奥特曼†夢想 ‐光の三雄伝‐   作:焼き鮭

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一刀、現実を知るのこと

 

 商人を襲う盗賊とひと口で言っても、その人数は俺の想像を優に超えるほどいる。こちらの兵隊があくまで道中の護衛目的なのもあって、ざっと見た限り、こっち側の二倍以上だ。兵力に倍の差があれば、逃げることを考えろと聞く。

 だが、愛紗たちには、そんな戦略の常識は通じないようだ。

 

〈鈴々〉「いっくぞー! どっかーん!!」

 

 鈴々が蛇矛を勢いよく振るい、賊の一団に向かって強襲を掛けた。そのたった一撃で、賊の十数人が纏めて吹き飛ぶ。

 

〈アニキ〉「な、何ぃぃッ!?」

 

 鈴々の規格外の破壊力に、賊の集団に激しい動揺が走った。その隙を愛紗は見逃さない。

 

〈愛紗〉「今だっ! 掛かれぇーっ!!」

 

〈兵士〉「「「うおおおおお―――――――ッ!!」」」

 

 鈴々が作った切り込みを狙って、愛紗が引き連れる兵隊が一斉に押し寄せていった。賊たちは慌てて迎え撃とうとするも、精神を乱した状態でその勢いを止められる訳がない。

 

〈愛紗〉「せいっ! はあっ!」

 

 特に愛紗の青龍偃月刀の威力は鈴々にも劣らず、手近な敵から片っ端に薙ぎ倒していく。千切っては投げ、千切っては投げとはこのことだ。

 

〈一刀〉「……強い……!」

 

 俺のやることは、何もない。戦いの邪魔にならないように、桃香とともに隊の後方で愛紗たちの活躍を見守るだけだった。

 

〈一刀〉「これが、関羽雲長と張飛翼徳の実力……!」

 

〈タイガ〉『大陸に平和をもたらす……これが、その覚悟の程か……!』

 

 俺もタイガも、初めて目の当たりにした愛紗と鈴々の戦闘力のあまりの高さに、自然とため息が漏れていた。

 

〈鈴々〉「えいやっ! どりゃあーっ!」

 

 賊は愛紗と鈴々の突撃を前に、数の利を全く活かせずに蹴散らされるばかり。戯志才から借りた兵たちも、流石正規兵だけあって、賊とはレベルの違う統率力で打ち漏らしを的確に打ち倒してる。

 

〈愛紗〉「これより、総攻撃に移る! 全軍突撃ぃーっ!!」

 

 相手の隊列が崩れたところで、愛紗が声を張って全兵士に命令を飛ばした。愛紗たちの暴乱の如き攻撃が、残る賊を瞬く間に薙ぎ払っていく。

 

〈???〉「す、すごい……」

 

 助けを求めた女の子たちも、愛紗たちがまさかここまで圧倒的に強いとは思わなかったのだろう。すっかり目を見張ってた。

 

〈アニキ〉「クソッ、どうなってやがるんだ、こいつらの強さは!」

 

 賊たちは最早なす術がない。そんな彼らに向かって、桃香が言い放つ。

 

〈桃香〉「商人を襲って、女の子までさらおうとする……。そんな人たちに負ける道理はありません」

 

 それが聞こえたかどうかは知らないが、賊は既に撤退の準備に掛かってた。

 

〈デク〉「あ、アニキ、もう戦える手下が残ってないんだな」

 

〈アニキ〉「フン、もう十分に収穫した。撤退するぞ!」

 

〈鈴々〉「逃がすかー! なのだー!」

 

〈愛紗〉「待て鈴々! 今はこちらの保護が先だ!」

 

 深追いする鈴々を愛紗が押し留める。この戦いは、愛紗たちの完全なる圧勝であった。

 

 

 

〈アニキ〉「ずらかれー!」

 

〈チビ〉「覚えてろよー!」

 

〈愛紗〉「……他愛もない」

 

〈鈴々〉「覚えてる訳ないのだー! もう二度と来るなー!」

 

