奥特曼†夢想 ‐光の三雄伝‐   作:焼き鮭

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First Campaign

 

 道中で許緒という少女を仲間に加えた陳留軍は、偵察の兵の報告の元に、山間に隠れていた盗賊団の隠れ家の砦を発見した。

 敵の見張りに見つからないほどの遠方で、華琳が許緒に問いかける。

 

〈華琳〉「許緒、この辺りに他に盗賊団はいるの?」

 

〈許緒〉「いえ。この辺りにはあいつらしかいませんから、曹操さまが捜してる盗賊団っていうのも、ここだと思います」

 

〈華琳〉「敵の数は把握できている?」

 

〈秋蘭〉「はい。およそ三千との報告がありました」

 

 秋蘭のひと言に、栄華らが軽く驚く。

 

〈栄華〉「数百か、せいぜい千という話ではありませんでしたの? こちらは千ほどしかいませんわよ……?」

 

〈春蘭〉「おのれ。あの女狐め……」

 

〈華琳〉「……数人から千まで膨れ上がった期間を考えるなら、三千でも少ないくらいよ。むしろ、『人間の』敵が何千人でも、ここでは大した問題ではないとも言えるわ」

 

〈秋蘭〉「おっしゃる通りですね……」

 

 華琳らは、道中で発見した、豫州の兵『だったもの』を思い返して顔をしかめた。

 

〈栄華〉「見事なまでに、石でしたわね……。あれが元々は生きた人間だったのなら、確かに逃げ出したくなる気持ちも分からなくはありませんが」

 

〈鎗輔〉「少し調べましたが、成分は完全に岩石。しかし加工の痕跡は全くありませんでした。何かの詐術とか、そんなちんけなものじゃ決してありません」

 

〈香風〉「間違いなく、ここには生き物を石に変える何かがいる……」

 

 どんな歴戦の猛者でも、そんな化け物の相手をした者はいない。流石にゴクリと息を呑む一同だが、桂花が重い空気を打ち消すように唱える。

 

〈桂花〉「とはいえ、盗賊団は所詮集まっているだけの烏合の衆。統率もなく、訓練もされておりません故……人と人の勝負ならば、我々の敵ではありません」

 

〈華侖〉「じゃあ、このままとつげきー! って突っ込んで、わーって一気にやっつけるっすか?」

 

〈桂花〉「人と人の、と言いましたでしょう……。それでは、石にしてくれと言っているようなものです」

 

〈華琳〉「して、策は? 糧食の件も忘れてはいないわよ」

 

〈桂花〉「はい。まず曹操さまは少数の兵を率い、砦の正面に展開していただきます。その間に夏侯惇さま、夏侯淵さまのご両名は、残りの兵を率いて後方の崖に待機。本隊が銅鑼を鳴らし、曹操さまの朗々たる名乗りを以て挑発すれば、怒り狂った敵は誘いに応じ、間違いなく外に飛び出てくることでしょう。その後は曹操さまは兵を退き、十分に砦から引き離したところで……」

 

〈秋蘭〉「私と姉者で敵を横合いから叩く訳か」

 

〈柳琳〉「なるほど。砦を攻めた者が石にされるならば、向こうから出てきてもらえば良いという訳ですね」

 

〈桂花〉「はい。お二人に更に徐晃殿と許緒を加えれば、三千の敵とて羊の群れに等しくなりましょう」

 

〈春蘭〉「……おい待て」

 

 桂花の提案する策に、春蘭が口を挟む。

 

〈華琳〉「何か問題がある? 春蘭は攻撃に回る方がいいでしょう?」

 

〈春蘭〉「そこは構わないのですが……その策は何か? 華琳さまに囮をしろと、そういう訳か!」

 

〈華琳〉「そうなるわね」

 

〈桂花〉「何か問題が?」

 

〈春蘭〉「大ありだ! 華琳さまにそんな危険なことをさせる訳にはいかん!」

 

 声を荒げる春蘭だが、桂花は皮肉げな笑みを返した。

 

