奥特曼†夢想 ‐光の三雄伝‐   作:焼き鮭

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Application of Knowledge

 

「グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

〈フーマ〉『うおわぁッ!』

 

 ――その日、陳留は大混乱に陥っていた。街に怪獣が侵入し、大被害を与えているからだ。

 熔鉄怪獣デマーガ! デマーガは口から熔鉄熱線を吐いて街の一部を火の海に変え、応戦に出てきたフーマさえも火だるまにしてはね飛ばす。

 

〈フーマ〉『熱ちッ! あっちぃなぁもうッ!』

 

〈鎗輔〉『「何て火力だ……!」』

 

〈フーマ〉『これ以上暴れさせんのはまずいぜッ!』

 

 文字通り手を焼いて苦しめられるフーマであるが、デマーガが更に刃物型の背びれが並んだ背面から火炎弾を噴火の如く飛ばし、ますます街を焼いていく。

 

「グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

〈フーマ〉『おいこらやめろっての! 極星光波手裏剣ッ!』

 

 デマーガを止めるべく、十字の光波手裏剣を放つが、これも熔鉄熱線によって消し去られた。

 

〈フーマ〉『くそッ、正面からじゃ効かねぇ……!』

 

〈鎗輔〉『「だったら、これだッ!」』

 

[セット]

 

 鎗輔がタイガスパークに触れ、左手の中指にリングを召喚する。

 

[華琳リング、エンゲージ]

 

 リングに右手をかざすと、金色の電流が発せられ、鎗輔の傍らに華琳のビジョンが浮かび上がる。

 そしてフーマの作り出す光波手裏剣の形状が、鎌のような三日月型に変化した。

 

〈フーマ〉『覇王絶手裏剣ッ!』

 

 繰り出された手裏剣はブーメランのように湾曲した軌道を描いて、熔鉄熱線をよけてデマーガ本体に飛びかかる。

 

「グバアアアア……!」

 

 手裏剣がデマーガの尻尾を切り飛ばし、更に胴体、首と切断。デマーガの頭部がぐらりと傾き、転落後に断面から爆発が生じる。

 デマーガを打ち破ってこれ以上の被害の拡大を防いだフーマは、燃える街に向かって突風を放った。

 

「セイヤッ!」

 

 風が火の手を散らし、酸素を遮断して鎮火せしめた。どうにか延焼は止めたものの……既に燃えた街まで戻ることはない。

 

〈フーマ〉『大分被害が出ちまったな……』

 

〈鎗輔〉『「うん……どうにかならなかったのかな……」』

 

〈フーマ〉『反省会は戻ってからにしようぜ』

 

 気持ちのいい幕引きではないが、だからとどうにかなるものでもない。フーマはやむなく空に飛び上がって退散していった。

 

「セイヤッチ!」

 

 

 

 その後日、華琳は執務室に栄華を呼んで、あることを尋ねていた。

 

〈華琳〉「それで、どうかしら? 鎗輔の働きぶりは」

 

〈栄華〉「はい……客観的な観点から申し上げますと……」

 

 鎗輔は平時では、どの部署で仕事をするかがまだ決定していなかった。適性としては、軍人は論外なので、文官が最適であるとして、その能力を確認するために栄華を監督につけて、ひと通りの文官の業務をさせてみたのである。今はその結果の報告中だ。

 栄華は、不承という表情ながらも華琳に告げる。

 

〈栄華〉「本人が自慢するだけのことはあり、間違いなく優秀……いえ、そんな言葉では言い表せないほどの手際を見せつけてくれましたわ。いくつも山を作っている書類の内容を、ざっと目を通しただけで完璧に記憶し、全ての分野の業務において非の打ちどころのない処理を行い、しかも最低でも五日は掛かるだろうと想定していた量を半日も経たない内に終わらせました。こちらの仕事を回す手が追いつかないほどの速さでしたわ。わたくしでもまごつく経理の計算を、ひと目見ただけで解いたのは流石に舌を巻きました。どんな速度で思考が回っているのやら……」

 

〈華琳〉「へぇ……計算が最も得意だとは言っていたけれど、そこまでとはね……」

 

〈栄華〉「それでいて、本人的には初仕事なので、誤りのないよう慎重に仕事したということですわ。謙遜が過ぎて、嫌味にしか聞こえませんでしたとも」

 

 筋金入りの男嫌いの栄華が、一切の非を唱えないからには、本当に完璧な仕事ぶりだったのだろう。流石に感心する華琳。

 しかし、

 

