奥特曼†夢想 ‐光の三雄伝‐   作:焼き鮭

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Unconquerability

 

〈鎗輔〉「ねぇ、フーマ」

 

〈フーマ〉『ん、何だ?』

 

 あてがわれた陳留の城の部屋で、不意に鎗輔がフーマに話しかけた。

 

〈鎗輔〉「ぼくってさ……この城の人たちと、仲良くやれてるかな」

 

〈フーマ〉『んん? どうしてそんなこと聞くんだよ』

 

〈鎗輔〉「いや……天の御遣いだなんて得体の知れない肩書きを背負っていきなり現れたぼくを、みんなは本当に好意的に見てくれてるのかなって、気になってて」

 

〈フーマ〉『そーだなぁ……』

 

 相談されて、フーマが少し考えながら答えていく。

 

〈フーマ〉『まぁ大多数の兵士とかは置いといて……華琳や秋蘭はそれなりにはお前のこと、気に掛けてるとは思うぜ。じゃなきゃ拾わねぇだろうし。華侖は見たまんまだな……。柳琳と香風は根が優しいから、問題はねぇな。春蘭も、初対面の時ほど拒んじゃいねぇな。ただ、一人だけ……』

 

 名前を挙げていった末に、途端に口ごもった。

 

〈フーマ〉『……栄華にだけは、ガチで嫌われてんな。いや、避けられてるって言うべきか? あの男嫌いは本物だな~』

 

〈鎗輔〉「やっぱり、そう思うか……」

 

 ハァとため息交じりの鎗輔。他の面々とは多かれ少なかれ、ある程度交流しているが、栄華だけは初めて顔を合わせてから、会話らしい会話もしていなかった。向こうは面と向かおうともしない。

 

〈フーマ〉『男ってだけでああも露骨な態度取る奴は、俺も初めてだわ』

 

〈鎗輔〉「だけど……いつまでここにいることになるか分からないけれど、身を置く以上は、ある程度は良好な関係を築いておきたい」

 

 とつぶやく鎗輔に、フーマが反論。

 

〈フーマ〉『いや、別にそんな気負わなくてもいいんじゃねぇか? 人間誰しも、反りが合わない相手っているもんだろ。中にはそういうのもいると割り切って、何も全員と仲良くしようだなんてしなくたって……』

 

 だがその言葉を鎗輔がさえぎる。

 

〈鎗輔〉「ううん……人生、何があるか分からない。最低でも、相手がどんな人かくらいは知っておくべきだ」

 

〈フーマ〉『……?』

 

 鎗輔の態度と言動を訝しんでいるフーマを手に取り、首に提げる鎗輔。

 

〈鎗輔〉「ひとまず、栄華さんを訪ねてみよう。まずは最低限でも、言葉を交わす程度のことから始めよう」

 

〈フーマ〉『……まぁ、お前がそうしたいってなら止めねぇけどな』

 

 結局は、行動は鎗輔自身に任せるフーマであった。

 

 

 

 部屋を出た鎗輔は、文官の部署が固まっている城の一画へと向かっていく。

 

〈鎗輔〉「栄華さんは財務を担当してるから、昼時はこの辺りにいるはずだ」

 

 その推測は当たり、ちょうど前方の扉の一つから、栄華が出てきたところに鉢合わせた。

 

〈栄華〉「では、後はお願い致します。わたくしはしばらく休憩致しますので、何かありましたら呼びに来るように」

 

 タイミング良く、休憩に入るところの栄華に、鎗輔が近寄っていった。

 

〈鎗輔〉「こんにちは、栄華さん」

 

〈栄華〉「あなたは……」

 

 気さくに話しかけたつもりだったが、栄華からはきつい目でにらまれた。幸先は良くないようだ。

 

〈鎗輔〉「あー……その、ちょっといいですか?」

 

〈栄華〉「何かしら、わたくし今から休憩致しますの」

 

〈鎗輔〉「だから、その間に少しお話しを出来ないかと……」

 

〈栄華〉「何のために?」

 

〈鎗輔〉「何のためって……」

 

〈フーマ〉『バッサリ行きやがるな……』

 

 案の定の反応で、フーマは大きくため息を吐いた。

 

〈栄華〉「と言いますか、わたくしの視界に入らないで下さいと、お伝えしたはずですけど。特別な用がないのであれば、わたくしはこれで……」

 

〈鎗輔〉「そ、そう言わずに。少し話をするくらい、すぐ済みますから……」

 

〈栄華〉「そんなことを言って、貴重な休憩時間が無くなってしまっては、後の仕事に差し支えますから」

 

 取りつく島もない邪険ぶりだが、それでも鎗輔は果敢に食い下がる。

 

〈鎗輔〉「今が駄目なら、いつなら大丈夫ですか? また時間がある時に訪ねますから」

 

〈栄華〉「ですから、何のために? 困りごとがあるのであれば、秋蘭さんにでも相談すればいいでしょう」

 

〈鎗輔〉「そういうことじゃないですよ。ただ、ここに勤めるからには、栄華さんとも交流を持ちたいと思って……」

 

〈栄華〉「交流ですって……」

 

 そう言った途端、栄華の目じりが更に吊り上がった。

 

〈鎗輔〉「え、えっと、何か問題でも……」

 

 戸惑う鎗輔に、栄華が怒り気味にまくし立てる。

 

〈栄華〉「そうやってわたくしたちの隙を見つけ、あわよくば手込めにしようと……やっぱり男なんて不潔ですわっ!」

 

〈鎗輔〉「ち、ちょっと待って、誤解ですよ!」

 