〈桂花〉「反対を口にするなら、反論を以て述べていただけると助かるのですが? 夏侯元譲殿」

 

〈春蘭〉「ど、どういう意味だ」

 

〈鎗輔〉「ただ反対するだけじゃなく、代案を出してほしいということですよ」

 

 意味が分かっていない春蘭に助言する鎗輔であったが、

 

〈春蘭〉「烏合の衆なら、正面から叩き潰せば良かろう」

 

 その言葉に、ほとんどが呆れ顔となった。

 

〈鎗輔〉「……それ、最初に却下されました」

 

〈華侖〉「え、そうなんすか!?」

 

〈柳琳〉「姉さん……」

 

〈桂花〉「……油断したところに伏兵が現れれば、相手は大きく混乱するわ。それに乗ずれば、烏合の衆は最早衆ですらなくなります。貴重な我が軍の兵と、もっと貴重な曹操さまのお時間を無駄にしないためには、この案を凌ぐ策はありません」

 

〈春蘭〉「な、なら、連中がその誘いとやらに乗らなければ……?」

 

〈桂花〉「……ふっ」

 

 春蘭は意地でも反対するも、鼻で笑い飛ばされた。

 

〈春蘭〉「な、何だ……! その馬鹿にしたような……っ!」

 

〈桂花〉「曹操さま。相手は志も持たず、武を役立てることもせず、妖の力に溺れる程度の連中です。間違いなく、夏侯惇さまよりも容易く挑発に乗ってくるものかと」

 

〈春蘭〉「……な、ななな……何だとぉー!」

 

〈鎗輔〉「そこで怒ったら駄目ですよ……」

 

〈華琳〉「ふふっ、そうね。春蘭、あなたの負けよ」

 

〈春蘭〉「か、華琳さまぁ……」

 

〈華琳〉「……とはいえ、春蘭の心配ももっともよ。次善の策はあるのでしょうね」

 

〈桂花〉「万事滞りなく……」

 

 次善の策もすらすらと説明していく桂花。これじゃあ春蘭さんじゃ口で勝てないな、準備が違う……とうなる鎗輔だった。

 

〈華琳〉「分かったわ。なら、まずはこの策で行きましょう」

 

〈春蘭〉「華琳さまっ!」

 

〈華琳〉「これだけ勝てる要素しかない戦いに、囮の一つも出来ないようでは……許緒に語った覇道など、とても歩めないでしょう」

 

 華琳自らにそこまで言われては、春蘭ももうそれ以上は言えなかった。

 それから、各重臣の配置が決まっていく。柳琳と栄華は本隊の華琳の援護となったが、それに加わるはずだった華侖は自分の出番がないと反発し、結果許緒と交代という形で、許緒が華琳の護衛の立ち位置となった。

 そして鎗輔もまた、華琳の側につくことが決まった。

 

 

 

 作戦が始まった。まずは部隊を分けて、それぞれの配置場所へと移動。それによって、華琳のいる本隊は文字通り数えられる程度の人数まで減った。

 

〈鎗輔〉「いよいよか……」

 

 本隊から離れて、鎗輔が険しい顔でいると、気がついた許緒が近づいてきた。

 

〈許緒〉「あ、兄ちゃん。どうしたの?」

 

〈鎗輔〉「許緒ちゃん」

 

〈季衣〉「季衣でいいよー。秋蘭さまや栄華さまたちも、真名で呼んでいいって言ってくれたし」

 

〈鎗輔〉「そうなんだ。分かったよ、季衣ちゃん」

 

 鎗輔に真名を許した季衣は、本隊の方を見やってつぶやく。

 

〈季衣〉「何だかすごいねぇ。こんなにたくさんの兵士の人たちがわーって動くの、ボク初めて見たよ」

 

〈鎗輔〉「ぼくも、こういう戦は初めてだよ」

 

〈季衣〉「あれ? 兄ちゃんもそうなの?」

 

