鎗輔たちは城下の街を抜けて、華琳の居城に入った。そこの中庭の風景を一望してため息を吐く鎗輔。
〈鎗輔〉「すごい豪奢だなぁ……。まさに風光明媚だ」
〈華琳〉「これくらい、洛陽に比べればずっと地味よ。天の国から来たのだから、この程度は見慣れているものじゃないの?」
〈鎗輔〉「天の国と言っても、人間の暮らす世界なんだから、おおよそのところはいつの時代も同じですよ」
〈フーマ〉『俺のとこも似たようなもんだな。治安で言やぁ、こっちの方がやばいくらいだ』
〈鎗輔〉「えッ、意外」
などと話していたら、また華琳に容姿の似た少女がこちらに近づいてきた。
〈???〉「あっ、お姉様! お帰りなさいませ!」
〈華琳〉「ええ、柳琳。今戻ったわ」
〈???〉「申し訳ありません、お姉様。栄華ちゃんと一緒にお迎えに出ようと思ったんですが……華侖姉さんがどこかに行っていて。姉さん、城下で見ませんでしたか?」
〈華琳〉「大通りを抜けてきたけれど、見た限りの場所にはいなかったわね」
曹洪と比べたら、随分と物腰の穏やかな少女。彼女に鎗輔を紹介する華琳。
〈華琳〉「それと……鎗輔」
〈鎗輔〉「初めまして。東雲鎗輔と言います」
〈???〉「はい、お話しは聞いています。あなたが噂の天の御遣いですよね? ご報告通り、変わったお人形を連れた……」
彼女は曹洪と違って、ちゃんと鎗輔の相手をしてくれる。
〈曹純〉「私は姓は曹、名は純……字は子和と申します。以後、お見知りおきを」
〈鎗輔〉「……」
あまりにも丁寧な物腰なので、落差でつい呆けてしまう鎗輔。
〈華琳〉「鎗輔」
〈鎗輔〉「ああ、はい! ぼくのことはどうぞ、鎗輔と呼んで下さい」
〈曹純〉「はい。こちらこそよろしくお願いします、鎗輔さま」
〈鎗輔〉「さま!? いや、そんな畏まってくれなくていいので……! 気軽でいいですから……」
不意打ちをもらった鎗輔が慌てふためく。
〈曹純〉「そうですか? では、鎗輔さんとお呼びさせていただきますね? 私のことも、どうぞ気軽に接して下さい」
〈鎗輔〉「は、はい……お言葉に甘えて」
〈華琳〉「それと柳琳。部屋の件なのだけれども……」
〈曹純〉「あ、そうそう。栄華ちゃんは厩の隅でも使わせておけって言ってましたけど、新しく仕官される方をそんなところにお通し出来ませんから……一番手前の客間を掃除しておきました。もしかして、お姉様のご指示でしたか?」
〈華琳〉「……いいえ。それで構わなくてよ」
〈曹純〉「ふふっ。なら良かったです」
曹純も、曹洪のやることは大体把握しているようだった。
〈曹純〉「あの、鎗輔さん……」
〈鎗輔〉「は、はい」
〈曹純〉「栄華ちゃん、男の方がすごく苦手で……。もし城門のところで会っていたら、きっとお気に障ることもことがあったと思いますけど……どうか、許してあげて下さい。本当は、すごく心配りがあって、優しい子なんです」
〈鎗輔〉「だ、大丈夫。気にしてないから」
こうも丁寧に乞われたら、嫌とは言えない鎗輔であった。
〈曹純〉「そうですか。良かったです! それじゃお姉様。私、華侖姉さんを捜してきますね」
〈華琳〉「ええ。私たちも見つけたら声を掛けておくわ」
〈曹純〉「よろしくお願いします! それでは鎗輔さん、失礼します」
微笑みながら一礼し、足早に城の奥に去っていく曹純。それをぽけーっと見送る鎗輔。
〈鎗輔〉「……優しい子だった」
