バイオレンスな前回と違ってギャグ大目でわりと正統派なラブコメ回となってます。うちのキリエは可愛いのだと、全力で叫びたい。楽しんでいただけたら幸いです。
目を覚ます。そこには、正直見たくもないが美少女でつい顔を赤らめてしまう女が、青空をバックに興味深そうに見下ろしていた。
「おはよう道也君。って死んでるからもう生意気な口も開けないかしら?」
「…あーおはよう七星センパイ。朝からなんて不幸なんだと思ってたが、アンタの仕業だよなあそりゃあ」
休日に、あの厄介な女がいないからと朝早く一人で外出したら建設現場から降ってきた鉄骨の山の下敷きになった俺を見下ろして笑顔でそう言ってきたのは相変わらずの七星霧依。鉄の布団に俯せに押し潰されて伸びていた俺をにやにやと見下ろしているその姿は実にうざい。…だがこの女、天然なのか結構隙だらけだ。
「休日までストーカーとは生徒会長さまが聞いて呆れるなセンパイ?」
「あの手この手で殺す方法を考えないといけない私の身にもなってほしいわ後輩君?」
「そんなの知りたくもないが、アンタのパンツが白ってのは分かるぞ。丸見えだ」
「っっ!?バカ!変態!!」
「ぎゃっ」
指摘すると黒のパーカーと紫色のスカートという私服姿で踏ん反り返っていたその顔がみるみる赤く染まり、頭を踏みつけてきて俺はコンクリートとキスした。…普通に痛いんだが、今のは俺が悪いのか?
「なんでもいいが早くこれをなんとかしてくれないか。死ねないから苦しいんだ」
「…ふう。まあ永遠に苦しめるのも人としてどうかと思うし、死ね」
「痛い。アンタ元天使だろ…」
今度は執拗にゲシッゲシッと顔を蹴られた。ふざけんな。いいからどけろと恨みがましく睨み付けると、観念したように背中からでかい翼を出して鉄骨の山をどかしてくれる七星センパイ。…あれから三日たったがこの非常識な光景にいまだに慣れない。でも俺が全力込めてもうんともすんとも言わなかった鉄骨をどかしたパワーは信じざるを得ない。そしてここが街のど真ん中で周りに人々が歩いていて人通りの多いここなら襲ってこないだろと安心していたついさっきまでの自分を思い出して尋ねてみた。
「…そういえば、人が事故にあってんのに何でみんな知らんぷりで歩いて行くんだ?」
「だって翼の事を知られて初めての休日なんですもの。もう隠す必要も無かったから最大限に活用しようかと、人払いの陣をかけたわ。私の羽はね、けっこうなんにでも使えるのよ。簡単に今の状態を説明すると、私と貴方がド●えもんの石ころ帽子を被っている状態だと考えればいいわ」
「……アンタが自分の翼のことを隠そうとしていたからこれまでの休日は割かし大人しめだったと」
「そうよ」
「あんなに自分が天使だって自信満々に言ってたのに?」
「…敵を騙すにはまず味方からって言うじゃない?」
「それ意味が違う上に使う場所間違えてるぞ。アンタ馬鹿だろ」
「これでも全校生徒の憧れの学年トップの秀才ですぅ!」
「うるせえロリBBAの転生チートが」
「私は永遠の17歳よ!BBAなんてひどいじゃない!ロリでもないし!」
単に反目するつもりがしょうもない言い合いになってしまった。この人頭はいいんだろうけど倫理観が抜けてるし、糞真面目だし、凶暴だし、外道だし、下種だし、天然だし、自分勝手だし、ナルシストだし、自己顕示欲高いし、一周回って馬鹿だ。残念な美少女、ヒロイン(笑)ってのはこの人のことを言うんだろう。
「…ふん!まあいいわ。それで、今日は何しに行くのよ?」
「なに普通について来ようとしてるんだ。今日はついてこないでくれ、幼馴染のところに薬をもらいにいくんだからな」
「は?持病でもあるの?そんな情報はないんだけど」
メモ帳を取り出して捲りつつにらめっこしながらそう言ってくる。…というか俺の情報集めてたのか、こわっ。
「幼馴染って言うと…
「そこまで知っているのか」
「全校生徒の事を把握しているのは生徒会長として当然のことよ」
「…前世?の俺のことを覚えているといい、無駄に記憶力はいいのな」
「何千年も生きているから当然よ」
ふんすっ、と自慢げに鼻を鳴らして無い胸を張る七星先輩を横目で見ながら少し考えてしまう。無駄に記憶力がいいから、悲しみとかも覚えてしまってるってことか。そりゃこの人がこんな狂ってしまっていてもしょうがない。咎めることはできない、するとしたらこんな過酷な罰を与えたという神にだろう。神を恨むことも出来ないぐらい真面目だったから、俺に矛先が向いてしまったと。どうすりゃいいんだ一体。
「それで、歩いて行くのかしら?隣の県に住んでるらしいけど」
「そんなことしてたら日が暮れるぞ。駅から電車で行くんだよ」
