城で仕事を終えたところの秋蘭の元へ、一人の兵士が大慌てで駆け込んできた。
〈兵士〉「か、夏侯淵様ーッ! 一大事にございますッ!」
〈秋蘭〉「何事だ、騒々しい」
兵士は息を切らしながらも、背筋を伸ばして報告する。
〈兵士〉「獄に捕らえていた虫男が、影も形もなくなっていますッ! 脱獄ですッ!!」
〈秋蘭〉「何だと!?」
その報告に秋蘭も動揺。すぐに鎗輔の身を案ずる。
〈秋蘭〉「東雲は今どこだ!」
〈兵士〉「曹仁様と、街へ行ったのを侍女が見たと……!」
秋蘭の判断は早かった。
〈秋蘭〉「すぐに動ける兵を門前に招集するのだ! 数名は先に街へ出して、東雲や巡回に出ている姉者や季衣、及び脱走した虫男の捜索をさせよ!」
〈兵士〉「はッ!」
命令を受けた兵士が直ちに踵を返し、秋蘭もまたこの事態を華琳へと報告しに駆けていった。
〈鎗輔〉「くぅッ……!」
触手に捕まり、怪しい空間の中をどこかへ引きずり込まれていく鎗輔だが、指を右手に伸ばして、タイガスパークに触れる。
[タイガスパーク、スタンバイ]
〈鎗輔〉「フーマ!」
フーマキーホルダーを握り締めて、全身を発光させる。
[ウルトラマンフーマ、変身完了]
「セイヤッ!」
変身の勢いで身体に巻きついた触手を振り払い、退散させる。しかしフーマは引き返さずに、そのまま逃げる触手を追いかけていった。本体を叩くためだ。
そして怪しい空間を抜けた先は――暗い空に覆われた、不気味な海の上に奇怪な孤島が浮かんでいるだけという、息が詰まりそうな異形の世界であった。
〈鎗輔〉『「ここは……!?」』
目を見張る鎗輔に、暗黒の空を旋回するフーマが告げる。
〈フーマ〉『普通の世界じゃねぇな……恐らく俺たち、異次元空間に連れ込まれちまったみてぇだ』
〈鎗輔〉『「異次元空間!?」』
〈フーマ〉『……お前、今ちょっとワクワクしただろ』
〈鎗輔〉『「えッ!? い、いや、そんなことないよ!?」』
本当はした。
〈フーマ〉『のんき言ってる場合じゃないぜ! 来るぞッ!』
警戒を深めたフーマに向かって、孤島から先ほどと同じ触手が、今度は何本も伸びてきた。
〈鎗輔〉『「うわッ!」』
「セイヤッ!」
フーマは光波手裏剣を放ち、触手を迎撃。
〈フーマ〉『どうやら敵さん、あそこらしいな!』
触手の出どころを視認したフーマが急降下し、孤島上に降り立った。島の地表は、自然に出来た地形とは思えないほどに歪んだ形状を成している。
そして突起のような山の陰から、巨大な影が姿を見せた。
「キャアアアアアッ! ギュオオオオ――――!」
咆哮、あるいは苦痛にあえぐ金切り声のような鳴き声を発するのは、ムンクの『叫び』の顔がいくつも折り重なったような風貌の怪獣。スペースビースト、クトゥーラである!
〈鎗輔〉『「うわッ、気色悪ッ!」』
〈フーマ〉『へッ、立会人なしの
クトゥーラの吐き気を催すような醜い姿にも動じず、フーマがスピードを上げてクトゥーラへ突撃していく。
「ギュオオオオ――――!」
対するクトゥーラは、全身の口から無数の触手を伸ばし、八方からフーマへ襲い掛からせる。
「ハッ!」
押し寄せる触手を素早い身のこなしでかわし、はたき落とし、光波手裏剣で切り裂くフーマ。しかし数が多すぎて、思うように前に進むことが出来ない。
〈フーマ〉『くっそ、邪魔だな……!』
毒づくフーマの足に触手の一本が忍び寄り、足払いを仕掛ける。
「ウワッ!」
「ギュオオオオ――――!」
バランスを崩して倒れたフーマに、ここぞとばかりに襲い掛かる触手。だがフーマは転がって逃れた。
〈フーマ〉『ちッ……顔に似合わずやるじゃねぇか』
跳びはねて体勢を立て直すフーマだが、肩が大きく上下している。
〈鎗輔〉『「何だか……いつもよりしんどい……!」』
〈フーマ〉『エネルギーの消費が激しい……この空間のせいか……!』
ウルトラマンの力の源は光。この闇黒に包まれた世界では、三次元空間よりも消耗が激しくなってしまうのだ。それがフーマと鎗輔を苛んでいる。
「ギュオオオオ――――!」
「トォッ!」
再び触手を伸ばして攻撃してくるクトゥーラ。フーマはジャンプしてかわそうとするが、消耗している状態では思うように身体を動かせず、逃げ切れずに足首が触手に捕まった。
〈フーマ〉『しまったッ!』
逃げられなくなったところに、更に四肢に触手が巻きついて拘束される。
〈フーマ〉『くッ、放せ……!』
「ギュオオオオ――――!」
もがいても締めつけの力は強く、振りほどけない。そればかりか、クトゥーラの口から発せられた黒い煙を浴びて、身体中に爆発の衝撃を食らう。
〈フーマ〉『ぐわあぁぁッ!』
「キャアアアアアアアッ!」
弱らせたフーマを触手で持ち上げ、何度も地面に叩きつけるクトゥーラ。身動きの取れないフーマは一方的に痛めつけられる。
〈フーマ〉『ぐぅッ……! くそぉ……!』
ダメージも重なり、カラータイマーが点滅する。危うしフーマ!
