奥特曼†夢想 ‐光の三雄伝‐   作:焼き鮭

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Uncleanliness

 

 ある日のこと、鎗輔の部屋の扉がトントントントンと叩かれ、珍客の来訪を報せた。

 

〈栄華〉「東雲さん! いらっしゃる!? ……のっくというのは面倒な風習ですわねぇ」

 

〈鎗輔〉「栄華さん? 今開けます」

 

〈フーマ〉『向こうから訪ねてくるなんて珍しいじゃねぇか』

 

 立ち上がって扉の前へと足を向ける鎗輔だが、栄華が続けて呼び掛ける。

 

〈栄華〉「戸は開けなくて結構ですわ。わたくし、ちょっと急いでおりますの」

 

〈鎗輔〉「ああ、はい……用件は何でしょうか?」

 

〈栄華〉「今日はあなた、非番でしたわね? わたくし、ちょっと手が離せない仕事が出来てしまいましたの。わたくしの代わりに、店に物を取りに行って下さらない?」

 

〈鎗輔〉「えッ……ぼく最近、治安維持計画のためにあちこち駆け回ってたから、疲れてるんですが……」

 

 初めは外にも出たがらない鎗輔だったが、

 

〈栄華〉「一応、お礼はしますわ。何なら前払いでも構いませんわよ?」

 

〈鎗輔〉「えッ、本当ですか!?」

 

 現金にも態度を一変する。何せ来月の給金が天引きされることが決まっているので、金に困っている身なのだ。

 

〈栄華〉「引き受けて下さるようですわね。それでは、店の名前と駄賃を置いていきますから。よろしくお願いしますわね」

 

 そう言い残した栄華が足早に立ち去っていく足音がした。

 

〈鎗輔〉「あッ、待って下さい! いつ持っていけばいいんですか……」

 

 扉を開いて聞き直そうとした時には、もういなくなっていた。

 

〈鎗輔〉「うーん、どうしたものか……」

 

〈PAL〉[届けに行った際に不在ならば、部屋の外にでも置いておけば良いのではないでしょうか]

 

〈フーマ〉『この城で曹一門から置き引きしようなんて命知らず、いやしねぇだろ』

 

〈鎗輔〉「それもそうか……じゃあ、早速行こう」

 

 ということで外出の支度を済ますと、栄華の書き置きを頼りにその店へと向かっていった。

 

 

 

 そうして受け取った商品とは、服屋の新作であった。

 

〈フーマ〉『わざわざ鎗輔を遣いに出してまで欲しいなんて……いつの時代でも、どの世界でも、女はお洒落が好きなんだな』

 

〈鎗輔〉「何にせよ、重い物じゃなくて良かったよ」

 

 城に帰ろうと、踵を返したその時、近くの菓子屋から呼び込みの声がする。

 

〈店主〉「寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 新作の饅頭が完成したよー! 今日のは果物を餡にすり込んだ一品だ! 見てってくれー!」

 

 それで鎗輔の足が止まった。

 

〈鎗輔〉「……饅頭か」

 

〈フーマ〉『どうしたんだよ。お前、間食はしねぇだろ』

 

〈鎗輔〉「だけど、今日は確か香風ちゃんも非番のはずだ。体力づけにつき合ってもらったお礼、まだしてないし、お土産にちょうどいいかなって」

 

〈フーマ〉『なるほどな。じゃ、ちょっくら寄ってこうぜ。届ける時間の指定はなかったし、服はとりあえず後でもいいだろ』

 

〈鎗輔〉「うん。服に賞味期限はないしね」

 

 ということで、鎗輔は菓子屋の列に並びに行った。

 

 

 

 そうして購入した饅頭も抱えて、香風の部屋の前で足を止める。

 

〈鎗輔〉「香風ちゃん、いる?」

 

〈香風〉「いるよー?」

 

 また外でひなたぼっこでもしていないかとも思ったが、今日は外出していないようだ。

 

〈鎗輔〉「街で饅頭を買ってきたんだ。前に訓練につき合ってくれたお礼のお土産だよ。食べる?」

 

〈香風〉「饅頭……! うん、食べる。入っていーよー」

 

〈鎗輔〉「えッ、入っていいの?」

 

 一瞬遠慮する鎗輔。いくら香風が小さいとはいえ、異性の部屋にずかずかと入ることはためらわれる。

 

〈香風〉「うん。大丈夫。お皿、用意した方がいい?」

 

〈鎗輔〉「いや、包み紙があるから大丈夫だよ。それじゃあ、お邪魔します……」

 

