奥特曼†夢想 ‐光の三雄伝‐   作:焼き鮭

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Buddy Go!!

 

 荒野に降り立ち、グエバッサーとにらみ合うウルトラマンフーマ。その威容に、趙雲たちは驚愕して視線を奪われる。

 

〈趙雲〉「何と! 青い巨人!!」

 

〈香風〉「驚き……」

 

〈戯志才〉「あれも妖の一種ですか!?」

 

〈程立〉「どこから現れたんでしょうねー」

 

 フーマの内部の超空間では、鎗輔が同じように目を見張っていた。

 

〈鎗輔〉『「ほ、本当に変身した! どういう原理だ!? この莫大な質量を、どこから!?」』

 

〈フーマ〉『兄ちゃん、ちょいと口を閉じてな。じゃないと舌噛むぜ?』

 

「グエ―――! プォォォ――――――!」

 

 グエバッサーはフーマに向けて、両翼から羽根を矢のように飛ばして攻撃する。

 

〈フーマ〉『ぶっ飛ばすぜ!』

 

 だがその瞬間に、フーマの姿がかき消えた!

 

「セェェェェイヤァァァァァァァッ!」

 

 いや、そうではない。フーマは文字通り目にも留まらぬ速度でグエバッサーの周囲を飛び回り、腕を開く動作で光波手裏剣を放ち、グエバッサーに八方からの連続攻撃を加え出す。グエバッサーはこの動きにまるで対応できず、ただされるがまま。

 

〈趙雲〉「は、速いっ!」

 

〈戯志才〉「しかも、飛んでませんか!?」

 

〈程立〉「羽もないのに、思い切り飛んでますねー」

 

 趙雲たちもフーマの想像を超越する戦い方に口が開きっぱなし。

 そして香風が、最もフーマの動きに目が釘づけになっている。

 

〈香風〉「すごい……! 飛んでる……!」

 

 羽根を飛ばして反撃しようにも全く当たらないグエバッサーは、我慢がならなくなったか、地を蹴ってはるか上空へと逃れていく。

 

「グエ―――! プォォォ――――――!」

 

〈フーマ〉『おっと! 逃がさねぇぜッ!』

 

 だがこちらも飛行できるフーマからは逃れられない。彼も上昇してグエバッサーを追いかけていく。

 ぐんぐん差が縮まるように見えたが、グエバッサーは何度も旋回を繰り返し、風を巻き起こしていく。

 

〈フーマ〉『ん?』

 

「グエ―――! プォォォ――――――!」

 

 ほどなくして竜巻が作り出され、フーマはその中に閉じ込められた!

 

〈程立〉「ひゃあっ!?」

 

〈趙雲〉「何と……鳥が竜巻を操るとは……!」

 

〈戯志才〉「世の理を超えています……! まさしく怪物……!」

 

 竜巻に身体を引っ張られて、趙雲たちは慌てて姿勢を下げて辺りの岩にしがみつく。

 だが竜巻の渦中のフーマは、まるで動じていなかった。

 

〈フーマ〉『生憎だったな、こんなの効かねぇぜ。何故なら俺は……風の覇者だからだぁッ!』

 

 後ろに伸びる長いトサカを軽く撫でてから、竜巻とは逆回転に猛然と回り出す。

 

「セェェェェイヤァァァ―――――――ッ!」

 

 フーマの飛行によって発生する疾風が竜巻にぶつかり――切り裂いて霧散させた!

 

「グエ―――! プォォォ――――――!」

 

 竜巻攻撃を破られて狼狽えるグエバッサー。が、フーマの方も胸のカラータイマーが赤く変わり点滅し出す。

 

〈フーマ〉『もう限界が近いのかよ。兄ちゃん、体力ねぇなぁ』

 

〈鎗輔〉『「ほ、ほっといてよ!」』

 

〈フーマ〉『まぁいいや。兄ちゃん、ギンガレットを使え!』

 

〈鎗輔〉『「方法は!?」』

 

〈フーマ〉『さっきと同じようにすりゃ出てくるぜ!』

 

 指示通りに、鎗輔はタイガスパークのレバーを再び下げた。

 

[カモン!]

