奥特曼†夢想 ‐光の三雄伝‐   作:焼き鮭

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A wise man keeps away from danger

 

 盗賊討伐より帰還して、少し経った頃。鎗輔が城の廊下を歩いていると、不意に奥から喧騒が聞こえてきた。

 

〈鎗輔〉「何だか騒がしいな……」

 

〈フーマ〉『城で誰が何やってんだ?』

 

 気になって見に行くと――廊下の中ほどで、春蘭と秋蘭、そして新たに陳留の軍師となった桂花の三人が一箇所に固まっていた。

 

〈春蘭〉「うぬぬ、先ほどから言わせておけば……」

 

〈桂花〉「全く、これだけ言っても分からないの?」

 

 春蘭と桂花は向かい合って激しく言い争っている。喧騒の正体はこれのようだ。

 その様子を秋蘭が傍から、呆れたようにながめていたが、こちらの存在に気づいて振り返る。

 

〈秋蘭〉「おお、東雲。こんなところでどうした?」

 

〈フーマ〉『そりゃこっちの台詞だぜ』

 

〈鎗輔〉「こんなところで何やってるんですか? 二人は」

 

〈秋蘭〉「ああ、それがな……」

 

 鎗輔が秋蘭と話している間にも、春蘭と桂花は言い争う。

 

〈桂花〉「だからあなたは莫迦だって言うの」

 

〈春蘭〉「何っ! もう一度言ってみろ!」

 

〈桂花〉「何度だって言ってあげる。盗賊や小部隊と戦う時なら、あなたの突出は勇敢な突撃となるわ。だけど、大部隊が相手の時に無駄な突撃なんてされると、兵を消耗するし、下手をすれば戦線が瓦解するのよ。だからやめなさい、猪みたいな突進は、と。そう言ったの。理解してもらえたかしら?」

 

〈春蘭〉「ぐっ……! 貴様ぁ!」

 

 やり取りの内容から鎗輔たちは、戦術の是非について対立しているようだということを読み取った。

 

〈秋蘭〉「落ち着け姉者。ここで声を荒げて何になる。それに桂花の言っていることも一理あるぞ」

 

〈春蘭〉「秋蘭……」

 

〈秋蘭〉「そんな顔をするな。別に姉者の意見が全て間違いと言っている訳でもない。……なぁ、東雲?」

 

〈鎗輔〉「えッ……」

 

 いきなり話を振られた鎗輔だが、彼は軍事に明るいという訳ではない。回答を迷っていると、フーマが代わりに返答した。

 

〈フーマ〉『まぁ、不利な状況下であえて正面からぶつかって、状況を打開するのもアリっちゃあアリだな。俺自身、そうやって切り抜けた戦いは多いぜ』

 

 しかし桂花に反論される。

 

〈桂花〉「そんなのはただの賭けじゃないの。戦いに賭けを持ち込んでしまえば、勝ち負けは限りなく運になるわ」

 

〈春蘭〉「では、どういうものが貴様の考える戦いだと言うのだ!」

 

〈桂花〉「心理と思考の読み合い。そこから紡ぎ出される完璧な策こそが、予定調和としての勝利を華琳さまに捧げることが出来るのよ」

 

 桂花の展開した持論を、春蘭は一笑に付す。

 

〈春蘭〉「はんっ」

 

〈桂花〉「何よ、その笑い方は!」

 

〈春蘭〉「予定調和としての勝利など無い。戦場は千変万化の生き物なのだからな」

 

 お互い譲らない二人は激しくにらみ合う。それにあわあわと慌てる鎗輔は、秋蘭に振り向く。

 

〈鎗輔〉「し、秋蘭さん、止めなくていいんですか……?」

 

〈秋蘭〉「この二人は犬猿の仲だからな。私が口出ししたところでどうにかなるものでもない」

 

〈フーマ〉『考えは正反対のくせに、気の強いとこだけはそっくりだからなぁ』

 

 呆れたようにため息を吐くフーマ。

 

〈鎗輔〉「でも、仲間同士でこんな……」

 

〈秋蘭〉「実際のところ、二人には二人なりの持論があり、必ずしも間違っているとは言えないからな。この事態を収拾できる人間は一人しかいないさ」

 

〈鎗輔〉「華琳さまですか……」

 

〈秋蘭〉「うむ。そういうことだ」

 

 しかし、臣下が喧嘩した程度のことでいちいち華琳を呼んでいてはいられない。

 

〈秋蘭〉「まぁ今は見守るしかあるまい」

 

〈鎗輔〉「そんな……。フーマ、どうにかならない?」

 

 フーマに助けを求める鎗輔だが、彼もお手上げだ。

 

〈フーマ〉『秋蘭の言った通り、どっちの言い分ももっともだ。互いの考えを認め合うのが一番なんだが……こいつらにゃ無理な話だろ。タイタスの旦那がいりゃあ、上手いこと収めてくれるかもしれねぇんだけどなぁ』

 

〈鎗輔〉「もう一人の方……タイガっていう人は?」

 

〈フーマ〉『タイガ? あいつ駄目だよ』

 

