プリキュアオールドスターズ ~プリキュア5の同窓会~ 作:おじ
中学二年生の夢原のぞみは、放課後にナッツハウスを訪ねるのが日課になっていた。
先生の仕事が残っているココとは一緒に帰れないけど、そこにはナッツとミルクとシロップがいて、部活や委員会の後でみんなも自然と足を運ぶ。宿題でわからないところがあれば教えてもらえるし、お腹が空いたときはお菓子やホットケーキが食べられる。なによりも、みんなと一緒にいられる特別な場所だった。
それが今となっては、最後の砦。サンクルミエール学園と同じようにナッツハウスも空っぽで、いつまで待ってもみんなが現れなかったらとりつく島もなくなる。彼女はまず、家に帰ってみることにした。
学園の外に見えた人影に彼女は安堵したが、やはりどこかがおかしい。通い慣れた通学路のはずなのに、まるで知らない世界のように感じられた。すれ違うのは、誰でもない他人ばかり。いつも公園で子どもを遊ばせている主婦、同じ時間のバスに乗る会社員、彼女の帰りを迎えてくれる隣人の姿が、どこにもない。
自分の存在が間違っているかのような不安を抱えたまま自宅に帰りついたものの、玄関の前に立った時点で予感がした。試しにドアノブを回してみたところ、やっぱり開かない。かばんを探ると、果たして鍵があった。
「ただいま……」
返事はない。母は美容師の仕事に出て、父は童話作家として講演会の用があったかもしれない。両親の不在を確認して、のぞみは自室へと上がった。
当然ながら、彼女の部屋はあの頃のままだった。十年の間に大がかりな模様替えをしたつもりはないが、変化は少なからずある。なくしたものや、捨てたもの。新しく買ったもの。いつまでも置いてあるのはベッドと勉強机、そしてその上に飾ってある写真立てくらい。
学園のテラスで撮った、みんなとの写真。まだすべてが未来だったあの頃。止まった時間の中で、五人は笑っている。
――みんなに会いたい。
その一心で、彼女は寂寞の街に引き返した。
道行く人々は、やにわに走りだしたり立ち止まったりして見知った顔をさがそうとする彼女に目もくれず、通り過ぎていく。頭の中は仕事の段取り、先のスケジュールで埋め尽くされ、それぞれに目的地がある。
彼らの足取りは自信に満ちていた。異様な世界に迷い込んだ少女と違って、どこに行って何をなすべきか、はっきりと分かっているからだ。
声をかけたら挨拶を返してくれそうな、ちゃんと目を見て話してくれそうな相手を求めて、ふらふらとさまよう。フラワーショップ夏木と和菓子屋こまちを訪ねて人心地ついたのも束の間、それはかえって彼女の孤独を際立たせる結果におわった。
部活仲間とコンビニで買い食いをして帰る夏木ゆう、携帯電話を片手に友達と楽しそうに話す夏木あい。常連客を店の前まで見送る秋元まどか。十四歳の夢原のぞみを差し置いて、彼女たちの時計はしっかりと十年の時を刻んでいた。
すっかり狼狽したのぞみは、近くにあったベンチに腰かける。今の彼女には、友人や落ち着ける居場所より安息が必要だった。だれかが置き忘れた新聞を何気なく手に取り、小さく印刷された活字を眺める。
十年前のニュースはかえって新鮮だった。とっくに解決した事件、忘れようとしていた天災、懐かしいテレビ番組。二時間ドラマの出演者の欄に、春日野うららの名前がある。そういえば、表紙にこんなタイトルが印刷された台本を片手に、うららが台詞の練習をしていたのを覚えている。
あちこちから引っぱりだこの売れっ子とはいえないものの、うららは歴とした女優だ。ずっと小さいころから、大人に混ざって仕事をしている。ココと出会うまで自分のやりたいことが分からないでいたのぞみとは違い、幼少期から夢に向かって行動を開始していた。
