奥特曼†夢想 ‐光の三雄伝‐   作:焼き鮭

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A Little Break

 

 陳留の隣にある国、済陰。隣と言っても、荒野を挟んでいるので、馬でも一日二日で移動できるような距離ではないが。

 この国の市街の道端で、三姉妹の旅芸人が歌を披露していた。

 

「~♪」

 

 長女が奏でる伴奏に合わせて、次女三女が歌う。しかし残念ながら、済陰の民の心を掴んでいるとは言い難く、ほとんどは一瞥しただけで通り過ぎていく。

 しかしただ一人だけ、立ち止まったまま彼女たちの歌を清聴している男がいた。

 

〈???〉「ありがとうございましたー! 本日の曲は、以上となります!」

 

 三人の歌が終わりを迎えると、漢の国においては見慣れない出で立ちの男はパチパチと拍手を鳴らした。

 

「お疲れさん。いい歌を聴かせてもらったよ」

 

〈???〉「えへへ、ありがとうございます~」

 

〈???〉「お兄さん、随分長くちぃたちの歌を聴いてましたね~。好きなんですか? 音楽」

 

 次女の問いかけに、男は帽子――テンガロンハットを被り直しながらうなずく。

 

「まぁな。ちょっと生業で、音楽にはそれなりに造詣がある。君たちの歌、俺からしてもなかなかのもんだった。――まぁ、まだまだ発展途上でもあるけどな」

 

〈???〉「あっ、ひど~い」

 

〈???〉「天和姉さん、せっかくのお客さんに失礼よ」

 

 ぷくーと頬を膨らませる長女を、三女が諌める。

 

「だが、俺が一番気に入ったのは――君たちの、歌を愛する心だ」

 

〈???〉「えっ……心?」

 

「歌そのものを愛し、聴衆にその愛を届けようという心……その気持ちが、歌声にこもっていた。その純粋な想いが歌にとって、何より大切なことだ」

 

 男の語ることに、呆けたほうに耳を傾ける三姉妹。

 

「これからもっと有名になって、たくさんの人に聴いてもらおうとするなら……その気持ちを、その愛を、忘れないでいてくれ。……あばよ」

 

 おひねりを投げ渡し、外套――革ジャンの襟元を正した男は、小さな吹奏楽器――ハーモニカを奏でながら、夕焼けの中を悠然と立ち去っていった。

 

〈???〉「……何だか、不思議な人だったわね。服装も見慣れないものだったし……」

 

〈???〉「でもでも、あんなに熱心に聴いてくれたお客さんは初めてよね! すっごく嬉しい!」

 

〈???〉「うんうん。顔もなかなかカッコ良かったし♪ 名前くらい聞いておけば良かったかな~」

 

〈???〉「まぁ、お陰で路銀は思ったより早く溜まったわ。次の目的地は、いよいよ陳留よ」

 

 陳留という名前に、長女と次女は目を輝かす。

 

〈???〉「陳留~! 今、この辺りで一番賑わってる街なんだよね~! お姉ちゃん、美味しいものいーっぱい食べたい♪」

 

〈???〉「もう、天和姉さんったら。まずは名を上げることが先決でしょ?」

 

〈???〉「そう! 陳留で有名になれば、大陸への足掛かりが得られるわ! 頑張って、私たちの歌を大陸中に響かせるわよ~!」

 

 次女が意気込みを唱えて、西の空に燃える夕陽に叫んだ。

 

〈???〉「私たち、張三姉妹の歌をっ!!」

 

 

 

 陳留の城の謁見の間にて、春蘭が鎗輔に告げた。

 

〈春蘭〉「東雲。この鐙とかいう馬具なのだが……わたしが突撃しようとした際に、足に力を込めたら、途端に千切れてしまったぞ。これでは使い物にならん」

 

〈鎗輔〉「……うん。やるんじゃないかって、薄々思ってました」

 

 返却された、見事に千切れた革製の鐙に目を落として、鎗輔が呆れたようにつぶやいた。ちょっとやそっとの力で踏ん張ったくらいで破れるはずはなかったのだが……。

 

〈華琳〉「けれど、春蘭の力に耐えられるならば、正式な軍備としての採用に異論はなくなるわ」

 

〈鎗輔〉「ですが、これ以上の強度を実現した上で、全騎馬に行き渡らせようとするなら、個人単位の制作じゃとても追いつきませんよ。職人の手を借りないと……」

 

