プリキュアオールドスターズ ~プリキュア5の同窓会~   作:おじ

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7.ナッツハウスの鍵貸します

 何者かの気配を感じて、かれんは咄嗟に身構えた。

 

 十年前の経験により身についてしまった習慣は、平和な世界では役に立たない。それは喜ぶべきことであるが、その度に間抜けな姿を晒すのは好ましくない。

 しかし、茂みの中から現れた人物を前に、そんなことはどうでもよくなってしまう。

 

 そのくらい、彼女にとって思いがけない出会いだった。

 

「のぞみ……」

 

 一瞬、どうしてのぞみはキュアドリームの姿に変身しているのかと思った。

 髪を伸ばし、大人っぽくなった夢原のぞみは、頭の輪っかがなくなったキュアドリームそのものだったのだ。

 

「あれ、かれんさん?」

 

 少女のようにあどけないのぞみを見て、かれんは嬉しい反面なぜか寂しくもあった。

 

「お久しぶりです! どうしてここにいるんですか!?」

「その、私は……」

 

 のぞみが手に持っているバケツの中に掃除道具が入っているのを見つけたかれんは、喫茶店でのこまちの言葉を思い出した。

 

 私たちなら、どんなことだってありえた。

 

 久しぶりにこまちと会ったその場でりんからメールが届き、ナッツハウスの掃除をした帰りに掃除に来たのぞみと出くわす。

 自分たちはやっぱり、不思議な絆でつながっているのだと思わずにはいられない。

 

「のぞみはどうしてここに?」

「りんちゃんからメール届きました? 今度、みんなで同窓会やろうと思ってるんですけど、やっぱり集まるならナッツハウスしかないなーって」

「……みんなから連絡はあったの?」

「ううん。うららもココ達も忙しいみたいで、返事はまだなんですけど」

 

 のぞみは困ったようにおどけてみせた。

 

「でも、大丈夫ですよ。なんとかなるなる」

 

 容姿は大人っぽくなっても、中身は子どものままだとかれんは呆れた。

 十年前とまるっきり変わっていない。

 でも、それが彼女らしいと思えた。

 

「みんな来てくれるといいわね」

「はい! あっ、詳しい日時はみんなの都合を聞いてから連絡しますから」

 

 その言葉には何も返さず、かれんはかばんから鍵を取り出した。

 

「のぞみに渡しておくわ。ナッツハウスの鍵よ」

「えっ、どうしてわたしに? かれんさんが持っててくださいよ」

「電気や水道も使えるようにしておくから」

「かれんさん?」

 

 のぞみはきっと、本当にみんなが集まってくれると信じている。

 そんなのぞみの期待を裏切ってはいけない。ぬか喜びさせておいて、後から悲しませるような真似だけはしたくなかった。

 

「私は行かないわ」

 

 今日みたいに、会いたいと思えばいつだって会えたはずなのだ。

 それなのにずっと疎遠だった関係を、今さらどうにかしようとは考えなかった。かれんにとって、みんなはかけがえのない仲間であると共に、綺麗な思い出として記憶のままの姿に留めておきたかった。

 

「そんなー……」

 

 ショックを受けた様子ののぞみを見て、かれんは少し後悔した。

 慌てて何か言い訳を考えようとしたとき、お菓子をねだる子どものような目に見つめられて、やはりのぞみは昔と変わってないと安心した。

 決して皮肉ではなく、かれんはそれが嬉しかったのだ。

 

「かれんさんも来てくださいよー。どうにかして、かれんさんの都合のいい日に合わせますから」

「む……無理よ。私は色々と忙しいの」

「色々って?」

 

 かれんはその質問には答えず、そっぽを向いた。

 

「私、そろそろ帰らないと」

「えー、もっとゆっくりお話ししたかったのに」

 

 ここで引きとめないあたり、のぞみも大人になったのかしらとかれんは思う。

 

「じゃあ、同窓会のこと考えておいてくださいね」

「だから私は……」

 

 のぞみのペースに飲まれまいとはっきり否定しようとしたかれんだったが、子どものようなのぞみの笑顔を前に続く言葉は出てこなかった。

 

「じゃあ、私はこれで。またね、のぞみ」

「はい。……あっ、そうだ!」

「もう、どうしたの?」

 

 彼女に背を向けた途端に呼び止められて、かれんは狼狽した。

 今度はどんな突拍子もないことを言いだすのだろう。のぞみも二十三歳になっていることすら忘れて、かれんはそんなことを思った。

 

「大学卒業、おめでとうございます!」

 

 驚きのあまり、かれんは言葉を失った。

 やがて頭の回転が追いついてくると、のぞみの笑顔に誘われて彼女もつい微笑んだ。

 

「ありがとう、のぞみ」

 

 このときばかりは、昔に帰ったような気分がした。

 

 

 

 秋元こまちはいくつかの本屋をはしごしながら頭の中を整理して、ようやく心を決めた。

 

 本当はかれんに会って背中を押してもらえたら、と甘えていた。

 小説家になりたいという夢を、かれんなら今でも応援してくれると思っていた。

 しかし、これは自分の問題なのだ。

 

「ここからなら、りんさんの家が近いかしら」

 

 同窓会の連絡を受けたばかりで会いに行くというのもおかしいかもしれないが、プリキュアの物語を書くために最初から全員と会うつもりでいた。

 本屋を出てすぐに平日の昼間だということを思いだして、こまちの歩みに躊躇いが生じる。訪れたところでりんは不在かもしれない。

 大きな衝撃と悲鳴が聞こえたのは、彼女が大通りに出たときだった。

 

「何があったの……」

 

 買い物中の人々が、こちらに走ってくる。

 異常者が通りで包丁を振り回しているのか、居眠り運転の暴走車が突っ込んできたのか、いずれにせよ常軌を逸する事態らしい。

 訳もわからず周りの人にならって彼女も逃げようとしたとき、奇妙な声が聞こえた。

 

「ザケンナー!」

 

 耳に馴染のある二つのものとは違ったが、性質は似ている。

 すぐに最悪の可能性が思い浮かぶと同時に、彼女は信じられない気持ちだった。

 

「ザケンナー!!」

 

 叫びながら姿を現した黒い怪物を目の当たりにして、こまちは確信する。

 

 十年も続いた平和が、壊されようとしている。

 ナイトメアでもエターナルでもない、新たな敵の手によって。

 

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