新聞を畳もうとすると、一面の下部に設けられた広告欄に目が留まった。やたら難解そうな書籍広告の横に、小説コンクールの募集要項が記載されている。企画主催は誰もが知っている大手出版社だが、秋元こまちの事情を知っている者にとってはより馴染みのある社名だった。
家業の手伝いをしながら小説を執筆するこまちも、作品が世間に認められないかぎり職歴に空白の期間を残すが、のぞみと同列ではない。有名大学を四年で卒業し、誰もが羨む企業に入社する能力がある。色んな言葉を知っていて、たくさんの文章が書ける。のぞみがどんなに国語の勉強を頑張っても、きっとこまちのようにはなれない。
いつから聞こえていたのか、サイレンの音が近づいてきたと思ったら、あっという間に彼女の目の前を救急車が通り過ぎた。どこかの誰かが怪我をしたか、病に倒れたらしい。人を救うというのは、失敗の許されない責任の重い仕事。水無月かれんほど優秀な人間でないと、務まらないだろう。
成績は学年トップ、運動も得意な才色兼備の生徒会長。全校生徒の名前と顔を把握しており、要望があれば無理難題でも真剣に取り組んでくれる。教師からの信頼も厚い、みんなの憧れの的。
同じ中学に通っていたというのに、社会に出た途端ずいぶんと引き離された。自分とは違う世界の住人。井の中から、彼女たちは大海に出たのだ。夢原のぞみを置き去りにして。
ずっと一緒にいてくれたのは、夏木りんだけ。弟と妹のために夢を諦めて、のぞみの学費を援助している。対等な友達といえるのだろうか。彼女の世話焼きな性格につけこんで、甘えていただけなのに。
昔からそうだった。いつもりんに頼りっぱなし。試合の度に運動部の助っ人として大活躍。手先も器用で、ナッツハウスに並べる商品のデザインを任されていた。親同士が仲のいい幼馴染だから気づけば一緒にいたけれど、彼女だって才能に恵まれた人物だ。
のぞみは違う。九九や漢字を覚えるのにみんなの倍かかった、みんなにできることが上手くできない。小学校の授業中、どうして分からないのかが分からなくて、どうしたらいいのかも分からなくなって、かなしくなって、いやになって、頭の中がぐちゃぐちゃになって、涙がこぼれた。才能がないのだと、思い知らされたようで。
「わたしも、がんばるもん」
すこしでも、みんなに追いつきたい。のぞみはかばんから国語の教科書を取り出した。数学や化学は理解しようと努めてもちんぷんかんぷんだが、小々田先生が授業で話したことはよく覚えている。メモをとって、たくさん質問をした。彼は必ず、のぞみの目を見て真摯に答えてくれた。
それなのに、教科書にその痕跡はなかった。一切の書き込みがされていない、まっさらなページ。彼が教壇に立っていた証、彼から教わった大事な言葉が失われていた。
「なんで……」
この世界は、なにもかもがおかしい。時間の流れに取り残され、いるはずのみんながいない。同じ街の住人なのに、誰も彼女のことを知らない。生気を感じられない通行人を眺めるのぞみの目は、猜疑心に満ちる。
そんな彼女の不安を煽るように、強い風が吹いた。接着の甘い教科書のページは風に飛ばされ、散ってしまった。ひらひらと舞う白いページは、不気味な街にとけ込んで濁りを生じる。
文字のインクが滲み、余白に染みた。道徳的な教材も、綺麗な詩も、覚えるのに苦労した漢字も侵食され、ページは絶望の黒い紙となった。
「……もう、いやだ……」
「え?」
この街で初めて聞いた、自分以外の人の声。黒い紙は地面に落ちて影となり、通行人につきまとう。改めて観察してみると人々の動きは無感情な機械のようで、目には淀みがある。のどの筋肉を動かす元気もない、口の端からこぼれた暗いささやき。声の主の特定は困難を極めた。
ようやくこの世界を知るヒントが与えられたと思ったのに、まともな話し相手にはなれそうもない。