〈鎗輔〉「うん。ぼくも新参でね。……でも、こんな人同士の戦いはそうそう起こってほしくはないよ……」

 

 大勢の人間がこれから傷つけ合い、殺し合う……それを思う度に、気持ちが沈む鎗輔であった。

 

〈季衣〉「兄ちゃん、戦が嫌いなんだ……。まぁ、兄ちゃん、全然強くなさそうだもんねー」

 

〈鎗輔〉「……まぁ、戦えないのは間違いないよ」

 

〈季衣〉「でも、あの砦を捜してくれたの、兄ちゃんなんでしょ?」

 

〈鎗輔〉「捜してくれたのは兵士の人たちだよ。ぼくは頼んだだけ」

 

〈季衣〉「なら、兄ちゃんも出来ることはちゃんとやってるから……それでいいんじゃないかなぁ? 戦うだけが戦じゃないでしょ?」

 

〈鎗輔〉「いいのかな……? まぁ、ぼくもだからって、ただ見てるだけという訳にもいかないけど」

 

〈季衣〉「……よし、決めた!」

 

 急にそう言う季衣に振り向く鎗輔。

 

〈鎗輔〉「決めたって、何を?」

 

〈季衣〉「兄ちゃんも曹操さまも、みーんなボクが守ってあげるよ!」

 

 季衣は満面の笑顔で請け負う。

 

〈鎗輔〉「季衣ちゃんが、ぼくたちを……?」

 

〈季衣〉「正直言って、人を石に変えちゃう怪物を相手に一人で、生きて帰れるなんて思ってなかった……。だから、曹操さまがボクを仲間に入れてくれたのは、すっごく嬉しかった! それに、大陸の王ってのはよく分かんないけど……曹操さまがボクの村も、他のたくさんの街も、陳留みたいな街にしてくれるってことなんだったら……それってきっと、すごくいいことなんだよね?」

 

〈鎗輔〉「……うん。それはもちろん」

 

〈季衣〉「だったら、その日がくるまで、ボクがみんなを守るよ! どんな人も、もう貧しい思いをしなくていいように……兄ちゃんも、戦をしなくていいようにね!」

 

 季衣の言葉に、鎗輔は少し驚きながらも、柔らかに微笑んだ。

 

〈鎗輔〉「……ありがとう、季衣ちゃん。とても嬉しいよ」

 

〈季衣〉「へへ~、それほどでもぉ」

 

 鎗輔は天の御遣いだと、まだ知らないからこその言葉。しかしそこに込められた純真が、鎗輔の胸を打っていた。

 しかしそこに、桂花からの怒声が飛んでくる。

 

〈桂花〉「こら、そこの二人ー! 遊んでないで早く来なさい! 作戦が始められないでしょ!」

 

〈鎗輔〉「ああ、いけない。それじゃ行こうか、季衣ちゃん」

 

〈季衣〉「うんっ!」

 

 季衣と連れ立って本隊の中に混ざっていく鎗輔。その彼に桂花が、ジロッと険しくにらみつけながら指を突き立てた。

 

〈桂花〉「すっっっっっごく認めたくないことだけど……この作戦の要はあんたなんだからね。人間相手にどれだけ優勢でも、怪物を倒せなければ勝ちはないもの。何があったとしても、曹操さまの御身だけは必ずお守りするのよ!」

 

〈鎗輔〉「……分かりました」

 

 命令を受け、いよいよ作戦が開始される。

 

 

 

 華琳たちの本隊が、盗賊団の要塞の正面に展開。高々と、銅鑼の音を響かせる。

 

〈全員〉「……」

 

 山と山の間に、激しい鬨の声が轟き――鎗輔たちはそろって呆れ顔。

 何故なら……。

 

〈華琳〉「……桂花」

 

〈桂花〉「はい」

 

〈華琳〉「連中、今の銅鑼を出撃の合図と勘違いしているのかしら?」

 

〈桂花〉「はぁ。恐らくは」

 