〈華琳〉「それはもっともだけれど、職人を雇うとなると、当然問題になるのは予算よ……」

 

〈栄華〉「お姉様、ご勘弁願いますわ。ただでさえカツカツの状態ですのに……」

 

〈華琳〉「……だそうよ。鐙の件は、当分は保留ね」

 

〈鎗輔〉「せめて、物作りが得意な人でもこの城にいればいいんですけどね……」

 

〈春蘭〉「……しかし、少し意外だな。お前が軍の装備の試験に協力するとは。戦は嫌いなのだろう?」

 

〈鎗輔〉「そうですが……どうしても起こってしまうのなら、せめて早期に終息させられる方向で物を考えるべきです」

 

〈華琳〉「鎗輔も、先の実戦を通して現実を理解してきたみたいね。さて……新装備の試験運用の話はここまでにしましょう。春蘭、山陽の平定は上手くいったみたいね」

 

〈春蘭〉「はっ。ひとまず暴れていた賊は下しましたので、しばらくはあの辺りも平和になるかと」

 

 春蘭が背筋を正して、玉座の華琳に向き直って報告した。

 春蘭と香風の隊は、陳留からいくつかの郡を隔てた先にある山陽郡へ盗賊討伐の遠征に出掛けていた。その結果の報告をしているところであった。

 

〈香風〉「それで、山陽の太守が……これからも、守ってって」

 

〈栄華〉「……またですの?」

 

〈春蘭〉「うむ。またなのだ」

 

 複雑そうに首肯する春蘭。

 豫州の盗賊討伐が終わってから、陳留には苑州中の郡から、救援要請が舞い込むようになった。今では、陳留軍の行動範囲は州全域にまで広がりつつある。

 

〈フーマ〉『確か、違う郡で兵隊を動かすだけでも問題になるんじゃなかったのか?』

 

〈香風〉「本当は、大問題。でも……太守が何も言わなければ、問題にならない」

 

〈桂花〉「我が軍には行軍中の略奪を禁じているし、通る郡も前に賊退治をした郡だもの。守ってもらってる上に大人しく通るだけなら、太守だって何も言わないわよ」

 

〈春蘭〉「うむ。今は秋蘭と柳琳が山陽の先の泰山まで足を伸ばしているが……恐らく同じことになるだろうな」

 

〈桂花〉「泰山は、多分もっと面倒が増えるわよ」

 

〈華侖〉「もっと面倒って、何すか?」

 

〈桂花〉「あそこは役人の不正が他のところ以上に横行しているのよ。だから、秋蘭にその証拠の資料をいくつかね……」

 

〈フーマ〉『不正まで取り締まる気か? いいことだろうけど、そりゃ干渉し過ぎなんじゃ……』

 

〈華琳〉「綱紀粛正を言い渡すだけよ。それを聞く気がないなら、大人しく軍を退くだけだわ」

 

〈フーマ〉『それって恨まれたりするんじゃねぇの?』

 

〈華琳〉「するでしょうね」

 

〈桂花〉「でも、既に苑州の守りは華琳さま頼みだもの。不正を行わないだけで領地を守ってもらえるのなら、安いものでしょう?」

 

〈栄華〉「何より、苑州各地でのお姉様の人気は相当なものですもの。今更わたくしたちを追い返したところで、民の不満が高まるだけですわ」

 

〈フーマ〉『そのために救援要請に快く答え続けてたって訳か……』

 

〈栄華〉「当たり前ですわ。世の中に、タダより高いものはありませんのよ」

 

〈フーマ〉『辣腕だな……。けど、桂花も栄華も大変だろ。仕事ばっかり増えて』

 

〈桂花〉「それこそ望むところよ。華琳さまの覇道が着々と進んでいるということだもの。軍師冥利に尽きるというものね」

 

 一連の話に耳を傾けていた鎗輔が、ここで口を開く。

 

〈鎗輔〉「民衆の暮らしが良くなるならいいんですけど……これだけのことをして、苑州の刺史は何も言ってこないんですか? もう一太守の権限をはるかに超越してますよね?」

 

 華琳はあくまで、地位の上では一つの地域の長でしかない。苑州自体の刺史は別にいる。ここまで語られた仕事ぶりは、その刺史の立場を奪いかねない域にまで達しているのだが……。

 

〈華琳〉「何も」

 

〈鎗輔〉「本当ですか……」

 

〈華琳〉「ああ、前に感謝状が一枚届いた気がするわね。……もう倉に片づけてしまったけれど」

 