「そりゃそうよね。えっと、メモによると貴方も以前は隣の県に住んでいたけど小学五年生の時に引っ越して離れ離れになり、高校で再会した幼馴染と。…ふーん、まるでギャルゲの主人公の様な運命の再会ね」
気に入らないのかあからさまに不機嫌になった先輩が八つ当たりで俺を殺して来ないうちに矛先を変えるべく気になったことを尋ねる。
「なんでギャルゲなんか知ってるんだ…?」
「だって貴方がいなかった時間は基本的に暇なんだもの。ゲームは大体やりこんだわよ」
「…まさか才色兼備の完璧生徒会長さまがゲーマーとはな」
「あ、あとでFG0(fight/grotesque zero)のガチャ回してくれない?私の引きたい欲だと星5逆に来てくれないみたいで…」
「しかも廃課金か!」
駄目だこの生徒会長、早くどうにかしないと。
「いきなさいワーウルフ!ツクスカリバー!…っと。そういえばさ、道也君」
「なんだ。電車の中でも恥ずかしげなくゲームの単語を叫んでいる自称完璧生徒会長」
「貴方にしか聞こえない声量で言ってるから問題ないわ。それよりさ」
電車で揺られること五分。結局ついてきて、混んでいる土曜日だというのに持ち前の笑顔と迫力で二人分の席を取って俺の隣に座りながらスマホでゲームをしていた先輩が思い出したかのように聞いてきた。
「結局、何の薬をもらいにいくの?」
「ああ。よく眠れる薬だ」
「は?」
そんなものをわざわざ?普通の睡眠薬でよくない?と語っている馬鹿を見るような視線を向けてくる先輩に溜め息を吐きつつ答える。
「俺は元々薬が効きにくい体質なんだ。まあ多分この不死身のせいだろうとつい最近知ったが…それが何故か、イトマのくれた薬だとよく眠れてな。一時期ノイローゼで悪夢に苛まれたことがあって、駄目元で相談してみたら彼女の持って来た薬でよく眠れたんだ」
「へえ。…それ、大丈夫な薬なの?」
「医者の娘で子供の頃から仲良くしている、俺なんかのために薬を処方してくれる女の子だぞ?アンタと違って疑う要素がない。死んだようによく眠れるんだ。高校に入ってから誰かさんのせいで夜もろくに眠れないから、高校で再会して駄目元で頼んでみたら処方してくれるんだそうで、毎週もらいに行ってるんだ。今日は二回目だな」
「それは申し訳ないわ。これからももらえるように私も頼もうかしら。いや、ここで息の根を止めるのが鈴鳴さんのためになるかしら?」
「こいつ…!」
心底愉快そうにニヤニヤ笑うので、いらついた俺は彼女のスマホの画面を適当に連打。すると「ああー!?」と痛快な絶叫を上げる七星先輩。負けてしまったのか涙目で、怒ろうにも自分が悪いと分かっているからか真面目なことが災いしてぷるぷる震えながら、ポカポカといつもより力のない拳をぶつけてくる。いつもこれぐらいなら可愛げあるのにな、と心の中で毒づきながら束の間の勝利の味を噛み締める。窓を覗くと、話しているうちにかつて住んでいた町に入ったところだった。…この生徒会長をどう説明したものかな。
「ですからね、あの場面。宝撃を叩き込んでいれば勝っていたのよ。それを貴方が勝手に通常攻撃のコマンドどころか自爆スキルまで使っちゃうから形勢逆転して…」
「わかった、わかったから。あとでそのソシャゲのガチャを引くから、専門用語だらけの恨み言はやめてくれ。ついたぞ」
駅から五分ほど。根に持った先輩の恨みつらみを聞きながら辿り着いたのは、この町一番の大きな病院。イトマの父親はこの院長だ。…我ながらすごい幼馴染を持ったものだと達観してると、春の陽気が温かい門先に見慣れた顔の少女がそこにいた。
「こんにちは道也さん。昨日ぶりですね」
「ああ、イトマ。いつも悪いな」
お嬢様のような紺色のドレスの上にストールを羽織り、青がかった宝石の様な煌めきを持つ黒の長髪をツインテールに纏めた、翡翠色の瞳で幼い顔立ちの少女…幼馴染の鈴鳴愛真は、青い日傘の下でお淑やかに笑っていて。後ろの先輩とは違う正真正銘の美少女だなと、そう思った。
「痛い」
「なんか失礼なことを考えたでしょ」
後ろからはたかれた後頭部を押さえる。そういうところだぞ、七星霧依。
一話の長さは三千字超えたぐらいでちょうどいいのかどうか。他の作品を長めに書いてしまってるのでちょっと実験的なものとしてここで切りました。
そんなわけで新キャラ、鈴鳴愛真ことイトマさん登場です。彼女も過去作のキャラが元のキャラですね。キリエと違って純人間です。変な名前だけど親はきっと真の愛を持つようにって名付けたんや、きっとそうや。ちなみに親の名前は鈴鳴
え、幼馴染という強力なライバルも出てきて普通のラブコメになってるって?あんなタイトルなのに普通のヒロインが出てくるとでも…?
感想と評価などをいただけると嬉しいです。次回もお楽しみに。