〈フーマ〉『ああ。華琳、あの子ホントにお前たちと同じ血が流れてるのか? 天使じゃねぇのか?』
〈華琳〉「天の遣いはあなたたちでしょう。馬鹿なことを言っていないで、次に行くわよ。案内程度で時間を取られたくないの」
呆れて肩をすくめながら、華琳は鎗輔に城を案内していく。
客間への道すがら、城の施設を簡単に紹介していく華琳。
〈華琳〉「向こうが食堂で、その先が謁見の間よ。朝議やそれ以外に人を集める時は大体あそこだから、場所をよく覚えておくように。あなたたちの寝床は、正式な配属が決まるまでは客間を使ってもらうわ」
〈鎗輔〉「はい。……それと、一つ質問があるんですが」
〈華琳〉「あら、何かしら?」
〈鎗輔〉「さっき曹純さんが、姉がどうのと言ってましたが……その人って曹仁ってお名前じゃ?」
〈華琳〉「よく分かったわね。それも天の国の知識?」
〈鎗輔〉「まぁ。でも性格までは分からないので……曹洪さんの時みたいに、何か注意するべきこととかありますか?」
〈華琳〉「そうね……」
ほとんどの質問には即答する華琳が、珍しく言い淀む。
〈鎗輔〉「華琳さま?」
〈華琳〉「……会ってもらえば、多分すぐに分かるわ」
〈鎗輔〉「曖昧な回答ですね……。一体どんな人なんですか、曹仁さん」
〈???〉「あたしのこと、呼んだっすかー?」
〈鎗輔〉「はい。今曹仁さんの話を……え?」
確かに第三者の声がしたのだが、鎗輔が辺りを見回しても、人の姿はどこにも見えない。
〈鎗輔〉「声はすれども姿は見えず……どこに隠れてるんだ?」
〈フーマ〉『鎗輔、上だぜ』
〈鎗輔〉「えッ、上?」
フーマに指摘され首を上げた鎗輔の視界に飛び込んできたのは、
〈???〉「うっすっすー♪」
これまた華琳に似た少女が、すぐ側の建物の屋根の上に座っている姿であった。
〈鎗輔〉「え、えぇ……?」
〈???〉「華琳姉ぇ、お帰りっすー!」
〈華琳〉「ええ。華侖も元気そうね」
三人目の少女は、底抜けに明るい口調で華琳に手を振った。「華侖」と呼ばれたからには、彼女が件の曹仁なのだろう。
〈曹仁〉「ねえねえ、華琳姉ぇ。そっちの人は誰っすか?」
〈華琳〉「連絡を聞いてないの? これが噂の天の御遣いその人よ」
〈鎗輔〉「東雲鎗輔です。よろしく」
ペコリと挨拶する鎗輔だが、曹仁は何やらうなっている。
〈曹仁〉「しののめそーすけ、しののめそーすけ……。何だかのが並んで言いにくいっすね」
〈鎗輔〉「別に、好きに呼んでくれてもいいですよ」
〈曹仁〉「なら、んー……鎗輔っちっすかねぇ」
〈鎗輔〉「……そっちの方が長いんじゃ」
〈曹仁〉「ダメっすか? 華琳姉ぇはどう呼んでるっすか?」
〈華琳〉「私は鎗輔とだけ呼んでるわよ」
〈曹仁〉「そーすけ……んー、そーすっち? そーぽん……そーすべ……そーすけべ?」
〈鎗輔〉「……鎗輔っちでいいです」
徐々に変なあだ名をつけられそうになってきたので、妥協した鎗輔だった。
〈曹仁〉「じゃあそうするっす!」
〈鎗輔〉「それより、曹仁さんはどうしてそんなところに?」
〈曹仁〉「あはは、曹仁さんなんてくすぐったいっすよー。華侖でいいっす。敬語だっていらないっすよー」
〈鎗輔〉「えッ……それって真名なんじゃ。そんな簡単に呼ばせていいの?」
あまりに簡単に真名を預けられたので鎗輔は戸惑ってしまう。もっとも、香風の時も負けず劣らずだが。