〈栄華〉「ただ……これは、個人的な感情で難癖をつける訳ではありませんが……」

 

〈華琳〉「何かしら? 遠慮なく言ってごらんなさい」

 

〈栄華〉「はい……。あまりに優秀すぎる、そこが逆に問題ですわ」

 

〈華琳〉「その心は?」

 

〈栄華〉「あの人が、このまま生涯お姉様に仕えるというのなら構わないのですが……いつかはいなくなってしまう人でしょう?」

 

 そこまで聞いただけで、華琳も栄華の言いたいところを把握した。

 

〈華琳〉「そうね……優秀だからと言って、鎗輔一人に頼り切るような仕事場になってしまっては、彼らがいざ天に帰る時に、それ以外でもここを離れる時が来たりしたら、面倒なことになるわね」

 

〈栄華〉「ええ……。彼の能力は、今申した通り、仕事の供給が追いつかないほど。つまり、他の人の分を奪ってしまうほどですわ。そうすると、どうあがいてもお姉様のおっしゃった通りの状態になってしまうでしょうし……かと言って、遊ばせているのも体面が悪いですわ。けれど無駄な仕事、出来ない仕事をさせる訳にも……どう扱えばいいものか……」

 

 鎗輔の能力の高さが、逆に栄華の頭を悩ませる。そこで華琳が微笑みかけた。

 

〈華琳〉「それなら心配ないわ。そうなるのではないかと思って、こちらで別の仕事を用意しているの」

 

〈栄華〉「本当ですか、お姉様? それは上手い落としどころになるのでしょうか。はっきり言って、あの人は得手不得手が極端すぎますわ」

 

〈華琳〉「大丈夫よ。鎗輔にこそ、是非やってもらいたいことだから」

 

 

 

〈鎗輔〉「城の治安維持向上の計画書……その草案?」

 

 謁見の間に呼び出された鎗輔は、秋蘭の手から渡された一枚の書類に目を通して、そのタイトルを読み上げた。

 やや呆気にとられている鎗輔に、玉座の華琳が言いつける。

 

〈華琳〉「あなたには、それを本案に仕上げてもらいたいの」

 

〈鎗輔〉「えッ?」

 

 何でもないことのように言う華琳と対照的に、鎗輔は驚きを見せている。

 

〈華琳〉「何をそんな顔をしているの」

 

〈鎗輔〉「だって……これってかなり重要な仕事でしょう? しかもほとんど白紙ですし……。これを完成させるのを、新入りのぼくに一任ですか?」

 

〈華琳〉「少し前に言ったでしょう。あなたはもうここの要人の一人よ。それに人民の命を守る天の御遣いには、治安の維持こそ打ってつけだと思うのだけれど」

 

〈鎗輔〉「それはそうかもしれませんけど……」

 

 いきなり重要案件を任され、流石に戸惑っている鎗輔に、華琳が重ねて言い聞かす。

 

〈華琳〉「あなたの仕事の速さは聞いているわ。だからこそよ。これは急を要する案件なの。この陳留の警備体制が大分疎かなのが、先日の怪獣戦で浮き彫りになったから」

 

〈鎗輔〉「……!」

 

 相当な被害を出した、デマーガ戦のことだ。それを思い返して、鎗輔も顔色が変わる。

 

〈華琳〉「もっと警備が充実していれば、あそこまでのことにはならなかったかもしれない。それを思って、この重要事項をあなたに任せるの。……やってくれるわよね?」

 

〈鎗輔〉「……分かりました」

 

 そこまで言われれば、鎗輔も嫌とは言えなかった。真剣な顔になってうなずく。

 

〈華琳〉「よろしい。なら、期限は三日とするわ」

 

〈鎗輔〉「三日ですか!?」

 

〈華琳〉「急を要すると言ったでしょう。不満かしら?」

 

〈鎗輔〉「……いえ、やってみます」

 

〈華琳〉「その言葉、確かに聞いたわよ。ならばこんなところでグズグズしている暇はないはず。今すぐに取り掛かりなさい」

 

〈フーマ〉『鎗輔、この仕事なら俺もアドバイスできる。力を貸すぜ!』

 

〈鎗輔〉「ありがとう。じゃあ……行ってきます」

 

 流石に緊張を浮かべながらも、鎗輔は書類を手に、早速自室へと戻っていった。

 鎗輔がいなくなってから、秋蘭が華琳に尋ねかける。

 

