奥特曼†夢想 ‐光の三雄伝‐   作:焼き鮭

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The Suspicion of Dumplings

 

〈鎗輔〉「……ん?」

 

 陳留の城の昼時、食堂に向かう途中だった鎗輔は、どこからか漂ってくる甘い匂いに鼻をくすぐられて、つい振り返った。

 

〈鎗輔〉「何か美味しそうな匂いがする。何だろ?」

 

〈フーマ〉『中庭の方からだぜ』

 

 フーマの示す通り、中庭に行ってみると、その真ん中に座り込んでいる人影を見つける。誰だろうかと近寄ってみると、

 

〈鎗輔〉「季衣ちゃん」

 

〈季衣〉「ん? 兄ちゃん。どしたの?」

 

 芝生の上に座っている季衣の傍らには、大量の串団子が大皿に山積みになっていた。匂いの元はこれのようだ。

 

〈鎗輔〉「いっぱいあるね、団子。こんなところで、食後のおやつ?」

 

 山積みの団子を一人で食べている光景は、普通なら少し考えられないものだが、季衣は桂花の糧食の計算を崩すレベルの大食いであることはもう知っている。ごく自然に尋ねたのだが、

 

〈季衣〉「ん? ご飯はまだだよー」

 

〈鎗輔〉「えッ……」

 

 今度は耳を疑った。

 

〈鎗輔〉「いや、でも、たくさんあるけど……」

 

〈季衣〉「そりゃあるけど……むぐむぐ……」

 

〈フーマ〉『まさか、これが今日の昼メシか?』

 

〈PAL〉[甘味が昼食なのは感心できません]

 

 たしなめるPALだが、季衣は冗談を言われたかのように笑い飛ばした。

 

〈季衣〉「そんな訳ないじゃん。お団子はお団子だよー。兄ちゃんたちも食べる?」

 

〈鎗輔〉「ああ、いや……ぼくはいいよ」

 

〈フーマ〉『俺もな』

 

〈季衣〉「遠慮なんかしなくていいのにー。たくさんあるんだから」

 

〈鎗輔〉「いや、まだご飯食べてないから……」

 

〈フーマ〉『鎗輔は小食だからな。ここで間食したら、メシが入らなくなるぜ』

 

〈季衣〉「えー? こんなお団子で? 兄ちゃん、ちゃんと食べないと力出ないよ? そんなだから、肉がついてないんじゃない? ぱくっ」

 

〈フーマ〉『そりゃ一理あるかもな~』

 

〈鎗輔〉「ほっといてよ……。それより季衣ちゃんだよ」

 

〈季衣〉「むぐむぐ……みゅ?」

 

〈鎗輔〉「一体、一人で何本食べてるの……。そっちこそ、ご飯入らなくなるじゃないの?」

 

 既に団子が無くなっている串も、相当数ある。苦言を呈する鎗輔だが、

 

〈季衣〉「このくらいで入らなくなる訳ないじゃん。それによく言うでしょ、ご飯と甘いものは別腹だって」

 

〈鎗輔〉「それは普通食後の台詞……それに、別腹なんて臓器は存在しないから」

 

〈季衣〉「?」

 

 と言う話は、季衣には難しいようだ。

 

〈フーマ〉『それがメシじゃねぇなら、昼メシはどうするつもりなんだ?』

 

〈季衣〉「今日は春蘭さまと秋蘭さまの三人で、お昼食べに行くことになってるの。でもお二人は、まだお仕事中だから……」

 

〈鎗輔〉「それで待ってるの? お団子食べながら……」

 

〈季衣〉「そだよ。お腹が空き過ぎても持たないから、こうやってちょっとねー」

 

〈鎗輔〉「ちょっとか……」

 

 明らかにちょっと、という量ではないのだが……。団子を見ているだけで腹がいっぱいになりそうな鎗輔だった。

 

〈鎗輔〉「……本当に大丈夫なの? お腹壊さない?」

 

〈季衣〉「あはは。やだなぁ、こんなの食べた内に入らないよー」

 

〈鎗輔〉「……」

 

 季衣のあまりの健啖ぶりに、閉口する鎗輔たち。

 

〈フーマ〉『……しかしまぁ、こんだけの団子をどっから持ってきたんだ?』

 

〈季衣〉「春蘭さまに教えてもらったお店で買ってきたんだ。華琳さまもこのお菓子、大好きなんだって」

 