 いつまでも遠慮しても逆に失礼なので、ひと言断ってから扉を開けて中に入っていく。

 が、すぐに足を何かに引っ掛けた。

 

〈鎗輔〉「あたッ!? 何か当たった……」

 

〈香風〉「あ、ごめん。足下気をつけてって言うの、忘れてた……」

 

〈鎗輔〉「いや、大丈夫大丈夫……足下気をつけて?」

 

 何故、室内で足下を注意しなければいけないのか。

 その答えは、部屋を一望してすぐに判明した。

 

〈鎗輔〉「き……」

 

〈香風〉「き?」

 

〈鎗輔〉「きったねぇぇぇぇぇぇえええええええええッ!?」

 

 香風の部屋の中は、まさしく泥棒でも入ったのかというほどに上から下までぐっちゃぐちゃ。いや、泥棒に入られてもこんなことにはならないだろう。ゴミまで平然と床に散乱しているのだ。

 

〈鎗輔〉「うわッ!? 何かヌルッとしたの踏んだ!」

 

〈香風〉「あ、それシャンのお昼の残り……」

 

〈鎗輔〉「食べ物を床に置いたら駄目だよ!」

 

〈フーマ〉『お、おいおい、何だよこりゃあ……。何があったらこんなことになるんだ?』

 

 流石にフーマも、室内の惨状に絶句。それほどまで、二重の意味でみにくいありさまであった。

 

〈香風〉「この部屋は、いつも通り」

 

〈鎗輔〉「これで!?」

 

〈香風〉「シャンの部屋は、いつもこんな感じ」

 

〈PAL〉[掃除はしないのですか]

 

〈香風〉「したことない。ここに来てから、一回も」

 

〈鎗輔〉「ウッソでしょ!? あれから何日経ったと……」

 

〈フーマ〉『いや、掃除してなくてもここまでのことになるか、普通……?』

 

〈香風〉「……不自由はしてない」

 

〈鎗輔〉「だから、そういうことじゃないよこれは……! こんなところで生活してたら、病気に罹りそうだ……」

 

〈PAL〉[衛生観念が無さすぎます]

 

 あまりのひどさに、鎗輔たちは思わず香風の身を案じてしまっていた。

 

〈香風〉「病気なんて、したことない。それより、饅頭……」

 

〈鎗輔〉「駄目。今のこの部屋じゃ食べさせられない。先に掃除しないと」

 

〈香風〉「必要?」

 

〈鎗輔〉「必要なの」

 

〈PAL〉[病は予防こそが肝心です]

 

〈香風〉「……大丈夫なのに……」

 

 香風のことは最早放置して、早速部屋の片づけに取りかかろうとする。

 

〈鎗輔〉「しかし、また見事な汚部屋だな……。一日で綺麗になるかな?」

 

〈栄華〉「香風さーん!」

 

〈柳琳〉「お邪魔してもよろしいですか~?」

 

 部屋がひどすぎるので手をこまねいていると、扉の外から栄華と柳琳の声がした。

 

〈香風〉「そういえば、約束してた。……どーぞー」

 

 香風が返事をして、二人が扉を開けて鎗輔の顔と対面する。

 

〈栄華〉「あら、東雲さんもいらしてましたの」

 

〈柳琳〉「ご機嫌よう、鎗輔さん。奇遇ですね」

 

〈鎗輔〉「う、うん……。あ、栄華さん、これお使いの品です」

 

 栄華の顔を見て、頼まれていた品のことを思い出す。

 

〈栄華〉「それはそれは……東雲さんもたまにはいい仕事をして下さいますわね」

 

〈柳琳〉「栄華ちゃん、そんな言い方……」

 

〈栄華〉「これでもちゃんと褒めていますわ。……はい、ありがとうございます」

 

 荷物を受け取ってほくほく顔の栄華だが、すぐに部屋を一望して、ため息を吐いた。

 

〈鎗輔〉「でも栄華さん、確か仕事があったんじゃ……」

 

〈栄華〉「これが、今日のわたくしの仕事場です」

 

〈鎗輔〉「……ああ、そういうこと……下の人には見せられないよね、これ……」

 

 二人が驚いていない理由を把握する鎗輔。既に知っていた訳だ。

 

〈香風〉「シャンはいいって言ったのに……」

 

〈栄華〉「いけません!!!」

 

〈柳琳〉「そうですよ、香風。流石に……これはいくら何でも……」

 

〈香風〉「シャンは困ってないのにぃ……」

 

〈柳琳〉「香風、兵の皆さんに徐晃将軍は整理整頓も出来ない……などという噂が広まったら、士気に関わることもあるかもしれないんですよ?」

 