「こんなはずじゃなかった」
「やりたいことがあったのに」
「人生やり直したい……」
社会に出て立派に働く大人たちの泣き言。現実に対する恨み辛み。夢に破れた者たちが生んだ絶望。果てしなく長いトンネルの闇に、それらは不気味に反響した。
「ダンサーになんて、なれない……」
「モデルになりたかったのに」
「宇宙飛行士に……」
「ピアニスト……」
くたびれたスーツで営業に向かい、革靴の底をすり減らす会社員。家計をやりくりしながら子どもの将来を案ずる主婦。小学校の卒業文集を読み返せば、もっと華やかな職業を目指していた。毎日の仕事に忙殺され、夢をみることも、夢をみていたことも忘れた人々は、地下への階段を降りるように歩いたままの格好で影の中に沈んでいく。
街のいたるところから集まる絶望は、のぞみの前に具現化した。枯葉や腐った土に擬態して厭なことをやり過ごし、闇に生きながら光に群がる意地汚さ。挫折を餌にする化物の醜悪な姿は、正視するに堪えない。
蝶になれると信じて繭から抜け出し、蛾であることを知った哀しみ。やり場のない憤り。絶望という名のりん粉をまき散らし、羽ばたきは希望を吹き飛ばす。
パティシエ、マンガ家、スポーツ選手――夢の数だけ、絶望があった。蛾の成長は永遠に等しい。耳をふさいでも、嘆きの声は頭の中に響き続ける。
「学校の先生に、なりたかった」
真面目で聡明そうな顔立ちの、のぞみと同じくらいの年ごろの娘。彼女を最後に、人通りは絶えた。
自分と同じ夢を抱き、叶えられなかった人がいる。影に包まれる間際の彼女の表情に、のぞみは動揺を隠しきれなくなった。絶望に身を委ねてはじめて、安らぎを得た彼女。きっとできるかぎりの努力をしたはずだ。でも、先生にはなれなかった。
「夢なんて……どうせ……叶わない」
厭世や無力感という繭から変態した巨大な蛾は、かつて子どもたちが憧れた夢の果て。偽物の、未来の残骸。過酷な現実の象徴だった。
普通の女の子としてナイトメアやエターナルに立ち向かったときとは比べ物にならないほどの恐怖が、のぞみにまとわりつく。血も凍るような冷気が足下から近づいてくるような感覚。骨の髄まで震え上がらせて、身動きがとれなくなったところを取って食うつもりかもしれない。
「こないで!」
硬直したままの足ででたらめに走り、彼女は適当な店に転がりこんだ。ジャズ音楽とコーヒーの香りがたゆたう、雰囲気のいい喫茶店。店員と客のほとんどは、若い女性だった。のぞみを追うのが悪漢であれば、店主らしき厳めしい顔つきの男性を頼るのだが、人生を謳歌しているであろう彼女たちの方がこの際は適任に思える。
しかし、外の出来事に無関心な人々に助けを期待するほど、のぞみは冷静な判断力を失っていた。
「夢が不幸を招いた」
経営難で店を手放そうと考えている店主や、結婚願望はあるのに男と縁がないまま適齢期を過ぎようとしている女性店員、貧乏な家庭に生まれたために進学を諦めた学生など、店内もやはり絶望の温床だった。彼女たちは自ら望んで、蛾の一部となった。
「すべて失った……友との絆も、時も、若さも、刹那に消える」
足がもつれ、小石につまずき、のぞみは何度も倒れる。自分の影にふれ、勝手に意思をもって動きだすのではないかという妄想に怯え、ひたすら逃げる。世界が敵になった今、安住の地などどこにもないのに。
生涯の伴侶に裏切られた人、体が言うことをきかなくなって不自由な生活を余儀なくされる老人……絶望はあちこちに根を張っていた。大人だけでなく、毎日を楽しく自由に生きているはずの子どもさえ籠絡されている。
遠足が雨で中止になった、特訓したのに試合に出られなかった、コンクールで落選した。誰にでもありがちな悔しい思い出に集り、子どもたちの将来を食らう。悪夢しかみられないように、貪りつくす。
