プリキュアオールドスターズ ~プリキュア5の同窓会~   作:おじ

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11.あなたが寝てる間に…

 美々野くるみの体力は限界に近づいていた。

 

 ただでさえ人間の姿でいるのは体力を消耗するというのに、ココ達を捜して町中を駆け回り、ミルキィローズに変身して戦闘もこなしたのだ。

 しばらく変身する必要のない生活だったため、体も衰えている。

 

 ちょっとでも気を抜けばミルクの姿に戻ってしまいそうなほど、彼女は疲弊しきっていた。

 みんなとの再会を楽しみにしていただけなのに、どうしてこんな目に遭わなければいけないのか。せっかくみんなでまた集まれると思ったのに、どうして上手くいかないのだろう。

 彼女は悔しさのあまり、涙がこぼれそうになった。

 

「くるみ!」

 

 自分の名前を呼ぶ声に、くるみは耳を疑った。

 まさか、こんなタイミングで来てくれるなんてありえない。一番会いたいときに、一番会いたかった相手が現れるなんて都合が良すぎる。

 疲れによる幻聴だと決めつけ、彼女は先ほどの声を無視した。

 

「くるみ!!」

 

 今度はすぐ傍で声がした。くるみの背後に、彼女はいる。

 振り返れば、彼女に会える。

 微かな躊躇いと大きな期待を伴いながら、くるみは後ろを向いた。

 

「かれん!!」

 

 母親を見つけた迷子のような安心感と頼もしさで、くるみの胸はいっぱいになった。ほっとすると同時に、彼女の変身は解けてミルクの姿に戻る。

 

「ミルク、大丈夫!?」

「ミル……」

 

 かれんは両手ですくうようにしてミルクの小さな体を掌の上に乗せた。あまりの軽さに、かれんは胸が締め付けられる気持ちになる。

 

「ココ様たちは……」

 

 ミルクが安心して休めるように、できるだけ優しい声色でかれんは告げる。

 

「大丈夫よ。ココもシロップもクレープ王女も、みんな無事だわ」

「よかったミル……」

 

 目を瞑ったミルクを見て、かれんは罪悪感を覚えた。

 今の言葉には偽りがある。怪我の程度は大したことないが、ココとクレープは敵の攻撃を受けた。いつまた襲われるかもわからない。

 それでも、ミルクを守るために必要な嘘だった。こうでもしなければ、ミルクはきっと無茶をする。

 

「ミルクは昔と変わってないのね」

 

 自分のためだけでなく、仲間のために一生懸命になれる。喧嘩ばかりしていたけれど、誰かさんとそっくりだとかれんは思った。

 

「おい、これからどうするんだ?」

 

 ココとクレープを両手に抱えたシロップがせっかちに問う。可愛らしいぬいぐるみのような生き物を抱えた成人のアベックが、他人の目にどう映っているかを考慮しても、この場からはすぐに離れるべきである。

 

「ナッツハウスまで飛んでいくか?」

「だめよ。あそこはまだ人が住める状態じゃないわ」

「じゃあ、どうするんだよ!?」

 

 どうするべきか、他の結論には辿りつかなかった。やや躊躇って、かれんは口を開く。

 

「私の家に来て。いくつか部屋も空いてるし、ナッツハウスと違って敵に知られてないわ」

 

 つい数時間前に大学を卒業して人生の新しいスタートを切ったばかりだというのに、かれんにはそれがもう何年も前のことのように感じられた。

 

 

 

 日が暮れかかると、夕焼けは時計塔を通して町に大きな影を落とした。

 

 春の暖かさを感じさせる鮮やかな夕日を見ると、人々は一日の終わりが近づいていると感じてこれから帰る我が家に思いを馳せる。

 それはガンバリーナも同じことだった。

 

 一日が終わる。夕日が沈めば、世界は闇に包まれる。そのときこそ、プリキュアを倒す絶好の機会だ。

 彼女が思っていたほど、プリキュアは手強い相手ではない。それが分かって、若干の余裕ができた彼女も家で待つ息子のことを考えた。

 

「そろそろ夕飯の支度でもしようかしらね」

 