〈華侖〉「そういうの難しいから、よく分かんないっす。鎗輔っち、さっき華琳姉ぇのこと真名で呼んでたし、それならいいかなーって」
〈フーマ〉『真名の扱いも人それぞれなんだな』
フーマがこっそり感想を漏らした。
〈鎗輔〉「華琳さま、いいんですか? こんな軽い感じで……」
〈華琳〉「己の真名の扱い方は当人の意思次第なのだから、華侖がいいと言うのなら私は止めないわ」
〈鎗輔〉「はぁ……。それで話を戻すけれど……華侖ちゃんはどうしてそんなところに?」
〈華侖〉「ひなたぼっこしてたっす!」
〈鎗輔〉「ひ、ひなたぼっこ?」
〈華侖〉「でも、屋根の上は思ったほどあったかくなかったっす……」
本日の日差しはさほど強くはないので、確かに温まりそうにはない。
〈華侖〉「お日さまに近い方が、あったかいって思ったんすけど」
言いながら、華侖はごく自然な動作で己の服に手を掛け、
〈鎗輔〉「いや待った!? 何やろうとしてるの!?」
〈華侖〉「ほえ? 服を脱ごうとしてたんすけど」
〈鎗輔〉「何故!?」
〈華侖〉「裸になった方が、身体にお日さまがたくさん当たるっすよ?」
〈鎗輔〉「いやその方が寒いでしょ! 絶対!」
華侖の無茶苦茶な振る舞いに、ツッコミが止まらない鎗輔。
〈華琳〉「鎗輔。私は柳琳を呼んでくるから、華侖の相手は任せたわよ」
しかも華琳はさっさとこの場を離れていく。
〈鎗輔〉「この状況を一人で何とかしろと!? そんな無茶な!」
〈華侖〉「ふんふーん♪」
〈鎗輔〉「だから脱ごうとしないの!」
〈華侖〉「えー。鎗輔っち、柳琳や栄華みたいなこと言うっす……」
〈鎗輔〉「それはその二人が正しいよ……」
〈華侖〉「ぶーぶー!」
ブーイングする華侖をどうにか説得しようと、鎗輔は頭脳を巡らせた。
〈鎗輔〉「……そんなに温まりたいなら、いい方法があるよ」
〈華侖〉「え、ほんとっすか!?」
〈鎗輔〉「もちろん。まずは自分の部屋に戻る」
〈華侖〉「戻るっす!」
〈鎗輔〉「いや話は最後まで聞いて! 危ない!」
パッと屋根の上で立ち上がる華侖を慌てて呼び止める鎗輔。
〈華侖〉「あ……分かったっす」
〈鎗輔〉「それで、布団を持って部屋の中の日の当たる場所を探す。そこで布団を被れば、熱が逃げないから温かくなれるよ」
〈華侖〉「おおー! 鎗輔っち、頭いいっすー!」
鎗輔の口車に乗せられて、すっかりその気の華侖だったが、
〈華侖〉「……あ、でもそれ、いつ裸になればいいっすか?」
〈鎗輔〉「いやだから! 脱いだら熱が逃げて寒いでしょ! そこから離れて!」
〈フーマ〉『華琳がお茶を濁すのも分かるデタラメっぷりだな……』
フーマが思わずつぶやくと、耳がいいのか、その声が華侖に聞こえたようだった。
〈華侖〉「あれー? 今、誰がしゃべったっすかー?」
立ち上がって、鎗輔の方へ身を乗り出し……。
〈鎗輔〉「わぁ――――ッ! 待った待ったッ!!」
〈華侖〉「えー。さっきから待ったが多いっすよ、鎗輔っち」
〈鎗輔〉「今こっちに飛び降りようとしてたでしょ! 危ないからやめて!」
華侖が乗っているのは一階部分の屋根だが、それでも三メートルほどはある。しかし華侖は気楽なものだ。
〈華侖〉「このくらい大丈夫っすー」
〈鎗輔〉「だからダメだって! 何かあってからじゃ遅いんだから……!」
鎗輔が必死に押し留めていると、
〈曹純〉「姉さん、そこで何をしているの!!」