のぞみは逃げることをやめた。どこまで行っても結果は変わらない。彼女が夢をもち続けるかぎり、化物は追ってくるだろう。拒絶も虚しく力ずくで同化させられるくらいなら、わずかでも勇気のある今のうちにきちんと対峙した方がいい。
「絶望へと身を落とせ。我々と共に……」
地面を伝って、影が迫る。不思議な感じだった。絶望を受け容れてしまえば、夢はどうなってしまうのだろう。夢に向かってひたむきに続けた努力、あのエネルギーはふっと消えてしまうのだろうか。
地獄の入り口から聞こえるのは、自己嫌悪や自己憐憫。みんな自分のことばかり。目的は夢原のぞみの誘惑ではなく、心の平穏を取り戻すこと。同志が増えたら、惨めな自分を慰められるから。
好機が与えられなかった。時期が悪かった。不幸な境遇に生まれた。夢を捨てた言い訳を、自分に向けて繰り返している。その中に、先生になる夢を諦めたさっきの娘の声もあった。
「私には、才能がないの……」
消え入りそうな、すっかり自信を喪失した声。彼女の気持ちを、のぞみは理解できた。同じ道を選んだ経緯は異なる。彼女の身の上や挫折を知る由もない。だけど、彼女を励ます言葉を、のぞみはもっていた。
「才能なんて、関係ないよ」
メモをなくしても、字が薄れて消えてしまっても、彼の言葉は心に深く刻まれている。ずっと、のぞみの原動力だった。どんなことも諦めずに一生懸命がんばれという、彼の教え。
「叶えるのは大変だけど……だから、みんなそれを夢ってよぶんだと思う」
辞書を引かずに夢という言葉を定義せよと問われたら、様々な答えが返ってくるだろう。睡眠中の視覚的心像、現実離れした考え、迷いから生じる妄想、将来の目標……。生徒が夢について悩んでいるとき、的確なアドバイスをしてよりよい方向に導いてあげることは、今ののぞみにはまだ難しい。
だから、のぞみは先の問いに「なりたい自分になること」と答える。憧れた、大好きなあの人のように。
「叶わぬから、夢なのだ」
地中を泳ぐサメのように、影は大きな口をあけ彼女を足下から呑みこもうとした。しかし、反発し合う不可視の力によってそれはアスファルトの障壁に閉じ込められた。
「叶えられたら、素敵だね」
朝と夜が両立し得ないのと同じで、希望を手放そうとしないのぞみを絶望が吸収することはできなかった。じれったそうに背びれを覗かせて、彼女の周りをぐるりと囲む。
「そのとき、仲間は傍にいないのだぞ」
ばらばらに転がっていった五色のビーズ、無人の学園、みんながいなくなった街。のぞみが忘れていただけで、現実に起きた出来事だった。別れの挨拶もなく、自然な流れで離れ離れになったから、目に映らなかっただけのこと。
彼女たちは二度と、あの頃には戻れない。同じ学園に通うことも、放課後に毎日ナッツハウスで集まることも、五人でお昼のお弁当を一緒にすることもない。楽しかった、切ない思い出。
だが、破局的な不幸ではない。夢を追って、それぞれの道を進んだ。再会が約束された、前向きな別離だったはずだ。
「大丈夫だよ。だって……」
影は地中から飛び出して、のぞみの全身を包んだ。今度は手を伸ばしても、掴んでくれる仲間はいない。もがいてみても苦しいだけ。だから彼女は、それを享受することにした。人々が見ようとしない夢のもう一つの側面を学ぶ、いい機会だと思ったから。
「心がつながっていれば、また必ず会える」
彼女は目をとじて、真っ暗な世界に身を投じた。
瞼の裏に映る色が、黒から赤に変わる。
ぽかぽかと気持ちのいい陽気。温かくて、穏やかな眠りに誘う心地よさ。爽やかな風が彼女の髪をなで、頬にふれる。
だれかが彼女の名前を呼んでいた。何度もくり返し、祈るように。「のぞみ、のぞみ……」と、声が掠れるまで。
