プリキュアオールドスターズ ~プリキュア5の同窓会~   作:おじ

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33.ドリームガールズ

 瞼を開けているだけで、彼女たちは精一杯だった。

 

 すべてを食い尽くす闇の力。その脅威に対抗するには荷が重すぎる。

 花屋の跡継ぎ、落ち目の女優、定職を捨てた作家志望、大学を出たばかりの医者の卵。伝説の戦士プリキュアに変身できたからといって、別人になれるわけではない。彼女たちの肉体と精神は、限界に達していた。

 

 砂利の冷たい感触が、指先に心地よく感じられる。低温に身体が馴染んできたらしい。小石の転がる音が、やけに大きく響いた。息を吸って、息を吐く。その間隔が次第に緩やかになっていく。

 あとは瞼を閉じてしまえば、安らかな眠りにつける。それだけで、彼女たちにとっての世界は真っ暗な闇と化す。痛みや苦しみから解放される。

 

 だけど、そうしてはいけないと心が訴え続けている。そっちへ行ってしまえば二度と戻っては来られないと、誰かが叫んでいる。誘惑を退け、苦痛を伴う世界に留まるべきなのか。朦朧とする意識では、その判断さえつかない。

 

 ――何の為に、自分はここにいるのだろう。

 

 

 

 倒れたまま起き上がらなくなったプリキュアの安否は、妖精たちが避難している場所からでは分からない。やはり十年という歳月は大きすぎたのか、それとも敵の力が強大すぎるのか。いずれにせよ、彼女たちを戦わせてしまったのは自分たちの力が及ばなかったからであり、責任と自己嫌悪が心を占領する。

 だからこそ、彼らは諦めるわけにはいかない。妖精が希望を捨ててしまえば、本当にそれは失われてしまう。空気がなければ炎は燃えない。光が届かなければ、宝石も輝きを放つことはない。大地が滅びれば、泉も涸れる。そうなれば、すべておしまいだ。

 

「ミルクも戦うミル!!」

 

 見るに堪えなくなって飛び出していこうとするミルクを、ナッツとクレープが制した。

 

「無茶ナツ! プリキュアを信じるナツ!」

「そうだ。今の私たちが出ていったところで、何ができる?」

 

 絶望の力をブンビーはよく知っていた。使っていてあまり気持ちのよいものではなかったが、集まった絶望が濃く、多いほど強力なものとなる。ここにいる自分たちが怪物の養分となるのだけは、避けなければならない。今の彼にできるのは、それだけだった。

 

「我々はここで見ているしかないんだ」

 

 部下と同僚を救えなかった記憶が蘇ってくる。仲間を消され、組織での立場を危うくした過去。命令に従い、嫌な上司に逆らえず、最後には要らなくなった駒のように捨てられた。

 それがサラリーマンの宿命なのか。大きな存在を前に媚び諂って、保身のためだけに動く。プリキュアと出会って変わったと思っていたのに、本質はまるで変わってない。そんな自分を彼は、情けなく思った。

 

 ――頼みがあるココ。

 

 大切な人のために、彼は闇を恐れず飛び込んだ。

 

 ――ミルクも戦うミル!

 

 十分すぎるほど尽力したのに、まだ無茶をしようとする者がいる。

 

 ――ブンビーさん、ありがとう!

 

 感謝の言葉を受け取るには、やり残したことが多すぎる。

 妖精と結んだ契約が残っている。彼の仕事はまだ終わっていない。

 

 

 

 四人のプリキュアは地面に転がったまま、微動だにしない。

 

 意識を失ったか、指一本動かす力も残されていないのか。とにかく彼女たちが戦意を喪失したのなら、ガンバリーナにとって憂慮すべき事柄はすべて解消されたことになる。

 

「やっとくたばったか。でも、アタシゃ容赦しないよ」

 

 人違いだとしても、知ったことじゃない。ジャアクキングがいなくなったせいで、彼女の人生は奈落の底へと突き落とされたのだ。這い上がれないなら、引きずりおろすまで。

 

「夢と希望は失われた。あんたたちに残されたのは、惨めな未来だけ」

 

 相変わらず、プリキュアに反応はない。彼女の声が耳に入らないというのなら、その方が幸せかもしれない。恐怖に震えることなく、終焉を迎えられるのだから。

 

「それも、アタシが奪ってあげる」

 

 ザケンナーが巨大な拳を振りおろし、大地を砕く。その衝撃でプリキュアの身体は瓦礫と一緒に跳ね、そして落ちる。受け身をとることもなく。

 

「分かったかい、これが現実だよ。夢なんてものは所詮、まやかしにすぎない」

 

