春を少し過ぎたころの昼下がり。
午前中で終わるはずだった雑誌のインタビューはトランスした百合子がしゃべりすぎたせいで長引き平謝りした帰り道。
具体的な時間を示すと14:23。
「百合子、腹減らないか」
「ペコペコです…」
ちらと助手席に目を向けると、分厚いハードカバーを閉じて膝に置いた百合子がくたっとしている。こころなしか、ワンピースもしおれて見える。
「どうして人間っておなかすくんでしょうね、これが無かったらずっと本だけ読んで…」
弱弱しい声を、彼女の腹の虫が遮った。
「無かったら百合子みたいなのがずっと本読んでるからだろ」
「みたいなの、って地味に癪に障りますね。……おなかへってるからか、ごめんなさい」
「いや、俺も悪かった」
彼女のおなかがまた鳴いた。
しばらく無言で車を走らせていると、左側にファミレスが見えた。有名なチェーン店だ。たしか財布の中に恵美からもらったドリンクバーの割引クーポンが入っていたような気もする。
「百合子、何か食うか」
「あー……お財布の中身あんまりないんですけど」
「俺持ってるし…小鳥さんに頼んだら経費ででるだろ」
ウインカーを点灯させた。
八つ刻ではあるが、普通の平日だからか人は少なかった。店員の問いに2人ですと答えると角のほうのテーブル席に通された。
さて、と二冊あるメニューの片方を百合子に渡して自分もそれを開いた。
選択する労力がいやだったので一番最初のページにあったハンバーグプレートとライス、ドリンクバーでコーヒーでも飲むかと早々に決めて、ページをめくり続けながら百合子のほうを見た。すると、こちらをうかがう目線と衝突した。
「ゆっくり選んでいいぞ」
「いえ、あの、そういうわけじゃなくて……いや、いっか。プロデューさんだし」
百合子はパラパラとページをめくって、決まりました、と告げる。
机の上の呼び鈴を押すと、空いているからか比較的はやく店員が来てくれたような気がした。
「ハンバーグプレートとライス大盛り、ドリンクバーを二つ」
「ペペロンチーノと明太子クリームパスタとシーザーサラダとフライドポテトをお願いします」
繰り返させていただきます、ハンバーグプレートが一つ、ライスの大盛りが一つ、ドリンクバーが二つ、ペペロンチーノが一つ、明太子クリームパスタが一つ、シーザーサラダが一つ、フライドポテトが一つ、以上でお間違いないでしょうか。
「…はい」
ドリンクバーはあちらにございます。お料理はしばらくお待ちください。
店員が戻っていくと百合子は立ち上がった。おそらくドリンクバー行きましょうということなのだろうが、俺がじっと見つめていると、
「や、やっぱり食べすぎですかね?女の子としてはもっとこう…でも、プロデューサーさんならいいかなって」
百合子はドリンクバーにあった烏龍茶に口を付けた。喉を潤すというより口を湿らせるといった風だった。
そしてフォークを手に取るとペペロンチーノの皿を手前に寄せた。一本の爪で麺を3,4本すくうと皿の端のほうでくるくるとそれを纏めた。啜るわけではなくそれをぱくりと口に入れるとおいしそうにもぐもぐしている。その間もフォークは次の麺をすくっていた。
流れるようにペペロンチーノを飲み込みスプーンで細かくなった麺までたいらげるとそのまま烏龍茶をひとくち、サラダを食べ始める。レタスの葉っぱをちいさくまとめて刺すとこれまたおいしそうにバリバリむしゃむしゃと。サラダを食べ終わったら口を拭って、また烏龍茶を一口。次は明太子クリームパスタの皿を体の前に持ってきた。麺の上にお行儀よく乗っている刻まれた大葉をちょっとわけて麺と一緒に巻き付け、一口でぱくりと飲み込んだ。もぐもぐしている間は幸せそうに微笑み、またくるくるとフォークに巻き付けるときは楽しそうに目を輝かせている。ぱくぱくしていると皿の中身は減り続け、のこったソースもスプーンで口に運んだ。ぺろっと唇をなめた後、口元を拭ってグラスに残った烏龍茶を煽った。グラスをつかんだままドリンクバーのほうへ歩いていき、帰ってくるとオレンジ色の液体で満たされていた。また席に座り、バスケットに入ったフライドポテトをフォークで突き刺し口の中に…
「あの、プロデューサーさん、たべないんですか?…私がもらっちゃいますよ?」
「いや、食べる。食べるよ」