 賊は、逃げ足だけは早く、脱兎の勢いで山の方へすたこらと逃げていった。

 決着が着くと、俺と桃香は隊商の被害状況を確認するが……。

 

〈一刀〉「……ひどいな、こりゃ」

 

 戦闘そのものはすぐに終わったが、俺たちが到着までに、隊商は既にかなりの被害を受けてたようで、幌馬車は全てボロボロだった。負傷者も、数え切れないほどだ。

 

〈桃香〉「うん……。手分けした方がいいかも」

 

〈一刀〉「だな。戯志才たちが、薬とか持っててくれたら助かるんだけど……合流するまでに、状況を把握しとくか」

 

 桃香と二手に分かれ、辺りの状態を見て回っていくと、やがて愛紗の姿が見えてきたのだが……。

 

〈???〉「すごいすごい! お姉さんたち、とっても強いんだね!!」

 

〈愛紗〉「え、ええっと……」

 

〈???〉「お姉さんたち、どうやったらそんなに強くなれるのー?」

 

 救出した二人の女の子につき纏われて、困惑してるところだった。

 女の子たちは、鈴々と同じくらいの背丈と幼さだ。愛紗の奴、相変わらず子供が苦手なんだな……。

 

〈一刀〉「……何やってるの、愛紗」

 

〈愛紗〉「ご、ご主人様っ! た……助けて下さい!」

 

 荒くれの男は何人来ようと一蹴できるのに、小さい子には弱い愛紗がこっちに助けを求めてくると、二人の女の子の目もこっちに向いた。

 

〈???〉「ご主人様っ!?」

 

〈???〉「あ、ちょっとかっこいいかも。電々、割と好み~」

 

〈一刀〉「……えッ!?」

 

〈???〉「ねぇねぇ! ご主人様って、どういう意味ー?」

 

〈???〉「お兄さんのお名前は? お手紙書いていい? 一緒にご飯食べに行く?」

 

〈???〉「お兄さんも強いの? あのお姉さんのご主人様だからもっと強いんだよね? ねぇねぇー!」

 

〈???〉「あっ、ちゃんとお礼だよ。電々かわいいから、一緒にご飯とか食べたらちゃんとお礼になるよね? でも、真名を呼んでいいかは、もうちょっとお話しとかしてからかなー?」

 

 そしてすごい勢いで駆け寄ってきて、すごい質問攻めにされる。

 

〈一刀〉「ええええええ……ッ! ちょっと!!」

 

〈愛紗〉「ご主人様……」

 

〈一刀〉「あ、愛紗……助けて……」

 

 俺も、気がつけば情けない声で愛紗に助けを求めてた……。

 

 

 

 日が落ちて、俺たちは適当なところで野営することになった。その頃には女の子たちも落ち着く。

 

〈麋竺〉「えーっと、雷々は麋竺だよ! 徐州から来ましたー!」

 

〈麋芳〉「電々は、麋芳って言います。よろしくお願いしまーす♪」

 

〈麋竺・麋芳〉「「助けてくれて、ありがとうございましたー!」」

 

〈一刀〉「あ……うん」

 

 合同の陣地を設けた、隊商のリーダーの女の子たちがそう名乗った。さっき盗賊の強襲を受けて、隊がボロボロにされたとは思えない元気さだな……。

 

〈桃香〉「ええっと、麋竺ちゃんと麋芳ちゃんはよく似てるけど……双子? それとも姉妹?」

 

〈麋竺〉「えーっ。全然似てないよ、ねぇ」

 

〈麋芳〉「そうだよ。元気な方が雷々で、かわいい方が電々だよ」

 

〈愛紗〉「そう言われても、我々からすればな……」

 

〈麋芳〉「ひどーい!」

 

〈麋竺〉「そうだよ! こんなに違うのに!」

 

〈麋竺・麋芳〉「「ねーっ?」」

 

 いや、そっくりなんだけどな……。外見で違うのは、髪型くらいだ。

 

〈戯志才〉「……しかし徐州の麋家と言えば、千に及ぶ食客を抱える豪商の一族でしょう。そのご息女が、どうしてこんなところに?」

 