 夢の力、夢のために戦う伝説の戦士など絶望から逃れるためにでっちあげられた虚構であり、存在そのものが間違っているのだ。偽りに満ちた、欺瞞の化身。綺麗事ばかり並べる太平楽。

 

「人を夢中にさせ、虜にする。すべてを犠牲にしてでも叶えたいものだと、錯覚させる」

 

 不運にもプリキュアとしての力を与えられ、輝かしい未来が待っていると盲信する彼女たちの目を覚まさせるのは難しい。大人になると自分の考え方が凝り固まっているから。

 

「そして、夢に破れたとき、それは絶望に変わる」

 

 もっと早くこの事実に気づいていたら、五人の若者が犠牲になることはなかった。幻影を追って人生に迷うこともなかったのに。ガンバリーナは初めて、彼女たちに同情した。

 

「それがあんたらのすがっている、夢の正体だよ」

 

 希望の光はすっかり鳴りを潜めた。真実を暴かれて、無責任にも傀儡の糸を切り離し自分だけとんずらしたというわけだ。信じていたものに裏切られたプリキュアには、何の救いもない。

 

「だから……もう、抗うんじゃない」

 

 掌に闇の力を凝縮させる。人の親として、人生の先輩として、ガンバリーナが彼女たちにしてやれることはただ一つ。夢の呪縛を終わらせる。肉体と未来は滅ぶが、希望も絶望もない無の世界は残酷な現実よりよっぽど心地よい場所のはずだ。

 そうすればきっと、ガンバリーナも余生に意義を見出せる。彼女の目的を阻むものは、何もかも取り除かれた。

 

 

 

「わ、私には……まだ大きな夢があるぞぉ!!」

 

 場違いなかすれ声が、辺りに轟く。

 

 ガンバリーナは攻撃をやめて、羽をもぐだけで見逃してやった虫けらを顧みた。

 隠れるのをやめたブンビーは、膝と声を震わせて、額の脂汗をハンカチで拭う。ネクタイをきつく締め直し、スーツの汚れを払うと、一人の働く男として堂々と語りはじめた。

 

「会社をもっと大きくして、社長に賃上げを要求する! ローンを完済させて、ピカピカの新車! 憧れのマイホーム!! 犬も飼うぞ! それから……そうだ、社員みんなで慰安旅行! 温泉がいい!」

 

 冷たい風が広場を吹き抜けたが、ブンビーは挫けない。つれない反応や無視に対する免疫は中間管理職時代に鍛えられた。依然として彼は絶望の力を前に立ちはだかっていた。

 

「くだらない。そんなもの、夢とはいわないよ」

「あ、そう?」

 

 蛇に睨まれたカエルのごとく、捕食者の気味の悪い大きな目にブンビーは恐縮する。もっとも、彼はカエルではないから、相手に悟られないようにじりじりと後退りを始めていた。言い返してやりたいが、こちらが標的になれば妖精を巻き添えにしてしまう。

 真っ向から否定され、悔しくても、ぐっと堪えなければならないときが男にはある。心の傷がサラリーマンの勲章なのだ。誰かが肩を叩いてくれたら、その傷は癒える。背中を押してくれたら、上司にだって逆らってやる。

 

「立派な夢クク!」

 

 そして、彼は下げていた足を戻す。横から歩み出たクレープは昂然たる口ぶりで、彼の夢を肯定してくれた。

 

「向上心に溢れ、幸福を願う。クレープはいつも、国民が希望をもてる国でありたいと、そう思っているクク!」

「陳腐な願望で満足できる人生なんて、不幸そのものさ」

 

 出世をして、会社での地位を確立する。仕事ばかりの人生に、いつの間にかたくさんの目標ができた。独立して彼が築き上げてきたものは、小さな羽で高みに到達するための階段だったのだ。

 

「胸を張って語れる夢があるのなら、それは誇るべきことクク!!」

 

 王女と会社員、妖精と怪人。立場は雲泥万里も違うが、未来に進む資格は平等にもっている。ブンビーはもう陰に戻ろうとはしなかった。少女たちが抱いた夢の結末を、しっかりと見届けたい。

 

「そうとも! 私の人生は不幸なんかじゃない! 私の夢は、くだらなくなんかない! そりゃ嫌なこともあるが……残業や休日出勤の数だけ、給与明細をもらったときの喜びは大きいのだ!!」

 

 虫には虫の、意地がある。ブンブン飛び回り、下手に触ると小さな針でちくりと刺す。花に種を運ぶのが、ハチの仕事なのだ。

 

