奥特曼†夢想 ‐光の三雄伝‐   作:焼き鮭

93 / 113
The Shape of Cao Cao

 

 昼下がり、鎗輔が庭園の側を歩いていると、コソコソと動く人影を見つけた。

 

〈鎗輔〉「あッ、春蘭さんだ」

 

〈フーマ〉『おーい春蘭。そんなとこで何やってんだ?』

 

 フーマが呼び掛けたが、春蘭はこちらに気づく様子もなく、そそくさと庭園を横切っていった。

 

〈鎗輔〉「行っちゃった……」

 

〈フーマ〉『……何か、えらく挙動不審だったな、春蘭の奴』

 

 つぶやくフーマ。いつもはふんぞり返るくらい堂々としている春蘭が、変に肩を縮こまらせていたのだ。当然不審に思う。

 

〈鎗輔〉「何かあったのかな……」

 

〈フーマ〉『おい、尾けて確かめてみようぜ』

 

〈鎗輔〉「ええ? それはちょっと趣味悪いよ……」

 

〈フーマ〉『いや、宇宙には他人に化けれる奴も多いんだ。そいつが春蘭に化けてるかもしれないぜ? これもここを守るためだ! さぁ!!』

 

 フーマが適当な理由をつけて、気乗りしない鎗輔に春蘭の後を尾行させた。

 

 

 

 そうして様子がおかしい春蘭の後を、見つからないように身を潜めながら鎗輔がついていく。

 

〈鎗輔〉「……確かに変だね。妙に勘が鈍い。いつもなら、人の気配には誰よりも敏感なのに」

 

〈フーマ〉『だろ? 怪しいぜ……。おッ、あそこに入ってくぞ!』

 

 春蘭が人目を気にしながら、部屋の中に滑り込んでいった。鎗輔は柱の陰から出て、その扉の前まで向かう。

 

〈鎗輔〉「ってここ、春蘭さんの部屋だよ」

 

〈フーマ〉『何で自分の部屋に戻るのに、あんな警戒してたんだ? ますます怪しいな……』

 

 室内からは春蘭と、もう一人、別の誰かの声が漏れてくる。

 

〈秋蘭〉「……お、おい、これは」

 

〈春蘭〉「……いや、まさか、こんなに……」

 

〈鎗輔〉「……今の声は」

 

〈PAL〉[秋蘭のものです]

 

〈フーマ〉『中で二人で、何やってんだ……? まさか、やべぇ薬とか、良い子の番組じゃあ見せらんないことしてんじゃねぇだろうな……』

 

〈鎗輔〉「や、やめてよ。ぼく海外生活長かったから、そういうの、洒落にならないくらいのリアリティが……」

 

〈春蘭〉「……ああ、これは、たまらん……」

 

〈秋蘭〉「やりすぎだぞ、姉者ぁ……」

 

〈フーマ〉『けどこの声……マジで冗談じゃ済まないかもしれねぇぜ……』

 

〈鎗輔〉「……よ、よし……中を確認しよう……」

 

 腹をくくった鎗輔が、わずかに扉を開いて、フーマとともに室内を覗き込んだ。

 幸いと言うべきか、二人が危惧したような事態は確認できなかった。その代わり、ある違和感を見つける。

 

〈鎗輔〉「あれ? 華琳さまだ」

 

〈フーマ〉『ホントだ。けど、声はしねぇよな?』

 

 春蘭と秋蘭の傍らに、間違いなく華琳の姿がある。しかししゃべっているのは、二人だけだ。

 訝しんでいると、とうとう春蘭たちがこちらに振り返った。

 

〈春蘭〉「! 何奴!」

 

〈鎗輔〉「わぁぁッ!」

 

〈秋蘭〉「大人しくしてもらおうか」

 

 すぐさま春蘭と秋蘭が飛び出してきて、鎗輔を組み敷いた。

 

〈春蘭〉「おのれ! 我々の秘密を見た者……は……」

 

〈秋蘭〉「……何だ、東雲ではないか」

 

〈鎗輔〉「ど、どうも……」

 

 正体を知った秋蘭たちが、鎗輔から離れる。

 

〈秋蘭〉「悪かったな。とりあえずこんなところで立ち話も何だ。入れ」

 

〈鎗輔〉「いいんですか? 秘密とか言いましたけど」

 

〈秋蘭〉「東雲なら構わんよ。な、姉者」

 

〈春蘭〉「何……? こやつとて……!」

 

〈秋蘭〉「いや、前に話しただろう。姉者のいるところで」

 

〈春蘭〉「……そうだったか?」

 

〈秋蘭〉「……」

 

〈鎗輔〉「……」

 

〈秋蘭〉「まぁ……いい。とりあえず入れ」

 

 春蘭の相変わらずの記憶力はともかく、鎗輔は中に通される。室内にはやはり、華琳の姿。

 

〈鎗輔〉「華琳さまと何やってたんですか? ……華琳さま?」

 

 しかし鎗輔はすぐに、何かおかしいことに気づいた。華琳は先ほどから、瞬き一つもしないで立ち尽くしているのだ。

 

〈秋蘭〉「東雲。前に話した件、覚えているか?」

 

〈鎗輔〉「前に話した?」

 

〈秋蘭〉「華琳さまの人形を作って、衣装の研究をしている話だ」

 

〈鎗輔〉「ああ。そういえばそんなことを、買い物に連れ出された時、に……」

 

 まさか、と、鎗輔が華琳の方へ首を向けた。

 

〈鎗輔〉「それが、華琳さま人形だ」

 

〈鎗輔〉「え―――――――――――ッ!!?」

 