 鬨の声を上げたのは、城門から我先にと飛び出してくる盗賊たちだからだ。

 敵は華琳の挑発すら待たず、こちらが銅鑼を鳴らしただけで砦から出てきたのである。

 

〈鎗輔〉「……そんなことある?」

 

〈桂花〉「それ以外に説明のしようがないでしょ」

 

〈栄華〉「所詮、臭くて汚いオスの振る舞いですもの。お手どころか待ても躾けられていないに決まっていますわ」

 

〈柳琳〉「……挑発も名乗りも必要ありませんでしたね」

 

〈鎗輔〉「華琳さまは、挑発の文句は用意してましたか?」

 

〈華琳〉「そういう作戦だったもの、一応ね。大した内容ではないから、次の賊討伐の時にでも使い回すことにするわ」

 

〈鎗輔〉「次なんて、ない方がいいですけどね……」

 

〈季衣〉「曹操さま! 兄ちゃん! 敵の軍勢、突っ込んできたよっ!」

 

 話している内に、盗賊たちはどんどんとこちらとの距離を詰めてくる。銅鑼の音を間違えるだけはあり、勢いは一丁前だ。

 

〈華琳〉「まぁいいわ。多少のズレはあったけれど、こちらは予定通りにするまで」

 

〈桂花〉「総員、敵の突撃に恐れをなしたように、上手く後退なさい! 距離は程々に取りつつ、逃げ切れないように!」

 

 桂花の指令により、本隊が相手の速度に合わせて下がり始める。盗賊たちはこれが誘導だとは露ほども疑わず、面白いほど無防備に追いかけてくる。

 

〈鎗輔〉「……これが罠だってこと、まるで気づいてませんね」

 

 振り返って敵の様子を確認した鎗輔がつぶやく。盗賊たちは完全に、こちらが怯えて逃げているものと思って調子に乗った顔をしている。

 

〈桂花〉「盗賊なんてやっている奴らだもの。頭の中身が空っぽなんでしょ」

 

〈栄華〉「ああ、声を聞くだけで汚らわしい……。早く攻撃が始まらないかしら」

 

〈柳琳〉「もう少しで、敵が崖に差し掛かるわ……」

 

 鎗輔たちに引きつけられた賊の前衛が、崖の前を通り抜けようとした瞬間に、その上から春蘭たちの隊の突撃と矢の一斉射撃が飛んでくる。真横からの攻撃に盗賊たちは文字通り仰天。

 

〈柳琳〉「お姉様、後方の崖から春蘭さまの旗と、矢の雨が! 敵の足が一気に止まりました!」

 

〈華琳〉「流石秋蘭。上手くやってくれたわね?」

 

〈季衣〉「春蘭さまは?」

 

〈桂花〉「曹仁さまと一緒に突撃したくてうずうずしているところを、夏侯淵さまと徐晃殿に抑えられていたんじゃないの?」

 

 盗賊の隊の前衛が足を止めたところに、状況が分かっていない後衛が突っ込んできて、衝突。混乱は更に広がり、元々整列もされていない隊は滅茶苦茶になっている。

 

〈華琳〉「この隙を突いて、一気に畳みかけるわよ」

 

〈桂花〉「はっ!」

 

〈華琳〉「季衣。あなたの武勇、期待させてもらうわね」

 

〈季衣〉「分っかりましたーっ♪」

 

〈柳琳〉「私たちも出ます」

 

〈華琳〉「鎗輔は、私の隣で大人しくしていなさい」

 

〈鎗輔〉「はい……」

 

 鎗輔を側につけた華琳が、声を張って本隊に号令を下す。

 

〈華琳〉「総員反転! 衆ですらない烏合の者どもに、本物の戦が何たるか、骨の髄まで叩き込んでやりなさい! 総員、突撃っ!!」

 

 合図とともに本隊が反転し、盗賊たちに向かっていく。それに気づいた盗賊の一部が華琳の姿を確認し、侮蔑の言葉を吐いた。

 

〈盗賊〉「テメェがこの軍の頭目か? まだガキの女じゃねぇか! 俺たちも舐められたもんだぜ!」

 