〈秋蘭〉「華琳さま……」

 

〈華琳〉「なぁに?」

 

〈秋蘭〉「今の件……少々、無茶が過ぎませんか?」

 

〈華琳〉「あら。私に意見するつもり?」

 

〈秋蘭〉「そんなつもりはありませんが……。しかし、あれを三日で仕上げるのは……私や桂花ならともかく、東雲には流石に荷が重いかと。算術だけではどうにもならない案件ですよ」

 

 そう言われて――華琳はますます笑みを深める。

 

〈華琳〉「だからこそよ」

 

〈秋蘭〉「は……?」

 

〈華琳〉「その者の知力の真価は、難問に当たってこそ発揮される。机に向かうだけでは答えを導き出せないこの問題……鎗輔は、どんな回答を見せてくれるのかしら?」

 

 

 

 その日の晩、自室にこもった鎗輔は、知恵を絞った末に計画書の空欄部分を、写しの書面に書き上げた。

 

〈鎗輔〉「これで、一応の形にはなったか……。フーマ、PAL、これをどう思う? 意見を言ってみてくれ」

 

〈フーマ〉『どれどれ……』

 

 小人の状態となったフーマが書面に目を通して、うなり声を上げる。

 

〈フーマ〉『う~ん……』

 

〈鎗輔〉「どうかな……」

 

〈フーマ〉『何て言やいいのか……ひと言で言えば、具体性が全くねぇな。どれもこれも、ふわっとし過ぎてる。とても使いものにならねぇぜ』

 

〈PAL〉[そもそも、改善案としての焦点がはっきりしていません]

 

〈鎗輔〉「やっぱりそうか……」

 

 その答えは想定していたのか、鎗輔はふぅとため息を吐いた。

 

〈鎗輔〉「やっぱり、ここで考えるだけじゃ、具体案なんて出てこないや……。今の陳留の警備体制自体がどうなってるのかをはっきり知らないんだもの」

 

〈フーマ〉『まぁ、現場を知らないことには改善なんか出来っこねぇわな。だったら話は早いじゃんか』

 

〈鎗輔〉「うん。まだ二日猶予があるんだ」

 

 鎗輔たちは自ずと、明日の行動を決定する。

 

〈鎗輔〉「街に出て、警備部隊の現状を見てこよう。現場の人たちの話も聞いてみないと」

 

〈フーマ〉『ああ。きっと答えが見つかるはずだぜ』

 

 

 

 そうして、早くも期限である三日が到来。しかし、

 

〈華琳〉「結局、来なかったわね」

 

〈秋蘭〉「そうですね……。昨日と今日で、大分街を駆けずり回っていたと姉者が言っていましたが」

 

 夜遅くになっても、鎗輔は華琳の下に現れなかった。やや失望した様子の華琳。

 

〈華琳〉「秋蘭の言った通り、いきなり荷を重くしすぎたかしら。もっとも、不始末は不始末。明日は相応の罰を与えることにしましょう」

 

〈秋蘭〉「は」

 

〈華琳〉「……では、寝るとするわ。秋蘭、閨の伴をなさい」

 

〈秋蘭〉「……はい」

 

 秋蘭の頬がかすかに上気して、蝋燭の火を消そうとした、その時、

 

〈鎗輔〉「すみません! 遅くなりましたッ!」

 

 いきなり扉が開け放たれ、いくつもの書類や竹簡を抱えた鎗輔が飛び込んできた。

 

〈華琳〉「……」

 

〈秋蘭〉「……」

 

 流石に固まる二人に、鎗輔がペコペコ頭を下げる。

 

〈鎗輔〉「こんな夜分に申し訳ありません。まだ期限内でいいですよね?」

 

〈フーマ〉『いやー、すっかり遅くなっちまって悪りぃな。思ったよりも熱中しちまってよぉ』

 

〈鎗輔〉「もう、PALが時間を報せてくれなかったら、危うく日を跨ぐところだったよ」

 

〈フーマ〉『何だよー、時間忘れてたのは鎗輔だって同じだろ?』

 

〈華琳〉「……これから寝ようとしていた主の部屋に飛び込んで、ペチャクチャ無駄話をするのが天の国の礼儀なのかしら?」

 

〈鎗輔〉「あ……すみません」

 

 ハッと我に返る鎗輔。

 

