プリキュアオールドスターズ ~プリキュア5の同窓会~ 作:おじ
「ねぇ、今日って街の方でお祭りかなんかあった?」
夏木りんがそんなことを聞いたのは、店を手伝ってくれているゆうとあいの退屈をまぎらわす目的の他に、彼女自身が退屈していたからである。
フラワーショップ夏木が面している通りは閑散としていて、休日にしては不自然なくらい人通りが少ない。それに伴って客の入りも芳しくないのだから、彼女たちが時間を持て余すことになるのは当然の成り行きだった。
「ないよ。何で?」
人々がどこに消えてしまったのか、店の外に出たところで分かるはずがないのだが、りんは街の方を眺めて賑やかな様子を感じ取った。
「デパートのセールとか、有名人が来るイベントとか」
「あったら行ってるって」
あいがそう言うのだから説得力がある。彼女は学校の授業で教わったことは一つも覚えていないくせして、流行の情報は耳ざとく入手してくる。りんは彼女の情報収集能力に全幅の信頼を寄せていた。そういった類の職種に就けばそれなりに成功するのではないかとさえ、思っているくらいだ。
ちらりとゆうの方にも視線を送ってみたが、彼は姉の視線になど気付かないでレジの取扱説明書を熱心に読みふけっている。女の子のあいとは違って流行に無頓着な彼は街で起こっていることになど興味はないかもしれないが、携帯電話が普及した現代では彼も友人から受動的に最新の情報を入手することはできる。そんな可能性にりんは期待してみたのだが、彼と彼の友人も街で起きていることなど何も知らないようだ。
「それにしても、お客さん来ないねぇ」
適当な椅子に座って子どものように足をぶらぶらさせていたあいは、足を大きく振って椅子から下りると、そのままの勢いで店の外に出た。右手を帽子のつばのようにして、遠くを見ようとしてみせる。
「たまにはこんな日もあるよ。暇ならほら、花の手入れでもする」
りんが店に戻ろうとすると、「お姉ちゃん!」とあいに呼び止められた。遠くの方を指差して、目を凝らしている。
「あれ、のぞみさんじゃない?」
「え? そんなわけ……」
のぞみの親友であり雇い主でもあるりんは、今日の彼女のスケジュールをちゃんと把握していた。いつもそうしているわけではないのだが、昨日の出来事をみんなで話し合おうとして、まずはのぞみの都合を聞いたのだった。午前と午後で二つのアルバイトを掛け持ちしていると彼女が言っていたのを、りんははっきりと覚えている。
それなのに、あいの言うとおり通りの向こうから駆けてくるのは間違いなく夢原のぞみだった。体力はとっくに尽きたのか、格好は走っているのに歩くのと変わらない速度で徐々に近づいてくる。やがて彼女の表情が視認できる距離になると、りんの胸を不吉なものがよぎった。
倒れたこまちを運んできたときのくるみとそっくりな表情を、のぞみがしていたからだ。
居ても立ってもいられなくなったりんは自分から彼女に駆け寄り、足元もおぼつかない様子ののぞみを迎えた。
「ブンビーさんが……、怪物に……たぶん、ココやくるみたちも……」
膝に手をついて乱れた呼吸を整えながら、のぞみはそう言った。渇いた喉に冷たい空気が入り、激しく咳き込む。
「落ち着いてよ、のぞみ。それって昨日、こまちさんを襲った……」
背後に視線を感じたりんは慌てて口をつぐみ、後ろを振り返る。のぞみを心配したあいがこちらに近づいてこようとしていた。ゆうも店から顔を出して彼女たちの様子を窺っている。
「大丈夫だから、二人ともお店に戻ってて!」
思いがけず強い語気で怒鳴るような言い方になってしまったが、それに驚いたあいは足を止めて彼女にしては珍しく素直に首を縦に振った。場の空気を読むのに敏感な女子高生だけあって、ただならぬ雰囲気を感じ取ってくれたのだろう。
話し声が聞こえない距離まであいが離れたのを確認して、りんはようやく呼吸を落ち着かせたのぞみに話の続きを促した。
「急いで戻らないと! みんなが……」
のぞみにゆっくりと順を追って説明する余裕がないのは、りんにも分かった。彼女だって表情には出さないよう努めたが、頭の中ではパニックを起こしていた。考えがまとまらず、自然と大声になる。