 

 すると鎗輔の左腕の手首に、鏃型の飾りがついたブレスレットが装着される。

 腕を前に伸ばしてそれにスパークをかざすと、ブレスレットから光の粒子が生じて、発光体に吸い込まれた。

 

[ギンガレット、コネクトオン!]

 

 フーマの身体に一瞬、別のウルトラマンの幻像が被さると、フーマがグエバッサーへ指を二本向けた。

 

『これはピースマークじゃねぇぞ。お前はあと二秒で終わりってことだ!』

 

 一秒。フーマが瞬時にグエバッサーの背後に回り込みながら虹色の光の十字手裏剣を作り出す。

 二秒。それを投擲し、グエバッサーの背面を貫く!

 

「グエ―――!!」

 

 胴体を貫かれたグエバッサーが真っ逆さまに転落していき、岩山の向こう側に消えていくと激しい震動とともに爆音が響き渡った。

 

「セイヤッチ!」

 

 グエバッサーを撃破したフーマは、そのまま空の彼方へとまっすぐに飛び去っていった。

 

〈程立〉「行っちゃいました……」

 

〈戯志才〉「何者だったのでしょうか……」

 

〈趙雲〉「さぁな。ともかく、我々も退散した方が良さそうだ。官が絡むと面倒になる」

 

 趙雲が目を向けた先の地平線からは、「曹」の旗を掲げた騎馬隊が、土埃を巻き上げながらこちらへと駆けてくるのが見えた。

 

 

 

〈鎗輔〉「ぜぇ……ぜぇ……」

 

 荒野の中を、フーマから元の姿に戻った鎗輔がふらふらとしながらも、元の場所を目指していた。

 

〈鎗輔〉「も、戻るくらいなら……何で、飛び去ったりなんかするの……」

 

 鎗輔の肩の上に乗っかる、手の平サイズに戻ったフーマが肩をすくめる。

 

〈フーマ〉『それが流儀って奴よ。っていうか、こんくらいの距離でバテるような兄ちゃんの方が問題だぜ? どんだけひ弱なんだ』

 

〈鎗輔〉「う、うるさいってば……お」

 

 ようやく元の場所に戻って顔を上げると、香風が一人だけで彼を待っていた。

 

〈香風〉「お兄ちゃん……無事でよかった」

 

〈鎗輔〉「ああ、まぁ……。他の三人は?」

 

〈香風〉「行っちゃった。シャンは、お兄ちゃんが心配だから残った」

 

〈鎗輔〉「えッ、行ったってどこに……何で?」

 

〈香風〉「あの人たちが来たから……」

 

 香風が指差した方向から、無数の騎馬武者が走ってきて、あっという間に鎗輔と香風を取り囲んだ。

 それから騎馬武者たちは一糸乱れぬ動作で道を開き、そこから三人の女性たちが、ゆっくり鎗輔と香風の前に進み出てくる。

 

〈???〉「――華琳さま、見慣れぬ衣装の男がいます。しかも肩に変な人形を乗せている」

 

〈???〉「かの者が、予言の天の御遣いでしょうか」

 

〈???〉「それは話を伺えば分かることよ。さて……」

 

 長身の二人の女性を左右に控えさせているのは、髑髏の髪飾りで金髪の縦ロールを留めている、一団の中で最も低身長の少女。しかし、威厳は反比例して最も高い。

 

〈鎗輔〉「……ええっと……」

 

 ずっとポカンとなりゆきを見ていた鎗輔の目が、金髪の少女のものと合った。

 

 

 

 その後、鎗輔と香風は少女たちの連れる騎馬隊に引き連れられて、一番近くの町の出城で取り調べを受けていた。

 