〈鎗輔〉「じゃあ、あそこのお店か……。限定商品がすぐ売り切れるところ」

 

〈PAL〉[春蘭に買い手の頭数を増やすために、連れていかれたことがありましたね]

 

〈鎗輔〉「そうそう、そこ。長蛇の列が出来る奴」

 

〈季衣〉「ボクも結構並んだよー」

 

〈鎗輔〉「並んでる間は平気だったの?」

 

〈季衣〉「……兄ちゃん。ボクのこと、すぐお腹が空くみたいに思ってない?」

 

〈鎗輔〉「あ、いや、軽い冗談だよ……」

 

 本当は思っている。

 

〈季衣〉「ぶー。朝ご飯ちゃんと食べたから、大丈夫だよー」

 

〈フーマ〉『そりゃあ、どこぞの爆蝕怪獣みたいにずっと食ってる訳ねぇよな』

 

〈季衣〉「当たり前だよぅ。それにしてもこれ、美味しー。幸せー」

 

 笑顔で団子を頬張る姿は、普通の子供と変わらない。隣に団子の山がなければだが……。

 

〈鎗輔〉「……あの質量が、あの小柄な体躯のどこへ消えてしまうんだろうか……」

 

〈フーマ〉『でかい鉄球振り回す怪力の秘密は、ここにあるのかもな……』

 

 そっと話し合ってから季衣に視線を戻した鎗輔は、彼女の口元が団子のタレでベタベタなことに気づく。

 

〈鎗輔〉「あーあー、そんなに食べるから口が汚れてるよ。ちょっとじっとしてて……」

 

〈季衣〉「ん?」

 

 呆れながらポケットよりハンカチを取り出し、季衣の口を拭って汚れを取る。

 

〈鎗輔〉「はい。綺麗になったよ」

 

〈季衣〉「ありがとー! はむっ」

 

 と言っている端から、また団子のタレが付着する。

 

〈鎗輔〉「……はぁ……それにしても、まだ食べるの? まさか全部食べ切る気じゃ……」

 

〈季衣〉「こんなの普通だよー。これからお昼ご飯食べないといけないし、ちょっと控えめくらいかなぁ……むぐむぐ」

 

 鎗輔には信じられない世界である。

 

〈フーマ〉『よく太らねぇもんだ』

 

〈鎗輔〉「まぁそこは、個人の体質があるし……」

 

〈季衣〉「あー、ひどーい! ボク、重くなんかないよー。何だったらちょっと抱えてみてよ!」

 

〈鎗輔〉「えッ、いや、それはちょっと……」

 

〈季衣〉「ぶー! ボクが重そうだから、抱えたくないって言うのー! ひどいよー!」

 

 鎗輔が拒むと、季衣がむくれて機嫌を害した。

 

〈鎗輔〉「分かった、分かったから……ちょっと立って、じっとしててよ……」

 

〈季衣〉「うん!」

 

 立ち上がった季衣の腰を掴んで、急かされるままに持ち上げるが……。

 

〈鎗輔〉「う、ぐぐ……お、重い……」

 

〈季衣〉「ええっ!?」

 

 鎗輔の口から突いて出たひと言にひどいショックを受けた季衣は、放されるとムキになって喚いた。

 

〈季衣〉「ひっどぉぉい! 女の子に、そんなこと言うなんて! 兄ちゃんの……ばかぁっ!」

 

 感情のままの拳が、鎗輔のボディに入る。

 

〈鎗輔〉「うぐぅっ!?」

 

〈季衣〉「……はひ? え? 兄ちゃん、大丈夫?」

 

 全く大丈夫ではなかった。鎗輔の身体がぐらりと傾いて、そのままパタリと倒れる。

 チーン……。

 

〈季衣〉「え、あれ、ちょっと、兄ちゃん? 兄ちゃーん!」

 

 

 

〈鎗輔〉「ひどい目に遭った」

 

 幸い大したことはなく、短時間気を失っていただけで済んだ鎗輔だった。

 

〈季衣〉「ごめーん。だって、あのくらいで倒れるなんて思わなかったんだもん」

 

〈鎗輔〉「いやぁ、結構いい拳だった……」

 

〈季衣〉「だけど、兄ちゃんも悪いんだからね! ボクのこと、重いだなんて言って」

 

