唱えてんだ……?」
〈鎗輔〉「だけど、言葉が通じるのはどういうことだ? 当然、言語は全く違うはずだろうに」
〈PAL〉[いえ、鎗輔。正確には、彼らの言うことが私たちには日本語に聞こえているようです。恐らくは逆もそうです]
〈アニキ〉「おわッ!?」
〈鎗輔〉「日本語に?」
〈PAL〉[彼らの口の動きは、聞こえる語句と一致していません]
〈鎗輔〉「なるほど、自動翻訳か。フィクションでそういう設定よくあるよね。だけどそんな都合のいいことが、実際に起こるなんて……」
〈PAL〉[原因不明です]
〈アニキ〉「おいゴラァッ! いつまでくっちゃべってんだッ!」
放っておかれている男が怒号を上げた。
〈鎗輔〉「あッ、すみませんお待たせして。えーと、何の御用でしょうか?」
〈アニキ〉「ふざけてんのかテメェッ! っていうかお前、何なんだ!? 何でその板しゃべってんだよ! まさかお前、呪い師か何かか!?」
〈鎗輔〉「いえ、これは科学技術の産物によるものでして……」
〈アニキ〉「まった訳の分かんねぇこと抜かしやがって! もうつき合ってらんねぇッ!」
痺れを切らした男が、刀を抜いて刃先を鎗輔の首筋にぴたりと触れさせた。
〈鎗輔〉「ひッ……!?」
途端に身の危険を感じて震え上がった鎗輔は両手を挙げる。
〈アニキ〉「お前の身ぐるみ、全部置いてってもらおうか。そのしゃべる板も、見慣れねぇ服も、女もだ」
鎗輔が怖気づいたことで、優位に立ったと見た男たち――野盗たちが卑しい笑みを浮かべた。
〈鎗輔〉「えッ!? 女って……この子!?」
〈アニキ〉「そいつ以外に誰がいんだよ」
〈鎗輔〉「あ、あの……それはご勘弁願えませんか? PALもなかったら困りますし……」
冷や汗を垂らしながらも懇願する鎗輔の腹を、チビの野盗がぶん殴った。
〈鎗輔〉「うぐッ……!?」
激痛でうずくまる鎗輔に、野盗が冷酷な言葉を浴びせる。
〈アニキ〉「お前、まだふざけてるみてぇだな。しょうがねぇ。これ以上余計な手間はかけたくねぇんだ。お前ら」
〈チビ・デク〉「へい!」
〈アニキ〉「さっさとバラせ」
自分のことを殺すつもりだと理解した鎗輔の顔面が、一気に真っ青になる。
〈PAL〉[鎗輔、私だけでも置いて逃げて下さい]
〈鎗輔〉「そ、そんなの出来ないよ! こ、この子だって……」
尻もちを突きながらも、スマホをぎゅっと握り締めながら後ずさりした鎗輔のもう片方の手が、倒れたままの少女の手に触れた。
〈???〉「……んー?」
〈鎗輔〉「あッ……!」
その瞬間に、少女が声を上げた。鎗輔が振り向くと、パッチリと開いた少女の目と目が合う。
〈鎗輔〉「き、君! 逃げて! 早く、逃げるんだッ!」
焦る鎗輔は少女に言い聞かせるが、少女は目覚めたばかりだからか、ぼーっとしたままだ。
〈???〉「あたまいたい……」
〈鎗輔〉「そ、そう。でも悪いけど、今それどころじゃ……」
〈???〉「あー。落ちてきた人」
〈鎗輔〉「……へ?」
鎗輔の顔を正視した少女がそんなことを言ったので、つい呆気にとられる鎗輔。
〈鎗輔〉「落ちてきた? ぼくが?」
〈???〉「うん。お空に流れ星が見えたから、見に行ったら……シャンの頭の上に、落ちてきたの。おーって思ってたら、よけるの忘れちゃった」
〈鎗輔〉「……う、嘘だろ? だからぼくたち、こんなところで倒れてたのか……」