「だから、その……どうするのよ!?」
愚問だと、りんは思った。十年前の経験と、昨日の出来事がある。のぞみの説明が言葉足らずでも、察しのつかないわけがない。のぞみが来た理由も、彼女がやろうとしていることも、どうすればよいかも、りんはすべて分かっていた。
「行かなきゃ!」
のぞみの手には、キュアモが握られていた。色とりどりなビーズのキーホルダーをつけたそれは、力強く輝いて見える。
「わたしを庇って、ブンビーさんが戦ってくれてる。ココやくるみも、みんながわたしたちを守ろうとして戦ってくれてるの!」
「待ってよ! それで、こまちさんがどうなったか忘れたの? 今のあたしたちが戦ったって……」
ほんの一瞬、見間違いだったと思いたいくらい微かに、のぞみの顔に失望の色が浮かんだ。彼女のそのような表情がりんに向けられたのは、初めてのことだった。
「どうするの!? 学校もバイトもあるのに、怪我なんてしたら……」
声が震えているのが、自分でも分かった。のぞみの真っ直ぐな瞳が、りんを見つめる。彼女が何を訴えようとしているのか知っていたから、りんは思わず視線を逸らした。
「でも、わたしはプリキュアだから」
顔を背けても、のぞみの視線をはっきりと感じた。責めているのとは違う。ただ、確認したいだけなのだ。幼馴染の親友だからこそ通じる、言葉にしてない質問の答えを。
自分でも気づかないうちに、りんは両手を強く握っていた。手をほどくと、痺れていて感覚がない。手の平には、爪の跡が残っていた。
視界の隅に、店の戸から顔を覗かせて彼女たちの様子を窺っているゆうとあいが映った。そのときほど、惨めで最低な気持ちになったことはない。りんは握りこぶしをつくり直して、自分の横っ面を殴ってやろうと思ったくらいだった。
「店番あるから、あたし……」
わざと明るく言おうとして、ぎこちない言い方になる。
「ほら、あの二人に任せておくわけにもいかないしさ」
ようやくりんが顔を正面に向けると、のぞみは力強い眼差しのままでりんを見つめていた。失望も諦観もしていない。りんの判断をそのまま受け容れ、寛恕するようだった。
「そっか。分かった」
そうして、のぞみは来た道を戻る。彼女なりの全速力で、一心不乱に走っていった。りんには彼女を呼び止めることも、言ってしまった言葉を訂正することもできなかった。
孤軍奮闘と称するには、あまりに劣勢だった。
体力や運動能力だけでなく勘まで鈍っていたミルキィローズにとって、彼女を援護するココとクレープの存在はかえって重荷になる。彼らは怪物からローズを守り、彼女が目の前の相手に専念できるよう全力を尽くしてくれているのだが、お世話役であるローズの注意はむしろ彼らの方に集中した。
青いバラの力をもってしても、ミルキィローズの強さには限界がある。人間の女性の体格を象っているのだから、目は前を見るようについているし、手足は二本ずつしかない。対するザケンナーの体は不定形であり、予測のできない方法で四方八方から攻めてくる。だからこそココ達の防御が必要なのだが、それが破られたときに備えてローズは常に意識を敵味方の双方に張り巡らさなければならなかった。
「おや、もうへばったのかい。最近の若いのは根性がないねぇ」
声のした方に顔を向けると、群れの中でも際立って大きなザケンナーの肩に、高みの見物といった様子でガンバリーナが座っていた。初めは息子を亡くした復讐という動機に同情する気持ちもあったが、今のローズにとって彼女は憎悪の的となった。
「もっと頑張ってちょうだい。あんた達は、プリキュアをおびき出す餌なんだから」
いくら倒しても、ザケンナーはあらゆるものの影から新たに出現する。ただでさえ消耗が激しく長期戦に向かないローズが、ココ達を庇いながら怪物の大群とまともに戦えるはずがなかった。
怪物を生み出すガンバリーナを倒せば、決着がつく。ローズは冷静に状況を分析して、自身の体と相談した。ココとクレープを群れの中に置き去りにして、一気に攻め込む。体力の残っている今なら、ガンバリーナまでの行く手を阻むザケンナーを一掃できる自信はあった。
