鎗輔が文字の勉強がてらに、書庫から借りた書を読んでいたところ、部屋の扉がいきなり外から、バァンッ! と激しく開け放たれた。
〈鎗輔〉「な、何だ!?」
突然のことに目を丸くする鎗輔。そして二人分の人影が、部屋の中に踏み入ってくる。
〈春蘭〉「東雲鎗輔!」
春蘭と秋蘭であった。
〈鎗輔〉「ど、どうしたんですか、二人とも……まさかッ!」
戦いに臨まんとするような物々しい雰囲気の二人の様子を見て、鎗輔は顔色を変えて立ち上がった。
〈鎗輔〉「怪獣が出たんですかッ!」
〈春蘭〉「は?」
〈鎗輔〉「遂に新手が現れたのか……場所はどこですか! すぐ向かいますッ!」
勇んでフーマを手に取った鎗輔だが、そのフーマからなだめられる。
〈フーマ〉『落ち着け鎗輔。怪獣が近くに出たんなら、外が騒がしいはずだろ? 至って静かだぜ』
〈鎗輔〉「ああ、そうか。……じゃあ、二人は何のためにここへ?」
はて、と首を傾げる鎗輔。しかし回答は来ない。
〈春蘭〉「そのようなこと、貴様が知る必要はない!」
〈秋蘭〉「うむ。大人しく、我々についてきてもらおう。悪いようにするつもりはないが……逆らえば、分かっているな?」
〈鎗輔〉「え? え?」
明らかな脅し文句に、鎗輔は更に訳が分からなくなる。
〈鎗輔〉「ぼくが何をしたって言うんですか!?」
〈春蘭〉「うるさい! 言い訳は後で聞く。ついてくるのか、来ないのか!」
〈鎗輔〉「つ、ついていきますよ、何が何だか分からないけど……」
あまりの春蘭の剣幕に思わず両手を挙げながら、要求を呑んだ。
〈春蘭〉「それでいい。そら、大人しくキリキリ歩けっ!」
引っ立てられるようにされながら、鎗輔は部屋から連れ出されていった。
そして移動した先は、
〈鎗輔〉「あのー……」
〈春蘭〉「どうした?」
〈鎗輔〉「結局……どういうことですか? これは……」
ごくごく普通の、街の中。取調室や牢獄にでも連れていかれそうだった直前の雰囲気との落差に、鎗輔はすっかり戸惑っていた。
〈春蘭〉「どういうこととは、こちらがどういうことだ。もっとはっきり質問しろ」
〈鎗輔〉「いや、そう言われても……。さっきの流れから、一体どこに向かってるんです? まさか、街頭裁判に掛けるつもりじゃ……」
〈秋蘭〉「裁判に掛けられるようなことでもしたのか?」
〈鎗輔〉「いやぁ、心当たりないですけど……」
首をひねりっぱなしの鎗輔に、春蘭がようやく答えを言う。
〈春蘭〉「何を言っとるんだ、貴様は。買い物に来たに決まっているだろう。普通、今までの流れで分からんか?」
〈鎗輔〉「……買い物?」
目が点の鎗輔。彼に代わって、PALとフーマが言い返す。
〈PAL〉[とても人を買い物に誘う態度ではありませんでした]
〈フーマ〉『罪人の取り締まりか、逆に誘拐のどっちかだよなぁ、さっきのじゃ』
〈春蘭〉「……秋蘭。わたしは何か間違っていたのか?」
〈秋蘭〉「いや、ごく普通だと思ったが……?」
〈春蘭〉「ほら! 秋蘭が普通だと言うなら、わたしは間違っておらん! おかしいのは貴様らの方だ!」
春蘭にはそう返した秋蘭だが、口の端がヒクヒク痙攣していた。明らかに、笑いをこらえている。
〈鎗輔〉「……まぁいいや。それで、買い物と言いましたけど、何を買いに行くんですか? はっきり言いますけど、荷物持ちなら別の人に頼んだ方がいいかと……」
〈春蘭〉「そんなもの、初めから貴様になど期待しとらん。と言うより、本来なら、貴様など連れてくるような買い物ではないのだ。だが、秋蘭がどうしてもと言うのでな……」
