プリキュアオールドスターズ ~プリキュア5の同窓会~   作:おじ

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3.紳士は黒髪がお好き

「よーし、同窓会を開くぞー。けってーい!」

「……何の?」

 

 いきなりそんなことを言いだしたのぞみに対して、りんは呆れて尋ねる。

 

「決まってるじゃん。わたしとりんちゃんと、うららとこまちさんとかれんさん! できればココ達も!」

「あー、はいはい。なるほどね。のぞみも坂本さんから連絡があったわけだ」

「えっ、どうして知ってるの!?」

 

 のぞみの思いつきが何に影響されてのものか見当をつけたりんは、ずばり言い当ててみせた。

 

「あたしにも連絡あったから。何事かと思ったよ」

「かれんさん、お医者さんになるんだってね! これはみんなでお祝いしなきゃ」

「それより、のぞみはいつになったら先生になるの?」

「もう、りんちゃんの意地悪」

 

 中学のときと変わらないやりとりを交わす彼女たちも、容姿に多少の変化はあった。スポーツ少女だった夏木りんは、服飾の専門学校に通うため猛勉強をして視力が下がり、仕事中は眼鏡をかけている。

 

「お医者さんのかれんさんと、二十三歳フリーターの夢原のぞみさん。時の流れってのは残酷だねぇ」

「フリーターじゃないもん。留年しただけだもん」

 

 大学進学までに運を使い果たしたのぞみは、この春から大学生活六年目に突入する。学業の神様も彼女を卒業に導くほどの力はないようで、のぞみは来年度に備えてバイトに明け暮れる日々を過ごしていた。

 

「順調に卒業できてたら、今ごろ教壇の上に立ってたのかね」

「だから、お父さんとお母さんに迷惑かけないようにこうして学費を稼いでるんでしょ」

「言っとくけど、ウチもそんな余裕ないんだから。春休みだけだよ?」

 

 りんの実家が経営するフラワーショップ夏木では、臨時のバイトとしてのぞみを雇うという博打ともとれる人事を行っていた。もちろん、雇用の責任者は夏木りんである。

 

「わかってるって。ありがとね、りんちゃん」

 

 夢に向かって真っすぐなのぞみを見ていると、どうしてもりんは彼女を応援せずにはいられなかった。自分と違って、のぞみは夢を失っていない。

 失ってほしくないとも思っていた。

 

「あーあ、かれんさんはお医者さん、こまちさんは出版社、のぞみは先生か……」

「そういえば、この前まどかさんと会ってちょっと話したんだけど、こまちさん今は実家の和菓子屋を手伝ってるんだって」

「え? 会社辞めちゃったの?」

「そうみたい……」

 

 驚きながらも、りんは心のどこかでほっとしている自分に気付く。残念そうなのぞみを見て、自分の性格を嫌悪してしまうほどに。

 

「ってことは、こまちさんもあたしと同じか……。やっぱり現実は厳しいね」

「りんちゃん……」

「ま、あたしはお花もこのお店も好きだから、別にいいんだけどさ」

 

 店内に並んである花を眺めながら、りんは嬉しそうに言う。

 小さいときから手伝ってきた花屋の仕事と、専門学校で二年間勉強したアクセサリー関連の仕事。二つを天秤にかけ、彼女は前者を選んだのだ。

 

「来年こそは卒業するんだよ。あたしにできることがあったら、何でも言って」

「……うん。ありがとう、りんちゃん」

 

 二十年近い付き合いになる幼馴染のりんに対して、のぞみはどんなに感謝しても足りないくらいの気持ちを抱いていた。

 プリキュアとして戦っていたときも、りんは自分の苦労などは一切口にしないで、のぞみの支えになってくれた。

 

 今だって、彼女は夢を諦めなければならなかったにも関わらず、のぞみの夢を応援してくれている。のぞみはそれが嬉しかった。

 

「それでね、りんちゃん。同窓会のことなんだけど、どう思う?」

 

 しばらく困ったような表情を浮かべて、りんは言いにくそうに口を開いた。

 

「難しいんじゃない? かれんさんはこれから忙しくなるだろうし、ココとナッツだって今や一国の王様だよ?」

「でも、聞いてみるだけ!」

「それに、うららだって一応は芸能人なわけだし……」

「うららなら、きっと来てくれるよ」

 

 能天気な発言だが、呆れると同時に不思議とのぞみがそう言うのならそうなのかもしれないという、根拠のない安心感を得る。

 

「とりあえず、誘うだけ誘ってみるかな。あたしはこまちさんとかれんさんに連絡するから、のぞみはうららとココ達をお願い」

「うん、わかった」

 

 フラワーショップ夏木は、従業員とバイトの格差がなく、勤務時間中に携帯電話の使用が許されるホワイト企業であった。

 

 

 

 机の上に置かれた携帯電話を見つめていた春日野うららは、着信音が鳴った瞬間、早押しさながらの素早さでそれを手に取った。

 