ようやく華琳が曹純を連れて戻ってきた。
〈華侖〉「あ、柳琳! 鎗輔っちから、ひなたぼっこのいい方法を教えてもらってたんす。鎗輔っち、すごいんすよー!」
〈曹純〉「もう、屋根の上なんて危ないっていつも言ってるでしょ……。早く降りて……ううん、降りてこないで!」
華侖が飛び降りようとするので慌てて言い直す柳琳。
〈華侖〉「どっちっすか、柳琳」
〈曹純〉「あうぅ……」
どっちが姉なんだか……と感じる鎗輔とフーマであった。
〈華琳〉「華侖、少し奥に行けば二階の窓があるでしょう。そこから降りていらっしゃい」
〈華侖〉「はーい……」
傍若無人の華侖も、華琳の言うことには逆らえないようで、渋々引っ込んでいった。
〈香風〉「あ、お兄ちゃん」
それと入れ替わるようにやってきたのは、城門で別れた香風と春蘭だ。
〈鎗輔〉「香風ちゃん。春蘭さんも。もうお風呂入ったんですか?」
〈春蘭〉「いや、馬を厩に戻しに行っただけだ。先に香風を客間に案内することになってな」
〈曹洪〉「……」
もう一人、曹洪がいるのだが、あからさまに鎗輔から距離を取っている。
〈鎗輔〉「そうだ華琳さま、結局客間はどこ……」
〈曹洪〉「!!! ちょっとあなた!!」
しかし鎗輔が華琳の名を呼ぶと、ものすごい剣幕でこちらに突っかかってきた。
〈鎗輔〉「え!? 何ですか、曹洪さん?」
〈曹洪〉「どうしたもこうしたもありませんわ! どうしてあなたのような下賤な輩がお姉様の真名を口にしていますの!!」
〈鎗輔〉「下賤って……」
〈曹洪〉「ああ……お姉様の大切な真名が穢れてしまいますわ。いや、もう穢れてしまったに違いありません……。この穢れは、その口を切り裂いて血で清めるしか……」
〈鎗輔〉「怖いこと言うのやめて!? これはちゃんと許可を得て……」
〈曹洪〉「嘘をおっしゃい! お姉様が汚らしい男に真名を許すはずがありませんわ! こちらから距離を置いていれば少しはマシだろうと放っておけば!」
〈曹純〉「栄華ちゃん、落ち着いて」
〈曹洪〉「これが落ち着いていられるものですか! 柳琳は何とも思いませんの、こんなどこの馬の骨とも分からぬ輩にお姉様の真名を穢されて……!」
〈曹純〉「鎗輔さんの言葉の真偽は、お姉様に確かめれば分かることでしょう?」
〈曹洪〉「そ、そうですわ、お姉様! お姉様はこのような輩に大切な真名を……」
〈華琳〉「預けたけれど?」
〈曹洪〉「……っ!!」
曹洪は絶句し、顔面が真っ白になっていた。
〈華琳〉「当たり前でしょう。そうでなければ、最初にそれを口にした時点で私が首を刎ねているわよ」
〈鎗輔〉「……皆さん、首刎ねるの好きですね」
〈フーマ〉『恐怖の首狩り一族だな』
〈華琳〉「曹一門に妙なあだ名をつけないでもらえる?」
〈曹純〉「え? 今、どなたがしゃべって……」
〈華侖〉「鎗輔っちー。何騒いでるっすか?」
曹洪が口をパクパクしている間に、華侖が二階から降りてきてこの場に混ざった。
〈鎗輔〉「華侖ちゃん。それが、曹洪さんがちょっと……」
〈曹洪〉「って、華侖さん、あなたまで……まさか……」
〈華侖〉「ほえ?」
〈曹純〉「姉さん。鎗輔さんが姉さんの真名を呼んでいたけれど……許したの?」
何でもないことのようにこっくりうなずく華侖。
〈華侖〉「うん。華琳姉ぇが呼ばれてたから、あたしもいいかなーって」