〈香風〉「むぅ……」

 

 そう言われては、さしもの香風も反論できなかった。

 

〈栄華〉「むくれていないで、支度を始めて下さいませ! 今日は大仕事ですわよ!」

 

〈香風〉「むむぅ~……」

 

〈柳琳〉「香風、こうなったら栄華ちゃんは止まりませんよ?」

 

〈香風〉「……分かった」

 

 いざ掃除に取り掛かろう、その寸前に、栄華が鎗輔へ振り返る。

 

〈栄華〉「それでは東雲さん! あなたは出ていって下さいまし!」

 

〈鎗輔〉「えッ!?」

 

〈栄華〉「女性の秘密の花園を覗くなんて許されません! 男子禁制ですわよ!」

 

〈フーマ〉『そう言うなよ。俺たちだって手伝うぜ?』

 

〈栄華〉「いりません! そもそも香風さん、あなたも良いお年頃なのですから、気軽に男性を自分の部屋に……」

 

 説教しようとする栄華を柳琳が制止し、こう諭す。

 

〈柳琳〉「ま、待って栄華ちゃん。……鎗輔さんたちの手を借りた方がいいんじゃないかな?」

 

〈栄華〉「な、何を言いますの……男の汚らわしい手を女子の部屋に触れさせるなんて……」

 

〈柳琳〉「私も栄華ちゃんも、あんまり力がある方じゃないし……」

 

〈栄華〉「それを言うのでしたら、東雲さんだって……」

 

〈柳琳〉「それでも男の人なんだから、私たちよりはあるはずよ?」

 

〈香風〉「お兄ちゃん、栄華さまたち、手伝ってほしいみたい」

 

 香風が代弁すると、鎗輔は気前良くうなずいた。

 

〈鎗輔〉「いくらでも。みんなでやれば、早く終わるよ」

 

〈フーマ〉『腕が鳴るな』

 

〈栄華〉「……でしたら、お願い致します」

 

〈柳琳〉「それでは、取り掛かりましょうか」

 

 話が纏まり、一同によるひと部屋の大掃除が開始された。

 

 

 

 テキパキと働き出す鎗輔たちだが、香風の部屋の散らかし具合は常軌を逸しているので、なかなか苦戦していた。

 

〈栄華〉「まぁまぁまぁ、書簡を開けっぱなしにして……」

 

〈香風〉「いちいちしまうの、めんどくさい」

 

〈柳琳〉「言わんとするところは分からなくもないですけど……ひゃんっ!?」

 

〈鎗輔〉「柳琳ちゃん、どうしたの!?」

 

〈柳琳〉「な、何か湿ったものが……こ、これ……水筒?」

 

〈香風〉「それは予備……だったような……あ、違う、底が割れちゃった奴……」

 

〈柳琳〉「確かに……ぱっくり割れていますね……」

 

〈鎗輔〉「水が漏れてるのをそのままにしちゃ駄目だよ……床板が腐るよ?」

 

〈栄華〉「はい、壊れているものは処分! 処分ですわ!」

 

 栄華がさっさと割れている水筒を取り上げ、ゴミ袋に放り込んだ。

 

〈フーマ〉『何か母親みてぇだな』

 

〈栄華〉「何ですの!?」

 

〈フーマ〉『何でもねぇ』

 

〈栄華〉「もう……お菓子の包みもこんなにほったらかして……」

 

 ゴミの量、種類が多すぎて、片づけても片づけても終わりが見えてこない。ため息を吐くフーマ。

 

〈フーマ〉『何か、ゴキネズラどころかユメノカタマリが出てきそうだな』

 

〈鎗輔〉「またウルトラ例え話して」

 

〈柳琳〉「夢の塊……音の響きは幻想的ですが」

 

〈鎗輔〉「でも文脈からして……夢の島とか、兵どもが夢の跡的な意味でしょ」

 

〈フーマ〉『よく分かったな。そう、集まったゴミが怪獣になった奴だ』

 

〈栄華〉「そんなもの、悪夢以外の何物でもありませんわね……きゃあああああああっ!?」

 

 突然、栄華が悲鳴を上げる。

 

〈鎗輔〉「どうしたんですか!?」

 

〈栄華〉「い、今足がべちょって……!」

 

 足の裏を見ると、潰れた米粒がこびりついていた。

 

〈鎗輔〉「栄華さんもやっちゃったか……」

 

〈栄華〉「香風さんっ!!」

 

〈香風〉「本当にお掃除に来るなんて思わなかったし……」

 