 この町には、ガンバリーナにとって気に入らない気配がそこかしこに散らばっている。今すぐにでも排除したいくらい不快なものばかりだ。

 しかし、これは息子を奪われた復讐であって、征服ではない。ただ倒すだけでは意味がなかった。

 

「プリキュア……闇に怯えて眠るがいいさ」

 

 ガンバリーナは時計塔の影へ吸い込まれるようにして姿を消した。

 

 十分な不安と混乱を与えられただけで、今日の成果としては満足だった。復活した過去の敵に敗れ、日常が壊されたのだ。

 弱々しい輝きしか放てなくなったやつらに耐えられるはずがない。

 

 放っておいても、自然と崩壊するはずだ。

 

 

 

「のぞみ、そろそろお店閉めるよ」

「うん、わかった」

 

 辺りが夕闇に包まれ始めた頃、フラワーショップ夏木はいつもより数十分早くシャッターを下ろした。

 

「どう? こまちさんの具合」

「まだ眠ってる。怪我とかはしてないみたいだから、病院で看てもらわなくても大丈夫だとは思うんだけど」

「そっか……」

 

 不安そうな表情をのぞみが見せたのは、久しぶりのことだった。

 大学を卒業できないと分かったときでさえ、「なんとかなるなる」と笑ってみせたのぞみにそんな顔はしてほしくない。自己中心的な考え方に、りんの胸がちくりと痛んだ。

 昔も今も、心のどこかでのぞみなら何とかしてくれると思っている。そんなことではだめだ。

 

「とにかく、後はあたしに任せて。のぞみは帰った方がいいよ」

「こまちさんが目を覚ますまで、わたしも看病するもん!」

 

 子どもの頃に戻ったようなのぞみの口調に、りんは思わず微笑んだ。それほど、のぞみは純粋にこまちのことを心配しているのだ。

 

「のぞみは明日も朝から別のバイトがあるんでしょ? こまちさんが起きたら連絡するからさ」

「でも……」

 

 何も知らず店に戻ってきたのぞみに事情を説明したとき、きっと自分は冷静でいられなくなるとりんは思っていた。

 抱いて当たり前の疑問をのぞみに投げかけられたところで、事態を把握しきれていないりんには答えようがない。どんな言い方をしたら話をスムーズに進められるか、のぞみが来るまで様々なパターンを想定したくらいだ。

 

 しかし、実際はあっさりしたものだった。

 驚いた様子など微塵も感じさせず、のぞみはただこまちの身を案じた。本当のところ、新たな敵の登場やココ達がこちらの世界に来ているという話を聞いて、のぞみが何を思ったかりんには分からない。

 

 ただ、長い付き合いでのぞみが最も大切にしているものは知っている。のぞみのそういった部分は、十年前から変わっていない。

 

「そうだ! かれんさんは!? お医者さんになるんだし、今から看に来てもらおうよ」

「え? でも、かれんさんは……」

 

 りんの返事を待たず、のぞみは既に携帯電話を取り出していた。

 

「大丈夫。かれんさんなら、きっと来てくれるよ」

 

 のぞみが大丈夫と言えば、根拠もないのに本当に何とかなるように思える。

 いつもなら安心できる言葉のはずが、今回にかぎっては嫌な考えがりんの頭に浮かんだ。

 

 かれんが同窓会のメールに返事をくれないのは、参加を迷っているか忙しくてメールを見れていないという二つの可能性が考えられる。

 しかし、かれんが電話に出れば、答えは前者ということだ。

 

 自分には聞こえない呼び出し音が鳴りやむのを、りんは落ち着かない気持ちで待っていた。

 

 

 

「プリキュア・ミントシールド!」

 

 秋元こまちは、いつの間にプリキュアに変身して、なぜシールドを張っているのか考える必要があった。

 敵はどこにも見当たらず、攻撃も受けていない。彼女以外には何者も存在しない世界にも関わらず、彼女はシールドを展開し続けた。まるで外敵から身を守る亀やかたつむりのように。

 

 やがて、それは破られる。

 

 壁が崩壊する間際、彼女は後ろを振り返って必死に守ろうとしていたものの正体を確かめようとした。

 そこにあったのは、二つの原稿用紙の束。表題は“海賊ハリケーン”。もう一つは、書きかけのプリキュアの物語。

 

「そんなに簡単に諦められることなのか。お前の夢に対する気持ちは、その程度か」

 