しかし、その後でガンバリーナを倒せる保障はない。怪物の大群を相手に力を使い果たしてしまっていたら、返り討ちに遭うだろう。そして、ココ達の防御もいずれは破られる。そうなれば、彼女たちの負けだ。
そこまで考えが至ったとき、ローズは何かが迫ってくる気配を感じて反射的に攻撃を繰り出した。
「うわーっ! ちょっとタンマ!!」
「えっ」
間一髪のところで拳を制すると、彼女の足下には冷や汗を流したブンビーが転がっていた。
「もう、あなた紛らわしいのよ!」
「仕方ないだろう! これが本当の姿なんだから」
どうやら彼は巨大なザケンナーに投げ飛ばされたらしいが、体裁を保とうとして「いやー、油断した」などと呟いている。
地面に尻もちをついたままの彼に、ローズは右手を差し出した。
「だらしないわね。もうへばったの?」
ブンビーはその手を見やると、気に入らないといった風にそっぽを向いたが、やがて苦笑しながら彼女の手をとった。
「そう言っていられるのも今のうちだよ。三十過ぎたら一気にくるからね」
「私、まだそんなおばさんじゃないもん」
軽い口調で冗談を交わしながら、ブンビーはミルキィローズの手を支えにして起き上がった。
「言っとくけど、おじさん、足手まといになるつもりはないよ」
周囲を見回して自分たちの置かれている状況を確認したブンビーは、腕の大砲を空いている反対の手で擦った。
「怪物は倒しても倒してもきりがないココ! ココ達が時間を稼ぐから、二人はガンバリーナの所に行くココ!」
ココが同じ作戦を考えていたことにローズは驚いたが、クレープも彼に同調するように頷いているのを見て、やはりそのやり方でなければ彼女たちに勝ち目がないことを知った。しかし、ブンビーが加わったことで、他に方法がない悲観的な手段が本当の勝機に変わった。
「ココリンとクレープを信じるクク! ちょっとやそっとの攻撃なんかで、やられたりしないクク!」
「分かりました」ローズは頷いて、ブンビーの方を見る。「援護をお願い」
「任せなさい!」
弾丸を装填するような金属音を響かせると、彼の腕の大砲から大量の針が飛び出した。針が直撃して消滅するザケンナーもいたが、針が刺さったまま反撃に向かってくる個体もある。そのような頑丈な相手には、反対の腕から発射される巨大な太い針が功を奏した。
彼らを取り囲んでいた怪物の壁が崩れ始めると、ローズは最も手薄になった道から攻めていった。簡単に消滅するものと手強いものがあったが、彼女が苦戦を強いられそうになると太い針が飛んできて次々とザケンナーを倒していく。
作戦は成功した。遂に怪物の群れから脱出したローズはこの勝機を逃すまいと、ガンバリーナの姿を捜した。ところが、さっきまでそこにいたはずの彼女の姿がどこにも見えない。
「何なんだい、あんたは。てっきりこっち側だと思ったのに」
その声は、ザケンナーの群れの中心から聞こえてきた。振り返ると、ローズの努力を嘲笑うかのように、ガンバリーナは先ほどまでローズ達が囲まれていた地点の空中に浮いている。
「まさか、そんな姿でプリキュアの仲間なんて言うんじゃないだろうね?」
ガンバリーナの目はブンビーを軽蔑し、見下していた。しかし、彼にとってガンバリーナの視線など何てことない。どんなに強大な力を持っていようと、ブンビーを震え上がらせることはできない。なぜなら、彼が何より恐ろしいのは、不気味な元上司の細い目と報告書の束だったからだ。
「私がプリキュアの仲間? 妙なことを言うじゃないか」
ブンビーは不敵に笑い、彼女に砲身を向けた。
「聞いて驚け! 私はプリキュアのリーダー、ブンビー様だ!」
針が発射されようとしたとき、ガンバリーナは彼の前から姿を消した。すかさず辺りを見渡して彼女の行方を追うも、ブンビーが視認できる範囲には見つからない。一旦、距離を取られたのかと彼が思ったとき、背後からガンバリーナの声がした。彼のすぐ耳元で。
「じゃあ、あんたをやればプリキュアはさぞかし悲しむだろうね」
ガンバリーナの掌には、エネルギーが凝縮した黒い球ができていた。至近距離でまともに喰らったら、無事では済まないことくらいブンビーにも分かる。しかし、彼が攻撃を避ける隙は与えられなかった。