彼女は気づく。肌に感じる温もりは、彼の体温。顔に添えられているのは、柔らかくて大きな手。彼の息遣いが、鼻先に感じられる。強く抱きしめられているのだと、彼女は知った。
「ココ……」
わざと焦らすように、ゆっくりと瞼を開ける。夢とたくさんの思い出を語ってくれた口、顔を近づけるとぶつかってしまう高い鼻、いつも優しく見守ってくれた瞳。せっかくの整った顔立ちが、視線の合った途端に気の抜けたものになる。
「……のぞみ」
肩に手をやり彼女の顔をまじまじと見つめたあとで、もう一度ぎゅっと抱きしめる。苦しくてすこし痛かったけど、のぞみは黙って彼の胸に頭をあずけた。
「無事でよかった」
辺り一面が花畑の、幻想的な景色。絶望の闇に落ちたはずなのに、孤独の寒さに震えることも、地獄の業火に焼かれることもない、幸せと喜びに溢れた場所。花びらが舞い、甘い香りに満たされている。キュアローズガーデンで彼女たちが大切に育ててきた花が、綺麗に咲き誇っていた。
情熱の赤いバラ、元気いっぱいに咲くヒマワリ、儚く揺れる白いアネモネ。緑の葉を茂らせて、青い空の下で太陽と雨の恵みをいっぱいに受けている。色も種類も、形も花弁の開き方もばらばらなのに、景観を損なうことなく彩り豊かに並んでいた。
「来てくれたんだ」
背中に回された腕が緩められて、ようやくのぞみは心を落ち着かせることができた。心臓の鼓動が高まったおかげで血液が全身に循環され、悴みが解れる。彼のちょっとした仕草が、のぞみをほっとさせるのだった。
「ぼくを呼んだのは、のぞみじゃないか」
ひょっとするとうわ言にココの名前をくり返していたのかと首を傾げるのぞみを見て、彼は微笑む。
「やるんだろ? 同窓会」
「……うん」
まだ日取りも決まっていなければ、みんなの予定だって確認できていない。かれんの大学卒業の吉報を受けて、思いついたばかりなのだから。
そんな企画段階の同窓会のために、ココ達は玉座を離れて足を運んでくれた。ミルクの伝言に語弊があったわけではないとすれば、のぞみたちに会いたいと思った途端、その気持ちが溢れてしまったのだろう。
袂を分かった期間はあまりにも長かったけれど、声をかけさえすれば、昔のようにみんなは集まってくれる。その確信を得て、のぞみは嬉しくなった。
「うん、もちろん!」
空を仰ぐものもあれば、うなだれるように地面を向いて咲く花もある。それが個性だ。春夏秋冬それぞれの風情があり、夕日に映えるもの、川のせせらぎや山の景色と調和するもの、すべてのものには必ず適所がある。一つの花壇の中には、収まりきらない。
しかし、同じ空の下にいる。地面はどこまでも続いている。そのことを忘れずにいれば、きっと大丈夫。
「そうだ、ココ……」
のぞみはかばんからキュアモを取り出して、彼に見せた。ストラップの紐を通すための細い穴には、ちぎれた糸のみが残されている。
「ごめんね。ココからもらったアクセサリー、こわれちゃった」
あのとき、散らばったビーズをすぐに拾い集めなかったことが、今さら悔やまれる。ココは彼女がまだあのアクセサリーを大事に持ってくれていたと知って些か驚いたようだったが、首を横に振り、キュアモを持つのぞみの手を優しく包んだ。
「また作ればいいさ」
一度は滅ぼされたパルミエ王国の再建を果たせたのだから、やり直せないことなんてない。絶望を克服した国民とプリキュアの助力があってはじめて、彼はそれを成し遂げることができた。
「今度は、一緒に……」
キュアモが輝き、温かい光が二人を未来へと導く。
そのためには、まず乗り越えなければならない障害がある。あの悲愴な声、虚脱した表情を思い出して、のぞみは彼の手を握った。
ココも彼女の手を握り返す。もう二度と放さないように強く、固く手をつないだ。