 それに華琳は、半笑いで返す。

 

〈華琳〉「統率は無し、人を見る目も無し。残念ね、今日があなたたちの命日よ」

 

〈盗賊〉「その言葉、そっくり返してやらぁ! テメェら、やっちまえぇぇーッ!!」

 

〈盗賊〉「うおおおぉぉぉぉ――――――――!!」

 

 盗賊たちが華琳目掛け、猛然と突っ込んでくる。が、

 

〈季衣〉「ちょりゃあーっ!」

 

〈盗賊〉「ぐわあぁぁぁッ!?」

 

 季衣が鉄球を振り回して強襲を掛け、盗賊を数人纏めて吹っ飛ばした。続いていた者たちは咄嗟に足を止めるが、

 

〈桂花〉「やれーっ!」

 

 その瞬間に桂花が兵を突撃させ、盗賊たちは槍の刺突ではね飛ばされた。

 

〈盗賊〉「ぎゃああぁぁぁぁぁ――――――ッ!」

 

〈桂花〉「ふふっ、馬鹿相手だと楽でいいわね」

 

 華琳を狙う最前列の賊は、季衣を筆頭とした本隊の兵士たちの猛攻によって片っ端から叩き伏せられていく。

 

〈季衣〉「せいやっ! でぇーいっ!」

 

〈盗賊〉「うっぎゃああぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

 後列の賊は、春蘭と華侖、香風の隊の振るう刃と、それを援護する秋蘭の隊の射撃で瞬く間に蹂躙される。

 

〈春蘭〉「はぁぁーっ!」

 

〈秋蘭〉「ふっ!」

 

〈華侖〉「そりゃあっ!」

 

〈香風〉「崩す……」

 

〈盗賊〉「ぎぇぇぇええええええッ!」

 

 間の前列の賊のところには、柳琳率いる騎馬隊が突撃。それを栄華の弓隊が援護。

 

〈柳琳〉「はっ!」

 

〈栄華〉「放てっ!」

 

〈盗賊〉「ぬわあああぁぁぁぁぁッ!」

 

 賊軍は既に半壊状態。残り半分の敵に春蘭と秋蘭が暴乱を加える。

 

〈春蘭〉「行くぞっ! であああぁぁぁぁぁ――――――っ!!」

 

〈秋蘭〉「我が弓の前に屍を晒せ!」

 

〈盗賊〉「いっっぎゃぁぁぁあああああああ――――――――ッ!!」

 

〈兵士〉「夏侯惇さま、夏侯淵さまに続けぇーッ!」

 

〈兵士〉「賊を一人残らず討ち取るのだぁーッ!」

 

 二人の活躍により、兵士たちはますます士気を昂揚。その勢いで、盗賊たちの壊滅に掛かった。

 実に一方的な戦況に、フーマが思わずため息を吐き出した。

 

〈フーマ〉『はぁ~……みんな強えぇなぁ』

 

〈華琳〉「盗賊相手にこれくらいはやってもらわないと、この乱世を生き抜くことは出来ないわよ」

 

 臣下たちの活躍が目覚ましいので、何もすることがない華琳が振り向くと――鎗輔が青ざめた顔をしていることに気づいた。

 

〈鎗輔〉「ッ……」

 

〈華琳〉「……」

 

 春蘭たちの刃により、戦場に血飛沫が舞い、人が斃れていく。その光景に呑まれている鎗輔であったが――足はその場に留め、視線は戦いから外さない。

 

〈PAL〉[脈拍が乱れています。気分が優れないならば、この場を離れることを推奨します]

 

 とPALが告げるが、鎗輔は胸元を掴みながらも首を振った。

 

〈鎗輔〉「いや……目の前のこれから目を背けてては、この世界では生きられないんだ……せめて、最後まで見届ける……!」

 

 悪化する体調を押してでも、この場から離れようとしない鎗輔に――華琳は密かに、認めるように微笑んだ。

 