唖然とした鎗輔は、少女に振り向き直ってひとまず謝った。
〈鎗輔〉「シャンちゃん、でいいのかな? ごめんね、ぶつかっちゃって……」
〈シャン?〉「……っ!」
〈鎗輔〉「ん? どうかした?」
少女は急にびくりと小さく震え、少し考え込んでから、顔を上げた。
〈シャン?〉「ううん。へーき。まぁ、そういうこともあるよね……」
〈鎗輔〉「あるのかなぁ……。って、それどころじゃないんだよ! 今大変なんだ!」
鎗輔が我に返ると、野盗たちは二人を取り囲んでいた。
〈アニキ〉「おう。忘れられたのかと思ったぜ」
〈鎗輔〉「やば……!」
〈アニキ〉「起きたんならちょうどいい。抱えて連れていく手間が省けたぜ。お前ら!」
野盗たちが鎗輔と少女を捕らえようとじりじり包囲網を縮める。最早これまでかと固唾を呑む鎗輔に、
〈シャン?〉「ねー、お兄ちゃん」
〈鎗輔〉「お、お兄ちゃん?」
〈シャン?〉「ダメ?」
〈鎗輔〉「いやいいけど……。それより何?」
〈シャン?〉「こいつら、悪い奴?」
〈鎗輔〉「うん。今身ぐるみ置いていけって脅迫されてるんだ……。シャンちゃんのことも置いてけって……」
〈シャン?〉「ん。わかった」
うなずいた少女がすっくと立ちあがる。
〈鎗輔〉「シャンちゃん!? 危ないよ……」
慌てて腕を引こうとした鎗輔だったが……次の瞬間。
〈デク〉「がッ……はッ……!」
少女は瞬きするほどの間に、野盗の一人の懐に潜り込んで、肘打ちを食らわせていた。重い打撃音が響くと、太った野盗はズルズル崩れ落ちる。
〈シャン?〉「ひとりめ」
〈鎗輔〉「えええええ!?」
仰天する鎗輔。残る野盗もだ。
〈チビ〉「テメェッ……何しやがる!」
〈シャン?〉「今のは、けーこく。次は……」
更に少女は、大地に転がっていた大斧をいとも簡単に持ち上げてみせた。
〈シャン?〉「本気」
〈鎗輔〉「ぶッ!」
一体どれほどの重量なのか想像もつかない武具を、枝か何かのように扱う少女に、鎗輔の目玉は剥き出し。野盗たちもまさかの展開に怯えていたが、
〈アニキ〉「し……所詮、女一人だろうが! 三人で束になってかかりゃ……それに、あっちには足手まといの小僧もいる!」
自棄になったか、蛮勇をふるって再度鎗輔たちを取り囲む。
その時、
〈???〉「ほほぅ。女一人を倒すのに、人質まで取らねばならんという訳か……。見下げ果てた奴らだな!」
〈アニキ〉「だ、誰だ!?」
突然野盗たちに凛とした声が浴びせられた。一同が振り返ると、すぐ側の小高い岩山の上に人影が見える。
〈???〉「ふっ……。外道の貴様らに名乗る名など、あるものか!」
〈シャン?〉「あー。星ー」
〈???〉「……香風。お前も少しは、名乗りの美学や段取りというものをだな……」
〈シャン?〉「あーあー。きこえなーい」
どうやら少女の知り合いらしい、白い装束の芝居がかった口調動作の女性は、ふた又の槍を携えながら岩山から少女の隣に華麗に着地した。その身のこなしにまたも驚愕の鎗輔。
〈???〉「さて。女一人が二人に増えた訳だが、どうする? 先ほどの人質云々とかいう策……我が槍の届く内では、許しはせんぞ?」
〈アニキ〉「うッ……!?」
〈チビ〉「あ、アニキ……こりゃもう無理ですぜ。あきらめましょう……」
〈アニキ〉「仕方ねぇ……。お前ら、ずらかるぞ!」
そうと決めるや否や、脱兎の如く逃げ出す野盗三人。だが女性はその背中を追いかける。