〈曹洪〉「何……ですって……。まさか! 春蘭さん!」
〈春蘭〉「華琳さまが預けろとおっしゃったからな……。ちなみに秋蘭もだ」
〈曹洪〉「そ、そんな……」
〈華琳〉「そうね、ちょうどいいわ。三人とも、鎗輔とこちらの香風に真名を預けておきなさい。長いつき合いになりそうだから。香風たちもいいわね?」
華琳の指示で、真名の預け合いが始まる。
〈香風〉「シャンはシャンだよ。よろしくお願いします」
〈華侖〉「あたしは華侖っす! よろしくっす、香風!」
〈曹純〉「でしたら鎗輔さん、香風。これからは、私のことは柳琳とお呼び下さいませ」
〈鎗輔〉「うん。よろしくお願いします、柳琳ちゃん」
〈柳琳〉「ふふっ。男の方に真名を呼ばれるのって、何だかくすぐったいですね」
華侖と柳琳はすんなり真名を預けたが、曹洪は未だに魂が抜けたよう。
〈曹洪〉「そんな……まさか……」
〈鎗輔〉「あー……嫌ならいいですよ」
〈華琳〉「いいえ。鎗輔は真名しか持っていないのよ。栄華も鎗輔の名を呼ぶ際は、自ずと真名を呼ぶことになるのよ」
〈曹洪〉「!!」
ぞわりと身の毛をよだつ曹洪。
〈フーマ〉(そこまで嫌がるか?)
〈柳琳〉「真名しか持っていないなんて……天の国というのは、不思議なところなんですね」
〈フーマ〉(宇宙的にはそっちがマイナーだけどな)
などと心の中でつぶやくフーマ。
〈華侖〉「でも、その方が分かりやすいっす。鎗輔っちは鎗輔っちでいいってことっすよね?」
〈鎗輔〉「まぁ、そういうこと」
〈曹洪〉「な、なら……わたくしは、この先これを呼ぶ時はおいとか犬とか……」
〈鎗輔〉「春蘭さんと同じこと言ってる」
〈曹洪〉「そ、それもやむなしですわ……」
〈華琳〉「栄華」
しかし曹洪の抵抗も、華琳のたったひと言で無に終わった。
〈曹洪〉「……はぁ。お姉様のご命令とあらば、仕方ありませんわね。お預け致しますわ、真名」
〈鎗輔〉「すいません……。よろしくお願いします、えい……」
〈栄華〉「……」
〈鎗輔〉「……いえ、よろしくお願いします」
栄華が凄まじい眼力でにらんだので、彼女の真名を引っ込めた。
〈栄華〉「……ええ。よろしくしたくありませんけど、よろしくお願いしますわ」
〈華琳〉「はぁ……。まぁいいわ。この陳留の我が一門の者は、秋蘭も含めてこれで全員よ。城に勤める者たちには、明日の朝議で顔を合わせるつもりよ。……それとも、一人一人紹介して回りましょうか?」
〈鎗輔〉「それは効率的じゃないですよ。華琳さまが必要と思う人だけで十分です」
〈華琳〉「そう。では、私がいなかった間の報告を聞く前に……もう一人、いえ二人と言うべきかしら? 華侖たちに紹介しておかないとね」
〈華侖〉「二人? そんな人、どこにいるっすかー?」
〈柳琳〉「お姉様、それはもしや……」
〈栄華〉「あの連絡、真ですの? いえ、お姉様のお言葉を疑う訳ではありませんが、あまりに現実離れした内容でしたので……」
華侖は辺りにキョロキョロ目を向けたが、柳琳と栄華はフーマにじっと注目した。
〈華琳〉「誤りなど一つもないわ。フーマ、待たせたわね。パルも名乗って」
〈フーマ〉『よぉ嬢ちゃんたち。俺はウルトラマンフーマ! 人呼んで風の覇者だ』
〈PAL〉[私は人工知能のPAL。鎗輔の補佐をしています]
フーマとPALが声を発すると、三人は仰天。
〈華侖〉「人形がしゃべったっす! 鎗輔っちの変な籠手まで!」