〈秋蘭〉「問答無用で連れてきたが、こちらに他意はない。時間が許すなら、我々の吟味に意見をもらえると助かるのだが……構わんか?」
〈鎗輔〉「それはまぁ、いいですけど……」
〈春蘭〉「けど、何だっ! わたしたちの決めたことに不満でもあると言うのかっ!」
〈秋蘭〉「姉者」
〈春蘭〉「う……うむ」
いちいち怒鳴る春蘭を、秋蘭がたしなめた。
〈鎗輔〉「買い物に誘うのなら、事前にひと声掛けてくれるだけでいいですよ。あんな強引に連れ出さなくたって、こっちから部屋を出ますし」
〈春蘭〉「ふんっ、手間を掛けさせおって。それならさっさとそう言えば良いのだ!」
〈秋蘭〉「姉者」
〈春蘭〉「う……うむ」
〈フーマ〉『春蘭。お前ちょっと短気すぎるぜ。俺だって気が長い方じゃねぇけどさぁ』
〈春蘭〉「何だとぅ!」
〈秋蘭〉「姉者。いい加減にしないと、時間がなくなるぞ」
〈春蘭〉「す……すまん」
そんなやり取りを繰り返しつつ、一行は目当ての場所へ向かっていった。
そして、たどり着いた店とは、
〈鎗輔〉「……服屋?」
〈秋蘭〉「東雲。お前には、これを見てほしい」
そう言って、秋蘭が品物の一つを手に取って鎗輔に差し出した。
〈春蘭〉「どう見る? 似合うか?」
ヒラヒラのフリルのようなものが幾重にもついた、かわいらしい衣服。思わずそれと、春蘭を見比べる鎗輔。
〈鎗輔〉「……一つ、聞いていいですか?」
〈春蘭〉「何だ?」
〈鎗輔〉「これ、春蘭さんが着るんですか? 明らかに寸法が小さいですけど……」
〈春蘭〉「な……っ!?」
途端、顔が真っ赤になる春蘭。
〈秋蘭〉「ふむ。丈が合うのであれば、それも悪くないが……」
〈春蘭〉「しっ! しししししっ! 秋蘭まで……っ!」
〈店員〉「お客様の着られる大きさの物、お出ししましょうか?」
〈鎗輔〉「あるんですか?」
〈店員〉「そりゃもう」
〈秋蘭〉「ふふっ、どうする? 出してもらおうか、姉者」
〈春蘭〉「くぅぅっ! 秋蘭まで馬鹿にして……っ!」
〈鎗輔〉「馬鹿にだなんて、そんなつもりは。人の趣味は千差万別なんだから、こういう服が好みでも何ら問題ありませんよ」
〈春蘭〉「やはり馬鹿にしているだろうっ! わたしの服など、別にどうでも良いわ!」
〈秋蘭〉「いや、姉者ももう少し洒落た服を着てほしいのだが……」
〈鎗輔〉「今だって、結構お洒落じゃないですか」
〈フーマ〉『なぁ。服を選ぶ自由があるだけありがたいもんだぜ』
〈秋蘭〉「いやいや、曹一門に名を連ねる者としてはまだまだ……」
〈春蘭〉「ええい、いい加減にしろぉっ! この服は、華琳さまのだっ!」
春蘭のひと言で、鎗輔はようやく合点がいった。
〈鎗輔〉「ああ、そういうこと……」
〈秋蘭〉「うむ。この服が華琳さまに似合うかどうか、たまには男の視点からの意見が聞きたくてな」
〈春蘭〉「わたしはそんなものは必要ないと言ったのだぞ。だが、秋蘭がどうしてもと言うから……だな!」
〈秋蘭〉「姉者も、華琳さまがより魅力的になるなら、その方が良かろう?」
〈春蘭〉「そ、それはそうだが……男などの目から見れば、華琳さまはどんなお姿をしていても魅力的だろう!」
〈秋蘭〉「だから、より、と言ったのだ」
〈春蘭〉「くぅぅ……」
〈鎗輔〉「それでぼくを連れてきた、という訳ですね」
〈春蘭〉「そうだ。華琳さまの服を選ぶなど……男としてこんな名誉なことはそうそうないぞ? 光栄に思えよ」
〈秋蘭〉「で、東雲は男としてどう見る?」
〈鎗輔〉「そうですね……」
鎗輔は脳内で、目の前の服と華琳を重ね合わせたところを想像するが、