 

 

 その頃、軍団が飛び出していってしまってがらんどうとなった砦に、盗賊の首領の怒声が鳴り渡った。

 

〈首領〉「どういうことだッ! 何故手下どもが勝手に出撃してやがる! 誰が銅鑼を鳴らしやがった!?」

 

〈盗賊〉「そ、それが、敵が出陣の合図を偽ったようでして……!」

 

〈首領〉「チッ……! なかなか味な真似をしてくれるじゃねぇか!」

 

 全くの誤解であるが、訂正する者はいなかった。

 

〈首領〉「だがいい気になるのもここまでだッ! この俺様の力を、自惚れた軍隊どもに見せてくれるわッ!」

 

 首領が口の端を吊り上げながら宣言し、掲げた手を勢いよく振り下ろした。

 

〈首領〉「行けぇぇぇぇいッ!!」

 

 

 

 賊軍はいよいよ壊滅状態になり、陳留軍の勝利は目前にまで迫った。

 しかしその時に、砦の前の地面が下から盛り上がっていく。

 

〈華侖〉「な、何すかあれ!?」

 

 いち早く気づいた華侖の叫び声により、全員がそちらへ振り返る。

 

〈春蘭〉「何か出てくるぞっ!」

 

〈秋蘭〉「まさか、あれが……!」

 

 地面を裂いて現れたのは――小山ほどの大きさがある、四つ足の恐竜のような生物。皮膚は岩石のようであり、背面はトゲが生えたように隆起している。そして頭頂部には怪しく光る一本角が伸びていた。

 

「ギュウウゥゥ!」

 

 岩石怪獣ガクマ! 地上に這い出てきたガクマは陳留軍に目をつけると、口から青色の光線を吐き出す。

 

〈兵士〉「うわああぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

〈盗賊〉「ぬわああぁぁぁぁ――――――ッ!?」

 

 光線を浴びせられた兵士たち、並びに巻き添えを食らった盗賊たちが皆、物言わぬ石像に変えられてしまった!

 

〈柳琳〉「み、皆さんが石に……!」

 

〈栄華〉「あれが人を石化させた怪物の正体ですのね!」

 

〈香風〉「それだけじゃない……」

 

 ガクマによって石に変えられた盗賊たちを見て、季衣たちが青ざめる。

 

〈季衣〉「味方まで巻き添えにするなんて……!」

 

〈桂花〉「馬鹿を通り越した、呆れ果てた愚物ね……」

 

 ガクマが迫ってくると、恐怖に駆られた盗賊たちが慌てて逃げ出す。兵士たちはそれでも華琳らを守ろうと防陣を組むが、武器を握る手が震えていた。

 

〈華琳〉「……鎗輔、フーマ!」

 

〈フーマ〉『分かってるぜ!』

 

 華琳が振り返ると、鎗輔はフーマに対してうなずいていた。

 

〈鎗輔〉「うん……! みんなを助けないと!」

 

〈フーマ〉『そうだ! 変身だッ!』

 

 フーマに促されるままに、鎗輔がタイガスパークのレバーを下ろす。

 

[タイガスパーク、スタンバイ]

 

〈鎗輔〉「フーマ!」

 

 左手に取ったフーマキーホルダーを、スパークを嵌めた右手で握り締める。スフィアが青く光って、その腕を天に向けて振り上げる。

 

〈鎗輔〉「Buddy Go!!」

 

 スパークから生じた光を浴びた鎗輔の肉体が、フーマのものに変化していく!

 

[ウルトラマンフーマ、変身完了]

「セイヤッ!」

 

 旋風を纏いながら飛び出したフーマは、華琳たちに迫るガクマの正面に着地して立ちはだかった!

 




 
岩石怪獣ガクマ

 豫州を荒らし回っていた盗賊たちの切り札。口から吐く光線は石化作用があり、これを浴びたものはどんな生物であろうともたちまち石に変化させられてしまう。元はネオフロンティアスペースの久良々島に棲息していた怪獣。

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