 戯志才がもっともなことを尋ねる。ここは幽州。徐州はもっと南のはずだ。

 

〈麋竺〉「えーっとね。雷々たち、ご先祖さまみたいに、どかーん! って大きいことをしようと思って、お家を出てきたんだけど……」

 

〈麋芳〉「……ここまで来たところで、賊に襲われちゃったんだ」

 

〈麋竺〉「多分、山の向こうにいるって聞いた賊だと思うんだけど……」

 

〈愛紗〉「荷車なら取り返したが、あれだけではないのか?」

 

〈麋竺〉「全然だよー。旅先で売ろうと思った荷物や食料も、もっともっといっぱいあったんだから」

 

〈麋芳〉「お金もね」

 

 それは切実だな……。この世界、保険なんてシステムがある訳ないから、物資や金を奪われたら、それこそ命に関わる。

 

〈麋竺〉「あの軍資金で……ご先祖さまみたいに、おっきなことをしようと思ったのに……」

 

〈麋芳〉「七光りとかって言われたくないしね~」

 

 口調とは反対に、二人は真剣な顔で相談し、やがて、こう頼んできた。

 

〈麋竺〉「劉備お姉ちゃんたち、お役人さまなんでしょ? 盗られた荷物を取り返すの、手伝って!」

 

〈麋芳〉「関羽お姉ちゃんたちにも、お礼はちゃんとするから! ……取り返したお金からだけど」

 

〈愛紗〉「むぅ……」

 

〈桃香〉「ねぇ、愛紗ちゃん……鈴々ちゃん」

 

〈愛紗〉「そうですね……」

 

〈鈴々〉「うん。悪い奴は、放ってはおけないのだ」

 

 桃香たちの返事は決まってた。しかし……。

 

〈戯志才〉「反対です」

 

 ぴしゃりと言い放ったのは、戯志才だ。

 

〈桃香〉「戯志才さん……!?」

 

〈戯志才〉「賊の討伐は、この辺りに駐留する幽州軍に任せるべきでしょう。我々が優先すべきは、薊への到着のはず」

 

 戯志才は淡々と告げる。

 

〈麋芳〉「そんなぁ……!」

 

〈桃香〉「でも、さっきは兵を貸してくれたじゃないですか!」

 

〈戯志才〉「あれは目の前で起きていたためで、行軍の障害を排除したに過ぎません」

 

 姿勢を崩さない戯志才に、桃香が必死に抗議。

 

〈桃香〉「それとどう違うんですか! 目の前で、二人が困ってるんですよ?」

 

〈戯志才〉「助けないとは言っていません。ただ、我々のすべきことを見失うなと言っているだけです。それともあなたは、薊までの旅路でずっとこんなことを続けるつもりですか? それでは、いつまで経っても目的を果たすことなど出来ませんよ」

 

〈桃香〉「……そ、それは」

 

〈戯志才〉「あなたたちも、近くの街までの警護は引き受けますが……それ以上の問題の解決は、駐留軍への相談をお勧めします。幽州刺史の名代としての口添え状は用意できますし、それに徐州の麋家の名を添えれば、駐留軍も邪険に扱うことはないでしょう」

 

 戯志才は丸く収めようとはしてるが、あくまで行軍を優先する構えだ。しかし、麋竺と麋芳は当然ながら、納得できていなかった。

 

〈麋竺〉「うぅぅ……」

 

〈麋芳〉「……戯志才さんの馬鹿ー!!」

 

 怒って、泣きながら走り去っていってしまった。

 

〈戯志才〉「……ふむ。まぁ、仕方ありませんね。それでは失礼します。明日も早いですから、皆さんも早めに休んで下さいね。……馬岱殿」

 

〈馬岱〉「え、ええっと……その……ごめんね」

 

 事務的な態度のまま、戯志才が天幕へと去っていき、馬岱もためらいながらも、戯志才の後についていった。

 

〈愛紗〉「……むぅ」

 

 後に残された俺たちは、互いに顔を見合わせた。

 

〈鈴々〉「……うー。何だか、もやもやするのだ。ねぇお兄ちゃん、鈴々たち……間違ってるの?」

 