〈春蘭〉「言っておくが、華琳さまのお姿をそのイヤらしい妄想まみれの脳味噌で想像したら、今すぐ叩き斬ってやるからな!」
〈鎗輔〉「……想像しないことには、何の意見も出てこないと思うんですが」
〈春蘭〉「……何だと? それは、叩き斬られても文句は言わんと、そういうことと取って良いのか?」
〈鎗輔〉「いや違いますって!」
〈フーマ〉『つまり、この服を華琳が着たとこを考えねぇで、華琳が着ればどんなのかって意見を出せってか?』
〈春蘭〉「何だそれは。意味が分からんぞ! わたしが理解し切れんからと言って、適当なことを言っているのではないだろうな!」
〈鎗輔〉「……」
〈フーマ〉『どうしたもんかな、こいつ……』
春蘭の言動の破綻ぶりに、鎗輔たちはほとほと手を焼く。そこで助け舟を出す秋蘭。
〈秋蘭〉「まあまあ。姉者のことは放っておいて良いから、忌憚のない意見を聞かせてくれるか?」
〈春蘭〉「秋蘭……」
服をよく観察した鎗輔が、感想を口にする。
〈鎗輔〉「あんまりお洒落には造詣はありませんけど、華琳さまの髪型との調和も良くて、いいと思いますよ。……ところで、店員さん」
〈店員〉「はい、何でしょう」
〈鎗輔〉「さっき、大きいのもあると言いましたけれど……それってもしかして、これと併せて親子用……」
〈春蘭〉「馬鹿者っ! それ以上は口にするなっ!」
瞬間、春蘭の手に口をふさがれた。
〈鎗輔〉「ふがッ……!」
〈春蘭〉「華琳さまとて、外に出掛けられることもあるのだ。もし聞かれていたら、貴様の首と胴が離れるだけではない。一族郎党皆殺しとて……!」
〈鎗輔〉「い、いや……ここに一族はいません」
〈春蘭〉「ほほぅ。ならば、首と胴が離れるのは構わんと言うのか?」
〈鎗輔〉「やめて下さいッ!」
〈秋蘭〉「東雲。忌憚のない意見を聞かせろと言ったのはこちらだが……その件に関しては、それ以上は言わない方が身のためだぞ」
〈フーマ〉『その通りだな。鎗輔、流石に今のはデリカシーねぇぜ。本人に聞かれたら、本気でやべぇぞ?』
〈鎗輔〉「……うん、気をつける」
気を取り直した鎗輔。春蘭と秋蘭に振り向く。
〈鎗輔〉「だけど、華琳さまの服を探すなら、本人を連れてくればいいですのに。もしくは、服屋の方を城に来させるとか……」
〈春蘭〉「それでは意味がないだろう!」
〈鎗輔〉「……そうなんですか?」
〈秋蘭〉「うむ。華琳さまもお忙しい身。暇な時間も、そうそうない。職人を城に招き入れるのも、手続きと安全の確認に時間が掛かる。他国からの刺客が扮している危険があるからな。何より、華琳さま自身がそういうことをお嫌いになる」
〈春蘭〉「だから我々が華琳さまの代わりとなって、華琳さまにより似合う服がないかどうか探して回っているのだ!」
〈鎗輔〉「なるほど、下見という訳だ。でも、側近のお二人も忙しいでしょうに、そんなことまでして……大変じゃないんですか?」
〈秋蘭〉「こちらも華琳さまのためならばこそ。愉しくこそあれ、苦になどならんよ」
そう言って微笑む秋蘭たちに、鎗輔は釣られ笑いを浮かべた。
〈鎗輔〉「……だけど、実際似合うかどうか、華琳さま不在ではっきり分かるんですか?」
〈春蘭〉「そんな訳あるものか。実際に試してみるしかあるまい」
〈鎗輔〉「え? 試す……?」
試着のことかと思ったが、ここにいない人間に着せられるはずがない。何より、春蘭は件の服を購入した。この時代で、返品制度があるかどうかは知らない。
〈鎗輔〉「ここで買ったら、下見の意味がないんじゃ? それとも、やっぱり直接献上するんですか?」
〈秋蘭〉「そうではない。その服はな、華琳さまの身代わり用なのだ」
