陳留に向かって飛来してくるメルバの姿に怯えていた街の人々は、次に現れたウルトラマンフーマに振り返って、誰もが目を見張った。
〈男〉「あ、あれは何だ!?」
〈女〉「巨人!?」
〈女〉「曹操さまの城にいるわ!」
〈男〉「何者なんだ!?」
〈男〉「ま、まさかあの巨人が……噂の、天の御遣い!?」
一方で、変身を遂げたフーマは一度己の肉体を見回して確認する。
〈フーマ〉『……普通に変身できたな』
〈鎗輔〉『「PAL、異常はないか?」』
〈PAL〉[システムは全て正常に動作しています]
〈鎗輔〉『「じゃあ、さっきはどうして……」』
一瞬考え込む鎗輔だが、フーマはすぐに上空のメルバに向けて顔を上げた。
〈フーマ〉『そいつはとりあえず後だ! 先にあっちを退治するぜ!』
〈鎗輔〉『「う、うん! 怪獣を街に入れちゃ駄目だ!」』
〈フーマ〉『任せな! はぁッ!』
フーマは軽やかにジャンプ。その一足だけで、天高くのメルバまでぐんぐん接近していく。
「キィィィィッ!」
「セイヤッ!」
飛び蹴りがメルバの羽のつけ根に命中し、バランスが崩れたメルバはふらふらと落下。陳留の外の、荒野の上に不時着する。
「キィィィィッ!」
「ハッ!」
しかしすぐに羽を畳んで起き上がり、着地したフーマに向かって突進。メルバの両腕は刃となっており、これを食らうのは危険だ!
「フッ!」
「キィィィィッ!」
が、フーマは疾風の如き速度で左へ回り込み、メルバの腕は空振りした。フーマはそのまま背後に回り込んで、無防備な背面にキック。
「キィィィィッ!」
即座に振り向きざまに腕を振るうメルバだが、またもかわされる。フーマはメルバの周囲を高速で駆け回りながら、隙を突いて打撃を見舞っていく。
〈フーマ〉『ほらほら、こっちだぜ!』
「キィィィィッ!」
メルバは両眼から怪光線を発射する戦法に切り替えるも、それも絶え間なく動き回るフーマを捉えることは出来ない。
〈フーマ〉『そんなスピードじゃ、俺を捕まえることなんか出来ねぇぜ!』
軽口を叩いて挑発するフーマ。実際に、メルバはフーマの動きの速さに振り回され、すっかり目を回している。
〈フーマ〉『楽勝楽勝! ここらでとどめと行くか!』
メルバが弱っている内にと、フーマが左手をタイガスパークに添えて必殺技の構えを取る。
〈フーマ〉『極星光波……!』
だがその瞬間、足元の地面が急に盛り上がってフーマをはね飛ばした!
〈フーマ〉『うおッ!?』
「グガアアアア!」
フーマを転倒させて、地中より這い出てきたのは――兜を被ったような形状の頭部を持った怪獣。
メルバと同じ、超古代怪獣のゴルザである!
〈鎗輔〉『「また怪獣が!」』
〈フーマ〉『くっそ、もう一体いやがったのか!』
はね起きたフーマだが、ゴルザとメルバの二体に挟まれる状況となってしまっていた。
「キィィィィッ!」
「グガアアアア!」
メルバの眼からの怪光線、ゴルザの額からの超音波光線がフーマの左右から発射される。
「セヤッ!」
両側からの光線攻撃を、手刀ではね返すフーマ。だが直後にゴルザが突っ込んできて、掴みかかってくる。
「グガアアアア!」
「ハッ!?」
咄嗟に相手の腕を掴んで止めるが、ゴルザの腕力はすさまじく、フーマの腕がひねり上げられてしまう。
〈鎗輔〉『「うぅッ……!? す、すごい力……!」』
〈フーマ〉『ここに旦那がいりゃあな……!』
うめくフーマの肩に、背後からメルバのクチバシが突き刺さる。
「キィィィィッ!」
「グワァッ!」
「グガアアアア!」
悲鳴を発したフーマを、ゴルザが更に投げ飛ばした。地面に叩きつけられるフーマ。
〈フーマ〉『うわッ! くそッ、痛ってぇな……!』
〈鎗輔〉『「くぅッ……! 二対一はまずいよ……!」』
ダメージがフィードバックして、鎗輔も苦しげにあえいだ。カラータイマーも点滅する。
ゴルザとメルバは倒れたフーマに光線を浴びせようとしている。
〈フーマ〉『弱気になるな、鎗輔! このウルトラマンフーマは……』
ピンチになりながらも、フーマは鎗輔を励ます。そして、
〈フーマ〉『このくらいじゃやられねぇぜッ!』
光線が放たれる瞬間に駆け出し、回避した!
