プリキュアオールドスターズ ~プリキュア5の同窓会~   作:おじ

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2.秋元、仕事辞めたってよ

 水無月かれんは親しみ慣れたキャンパスを、名残惜しそうに振り返った。

 

 構内では見知った顔が喜びを分かち合っている。その様子を微笑ましく思いながらも、気を引き締めるために彼女は凛々しい表情を保って門の方へ向かった。

 

「ねぇ、水無月さんも今夜の飲み来ない?」

 

 呼び止められ、彼女は足を止める。

 

「ごめんなさい。私はやめておくわ」

 

 素っ気ない返事をされて、しつこく誘ってくるほど親しい仲ではない。言い寄ってきた子は「そっか」と頷いて、他の子を誘いに走っていった。

 ため息をつき、かれんはやっとの思いでお祝いムードの構内から抜け出すことに成功した。

 

 大学の敷地から一歩、外に出た。この瞬間、学生ではなくなったのだと彼女は実感する。みんなは卒業をゴールと思っているみたいだが、それは違う。卒業することで、ようやく夢へのスタート地点に立つことができた。

 

 しばらくして、携帯電話が着信を知らせようと健気に弱々しい光を明滅させていることに気が付いた。

 メールの差出人の名前を見て、それまで引き締まっていた彼女の口元が、つい緩んでしまう。

 

 

 

「久しぶりね、かれん」

「ええ。久しぶり、こまち」

 

 喫茶店に入り、奥の席に特徴的な緑色の髪を見つけた途端、かれんは懐かしさで胸がいっぱいになった。

 

「いつ以来かしら?」

「成人式で会ったのが最後だから、四年ぶりね」

 

 秋元こまちは、かれんの記憶にあるままの姿で対面の席に座っていた。よく観察するとカチューシャをつけていないし、髪も肩にかかるくらいの長さになっている。

 しかし、それらは些細なことだ。昔と変わらないおっとりとした雰囲気で、安らぎを与えてくれる。かれんは彼女との再会を心から喜んだ。

 

「卒業おめでとう。これで、かれんも遂にお医者さんなのね」

 

 あまりにもタイミングが良すぎるとは思っていたが、こまちが卒業式の日を知っていたというのはかれんにとって意外であった。

 

「どうしてそれを?」

「夕べ、坂本さんから電話があったの。それで懐かしくなって、お祝いを口実にかれんとお茶したいなって」

「……そう。じいやが……」

 

 かれんの表情に影が差したのを、こまちは見逃さなかった。

 

「どうかした?」

「えっ!? ……ええ、何でもないわ」

 

 あまりにも下手な取り繕い方に、こまちはほっとする。相変わらず、自分の弱いところを見せたがらない。

 彼女はかれんが何かを隠したがっていることを知り、あえて気付かないふりをした。助けが必要ならかれんはそう言うだろうし、四年も会っていなかった自分が助けになれるとも思えなかったからだ。

 

「こまちはどう? たしか、出版社に就職したのよね」

「ええ、だけど……」

「医学部は六年制だから出遅れてしまったけど、こまちは私より二年も先に社会に出たのよね。すごいわ」

「かれん、実はね……」

 

 こまちの様子がおかしいと気が付くには、熱いコーヒーを飲んで舌を火傷させる必要があった。控え目な彼女は自分の書いた小説の話になるともじもじする癖があったが、どうやらそれとは違うようだ。

 

「実は……私、会社を辞めたの」

「えっ?」

「その、合わなくて……私には……」

 

 かれんにとって、中学生の頃から小説家になることを夢みていたこまちが出版社を辞めるなんてありえないと思っていた。てっきり、好きな小説に携わることのできる出版の仕事は、こまちの天職だと信じていたのだ。

 

「でも、こまちの夢でしょう? それでいいの?」

「私がなりたかったのは、作家であって編集じゃないわ」

 

 珍しく強い口調で、こまちは主張した。

 

「そうだったの……。でも、どうして?」

 

 紅茶を一口すすり、こまちは心を落ち着かせる。冷静に見えて、かれんには熱いところがある。久しぶりの再会で、口論に発展するのだけは避けたかった。

 

「私の話はいいじゃない。今日はかれんのおめでたい日なんだから」

「こまち……」

 

 彼女の気持ちを汲んで、かれんは冷静さを取り戻した。こまちの人生の選択に、旧友である自分が口を出していいものではない。

 

「それで、今は何をしているの?」

「とりあえず実家のお店を手伝ってるわ。それに、今でも小説は書いてるの。だから、心配しないで」

「そう……」

 

 しばらく気まずい沈黙が彼女たちを包んだ。中学生のときにどんなに仲が良くても、医学と文学の道に別れた二人の間には、いつの間にか小さな溝ができていたのだ。それは月日の経過とともに、大きなものになっていたのかもしれない。

 

「かれん、これ覚えてる……?」

 

 やがて躊躇いがちに口を開いたこまちがかばんから取り出したものは、かれんにとって決して忘れられないものであった。

 古びた携帯電話のおもちゃ。十年前の夢のような出来事が鮮明に思い起こされる。悩んで、支え合い、戦ってきた。医者を志すきっかけをくれた、不思議な力。今となっては、あの思い出こそが夢だったのではないかと思えるほど。

 

「……覚えてるに決まってるじゃない」

 

 懐かしむようにキュアモを手に取り、しげしげと眺めた。これを使えば、今でもプリキュアになれるだろうか。幼く純粋だったあの頃に、戻れないだろうか。そんなことを思った。

 

「今さらになって、どうしてこれを?」

 

 エターナルとの戦いからこれまで、彼女たちの町は何者にも脅かされることはなかった。したがって、彼女たちが戦う必要もなくなり、プリキュアに変身することもないはずである。

 

「実はね、私、プリキュアの小説を書こうと思っているの」

「え?」

 

 かれんは自分の耳を疑った。しかし、照れくさそうにしているもののこまちの瞳は真剣だと訴えている。

 

「もちろん、フィクションという設定でね。 私とかれん、のぞみさんにりんさん、うららさん、ミルクさんやココさんやシロップさん。そして……」

 

 こまちはそこで言葉を区切った。かれんはしばらく続く名前を待ったが、結局こまちがその名前を口にすることはなかった。

 

「私たちの物語を書きたいの。だから、かれんにも協力してもらえたら助かるわ」

「……何をすればいいの?」

「当時のことを思いだして、印象に残っているものを教えてくれるだけでいいの。どんなときに、どんなことを思っていたのか」

「そうね……」

 

 かれんは時計を気にした。急な誘いであったため、あまり時間がとれるわけではない。しかし、もう少しだけ話していたかった。

 

「みんな今ごろ、何してるのかしら……」

 

 かつて固い絆で結ばれたはずのプリキュア5は、かれんとこまちの中学卒業に伴い疎遠になってしまった。

 

 また、みんなで集まりたい。

 

 そんなことを、かれんは思った。

 

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