〈香風〉「シャン……じゃなかった。わたくしは、姓を徐、名を晃、字を公明と申します。以前は長安で騎都尉を務めておりましたが、今は暇をいただき、野に下っております」

 

 香風は向かい合っている縦ロールの少女に対して、身を正しながらそう名乗った。

 

〈???〉「騎都尉の徐公明……確か、重騎将軍の楊奉殿の麾下にそんな名の子がいたわね。都の周りに巣食う賊退治で名を上げたと聞いたけれど……」

 

〈香風〉「あー、それシャンのこと」

 

〈???〉「あなたの素性は分かったわ。問題は、あっちね……」

 

 少女が目を向けた先、隣の机では、鎗輔が女性二人から質問されているのだが……。

 

〈???〉「はぁ? 1800年後の未来の、にほんという国から、銅鏡に吸い込まれて、気がついたらここにいただぁ? 何を言っとるんだ貴様はぁ!」

 

〈鎗輔〉「意味不明なことを言ってるのは自分でも分かります。でもそうとしか説明できません。本当なんです! 信じて下さい!」

 

 鎗輔は怒鳴る長髪の女性に訴えかけていた。短髪の女性の方は、机の上であぐらをかくフーマを不思議そうに見つめている。

 

〈???〉「こんな小さい異形の人間が、生きているとは……。姿は先ほどの巨人によく似ているが」

 

〈フーマ〉『そいつは俺だぜ。俺はフーマ! 惑星O‐50のウルトラマンの一人さ』

 

〈鎗輔〉「え? M78星雲じゃないの?」

 

〈フーマ〉『あー、あそこが一番有名だから間違えるのも無理はねぇけどな。俺は別口だぜ』

 

〈???〉「……華琳さま、こやつらの言うこと、まるで訳が分かりません」

 

 長髪の女性が、お手上げとばかりに少女に振り向いた。少女もこちらの机に移動してくると、鎗輔が三人に対して問いかける。

 

〈鎗輔〉「ところで、あなたたちのお名前を聞いてもいいですか? 今呼び合ってるのは真名という奴で、こちらが呼んではいけないんでしょう?」

 

〈???〉「当たり前だっ! 貴様如きが華琳さまの真名を呼んでみろ……。その瞬間、貴様の胴と首は離れているものと思え!」

 

〈フーマ〉『物騒だなー』

 

〈???〉「そういえばそうだったわね。名を教えなければ、そちらが不便でしょう」

 

 うなずいた少女が、鎗輔に向かって名乗る。

 

〈曹操〉「私の名は曹孟徳。それから彼女たちは、夏侯惇と夏侯淵よ」

 

 その瞬間、鎗輔の目がギョッと剥かれた。

 

〈鎗輔〉「え……!? あなたが、あの曹操!? そちらは夏侯惇に夏侯淵って……本当に、そんな名前……?」

 

〈夏侯惇〉「何を疑う。貴様、わたしが父母からいただいた大切な名を愚弄するつもりか?」

 

〈鎗輔〉「い、いや、そういう訳じゃないんですけど……」

 

〈曹操〉「ちょっと待ちなさい、春蘭」

 

 鎗輔を詰問する夏侯惇を抑え、曹操が驚いた風に鎗輔に向き直った。

 

〈曹操〉「東雲鎗輔とやら……あなたどうして、名乗らなかった私の操の名を知っているの? ここがどこなのかも知らなかったあなたが……」

 

〈鎗輔〉「それはもちろん、本で読んだから」

 

〈曹操〉「本で?」

 

〈鎗輔〉「ええ。魏王曹操孟徳の名前は、1800年後の未来で幅広く知れ渡ってます」

 

〈フーマ〉『へー、有名人なんだな嬢ちゃん』

 

〈夏侯惇〉「そこの妖! 華琳さまに気安い口を聞くな! それと、魏王とはどういうことだ? ここは苑州。魏郡は冀州だぞ!」

 