〈???〉「お主ら盗賊を警備に突き出せば報奨の金がもらえるのだ。逃がすか、貴重な路銀!」
〈鎗輔〉「ええ……」
〈シャン?〉「……行っちゃった」
野盗を追っていく女性の背中をポカンと見送る鎗輔たち。すると女性に入れ替わるように、もう二人の女性がひょっこりと出てきた。
〈???〉「大丈夫ですかー?」
〈???〉「日が昇っても戻らないから、どうしたのかと思えば……捜しましたよ、香風。そちらの方も、大した怪我ではないようで何よりです」
〈鎗輔〉「あ、ありがとうございます」
変わった人形を器用に頭に乗せた小柄の少女と、眼鏡を掛けた鎗輔と同等か少し上くらいの年齢らしい少女。鎗輔は思わず二人にペコリと頭を下げた。
〈???〉「とはいえ、手当てはしておいた方がいいでしょうね。風、包帯は?」
〈???〉「もうないですよー。こないだ、稟ちゃんが全部使っちゃったじゃないですかー」
〈???〉「……おや、そうでしたか?」
〈鎗輔〉「い、いえ、お気遣いなく。もう痛みも引きましたから」
〈???〉「そうですか? ならいいですけどー」
遠慮していると、最初の槍の女性がしょんぼりしながら戻ってきた。
〈???〉「やれやれ。すまん、貴重な懸賞金に逃げられた」
〈???〉「星ちゃんが逃げられるなんて、あの人たち、馬でも使ってたんですかー?」
〈???〉「然り。同じ二本足なら百人が相手でも負ける気はせんが、倍の足で挑まれてはな」
〈???〉「まぁ、香風ちゃんも見つかりましたし、追い払えただけでも十分ですよー」
〈???〉「それにしても、あなたも災難でしたね。この辺りは比較的盗賊の少ない地域なのですが……」
〈鎗輔〉「はぁ……。でも、お陰で助かりました。えっと……星さん?」
礼を告げる目的で、鎗輔が白装束の女性に呼び掛けると――。
〈???〉「貴様ぁっ!」
いきなり憤怒の形相で槍を突きつけられた!
〈鎗輔〉「えぇーッ!?」
〈???〉「お主、どこの世間知らずの貴族かは知らんが……いきなり人の真名を呼ぶなど、どういう了見だ!」
〈鎗輔〉「へぇ!? 真名……!?」
再び手を挙げる羽目になった鎗輔は、女性たちの反応と口ぶりから、おおまかなところを察した。
〈鎗輔〉「ご、ごめんなさい! 名前、みだりに呼んじゃいけないものだとは知らなかったので……! 謝りますから、槍を引いてッ!」
〈???〉「……結構」
必死の命乞いの甲斐あり、女性は怒気とともに槍を下げた。
〈鎗輔〉「はぁー……びっくりした」
〈???〉「お兄さん。真名は相手の許しなしでは、たとえ知っていても口にしてはいけないんですよー。殺されても仕方ない扱いになりますので、気をつけて下さい」
〈鎗輔〉「そ、そうなんだ。物騒な……。でも、シャンちゃん……は、何も言わなかったよね? 真名というのじゃないの?」
〈香風〉「真名だけど、呼ばれても何ともなかったから、まぁいいかなーって」
〈???〉「……香風。あなたはまたそういう雑なことを。何があっても知りませんよ」
場が落ち着いたところで、鎗輔が女性たちに尋ねかける。
〈鎗輔〉「あのー……それじゃあ、ぼくは皆さんのこと、何とお呼びしたらいいでしょうか」
〈程立〉「はい。程立と呼んで下さいー」
〈戯志才〉「今は戯志才と名乗っております」
〈趙雲〉「人からは趙雲と呼ばれる身だ」
〈鎗輔〉「……え?」
呆然として、名乗った女性たちの顔を見つめる鎗輔。
