プリキュアオールドスターズ ~プリキュア5の同窓会~   作:おじ

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8.小説家志望を見つけたら

「ごめんなさい。わたし、あなたとはもうやっていけない」

 

 春日野うららは少ない経験の中から切ない思い出を蘇らせて、その台詞を口にした。

 

「どうして、何でいきなりそんなこと言い出すんだよぉ!」

「……他に好きな人ができたの」

 

 半年ほど前から売れ出した現役高校生アイドルがどんなに下手くそな演技をしても、うららはそれを無視するように努めて自分の役に集中した。

 若者向けの雑誌を見本にしたようなありきたりのヘアースタイルで、大して顔もよくなければ歌も上手くない。

 

 それでも、彼が主演のドラマにおいては、春日野うららの方が格下の存在なのだ。

 

 正直なところ、シナリオも大して面白くないこの作品を継続して視聴しているのは彼のファンくらい。うららに注目する視聴者なんていないかもしれない。

 そんなドラマでも、彼女は今の自分にできるかぎり最高の演技をした。どんな役でも手を抜かない。そうしなければ、よっぽどの人気者でないかぎりこの世界では生き残れないのだ。

 

「俺の気持ちはどうなるんだぁ!?」

「わたしたち、もう終わりにしましょう」

 

 練習のときより、悲壮感の溢れた表現ができた。満足しながらも、それを表情に出さないよう気を付けながらうららは彼の台詞を待った。

 彼がミステイクを出さなければ、このシーンの撮影は終わるはずだ。今の演技を見てもらえれば、きっと次のオーディションでは髪の色なんかを問題にする人なんていない。

 

「ふざけるなよ!」

 

 棒読みではあったが、それはドラマの一話から監督も諦めていることである。うららは気を緩めず、監督のカットを待った。

 

「ザケンナー!」

 

 監督が憤るまでの一瞬の間、撮影現場は静寂に包まれる。

 

「誰だ、変な野次を入れたやつは!?」

 

 通行人が見物する町中での撮影ではたまにあることだが、今回ばかりはうららもげんなりした。

 野次馬の悪ふざけのせいで、せっかくの演技が台無しにされたのだ。

 

「ザケンナー!」

 

 性懲りもなく、また変な野次を飛ばしてくる。

 撮影現場を取り囲んでいた野次馬たちがざわつき始め、それぞれが顔を見合わせて犯人を捜し始める。

 やがて、その中の一人が容疑者を発見した。

 

「あれは何だ!?」

「ザケンナー!!」

 

 黒く巨大な怪物が、奇妙な声を出しながらこちらに向かってくる。

 その脅威に遅れて気付いたドラマのスタッフや野次馬たちは、パニックになり我先にと怪物から逃げようとした。

 

「うそ……」

「うららちゃん! 早く逃げるんだ!」

 

 呆然としていたうららの手を、マネージャーの高尾が引っ張った。

 恐らくはこの場にいる大勢の中で彼女だけが、怪物に対して恐怖以外の感情を抱いていた。

 

 得体の知れない脅威ではない。彼女は十年前、同じような敵を相手に戦ったのだ。

 しかし、今の彼女は怪物と戦う伝説の戦士ではなく、ただの落ち目の女優に過ぎない。

 

 逃げることしか、できなかった。

 

 

 

 どうして今頃になって現れたのかは分からない。

 十年も平和な生活が続いたのに。平和な生活が、当たり前のはずなのに。

 

「どうして……」

 

 事実は小説よりも奇なりということわざが、こまちの頭に浮かんだ。

 プリキュアとして活動していた思い出に浸っていると、怪物まで蘇ってしまった。

 

「ザケンナー!」

 

 怪物はすぐそこまで迫っている。

 逃げ続けてどうなる? こまちは自分に問うた。

 

 コワイナーもホシイナーも、普通の人間では太刀打ちできないほど強力な相手だった。警察が駆けつけてきてどうにかなるとは思えない。

 かつての自分たちがそうだったように、この事件をきっかけに次の世代のプリキュアが誕生するだろうか。若いプリキュアたちの新たな物語に、巻き込まれただけなのだろうか。

 