〈栄華〉「そういうことを言っているのではありませんの! ご飯は机の上で食べる! 当たり前のことです!」

 

〈香風〉「部屋の中は全部机みたいなものだし……」

 

〈鎗輔〉「そんな考えだから、こんなありさまになっちゃうんでしょ……」

 

〈PAL〉[だらしなさすぎます]

 

〈香風〉「机も床もあんまり変わらない……」

 

 この態度には、女の子に甘い栄華も流石におかんむりであった。

 

〈栄華〉「い・い・え! 香風さん! いいですか、あっちは机! これは床、ですわ! いいですわね!?」

 

〈香風〉「うん……床……」

 

〈栄華〉「床では、飲食禁止! 約束ですわよ!?」

 

〈香風〉「……分かった」

 

〈鎗輔〉「香風ちゃん。ちゃんと掃除できたら、饅頭食べていいから。だから頑張って」

 

〈香風〉「うん……ありがとう、お兄ちゃん」

 

〈柳琳〉「おまんじゅうですか?」

 

〈鎗輔〉「お土産に買ってきたんですよ。栄華さんからもらったお駄賃で」

 

〈栄華〉「あら、なかなか気が利きますわね。せっかくですし、みんなでいただきましょう。机の上で」

 

 

 

 混沌の坩堝だった部屋も、奮闘の結果、目につくところは大体片づいてきた。

 

〈フーマ〉『よっと』

 

 小人状態のフーマが、ベッドの端を両腕で掴んで、宙に浮かぶ勢いで立たせた。

 

〈柳琳〉「すごいですね……そんなに小さいお身体で、家具を軽々と持ち上げるなんて……」

 

〈フーマ〉『この程度なら、今の状態でも容易いもんだぜ』

 

〈鎗輔〉「そんなに力あったのなら、今までの物運びとか手伝ってくれれば良かったのに……」

 

〈フーマ〉『甘ったれんな。物運ぶぐらい一人でやってみせろ』

 

 恨み言を吐く鎗輔は置いて、フーマが持ち上げている間に家具の下を掃除する。が、やはりと言うべきか、家具の下も普通ではない状態であった。

 

〈栄華〉「ちょっと香風さん!?」

 

〈香風〉「今度はどうしたの?」

 

〈栄華〉「服が書の下から発掘されましたわよ! これはいつ着たものですのっ!?」

 

〈香風〉「あ、洗濯に出すの忘れてた。うーんと……いつだったかな……忘れた……」

 

〈栄華〉「忘れないで下さいませ!!」

 

〈PAL〉[ちゃんと洗って畳まないと、皺になりますよ]

 

〈鎗輔〉「古代中国に来たとは思えない台詞だぁ……」

 

〈栄華〉「全く、綺麗な生地が台無しですわ……。あぁ! これなんかとっても色合いが素敵なのに」

 

 衣類は栄華が籠に纏めているが、すぐにいっぱいになりそうだ。とても一人分の洗濯の量とは思えなかった。

 

〈柳琳〉「栄華ちゃん。服はその中でいいの?」

 

〈栄華〉「ええ。多少綺麗に見えても埃を被っているでしょうし、総洗濯ですわ。東雲さん! 服は丁寧に扱って下さいね!」

 

〈鎗輔〉「分かってますって」

 

 鎗輔もあちこちの物の山の下敷きになっている衣服を探し出す……いや、掘り出すのを手伝っている。

 

〈鎗輔〉「いやぁしかし、普段の服装の割には、普通の服もあるんだなぁ。……ん? これはやけに小さいな……」

 

〈柳琳〉「あ……」

 

〈フーマ〉『おい鎗輔……それって』

 

〈栄華〉「し・の・の・め・さ・ん!?」

 

 鎗輔が引っ張り出した物を見て、栄華がすごい顔ですっ飛んできて取り上げた。

 

〈栄華〉「女性の!! 下着に!! 許可無く!! 触れるとは!! どういう!! ことですの!? 許可があっても許される行いではありませんけど!!」

 

〈鎗輔〉「わ、わざとじゃないですよ! こんなにごちゃ混ぜなんですから……!」

 

〈香風〉「栄華さま、下着くらい平気だよ?」

 

〈栄華〉「平気では困るのです!」

 

〈柳琳〉「それは……ちょっと……流石に」

 

〈フーマ〉『もうちょっと恥じらいはあるべきだな』

 

〈PAL〉[着用していない下着は、普通の衣類と変わらないのではないでしょうか]

 

〈栄華〉「ちょっと! 話を混ぜっ返すようなことを言わないでもらえませんこと!?」

 