〈戯志才〉「おや? 何か、私たちの顔についていますか?」
〈鎗輔〉「あ……そうじゃないんですけど……程立までならともかく、戯志才、趙雲って……」
鎗輔が何かを言いかけた、その時に、
〈香風〉「あ。さっきの人たち……戻ってきた」
〈鎗輔〉「え?」
香風と同じ方向を見やれば、野盗たちが逃げていった先の方角から、その三人が馬を走らせながら戻ってきていた。
〈趙雲〉「あやつら、何のつもりだ。よもやこの美女の虜になりたくなったか? 即官憲に突き出すがな」
冗談交じりながらも趙雲が訝しんでいると、野盗たちは必死の顔で、こちらに叫んだ。
〈アニキ〉「た、助けてくれぇぇーッ!」
〈趙雲〉「……助けて、だと? 一体何を……」
流石に戸惑っていると――鎗輔たちの頭上に、大きな影が差し掛かった。
〈鎗輔〉「え……」
見上げて、瞳孔に映り込んだのは――翼長が100メートルにも迫ろうかという、異常な巨体の白い鳥であった。
〈鎗輔〉「なぁッ!?」
「グエ――――! プォォォ――――――!」
〈アニキ〉「ひぃぃぃーッ!?」
目の前に着地した白い怪鳥に、野盗たちは一気に震え上がった。この鳥から逃げてきたらしい。
〈趙雲〉「何と!? 怪物ではないか!」
〈戯志才〉「しかも何という大きさ……! 鳥なのに、山のようです!」
猛禽怪獣グエバッサー! グエバッサーは鎌のような首を振り下ろすと、野盗たちの跨る馬を、彼らごとクチバシでつまんで持ち上げていく。
〈デク〉「うわああぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――!!」
〈チビ〉「ひえええぇぇぇぇぇぇ―――――――――!!」
〈アニキ〉「ぎいやああああぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――!!」
グエバッサーはクチバシを閉じる力だけで、馬と人体をあっさりと断ち切り、ついばんでいった。人が虫のように食い散らされるありさまに、趙雲らは流石に絶句。
〈趙雲〉「こ、これは流石にまずいなぁ……!」
〈程立〉「逃げないと、風たちまで食べられてしまうのではー……?」
〈戯志才〉「では早く逃げましょう!」
即断して回れ右するものの、鎗輔は目の前の現実を受け止め切れずに立ち尽くしていた。
〈鎗輔〉「そんな馬鹿な! 鳥類の自力飛行の限界は、大きく見積もっても10メートルにも届かないはず……! あんな鳥が飛べる訳がない!!」
〈香風〉「お兄ちゃん、早く……!」
〈鎗輔〉「あッ……うん!」
香風に急かされて、ようやく踵を返した鎗輔だが、
「グエ――――! プォォォ――――――!」
グエバッサーは大きく翼を羽ばたかせることで、嵐の如き暴風を引き起こす。鎗輔の身体は瞬く間に浮き上がってしまった。
〈鎗輔〉「うわあああぁぁぁぁぁッ!?」
〈香風〉「お兄ちゃん!」
香風が手を伸ばすが届かず、鎗輔は空に目掛けて放り上げられていく。やがては持ち上げる力がなくなり、地面に真っ逆さまだろう。
〈鎗輔〉「うッ、うわあああぁぁぁぁぁぁぁ! もうおしまいだぁぁぁ――――――!!」
『よぉ兄ちゃん、お困りかい?』
〈鎗輔〉「見りゃ分かるだろう!? ……あれ?」
恐怖に駆られた鎗輔だが、突然すぐ近くから聞こえた謎の男の声に、状況も忘れてポカンとした。