「グガアアアア!」
「キィィィィッ!」
「セイヤッ!」
直後、一瞬動揺したメルバの懐に飛び込んで、平手突きを入れる。不意打ちをもらって倒れ込むメルバ。
「グガアアアア!」
すぐに振り向いたゴルザが額にエネルギーを集中。
〈フーマ〉『おっと! 何度も同じ手を食うかッ!』
そこを狙って光波手裏剣が炸裂。ゴルザの額に突き刺さり、エネルギーを暴発させた。
「グガアアアア!!」
深手を負ったゴルザはたまらず背を向け、穴を掘り出した。ここから離脱する気だ。
〈フーマ〉『待ちやがれ……!』
追撃を掛けようとするフーマだが、カラータイマーの点滅の間隔が早まる。
フーマのエネルギーは鎗輔のバイタルと直結している。彼のエネルギーが残り少ないということは、鎗輔が危険な状態ということだ。
〈鎗輔〉『「はぁッ……はぁッ……!」』
〈フーマ〉『くッ……あいつを倒してる余裕はねぇか……!』
鎗輔の身を案じて、やむなく攻撃を中断するフーマ。その間にゴルザの身体が全て土の中に消えていった。
〈フーマ〉『こいつに集中だッ!』
フーマは飛行能力があるメルバに狙いを定め、回し蹴りを繰り出す。それを飛び上がってよけるメルバ。
「キィィィィッ!」
だがそれこそがフーマの目論見であった。
〈フーマ〉『今だ! 鎗輔、ビクトリーレットだッ!』
〈鎗輔〉『「うんッ!」』
[セット]
鎗輔がタイガスパークのレバーを操作すると、彼の左手首にV字型のブレスレットが嵌まり、両腕を伸ばしてそのエネルギーをスパークで受ける。
[ビクトリーレット、コネクトオン]
フーマの身体にVの字のカラータイマーのウルトラマンのビジョンが被さり、作り出した光波手裏剣の形状が楔型に変化する。
〈フーマ〉『鋭星光波手裏剣!!』
放った楔状の手裏剣が垂直になって飛び、メルバの肉体を下から貫通した!
「キィィィィッ!!」
メルバが飛び上がったまま真っ二つに裂け、直後に爆散した。
〈フーマ〉『ふぅ……とりあえず、これで良しとするか』
怪獣の片方を倒したことで、どっと息を吐くフーマ。街の方からは、戦いの一部始終を見届けた市民たちが歓声を上げた。
〈男〉「おお! 怪物を倒したぞ!」
〈女〉「これで安心だわ!」
〈男〉「やっぱり、あの巨人は天の御遣いだ! この大陸の救世主なのだ!」
わぁぁぁぁ、と歓喜一色に染まる陳留の街。また、香風も遠くのフーマを見つめて顔をほころばせる。
〈香風〉「お兄ちゃん……良かった」
――その胸元からほのかな光の欠片が飛び立ち、フーマへとまっすぐ向かってきた。
〈フーマ〉『ん? 何だありゃ?』
反射的に光をキャッチするフーマ。その光は、鎗輔の手の内で実体化する。
〈鎗輔〉『「……指輪……?」』
それは、香風の髪型と彼女の斧を重ねたような装飾を施した、小さな指輪としか思えない物体であった。予想外の物の出現に、呆気にとられる鎗輔たち。
〈フーマ〉『これ、香風から飛んできたよな?』
〈鎗輔〉『「一体どうして……」』
〈PAL〉[未知の金属で出来ています]
〈フーマ〉『何か、怪獣リングに似てるが……』
〈鎗輔〉『「怪獣リング?」』
〈フーマ〉『説明は後だ。一旦引き上げるぜ』
エネルギーがもう底を尽きそうだ。その前に、フーマは空高く飛び上がって荒野から退散していった。
「セイヤッチ!」
「――それで、これが問題の指輪という訳ね」
その後、鎗輔たちは件の指輪を、執務室で華琳にも見せていた。
〈鎗輔〉「色々調べたんですが、それが何なのかはさっぱり分かりませんでした」
〈フーマ〉『怪獣リングってのと同じようなもんではあるみてぇだけどな。タイガの奴が持ってた、怪獣を倒すと出てきてた奴で。ただ、人間からそれが出てきたって例はない』
〈華琳〉「なるほど……確かに不可解な事態ね……」
華琳が観察しても、指輪の正体にはとんと見当がつかなかった。
〈華琳〉「香風に異常はないのかしら?」
〈フーマ〉『今のところはな』
〈鎗輔〉「今後、何か問題が起こらないとは言い切れませんが……」
心配なところだが、この世界の環境で精密検査など出来ないので、どうすることも出来ない。
〈華琳〉「その時はその時だわ。今から気を揉んでいても仕方ないから、香風が元気な分には良しとしましょう」
ひと息吐いた華琳が、指輪を鎗輔に返却する。
〈華琳〉「これはあなたが持っていなさい」
〈鎗輔〉「いいんでしょうか? 何か大事なものかもしれませんが……」
〈華琳〉「だからこそよ。明らかにあなたたちの手元へと飛んできたのでしょう? ならば、少なくともあなたたちが所持しているべきものなのでしょうね」
〈フーマ〉『まぁ、不自然な軌道ではあったな』
〈華琳〉「それから、このことはとりあえず他言無用。香風本人にもね。いたずらに不安にさせたくはないわ」
〈鎗輔〉「分かりました……」
話に結論が出て、鎗輔が退室していく。
〈フーマ〉『何か今日は分かんねぇことだらけだな~……』
〈鎗輔〉「うん……」
それから華琳が一つ、ため息を吐き出した。
〈華琳〉「怪物までならともかく、人間の身体から謎の指輪ね……。今後も、同じ事例が起こったりしないかしら……」
博識の彼女を以てしても、そのような事例は聞いたことがなかった。天から降ってきた人間の周囲で起こる事柄なので、常識が通じないのは当然なのかもしれないが……。
〈華琳〉「東雲鎗輔……ウルトラマンフーマ、ね……。かの天の御遣いを中心に、これから先に何が待ち受けているのかしら……」
大陸に覇を唱える野望を、密かに胸に抱く彼女でも、それを思うとこれからの未来に、一抹の不安を覚えずにはいられなかった。
超古代怪獣ゴルザ
メルバとの戦闘中に、地中からフーマに襲い掛かってきた怪獣。超古代文明を滅ぼした怪獣の一種で、メルバの仲間。額から発射する超音波光線が最大の武器だ。