〈柳琳〉「そちらの方は、そういう人間ということでまだ分かりますが、籠手の方は……」
〈栄華〉「どういう妖術ですの!?」
〈華琳〉「天の国とは、私たちの想像を超越するところだということよ」
華琳が自分たちにされたのと同じ説明を、更に短く纏めて伝える。
〈華琳〉「とりあえずは、フーマとパルは鎗輔と合わせて一人という扱いでいいわ」
〈栄華〉「何とまぁ……」
〈柳琳〉「天の御遣い……実態は、噂以上ということですね」
〈華侖〉「うーん……結局どういうことっすか?」
〈華琳〉「……華侖には後で、もう一度だけ教えてあげるわね。それより栄華、そろそろ報告を聞かせてもらうわ。春蘭も同席するように」
〈春蘭〉「はっ!」
〈栄華〉「かしこまりましたわ、お姉様」
〈華琳〉「柳琳、私に代わって鎗輔と香風を客間に案内してあげなさい」
〈柳琳〉「分かりました」
華琳が二人を連れて、城の執務室の方へ移動していった。残されたのは、鎗輔と香風、柳琳、華侖。
〈柳琳〉「それでは鎗輔さん、香風。お部屋にご案内致します」
〈鎗輔〉「ありがとう」
〈華侖〉「柳琳、あたしも案内したいっす! 一緒に行くっすー!」
客間に案内しようとする柳琳たちだが、その前に香風が尋ねる。
〈香風〉「ねえねえ、るー様……。お風呂は?」
〈柳琳〉「ああ、栄華ちゃんがお客様用のお風呂も用意するって言ってたのは、香風のためだったのね。なら、お部屋に案内したらそちらも案内するわね」
〈香風〉「ありがとー」
〈柳琳〉「鎗輔さんも、良ければ是非お湯をお使い下さい。香風に先に使ってもらわないと、多分栄華ちゃんのご機嫌がまた悪くなると思うので……香風の後になりますけど」
〈鎗輔〉「それで十分だよ。何から何までありがとう、柳琳ちゃん」
〈柳琳〉「ふふっ。鎗輔さんも、お優しい方で良かったです」
入浴の話が纏まりかけるが、ここで華侖が爆弾発言。
〈華侖〉「ねえねえ、だったらみんなで一緒にお風呂に入るっす! そっちの方が一回で済むし、きっと楽しいっす!」
〈鎗輔〉「へッ……!?」
〈柳琳〉「ち、ちょっと姉さん……!?」
柳琳は赤面するが、華侖はきょとんとした表情で、何がいけなかったかも分からない様子。
〈華侖〉「え? 柳琳は嫌っすか? 裸のつき合い」
〈柳琳〉「い、嫌って言うか……その……」
〈香風〉「……シャンは、どっちでもいい」
〈鎗輔〉「え、えっと……」
〈フーマ〉『鎗輔。お前まさか……』
〈鎗輔〉「いやいやいや! そんな訳ないだろう!?」
フーマに白い目で見られて、力いっぱい否定する鎗輔。
〈柳琳〉「あ、あの……鎗輔さんっ! いくら真名をお預けしたと言っても、その、流石にそういったことは……お気を悪くしたのでしたら申し訳ありませんが……あうぅ」
〈鎗輔〉「大丈夫! 分かってるからね! そんな気にしないで! 当然のことだから!」
息を整えた鎗輔が、努めて笑顔で告げる。
〈鎗輔〉「ぼくたちは部屋で待ってるから、香風ちゃんが上がったら声を掛けて」
〈柳琳〉「は……はい。……ありがとう、ございます」
〈華侖〉「えー。つまんないっすー。ね、香風」
〈香風〉「……?」
真っ赤な柳琳に、唇を尖らせる華侖。そもそも何も分かっていなそうな香風。
鎗輔の陳留での第一日目は、多種多様な性格の少女たちに囲まれながら、賑やかに過ぎていったのであった。