〈鎗輔〉『「く、くぅッ……!」
鎗輔も苦しみながらも、タイガスパークに手を伸ばしてレバーを動かす。
[セット]
華琳リングを召喚し、リード。
[華琳リング、エンゲージ]
フーマの右手の甲に、鎌型の手裏剣が生じた。すかさずそれを繰り出すフーマ。
〈フーマ〉『覇王絶手裏剣ッ!』
手裏剣が弧を描いて飛び、フーマに纏わりつく触手を全て断ち切る。
「ギュオオオオ――――!」
クトゥーラは力の反動を一身に浴び、後ろに倒れ込む。相手が起き上がる前に、フーマは速攻の用意をする。
〈フーマ〉『一気に決めるぞ、鎗輔ッ!』
〈鎗輔〉『「よしッ!」』
[セット]
次に召喚したのは、ビクトリーレットだ。
[ビクトリーレット、コネクトオン]
フーマの身体にビクトリーのビジョンが覆い被さり、右腕に生じた鋭星光波手裏剣を、飛ばさずに刃を伸ばして駆け出す。
〈フーマ〉『はぁぁぁぁッ!』
そして立ち上がったところのクトゥーラの肉体を、光刃ですれ違いざまに切り裂いた!
「ギュオオオオ――――!!」
クトゥーラの胴が袈裟に両断され、熱エネルギーで爆散。破片は散り散りとなり、粒子にまで分解されて消え去っていった。
〈フーマ〉『危なかったぜ……。鎗輔、ナイスサポートだ。ありがとな』
〈鎗輔〉『「どういたしまして」』
クトゥーラを撃破してひと息吐くフーマであったが、この暗黒の海の空間が、クトゥーラ消滅を契機に崩壊を始める。
〈フーマ〉『やべぇ。早いとこ脱出だッ!』
〈鎗輔〉『「う、うん……!」』
孤島から飛び立って、空間のほころびへと一直線に向かっていくフーマ。
「セイヤッチ!」
鎗輔は、異次元空間から立ち去るのが少しだけ惜しそうであった。
元いた陳留では、兵士を連れた秋蘭が春蘭、華侖、そして季衣から事情を聞いていた。
〈秋蘭〉「それでは、東雲は空の穴の中に……?」
〈春蘭〉「そ、そうなのだ! はっきりと見た!」
〈華侖〉「何か、空中に出来た渦巻きからぬめぬめした触手が出てきて、あっという間に鎗輔っちを捕まえていっちゃったっすー!」
〈季衣〉「ボクはその時、お店の中にいたから、見てないですけど……」
〈春蘭〉「あっ! 酒が入っていて幻覚を見たのではないぞ! 酔いなど一気に醒めた!」
春蘭たちが懸命に証言しているところに、一瞬開いた空間の歪みから、鎗輔が脱出。
〈鎗輔〉「あいてッ!」
着地に失敗してつまずいた。
〈季衣〉「あっ、兄ちゃん!」
〈華侖〉「鎗輔っちー! 無事だったっすねー!」
〈春蘭〉「東雲! ほら見ろ! 本当だったろう!」
〈秋蘭〉「別に、姉者を疑っていたのではないさ」
〈華侖〉「鎗輔っち、妖怪はやっつけたっすか!?」
〈鎗輔〉「妖怪? ああうん……こっちは何もなかったでしょうか?」
〈秋蘭〉「それが、だな……」
秋蘭が重々しい顔つきで、ティボラの脱獄を鎗輔たちに告げた。
〈鎗輔〉「だ、脱獄!?」
〈季衣〉「じゃあ、今のもあの虫人間の仕業……?」
〈春蘭〉「おのれぇ~……! もう許さんぞ、あの怪物めっ!」
猛った春蘭がものすごい勢いで駆け出していく。
〈鎗輔〉「あッ、春蘭さん!!」
〈春蘭〉「捕まえたその場で、あの首斬り落としてくれるわーっ!」
〈華侖〉「春姉ぇ、あたしも行くっすー! 鎗輔っちの仇っすー!」
〈季衣〉「華侖さままで!」
〈秋蘭〉「待て二人とも! 夜の街を、手掛かりもなしに捜し回ってどうする!」
秋蘭たちは、先走る春蘭と華侖を慌てて追いかけていった。
