奥特曼†夢想 ‐光の三雄伝‐   作:焼き鮭

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White Wing

 

〈春蘭〉「……以上になります」

 

 謁見の間にて、地方の賊の討伐から帰還した春蘭が、事の顛末を華琳に報告した。

 

〈華琳〉「そう……やはり――白い翼を」

 

 華琳は神妙な顔つきで、賊の特徴を復唱した。春蘭と同じく、暴徒の鎮圧に出ていた秋蘭も報告する。

 

〈秋蘭〉「こちらの暴徒たちも同じ、作り物の羽を身に着けておりました」

 

 陳留は現在、いつ頃からか各地で出没するようになった、奇妙な格好の賊、暴徒の対応に追われていた。彼らはどこからともなく現れて被害を出し、春蘭らに簡単に鎮圧される。だがすぐに、また別の土地に出現して暴れるのだ。

 実力はないが、人数と頻度が多すぎる。陳留の将兵たちは、苑州のあっちからこっちへと駆けずり回る羽目になっており、ほとほと手を焼かされていた。

 この雨後の筍のような勢いで勢力を伸ばしてきている集団は、一貫した特徴を持つ。――全員が全員、背に白い翼の作り物を取りつけているのだ。

 

〈華琳〉「桂花。そちらはどうだった?」

 

〈桂花〉「は。面識のある諸侯に連絡を取ってみましたが……どこも我が苑州と同じく、白い翼の暴徒の対応に手を焼いているようです。具体的には……幽州、青州、徐州、冀州……揚州でも確認されております」

 

 しかも、この事態は苑州でだけ起きているのではない。漢王朝の東半分においてはほぼ全域……この分だと、王朝全体で暴徒が発生するのも、そう遠くはないことだろう。この異様な勢力の拡大には、皆が驚かされていた。

 

〈桂花〉「それと、一団の首魁の名前は張角というらしいですが……正体は全くの不明だそうです」

 

〈栄華〉「正体が分かりませんの?」

 

〈桂花〉「捕らえた賊を尋問しても、誰一人話さなかったとか」

 

〈春蘭〉「……ふむ。剣を振り上げれば逃げ回るくせに、そこだけは口を割らんか。さして忠義が厚いとも思えんが」

 

〈華侖〉「この羽も、何の意味があるんすかねー?」

 

〈秋蘭〉「そこも不明だ。賊たちも、その張角とやらの指示で身に着けているだけのようだ」

 

 不可解なことだらけの、謎の賊のことに頭を悩ませる一同。

 

〈鎗輔〉「……」

 

 そんな中で、鎗輔が腕組みしながら顔をしかめていた。

 

〈フーマ〉『どうした鎗輔。何か、思い当たる節でもあるのか?』

 

〈鎗輔〉「いや……黄巾じゃないんだな、って思って……」

 

 今のひと言を、秋蘭が聞き留めて振り返った。

 

〈秋蘭〉「それはどういう意味だ? 東雲」

 

 鎗輔は少し考えてから答える。

 

〈鎗輔〉「……ぼくの知る歴史だと、漢王朝全土で叛乱を決起する、張角という人物を中心とした暴徒の大集団は、頭に黄色い布を巻くのが特徴なんです」

 

〈春蘭〉「黄色い布? そんなもの、一つも見かけなかったぞ」

 

〈華琳〉「……鎗輔。詳細を話してちょうだい」

 

〈鎗輔〉「分かりました」

 

 華琳に促され、鎗輔はたたずまいを正して、皆に向けて口を開いた。

 

〈鎗輔〉「順を追って話しましょう。漢王朝の時代の末期、朝廷は宦官の権力肥大に端を発する政治腐敗によって、国営は機能が低下、盗賊の被害は増加していき、民衆の生活は悪化の一途。大衆の王朝に対する不満は陰ながら増大していました」

 

〈香風〉「この国の今と一緒……」

 

〈華琳〉「それはそうでしょう。鎗輔が今話しているのは……恐らく、本来の歴史よ」

 

〈季衣〉「本来の? それってどういう意味ですか?」

 