 その騒がしい羽音は、ちゃんとプリキュアの耳に届いていた。

 

「夢はアタシたちからすべてを奪い、何も与えちゃくれない! それなら初めから、夢なんて見せないほうがいいじゃないか!」

 

 彼女の演説に賛同するものは、一人もなかった。ナッツたちは絶望も、夢の力も知っている。だから、どちらを信じるべきかは自分で決められる。

 

「パルミエ王国の国民は皆、一度は絶望に囚われたナツ。だけど、苦難のときでも明日を信じて、前に進む勇気を得たナツ」

 

 国が滅びた責任を感じ、後悔ばかりしていたナッツにプリキュアが教えてくれた。失敗したら、やり直せばいい。挫けずに挑戦を続け、成し遂げた少女がいたことを彼は知っている。

 

「夢は何ものにも侵されることのない、自由の意思ナツ! それはどんなに絶望的な状況でも、決して失われることはないナツ!!」

 

 時には涙を流すこともある。伝説の戦士と言えども、中学生の女の子。大人の世界は厳しく、夢への道は険しい。それでも、みんなの前ではいつも笑っていた。彼女のそんな一面を知って、シロップは勇気をもらったのだ。

 

「みんながシロップを、キュアローズガーデンに連れて行ってくれたロプ」

 

 どこから来たのか、自分が誰なのかも分からない。記憶を失い、たどり着いたパルミエ王国でも、飛行能力のため疎外感に苛まれた。誰も信用できない、自分の力のみでキュアローズガーデンへの鍵を見つけてみせる。彼女たちと出会うまで、シロップはそうやって生きてきた。

 

「独りきりだと思っていたシロップに、みんなが帰る場所をくれたロプ。目指す場所と仲間がいたから、シロップはどこまでも飛んでいけたロプ」

 

 微かに、光が映った。その光はどんどん近づいてくる、大きくなる。

 暗闇に慣れた眼には強すぎるが、目を背けてはならない。たしかな眼差しで、受け止めなければ……。

 

「ミルクは……ココ様とナッツ様の、お世話役ミル」

 

 変身する体力がなくても、自力では立っていられないほど疲弊していても、足手まといと言われても構わない。ミルクが風邪で倒れたとき、守ってくれた人がいる。一生懸命に看病をしてくれて、ぼろぼろになるまで一人で戦っていた。あの日のことを、ミルクは絶対に忘れない。

 

「でも、お二人のお世話だけじゃないミル。どんなに苦しいときでも、ひとのことを真っ先に考えられる」

 

 優しくて、温かい微笑み。ピアノが得意で乗馬もこなすのに、りんごの皮むきは苦手。強くて凛々しいけど、臆病で寂しがり屋。ミルクにとって、憧れの存在。大好きな人。

 

「ミルクは、そんなお世話役になりたいミル!!」

 

 灰色の世界で、光がはじける。そんな気がした。淀んだ意識が覚醒する前触れ。朝陽を浴びた瞬間の、全身に元気がみなぎる感覚。苦痛と疲労は癒えないけれど、もうちょっとだけ……頑張ってみたい。

 砕かれたコンクリートの塊はゴツゴツとしていて、やっぱり空は曇っていた。草木は枯れ果て、空気は肌寒い。だけど、どんなときでも、どんな場所にも、希望は生まれる。

 

「妖精ってのは、まったくバカな生き物だよ」

 

 闇の力の矛先は、彼らに向けられた。ありふれた願望、民の幸せ、未来を信じる心、仲間がくれた勇気。それらが無に帰するほどのエネルギーを、ガンバリーナは掌に蓄えていた。ましてや、他人にかける優しさなどいらない。家庭を守るだけで精いっぱいなのに。

 

「黙って隠れてりゃよかったものを!!」

 

 不純物のない真の暗黒。彼女が掌握する世界には、絶望さえあればいい。足下も見えず、地面に這いつくばって生きる。何度も転んで苦しみを求めることはない。

 泥にまみれ、埃をかぶり、決して空を仰ぎ見るな。憧れを胸に飛ぼうとしても、地面に落ちるだけなのだから。

 

「待ち……なさい」

 

 目を覆っても、下を向いても、太陽の光は差し込んでくる。僅かな隙間から闇の領域を侵す。ガンバリーナは初めて、彼女たちに恐怖した。

 

「なんで……どうして立ち上がる? どうして立ち上がれる!?」

 

 満身創痍で瞼の筋肉も動かせなかったはずなのに、キュアアクアは空を見上げていた。あの雲の向こうに、太陽がある。無風だから湿っぽい空気が停滞しているだけで、いずれ風が立てば流れてしまう。そんなことを思う彼女にとって、ガンバリーナの問いは愚問にほかならなかった。