〈鎗輔〉「身代わり……?」
〈フーマ〉『影武者でもいるのかよ?』
〈春蘭〉「馬鹿か貴様らは! 華琳さまに代われる者などいるはずがなかろう!」
〈秋蘭〉「姉者は黙っていてくれ。話がややこしくなる」
〈春蘭〉「……しゅうらぁん」
〈フーマ〉『たまにひでぇな、秋蘭も』
やれやれとため息を吐くフーマであった。
〈秋蘭〉「身代わりと言っても、人形なのだ」
〈鎗輔〉「に、人形……?」
〈秋蘭〉「華琳さまそっくりに作った等身大の人形に服を着せてみて、本当に似合うかどうか更に確かめているのだ」
〈鎗輔〉「なるほど、そういうこと……って、ちょっと待って下さい」
納得しかけたが、気になる点があるので問いかける。
〈鎗輔〉「そっくりって、そんなに似てるんですか? 誰が作ったんですか」
〈春蘭〉「わたしだっ!」
予想外すぎるところからの回答。
〈鎗輔〉「春蘭さんがぁ!?」
〈春蘭〉「何故驚く。わたしが作ったと言っては不服か?」
〈鎗輔〉「不服とかじゃないですけど……」
〈秋蘭〉「私が言うのも何だが……すごいぞ」
〈鎗輔〉「そうなんですか……?」
秋蘭にそう言われても、正直、半信半疑の鎗輔。この時代の技術力で、本当に人間とそっくりの人形など作れるのだろうか、という考えが念頭にあるからだ。
事の真偽はどうあれ、春蘭が話を打ち切る。
〈春蘭〉「さて。ここでの用事は済んだ。次に行くぞ、次!」
〈秋蘭〉「うむ」
〈鎗輔〉「……え? まだ買うんですか?」
もう用事は終わりだと思っていた鎗輔が、二人の言葉に固まった。
〈春蘭〉「まだ一着しか買っておらんのだぞ? 貴様はこの程度で、華琳さまに助言できると思っているのか?」
〈秋蘭〉「姉者、今日はどのくらい回るとしようか?」
〈春蘭〉「そうだな、まだ日も高い。ゆっくり回って、もう十軒は固いだろう」
〈鎗輔〉「十軒!?」
信じられない、いや信じたくない言葉に仰天の鎗輔。一体どれだけ自分を連れ回す気なのか。
〈秋蘭〉「姉者……」
〈鎗輔〉「し、秋蘭さん。それは多いですよね……」
秋蘭に一縷の望みを懸けたが、
〈秋蘭〉「……もう五軒は回れるだろう。弱気が過ぎるぞ」
〈鎗輔〉「増えたぁ!?」
〈春蘭〉「そうだな。すまん、このわたしとしたことが、あまりに弱気な発言だったな。ならば二十軒は巡るぞ!」
〈鎗輔〉「ほ、本気で言ってるのか、この人たちは……!?」
〈フーマ〉『まぁ、女の買い物って長いしな』
若干呆れているフーマ。
〈秋蘭〉「うむ。流石我が姉者!」
〈鎗輔〉「あッ、すいません……ぼく、用事思い出して……」
ありがちな言い訳を発して逃げようとした鎗輔だったが――秋蘭と春蘭にガッチリと腕を掴まれた。
〈秋蘭〉「何を言うか。次も正直な意見を頼むぞ、東雲」
〈春蘭〉「ありがたく思え! だが、変な妄想をしたらその場で叩き斬るからな! 覚悟しておけよ!」
〈鎗輔〉「い、嫌ぁぁぁぁぁ――――――――ッ!!」
ずるずると力ずくで引きずられていく鎗輔の悲鳴が、街に轟いた。
日もすっかり暮れた頃になって、鎗輔はようやく解放された。
〈鎗輔〉「つ、疲れたぁ……」
たった一日で、大分げっそりしている鎗輔。結局、二十を余裕で超える数の店を回ったのだ。そのせいで疲労困憊である。
〈春蘭〉「いまいちだったな、今日は」
〈秋蘭〉「うむ。目ぼしい収穫はなかったな」
春蘭と秋蘭はそう言っているが、実際には相当な数の服を購入していた。これでいまいちなら、いつもはどんな数を買い漁るんだ……と、鎗輔は空恐ろしくなった。
〈鎗輔〉「な、何でそんなに元気なんですか……」