〈栄華〉「何が誤解ですか! その目を見れば分かります! 垂れ下がった目じりからいやらしい気持ちが溢れていますわ!」

 

〈鎗輔〉「そ、そんな……。確かに童顔気味だとはよく言われますけど……」

 

 タジタジの鎗輔に、栄華はビッと指を突き立てた。

 

〈栄華〉「お分かりでないようですので、この際ですからしっかり伝えておきます。わたくしたちは今、お姉様の大望成就のために、地盤を確かなものにするため尽力しています。成すべきことは多く、余計なことに手を取られている暇はないのです。天の御遣いだか何だか知りませんが、そんな大事な時期に、あなたなどに構っている暇はありません」

 

〈鎗輔〉「そんな、にべもない……」

 

〈栄華〉「何より、男! 香風さんのような可愛らしい女の子ならばまだしも、よりにもよって男なんて、異物以外の何物でもありません」

 

 こりゃ駄目だ、と内心フーマはあきらめている。

 

〈栄華〉「あなたはせいぜい、空気にでもなっていればいいのです」

 

〈鎗輔〉「空気?」

 

〈栄華〉「お姉様が必要とした時にだけ出てきてお役目を果たし、また消えていく。それならあなたがいることを咎めたりは致しませんわ」

 

〈鎗輔〉「そ、そう言わずに、せめて挨拶くらいは……」

 

〈栄華〉「ああやっぱり男はケダモノですわ! やってきて早々に女の子ばかりに近づこうと考えているなんて!」

 

〈鎗輔〉「だから、誤解ですって! そんなつもりじゃ……」

 

〈栄華〉「わたくしを狙うのならともかく、もし香風さんを毒牙に掛けようものなら、即刻チョン切って差し上げますから、覚悟なさいませ!」

 

 栄華は弁解など全く聞かず、ひたすら厳しく言いつけてくる。

 

〈栄華〉「いいですか、くれぐれも余計なことはしないで下さいまし」

 

 最後にそう言い捨て、足早に鎗輔の前から立ち去っていった。鎗輔は長いため息を吐き出す。

 

〈鎗輔〉「駄目か……。あそこまで毛嫌いされてるなんてなぁ……」

 

〈PAL〉[ああも理不尽な言動をする人物とは、初めて会いました]

 

 PALもそうコメントしていると、秋蘭が鎗輔の背後からひょっこり顔を出してきた。

 

〈秋蘭〉「あれも彼女の性格なんだ、大目に見てやってくれ」

 

〈鎗輔〉「秋蘭さん」

 

〈フーマ〉『見てたのかよ』

 

〈秋蘭〉「たまたま通りがかってな。あれはただ恐れているだけなのだ。お前に華琳さまや他の皆を、奪われてしまうのではないか、とな」

 

〈鎗輔〉「えッ、奪うって……ぼく、そんなつもりなんて全く……」

 

〈秋蘭〉「分かっているさ。だが受け取る側からすればそう行かないこともある」

 

 唖然としている鎗輔に、言い聞かす秋蘭。

 

〈秋蘭〉「栄華はこれまで、我ら曹一門のために心血を注いできた。さほど大きくはないかもしれんが、あれにとってはかけがえのない世界であることは事実。そこに天の御遣いなどという大仰な肩書きで入り込んできたお前は、紛れもない異物なのだろうよ」

 

〈鎗輔〉「まぁ、そうでしょうけど……だからって、ずっとよそ者のままなんて嫌ですよ。どうにか仲間と認めてもらいたいです」

 

〈秋蘭〉「ふふっ。その熱意が、彼女にとっては煩わしく思えるのだろうな」

 

〈鎗輔〉「そんな……」

 

〈秋蘭〉「何せお前は男だ。大切な家族がどこの馬の骨とも知れない男にかどわかされたら、と思うと心配にもなるだろう」

 

〈鎗輔〉「それは……まぁ……」

 

 不意に真顔になった鎗輔だが、すぐに顔を上げた。

 

〈鎗輔〉「けど、ぼくがそんな風に見えるでしょうか」

 

〈フーマ〉『むしろ対極だと思うがなぁ』

 

〈秋蘭〉「元々男嫌いでもある。私たち以上に、男に対して強い偏見を持っているのかもしれない」

 

〈フーマ〉『男なんてやらしいことしか考えてないわー、って感じか』

 

〈秋蘭〉「ははっ、そうだな、あながち間違ってはいないと思うぞ」

 

 フーマの言動に苦笑いする秋蘭。

 

〈秋蘭〉「少々極端かもしれんが、あれも一途ということだ。嫌わないでやってくれ」

 

〈鎗輔〉「それはもちろんですけど、どちらかと言うと向こうが嫌ってくるのをどうにかしたいと言いますか……」

 

〈秋蘭〉「かの城は手強いぞ」

 

〈鎗輔〉「重々承知しました」

 

〈秋蘭〉「まぁ、頑張ることだ。仲良くなりたいのであればな」

 

 ぽんと鎗輔の肩を叩いて、後にしていく秋蘭。それからフーマが呼び掛けた。

 

〈フーマ〉『まぁ、まずは向こうから信頼してもらえるようにならなくちゃ、話にならねぇだろうな』

 

〈鎗輔〉「うん……。手始めに、地道な積み重ねから頑張らないとね」

 

 今回の挑戦は大失敗であったが、得られたものがなかった訳ではない。早く、栄華からも仲間と認めてもらえるようになろうという思いを胸に、鎗輔はまた歩き出した。

 


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