〈フーマ〉『扱い雑だな!』

 

〈華琳〉「私の振る舞い程度で奮起するような刺史なら、苑州はもっと前からマシになっているわよ。きっと」

 

 報告に区切りがついたところで、華琳がたたずまいを直す。

 

〈華琳〉「後の報告は香風に任せるわ。いつものように報告書に纏めておいてちょうだい」

 

〈香風〉「はーい」

 

〈栄華〉「お姉様。午後からは……」

 

〈華琳〉「ええ。陳登のところに視察に行ってくるわ。鎗輔、季衣、午後の予定は空けてあるわね?」

 

〈季衣〉「大丈夫です!」

 

〈鎗輔〉「はい。新兵の訓練場の視察と市街地の拡張工事の確認と街の警備は完了しています」

 

〈フーマ〉『ついでに昼メシもな』

 

〈華琳〉「結構。そちらの報告は、移動しながら聞くわ」

 

 うなずいた華琳が、玉座から立ち上がった。

 

 

 

 その後、馬で城を出て、田園地帯までの移動中に、鎗輔からの報告を受ける。

 

〈華琳〉「……そう。城下も大きな問題はなさそうね」

 

〈鎗輔〉「ええ、現状は」

 

〈フーマ〉『怪獣が出てくるような気配もなしだ』

 

〈華琳〉「小さな問題でも、あるのなら今の内に言いなさい。……この大陸の荒れ具合は、もう分かっているでしょう?」

 

〈鎗輔〉「はい……」

 

〈フーマ〉『しかし、鎗輔もすっかり色んな仕事、任されるようになったよなー。元々能力はあったけどさ』

 

 他の郡への遠征が増えれば、当然人手が足りなくなってくる。その穴埋めに抜擢されたのが鎗輔であった。街の警備体制の管理や、兵士の育成計画、都市計画など……遠征に出ている者の通常の事務仕事に関しては、ほぼ全部彼が代行する状態となっていた。

 

〈季衣〉「春蘭さまも、兄ちゃんが仕事を引き受けてくれて助かったーってよく言ってるよ」

 

〈鎗輔〉「えッ。そんなの、本人の口から聞いたことないんだけど」

 

〈華琳〉「ああ。そういえば、栄華も褒めていたわよ。春蘭の何て書いてあるか分からない陳情書を読む回数が随分減ったって」

 

〈フーマ〉『それ、春蘭が貶されてるだけじゃね?』

 

〈華琳〉「そうとも言うわね」

 

 そんな風に話をしながら畦道を進んでいると、その先に農民たちと相談し合っている少女の姿が見えてきた。

 少女はこちらの存在に気がつくと、顔を上げて振り返った。

 

〈陳登〉「曹操さま、いらっしゃい」

 

〈華琳〉「ええ。陳登、調子はどう?」

 

〈陳登〉「陳留にはまだ来たばかりだから、何とも言い難いところだよ」

 

 少女の名は陳登。あの陳珪が連れていた付き人その人であり――陳珪の実子であった。母娘だと知った時は、鎗輔はかなり驚いたものだが……。

 陳登は若くして、優れた農業家であった。その評判を聞いていた華琳は、先の謁見の際に陳留郡の農村の指南を要請。陳登はそれに応じ、少し前よりこの地で仕事に取り掛かっているのであった。

 

〈フーマ〉『よう陳登、元気そうだな。慣れねぇ土地だろうからちょっと心配してたんだけどな』

 

〈陳登〉「見ての通りだよ、天の御遣い様」

 

〈フーマ〉『よせよ、そんなこそばゆい呼び方。フーマでいいって』

 

 陳登に気さくに話しかけたフーマ。陳登を借りるに当たって、鎗輔たちの事情は彼女にも打ち明けた。どうせ、陳留に滞在するからにはいずれ知られることだ。

 

〈陳登〉「ひとまず土地の質を確かめるための試験所の準備を始めてるよ。水路はすぐに効果が出るから、そっちはもう取り掛かってるけど……形になるのはこれからだね」

 

〈華琳〉「そう。順調なようで何よりだわ」

 

〈陳登〉「……それでいいの? 多分、今年は期待してるほど収穫量は上がらないよ?」

 

〈華琳〉「田畑の開発が一年や二年で成果が出るとは思っていないわよ。沛国では何年掛かったの?」

 

〈陳登〉「土は沛よりも元気そうだから、向こうほどは掛からないと思うけどね。ただ……もう少し人が欲しいな。村人も欲しいけど、水路だけでも早く出来れば大分変わってくるから」

