アイマス系短編   作:天城修慧/雨晴恋歌

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いろいろ詰めただけ










百合子短編つめ

未亡人七尾百合子(22)

 

「なんだか、夢から覚めてしまった気分なんです。

 

あの人のこと、嫌いだったわけじゃないんですよ?でも、気が済むまで泣いたら、本当に気が済んじゃって。やっぱり私も人間で、慣れちゃえて、忘れられるんだなって。

 

私のお腹に誰かいたら、もうちょっと違ったのかもしれません。スマホには写真も入ってて、チャットの履歴もあって、一緒に来るはずだったこの新居もちょっぴり広く感じて、でも。この程度のふわふわした気分なら、私、今まで何度も感じてるんです。

 

 

お願いが、あるんです。私にもう一度、夢をみせてくれないでしょうか。

 

プロデューサーさん。どうでしょう、私、まだかわいい女の子に見えますか?まだ…ちゃんと笑えてますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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アイテム名: ひみつのプリクラ

 

何かの間違いで撮影されたプリクラ。『☆ゆりこ♡ともか☆』とおえかきされている。うさみみもついている。

「望月杏奈」、「徳川まつり」から低確率でドロップ

 

 

 

 

 

 

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『七尾百合子と天蓋の地図』

 

 

 

雑居ビルの屋上から、何か大きな質量を持ったものが落ちてきた。

40kgくらいだろうか。

 

地面にぶつかって、何やら悲鳴をあげた

 

しぶとい子豚ちゃんもいたものですね。

 

無事でないならば、せめて祈るくらいは、と近づいた。

 

落ちてきたのは、人間(こぶた)などではなかった。

 

「いたた……やっぱりこれじゃとべないよね…」

 

小柄な女の子が1人、

かたほうだけの翼をはためかせて、地面にいた。

 

「天使さん」

「お空に帰りたいんですか?」

 

「…そんなに帰りたくはないかな」

 

「あんな楽園より面白いこの世界を、もっと見てまわりたかっただけで」

 

「素敵な理由ですね」

「ふざけた理由だよ」

 

根本だけ残った翼の基部がゆらめいた。

 

唐突に墜落してきた女の子が跳ね起きた。

路地の端、ふたつの三角コーンに渡された、黄色と黒の警戒色の棒を手に取ると、虚空に向かって駆け出す。

 

その様を眺めていると、空間からもう一つ人影が現れた。

何やら神聖そうな衣装に身を包み、白い翼もしっかりふたつ生えた人影だ。

 

女の子は、その人影に向かって、警戒色の棒を振った。

その動きは、洗練されたものに見えたが

 

「やっぱり〜!」

 

ただのプラスチック棒はいともたやすくへし折れる。

 

人影は、その手の中に光を束ねた。

おそらくは武器になるのだろう。

 

翼をもがれた天使さんと、追いかけにきた何者か。

 

愛着などなく、初対面で、理由などなく、無関係とは言えなくて

 

しかたないですね

 

天使さんは、片翼ながらもその動きに焦りは見えない。

人影の手の中に集まった光は、どうやら光弾になってそのまま飛ぶらしい。

 

抗いようのないものではなかった。

神から授かった力だろうに、天使1人撃ち落とせないでいる。

 

地面を蹴って宙に浮かんだ天使さんは、片方の翼だけで器用に軌道と着地をずらしてみせる。

 

光弾をかわしながら、ところどころで踏み込むモーションを見せて牽制までしている。

まだ、牙となりうる手札でもあるのだろうか。

 

「借りるよ杏奈ちゃんっ…らびっと、カリバーー‼︎」

 

天使さんは、何かを振りかぶった。

 

本来なら欠けているはずのそれは、神々しさとは違った、俗世に染まりきって魅力を見せてくれる。

 

天に使える人影にとって、それは決して目を離せないものだ。

 

だから

 

私への視線が無くなった

 

その場に崩れて落ちた人影を、慌てて飛び越えるように天使さんははばたいた。

 

片方だけの空力は、少しばかり天使さんをうかび上がらせて、少しだけバランスを崩した。

 

人影の背後にいた私にぶつかる。

 

片方だけの翼で私を包んでくれた。

 

抱きしめられたまま慣性で地面を転がった。

 

驚いたように、腕の中の私を見つめる天使さん

 

私は、空気に溶け込ませた翼をにょっきりと表す

 

それは神から授かった形でありながら、薄くすすのついたような黒色をしている

 

天使さんは慌てて起きあがろうとした。

私は基部だけ残った翼を掴んでそれを止めて。

 

「天使さんは、どうしてこうなったんですか?」「もう少し上手く立ち回れば、私程度で済んだかもしれないのに」

 

私の翼は加護こそ失ったものの、信仰心も飛ぶ力も失ってはいない。

対して断絶された天使さんは

 

天使さんは少し考え込んだあと、耳を寄せて囁いた

 

「内緒だよ」

 

「私が愛した世界のために、私が夢見た世界のために、世界が笑顔をくれるなら、空くらい飛んでみせる」

 

俗世の魅力が彼女の背中に集う

 

それは翼の形を為して、断絶された翼があった場所にお行儀良く収まった。

 

「別に、この世界が汚れているとは思えなかったんだよ。

ただ、面白そうだな〜って」

 

「私は夢を見て、その結果創造主様の怒りを買った。…創造主様が作った世界のはずなのになんでかなって」

 

「もちろん、翼を失うのは怖かった。でも、翼がなくたって私は飛べた」

 