 

「夢が、あるからよ」

 

 瓦礫が崩れて重心を失い、地面に膝をつく。それでも彼女は、もう影を見つめることはしなかった。力を振り絞り、絶望を押し返す。彼女の熱い瞳が仲間を励ます呼び水となった。

 

「あなたの言うとおり、夢がまやかしなら……かれんはどうなるの」

「そうだ……かれんさんは努力して、医者になる夢を叶えた」

 

 親友であるキュアミントにとって、どちらが先にやりたいことを見つけられるか競っていたキュアルージュにとって、水無月かれんが実現させた夢は絶望に対抗する大きな武器だった。

 しかし、彼女は首を横に振り、はりぼての武器を放棄する。

 

「違うの」

 

 病院でうららと話したときに感じた違和感は、とっくに拭い去られていた。

 

「そうじゃないの」

「……かれん?」

 

 静かな、はっきりとした口調で、彼女はみんなの誤った認識を訂正する。勉学だけに費やした九年もの歳月。教科書の難問は解けるのに、解かなければいけない問題には手をつけていなかった。

 試験で高い点数をもらっても、間違いだらけ。じいやの優しさとミルクの勇気が、正しい答えに導いてくれた。

 

「医者になって……病気や怪我で苦しんでいる人の、力になりたい」

 

 雲の切れ間から、光がこぼれる。それは迷子を導く、天使の梯子。夢に手を伸ばすための足がかり。

 

「それが私の、本当の望み」

 

 どうして忘れていたのだろう。十年前、みんなと出会って心から願った。義務感や使命感からではない。ただ彼女がそうしたかったのだ、みんなを助けたいと。騒がしくてゆっくりとはできなかったけれど、みんなと過ごしたお茶の時間はとても楽しかったから。

 どんなに苦しいときでも、ひとのことを真っ先に考えられる。ボロボロになっても戦うミルクの姿に、気づかされた。

 

「私の夢は、ここから始まるの」

 

 初めてやりたいことを見つけたあの日の気持ちが、よみがえる。純粋無垢な子どものように彼女の表情は輝き、心は喜びに満ちていた。

 未来への期待。今が楽しくて、明日が待ち遠しい。そんなかれんの穏やかな微笑みを受けて、うららの頬も緩む。

 

「そうでした」

 

 うららはいろんな人の支えがあって、今ここにいる。ずっと仕事を応援してくれている家族、勇気を分けてくれた二人のマネージャー、希望を届けてくれたシロップ。記憶にあるお母さんの幸せそうな笑顔。

 客席に座っている見知らぬ誰か、テレビの向こうにいる視聴者の目を輝かせたくて、この仕事をしていたのだ。

 

「お芝居を通して、みんなに夢を分け与えたい。みんなを笑顔にしたい」

 

 夢の力を信じようとしない者が、ひとに夢をみせられるはずがない。現実はロマンスやコメディと違って淡々とした毎日だが、ありふれた風景の中にも輝きは散りばめられている。みんながそれを見つけられるといい。

 彼女に戦場は似合わない。春日野うららが立つべき場所は、スポットライトに照らされた舞台の上。

 

「だから、わたしは女優になるの」

 

 ずっと迷って、独りで悩んで答えが出ないことも、仲間が教えてくれる。ふとした言動で、それまで考えつきもしなかったアイデアがひらめくこともある。

 表現方法は異なれど、同じ夢の語り手としてうららの想いは秋元こまちに伝わった。

 

「私は……小説家になる夢を、一度は諦めた」

 

 傷つきたくなくて、挑戦をやめた。熱に浮かされて書き進めた物語を、終わらせたくなかったのだ。彼女が筆を執らなければ、ラストシーンは永遠にやってこない。

 

「夢は自分が諦めないかぎり、失われることはないのに……」

 

 勇気を振り絞った途端にこれまでのことや、これからの未来まで音を立てて崩れてしまうのではないかと、ずっと怖かった。何も失いたくなくて、殻に閉じこもりわが身を守る。そんなことに必死で、自分の夢を守ってくれている人の存在に気づけなかった。

 

「私、文章を書くことがとても好き。小説家になることは、大切な夢なの」

 

 静かに見守ってくれていた姉と、いつも励ましてくれたナッツ。誰だって未来は怖かったはずだ。それでも今を必死にもがいて、夢に向かって懸命に努力した。自分が変われば、ラストシーンもきっと変わる。

 

「だから、諦めたくない!!」

 