〈フーマ〉『俺はそんな予感してたけどな……。けど、鎗輔の細腕で曲がりなりにも抱え上げられたんだから、軽いってのは確かだろ』

 

〈季衣〉「でしょお? 兄ちゃん、やっぱりもっと肉つけないと駄目だよー! そんなんじゃ、戦場でもすぐ倒れちゃうよ? むぐむぐ」

 

〈鎗輔〉「善処します……。ところで、もうそろそろ食べるのやめたら? 春蘭さんと秋蘭さんも、そろそろ切り上げる頃だろうし」

 

 時計はないが、日の傾き具合からそう判断する。

 

〈季衣〉「そうかなぁ。じゃ、そろそろやめとこうかな。春蘭さまたち、今日は何が食べたい気分かな……? あっさりの方がいいかな、それともがっつり食べられる方がいいかなぁ……?」

 

〈フーマ〉『そういうの、気にすんのか』

 

〈季衣〉「そりゃそうだよ。今日はどんなお店を案内すればいいかなぁとか、ボクだってちゃんと考えてるんだよ」

 

〈鎗輔〉「季衣ちゃんは、どんな気分なの?」

 

〈季衣〉「んー。がっつり食べたい感じかなぁ……」

 

 今までのはがっつりではないのか……と、鎗輔たちは一瞬思ってしまった。

 

〈季衣〉「あ、これで団子、おしまいだ。ちょうどいいから食べちゃおっと。兄ちゃんたち、ほんとに食べないの?」

 

〈鎗輔〉「いや、いいって」

 

〈季衣〉「パルは?」

 

〈PAL〉[私が物を食べられるように見えるでしょうか]

 

〈フーマ〉『俺たちは気にしねぇで、季衣が食べな』

 

〈季衣〉「わーい。じゃ、食べちゃうね。はむ」

 

 遂に完食した季衣の口周りは、再びベタベタになっていた。

 

〈鎗輔〉「もう、またそんな汚して……。ほら、こっち向いて」

 

〈季衣〉「んぅ―――」

 

 鎗輔は立ったまま、季衣の口元に手を伸ばしてハンカチで拭う。

 

〈鎗輔〉「はい、これでよし」

 

〈季衣〉「ありがと、兄ちゃん!」

 

「貴様ぁぁぁっ! 何をやっておるかぁぁぁっ!」

 

 突然、とんでもない怒声が鳴り渡った。鎗輔が驚いて首を向けると、春蘭と秋蘭が何故か厳めしい顔で立っている。

 

〈鎗輔〉「春蘭さん? 何って……」

 

〈春蘭〉「季衣に何をしていると聞いているっ!」

 

〈鎗輔〉「いや、口を拭いてるだけですけど……」

 

〈春蘭〉「何をそんな下らぬごまかしをっ……!」

 

〈鎗輔〉「は、はい?」

 

 何を言われているのかが分からない鎗輔に、春蘭は真っ赤になって指を突きつける。

 

〈春蘭〉「き……っ! ききき、貴様……季衣にい、い、いいいい……嫌らしいことをしていたのだろうっ!」

 

〈鎗輔〉「はい!?」

 

 訳が分からない鎗輔だが……彼我の立ち位置を考える。春蘭たちは、自分の背後から来た。座っている季衣の首は、立っている自分の腰の辺りの高さ。そして自分は季衣の顔に手を伸ばしていて……。

 

〈鎗輔〉「……いやいやいやッ! 違います、それは誤解ですッ!! 季衣ちゃんの口がお団子のタレで汚れてたから……」

 

 二人からどう見えていたのかを理解した鎗輔がブンブン首を振って否定するが、

 

〈春蘭〉「どこに団子などあるっ!」

 

〈鎗輔〉「えぇッ!?」

 

 振り向けば、あれだけあった団子の串が一本も無くなっていた。

 

〈鎗輔〉「何故!? 手品!?」

 

〈フーマ〉『たった今、季衣が片づけたぞ』

 

〈季衣〉「だって、ゴミ捨てとくの、悪いと思って……」

 

 心掛けは立派だが、タイミングは最悪だった。

 

〈秋蘭〉「東雲。悪いことは言わん。素直に謝れば、姉者とて鬼ではないのだ。きっと許してくれるだろうさ」

 

〈鎗輔〉「秋蘭さん……じゃあ、何でそんな笑いそうな顔なんですか……」

 