〈一刀〉「いや……そういう訳じゃないとは、思うんだけど……さ」

 

 チラリとタイガに目を落とすが、タイガは感情を出さずに返答した。

 

〈タイガ〉『……悪いが、俺からは何も指示しないぜ。ただ、あの二人を助けるか、先を急ぐか……どっちも間違いじゃないとだけ言っておく』

 

 それを聞いた俺は、桃香に目を移した。

 

〈一刀〉「……桃香」

 

〈桃香〉「……ごめん、ご主人様。ちょっと……一人にさせて?」

 

 結局、誰も建設的なことは言わず、誰ともなしに解散となった。

 

 

 

〈一刀〉「……」

 

 あてがわれた天幕で寝転んだまま、天井を見つめて考え込む。早めに休めと言われても、正直寝ていられる気分なんかじゃなかった。

 理屈で言えば、正しいのは戯志才だ。昼間の戦いは、いくら愛紗と鈴々が強くとも、戯志才から兵を借りていなければ勝つことは不可能だった。その兵隊は、幽州刺史の公孫賛の配下だ。だから、彼らに俺たちの感情による行動につき合わせる訳にもいかない。

 戯志才も言った通り、力がなければ、何事も成すことが出来ないという現実を、こんなにも早く突きつけられるとは……。

 

〈一刀〉「……力、か」

 

 そんな言葉が口から突いて出たところに、天幕の外から声が掛けられる。

 

〈桃香〉「ご主人様……起きてる?」

 

〈一刀〉「……桃香?」

 

 外に出ると、星明かりの下で、桃香が苦笑いを浮かべてた。

 

〈桃香〉「さっきは、その……ごめんね」

 

 不寝番がチラホラといるだけの陣の中を、俺と桃香は静かにぶらつく。

 

〈一刀〉「いや、俺も何も言えなくてごめん。寝られなかったし……声掛けてくれて、助かった」

 

〈桃香〉「……うん。昼間、戯志才さんが言ってたでしょ? 力なき思想に意味はないって」

 

〈一刀〉「ああ。俺もそれを考えてた」

 

〈桃香〉「わたしは大陸を平和にしたいって思ってて、ご主人様や勇者様、愛紗ちゃん、鈴々ちゃんがいて。でも……まだまだ、全然足りないだなって」

 

〈一刀〉「……薊に急ぐ?」

 

 公孫賛の麾下に入れば、この問題は解決できる。兵隊だって、こちらの思うように動かせるようにもなれるかもしれない。

 

〈桃香〉「頭じゃ、それが一番だって分かってるんだよ。でも……」

 

 桃香の言いたいことは分かる。そんな簡単に割り切れるようなら、こんなに悩んだりなんかしない。

 

〈一刀〉「……力が欲しいな」

 

〈桃香〉「……うん」

 

 タイガがいればそれでいい、じゃあ駄目だ。俺たち自身に、世界を変えられるだけの力が欲しいと、初めて心から願った。

 その時……隊商側の陣営が、にわかに騒がしくなった。

 

〈麋竺〉「ほら、準備急いでー!」

 

〈麋芳〉「夜明けまでに行くよ!」

 

 何事かと見に行くと、こんな時間に麋竺たちが荷物を纏め、出立の用意を進めてた。

 

〈桃香〉「どうしたの!? 麋竺ちゃん、麋芳ちゃん!」

 

〈麋竺〉「あっ、劉備お姉ちゃん!」

 

〈麋芳〉「あのね、電々たちでね、盗られた荷物、取り返しに行くの」

 

〈一刀〉「取り返しに行くって……その数で!?」

 

 隊商には護衛の生き残りもそれなりにはいるが、元々盗賊を前に危機に陥ってた程度。それが根城を攻めようなんて、無謀でしかない。

 しかし、麋竺たちは本気のようだ。

 

〈麋芳〉「その数でも何でもだよ」

 

〈麋竺〉「商人にとって、商品は命の次に大事だもん!」

 

〈一刀〉「だったら、命を賭けるものじゃ……」

 