〈鎗輔〉「あ……まだ建国してなかったか……」

 

〈夏侯惇〉「だから、訳の分からんことばかり言うなっ!」

 

〈曹操〉「春蘭、黙っていなさい」

 

〈夏侯惇〉「は、はい……」

 

 夏侯惇を静かにさせた曹操が、鎗輔に向ける目を細める。

 

〈曹操〉「驚いた……。以前戯れに、この先支配領域を広げた時の勢力図を思い描いたことがあったけれど、その時に要となる地に選んだのが魏……。あなたは、この想像が現実に起こることだと言っている……いえ、知っている……」

 

〈夏侯淵〉「何と……。なればこやつの言う、未来から来たという話、真実ということでしょうか……?」

 

〈曹操〉「にわかには信じがたいけれどね……。何か、話だけではない、未来から来たという物証は持っていないかしら?」

 

〈鎗輔〉「ああ、それなら……」

 

 鎗輔は懐からスマホを取り出し、曹操たちに差し出した。

 

〈曹操〉「これは……鏡かしら? 変わった形だけれど……」

 

〈鎗輔〉「PAL、自己紹介して」

 

〈PAL〉[分かりました、鎗輔]

 

〈夏侯惇〉「うおっ!? しゃべった!」

 

 スマホから声がしたことに仰天する夏侯惇たち。

 

〈PAL〉[私は個人補佐用機械言語(Person Assisting machine Language)。略称はPALです。この鎗輔によってプログラミングされました]

 

〈鎗輔〉「PAL、それじゃ伝わらないよ。ここにいるのは、電子工学の概念もない人たちなんだ」

 

〈PAL〉[申し訳ありません、言い替えます。私はこの機械の中に作り上げられた、疑似的な人格です。今は鎗輔の生活、活動を補助することを目的としています]

 

〈鎗輔〉「要するに、未来の発達した技術によって作られたカラクリという訳です。これが物証になりませんか?」

 

 と尋ねても、曹操たちは想定をはるかに超えたものが出てきたので呆然としていた。ただ一人、フーマだけは興味深そうにPALに目を落としている。

 

〈フーマ〉『へー! このAI、兄ちゃんの自作かよ! よく出来てるじゃねぇか!』

 

〈鎗輔〉「さっきから思ってたけど、兄ちゃんなんてよしてよ。ぼくの名前は東雲鎗輔だ」

 

〈フーマ〉『じゃあ鎗輔。お前、地球人ならまだ未成年だろうに、すげぇじゃねぇか。驚いたぜ!』

 

〈香風〉「よく分からないけど、お兄ちゃんすごい……」

 

〈曹操〉「……未来の人間というのは、皆こんなカラクリを作れるほどの技術力を持っているものなの?」

 

〈PAL〉[鎗輔は特別です。彼のIQは180オーバー、人並み外れた頭脳の持ち主です]

 

〈鎗輔〉「あー……こういうのも自画自賛になるのかな?」

 

 PALを見せられて、夏侯淵がうなりながら腕を組む。

 

〈夏侯淵〉「確かに……貴様が未来の人間というのも説得力を帯びてきた。だが、未来人は時間をさかのぼれるほどの技術まで有しているのか?」

 

〈鎗輔〉「そうじゃないです。さっきも言ったように、ぼくは銅鏡に吸い込まれてここに移動してきました。正直、具体的に何が起こったのかはさっぱりなんですが……」

 

〈フーマ〉『俺の場合は、そもそも何があったかも覚えてねぇ。気がついたら、この状態で鎗輔の側にいた』

 

〈PAL〉[鎗輔。時間を逆行しただけでは、曹操等の人物の性別が逆転していることには説明が……]

 

 鎗輔はPALを引き寄せてコソッと言い聞かせた。

 