〈秋蘭〉「お主が貧弱なだけだ、東雲」
〈春蘭〉「そうだぞ。華琳さまのために働いたのだから、もう少し嬉しそうにしたらどうだ?」
〈鎗輔〉「そんな無茶な……」
がっくり肩を落とす鎗輔だった。
〈春蘭〉「だが、市井の服も質が落ちたな。この程度では華琳さまのお眼鏡に適うことは難しかろう」
〈秋蘭〉「そうだな……。やはり、国を大きくして腕の良い職人を多く招くしかないか……」
〈春蘭〉「ええい、そんな時間があるものか! 華琳さまはこの一瞬も、気高く優雅に成長しておられるのだぞ! 今この時を美しく着飾れる服を手に入れるためには、今を何とかせねばならんのだ!」
〈秋蘭〉「……ふむ。確かに」
〈鎗輔〉「そこ、納得するんですか……」
〈秋蘭〉「東雲。別に私は、姉者の言うことに全て反論したい訳ではないぞ?」
〈鎗輔〉「それはそうでしょうけど……」
〈フーマ〉『ついてけねぇな、この世界……』
二人の親馬鹿ならぬ主馬鹿っぷりには、鎗輔たちも呆れ果てるばかりであった。
〈秋蘭〉「東雲、お主たちとしても、華琳さまのより愛らしい姿が目に出来るのだ。悪い話ではあるまい?」
〈鎗輔〉「いやぁ、ぼくには別に、そこまでの興味は……」
〈春蘭〉「何だと貴様ぁっ! 華琳さまが美しくないとでも申すつもりか!? やはりその首、叩き斬って……!」
〈鎗輔〉「すいません言い過ぎましただからやめて下さいお願いしますッ!」
命の危険を感じ取って、鎗輔は必死に謝った。
〈春蘭〉「全く……。それで東雲、何か良案はないのか? 天の国とやらの知識、役に立てるのは今しかないぞ?」
〈鎗輔〉「天の国を何だと思ってるんですか」
〈秋蘭〉「そう言うな。実際のところ、どうなのだ?」
〈鎗輔〉「そうだなぁ……」
聞かれて、鎗輔はフーマに相談する。
〈鎗輔〉「……フーマ、何かいい考えない? 宇宙の流行とかですぐ作れそうなのとかに心当たりは」
〈フーマ〉『無茶言うなよ。そもそもウルトラマンになってから、衣類は必要としねぇ身体だしな』
〈鎗輔〉「……なった? 生まれつき、その身体じゃないの?」
〈フーマ〉『ああ、言ってなかったな。俺は後天的にウルトラマンになった質で……』
〈春蘭〉「おい、話がそれているぞ! 今はわたしたちが案を尋ねているのだ!」
〈鎗輔〉「ああ、すみません。でも、やっぱり今すぐどうこうというのは無理ですよ。出来るのはせいぜい、天の国の衣服の図案を提示することくらい……」
その言葉に秋蘭がピクリと反応。
〈秋蘭〉「東雲、お前、図案を描き出せるのか?」
〈鎗輔〉「ええ、一応。だけど、作るのは無理ですよ? そんな技術持ってません」
〈秋蘭〉「いや、それで結構。具体的な形を記し出せるのなら、今いる職人たちで何とか出来るやもしれん」
〈春蘭〉「なるほど。それは妙案だな」
〈鎗輔〉「……まぁ、その内やります」
適当に返事をして、今日は帰ろうとする。が、
〈春蘭〉「はぁ? 今から行くに決まっているだろう」
〈鎗輔〉「えーッ!?」
〈春蘭〉「まだ夜は長いぞ! 秋蘭も構わんな?」
〈秋蘭〉「見損なうなよ、姉者」
〈春蘭〉「うむ! それでこそ我が妹!」
〈鎗輔〉「いや、あの……!」
〈春蘭〉「行くぞ! 秋蘭! 東雲!」
〈秋蘭〉「うむ!」
〈鎗輔〉「嫌ぁぁぁぁぁッ! 解放してぇぇぇぇぇ――――――――ッ!!」
夜の街へと引きずられていく鎗輔の悲鳴が響く。
〈フーマ〉『……完全に失言だったな』
〈PAL〉[最早、どうにもなりません]
その翌日は、鎗輔はベッドから起き上がることも出来ないほど疲弊し切っていたという……。