 

〈華琳〉「そこは都合するわ。……土木の作業なら、新兵や工兵の訓練にも使えそうね。鎗輔」

 

 呼ばれた鎗輔がうなずき返す。

 

〈鎗輔〉「分かりました。帰ってから、工兵の皆さんの予定を調整します」

 

〈華琳〉「ええ。任せるわ」

 

〈鎗輔〉「ですが生憎、人手不足で、監督役を出来る人がいませんので……その役は、陳登ちゃんにお願いしてもいいかな?」

 

〈陳登〉「うん。ボクが指揮する方が早いから、ちゃんと言うことを聞いてくれる人を回してくれれば十分だよ」

 

〈季衣〉「あ、兄ちゃん! 水路ならボク、近くの村でたくさん掘ってたよ!」

 

 申し出た季衣に、華琳が苦笑。

 

〈華琳〉「あら。季衣は私の護衛をしてほしいのだけれど?」

 

〈季衣〉「あ……。じ、じゃあ、今からちょっとお手伝いするだけでもダメですか?」

 

〈陳登〉「何? 陳留では将軍が水路を掘るの?」

 

〈鎗輔〉「許緒ちゃんは元農民なんだ。武術に優れてるから、曹操さまが最近召し抱えて」

 

〈陳登〉「ふぅん……。こうやってボクを招くくらいだから、変わった人たちだとは思ってたけど……本当に変わってるね」

 

〈華琳〉「能力があるのなら、出など些細な問題でしょう。家柄などにこだわるほど懐は狭くないつもりよ」

 

〈鎗輔〉「でも季衣ちゃん、掘りたいの? わざわざ……」

 

〈季衣〉「掘りたいっていうか……田んぼも畑も、水が一番大事なんだよ。だから、水路があるのとないのじゃ、全然違うんだ」

 

 季衣の心意気を買った華琳が許可を出す。

 

〈華琳〉「ふふっ。なら、私たちが話をしているだけなら構わないわよ。陳登、場所の指示をしてあげて」

 

〈陳登〉「分かったよ。だったら、まずはここから……」

 

 陳登からの指示を受けた季衣が、大型の鋤を借りて、スタートラインに立った。

 

〈季衣〉「いっくぞー! でりゃああああああああああああああああ!」

 

 そして人間とは思えないほどの速度で、田園地に溝を刻み込んでいく。華琳たちがポカンとしている間に、もう端にまで到達した。

 

〈華琳〉「……これは、流石に驚いたわね」

 

〈鎗輔〉「はい……。下手したら、工兵を派遣する必要ないですよこれは」

 

〈PAL〉[不条理なほどの馬力です]

 

〈陳登〉「……どうしてこんな優秀な人材がいて、あの子の村は重税に喘いでたの? 相場の倍の税率でも、普通にやるだけで十分余裕のある生活が出来るはずだよ?」

 

〈華琳〉「水路を掘れる工夫がいても、それを活用する指導者がいなかったということでしょう」

 

〈陳登〉「生かすも殺すもボク次第ってことか……。責任重大だね」

 

 自らの役目の重さを再確認して重々しくうなずいた陳登が、華琳に振り向く。

 

〈陳登〉「あ、そうだ。それと……今日明日の話じゃないんだけど」

 

〈華琳〉「……そうね」

 

〈鎗輔〉「? まだ何か問題があるんですか?」

 

 首をひねった鎗輔に、陳登が半ば呆れた目を向けた。

 

〈陳登〉「この人……言葉を話す道具を作れるのに、何だか使えるんだか使えないんだか分かんないね」

 

〈華琳〉「人の悪意に鈍いのよ。まだ育てている最中だから、大目に見てあげてちょうだい」

 

〈鎗輔〉「えッ、悪意って……」

 

〈華琳〉「田畑の収穫が上がれば、次に警戒すべきは何?」

 

 『悪意』という言葉と、『警戒』という単語で、鎗輔も思い至った。

 

〈鎗輔〉「ああ、そうか……野菜泥棒か」

 

 元の世界でも、動物、人間に関わらない野菜泥棒は日本でも農家を困らせていると聞いたことがある。ここならば、暴力に訴え出られるのも珍しくはあるまい。

 

〈華琳〉「ええ。甘い蜜のある花には、蝶だけではない。毒虫も寄ってくるものよ」

 