 鎗輔、吃驚仰天。

 

〈鎗輔〉「いや待って! 本当にすごい! どこからどう見ても本物なんだけどッ!」

 

〈フーマ〉『あ、ああ……。俺も度肝を抜かれたぜ……。嘘じゃねぇよな……?』

 

〈PAL〉[ですが、目の前の華琳からは熱源反応がありません。確かに人形です]

 

〈鎗輔〉「うわほんとだ! 近くでよーく見れば、木目が見える! うっすらとだけど!」

 

〈春蘭〉「おい! 人形とはいえ、華琳さまに不作法に近寄るな! 畏れ多い!」

 

〈フーマ〉『これ、動くのか?』

 

〈春蘭〉「当然だ。そうでないと、着替えさせられないだろう」

 

〈鎗輔〉「どんな技術!?」

 

 球体関節すらないのに、と大幅にショックを受ける鎗輔だった。

 

〈鎗輔〉「え……待って。あの時は、確か、春蘭さんが作ったって……」

 

〈春蘭〉「よく出来ているだろう。我ながら自信作だ」

 

〈鎗輔〉「し、信じられない……。彫刻家顔負けだ……」

 

 ショックのあまり、気が遠のいている鎗輔に代わって、フーマが春蘭に尋ねる。

 

〈フーマ〉『じゃあ、さっきコソコソ帰ってきてたのは、これ絡みなのか?』

 

〈春蘭〉「うむ。街の仕立て屋に新しい服を作らせていたのでな、それをこっそりと……何だと!? どこから気づいていたというのだ!」

 

〈フーマ〉『庭で見かけた時からだけど』

 

〈春蘭〉「馬鹿な……細心の注意を払って帰ってきたというのに……」

 

〈秋蘭〉「姉者、いつも言っているだろう。堂々と帰ってきた方が、気づかれにくいぞ」

 

〈フーマ〉『ああ。あれじゃあ逆に目立つぜ』

 

〈春蘭〉「むぅぅ……。この夏侯元譲、一生の不覚……!」

 

 春蘭が落胆している間に、我に返った鎗輔が、秋蘭の持っている服に目を留めた。

 

〈鎗輔〉「……それって、前にぼくが案を出したものですか?」

 

〈秋蘭〉「うむ。件の、ごしっくろりーたとかいう奴だ」

 

〈春蘭〉「あと、きゃみなんとか、というのも受け取ってきたぞ」

 

〈鎗輔〉「キャミソールですか。ゴスロリと言い……よく作れましたね。冗談のつもりだったのに……」

 

〈春蘭〉「ふふん。我が国の職人の腕を甘く見るなよ?」

 

〈フーマ〉『それを着せてたって訳か』

 

〈春蘭〉「そ、それは……だな」

 

 何故か歯切れが悪い。

 

〈鎗輔〉「違うんですか?」

 

〈秋蘭〉「いや、何というか……だな」

 

〈フーマ〉『似合わなかったのか? ゴスロリは華琳にはよく似合うと思うけどな』

 

〈秋蘭〉「いや、とてもよくお似合いだった」

 

〈春蘭〉「だが、あれはまずい。まずすぎる」

 

〈秋蘭〉「全くだ」

 

〈鎗輔〉「どういうことですか?」

 

 言わんとするところが分からず、首を傾げる鎗輔。すると春蘭が、恍惚としながら答える。

 

〈春蘭〉「あれは可愛らしすぎて、我々の仕事が手につかん」

 

〈鎗輔〉「……そういうこと」

 

〈秋蘭〉「案を出してもらった東雲には悪いが、あの二つは禁じ手ということにさせてもらった」

 

〈鎗輔〉「それはいいですけど……」

 

〈秋蘭〉「で、姉者。作業はどうする? 今日は華琳さまがお出かけだから、作業するには最適の日と言っていたが?」

 

〈フーマ〉『作業?』

 

〈春蘭〉「うむ。華琳さまも、日々成長なさっている。それに応じて、この人形に時折調整を施しているのだ」

 

 春蘭たちの熱意の程に、鎗輔たちは呆れたような感心したような、よく分からない気持ちになった。

 

〈春蘭〉「だが、こんな乱れた気持ちで大切な華琳さまの調整など出来はせん。一旦、時間を置こう」

 

〈秋蘭〉「そうだな……。外の空気でも吸いに行くか」

 

〈春蘭〉「ほら、貴様も早く出ていけ! 言っておくが、このことは他言無用だぞ。特に、華琳さまのお耳に入れようものなら……!」

 

〈鎗輔〉「分かってますって。じゃあ、ぼくはこれで」

 

 春蘭の挙動不審の謎が解けたので、鎗輔は自室へと戻っていく。その道中で、フーマと話し合う。

 

〈鎗輔〉「いやー、しかし、驚いた……。まさかただの木彫りで、あんな瓜二つの人形が作れるなんて……。塗料は何を使ってるんだろ……」

 

〈フーマ〉『意外な才能だよな……』

 

 ふと、フーマがこんなことを言い出す。

 

〈フーマ〉『なぁ、今ちょっと思ったんだけどよ……もしもあの人形が怪獣になったりしたら、どうなると思う?』

 

〈鎗輔〉「ええ? ……やめてよ。絶対カオスなことにしかならないじゃん」

 

〈フーマ〉『俺なら爆笑する自信あるな~』

 

〈鎗輔〉「苦労が増えるだけだよ……」

 

 想像してしまって、げんなりとする鎗輔であった。

 果たして今の発言が、フラグとなるかどうか……それはまだ、誰にも分からない。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。