〈華琳〉「話を最後まで聞けば、きっと分かるわ。鎗輔、続きを」

 

〈鎗輔〉「はい。やがて大陸に、道教から派生した太平道の創始者、張角という人物が現れ、その教えで人民の心を一挙に掌握します。そして民衆は張角に扇動されて、王朝への不満と怒りを噴出して暴徒化。頭の黄色い布を目印にした『黄巾党』の名の下に団結し、大反乱を起こしました。その乱は『黄巾の乱』の名で、後世に語り継がれてます」

 

〈柳琳〉「……張角……白い翼の賊徒の首魁と同じ名ですね」

 

〈華琳〉「そう……賊の格好を除けば、現在の状況とほぼ一致するわ。両者は、本質的には同じものだということよ」

 

〈華侖〉「じゃあ、何で鎗輔っちの黄色い布が白い翼なんてのになってるっすか?」

 

〈春蘭〉「たまたまではないか? 張角という奴に、心変わりがあったとか」

 

 春蘭の予想を鎗輔が否定。

 

〈鎗輔〉「それは考えにくいですよ。そもそも、背中に翼を生やした人間という構図は、ここから砂漠を越えたはるか西方の国……西洋の文化のものです。それがこの国で、大きな影響を与えてるとするのは不自然です」

 

〈春蘭〉「ならば、一体どういうことなのだ」

 

〈フーマ〉『――その点なら、俺に心当たりがあるぜ』

 

 フーマが主張し、議論に参加した。

 

〈栄華〉「本当ですの?」

 

〈フーマ〉『ああ。今の状況と同じようなことをする異次元人の話を聞いたことがある。前にもいたろ? 宇宙人』

 

〈秋蘭〉「あの虫男か」

 

〈フーマ〉『一人いるってことは、他にも外宇宙からの侵略者がこの世界に入り込んでる可能性があるってことだからな……。そいつらの仕業ってことは、十分あり得る話だぜ』

 

〈華琳〉「……異世界人が、民衆の暴動を陰ながら扇動している、ということ……。それは厄介なことになるわね」

 

〈フーマ〉『全く。鎗輔、お前も気ぃつけな。俺の予想が当たりなら……この前のチンピラなんかとは、訳が違げぇ相手だからな』

 

〈鎗輔〉「うん……」

 

 フーマからの忠告に、鎗輔も緊張感を強めた。

 

〈華侖〉「でも、とりあえずはその首魁の人を見つけ出せばいいんじゃないっすか?」

 

〈桂花〉「確かに、それが現状最も手っ取り早いわね。道教の一派と言ったわね?」

 

〈鎗輔〉「いえ……この世界でもそうだとは限りません。ここの歴史は、ぼくの知る歴史とは少々異なりますから。もしかしたら、張角の出自も異なってるかも」

 

〈桂花〉「何よ、頼りにならないわね」

 

〈春蘭〉「少々異なるとは、具体的にどこが違うのだ?」

 

〈鎗輔〉「……それは今重要なことではないので、置いときましょう」

 

 皆が男だということを話すと、春蘭や栄華辺りが騒ぎそうなので、はぐらかす鎗輔であった。

 

〈鎗輔〉「ともかく、ここまで違いが出てるからには、もうぼくの持つ知識は情報として役立ちません。これ以上のことは、実際に調査する必要があります」

 

〈華琳〉「ええ。とりあえずは、敵の名は鎗輔の言う『黄巾党』に倣い、『白翼党』としましょう。皆、他に新しい情報はないの?」

 

〈秋蘭〉「はい。これ以上は何も……」

 

〈春蘭〉「こちらもありません」

 

〈華琳〉「ならば、集めるしかないわね。皆、しばらくは張角という輩の素性、並びに暴乱の裏で動いている者の正体を突き止めることに専念すること。いいわね!」

 

〈春蘭〉「はっ!」

 

〈桂花〉「お任せを!」

 

 華琳の号令により、全員が背筋を正す。

 これより苑州軍は、今後も勢力を拡大し、大陸全土を混乱の渦に巻き込んでいく白翼党の暴挙を食い止めるための行動を開始するのであった。

 

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