〈鎗輔〉「それを言うと余計に話がこじれるから、黙って」

 

〈PAL〉[分かりました]

 

〈夏侯惇〉「おい、何をコソコソ話している!」

 

〈鎗輔〉「こっちのことです」

 

 ごまかすと、曹操が思案した後に、こう言い放った。

 

〈曹操〉「未来の世界から、流星に乗ってこの世界に来た……それと、そこの妖の存在……。これはいよいよ、鎗輔、あなたが予言の天の御遣いその人に間違いはなさそうね」

 

〈鎗輔〉「天の御遣い?」

 

〈曹操〉「人心が乱れ、怪物が跋扈するこの世界に降り立ち、巨人となって大地を平定すると予言された人物よ。……先ほどの巨鳥を討ち取ったのは、あなたたちなのでしょう?」

 

〈フーマ〉『まぁな』

 

〈夏侯惇〉「華琳さま、こやつらが天の遣いならば、天の国から来たということでしょうか?」

 

〈曹操〉「まぁ、端的に言えばそうなるわね」

 

 曹操が答えたら、夏侯惇は腑に落ちたとばかりに大笑いした。

 

〈夏侯惇〉「なーんだ! 色々難しいことを言っておったが、貴様は天の国の人間なのか! 初めからそう言わんか!」

 

〈鎗輔〉「ええ……それでいいんだ……」

 

〈香風〉「うん。分かりやすい」

 

〈曹操〉「あなたたちも、これから自分のことを説明する時は、天の国から来たと言いなさい」

 

〈フーマ〉『まぁ、間違っちゃいないわな。実際降ってきた訳だし』

 

 話にひと区切りがつくと、夏侯淵が鎗輔に問いかける。

 

〈夏侯淵〉「さて。大きな疑問にカタがついたところで、現実的な話をして良いか? 東雲」

 

〈鎗輔〉「あッ、はい」

 

〈夏侯淵〉「貴様たちはこれから、この地で何をするつもりだ? 本意でここに来たのではないというならば、方針は持ち合わせていないと思うのだが」

 

 聞かれた鎗輔が顎に手をやる。

 

〈鎗輔〉「どうしよう……。何か、元の世界に帰る方法があればいいんだけど……。この世界で先立つものが何もないからな……」

 

〈フーマ〉『俺は仲間を捜してぇな』

 

〈曹操〉「仲間? 他にもあなたのような巨人がいるの?」

 

〈フーマ〉『ああ。俺はトライスクワッドっていう三人組のチームを組んでたんだが、他の二人が見当たらねぇ。あいつらがどうなったか、どこ行ったのかが気掛かりだ。それと、この世界の人たちが怪獣に苦しんでるってのなら、助けてやりてぇな。それがウルトラマンの使命だ』

 

 そう語ったフーマが、鎗輔に振り返る。

 

〈フーマ〉『鎗輔、お前も力を貸してくれよ。今の俺だけじゃ、何でか分かんねぇけどこれ以上でっかくなれねぇんだ』

 

〈鎗輔〉「ぼく……? さっきも助けてくれたけど、どうして会ったばかりのぼくを頼るの?」

 

〈フーマ〉『それは、お前がいい奴だからさ』

 

〈鎗輔〉「え……?」

 

〈フーマ〉『さっき悪りぃ奴らに襲われてた時、そこの香風を自分のこともかえりみずに逃がそうとしただろ。そういうの、なかなか出来ることじゃねぇ。気に入ったぜ! お前には俺のバディの資格がある! 俺もお前を助けるからよ、これから力を合わせていこうぜ!』

 

〈鎗輔〉「……まぁ、一人より二人の方が心強い。それじゃあ、よろしくね」

 

 鎗輔たちが協定を結んでいるのを見て、夏侯淵が曹操に耳打ちした。

 

〈夏侯淵〉「何やら、どちらも相当なお人好しのようですね」

 