観念して衝撃に備えたが、いつになってもそれは襲ってこない。妙に思ったブンビーが振り向いてみると、ココとクレープのバリアが、ガンバリーナの攻撃を受け止めていた。
「もたないココ!」
妖精の王が力を合わせても、ほんの数秒しか凌ぐことができないくらい敵の攻撃は強力だった。慌てて援護しようとしたブンビーは、不気味な笑みを浮かべるガンバリーナの視線が彼の後ろに向けられていることに気付く。
彼女の方に気をとられて、ザケンナーへの対処が疎かになっていた。巨大なザケンナーの拳が迫る。しかし、彼がそれを防ごうとすればガンバリーナの攻撃がココ達のバリアを破るだろう。
ザケンナーの一撃を受ける覚悟で、ブンビーはガンバリーナに向けて太い針を発射した。またも姿を晦ました彼女に針は躱されたが、追い払うことには成功した。ほっと息をつく暇もなく、彼は腕を体の前に構えた。
ところが、彼が予想していたほどの衝撃はなかった。強い風が吹き、砂埃が舞っただけで痛みは感じない。ミルキィローズが体全体で、ザケンナーの巨大な拳を受け止めたからだ。
「きみ……!」
声をかけようとしたが、そんな余裕はありそうにない。余ったもう片方の腕で、ザケンナーはローズを攻撃しようとしていた。ブンビーはその間に割って入り、彼女と同じように体を使って怪物の拳を受け止める。
「何かの為に自分自身を犠牲にするなんてくだらない……」
まるで拳と相撲をとっているような状況で、ローズはそう呟いた。
「昔、あなたが私に言った言葉よ」
ずるずると後ろに押されていたローズの足が、一歩前に出た。それを見て負けられないと感じたブンビーも、ずっと労わっていた腰を低くして足を踏ん張る。あまり見られた格好ではなかったが、そんなことを気にするのがばからしく思えたのだった。
「執念深い女は嫌われるよ」
相手の力を利用してローズは巨大な拳を払いのけると、横から回り込んで彼女の体ほどもあるそれを持ち上げた。
「お生憎さま!」
彼女の怪力に動揺したのか、ザケンナーの力が弱まった隙にブンビーも彼女と同じようにもう一方の拳を掴んだ。ローズとブンビーは目配せを交わし、合図と同時に渾身の力でザケンナーの巨体を持ち上げると地面に叩きつけた。
巨大なザケンナーとその下敷きになった一群が消滅する。しかし、彼女たちを取り巻く状況に変化はなかった。依然として大量のザケンナーが彼女たちの周囲で蠢いていた。
「やるじゃない。お遊びはここまでだよ」
どこからともなく聞こえたガンバリーナの声をきっかけに、それまではただの壁としての役割しか果たしていなかったザケンナーを含めた大群の全てが一斉に襲いかかる。ローズとブンビーの二人でまともに戦える数ではなく、ココ達のバリアで防ぎきれるはずもない。
「もうだめクク!」
悲観するクレープに同調して、ブンビーも悲鳴と絶叫の混ざった騒々しい声をあげる。
「あれを見るココ!」
絶望的な状況で、ココの声には希望を見出したような色が含まれていた。言われた通りにココの示す方向を見ると、怪物の大群の中を巨大な鳥が突っ切ってくる。その背中から、ナッツが顔を出した。
「みんな、飛び乗るナツ!」
チャンスはほんの一瞬だったが、全員がシロップの背中に乗って怪物のサークルから脱出することに成功した。しかし、ザケンナーは腕や胴体をとりもちのように伸ばしてシロップを叩き落とそうとする。シロップは器用に蛇行して地面からの攻撃を避けていったが、不意に空中に現れたガンバリーナが放つ黒いエネルギーの塊をまともに喰らってしまった。
「何回も言わせないでちょうだい。あんたらなんかに用はないんだ」
衝撃でシロップの変身は解けて、乗っていたココ達は落下するほかになかった。ローズは空中で懸命に腕を伸ばし、クレープの体を掴んだ。しかし、他の者には手が届かない。
「ココ様! ナッツ様! シロップ!」
彼らとの距離が見る見るうちに離れていく。どうあがいても、彼女にココ達を助けることは不可能だった。それでも諦めずに伸ばした彼女の手を、ブンビーが掴む。
「履歴書には書けない特技だけどね、私も飛べるんだよ」