〈華琳〉「まぁいいわ、刻限は決めていなかったし。それで、例の計画書の提出でいいのよね? ……どれが?」

 

 鎗輔の抱えている書類の束を華琳は指差す。

 

〈鎗輔〉「これ全部です」

 

〈華琳〉「……どんな仕事をすれば、一枚の書がそれだけの量になって返ってくるのかしら?」

 

〈フーマ〉『まぁまぁ、まずは読んでくれよ。俺たちの自信作だぜ』

 

〈鎗輔〉「これが本書で、他は添付書類です。あッ、机に置いてもいいですか?」

 

〈華琳〉「構わないわ」

 

 ドサドサと書類や竹簡を文机の上に置く鎗輔。そして本書と言った書類の束に、華琳が目を通す。

 

〈華琳〉「……秋蘭、ここはどう思う?」

 

〈秋蘭〉「……恐らくこちらと関連しているかと」

 

〈華琳〉「……ふむ、なるほど。……鎗輔」

 

〈鎗輔〉「はい」

 

〈華琳〉「ここ。一町ごとに詰所を作って、兵を常駐させるとあるけれど……。これはどういう計算なのかしら?」

 

 華琳の疑問に、鎗輔とフーマで答えていく。

 

〈フーマ〉『そこは真っ先に気づいた問題点だな。今は四町か五町に一つの間隔だろ? だから避難誘導とかが行き届かねぇんだよ』

 

〈鎗輔〉「だから詰所の数を増やすことにしました」

 

〈華琳〉「でもそれだと、人手も経費も馬鹿にならないわ」

 

〈鎗輔〉「平時は全体の半分を、本隊の兵士から回して下さい。残りは募集を掛けます」

 

〈華琳〉「義勇兵ということ? それなら……」

 

〈鎗輔〉「いえ、給金は払います。そして兵役や雑役は免除して、待遇を改善します」

 

〈フーマ〉『給料の割に仕事がきつくて、人が集まらねぇのも人手不足の原因だからな。働き方改革って奴だ!』

 

〈鎗輔〉「本隊に所属を希望する人は、働きに応じた推薦状を出す。こんな条件をつければ、人は今より格段に集まるはずです」

 

〈華琳〉「なるほど……兵役を課さない代わりに、本隊の予備部隊としての性格を与える訳ね。で、経費の方はどう考えているのかしら? これだけの規模だと、活動費も今と桁が違ってくるけれど」

 

〈鎗輔〉「その点なら、何人かの商人に出資の約束を取りつけてます」

 

 そう話すと、華琳の眉がピクリと動いた。が、話に熱中している鎗輔たちは気づかない。

 

〈鎗輔〉「華琳さまの統治がどれだけ優れてるか、出資してくれればどれくらい治安を改善し、商売の安全を保障するか説明して、誓約書を書いてもらいました。この帳簿に証文を纏めてます」

 

〈フーマ〉『こいつセールストークめっちゃうめぇの!』

 

〈鎗輔〉「人員の方も、他国から流れてきて仕事が見つかってない人たちに声を掛けて、勧誘をしてます。この名簿に纏めてますから、華琳さまの了承があれば今からでも雇用できますよ」

 

〈PAL〉[雇用対策にもなり、ひいては犯罪率の低下につながります。一石二鳥です]

 

〈フーマ〉『流石にこれ全部を実質二日でやるのは大変だったから、そいつらに俺らの作業を手伝ってもらったりもしたよなー』

 

〈鎗輔〉「今言った内容は、こちらの書類に記載してます」

 

 添付書類の方も広げる鎗輔。秋蘭がそれらに目を通して、質問をする。

 

〈秋蘭〉「……この書は何だ? 設計図か?」

 

〈鎗輔〉「はい。さすまたや投網、催涙作用の煙玉など……暴徒鎮圧用の道具の設計図です」

 

〈フーマ〉『犯罪者は取り押さえるのが目的だろ? それなのに武器がただの棒って、危ねぇからな。こういう、無力化する道具があった方がいい。こういうのを作る職を用意するのも、雇用対策になるだろ?』

 

〈秋蘭〉「こちらは……警備隊内での情報伝達の統一化? 隊員育成の指導要綱?」

 

〈PAL〉[現在の警備隊では、使用している連絡手段や物の単位がまちまちで、隊同士の情報伝達が非効率です。そのため、全体の統一を図り、警備隊の機能向上を促します]

 