〈曹操〉「そうね。綺麗事ばかり並べるのは好きじゃないけれど……。だったら、あなたたち」

 

〈鎗輔〉「はい?」

 

〈曹操〉「天の御遣いとして行動するつもりなら、私のところに来ないかしら? 宿無しの根無し草よりは、住まうところがあった方がいいでしょう」

 

〈鎗輔〉「えッ、いいんですか?」

 

〈曹操〉「もちろんこちらも、天の御遣いを擁しているという事実を見返りとして利用させてもらうけれどね。それに、私の下で働くならば賃金も出すわよ。天の国の人間でも、食べなければ生きていけないでしょう」

 

〈鎗輔〉「そういうことなら……お世話になります」

 

〈フーマ〉『俺は風来坊でもいいんだが、鎗輔が辛そうだしな。ありがとな!』

 

 申し出をありがたく受けてから、鎗輔は香風に顔を向けた。

 

〈鎗輔〉「香風ちゃんはどうするの? ぼくたちは頼るところが出来たから、さっきの人たちを追いかける?」

 

〈香風〉「んー……」

 

 香風は少し考えてから答えを出す。

 

〈香風〉「曹孟徳さんはいい政をしてるっていうから……お兄ちゃんが残るなら、シャンも残る。……いい?」

 

〈曹操〉「都で騎都尉まで務めた貴女を拒む理由はどこにもないわよ。歓迎するわ、徐公明」

 

〈香風〉「シャンのことは、シャンでいい」

 

〈曹操〉「……ええ。なら、これからは私のことも真名で呼んで構わないわ、香風。春蘭、秋蘭も構わないわよね?」

 

〈夏侯惇〉「はっ」

 

〈夏侯淵〉「御意」

 

 頭を垂れる夏侯惇たち。すると、曹操がふと思い出したようにつぶやいた。

 

〈曹操〉「ああ……そういえば、鎗輔たちの真名も聞いていなかったわね。教えてくれるかしら?」

 

〈鎗輔〉「ないです」

 

〈夏侯惇〉「ん? どういうことだ?」

 

〈鎗輔〉「風習が違うので、真名に当たる名前はありません。昔なら諱というのがありましたけど、とっくに廃れた風習です」

 

〈フーマ〉『俺の名前はフーマ一個だけだ。ウルトラマンは肩書きみたいなもんだからな』

 

 鎗輔たちの回答に、曹操たちは唖然。

 

〈夏侯惇〉「な、ならば貴様たちは初対面の我々に、いきなり真名で呼ぶことを許していたと……そういうことか? 見かけに寄らず、豪気なものだ……」

 

〈鎗輔〉「いえ、風習が違うんだから、そんなに気に掛けることないですよ」

 

〈フーマ〉『名前くらいどうってことねぇよなぁ?』

 

 鎗輔とフーマは大して気にしていないが、曹操たちはそうではなかった。

 

〈曹操〉「そちらの風習がどうあれ、こちらの流儀の則るならば、あなたたちに真名を預けないと不公平でしょうね」

 

〈鎗輔〉「えッ、いや、だからいいですって」

 

〈曹操〉「そういう訳にはいかないわ。あなたたちが真名をどう捉えているのかは知らないけど、私たちにとっての真名は魂の半分なの。だから相手の真名を呼んで、こちらは呼ばせないなどとは無礼の極み。鎗輔、フーマ、私のことは華琳と呼んでいいわ」

 

〈鎗輔〉「そんな、無理に合わせてくれなくても……」

 

〈華琳〉「くどいわよ。私がいいと言っているのだから、気にせず預かりなさい」

 

 しかし、鎗輔には一つ懸念があった。

 

〈鎗輔〉「でも、夏侯惇さんに首を刎ねられません?」

 

〈フーマ〉『さっきそう言ってたもんな』

 

〈夏侯惇〉「な、何を馬鹿な……! 蹴りくらいで勘弁してやる」

 