彼はローズとつながっているのとは反対の腕で、しっかりとココ達を抱えていた。
「すまないナツ……」
「助かったココ」
そんな彼らの姿に、ローズは既視感を覚える。
「なんだか、前にもこんなことがあった気がするロプ」
ブンビーがエターナルに転職したばかりの頃、彼は同僚のスコルプと結託してプリキュア5を追いつめたことがあった。そのときの手段は、スコルプがのぞみ達を誘き出した隙に、ブンビーが妖精を人質にとるという卑劣なものだった。
それが今となっては、ブンビーに助けられている。あまりの差異にローズはおかしくなったが、笑えるような状態ではない。
「危ない!」
ブンビーの背後からザケンナーが飛びかかろうとしているのを見て、ローズは叫んだ。今の彼は両手がふさがっていて自由に身動きがとれないのだ。
すると、ココとナッツが彼の腕の中から飛び出して肩に飛び乗り、光のバリアを展開した。パルミエ王国の二人の国王による防御は強力で、ザケンナーの体は弾き返されて地面に落ちる。
「あ、ありがとう……」
ブンビーがぎこちなく礼を言っている間にも、敵の攻撃は休みなく続く。今度の攻撃にはココ達も対処できず、ブンビーは体のバランスを崩した。彼の肩に乗っていたココが振り落とされ、ローズの目の前を下へ通過していった。彼女も両手の自由を失っていたから、ココを受け止めることができなかった。
ローズは躊躇わずにブンビーの手を放し、ココの後を追いかけて落ちていったが間に合わない。ココは怪物の群れに落下してしばらく姿が見えなくなった後、地面を転がり出てきた。
「ココ様!」
綺麗に着地したローズは慌ててココの下に駆け寄ろうとするが、またしても大量のザケンナーに行く手を遮られる。
「そこをどきなさい! どかないと……」
感情が高ぶって激しい剣幕でローズは怒鳴ったが、ザケンナーに物怖じする様子はない。その群れの向こうに、倒れているココが見える。彼に興味をもったザケンナーが、暗い影のような手を伸ばそうとしていた。
「ココに触らないで!!」
この戦いの場にいた誰のものとも違う声が、辺りに響いた。その迫力に気圧されたのか、ザケンナーは伸ばしかけていた手を引っ込める。
「のぞみ……」弱々しい声で、ココは彼女の名前を呼んだ。「来たらだめ……ココ」
夢原のぞみは彼の言葉を無視して傍に駆け寄ると、その小さな体を抱きかかえた。
「みんなで決めたココ。今度はココ達が、のぞみ達を助けるって……。今ののぞみは……」
「分かってる」
ココの体を優しく地面に寝かせると、のぞみはザケンナーに囲まれているミルキィローズとクレープを見て、空中のブンビー達に視線を移した。彼女の瞳は、決して揺るがない強い意志で輝いていた。
「だけど、わたしだってみんなの為に戦いたい。みんなが傷つくのを黙って見てるなんて、できないよ」
のぞみはココを振り返って、微笑みかけた。私がこんな性格だってこと、知ってたでしょ。そう言っているみたいだった。
「昔みたいに、変身して戦えるかなんて分からないけど……でも、みんながわたしたちを大事に思ってくれてるのと同じくらい、わたしだってみんなのことを大事に思ってる」
妙な動きをされる前に倒してしまおうと考えたザケンナーが、彼女の前に立ちはだかる。しかし、のぞみは怯まなかった。
「もう二度と、みんなを失うのは嫌だから」
握りしめていたキュアモを高く掲げて、大きく息を吸う。願うように、力強く、彼女は唱えた。
「プリキュア・メタモルフォーゼ!!」
キュアモが輝き、光の渦が彼女の身体を包む。優しく、懐かしい感覚で彼女の胸はいっぱいになった。
渦の流れに身を任せると、空を飛んでいるように思えた。鳥みたいに力強い羽ばたきではなく、ひらひらと華麗に舞う蝶のようだった。気持ちは高揚し、力が漲ってくる。
熱い血液が体内を駆け巡るのを感じた。彼女は拳を固く握り、唇を噛み締める。
やがて、ピンク色の光は蝶となってのぞみの胸に溶けた。小さく頼りなげなその蝶が、のぞみに力をくれる。それは、夢原のぞみが絶対に手放そうとしなかった希望であり、仲間を思う強い意志だった。
「大いなる希望の力! キュアドリーム!!」