「はい! もしもし」

 

 気ばかり焦って、声が裏返る。電話口に出た彼女は相手を確認することも忘れて、受話器を耳に押しつけた。

 

「あ、うららちゃん? 高尾だけど……」

「はい」

 

 聞きなれた男性の声を耳にして、うららは心臓の鼓動が早くなるのを感じた。

 彼がもたらす報告を、彼女は心待ちにしていたのだ。

 

「この前のオーディションの結果だけど、だめだったよ」

 

 途端に興奮は醒めて、高まっていた血圧や脈がすうっと引いていく。

 

「そう……ですか……」

「今から事務所に来れる? 話したいことがあるんだけど」

「はい、分かりました……」

 

 電話を切った後、一分だけ自分に落ち込む時間を与えた彼女は、やがて頬を軽く叩いて立ち上がり鏡台の前に座った。

 化粧ののりに満足すると、帽子と眼鏡を身に着けた姿を鏡に映しだす。

 

 もしも春日野うららに熱狂的なファンがいて、彼女が中学生のときにリリースされたCDのタイトルと今の彼女とを見比べたら、さぞかしがっかりするに違いない。

 一束にまとめた後ろ髪を左肩に回した現在の髪形は、帽子を被る度に解かなければいけなかったツインテールよりも楽であり、大人びた雰囲気を醸し出していた。

 伊達眼鏡をかければ、もはや昔の彼女とは別人だ。

 

「誰か気付いてくれないかな……」

 

 ほとんど意味のない変装に自虐的な笑みを浮かべ、慌てていつもの営業スマイルに切り替えた。

 

 

 

「言いにくいんだけど、どうもうららちゃんの容姿がだめみたいなんだ」

「……え」

 

 いきなりマネージャーにそんなことを言われて、うららは言葉を失った。

 

 決して自惚れやすい性格ではなかったが、小さいころからテレビや舞台に出演し、アイドル活動の経験もある彼女にとって、容姿が原因でオーディションに落ちるなんて思ってもみないことだった。

 

「あ、いや、顔のことじゃなくてね」

 

 ショックを受けた様子のうららを察して、彼は慌てて言い直した。

 

「今回の役は黒髪の大人っぽいイメージだったから、うららちゃんの髪の色がどうしても気になったんだって。演技はよかったって言ってもらえたんだけど……」

「髪の色、ですか……」

「うん。そこで提案なんだけど、髪を黒く染めてみるつもりはない?」

 

 膝の上に置いた手をじっと見つめて、うららは何も言わない。

 

「ほら、うららちゃんが希望する役って清楚だったり落ち着いた役柄が多いでしょ? だったら黒髪の方が、オーディションのときに好印象だと思うんだよね」

「……嫌です」

 

 俯いたまま、はっきりとした口調でうららは言った。

 フランス人である父から遺伝した髪は、彼女にとって誇りであり、それをオーディションに受からなかった言い訳にはしたくない。

 

「それなら、アイドルとしての仕事も続けてくれないか? うららちゃんは女優よりアイドルに向いてると、僕は思うんだけどなぁ」

 

 耐えきれず、うららは立ち上がってマネージャーを見下ろした。

 

 彼女をデビュー当時から支えてくれた鷲雄と入れ替わりで、二年前から春日野うららのマネジメントを担当している高尾という男。

 人柄もよく、一生懸命に仕事の話をもってきてくれるが、うららはどうしても彼のことが好きになれなかった。

 それは、彼がうららのことを、女優としての活躍も視野に入れているアイドルとしか見ていないからだ。

 

「わたし、もう二十二歳なんですよ!? アイドルなんて……。それに、わたしは女優になりたくてこの世界に入ったんです」

 

 高尾は大きなため息を吐いて、ゆっくりと立ち上がった。視線の高さが逆転され、今度はうららが見下ろされる。

 

「だけど、うららちゃんがオーディションでドラマの役を取れないからには、アイドルとして稼いでもらうしかないんだ。もう二十二歳って言うなら、そういった事務所としての事情もわかってくれるよね?」

 

 何も言い返すことができず、うららはその場に立ち尽くしていた。

 気が付くとマネージャの高尾は部屋から出て行った後で、彼女は一人でその場に取り残された。

 

 静かな空間に、時計の秒針が時を刻む音だけが響く。

 秒針はあんなにゆっくり動いているのに、あっという間に二十二歳になってしまっていた。

 平日の昼間。ほとんどの人は働いたり、勉強したりしている。それなのに彼女は、何もしないで時計を見つめていた。

 

「あの頃に戻りたいな……」

 

 ぼそっと呟いたそのとき、彼女の携帯電話が鳴った。メールの着信だ。

 

 差出人の名前は夢原のぞみ。

 その名前を見た途端、うららは数秒前に泣き言をこぼした自分を責めてやりたいと思った。

 

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