プリキュアオールドスターズ ~プリキュア5の同窓会~   作:おじ

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5.執事たちの沈黙

 りんからのメールを受信した二人は、きょとんとした顔で見つめ合い、お互いに相手が驚いていることを確認し合った。

 

「すごい偶然ね」

「ええ……、本当に」

 

 医学部を卒業した知性を以てしても、かれんがメールの内容を理解するには文面を何度も読み返す必要があった。

 数年ぶりのこまちとの再会。その最中に夏木りんから送られてきたメール。そこに書かれた“のぞみ”と“同窓会”の文字が、どうしても現実味のないものに見えてしまう。

 

「こんなことってあるのね」

 

 おかしそうに微笑んだこまちは、テーブルの上に置かれたキュアモを見つめる。

 

「……いいえ、私たちならきっとどんなことでも有り得たのよね」

「そうね……」

 

 それだけ言うと、かれんは飲み終えたコーヒーカップをソーサーに置いた。

 

「同窓会……、かれんは参加するの?」

「私は……」

 

 開いたままだったメールの画面を閉じて、かれんは携帯電話をかばんにしまった。こまちにはその行動に、どことなく寂しい印象を受けた。

 まるで何かと決別するような、強い意志が感じられたのだ。

 

「私は行かないわ」

「……そう。どうして?」

 

 返事を躊躇ったかれんは、こまちの質問には答えず同じ問いを返す。

 

「こまちは行くの?」

「ええ、またみんなと集まりたいって、私もずっと思っていたの。さっき話した小説のことで、みんなの意見も聞きたいし……」

 

 テーブルの上に置かれたキュアモを見つめ、やがて意を決するようにこまちは口を開いた。

 

「ねぇ、かれん。どうしてかれんはナッツハウスに来なくなったの?」

 

 カップの取っ手に指をかけて飲み干したばかりだと気づいたかれんは、観念したように顔を上げる。

 

「受験で忙しくて、時間がとれなかったのよ」

「合格が決まってからも?」

「そうよ。進路が決まればそれでいいというわけではないわ」

 

 自分の口調が厳しくなっていることに気付いたかれんは、慌てて声のトーンを落とした。

 

「……こまちはいつまでナッツハウスに?」

「私が行かなくなったのは、高校に入ってすぐのことよ」

 

 かれんは腕時計に視線を落として、伝票を手に取った。

 

「ごめんなさい。もう行かないと……」

「あ、私が……」

 

 彼女の手から、こまちは伝票をかすめ取る。

 

「一応、働いているのだから私が払うわ」

 

 そのときの彼女の微笑みには、仕事を辞めたことへの自虐めいたものが感じられたが、かれんは何も言わず頷いた。

 

「ありがとう、こまち」

 

 旧友との別れは、かれんを感傷的な気分にさせた。

 キュアモを片付けようとするこまちを見て、どうせまたしばらく会わないのだから、今のうちに心の内に抑えていたことを言ってしまった方がお互いの為だとかれんは考える。

 

「ねぇ、こまち」

「何?」

「どうしてさっき、ナッツの名前を出さなかったの?」

 

 十年前の自分たちプリキュアの物語を書きたいと言ったとき、こまちはナッツの名前だけ口にしなかった。

 二人の関係がどんなものだったか知っていながらこんな質問をするなんて意地悪だと分かったうえで、かれんはどうしても聞いておきたかったのだ。

 

「それは……」

 

 こまちの表情を見て、かれんは確信する。

 

「こまち、あなたまだ……」

「言わないで。……分かってるから」

 

 お互いにもう大人なのだから、こまちは助言など必要としていないだろう。そう思って頷いたかれんだったが、このまま別れてしまえばきっと胸にもやもやしたものがつっかえた気分になる。

 かれんは理性的な判断をしながら、決して理性的でない行動をとった。

 

「たしかに、あれは特別な思い出だったわ。でもね、こまち。私たち、もう二十四歳なのよ」

 

 努めて優しい口調で、かれんは諭した。

 

「いつまでも中学の思い出にすがりついていては、前に進めないわ」

 

 俯いてしまったこまちは、感情を抑えるように一言だけ発した。

 

「……分かってるわ」

 

 久しぶりに再会した親友が、仕事を辞めて過去に囚われている。

 どんなに意地悪でお節介であろうと、口を出さずにはいられない。例えこまちが傷ついたとしても、かれんにとって今の行動は旧友として正しい行動だと確信があった。

 

「今日はありがとう、こまち。会えて嬉しかったわ」

 

 彼女は席を立ち、かつての親友に背を向けた。

 

 

 

 こまちと別れたその足で、かれんは病院の一室を訪れた。

 

「お嬢様、ご卒業おめでとうございます」

 

 水無月家の執事として長年勤めてきた坂本は、彼女の姿を認めるとベッドから上半身を起こした。

 

「いいのよ、じいや。横になってて」

 

 肩に手を添えられて、彼は素直に体を倒す。

 

「いかがでしたか、卒業式は」

「……それより、具合はどう?」

 

 坂本は何も言わず、静かに微笑んだ。それはかれんを安心させようとする意図があったのかもしれないが、実際は逆効果だ。

 

「ねぇ、じいや。今ごろになって、どうしてこまちに連絡なんてしたの?」

「そのご様子だと、秋元様から連絡があったようですな」

「えぇ。さっきまで喫茶店で会っていたの。こまちったら、昔と何も変わっていなかったわ」

 

 優しい眼差しをかれんに送り、やがて坂本は視線を天井に移した。清潔で、ただ白いだけの天井からは何も感じることができない。

 

「入院というのは退屈なものでございます。ただの年寄りの気まぐれに、秋元様を付き合わせてしまっただけの話です」

 

 それが本音なのかかれんには分からなかったが、追求する必要もないと感じた。

 

「それにね、同窓会の誘いもあったわ。覚えてる? のぞみたちのこと」

「えぇ、もちろん覚えていますとも。それで、同窓会には出席なさるので?」

 

 目を瞑って、かれんは首を横に振った。

 

「いいえ。今はできるだけ、じいやの傍に付いていたいの」

「……そうですか」

 

 坂本はかれんを真っ直ぐに見つめたまま、否定も肯定もしなかった。

 

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