〈季衣〉「春蘭さまぁ。兄ちゃんの言うこと……」

 

〈フーマ〉『落ち着けっての春蘭……』

 

〈PAL〉[先ほどまでの会話を再生します……]

 

〈春蘭〉「お前たちは黙っていろ!」

 

 弁明しようとする季衣たちの言葉も、今の春蘭には届かない。

 

〈春蘭〉「季衣に手を出そうとしたこと、素直に謝れば、まぁ勘弁してやらんこともない……。だが、団子だか何だか知らんが、ごまかそうとするなど言語道断! そもそも食事の約束をしていたというのに、その前に団子を食う奴がどこにいるかっ!」

 

〈鎗輔〉「そりゃ、普通はそう思うでしょうけど……!」

 

〈春蘭〉「うるさい黙れ!」

 

 春蘭は完全に頭に血が昇っていて、こっちの言い分に全く耳を貸さなかった。

 

〈鎗輔〉「いや、落ち着いて下さいって! そんなことしませんから、季衣ちゃんみたいな小さい子に!」

 

〈季衣〉「ちょっと兄ちゃんっ! ボク、もう子供じゃないよっ!」

 

〈鎗輔〉「しまった敵を増やした!」

 

 失言に気づいた時にはもう遅く、季衣まで鎗輔ににじり寄ってくる。

 

〈季衣〉「春蘭さま!」

 

〈春蘭〉「うむ! 任せておけ!」

 

〈鎗輔〉「ちょっと、秋蘭さん、助け……」

 

〈秋蘭〉「姉者。判決はどうするのだ?」

 

〈鎗輔〉「あーもーッ! 分かっててやってるでしょ!」

 

 四面楚歌の鎗輔。

 

〈春蘭〉「決まっているだろう! 死刑!」

 

〈鎗輔〉「そんなこと言う漫画、聞いたことある! けど嫌だぁッ!」

 

〈季衣〉「春蘭さまぁ……。それはいくら何でも、ひどくないですか?」

 

〈春蘭〉「む……そうか? なら、百叩きくらいで勘弁してやろうか」

 

〈季衣〉「まぁ、そのくらいなら……」

 

〈鎗輔〉「良くないッ! 百回も叩かれたら死んじゃう!」

 

〈春蘭〉「少々叩かれたくらいで人が死ぬものか。せいぜい尻の形が変わるくらいだ」

 

〈鎗輔〉「骨盤が砕けてるじゃないですかッ!」

 

〈春蘭〉「ええい、うだうだとうるさい奴だ! 男らしくないぞ!」

 

〈季衣〉「がんばってよ、兄ちゃん。百回も叩かれたら、きっと兄ちゃんも丈夫になるよ」

 

〈鎗輔〉「無理言わないで!!」

 

〈春蘭〉「いい加減覚悟を決めろ! 秋蘭、季衣、東雲を捕まえるのを手伝うのだっ!」

 

〈秋蘭〉「うむ。任せておけ」

 

〈季衣〉「分かりましたっ!」

 

 鎗輔を取り囲んでくる三人。だが鎗輔とて、黙って無実の罪で百叩きにされるのはごめんだ。

 

〈鎗輔〉「こ……こうなったらぁッ!」

 

〈フーマ〉『鎗輔、やるのかッ!』

 

〈春蘭〉「むっ、何をするつもりだ!?」

 

 ジャケットに手を突っ込んで、黒い球体を取り出すと素早く地面に叩きつける。

 

〈鎗輔〉「煙玉ぁッ!」

 

〈春蘭〉「ぬおっ!?」

 

〈季衣〉「わぁっ!」

 

〈秋蘭〉「むぅ……!」

 

 球体が弾けて、白い煙が瞬く間に広がり、春蘭たちの視界を一瞬でさえぎる。フーマに作り方を教わった、煙玉を用いた遁走術だ。

 この間に、鎗輔はPALのナビでこの場から脱出を図る。

 

〈PAL〉[左を抜けられます]

 

〈鎗輔〉「三十六計逃げるに如かずッ!」

 

〈春蘭〉「小賢しい真似を……逃げても罪が重くなるだけだぞぉっ! 待たんかーっ!!」

 

〈鎗輔〉「ひぃーッ!!」

 

 鎗輔の命懸けの逃走劇は、春蘭が腹を空かせて落ち着くまで続いたのであった。

 

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