 それとも、彼女たちの物語はまだ終わっていなかったのだろうか。

 

「今の私にできるの……」

 

 かばんからキュアモを取り出しても、こまちの躊躇いがなくなることはなかった。

 あれから十年が経った。中学生だった彼女は今年で二十五歳になる。変身して怪物と戦うなんて、そう簡単にできることではない。

 しかし、逃げ惑う人々を見てこまちは感じた。この人たちにできないことを、彼女はできるかもしれない。少なくとも、その能力がある。

 

 試してみて、だめだったら仕方がない。良心は痛まなくて済む。

 こまちは意を決して、キュアモを掲げた。

 

「プリキュア・メタモルフォーゼ!!」

 

 キュアモから放たれた光が、彼女の身体を包み込む。エネルギーが溢れてくる、懐かしい感覚を味わいながら彼女は変身した。

 緑のコスチュームと希望の力を身に纏う、伝説の戦士に。

 

「安らぎの緑の大地! キュアミント!!」

 

 

 

 とりあえず変身ができたことにほっと一息ついたものの、ミントは違和感を覚えた。十年前とはなにかが違う。みんなを守ろうと決意した初めての変身は、もっと純粋な清らかさを伴ったはずだ。

 しかし、敵を前にしてそんなことを考えている暇はなかった。彼女は昔を思い出して、怪物に飛びかかる。

 

「ザケンナー!」

 

 彼女の攻撃を察知した怪物は素早く巨大な腕を振り回し、ミントは返り討ちにあった。跳ね飛ばされて建物の壁に激突する。

 すかさず体を起こして顔を上げると、怪物の拳が眼前まで迫っていた。脳が指示を与えるより先に体は横に跳び、視界がでんぐり返る。標的を失った拳は、そのまま壁にめり込んでいた。

 

 怪物が次の攻撃体勢に入ろうとするのを許さず、巨大な拳を踏み台にしてミントは高く跳躍した。電柱を蹴って勢いを増し、怪物の頭部に飛び蹴りを喰らわせる。

 

「やった……」

 

 怪物が倒れる姿を見ながら、ミントは地面に下りた。

 

 先ほどのダメージか、この十年間で運動能力が衰えたのか、着地のときに足がもつれる。

 

 その一瞬の隙に、ミントの体は怪物の巨大な手で鷲掴みにされた。その力は強く、振りほどくことはできない。高く持ち上げられたミントは、乱暴な幼児に扱われるおもちゃのごとく、地面めがけて投げつけられる。

 重力により加速した体は、もはや彼女自身にも制御することはできず、そのまま地面に激突するほかになかった。

 

 激痛により気を失い、変身も解ける。

 騎士道精神など持ち合わせているはずもない怪物は、無防備な彼女にとどめを刺そうと拳を構えた。

 

 

 

「こまち!」

 

 ミルキィローズの肘鉄により、怪物は巨体をよろめかせた。

 

「こまち、大丈夫!?」

 

 何度、呼びかけてもこまちは目を覚まさない。こんなかたちで再会した自分たちの運命を恨みながら、ローズは怪物を振り返る。

 

 意識のないこまちを守りながら、一人で戦うのは難しい。平和な生活に慣れたせいで、勘も鈍ってしまっている。しかし、ここで彼女が逃げたら町が破壊されてしまう。

 様々な思考が頭の中をぐるぐると巡り、何が最善の行動か判断できずにいると、どこからともなく声が聞こえた。

 

「見つけたよ……プリキュア」

 

 まるで地獄にでもいるかのように、重く怨みのこもった女性の声だった。

 怪物は液体のように不定形な姿となり、空を飛んでどこかへ消えて行った。

 

「今のは何だったの……?」

 

 しばらく警戒を続けたが、嫌な気配が完全に消滅したのを確認するとローズは変身を解いた。

 再び襲ってくるかもしれない脅威に備えるより、今はこまちの介抱を優先するべきだ。

 

「病院は……」

 

 記憶を探り、街並みを思い出そうとすると、一つの考えがくるみの頭に浮かんだ。

 

「そうだ! りんの家が近くにあるはずだわ」

 

 こまちの腕を自分の肩に回して、くるみは夏木りんの家を目指した。

 

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