彼女は、らびっとカリバーと呼んでいた道具を虚空に仕舞うしぐさをした。

きっとそれもこの世界で手に入れたのだろう。

 

そう言って彼女は笑った。

少し悲しそうにも見えた。

 

「貴女は今何してるの?もしよかったら、近くにクレープ屋さんがあるから一緒にーーー

 

そんなことを気にしていられないくらい、楽しそうにも見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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『七尾百合子の食卓』

 

 

 

「こんにちは、七尾百合子です。お料理の紹介番組と聞いていたのですが…記念すべき第一回目は、写真集、『Radical Rabbits』です!」

 

「ちなみにグラビアに使われるコート紙は美味しくなかったです!…上質紙はまあまあ」

 

「妖怪じゃないです!」

 

「さてこの『Radical Rabbits』ですが、なんと杏奈ちゃんオンリーの写真集になります」

 

「ちなみに上質紙です」

 

「上質紙はインクの濃い部分のコントラストがゆるく感じたりするそうです」

 

「私の本食は小説なのでよく知りませんが」

 

「変なテロップ付けないでください!本食です!」

 

「…怒りますよ」

 

「さて、内容の方ですが…えっと…これどこまで見せても大丈夫ですか?」

 

「表紙だけ?…まあ売り物ですしね。はい、表紙です!」

 

「わかりますか?この杏奈ちゃんはいわゆるonで表紙を飾っていて…」

 

「食べません!」

 

「グラビアはインクの味が濃いから美味しくないです!」

 

「杏奈ちゃんも食べません!」

 

「妖怪じゃないです!」

 

 

 

 

 

 

 

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『いざ、世界を救いに』

 

土曜日の昼間。世間では、休みだったり、仕事の真っ最中だったり。

 

中には例外みたいな奴もいる。

 

そこのソファーで本を開いたまま寝ている、百合子のことだ。

 

こいつの職業は、学生かつアイドル。ここがシアターだからきっと職場だろう。

 

午前中にはダンスのレッスンがあり、さっきはおにぎりを食べていた。

 

1つ美希に持っていかれていた。

 

3時になると、ビジュアルのレッスンがある。

 

今は1時だ。

本のタイトルを見た。

『イトの勇者と天蓋の悪魔』

 

どうやら勇者が冒険をする物語らしい。

 

「邪魔ですよー」

 

百合子が寝たまましゃべった。

 

口の端を唾液がつたった。

 

机の上の箱から、ティッシュを何枚かとる。

 

口元を拭った。

 

 

ゆらり、と百合子の目が開いた。

 

「ぷろでゅーさーさん?」

 

「…いいから、世界でも救ってろ」

 

す〜

 

はぁい

 

百合子はスーツの胸元に顔を突っ込むと、

安らかに息を吐く。

 

シャツを握りしめた百合子。

 

仮眠室のベッドに擦りつけるため、勇者の体を抱き上げた。

 

 

 

 

 

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『溢れ出す夢のカケラ』

 

「ひぃーっ⁉︎」

 

隣の部屋から百合子の悲鳴が聞こえた。

 

「ぷ、プロデューサーさん‼︎」

 

呼ばれたので、しぶしぶと百合子の声を辿る。

 

見ると、本棚の上の方、雑誌が詰まったあたりがごっそりと空いていて、そこに詰まっていた雑誌は本棚の前の百合子が受け止めている。

 

「こ、これ、はやく」

 

随分と無理そうな体制である。

少しでも動くと雑誌は地に堕ちるだろう。

 

というかもう何冊か堕ちている。

 

とりあえず、床に落ちている雑誌を拾おうとしゃがみこんだ。

 

「…プロデューサーさん?」

「いやこれ、覗き放題だな」

 

少し時が止まった。

 

 

「あの、プロデューサーさん」

「はい」

「…後でいくらでも見せてあげますから先に本をなんとかしてください」

「はい」

 

床の上のロコが載った雑誌を拾った。

 

そのあと、百合子の上に乗った雑誌を拾い集める。

 

号数順に並べて本棚の上の空間に戻した。

 

 

「じゃあな、百合子、次は落とさないようにしろよ」

 

「あの、プロデューサーさん」

 

 

百合子が、自分のスカートの裾をつかんだ。

よく見ると指先が震えている。

顔もよく色づいている。

何かを隠すみたいに足が揺れた。

 

「その、ですね」

 

一度口を開いて、もどして、もごもごと口を揺らして

 

「みます…か…?」

 

 

「見ない」

「何でですか‼︎」

 

 

 

 

 

 

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『七尾百合子と灰濡れの一角獣』

 

 

 

 

 

ユニコーン。

伝説の中で純潔の少女と共に描かれる存在。

 

転じて、偶像に純潔を、アイドルに理想を求めるファン層を指す言葉でもある。

 

 

『みなさん、おはようございます、七尾百合子です!』

 

休日の朝方の報道系の番組。同社のドラマの宣伝を垂れ流すテレビジョン。

図書室のカウンターの奥で縮こまって本を読んでいるヒロインの役の七尾百合子。

 

アイドルで、理想で、…なぜか、うっかり、繋がりを持ってしまったひと。

 

昨日の夜遅く。あるいは今日の朝早くかもしれない。

俺はユニコーンではなくなった。

 

 

「…さむい…お布団返してください…」

 

 

テレビと同じ声がした。

 

俺が、自身の手で、偶像を、アイドルを、汚してしまったからだ。

 

 

 

 

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灰濡れの一角獣はもしかしたら続きを書くかもしれない。
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