 それ以上は言えなかった。割り切れるなら、初めからこんなことはしてない。……俺たちと同じで。

 桃香の方を向くと、俺と同じで、腹をくくったようだった。

 

〈桃香〉「……ご主人様」

 

〈一刀〉「だな。戯志才と馬岱は無理でも、愛紗と鈴々なら頼めば……」

 

〈鈴々〉「こっちの荷物、纏めたのだ!」

 

〈愛紗〉「武具も確認、終わったぞ」

 

〈桃香〉「ふえっ!? 愛紗ちゃん……鈴々ちゃん……」

 

 よく見れば、愛紗と鈴々は既に隊商に混ざって、準備を手伝ってた。

 

〈愛紗〉「と、桃香さま!」

 

〈鈴々〉「お兄ちゃん……」

 

〈愛紗〉「あの……これは、その……我々の旅にも資金は必要だと思いまして……」

 

〈鈴々〉「それに、お姉ちゃんはいつも言ってたのだ。困ってる人は見捨ててられないって。だから……ね?」

 

〈桃香〉「……ふふっ」

 

 しどろもどろに言い訳する二人に、俺たちは笑いがこぼれた。

 

〈愛紗〉「と……桃香さま!?」

 

〈桃香〉「……ごめん、別に怒ってなんかいないんだよ。二人を呼びに行く必要がなくなって、良かったなって思っただけ」

 

 桃香は表情を引き締め、愛紗たちと向き直る。

 

〈桃香〉「わたしこそごめんね。こういう時は、わたしが最初に言わなくちゃいけなかったのに」

 

〈一刀〉「いや、みんなの気持ちが同じで良かった。そうとなったら、急いで出発しよう。戯志才たちに見つかったら、また面倒になるぞ」

 

〈鈴々・麋竺・麋芳〉「「「おーっ!!」」」

 

 話が決まり、俺たちは迅速に用意を進めてく。その中で、タイガが苦笑したのを感じた。

 

〈一刀〉「タイガ……本当は、俺たちがこの選択をするのを望んでたんじゃないのか?」

 

〈タイガ〉『さぁ……どうだろうな。ともかく、決断したからには、最後まで力の限りやり通すんだぜ』

 

〈一刀〉「ああ!」

 

 もう俺の心に迷いはない。麋竺たちの商品を取り返しに、いざ出発だ!

 

 

 

 それから俺たちは夜の闇に紛れながら険しい山道を登り、その先に道をふさぐようにそびえ立つ古い砦を発見した。

 

〈一刀〉「こんなところに砦が……」

 

〈愛紗〉「昔の関所のようですね。街道が変わりでもして、使われなくなったのでしょう」

 

 それをいいことに、盗賊が根城にしてるのか……。

 砦の見張りが使ってるのだろう、篝火の灯りに照らし出されてる旗を麋竺が指差す。

 

〈麋竺〉「あっ。あの旗だよ、賊が立ててた旗!」

 

〈麋芳〉「外に電々たちの荷車も捨ててある……」

 

〈桃香〉「だったら間違いないね」

 

〈愛紗〉「それで、どうしますか? いつも通りに行きますか?」

 

〈一刀〉「いつも通りって……そもそも、今まではどうやって盗賊の討伐とかしてたの? 三人だけだったんだよね?」

 

〈愛紗〉「え、それは……」

 

 何故か口ごもる愛紗。鈴々が代わるように答えた。

 

〈鈴々〉「まず、鈴々と愛紗が突っ込むでしょ」

 

〈一刀〉「うん」

 

〈鈴々〉「相手をどかーんとやっつけるでしょ」

 

〈一刀〉「うん」

 

〈鈴々〉「終わりなのだ」

 

〈一刀〉「愛紗、頼む」

 

〈愛紗〉「……我ら二人だけなら、目についた者はみんな敵ですから。相手は同士討ちを恐れて弓も撃ってきませんし。後は暴れていれば終わります」

 

〈麋竺〉「ふわぁ……関羽お姉ちゃんも張飛ちゃんも、かっこいいなぁ……」

 

〈麋芳〉「あれ。劉備お姉ちゃんはー?」

 