〈鎗輔〉「駄目じゃん……」

 

 聞き分けの悪い夏侯惇に念押しする華琳。

 

〈華琳〉「春蘭、いいわね?」

 

〈夏侯惇〉「で、ですが華琳さま……っ! こんなどこの馬の骨とも知れぬ輩に真名を許すなど……!」

 

〈華琳〉「なら、どうするの? 春蘭は鎗輔たちの名を呼びたい時、ずっと貴様で通すつもり?」

 

〈夏侯惇〉「アレとか犬とかお前でいいでしょうに!」

 

〈フーマ〉『いくら何でもそんな筋合いねぇよ』

 

〈華琳〉「秋蘭はどう?」

 

〈秋蘭〉「華琳さまのお考えのままに」

 

〈夏侯惇〉「秋蘭! お前まで……!」

 

〈秋蘭〉「私は華琳さまのお考えになったことに従うまでだ。姉者は違うのか?」

 

〈春蘭〉「くっ……そこまで言うのならば……。ただし、貴様らが真名を偽っていたならば、その時こそ本当に首を刎ねるからな! 肝に銘じておけ!」

 

〈鎗輔〉「は、はい……」

 

〈フーマ〉『疑り深けぇなぁ。そんなことないから安心しろって』

 

 話は一応の纏まりを迎え、鎗輔は疲れたようにどっと息を吐いた。それから窓の向こうの空を見上げてぼやく。

 

〈鎗輔〉「それにしても、天の御遣いか……」

 

〈フーマ〉『何か気掛かりなことでもあんのか、鎗輔?』

 

〈鎗輔〉「うん……。言ってなかったけど、ぼくもここに来る直前、二人の人と一緒だったんだ。一人はどうなったか知らないけど、もう一人はぼくより先に鏡に吸い込まれた。だから、どこかで同じ目に遭ってるんじゃないかって……」

 

〈香風〉「あー……そういえば、流れ星は三つだった。二つ目が、お兄ちゃん」

 

〈華琳〉「……確かに、予言でも天の御遣いを乗せた流星は三つ。だったら別の場所に飛んでいった二つにも、それぞれ御遣いが乗っていたのかも」

 

〈春蘭〉「何と! こんなのが他に二人もいるとおっしゃるのですか!?」

 

〈秋蘭〉「その可能性は大いにあるという話だ」

 

〈フーマ〉『じゃあ、タイガと旦那……タイタスは、俺みたいにそいつらのとこにいるかもしれねぇって訳だな!』

 

〈華琳〉「その辺りは、いずれ時とともに分かることでしょう。天の御遣いほどの存在なら、放っておいても噂が大陸を走るわ」

 

〈フーマ〉『早いとこ分からねぇもんかな。鎗輔だって、友達と再会したいだろ!』

 

〈鎗輔〉「うん……。今はどうしてるんだろうか、あの二人は……」

 

 つぶやきながら、鎗輔は蒼く広がる異世界の蒼穹をぼうっと見つめ続けた。

 これが、後に魏の天の御遣いとしてその名を知られることになる、東雲鎗輔の長い旅の序章であった――。

 




 
ウルトラマンフーマ

身長:49m
体重:2万5千t
年齢:5千歳
飛行速度:マッハ15
走行速度:マッハ6
水中速度:200ノット
地中速度:マッハ3
ジャンプ力:900m
腕力:4万t
握力:2万8千t

 惑星o‐50の戦士の頂にて、光を与えられて進化したウルトラ戦士の一人。スピードに関しては右に出る者はなく、風を纏い戦う様から『風の覇者』の通称で呼ばれる。光エネルギーで作り出した手裏剣を投擲する戦法が得意技だ。
 元々はタイガ、タイタスとチーム『トライスクワッド』を組んでいた。東雲鎗輔のバディとなって、華琳に仕官することになった彼と一緒にこの世界を歩んでいくんだ。

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