 風前の灯火はみんなの情熱によって、また盛んに燃えはじめた。一人だけ燻っているわけにはいかない。

 尊敬の眼差しで、夏木りんはみんなを眺める。夢をみる彼女たちの表情は、だれかさんにそっくりだった。

 

「あたしにはできなかった。あの頃の夢を、追い続けるなんて……」

 

 二十三歳、今ならまだ間に合う。だけど、彼女にそのつもりはなかった。心配そうな顔をするこまちに、安心してくださいと視線で合図を送る。

 

「でもね、そのかわり新しい夢ができたんだ」

 

 湿った火薬はもう使い物にならないが、火種と砲台が残されているのなら花火は打ち上げられる。形や色は様々だが、夢のかけらをまぶしたそれはきっと綺麗に咲くはずだ。

 

「りんさんの……」

「新しい、夢?」

「聞きたいです!」

 

 照れくさいのと、早くみんなに自慢したい気持ちとがまぜこぜになって、りんはとりあえずはにかんだ。のぞみが戻ったら、すぐに報告しよう。やっと見つけた、この夢を。

 

「ゆうとあいの夢が、叶うこと」

 

 それは世界中でただ一人、夏木りんだけが抱けるかけがえのない夢だった。

 

「……素敵な夢ね」

 

 医者になって多くの人を救おうとするかれんの夢と比べたら、霞んでしまいそうなありふれた夢。だけど、みんなは嬉しそうに微笑んでくれた。

 

 みんなの夢、そして自分自身の夢を守るためなら、プリキュアは何度だって立ち上がれる。

 

「あたしたちは、夢にすがって生きてるんじゃない」

 

 アクセサリーのデザイナーにはなれなかった。挫折を経験した人に同調し、才能と環境に恵まれた人を妬んだこともある。現実なんてこんなものかと、未来に見切りをつけたこともあった。

 弟と妹の夢を知らないままだったら、思い出すことはなかっただろう。自分のつくったものを喜んでつけてくれた花嫁を見たときの、あの気持ち。もっとたくさんの人を喜ばせたいと思った、夢の根底にある願い。

 

 花を売る仕事でも、お客さんの笑顔にふれられる。店番を代わってくれた二人に、ケーキでも買って帰るとしよう。飲み物は紅茶か、オレンジジュース。

 キュアルージュの内に燃え上がった情熱の炎は、何ものにも鎮められない。

 

「夢は手の届かないくらい遠くにあるから、だから懸命に手を伸ばして、一歩ずつ足を踏み出すの」

 

 豆大福の味で喧嘩をした父と姉のように、自分の夢に誇りをもつべきだった。障害にぶつかり、葛藤があるからこそ、物語にドラマが生まれるのだ。結末はどうあれ、挑戦しないことには始まらない。

 

 失敗したときのことばかり考えて立ち止まっていた。不安に苛まれ、物事を難しく捉えすぎていた。もっと能天気でもよかったのに。

 キュアミントは、安らぎのプリキュアなのだから。

 

「そうやって叶えるものだから、夢は輝いて見えるんです」

 

 お母さんが立っていたあの舞台に立つまでは、絶対に諦めない。そう決めたはずなのに、もらえる仕事を惰性で続けるだけの日々。なにを目指すのか、分からなくなっていた。頑張っても認めてもらえないと、子どもっぽくふて腐れていた。

 頑張った分はきっと、みんなに届く。この言葉を忘れて。

 

 差しのべられたシロップの手。次こそは、もう迷わない。彼女にはいきたい場所がある。そこにたどり着くまで、倒れるわけにはいかない。

 綺麗に磨かれた原石は、燦然と輝く。キュアレモネードの笑顔のように。

 

「私たちの夢は誰にも、消させはしない」

 

 みんながいなくなって、寂しかった。もう自分の心に嘘はつかない。一人ぼっちじゃない夜は久しぶりだった。今度は妖精だけじゃなく、みんなを招いて若者らしく一晩中騒ごう。アルコールとセレブ堂のシュークリームは、合わないかもしれないけれど。

 

 知性とか落ち着きなんて、今はどうでもいい。限界を決めるのは自分であって、振り絞れる最後の一滴がある。それは小さな波紋を起こし、大きな力となるだろう。

 ひと粒の涙も零させない。雨のあとに見える虹を、みんなと一緒に眺めたいとキュアアクアは願った。

 

 闇を支配するガンバリーナと絶望の怪物を前にして、夢と希望の戦士たちはそれぞれの足でしっかりと立っていた。

 空から差しこむひと筋の光を見上げて。

 

「返してもらうわよ! 私たちの、ドリームを!!」

 

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