 手をこまねいている内に、春蘭と桂花の口論はヒートアップ。

 

〈春蘭〉「とにかく! 貴様のような甘い考え方では、華琳さまに勝利など捧げられん」

 

〈桂花〉「ふん。それこそ視野の狭い脳味噌筋肉の言いそうな台詞ね」

 

〈春蘭〉「だ、誰が脳筋だと!」

 

 その末に、カッとなった春蘭が腰の剣の柄に手を掛けた。

 

〈鎗輔〉「わぁッ!? そ、それは駄目ですよ春蘭さん! 落ち着いて下さい!」

 

 流石に見ていられなくなった鎗輔が、慌てて春蘭を抑える。

 

〈春蘭〉「ええい、邪魔をするな! こいつには分からせてやらねばならん!」

 

〈鎗輔〉「口論で手を上げたら負けですよ! 自分が馬鹿だって認めるようなものです!」

 

 暴れる春蘭を必死になだめようとしたのだが、

 

〈春蘭〉「何……だと?」

 

〈鎗輔〉「え……」

 

 急に春蘭の様子が変わったので、一瞬固まった。

 

〈春蘭〉「誰が……誰が薄ら馬鹿だとぉーっ!」

 

 憤怒した春蘭が、とうとう大鉈を鞘から抜き放つ!

 

〈鎗輔〉「ぎゃ――――――――!?」

 

〈PAL〉[危険。後退を]

 

 悲鳴を発する鎗輔に、PALが警告。バッと下がった鎗輔の立っていた場所に、剣が思い切り振り下ろされた。

 

〈鎗輔〉「あ、あぶッ……! やめて下さい死んでしまいます!!」

 

〈春蘭〉「安心しろ、今のは利き腕を狙っただけだ! 貴様が後悔する時間をくれてやるつもりだったからな!」

 

〈鎗輔〉「腕は簡単に落としていいものじゃない!!」

 

 眼が危ない光を放つ春蘭が、ジリジリ間合いを計ってくる。鎗輔は脂汗まみれになって後ずさる。

 

〈鎗輔〉「な、何故こんなことに……!? ちょっと桂花さん、助けてもらえますか!?」

 

〈桂花〉「どうして私があんたなんかを助けなくちゃいけないの?」

 

〈鎗輔〉「えぇひどいッ! 元はと言えば、二人の喧嘩なのに!」

 

〈フーマ〉『鎗輔! 前まえ!』

 

〈鎗輔〉「ひぃッ!」

 

 春蘭の薙ぎ払う剣を、必死でよける鎗輔。

 

〈桂花〉「逃げ足だけは一人前ね」

 

〈春蘭〉「東雲、そこになおれ! 私を猪馬鹿扱いしたことを後悔させてやる!」

 

〈鎗輔〉「そんなこと言ってません!!」

 

〈春蘭〉「知らん!」

 

 春蘭は問答無用で剣を振り回す。

 

〈鎗輔〉「ぎゃあああッ! 暴力やめて!」

 

〈春蘭〉「これは暴力ではない、正義の鉄槌だ!」

 

〈鎗輔〉「私怨でしょうがッ! 誤解だし!」

 

〈春蘭〉「これは愛の鞭だ!」

 

〈鎗輔〉「どこに愛があるんですかぁッ! 剣だしッ!」

 

〈春蘭〉「ええい、ああ言えばこう言う! そんな口だけの男は成敗してくれるわ!」

 

〈鎗輔〉「理不尽ッ!!」

 

 ブンブン剣を振るう春蘭から、這う這うの体で逃げ回る鎗輔。

 

〈春蘭〉「待て、卑怯者! いつまで逃げる気だ!」

 

〈鎗輔〉「命の危険がなくなるまで!」

 

〈春蘭〉「そんな時は来ん! 正々堂々わたしに斬られるがいい!」

 

〈鎗輔〉「やっぱり殺すつもりじゃないですかやだーッ!」

 

〈秋蘭〉「やれやれ。姉者はとかく扱いが難しいからな」

 

〈鎗輔〉「秋蘭さん! そんなこと言ってないで、春蘭さん止めて下さい!」

 

 柱を盾に時間を稼ぎながら、秋蘭に助けを求める。しかし、

 

〈秋蘭〉「姉者がああなると、私でも手がつけられん。気が収まるまで頑張って逃げろ」

 

〈鎗輔〉「そんなぁ! 桂花さん、何か策出して! 軍師でしょ!?」

 

〈桂花〉「無理。それにあんたを助ける義理なんて塵ほどにもないわ」

 

〈鎗輔〉「味方がいないッ!!」

 

〈春蘭〉「ふははははっ! 待て東雲! 刀の錆にしてくれるわーっ!」

 

〈鎗輔〉「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――――!!」

 

 最早鎗輔を斬ることが目的になっている春蘭から、全力疾走で逃げる鎗輔。

 ――どうにか命を拾ってから、フーマがこう打診した。

 

〈フーマ〉『鎗輔……いい忍術教えてやろうか。遁法って言うんだが……』

 

〈鎗輔〉「……お願い」

 


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