〈鎗輔〉「……まだ情操教育が不十分だな……」

 

〈栄華〉「そもそも、どうして下着まで転がっているんですかっ!?」

 

〈香風〉「多分、一昨日の演習の後に履き替えた奴ー。昨日は布団の中で着替えたから、多分まだ中にある」

 

〈フーマ〉『……カビてねぇよな。冗談じゃなくあり得そうだ』

 

〈鎗輔〉「ちなみに、最後に布団を干したのはいつ……?」

 

〈香風〉「??」

 

〈栄華〉「……柳琳、わたくしこれから毎晩部屋の様子を見に来ようと思うんですけど。いえその、ただもう心配で」

 

〈柳琳〉「私も、お仕事の前には迎えに来るようにしようかしら……」

 

 栄華と柳琳はすっかり頭を抱えていた。

 

 

 

 どんなに山のように見えるものでも、続けていけば終わりが来るもので。

 ゴミ置き場もかくやという状態だった香風の部屋は、遂に一端の部屋と変わらない程度にまで片づいた。

 

〈栄華〉「ふ~……」

 

〈柳琳〉「はぁ……くたびれました……」

 

〈鎗輔〉「やっと終わったかぁ……すっかり日が傾いちゃったよ……」

 

〈フーマ〉『とんだ大仕事だったな。けどお陰で見違えたもんだ』

 

〈香風〉「確かに……綺麗」

 

 完全に隠れ切っていた床はちゃんと露出し、圧迫感は綺麗さっぱりなくなった。

 

〈鎗輔〉「すっきりしたでしょ」

 

〈香風〉「ん~……まぁ、確かに」

 

〈栄華〉「気分もすっきりしたのではありませんこと?」

 

〈香風〉「それは……よく分かんないけど」

 

〈柳琳〉「ま、まぁ後はともかく、後はこのゴミを出して、お洗濯をして……ひとまずはお掃除終了ですね」

 

〈香風〉「……ありがとう、るー様、栄華さま、お兄ちゃん、フーマお兄ちゃん」

 

〈栄華〉「お礼には及びませんわ。わたくしたちはお友達なのですから」

 

〈柳琳〉「ええ。これからも時々様子を見に来ますからね?」

 

〈香風〉「そんなに心配しなくても……」

 

〈フーマ〉『人間ってそうそう変わるもんじゃねぇからな』

 

〈鎗輔〉「まぁ、部屋が清潔になったところで、そろそろお饅頭を食べようか」

 

〈香風〉「……食べる!」

 

 ずっとお預けをされていた香風が、見えない尻尾を振りそうな勢いで食いついてきた。

 

〈栄華〉「机の上でなら、結構ですわよ」

 

〈柳琳〉「では、私は洗濯物を出すついでにお茶を淹れてきますね」

 

〈鎗輔〉「ありがとう、柳琳ちゃん」

 

 柳琳が茶を用意して戻ってきてから、皆で机を囲んで饅頭を食する。

 

〈栄華〉「これは桃を餡にすり込んでいるのかしら……美味しいですわね」

 

〈香風〉「うん、美味しい……お兄ちゃん、どこで買ったの?」

 

〈鎗輔〉「服屋の近くの屋台だよ」

 

〈柳琳〉「あ、そこのお店だったら知っています。これならお姉様も気に入りそう……」

 

〈フーマ〉『あーくそ、こういう時食えねぇのは悔しいな』

 

 談笑しながら饅頭に舌鼓を打つ一同。

 

〈香風〉「桃がすごく美味しい……何個でも食べられちゃう……幸せ……」

 

〈鎗輔〉「香風ちゃんも、今日はよく頑張ったね」

 

〈香風〉「えへへ……」

 

〈フーマ〉『鎗輔、お前今日はよく食うな』

 

〈鎗輔〉「この労働の後なら、流石にお腹減って……!?」

 

 一件落着で、もう安心と気が緩んでいたが――鎗輔はあるものを目撃して、固まってしまった。

 香風が、饅頭の包み紙を、ごく自然な動作で――床に放り捨てるところを。

 

〈鎗輔〉「……見た?」

 

〈フーマ〉『見た……』

 

 角度的に、栄華と柳琳の視界には入っていないが、鎗輔とフーマは確かに見た。あまりにも自然な動きなので、無意識なのだろうが……逆に言えば、無意識レベルで物を散らかすことを意味している。

 

〈フーマ〉『……今の状態が、あと何日保つだろうな……』

 

〈鎗輔〉「……」

 

 掃除は終わったはずなのに、二人は更に疲れた気分になったのであった。

 

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