〈フーマ〉『新しく入ってくる奴も、早く戦力になってもらいたいからな。護身術や仕事内容のマニュアル、要綱を用意したんだ。これは俺が書いたんだぜ!』

 

〈PAL〉[字が汚い上に間違いだらけなので、先ほどまでで鎗輔が清書しました]

 

〈フーマ〉『おいそこは言わなくていいだろー!?』

 

〈鎗輔〉「これらの内容はひと通り、先んじて警備隊の分隊長方に説明してます。皆さん快く、実用化に賛同してくれました。華琳さま……ぼくたちが作ったこの案、採用して下さいますか?」

 

 自信満々の鎗輔たちだが……華琳が無表情なので、あれ? と停止した。

 

〈華琳〉「……鎗輔」

 

〈鎗輔〉「はい」

 

〈華琳〉「計画自体は認めましょう。たった一枚の書類を、三日でこれほど充実した計画に変えたのは褒めてもいいわ。……でも、商人に出資を約束させて、勝手に手伝いを雇ったですって? おまけに、先に現場に説明までしたですって!? 私が駄目だと言ったら、彼らにどう話すつもりなの!?」

 

〈鎗輔〉「えッ、い、いやー、それは……」

 

〈フーマ〉『こりゃ採用間違いなしだろって、自信あったからさ……』

 

〈華琳〉「あなたたちの自信なんか知ったことではないわよ! それはね、計画の立案じゃなくて、計画実行のための根回しって言うの! 越権行為だわ!」

 

 きつく叱られ、鎗輔もフーマもタジタジ。

 

〈華琳〉「そもそも、雇った手伝いの給金はどうしたの? そんなお金なんて持ってないはずよね?」

 

〈鎗輔〉「そ、それは、どうせ暇だから、食事をおごってくれたらやってくれるって……」

 

〈フーマ〉『人件費を抑えられるなら、それでいいじゃん……?』

 

 言い訳がましい言葉も、火に油を注ぐ結果となる。

 

〈華琳〉「何てこと! あなたたちは……私に人を無償で使う領主などという、最低の汚名を着させるつもり!?」

 

〈鎗輔〉「す、すみません……そんなつもりじゃあ……!」

 

〈華琳〉「あなたがタダでこき使った分の給金は、支払いが遅れた延滞分までちゃんと計算して彼らに支払うこと。いいわね!」

 

〈鎗輔〉「は、はい……」

 

〈華琳〉「それから、この件は全てあなたに任せるわ。根回しまでした以上、責任は最後まで取ってもらいますからね! 良く覚えておきなさい!」

 

〈鎗輔〉「わ、分かりました。明朝、すぐに……」

 

〈華琳〉「今すぐやりなさいっ!!」

 

〈鎗輔〉「す、すみませーん!!」

 

 怒鳴られ、ピューッ! と飛び出していく鎗輔。その背中を見送って、どっと息を吐く華琳。

 

〈華琳〉「全く……」

 

〈秋蘭〉「華琳さま?」

 

〈華琳〉「……くっ、くくくくく……あははははははは!」

 

 そして腹を抱えて大笑いした。

 

〈華琳〉「おかしいったらありゃしない……。本当に、あれは分からない男ね? 秋蘭」

 

〈秋蘭〉「ええ……」

 

〈華琳〉「体力はない、戦は嫌いで、力仕事をさせるとすぐに泣き言を言う。なのに他人の窮地には勇敢で、変なところで熱心。ほんの少し前まで、書類の一枚も読めなかったのに……今は何倍もの量に仕上げて返してくる。この曹孟徳を出し抜くなんて! これがおかしくなくて、何がおかしいって言うの……?」

 

 置いていかれた書類の山を見て、腹がよじれる華琳。先ほどまで鎗輔たちに向けていた顔とは打って変わって、今はひどく上機嫌であった。

 

〈華琳〉「いいわ、秋蘭。今日の私は最高に気分がいいから……眠れなくなるくらい、たっぷりかわいがってあげる。嫌とは、言わせないわよ?」

 

〈秋蘭〉「……はい!」

 

 華琳と秋蘭はもつれ合いながら、今度こそ蝋燭の火を消して、ベッドの上に倒れ込んでいった。

 




 
熔鉄怪獣デマーガ

 陳留の街を襲った怪獣。肉体の79%が熔けた鉄で構成されており、口からは熔鉄熱線、背面から熔鉄弾を発射して周囲を焼き尽くす。弱点は神経と熱源が集中している頭部の角。

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