 どこからともなく、声が聞こえた。いつでも彼女を励まし、真剣に怒ってくれたナッツの声だ。

 

「わたしたちは絶望なんかしないし、夢も諦めない!」

 

 キュアドリームの姿が立体映像のように現れ、こまちは懐かしさに頬が緩む。

 夢を諦めない。ドリームはいつでも、彼女に勇気をくれた。

 

 原稿用紙の上に浮かぶ映像は、無機質な物体へと姿を変えた。初めはぼんやりとしていたが、こまちはすぐに何なのか分かった。大学の文学部を出た後、彼女が勤めた出版社のビルだ。

 映像は建物の中に侵入して、過去の彼女を写し出す。本を読むようにはとても見えない今風の身なりをした若い男性作家と、テーブルを挟んで向き合っていた。彼がメールで送ってきた小説のプロットに目を通し、感想を伝えようとしているところだ。

 

 かつて、ナッツが彼女にしてくれたように。

 

「最後の場面だけど、このままだと主人公の行動に説得力がなくなると思うわ。どこか早い段階で、分かりやすい伏線を入れた方がいいんじゃないかしら」

 

 しかし、若い作家の返した言葉は、彼女にとって編集者としての自信を失わせるものだった。

 

「ていうかさ、前から言いたかったんだけど、俺は小説で金を稼いでるプロの作家で、秋元さんは出版社の平社員なわけでしょ? それなのに俺の作品に口出しすぎじゃないすか?」

 

 そこで映像は途切れ、強い風が吹いた。“海賊ハリケーン”は、書き上げるまでの彼女の苦労や込められた思いなど微塵も感じさせず、あっさりと手の届かないところへ飛んでいってしまう。

 

 残されたもう一つの原稿は、かれんの声によって塵となる。

 

「いつまでも中学の思い出にすがりついていては、前に進めないわ」

 

 何もない世界に置き去りにされたこまちは、現実に戻るほかなかった。

 

 

 

 知らない天井と、知らない照明。

 そして知らない女の子が、こまちの目に入った。

 

「お姉ちゃん、起きたよー!」

「え? あ、すぐ行くから!」

 

 聞き覚えのある声が向こうから聞こえた。こまちは何度も瞬きをして、今度こそ夢でないことを確かめる。

 

「のぞみ! こまちさん起きたって」

「うん。かれんさん、ちょっと待っててください」

 

 二つの足音が近づいてきても、こまちはちゃんと顔を見るまでは期待しない方がいいと自分に言い聞かせた。

 また、これほどまでに混乱した頭で、何年も見ていなかった二人の顔を判別できるか不安に思ったが、それは杞憂に終わった。

 

「こまちさん! どこか痛くないですか!?」

「ありがとうね、あい。後は大丈夫だから」

 

 容姿に相応の変化は認められたが、間違いなくのぞみとりんだ。次第に冴えてきた脳は、先ほどの女の子が記憶の中では小学校低学年のままでいるりんの妹だということまで理解できた。

 

「私は……」

 

 問いかけてすぐに、記憶が蘇る。謎の怪物が現れ、プリキュアに変身して戦ったものの、まったく歯が立たなかった。

 あの後、町はどれくらいの被害を受け、どれだけの怪我人が出たのだろう。守れなかった責任を負うのが怖くて、彼女は聞くことができなかった。

 

「今、かれんさんと電話つながってるんですけど、来てもらった方がいいですよね?」

 

 のぞみの心配を和らげるためにはそれを承諾すればいいと分かってはいたが、こまちは首を横に振った。夢の中で聞こえたかれんの声が、今も頭の中から離れない。

 

「私は大丈夫。わざわざ、かれんに来てもらう必要はないわ」

「でも……」

「いいの。みんなに心配かけては悪いから」

 

 まだ何か言いたそうだったが、のぞみは携帯電話の送話部を口に添えた。

 

「あ、かれんさん? こまちさんは大丈夫みたいです。……はい、意識ははっきりしてて……」

 

 見慣れないりんの部屋で横になっているのはどうしても落ち着かず、こまちは立ち上がった。

 ほっとしたというよりも気まずそうなりんの表情を見て、同窓会に参加しようとしていた決意が、少し鈍る。

 

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