〈陳登〉「ちゃんと仕事をしてるみんなからただ奪い取るだけの、最低の連中だよ。自分じゃ何も作らないくせに」

 

〈華琳〉「上前をハネるだけの私たちの次に性質が悪い?」

 

〈陳登〉「ハネた上前でちゃんと水路を作ってくれるなら、そういう人たちには文句は言わないよ」

 

 あえて意地の悪いことを聞く華琳を、陳登はサラリとかわした。鎗輔は今の陳登の言葉から、顔をしかめる。

 

〈鎗輔〉「……やっぱり、ハネるだけの人は多いんだ」

 

〈フーマ〉『嫌な話だ……』

 

〈陳登〉「うん……そんなクズみたいな役人が、この大陸には掃いて捨てたいほどいる。ちゃんと仕事してくれるのなんて、せいぜい曹操さまと……」

 

〈華琳〉「……陳珪?」

 

〈陳登〉「母さんは……ちょっと違うと思う」

 

 陳登はどこか寂しげに、つぶやいた。

 

〈陳登〉「仕事と考えてるのは同じだろうけど……本当に仕事としか見てないんじゃないかな。ボクは沛でも同じことをしてたけど……その間、母さんは一度も視察に来たりしなかったし……」

 

 陳登の口振りには、様々な感情が織り交ぜになっていた。それを感じ取って、鎗輔も思わず同情の念を抱く。

 

〈陳登〉「曹操さまは、これから母さんとどうしていくつもりですか? 天の御遣いなどについて何を考えてるのか、ボクにも分からない人ですが……」

 

〈華琳〉「……どうもしないわ」

 

 華琳ははっきりと、短く答えた。

 

〈陳登〉「どうもしない……」

 

〈華琳〉「私の利となる内は、それなりの対応をさせてもらうわ。……それがいつまで続くかは分からないけれど。もちろんあなたとは、陳珪とは関係なく今の関係を続けさせてもらいたいけれどね」

 

〈鎗輔〉「華琳さま。娘さんの前で、それは……」

 

〈陳登〉「……いいよ。母さんが胡散臭いのは、今に始まったことじゃないし。それにボクだって、母さんのああいうところは……」

 

 言葉の続きを、鎗輔がさえぎった。

 

〈鎗輔〉「陳登ちゃん……お母さんのこと、悪く言っちゃいけないよ。あの人もきっと、何かを大事に思ってるからこそ、あんな立ち回りをするんだろう」

 

〈フーマ〉『ああ……親は大事にするもんだ……』

 

〈陳登〉「……うん」

 

〈華琳〉「いずれにしても、そろそろ何かしらの動きはある頃でしょうね。鎗輔も覚悟を決めておきなさい。きっと、一番に狙われるわよ」

 

〈鎗輔〉「はい……」

 

 陳登は告げていないはずだが……それ抜きでも、自分が天の御遣いであることは、感づかれているとは鎗輔も思っていた。あの思わせぶりな笑みから……。

 

〈華琳〉「……さて。賊の対策の話が、随分と逸れてしまったわね。……鎗輔」

 

〈鎗輔〉「はい。新兵を警護に当てるなど、何かしらの対策を講じておきます」

 

〈華琳〉「陳登も、工夫の件と盗賊からの護衛の件は私も考えておくわ。一日二日では何ともならないけれど、必ず何とかする」

 

〈陳登〉「うん。急かしはしないけれど、手遅れになる前にお願い」

 

〈鎗輔〉「ところで、季衣ちゃんはどこまで掘ったのかな……」

 

 鎗輔が気にしたところで、当の季衣が呼び掛けてきた。

 

〈季衣〉「水路堀り、終わったよー。次はどこを掘ったらいい?」

 

〈鎗輔〉「……本当に終わってた!」

 

〈陳登〉「ほんとだ……後は周りを固めればいいだけになってる。ありがとう」

 

〈季衣〉「気にしないでいいよ。ボクも役に立てて良かった!」

 

〈華琳〉「けれど、季衣はそういつもは貸せないわよ。工夫の件は急ぐことにするわ。……それと、陳登」

 

 華琳は改まって、陳登に告げる。

 

〈華琳〉「その二つは、いずれ並び立つものよ。考えることをあきらめなければね」

 

〈陳登〉「……うん」

 

〈季衣〉「……ほえ?」

 

 ずっと水路堀りをしていて、話が呑み込めていない季衣が呆ける一方で、鎗輔は神妙な顔をしていた。

 

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