〈鎗輔〉「今の、誰が……」
『ここだぜここ!』
〈鎗輔〉「うわぁッ!?」
ひょい、と鎗輔の肩にどこからか青い人形が飛び乗った。それは見覚えがある……。
〈鎗輔〉「あの時のウルトラマン人形! 何でここに!?」
『おいおい、俺は人形なんかじゃないぜ。正真正銘の本物だ』
訂正した小さいウルトラマンが名乗りを上げる。
〈フーマ〉『俺はウルトラマンフーマ! 風の覇者とはこのフーマのことよ!』
〈鎗輔〉「う……ウルトラマンフーマ!? ウルトラマンなんてフィクション……だけど、明らかにしゃべって動いてる!」
〈フーマ〉『兄ちゃん、細かいこと気にしてる場合じゃねぇだろ。助かりたくないのか?』
〈鎗輔〉「そ、そりゃ助かりたいに決まってるよ!」
〈フーマ〉『なら、こいつを使いな兄ちゃん!』
フーマの身体が光ったかと思うと、瞬く間にキーホルダーのようなものに変化し、更に鎗輔の右手に黒い手甲のような装備が取りつけられる。
〈鎗輔〉「うわッ!? これ何!?」
〈フーマ〉『そいつはタイガスパークだ! お前は俺を呼び出すチケットを手にしたんだぜ!』
〈鎗輔〉「それってまさか……いやでも、質量保存の法則から言って、そんなこと起こるはずが……!」
〈フーマ〉『だから、細かいこといちいち気にしてんなって! そろそろやべぇぞ!』
鎗輔を浮き上がらせる風力が途切れた。このままではほどなくして転落だ。
〈鎗輔〉「うわあぁぁぁぁッ!? 分かった、やるよッ!」
使い方を教えられた鎗輔の指が、タイガスパークの下部のレバーをスライドする。
[カモン!]
左手でフーマキーホルダーを掴み、右手に持ち替えると、手の甲のランプが青く輝いた。
〈フーマ〉『叫びな! バディーゴー!』
〈鎗輔〉「Buddy Go!!」
勢いに乗って右手を高々と振り上げる鎗輔。その身体から発せられる閃光が、辺り一面を呑み込む――。
[ウルトラマンフーマ!]
「セイヤッ!」
リング状の光から生じる旋風の中から、鎗輔の身体が変じた青い巨人が、左手を上に伸ばして飛び出していく!
――閃光が収まると、現れたはずの巨人の姿がなくなっていた。
「グエ――――!?」
辺りに首を回すグエバッサーに、背後から掛けられる声。
〈フーマ〉『へッ。どこ見てんだ?』
グエバッサーがバッと振り向くと、腕を組んで岩山の頂上に直立していた巨人が、鮮やかに地面に着地した。
〈フーマ〉『俺の名はフーマ! 銀河の風と共に参上!!』
彼こそが、現実となったウルトラマン――フーマ!
――『曹』の旗を掲げた騎馬隊が、グエバッサーとウルトラマンフーマが対峙するところを遠くから目撃する。
〈???〉「か、華琳様! ご覧下さい!」
〈???〉「怪物と……巨人! 予言の通りの巨人がおります!」
〈???〉「ええ、しかと見てるわ……。まさか本当に、あそこに天の御遣いが……」
騎馬隊を率いている金髪の娘がうなずき、命を下した。
〈???〉「急ぐわよ! ついてこられる者だけついてきなさいっ!」
〈???〉「はーっ!」
〈???〉「ついてこれぬ者は後から参れ!」
金髪の娘は側近の女性二人を左右に控えさせながら、先頭に立って人外の戦いが起こる場所へと駆けていった。
猛禽怪獣グエバッサー
荒野にて、空から鎗輔たちを襲撃した鳥型の怪獣。非常に獰猛で、人間も容赦なく襲う。風を操る能力を持っており、巨大な竜巻も自在に作り出すことが出来るぞ。