〈桃香〉「わ、わたしは……捕まってた人を助けたり、後ろから伏兵が来てないか見張りをしたりしてたよ?」

 

〈麋竺〉「何か地味……」

 

〈桃香〉「じ、地味でも大事な役目だからね!? ……だ、だよね、ご主人様?」

 

〈一刀〉「もちろん。桃香がいるから、二人が安心して戦えるんだよ」

 

 桃香のフォローをしてから、考える。

 今回は攻城戦だ。守りの固さが違う。昼間のように、愛紗と鈴々を突貫させるって訳にはいかない。かと言って、麋竺たちの護衛をこれ以上減らす訳にもいかないから、数に頼って攻めるのも駄目だ。そうなると……。

 

〈一刀〉「そうだ、愛紗。ここ……関所の跡って言ってたよね?」

 

〈愛紗〉「恐らくは」

 

〈一刀〉「だったら……」

 

 長々と作戦を考えてる暇もない。辺りにある小さな石を拾って、地面にざっくりとした図を描く。

 

〈一刀〉「関所ってことは、向こうにも門はあるよな?」

 

〈愛紗〉「恐らく」

 

〈一刀〉「なら、とりあえず崖から奇襲を仕掛けて、中の賊を向こうに押し出す」

 

〈桃香〉「え? でもそうなったら、向こうの……東門を開けて賊が逃げちゃわない?」

 

〈一刀〉「それでいいんだ。今回の目的は奪われた荷物だからな。逃げる連中はそのまま逃がして、砦から賊を追い出した後で、東門を閉じる」

 

〈愛紗〉「……なるほど。そうすれば、賊は関所に戻れなくなりますね」

 

〈一刀〉「そういうこと。俺たちは荷物を回収して、反対側の西門から悠々と帰ればいい。残った賊は、地元の駐留軍に任せよう」

 

 拠点を失ってしまえば、賊も力が半減するはずだ。それほどの脅威ではなくなるはず。

 

〈一刀〉「……こういう作戦でどう?」

 

〈愛紗〉「そうですね。では、ご主人様は麋竺たちと城壁の上の確保をお願いします。下で賊を追い出すのは、私と鈴々が引き受けましょう」

 

〈麋竺〉「お兄さん、すごーい! 頭いいー!」

 

〈麋芳〉「関羽さんもかっこいい……」

 

 麋竺たちが感心してる間に、俺は密かにタイガに尋ねた。

 

〈一刀〉「タイガ、どうかな? 俺の作戦……」

 

 人同士の戦いには干渉しないと言及してるタイガだが、作戦の評価をしてもらうくらいならいいだろう。

 

〈タイガ〉『いいと思うぜ。目的を見失わず、無駄な戦闘は避ける。動きとしちゃあ理想的だ』

 

〈一刀〉「なら、出来るだけ早く動こう。もうすぐ夜も明けるだろうし……奇襲に向いた時間になるはずだから」

 

〈桃香〉「だったらみんな……」

 

 俺たちはうなずき合い、麋竺と麋芳が張り切って号令を発した。

 

〈麋竺・麋芳〉「「作戦、開始ー!!」」

 

 

 

 俺と麋竺、麋芳は隊の一部を引き連れ、見張りに見つからないようにしながら崖伝いに城壁に接近。その上に飛び移ると、麋竺が声を張り上げた。

 

〈麋竺〉「こらーっ! 盗った荷物を返せーっ!」

 

〈盗賊〉「何だ!? テメェどっからここに入った!」

 

〈麋芳〉「横の崖を登ったんだよ~」

 

 俺たちの突然の出現に、盗賊たちは取り乱してる。そして西門の側には、時を同じくして愛紗たちが本隊を展開した。

 

〈盗賊〉「ヤベェぞ! 下にもゾロゾロ兵隊が来てやがる!」

 

〈敵襲〉「てッ、敵襲ー! 敵襲だ! 戦いだぁぁ!」

 

〈鈴々〉「もう遅いのだ! 覚悟ー!」

 

 今回は数が少ない中での、二面作戦。速攻が勝負を分ける! 力の限りを尽くすぞ!

 


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