当のティボラは、街の暗闇から暗闇へと抜けて、陳留からの脱出を図っていた。
〈ティボラ〉『ちっくしょお、また失敗か……! 暗黒空間に引きずり込んじまえば、さしものウルトラ戦士でも……と思ったんだが……!』
案の定、ティボラは改心などせず、負け惜しみを口にしながら逃走している。
〈ティボラ〉『まぁいい。今んところは、どっか別の場所に身を潜めて、ほとぼりが冷めてからまた別の手段を考えるとするか……。ククク、奴に懸けられた賞金は俺のものにしてやるぜ……』
悪だくみしながら、建物と建物の間の角を通り抜けようとする。――その死角となっているところで、ある青年が壁に背を預けて腕組みしていた。
〈ティボラ〉『ん?』
気配を感じ、思わず立ち止まって振り向くティボラ。
青年は、腰に提げた鞘からスラリと白刃を抜き――振り上げて月光を反射させた。
〈ティボラ〉『うぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――ッッ!!!』
街の通りをひたすら駆けていた春蘭たちだが、建物の向こうから轟いた絶叫に足を止めた。
〈秋蘭〉「今のは……!」
〈PAL〉[拘束していた宇宙人の声です]
〈春蘭〉「何事が起きたのだ!?」
慌てて声のした方向を捜しに行き――発見したものに、言葉を失う。
〈秋蘭〉「なっ……これは……!?」
〈鎗輔〉「えッ……ど、どうして……!?」
ティボラは地面の上に倒れ込んで――上半身と下半身が斜めに分かれ、絶命していた。断面からは、緑色の血液がドクドクと流れ出ている。
宇宙人の斬殺死体という、いくら何でも見慣れない光景に、随伴の兵士たちの何人かはウッと吐きそうになっていた。
〈華侖〉「し、春姉ぇ、ほんとにやっちゃったっすか?」
〈春蘭〉「馬鹿者! こやつの断末魔が上がる瞬間、一緒にいただろうが!」
〈季衣〉「じゃあ、これ、一体誰が……」
〈フーマ〉『同じヴィラン・ギルドからの口封じかもな……』
〈秋蘭〉「だが、どうして今なのだ……。一度目の失敗の直後でもおかしくなかろうに……」
疑問を抱きながらも、死体をざっと検分する秋蘭。
〈秋蘭〉「……随分断面が綺麗だな……。太刀筋もあるだろうが、どれほどの切れ味の剣を使えば、これだけのものになるのか……」
〈フーマ〉『天の国には、切れ味のすげぇ剣はいくらでもあるぜ』
〈春蘭〉「むぅ……ともかくこの一件、華琳さまに報告せねばなるまい。おい! 誰か、先んじて城に戻れ!」
〈兵士〉「はッ!」
現場には幾人かの兵士を見張りに残し、鎗輔たちも城に引き上げることにする。
〈フーマ〉『予想外の幕切れだったな……。まさか、こんな形で死んじまうとは……』
〈鎗輔〉「うん……残念だよ……」
〈フーマ〉『鎗輔……』
〈鎗輔〉「……もっと宇宙の文明について、話を聞けると思ったのに……」
〈フーマ〉『……え? そこ?』
〈???〉「……」
城へと帰還していく鎗輔の後ろ姿を、街の陰に身を隠しながら――青年がじっと見送っていた。
日本刀の刃に付着した、緑色の血液を、ハンカチで拭い取りながら。
フィンディッシュタイプビースト クトゥーラ
知的生命体の恐怖の感情を、その肉体ごと捕食するスペースビーストの一種。『異形の海』という異次元空間に身を潜め、触手を伸ばして獲物を捕獲する。クカラッチ星人ティボラにコントロールされ、鎗輔を狙って自身のテリトリーに引き込んだ。